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財政も異次元緩和も限界にきている 長期推計の「独立財政機関」を創設
特 集 どうなっちゃうの? 社 会 保 障 小黒一正 財 政も異 次 元 緩 和も限 界にきている 長期推計の 独立財政機関 を創設せよ 困 難。 民 主 主 義 の 下 で 財 政 を 均 衡 さ せ 、 「 現 実 の 民 主 主 義 社 会 で は、 政 治 家 は 選挙があるため、減税はできても増 税 は いる。 改革を早急に進める必要があると考えて 三 つ の 理 由 か ら、 「 国 家 年 の 計 」と し て、政府・与党は財政・社会保障の抜本 く、財政再建を先送りするほど、財政の 「 日 本 財 政 は 絶 対 に 破 綻 し な い 」旨 の 主張もあるが、この世に絶対なものはな 政府の肥大化を防ぐには、憲法で財 政 均 ナー著『赤字の民主主義 中 で も、 政 府 債 務 残 高 の 対 G D P 比 が は殊更であり、明治以来の長い財政史の や歳出削減といった正攻法で財政再建を 終戦直後のような財政インフレや資産 課税といった特殊な方法ではなく、増税 破綻リスクは高まるというのが正しい視 遺したも の』日経BP社)という伝統的 200%を超えるのは、太平洋戦争の終 行うとしたら、日本財政に残されている M・ブキャナン、リチャード・E・ ワ グ な議論が示すとおり、民主主義の下では、 戦にかけてと、まさに現在しかない。 ケインズが 財 政 再 建 な ど「 痛 み 」を 伴 う 政 治 決 定 を 封鎖・新円切り替え等で、終戦からわず 後の激しい財政インフレ、財産税や預金 のアントン・ブラウン上級政策顧問らに 正確に予測することは難しいが、例え ば、アメリカのアトランタ連邦準備銀行 安 倍 晋 三 首 相 は 今 年 6 月、 消 費 税 率 %への引き上げを2019年 月 ま で 2年半再延期する決断をしたが、こ の 判 マークを文末につける よる、日本財政の持続的可能性について 時間はどの程度か。 行うのは極めて難しい 。 終戦直前(1944年)の債務残高(対 GDP)は204%であったが、終戦直 ― 衡を義務付けるしかない」(ジェームズ・ %にまで縮小した。 法政大学経済学部教授。 1974 年生まれ。京都大学理学部卒、一橋大学 大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博 士) 。1997 年 大蔵省(現財務省)入省後、大 臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括 補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、 一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015 年 4 月から現職。財務省財務総合政策研究所上 席客員研究員、経済産業研究所コンサルティン グフェロー、厚生労働省保健医療 2035 推進参 与、鹿島平和研究所理事。専門は公共経済学。 %、 5 特集 どうなっちゃうの? 社会保障 財政も異次元緩和も限界にきている 長期推計の「独立財政機関」 を創設せよ おぐろ・かずまさ 点である。 年(1950年)で 14 第一の理由は、日本財政の限界である。 歴史から学ぶことは多いが財政について 15 か 3 年( 1 9 4 8 年 )で 債 務 は ※ 49 10 断はそもそも誤りであり、筆者は 以 下 の 20 10 の 研 究 で は、 約 年 で あ る。 ブ ラ ウ ン 務 残 高( 対 G D P )が 増 加 し て も、 国 の が吸い上げると、単純計算で約 年後に 次 元 緩 和 で 日 銀 が 大 量 の 国 債 を 購 入 し、 いるのは、マイナス金利政策のほか、異 厳密には、銀行や保険・年金基金等は 資金運用のために一定の国債を保有する は干上がってしまう。 は日銀が全ての国債を保有し、国債市場 比)を発散させないように、消費税率を 長期金利がゼロ付近またはマイナス圏の 兆円程度で安定して 100%に引き上げざるをえなくな る 期 必 要 が あ り、 専 門 家 の 分 析 で は、 2 0 債務の利払い費が 限 が い つ に な る の か を、 「実施シナリオ」 水準にまで抑圧されている影響が大きい。 %を維持する)と「先送りシナリオ」 干上がる国債の市場 大銀行が沈黙の批判 ネットで1年間約 月末から 理由は単純で、2014年 の 追 加 緩 和 に よ り、 日 銀 が 長 期 国 債 を スで買い入れているが、これを継続する プライマリー・ディーラーとは、国債 入札に優先的に参加でき、また財務省と 新しい。 