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病院前救護をめぐる法律問題
講 演 病院前救護をめぐる法律問題 ―― プレホスピタルの過去・現在・未来 ―― 橋 司会 本 雄 太 郎 それでは法学会講演会ということで,本日は杏林大学総合政策学部から橋本雄太 郎先生をゲストスピーカーに招きまして講演会を開催したいと思います。先に柴田先生 からごあいさつをお願いします。 柴田 連合法務研究科の柴田でございます。皆様こんにちは。今日の講演会にお迎えし ました橋本雄太郎先生は慶應義塾大学法学部をご卒業され,慶應義塾大学の大学院に進 まれました。専門は刑事法学,医事法学であるというふうにお聞きしています。またこ の分野に関してはたくさんの著作,著書を数多くご執筆されています。また現在は杏林 大学総合政策学部の教授のお仕事をされていまして,また東京メディカルコントロール 協議会委員,横浜市救急業務委員,埼玉中央地域医療事故委員等の要職を歴任されてお られまして,またお聞きしたところによりますと,関東地方だけではなく日本全国で幅 広い社会貢献活動をされているというふうにお聞きしております。 本日のテーマは病院前救護をめぐる法律問題ということでございます。近年皆様も ニュースで見たり聞いたりしていると思いますけども,医療分野での法律ですね,法律 の理解というのは特に必要とされているというふうに理解しております。医療と法の相 互理解ということが現在強く求められていると,近年の問題意識があると思いますけど も,これに応える非常に関心の高いテーマであると思います。救急救命と法にまつわる 最近のトピックスを聞くことができるということで,私自身も非常に楽しみなテーマで あると思います。先生は幅広い研究,幅広い教養,また日本全国で社会貢献活動をされ ( ) 香川法学 巻 号( ) ていますので,大変医療実務に関して実態を踏まえた法律のお話が聞けるのではないか と思っておりますので,学生の皆さんもぜひ,橋本先生のお話をよく聞いていただけれ ばと思います。それでは橋本先生,今日はよろしくお願いいたします。 橋本 柴田先生,ありがとうございました。今,研究科長の方からご紹介がありました ように,病院前救護を英語で,プレホスピタルケアといいますが,何故プレホスピタル ケアを扱うか。おそらく日本全国,こういうテーマを扱った授業をやっていないと思い ます。でもよく考えてみると,皆さんが病気をしたとき救急車を呼びます。どこかで交 通事故でケガをすると,救急車を呼びます。では,救急車はどういう運用をされてい て,どういう法律的根拠があって,どこに問題があるのか。あるいは香川県も近々,近 畿圏のドクターヘリ,ドクヘリのグループに入ります。そうするとドクターヘリが来た 時に,今までとどう違うのかと,いろいろな問題が出てくると思います。そういうもの を扱う,いわゆる意外と身近な問題にもかかわらず,これまで取り上げていないという 事を今日は検討していきたいと思います。 病院前救急活動は,病気か怪我をする。それが出発点です。最終的には病院に行く。 法的性質として医療行為とみなされるのは,医療機関到着後。これ以前の部分というの は応急手当といいます。この仕組みについてこれからお話しします。診療契約というの は病院到着から始まります。皆さんが保険証とか病院のカードを持って行って受付に出 ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) す。法学部の人ならわかる黙示の契約がここで結ばれます。しかし,この契約内容とい うのはご存知のように内容がきわめてあいまいで,どっか痛いから治してくれという内 容で,鉛筆を売ったり買ったりする特定物売買と比べて非常にあいまいです。これはこ れで問題がありますが,そのことについては今日は触れずに,これからプレホスピタル ケアについて少し考えていきたいと思います。 この分野を専門にしている法律家がこれまでほとんどいません。どうしてそうなのか ということを説明します。判例があると法律家は一生懸命に勉強します。ところがこの 分野というのは裁判例がこれまでほとんどありません。例えば皆さんが救急車を呼んだ 時にストレッチャーで運びます。そのストレッチャーが家具等にバーンとぶつかる,傷 をつける。そうすると損害賠償請求が発生します。あるいは救急で運ぶ時,なんかトラ ブルがあっても消防はすぐカバーするんです。謝りに行ったり修理をしたりいろいろや るわけです。その結果裁判例がないんです。だから結局法律家の関心を呼ばないんです。 私もこの分野に入るまでは全く関心がなかったです。医事法を私は けど, 年やっています 年間全く無関心。でも東京消防庁の仕事を手伝ってほしいと言われてやるよ うになってみると,これまで誰もやっていないから未開拓の分野だったのですがいろい ろ実はあるということがわかりました。皆さんはアンビュランスチェイサー,という言 葉をご存知ですか。これはアメリカ英語で,弁護士のことです。つまりアメリカの弁護 士さんはご存知のように日本と違って約 万人登録している。日本はようやく増えて ( ) 香川法学 も 巻 号( ) 万人。そこで,なかなか仕事がないから救急車を追っかけて,現場で名刺を配って おくと仕事がくるかもしれないと考えて行動するわけです。それくらい実はアメリカと いうと救急関係の事件が多いんです。でもだんだんこれから日本もそういう時代になっ ていきます。また,例えば最近の話題は財務省が救急車を有料化しようとしています。 これは地方自治法とか消防組織法とかの解釈上は,救急を有料化,無料化両方可能で す。法律的にはどっちでもいけるんです。ただ今は無料です。病院の治療費は国民皆保 険制度のおかげで,患者は 割負担で安くすみます。このように,日本は医療に関して はフリーアクセスなんです。だから早く診てもらえないと文句を言うわけです。 実はこれは自己宣伝ですけども『救急活動の法律相談』という加除式の本。この本が なんで売れたかというとこの分野を論じた本がないからです。実は消防署の人とか病院 の人が,だんだんアンビュランスチェイサーの時代になることを,実は肌で感じている んです。ということで実は私が申し上げたいのは,本の宣伝ではなくて,それだけ今, だんだんこの問題がクローズアップされているということです。 では,実態はどうなっているか。全国で救急車が呼ばれる件数は,平成 によると,だいたい 万件,そのうち搬送は 年の統計 万件ということで,実は約 万件 は不搬送なんです。不搬送というのは救急車が行ってみたら人がいなかったり,いや結 構ですと言われたりする件数が まり無駄なわけです。救急車は 約 , 万件。これがあとで申し上げるように問題です。つ 回出動すると東京都の場合は約 円実質かかります。ということは,実は , 円,横浜市は 万件無駄遣いしているということ は,すごい額を無駄遣いしているんですよ。となるとこういうところをなんとかしなく ちゃいけない。それと医療機関まで搬送してみたら軽症,軽症というのは搬送して病院 で診てもらったら別に今来なくたって,明日来てもらって結構ですという人のことで す。ということはこれを何とかなくしたい。もうひとつの問題は搬送時間がだんだん延 びてくる,という問題もあります。 そこでせっかくこの地に来ましたから,香川県はどうなっているかと見てみると,実 は警察というのは県単位ですよね。皆さんも就職試験を受ける時に,香川県の県の警察 本部の試験,徳島県の警察本部,警視庁を受ける,県単位です。消防というのは昭和 年に消防組織法と消防法ができた時に GHQ の指導の下自治体ごとに,その自治体は 警察と違って市町村としたんです。