市場に大きな衝撃を与えたことは記憶に の返上を財務省に伝達(7月に返上)し、 者( プ ラ イ マ リ ー・ デ ィ ー ラ ー)の 資 格 こ の よ う な 状 況 の 中、 今 年 6 月、 三 菱東京UFJ銀行が国債市場特別参加 という試算も多い。 ( 社 会 保 障 費 の 膨 張 を 抑 制 せ ず、 消 費 税 率 ( 消 費 税 率 5 % を 維 持 す る )と い う 二 つ の前提で試算している。 それによれば、実施シナリオで持 続 可 能なのは2032年まで、先送りシ ナ リ 現在の消費税率8%で試算するならば、 追加の改革を実行しない限り、2030 に陥ってしまうことを意味する。すなわ つ一方、入札に際しては発行予定額のう 市場動向について意見交換する権利を持 を突くからである。 間金融機関を指し、現在は 社(三菱東 ち最低4%以上を応札する義務を負う民 兆円、異 例えば、財政赤字が年間約 次元緩和で日銀が市場から毎年約 兆円 と近い将来、市場で取引される国債は底 残された時間は 年程度ということにな り、 「国家 年の計」が必要な状況にある。 兆円ずつ日銀に吸 の国債を買い入れる場合、金融機関が保 収される。 な お、 ブ ラ ウ ン 氏 ら の 試 算 の よ う に 、 財政を安定化させるために消費税率を % に 引 き 上 げ て、 残 り の 消 費 税 率 %相当分の歳出を削減するのも、 政 治 京UFJ銀行を除く)がこの資格を有す る。 ではなぜ、同行は返上に踏み切ったの か。 これは財務省や日銀の政策に異を唱え ることになるので大変な決断だったと思 2015年時点での国債残高は約 1千兆円で、既に日銀は約400兆円の 国債を保有しており、市場にある国債は われるが、2018年頃に到来する可能 的に不可能である可能性が高い。 兆円ずつ日銀 約600兆円。ここから を 有する国債は、毎年 80 100%に引き上げることも、消費 税 率 30 ち、この分析が妥当な場合、日本財政に 兆円に相当するペー 年を過ぎたあたりで、財政は持続不可能 オでは2028年までだという。 にも限界がある。 18年頃には限界に達する可能性がある 氏らは日本が政府の債務残高(対GDP 12 こ の 状 態 を「 金 融 抑 圧 」と い う が、 こ れ 10 15 15 80 50 21 15 第2の理由は、量的・質的金融緩和(い わゆる「異次元緩和」)の限界である。債 50 50 2016.10 10 10 30 70 %、イタリアが▲0・ が 0・ 1%程度の低成長に陥るとの試算を明ら かにしている。 性が高い異次元緩和の限界も含め、 国 債 市場の現状を冷徹に見ている一つの 証 し 目)の成長率である。 %、イギリス 67 %、 オ ー ス ト ラ リ ア が 1・4 % でもあろう。 すなわち、潜在成長率が概ね0%台半 ばの現状では、実質GDP成長率がゼロ 31 長率」は概ね0%台半ばしかないという もそも、日本経済の実力を示す「潜在成 第3の理由は、低い成長率が改革 先 送 りの理屈にはなり得ないから である 。 そ 済指標を総合的かつ冷静に見て判断する に不況と判断するのは早計で、各種の経 またはマイナスに陥ったとしても、直ち いた一人当たり実質GDP成長率の平均 異な影響を受けており、2011年を除 なお、日本経済はこの期間に、東日本 大 震 災( 2 0 1 1 年 3 月 日 )と い う 特 値( 年 率 )は 日 本 も ア メ リ カ も 0・ である。 % 必要がある。 内閣府の推計によると、1980 年 代 の 潜 在 成 長 率 は 4・4 %、 年 代 は 1・ 6%であったが、その後はずっと低 下 傾 6 月 期 に は 0・ 5 % に 下 方 改 定 さ れ た 。 例 え ば、 2 0 1 5 年 1 ~ 3 月 期 で は 0・6%との推計であったが、同年 4 ~ が上昇するに従って成長率は低下すると 的に低い経済の成長率は高く、所得水準 た、 「収束仮説」 (一人当たり所得が相対 加で表現するのが適切とされている。ま なお、標準的な経済学では、生活水準 の 向 上 は「 一 人 当 た り 実 質 G D P 」の 増 先 般( 2 0 1 4 年 4 月 )の 消 費 な お、 増税が経済成長に及ぼした影響はどうで である。 