ですから香川県の中でも消防本部はこれだけあるん です。大きいから。香川県全体で去年の救急車の出動回数は , 件。香川県は日本 で一番小さい県ですから搬送件数は少ない。だけど私が言いたいのはもう一つありま す。香川県は県のデータがこれしかないんです。他のところはもっと細かいデータがあ るんです。ということは県の担当部署があんまりこの救急を重視していないということ ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) とも推察できるのです。残念ながら香川はそういう意味でちょっと緊張感が欠ける地域 ということになります。 しかし,高松市を見ると,さすが高松市は「局」ですから,がんばっている,いろん なデータを持っている。高松市の消防局の定員は 人。これは人口によって決まりま す。それではほかはどのくらいかというと,東京消防庁は , 人もいて,別格です。 東京消防庁の例えば八王子消防署,新宿消防署といった大きい署はそこだけで 人で す。ということは東京の一つの消防署の規模です。しかし,全国的にみるとこれは上か ら 番以内に入っています。だからおそらく皆さんが就職試験を受ける時に,この消 防局は地域では比較的定員が多い,多くとってくれる。比較的受けやすいのかも知れま せん。さっき見た小さい所になると,毎年とるところは 人とか 人になるから狭き門 かも知れない。ということもいろいろなデータから読めます。 今の課題は何かというと,一つは需要対策。実は救急車が一日の中で一番多く出動す る時間帯というのは決まっているんです,全国的に。それは 時半から 時まで。ど うしてか分かりますか。これは理由があります。これは病院を移るための転院搬送救急 車の出動が多いんです。なぜか。ベッドに対する保険の点数を計算する時に,午前中 ベッドを使っていると一日分請求できるんです。ということは, 時半から 時まで に呼ぶと送り出す病院はその日一日のベッド代をもらえます。転院転送された方も一日 分もらえます。だからこの時間に集中するんです。実はそういう使われ方なんです。だ から,例えば需要対策の時にそんな時は病院でも,救急車を持っていたりドクターカー というものを病院が持っていますからそれを使ってください。消防の救急車を呼ばない でください。例えばそういうことも考えられるのです。転院搬送は転院搬送でいろいろ な問題があるんですけども,ここでは省略します。 それから運んでみたら軽症というのが結構あります。よく荷物を持って待っている人 が立って救急車を待っている,という漫画があります。つまりそれを緊急度重症度判断, トリアージといいますか,トリアージはフランス語で選別という意味です。ブドウの選 別からきている言葉です。つまり家庭内でこれくらいだったら止めましょう,これくら いだったら来てくださいというのを区別する。それから 番通報の時にこれは行きま せん,これは行きましょうと判断する。現場到着後,現場でもそれを考える。あるいは 運んだあとで医療機関で考える,という 段階で考える。そうやって的確に迅速に運 ぶ。どうして的確に運ぶことが重要かというと,早く的確な医療機関に運ぶと病気の予 後がいいんです。予後がいいということは医療費がそれほどかからないんです。医療費 がかからなかったら皆さんも得します。そして医療費が 割負担ということは, 割は 自分たちの組合等で払っています。でもそれが足らない分は国の税金が投入されていま ( ) 香川法学 巻 号( ) す。ということは医療費がかかると皆さんの税負担が増すんです。これを解消するため には早く運んで早く治療して安い医療費で済むようにすればいいんです。そういうこと も考えて一番適切に搬送するのがいい。もちろん早く運べば,実は日本の医療過誤訴訟 というのは,医療の内容で文句をつける訴訟というのは意外と少ない。なんで早く診て もらえなかったのか,態度が悪いとかその辺が多いんです。早く運べばかなりカバーで きるんです。すると医療過誤訴訟も減ります。いろいろな意味でメリットです。その結 果,一つの議論は有料化すれば減るだろうとか,増えるだろうか。これは時間があれば お話ししますけど,そういう問題もあります。 それから今我々が考えなくてはいけないことは, 年問題。要は 団塊の世代,戦後いちばん世代別で多い人口にあたる人達が,ちょうど 年になると 歳に,差別 用語と言われていますけど後期高齢者になるんです。そうすると全人口のだいたい が 歳以上になります。この人達は そして, / 歳以上は生産年齢じゃない年金受給者です。 歳未満の皆さんを合わせると日本のおよそ / いことになります。ということは残りの / の人は自分では働いていな の人がその分をカバーしているんです。 これから皆さんが就職されるとどういう事が起こるかというと,一生懸命に働いても半 分は高齢者の方々のためにとられてしまう。その人たちを負ぶっていかないといけな い。それが目の前に来ているのです。医療機関は医療法に基づいて,診療所と病院しか 正式名称はないんです。診療所というのはベッド数が 上は病院といいます。その病院が全国には , から まで。ベッド数が あります。あと 以 年になると , になると言われています。つまり病院をたたむところがでる。廃業です。となると今よ りベッド数が減るんです。それから高齢者施設,特養とか老健とかいうのは今はどんど ん増えているけど追いつかない。 そうするとどういうことになるかというと, 取る場所のない人が 万人にも達するのです。それをどうするのかと。これは大問題 です。今でも実は全人口の死亡者の なるのは のは 年になると行き場のない,死を看 %は病院で亡くなっているんです。自宅で亡く %。これはびっくりする数字で,アメリカやヨーロッパは病院で亡くなる %なんです。 %も日本は多いんです。だから病院で亡くなるのを減らそう, 在宅に戻そう。医療費を減らそう。しかし,在宅を増やしたところでインフラ整備がで きていないから看取りもできない。では,誰が看取るんですか。そうすると厚労省は, 地域包括医療のシステムというものを考えているんですね。地域。かっこいいですよ。 具体的にどういうことかというと,地域で面倒を見なさいという発想です。国はお金が ないから。そういうときに皆さんは救急車を呼ぶ,そうすると看取りだけの搬送が増え てくるんです。これは無駄でしょ。病院というのは命をなんらかで救ってあげるために ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) あるのに,死亡診断書を書くために運ぶようになってしまう。実際こんなのは無駄な話 です。こういうこともだんだん考えなくちゃいけない。という問題を踏まえていろいろ 考えていかなくちゃいけないのがこの問題です。 これから具体的にプレホスピタルケアの内容に入っていきます。要は救急車ってどう いうところから出て来たかというと,実は軍事目的なんです。皆さん覚えてますかね。 西洋史でナポレオンがエジプトへ遠征したことを習われたと思います。遠征するという ことは,兵隊さんを連れて行くんです。昔から日本もそうですけど, 個師団で 万人 ですよ。わずか数個の師団しか連れていかれません。そうするとエジプトの方は地元だ から何十万人という兵隊さんがいるんですよ。何十万対数万人が戦うんですよ。当然兵 士は怪我をする。そうすると補給しないといけないけど,フランスからエジプトまで, そう簡単に兵士を輸送できません。そうするとどうしたかというと,弓矢で撃たれた り,いろいろやられた人を戦場で倒れた人を馬車で,銃後の部隊本部に戻してきて,ま さにトリアージして,こいつは使えないと思うと残念ながら瀕死でほったらかし。使え ると思ったら手当をしてまた戦場に帰す。そういう時に使われたのが馬車で,これが救 急車の使い方の初めといわれています。もともと軍事目的で作られました。ところが 世紀の終わりにウィーンで大火があった時に,その軍隊が,ウィーンは文化的に高 いですから,市民のために使ってみたんです。使ってみたら市民に評判が良くて,では これからはこれを使おうというのが救急車の始まったきっかけです。当時は馬車でし た。 日本は昭和 年に,当時は警察の中に消防がありましたが,横浜でそれを始めました。 消防法というのは昭和 年にできました。そして,消防が警察から独立しました。消 防というのは読んで字のごとく,火消しですから救急に関する規定がなかったんです。 実は横浜で始まって以来,ずーっと にはだいたい全国の 年間救急というのが段々広がってきて,この時 くらいの大きな町では,高松市も含めて,救急をやっていまし た。ところが救急というのは法的な根拠がなくやっていたんです。要するにアナーキー です。ようやく,昭和 年に後で出ますように消防法 条というのを改正して,法律 の二番目の条文というのは,だいたいその法律の業務の内容を書いてあるんです。 は目的とか基本が書いてある。 か,そこの 条 条にはそういう実際にどういう業務をやっているの 番にやっと,救急が入ったんです。昭和 年です。そこでは,救急とは 搬送だと規定されました。ナポレオン以来の搬送です。今のように応急手当なんか考え ていなかった。これが昭和 年です。 ところが救急隊員は当時は白衣を着ていたんです。だから皆さん,周りの人が医者み たいに思うから,赤チン持ってないの,絆創膏持ってないのと言い出したから勝手に応 ( ) 香川法学 巻 号( ) 急手当に必要なものを搭載しはじめたのです。そうしたらそれはやりすぎだろうという 意見が出始めましたことで,昭和 年に法改正して今の括弧書をつけたんです。応急 手当がうまくいかなくなったときに,救急活動という公務に条文上しておけば,国家賠 償法ワクの中に入り,救急隊員個人が訴えられることもなくなる,という立法趣旨が 入っていました。そして実は消防法の本来業務,目的を規定している 内容が入ったのは平成 条に救急という 年です。この第一条に書かれた文言は「傷病者の搬送を適切 に行うこと」 。大事な事はここでも搬送しか書いてないんです。「適切な」の中に解釈と して,応急の手当を含むと理解してこれを作ったんです。なぜならここにもし搬送以外 の言葉をつけると,反対されたと思うからです。 そして私はこれから一つの説明をしていきます。これは今の救急を理解するために歴 史を見よう,法の立法過程を見ようと思うんです。何故そういうことをするかという と,法学部の皆さんは条文解釈というのをやるでしょう。条文解釈は普通文理解釈,文 字で書いたことを勉強する。それだったら国語の先生が解釈したら一番よいはずです。 刑事訴訟法の有名な先生の団藤重光先生がはっきり言っています。それだったら国語学 者にやらせればいい。法律家はいらないと。法律家がなんでいるのかというと,解釈と いうのは別に文言だけですべて勝負できない。皆さんはその時に拡張解釈という言葉を 習っておられます。言葉をどれくらい広げたらいいか。縮小解釈もあります。それから 類推解釈ってあるでしょ,趣旨から生かす。つまり解釈というのはいろいろな見方をし なくてはいけない。だから国語の学者じゃできなくて法律家が必要なんです。その一つ として法の裏側,本当にできた奥行とか,真意をたどるためにはどうしてその法律を 作ったか,これを勉強することが大事なんです。 それには実は柴田先生の恩師である正田彬先生の恩師である峯村光郎先生という法哲 学者がいて,それは私が習った先生でしたけども,その先生がおっしゃった。法律を作 るために二つの理由が必要,一つは理念的契機。論理的にこの法律が必要だと証明しな くてはいけない。二番目に現実的契機。今の時代に何でこれが必要か。二つの理由がな ければ法律はできない。だから今の国会でやっている安保の議論もまさにそこなんで す。同じです,みんな共通です。そこで救急も同じなんです。なんで救急は法律で作ら ないといけないのか。なんで昭和 年に作らなくちゃいけないのか。それを ってみ ると今の問題とか将来残る問題についての解釈の一つの糸口が見つかるわけです。これ が法律の一つの手法です。 実は昭和 年にこれを作ったのは一番大きな理由は,昭和 年にどういう出来事が あったのか知っていますか。東京オリンピックです。東京オリンピックは,戦争で負け た日本がこんな立派な国になったと世界に示す一番いい宣伝材料です。そのために例え ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) ば新幹線も昭和 年,日本とアメリカの衛星放送が始まったのは昭和 年です。昭和 年にこれを作ったのは,オリンピックの年に外国から人が来た時に,日本で救急車 の法律が決まっていないとなると格好がつかないわけですよ。なんだそんな国か,まだ 劣等国かと言われるから急いで作ったんですよ。ただ,立法趣旨としては,公的には, 当時は交通事故が多かったことがあげられています。 皆さんは運転免許証,バイク,運転免許証に原付自転車ってあるでしょ。自転車なん です。あれは。どうしてか知っていますか。最初にあれを作った時はホンダは,自転車 に小さなエンジンをつけてそれで走った。今の電動自転車よりも性能が悪くて,当時は 坂道も登れなかったんです。だから原付自転車なんです。だけどその結果,交通事故が 増えちゃったんです。スピードが出るから。交通事故が起きて,人が怪我をしたときに, それをどうするかというと,救急車を呼ぶようになる。救急車を呼ぶ回数が急に増えた んです。その時に法律に根拠がなくて救急車をよこしたらまずいでしょということで慌 てて作ったんです。法律がないと予算が作れないんです。予算というのは法律に根拠が あって発生しますから,救急車を増やそうと思ったら予算をとらないといけない。根拠 がないから法律を作ったんです。要するに事実先行型で始まったんです。そしてさっき から言うように,実態を認めて,現実的契機を認めて,そして理念的にこういうふうに やる。だけど急にやると,自治体でやるからお金がない。大規模消防本部に限って始め るという。これは条文に書いていないんですけど施行規則でそういうふうにしたんで す。こうやって救急車は昭和 年に始まりました。 立法時の国会審議の記録を読んで驚きました。皆さんは刑事訴訟法で警察官の職務執 行法って習いましたか。警職法 条で職務質問をできる。その 条を見ると実は急病人 がいたら警察官は保護するって書いてある。それと消防が救急を法律上できるように なったら抵触しない,するんじゃないですかと議論が出たんです。警察の仕事を勝手に やってるんじゃないですか。そしたらもともと警察官は独立して消防に来たのに,また 警察に戻らないといけない。それからさっき言った予算の問題。それから実は今と違っ て救急病院がなかったんです。ではどこに運ぶんですかという時に,先行している東京 消防庁が条例を作って自分達だけで,この場合は 区内ですけども,救急病院を決め たんです。それを参考にしましょう。そういう議論をここではしています。 そして昭和 年に立法を改正して,それはどういう改正かというと,皆さんにお配 りしたプリントの 枚目に,救急業務が法的に認知されるまで歴史の下のところに条文 が書いてあるんです。消防法 て, 条に 項を追加,昭和 年消防法 条 年に改正した。要はこの括弧書の中を決めたんです。つまり昭和 項を改正し 年の法改正 は搬送だけだったんです。だから,消防の先輩方は我々は運び屋さんだと。そうじゃな ( ) 香川法学 巻 くて応急手当ができるようになったのは昭和 号( ) 年です。大改革です。しかも今までは 屋外で怪我した人や交通事故専門だった。屋内の病人も対象にしましょうと。でもこれ は注意してください。この条文の中で「応急の手当」と書いています。応急処置じゃな いんです。なぜなら,日本医師会が処置というのは医療行為だから,そんなのを救急隊 員がやるのはなんだ,教育も受けてないのに。俺たちは 時は 年間も教育を受けている。当 年間のインターンを経てようやく一人前になる,それをちょっと勉強しただけで 処置とは何だということで認めなかった。そこで一生懸命いろんな条文をめくってみた ら,保健師助産師看護師法,この中に応急の手当という言葉が出てきたんでそれを使っ ちゃおうと。そこでこの条文ができたのです。そしたら日本医師会もすでにある言葉だ から反対できないんです。こういうのが立法技術です。 これは平成 年にも消防法が改正された時も同じようなことがありました。メディ カルコントロール協議会を本当は作りたかったんですけども,当時は日本の内閣が小さ な政府を作ろうとしていましたから,新しい機関を作ることは金がかかるからだめだ と。そこで地方自治法をめくってみたら,地方自治法の中に協議会という言葉があった のです。だから消防法 条の 以下,特に 条の に協議会という言葉を入れたんで す。これは実体はメディカルコントロール協議会,メディカルコントロールという形容 詞が付くんですけども,つまり立法する時には,立法技術で覚えてほしいのは今ある条 文の中で使用されている言葉を用いると,誰も反対できないんです。この時もそうした んです。昭和 年の一部改正の話にもどります。だから応急手当なんです。その時に は我々のやっていることは医療行為じゃないんですよと明示したんです。でもよく考え てみたら止血したりいろいろな事をやってるんですけども,言葉の遊びみたいですが。 そしてもう一つ重要なことは,実は救急隊員が応急手当をしてもし失敗すると,救急 隊員個人が訴えられるんです。法律に根拠がなかったら,個人なんです。それじゃかわ いそうだと,何とか国家賠償法の枠内にしよう。つまり公務として認めてあげるために もこの条文が必要だった。その結果国賠法の中に入ったんです。こういうことまで考え ているんです。私が当時の消防庁の担当者と対談してプレホスピタルケアという雑誌 月号で,インタビューを記事として載せています。いわゆるオーラルヒストリー,当時 のいろんなことはまだこの人たち,いきてますから,この方はのちに消防庁の次長です けども,インタビューをしてどうして作ったかという確認の記事を載せている。そう やってこういうふうに改正してきたんです。こういうことをお話しすると,だいたい法 律の作り方とか,どうやって考えたらいいかとかお分かりになると思います。 その時の議事録を読むと,国会議員の先生方が,今のことを想定して議論をやってる んです。昭和 年ですよ。その頃に例えば,そうやって応急手当をしなくてはいけな ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) い傷病者を選別する場合に,それを誰がするんですか。今でいうトリアージ,そういう 言葉はないですけど,それをすでに国会議員が質問しているんです。さらに今問題に なっている転院搬送。転院搬送によって救急車を使っていいのですか,病院にドクター カーがあったら便利ですよね,ドクターヘリという言葉はないんですけども,今ヘリコ プターをあれだけ使えるんだったら,あれ使わせてもらえませんか,もう議論している んです。しかし,残念ながら国会は不思議なもので,その時で終わっちゃうんです。そ れを継続していたらもっと早く合理的にこれができていたと思います。昔のそういう立 法過程を丹念に読んでいるとこういうことが分かります。 その後に平成 年にいわゆる救急救命士という,後からお話ししますけども中途半端 なコメディカルスタッフが生まれるわけです。でもこれが生まれたのは昭和 年に救 急隊員が応急の手当ができるようになった。それを広げたものとしてこれが生まれた。 その後の詳しい話は時間が無いのでここでは割愛しますけど。 救急救命士法では「救急救命処置」という言葉を条文に入れたんです。これは画期的 ですよ。何が画期的かというと,平成 年の国会での審議の資料を見れば,明らかで す。ある議員さんが当時の厚生省の医務局長に質問しているんです。例えば皆さんが紙 で指を切った,すると隣の人が絆創膏を貼ってくれた。この行為が法的にはどんな性質 の行為ですかと質問しているんです。医務局長はそれは医療行為ですと。ただし医師法 条は医師でなければ医業をすることはできない。非医師である隣の人は業としてやっ てませんから医療行為なんですけども,業としてやってないから許されるんです。で は,医師だったらどうなんですか。それは医療行為です。そこで聞いたんです。では, 救急隊員だったらどうなんですか。応急処置なんですけども,あれは応急の手当という 意味です。なぜなら日本医師会が黙っていないから。こう答弁しているんですね。それ が 年前です。それから全然変わってないです,議論されていない。 私は厚労省の救急担当の専門官だとか総務省消防庁の救急企画室のスタッフとか,日 本医師会の救急担当理事が代わるたびに,これどうなってるんですかと伺うと,みんな 同じ答えです。まったく動いていません。にも関わらず実は救急救命士の応急手当はど んどん高度化しているんです。おそらく普通の開業医さんがしないような気管挿管を用 いた行為をできうるようになっています。そういう意味では矛盾が広がっているんで す。という中で,その矛盾の中でどうやって説明するかというのが私の仕事というか, 我々法律家は補っていかないといけない。しかもこれは医事法の入門コースですけど も,先ほど言ったように医師法 条は医師でなければ医業をしてはならないと。医業 というのは医療行為と業と分かれるんです。業というのはご存知のように一定の社会的 地位を持ち,反復継続してやるという意味です。何で AED を使えるんですかと。この ( ) 香川法学 巻 号( ) 時も厚労省の答えは,AED の治療は医療行為だと。だけど一般市民はバイスタンダー です。バイスタンダーとは業として行っていないからと,一貫しているんです。だから そうすると今の救急隊員がやっていることは何なんですかと。そこが問題です。痰の吸 引,今はヘルパーさんもできるようになったんです。これも大変だったんです。家族は できるんですよ。こういうことができるようになったのも,条文との関係でうまい具合 に説明して,みんな合理化しているんです。 お分かりの通り,法的に言うと医療行為というのは二つに分かれるんです。手術とか 診断のような絶対的な医療行為です。死亡診断というのは医師しかできない。手術はで きない。それに対して相対的な医療行為は静脈注射のように医師の指示があればメディ カルコントロールができれば下の地位の人,下の地位というのはコメディカルスタッフ のことです。看護師さんもできるんです。そして実は公的に考えると今の救急救命士と いうのは,法律上は,看護師の子供になっているんです。つまり看護師さんというのは 院内で療養所の世話と診療の補助をする,原則は。今訪問看護で増えてきましたけども。 院外バージョンとして,院外で医師がいない時に限ってできる地位として救急救命士が あるんです。では,看護師さんの親は何かというと,医師です。相対的医療行為である 医師がやるべき行為の,医師だけでは大変だから看護師さんも一部やって。だけど指示 がなければ。ということは実は,一般法,特別法と考えると,孫,子,親ということで す。親,子,孫,こういう関係になっています。こういう複雑な立法です。しかも救急 救命士は普通のコメディカルスタッフと違って厚労省の資格を得たうえで,消防の資格 がないと実際にはできないんです。だから消防の人で救急救命士の人が定年で辞めると 救急救命士という国家資格は意味がないんです。そういう特殊な資格の中で活動をして いる。救急活動というのは極めて特殊な世界だということがお分かりになると思いま す。 だからどうして応急処置を救命士ができるようになったかというと,実はこういう考 え方を取らざるを得ない。つまり指示指導医と,指示指導医というのは具体的に救急救 命士救急隊員,この図でいうとこの人間の脳の部分ですね。この脳が指示して具体的特 定行為,気管挿管とか薬剤投与とかしていいと。つまりこれが大きな人間,一種の法人 論です。目でとある救急隊員が観察して神経細胞である基地とか無線を使って脳に伝え る。脳が指示を与える手足である救急隊員が動く。これによって医師法 条と 条の 無診察診療の禁止,これをかろうじてクリアできるんです。ここにメディカルコントロ ールの意義と必要性の意味があるんです。普通の応急手当はここまで必要ないです。そ れは医的侵襲レベルが低いから。この部分が潜在的に教育とマニュアルによってカバー している,と理解しているんです。 ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) こういうふうに医療というのは医者が何でもできる,オールマイティ。自分の手が足 りないからやらしてあげる。そのためには制約を作らないといけない。という中で救急 隊員の人は日々努力をしている。一生懸命にやっていますよ。それを何とか法的な側面 から保護してあげたいのが私の仕事です。救急隊員がミスをすることもあります。最近, 指令室の問題も起きています。それから指示指導医が勘違いして誤って指示を出すこと もあります。これをどういうふうに考えるのでしょうか,民法的に。しかも救急業務と いうのは国賠法の範囲内ですから,医療過誤訴訟は国公立病院もみんな民法の違法行為 ですけども救急は全部国賠法ですから,その中でどうするか。ただし指示指導医は東 京,千葉市,横浜市で,嘱託公務員になってますが,それ以外の地域でどう位置づける かはまた問題なんですが。それにしてもこういう中で法的責任を考えないといけない, ということを研究しているのが私の仕事です。 医事法の話をちょっとさせてください。皆さんは医療行為が何で正当化されるかは分 かりますか。こういうと分かりにくいですよね。例えば外科の先生がお腹を切る,開腹 手術をする。私が今お腹を切ったら傷害で捕まります。外科の先生は何で捕まらないん ですか。もっとわかりやすく,女性がいるから言いにくいんですけども,産婦人科の先 生は職業上やむを得ず女性を裸にして陰部を観察することもある。私がやったら強制わ いせつ罪で捕まります。でも先生は診療だから誰も何も言わないんです。なぜですか。 それには四つの理由があります。一つは医師であること。社会的地位。二番目に治療目 的であること。三番目に医療水準に適った業務をやっていること。四番目に最近はやり のインフォームドコンセントを尽くしていること。四つ必要なんです。それを救急救命 士,あるいは救急隊員に当てはめるとこの四つが必要だと。変形判です。つまりまず医 者じゃないですけど,救急隊員という一定の資格を取得していますから,資格がある。 二番目に治療目的でなく,彼らは公務員ですからこういう権限がある。そして三番目, これは変わります。水準は変わります。四番目,インフォームドコンセントに関しては 救急は医療もそうですけど,インフォームドコンセントを尽くすことはできない,遅れ ます。しかも本人が無意識だったらどうするんですか。だからこれはちょっと変形判に なりますけども,やっぱりこの四点を満たすように我々は消防隊員はじめ,いろいろな ところで指導しているわけです。 もっと現実的な話をします。救急現場で今一番困っている問題をお話しします。具体 的に言うとリビングウィルという言葉を聞いたことがありますか。同じように DNAR, これは行先長くない,濃厚な治療はもうやめてくださいということを事前に書いておく 一つの書式のことを言います。要するに治療中止を願い出る書類です。これをいろんな 人が持ち始めたんです。問題はみなさんも習っているように,積極的な安楽死も尊厳死 ( ) 香川法学 巻 号( ) も日本は法律もなければ判例上認めていないです。積極的な安楽死に関しては一番最初 にオーストラリアのノーザンテリトリーで法律ができてました。その後,オランダで 作ってベルギーで作ってルクセンブルク,スイスで作ってアメリカのオレゴン州が作っ た。積極的な安楽死というのは要は寿命はまだ先にあるのだけど,耐え難い痛みを持っ ていてそれを救ってあげるために命を絶つ。これが積極的な安楽死です。寿命があるの を縮めるから殺人罪だとか,同意殺人だったりする。これについてはオランダの場合は ALS という特別な病の罹患者が多く年間 , 件も亡くなっています。それを研究さ れているのが香川大学の平野先生です。 問題は尊厳死に関してです。これはむしろ寿命は尽きているが,濃厚な治療をするか 生きながらえるのか,治療をのぞまないか,どっちかという問題です。これは積極的安 楽死に比して認めやすいんです。世界の中ではほとんどの先進国はいろいろな形でこれ を合法化しているんですけども,わが国はまだ明解,明快に適法化していません。とに かくそこで問題は,合法化していないにもかかわらず,現実的には阿吽の呼吸でやって るんです。阿吽の呼吸でやっているということは,ばれたら終わりです。はっきり言え ば。問題は救急隊員はそんな難しいことを言ってられないんです。例えば私の母親も今 は施設に入っているんですが,入る時に,一応 DNAR にサインしてください,そうし ないとお母さん入れられないんですよと。これは紙切れですから,私も書いて出した。 現実の世界です。そうなると,そういうのがあるんです。よく分からない。リビングウィ ルとかあるんです。そんなのを救急隊員は突然見せられて,この入っている収容者の方 はこれを書いていますから,何もしなくていいんですよ。とにかく看取りをしてほしい と言われて救急車が呼ばれるんです。そういうとき救急隊員はどうすればいいんで すか。本当は濃厚な手当をして心臓マッサージをして,気管挿管して,技術的には。 でもそれをやらないで運んでいいんですかという話です。これが今現実に一番困るんで す。 あるいはこれからお年寄りが増えてきます。一人暮らし,老々介護。実際にエピソー ドで一番多いのは, 番通報をしておばあさん,お父さんが今倒れちゃった。意識な いみたいなんだけど。来てくれますかと。現在,口頭指導といって指令室はそばにいる 人にある程度の手当をするようにお願いするようになっています。そうすると心臓マッ サージをやっててくださいと。行ってみるとおばあさんがおじいさんの胸を撫でてい た。つまりここで口頭指導の難しさがあるんですけども。大事な事はその時に,おばあ さん,こんなの意味がない,何やってるんですかと言ったらおしまいです。これも一つ の看取りです。おばあさんは一生懸命にやってくれた。後は俺たちに任せてくれと言っ て運ぶのが救急隊員。そういうのが現実の世界です。 ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) その中で毎日毎日,高松も救急医療,一日に何件もある。そういう時にどうしたらい いんですか。CPA という,心臓が止まっている人,心肺停止の人は CPA です。この人 達というのは市民も,法律家も,医学知らない。CPA イコールほとんど死なんです。 ということはこの人達がどっちにしても,どうせ死ぬんだから手当がまちがってようが なにしようが,いいんだ。因果関係が法的に認められたら,過失があって因果関係が否 定されるからほとんど訴訟にならない。ということで今まではあまり問題にならなかっ た。ところが,去年の 月 日からこんな問題が起こりました。処置拡大が行われてる んですね。一番典型的なのが糖尿病の患者さん。糖尿病の患者さんが血糖値が下がると 意識を失うんです。その時に去年の 月 が可能になりました。ブドウ糖投与は 日から,血糖測定をした上で,ブドウ糖投与 cc 以下なんです。問題は,突然人が倒れた。 これが血糖値が下がって意識を失ったのか,心臓の病気で倒れたのか,脳障害で倒れた のかは救急隊員は分からないです。だからそのために血糖値測定をするんですけど,血 糖値測定は血糖値が下がったと分かっている時にやれと言われるんです。ということは 違うと思った時には打てない。それでどうなるかというと,ブドウ糖の投与を病院に運 んで血糖値が下がってるからと,本当は脳障害を起こしているんです。傷害だから救急 隊員は責任を取らないといけない。ということは,今まではアドレナリンとか投与する 時でも,もともと死んでいる人だから何しても失敗しても関係ないです,法的には今度 はやらなかったら生きている人ですから責任を取られるんです。つまり高度化するとこ うなってしまうのです。もともとさきほど説明したように救急隊員のやる仕事は本当は 搬送なんです,今でも。 本当はどうなんでしょう。そのためにどうするかというと,実は本当にやってほしい のはインフラ整備です。早く運んで病院が引き受けるようになれば問題はです。もう一 つ大事な事は,CPA,心臓が止まった人を救うためには人に何が必要かというと,そば にいる人がすぐに手当をするんです。傷病者のそばにいる人をバイスタンダーといいま す。これは大事なんです。一昨年全国で約 万件の救急出動がありました。そのうち で心肺停止,つまり救急救命士が特定行為と呼ばれる救命行為をしなければならない人 というのは全体の .%なんです。 , 人に 人なんです。では,その 人に応急手 当をするとどういう効果があるかというと,心拍再開ですね。一応アドレナリン打つと 動くんですけど,でも社会復帰はゼロに近いのです。ところがバイスタンダーがその場 で,いろいろな条件はありますけども,その場で手当をしてマッサージを 回やって,そして AED を使うと 分間に %くらい社会復帰するんです。 皆さんも M というタレントさんが東京マラソンで倒れた。すぐやったら生き返って 翌日からテレビに出るようになった。あれに見るがごとく,すぐにやると効果があるん ( ) 香川法学 巻 です。救急隊員が行くと,今一番平均すると ているんです。ドリンカーの生存曲線では 号( ) 分ですから,倒れてから 分以上経っ 分以上だったらほとんど無理なんです, 論理的に。ということはむしろ,やらなくちゃいけないことは市民教育なんです。だか ら皆さんは車の免許を取るときに 分の普通講義を受けているんです。自動車教習所 で,受けていることになってるんです。だけど,私の娘たちも免許持ってますけども。 どうだったというと,ああやってた,でもあれ終わりの方だからみんな試験勉強してい て見てない。そういえば機械を使ってなんか面白そうな。つまりこれは内閣府が毎年 月にアンケート調査します。交通安全の対策で。若い人たち。今運転免許率が低く なって,それでも 割の人が免許を持っているんです。そういう人たちにもしあなた方 が車を運転してて,人身事故を起こしたときは,道路交通法 義務と手当義務があります。応急手当しますかと聞くと 条で警察に対する報告 割の人が応急手当の仕方が分 からないと回答したんです。バカ言うんじゃないと。そのために免許を取るときにやっ てるでしょ。 つまり気持ちがなかったら何もならないんです。三つのプッシュ。まず皆さんに応急 手当講習に行かせるプッシュ。二番目は,現実に胸を押すプッシュ。三番目の応急は, それは実際に使うプッシュです。この最後が抜けている。どうしてかというと,前の二 つはお金が かるような仕組みになっているからみんな必死なんです。最後はやれよと いうのは全然お金に結びつかないから誰も手を出していないんです。私のような人間が 一生懸命にやっているだけ。だけどこの最後が大事なんです。 これからは自分の命は自分で救う時代です。これは . の時に明らかになっていま す。誰も助けてくれないんです。例えば皆さんの医療情報はどうしたらいいんですか。 ちょっと宣伝になりますけども,私が考案した,この救急シートホルダー。 万個しか まだ出ていないんですけど。なぜこれを制作したかというと, . の時に全国各地か ら医者が行きました。東北で避難所のおばあちゃんたちが熱を出したんです,東北の人 は口が重いし標準語に慣れた人たちは彼らが言ってることがよく分からない。ある時熱 が 度を超えたおばあちゃんがいて,ああ熱が出た,じゃあ坐薬といって,解熱剤を 入れたんです。そうしたら途端に発作を起こしたんです。どうしてかというと,この方 は喘息持病があり喘息の薬を飲んでいたんです。禁忌の薬を飲んだらとたんに発作を起 こしたんです。それ以来,避難所でどういうことになったかというと,PL,という風邪 薬とイソジンしか配ってないんです。これは不幸ですよ。あるいはこんなことも,さい たま市浦和で起こったんです。瘖啞者,差別用語なので刑法でも削除されました。耳が 聞こえず口がきけません。その人が浦和の駅前で倒れたんです。でも誰も瘖啞者と分か りません。普通の健常者と思う。みんながどうしたんですかと声を掛けると,聞こえな ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) いから黙ってるんです。そのうち暴れ出しちゃった,苦しいから。ふざけてると。そし て CPA,心肺停止になって亡くなってしまった。私はその事後検証したんですけども, その時に大事な事は,その方が実は心臓に持病があったんですよ。それがアピールでき ていたら救えたんですよ。そういうエピソードがあって私はここへ行きついたんです。 今,市役所その他は,こういう紙切れで自分の医療情報を冷蔵庫に入れましょう,手 帳に挟んでましょう,財布に入れましょうと。あるいはカードを配って。これってまっ たく効果がないんです。どうしてか分かりますか。外から見て持ってるのか持ってない のかわからないからです。警察官職務執行法に基づいて,警察官だって勝手にポケット を検索できないです。そのために私は外付けに,私はリュックサックしょってますか ら,リュックサックにもつけている。つまりこういう外にアピールしているんです。こ ういうものを配布しようとする時に必ず反応が来るのが,落としたらどうするんですか と。そのためには私は一つの工夫をして,例えば,かかりつけ病院のカルテ番号と名前 だけを書くようにアドバイスしています。そうしておけば,その情報の意味は病院しか わからないですから。プライバシーも守れるのです,カバーできるんです。そのために 病院というのは実際に 時間当直のいる大きい所じゃないと困るんですけども。そう やって,とにかく私が言いたいのは自分のことは自分で守らないといけない時代になっ て,中南海地震,何が起こるか分かりません。岡山とか高松は比較的,天候とか地縁に 恵まれている。水不足になっちゃうくらい。だけど今度中南海地震がどうなるか分から ない。皆さんどこで就職するか分かりませんが,やっぱり自分のことは自分で守らない といけない。 私が今日お話ししているような,本当は法律でもっと厳しいお話をしたいんですけ ど,時間がないから省略しますが。そういうことにならないように自分でしなくちゃ, これは予防法学と言います。今までの法律というのは,事件が起こりました,じゃあど うしましょうと。そんなのは弁護士先生に任せて。でも現実には一番いいのはそういう ことを踏まえて,防ぐためにはどうしたらいいか。前もってそういう予防できることは 予防していきましょうと。それが私は必要だと。私は新しい学問形態でそういうことを 訴えて歩いている。 要は例えば私が言いたいのはこれです。例えば皆さんが小中学校の先生になったとす る。私は埼玉県のあすかちゃん事件の事後検証をやってみて分かりました。例えば公立 の小中学校の先生は,授業中に携帯を持っちゃいけないんです。公立の小中学校の 割 の学校は法的な責任のある人,例えば校長,副校長,主事等の管理者の許可ないと 番, 番通報できないんです。その結果,どのようなことが起こるかというと,グラ ウンドで熱中症で生徒が倒れました。そうした時に,どう先生は対応するんですか。 ( ) 香川法学 人学級だったら 巻 号( ) 人の生徒はどうしたらいいんですか。まだグラウンドだったら,い ろんな教室から見えるから倒れていると分かるかも知れないけど,実際に私も想定訓練 をある中学校でやりました。 体育館でやったら誰も見てないんです。どうするんですか。 大変遺憾な出来事ながら,池田小事件がありました。神戸の震災がありました。もう 年経つと風化していますよね。ああいう人々の記憶に残る出来事があっても全然進 展しないんです。そういうところから正していかないといけないんですよ。いっぱい素 材は転がってるんですよ。そして一番大切なのは皆さんのような若い人たちが防災のた めにも何のためにも,立ち上がってやることが一番大切なんです。これがこれから必要 なんです。私はそれを,さっきも柴田先生とお話ししてたんですが,香川の地でやりた いなと思っています。香川を日本一の防災の町にしようと。そのためには,香川大学の 連合法務研究科とか工学部とかいろいろな力を使ってやれば。だって一番小さい県なん ですからやりやすいはずなんです。そういうことを考えていくきっかけに,この私の話 がなればいいなという気持ちできました。 要は私が言いたいのは市民教育です。それを今までの県庁,市役所,消防署,等は, 広報が下手でした。紙を配ればいいわけではないのです。市議会に,紙を配りましたっ て報告する。そうじゃないんです。私は今,横浜市の業務委員をやっていますけど,そ こで今,運動を起こしています。いかに市民目線で情報を伝えるか,市民のために仕事 をするか。そういう公務がなかったら市民は動かない。例えば防災だったら消防団とい う民間力,県民力を使うんです。いろんな方法があります。特に高齢化社会は大変です。 こういう事もだんだん広めていかないと,結局自分が損するんです。つまり身に付ける 意識を持ってこういう所に来るということです。これが大事なんです。そして繰り返し 実行することが大事なんです。重要です。 実は厳しい話をすると,消防に対しても救急隊員に対してもこれは当てはまっている のです。胸骨圧迫,やるのは彼の仕事です。北九州に救急救命士を養成する所があっ て, 万人の救急隊員のデータを集めたら,養成課程卒業した時には んです。ところが数年たつと,的確にできる人が 割の人ができる %以下になってしまうんです。特 に総頸動脈といって,この脈を最終的にみる所があるんです。これをとれる人というの は,同じように減少してしまうのです。ということはやっぱり,彼らも正確にやってい ることについては訓練していないんです。なぜかというと医者と違って,医者は手術を すればするほど監視の目が行き届いているから,うまくなるんです。救急隊員は 人構 成,外に出ちゃうと誰も見てないんです,チェックできないんです。だんだん無意識の うちにレベルが下がっちゃうんです。さっき水準というのをお話ししました。これはみ なさんにも当てはまるんです。 回だけじゃ意味がないんです。何回も。勉強もそうで ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) しょ。繰り返しやるということが大事なんです。リピートが。こういうことでだんだん 身に付けていくと変わってくる。これを実は香川でやってほしいんです。そういうこと を含めて,第一歩としてこれがやり続けられたらいいなと思って,今日は雑駁な話をし てきました。ちょうど時間になりましたので終わります。 司会 本日の講演では,先生のライフワークであるプレホスピタルケアに関して様々な 観点からアプローチがなされたということでございます。医療行為というキーワードや 紛争予防法学の概念等,法律家が昨今抑えるべき当然の概念について,分かりやすく丁 寧な解説がなされました。特にわからない所はないと思いますけど,これから質疑応答 の時間にしたいと思います。いい機会だと思いますので,何か質問があれば挙手をお願 いします。 質問者 最初の方なんですけど,けがをして搬送されて医療機関に到着するまでやその 後の医療行為と書いていますけども。搬送する時に 万円かかるということなんですけ ど,それは搬送が成功した場合は,搬送された本人はその 万円を自己負担するんです か。昔聞いたことがあるんですけども,事故を起こして救急車を呼ぼうとしたら,その 事故を起こした人は呼ばなくていいと,僕はお金がないからという理由で呼ばないでく ( ) 香川法学 巻 号( ) れという話があるとチラッと聞いたんですけども,これは搬送された時にすごいお金が かかるからかなと思ったんですけども,搬送が成功した場合は搬送された本人に若干払 うお金が出てきたりするんですか。 橋本 今,基本的にわが国には,消防で運営している以上は救急車はタダです。かつて 昭和 年に北海道の遠軽地域で有料化にしたことがあるんです。遠軽地域というのは オホーツク沿岸で過疎でお金がなくて有料化にしたんですけども,道知事がそれをやめ ろといって, 年でやめました。それ以来日本は有料化したことはありません。横浜で 実は有料化の話が出て,いくらぐらいだったらいいかと議論,経済学者を含めてやった んです。その時に出た一つの目安が , 円だったんです, 回。でも , ら本当にお金の余裕のない人は呼べないんです。お金持ちだと , 円だった 円だと,場合に よったらタクシー代より安いですから,めちゃくちゃ使うんですよ。ということでいく らがいいかという議論ではなくて,やるかやらないかという議論から始めて,やったと ころで効果がないなと,逆にマイナスなんじゃないかと。例えば皆さんが夏にニューヨ ークに行かれると,ニューヨークのパブリックもプライベートも救急車は有料ですよ。 フランスはサミュという高度な応急処置をする救急車と,普通の救急車と消防はどっち を選びますかと言われます。サミュというと高額がかかります。普通で運んでください というとタダです。そういう国もあります。 日本は今のところタダ。有料化の問題は法律的にはどっちでもいけるんです。そうい う問題があるのと,実はここで一つだけ申し上げたいのは,ドクターヘリを呼びます。 ドクターヘリは医者が行く,ドクターカーも同じですけども医者が行くんで初診料と往 診料をとってるんです。でもドクターカーとかドクヘリは消防の要請で行くんで,本人 が呼んでないからこれは今,一番トラブルが多いんですよ。つまり医療費の請求書が来 るんです。俺,呼んでないのに病院から請求書がくるとびっくりしますよ。不払いとか のトラブルがあるんです。おそらく有料化すると同じような問題があって,すべて有料 化するという議論じゃないんで,呼ばなくていいのに呼んだのが有料化で普通に運べば 別に払わなくていいよというシステムというのは財務省で考えています。 質問者 この理想的な流れができるのが,東京とか千葉とか埼玉とかなんですけど,そ のほかの地域で理想的な流れで手当ができない理由というのは。 橋本 いい質問です。今日プリントにはあるのですけど,抜かしたんです。要するに二 極化が起こってるんです。要するに具体的にはっきり言いますと,東京の ( ) 区内でし 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) かも山手線の中だと,一番高度な医療ができる 次医療機関,それが車で 分の距離に あります。それと私はこの香川県のことは分からないですけども,千葉県だと同じ千葉 県でも房総半島に行くと 時間走っても病院が 軒もないところもあるのです。つまり 住む場所によって実は違うんです。この差別が実は出てきているんです。だから救急救 命士というのはその補充として役に立つはずだったんです。ところがこういう,過疎地 域の自治体はお金がないから救命士も養成できないんです。矛盾しているんです。 私は東京と九州にある消防の救急隊員を全国から集めて救急救命士を養成している教 育機関で教えてるのですけども,ある時,授業が終わって質問ないですかというと,あ る人が手を挙げて,東北の方でした。ここで習った事って,高度な医療ですよ。地元に 帰ったら器具もなければ薬もないんです。ここでの,教育って意味があるんですかと。 つまり県から順番で回ってきたらきただけで,本人が希望してきたわけでもないので す。つまりここにおいて初めて気がついたんです。格差があるなと。 だから私はたまたま国の委員をしていますが,国の議論でお金の議論をする時には, 必ず発言するようにしています。マストじゃなくてメイにしてくださいと。これは大事 な事なんです。マストだったらしなくちゃいけない。メイは可能な所からやれと。専門 的になりますけども気道確保の時のある装置についてはそれで「メイ」にしてもらいま した。それくらい格差があって,問題はどこに住むかによって格差があるということで す。これは一番大きい問題だと思います。高松市と小さな消防本部を比べると全然格差 があるんです,レベルの。例えば山に住んでいる人と,街中に住んでいる人,大学病院 のそばに住んでいる人は当然違うんです。それをどうするか,高松市はお金があるから 多数の救命士がいます,小さな町の消防本部にいったら人数的にも少ないです。これが これからの課題です。でもこの予算がないのが実態なんです。 質問者 出動が 万件あるなかで, 万件は行っても人がいなかったり,軽傷で あったりというので出動に無駄があるんじゃないけど,もったいない部分があったり, その対策としては主にどういったものがあるのかお伺いしたいです。 橋本 一つは私は国のトリアージ委員会に入っていますけど,今,東京都が横浜市の場 合はトリアージを促進するためのパンフレットを配っています。もう一つは♯ ,こ れ段々全国的に広めているんですけども,電話相談というのを始めるんです。今東京と 大阪,奈良,それから和歌山県の田辺市,横浜市はちょっと番号が違うんですけども。 つまりこの場合は救急車を呼んだらいいですか,悪いですかという無料の相談窓口をつ くることにしています。そうすると東京の場合は特にこれが ( ) 番と電話が接続してい 香川法学 巻 号( ) るんで,もしそこで相談した時に,これは緊急だと思えばすぐに救急車が出れるんで す。 実際にこういうところでそういう相談が多いかというと,質問された方が女性だから 言っておきますけども,子供の熱発とかその相談がめちゃくちゃ多いんですよ。実は市 民教育が必要なのはお母さんたちの子育てについて,親とか周りから教育を受けていな くて,昔だったらお婆さんとか周りの人から,これは一晩すりゃ治まるとか,これは危 ないとか,そのノウハウの伝授というのがあったんですよ。その機会が減ったために, やたらと呼ぶんですよ。そうすると行ってみたら,ああこれは大したことない,明日で もよかったんですよというのが増えてきた。そういう意味で市民の教育とか,インフラ とか周りのことで大分変わってくるんです。それをこれからやらなくちゃいけないなと いうのが一つ。 それから行ってみたら不搬送というのは一番多いのは,さっき言った DNAR その他 なんです。家族間で対立しているんです。お祖父さん倒れた,で 番すると他の親戚 が,いや運ばなくていいんだと,看取りだからいいんだと言う。救急車は 番,すぐ に行きます。そうすると現場でいりませんと言われるわけですよ。これもお金かかりま すからね。要するに市民の意識を変えないとダメなんです。大事なのは。問題は人なん です。人の手当をすることが今度は大変になってくる。だから過重労働になって当然ミ スも増えるんです。今日は触れませんでしたけども,救急隊員は大阪を中心に大都市は 労働基準法の関係で労基に引っかかってるんです。働く時間が長すぎて。そのために乗 り替えたりいろいろな事をやらなくちゃいけない。そうすると事故が起こるんです。要 するにいろんな問題が実は絡み付いて,法律でも労働法とかいろんな法律が全部絡んで くる問題なんですよ。これをいちばん解決できるのがクリアにできるのが市民を教育す る事なんです。だから私がさっきから言っているように,予防のためには市民の教育 が,市民の意識を変えるというのが一番なんです。そういうことをせっかく香川でやっ てほしいなというのはそういう意味です。 質問者 こういう法律問題というのを日本の法律に当てはめて先生が考えられている じゃないですか。こういった問題は世界のほかの国々も問題視されているのかなと疑問 に思ったんですけども。 橋本 残念ながら世界でもないんですよ。ちょっと日本は病院前救護体制は変わってる んですよ。変わってるというのは,救急隊員は医療行為をやっちゃいけないということ になっているのに,実際は,医療行為をやっているところにあるのです。もう一つはこ ( ) 病院前救護をめぐる法律問題(橋本) れだけ市民が無料だから使ってるだけで,こんな国もまたないんです。だからほかの国 でもプレホスを勉強している,やってる人はたくさんいますけど,法律関係でも。でも こういう問題を扱ってる人はいないんです。これは日本の極めて特異なところです。こ れは日本が昭和 年に国民皆保険制度を引いて医療費が当時は 割,今は 割負担, 安価で平等に受けられる,救急車はタダ。従って病院に行きやすいという環境があると いうのは,世界中,今,日本だけですよ。オバマさんが苦しんでいるのはまさにそれで しょ。 期目の大統領選挙で負けそうになったの,まさにその問題ですよ。イギリスで も。お金がないんですよ。日本は天国ですよ。しかもスウェーデンと比べると税金が安 い。だからこういう問題が起こってるんです。これが維持できなくなるのが 年問 題。そういう意味で日本のこの問題というのは特異性があって,外国ではちょっと理解 できないんです。 司会 まだまだ質問があると思いますけども,時間もありますので。後の方は個人的に ご質問をお願いします。長時間お疲れ様でした。橋本先生,わざわざ来高して下さり本 当にありがとうございました。 (はしもと・ゆうたろう 杏林大学総合政策学部教授) 【編集注】 本稿は平成 年 月 日に行われた香川大学法学会講演会の記録である。 ( )