進国と比較してどの程度か、ということ り実質GDP」の増加ペースが、他の先 ことは生活水準の向上を表す「一人当た これは、欧米と比較しても、一人当た りでみれば日本は中程度の成長をしてい さらに、2016年4~6月期では 0 ・ いう仮説)が妥当ならば、経済の成熟に あったか。 向 に あ り、 2 0 1 3 年 以 降 は 0・ 5 ~ 3%にまで低下している。 伴 い 成 長 率 が 鈍 化 す る の は 自 然 で あ る。 い。 う理由だけで、過度に悲観する必要はな 増税の影響を改めて整理しておくのが望 ルであったと判断できるが、増税をめぐ (年率) は、 日本が0・ %、 アメリカが0・ 率に与えた影響を把握するためには、潜 ましい。そもそも、消費増税が経済成長 る 今 後 の 議 論 や 判 断 の 参 考 と す る た め、 例えば、2003~2012年におけ る 人当たり実質GDP成長率の平均値 ることを示唆している。つまり、重要な これは足元の潜在成長率だが、生 産 性 が上昇しない場合、 中長期の視点で 見 る 実質GDP成長率が低下傾向にあるとい 0・8%である。 94 11 と、実質GDP成長率は恒常的にマ イ ナ 消費増税の影響は中立 規律を緩める甘い囁き 現実を直視する必要がある。 であったが、この中で日本は中位(4番 64 結論からいうと、意外にも、それは十 分時間が経過した段階で概ねニュートラ スに陥る可能性 がある。 実 際、 年 後 の 日 本 経 済 を 展 望 す る 、 政 府 の「 選 択 す る 未 来 」委 員 会 の 最 終 報 告 書( 2 0 1 4 年 月 公 表 )は、人 口 減 少 を 放 置 し 、 生 産 性 も 低 迷 し た 場 合、 %、フランスが0・ %、ドイツが1・ 特集 どうなっちゃうの? 社会保障 財政も異次元緩和も限界にきている 長期推計の「独立財政機関」 を創設せよ 51 90 2 0 4 0 年 以 降、年 平 均 で マ イ ナ ス 0・ 45 82 1 92 11 50 潜 在成長率と比較する必要があ り、それは「実質成長率 在成長率」で評価できる。 つまり、増税後の実質成長 率が潜在成長率を上回れば増 税の影響はなく、下回ったと すれば増税の影響は大きかっ たと判断することができる。 消費増税は、2014年4 月 の 他 に、1 9 8 9 年( 0 % → 3 %)、1 9 9 7 年( 3 % → 5 %)と、合 わ せ て 過 去 3 回 行われている。 それぞれの時期の潜在成長 率については内閣府の推計が あり、1980年代の潜在成 長 率 は 4・4 %、 1 9 9 0 年 代は1・6%、直近は0・5% として、消費増税の影響を検 討する。 そして、内閣府「四半期別 GDP速報」データ等を利用 図表2 月 期 )に お け る 実 質 成 長 率 の 屈 折 幅 は し、過去3回の増税の5四半 (出所)内閣府「四半期別GDP速報」データ等から筆者作成 「 1 9 8 9 年( 2・4 % 減 ) 2 0 1 4 年 1997年 潜 在 成 長 率 」を 試 算 し た の が、 図 表 1 図表1 こ の 図 表 1に よ る と、 増 税 期( 4 ~ 6 である。 (2・1%減) 1997年(1・4%減) 」 < となっている。2014年の増税が与え 1989年より若干小さいことが分かる。 た負の影響は、1997年より大きいが、 トレンド GDP しかし、その後の折れ線が上下に振動 しているため、この図表のみでは増税の 52 2016.10 - 期前から7四半期後までの「実質成長率 1989年 < - 実質GDP (出所)内閣府「四半期別GDP速報」データ等から筆者作成 3月期)の実質GDPを100とし、そ するため、増税5期前(2013年1~ 2014年の増税の影響を把握しや す く み取れる。 概ね同水準の範囲を動いていることが読 ドGDPを若干下回ったものの、現在は 図 表 2を 見 る と、 2 0 1 5 年 4 ~ この 6 月 期( 増 税 4 期 後 )の G D P は ト レ ン 以上の理由から、今後の成長率の先行 きのほか、財政や異次元緩和の限界も見 能性が高い。 した影響は概ねニュートラルであった可 読み取れるため、増税が経済成長に及ぼ の 後 の 実 質 G D P と「 ト レ ン ド G D P 」 を 進 め る 必 要 が あ る。 財 政 再 建 の た め、 1997年 財政再建が実行できるか否かは、我々 の今後の政治選択に依存しているが、む を先送りさせる、 いくつもの 「甘い 囁 き」 ささや しろ財政規律の緩みを許容し、財政再建 月 期 )は「 実 際 の G D P が流布されているのも現実である。 負債 準備 250 国債 400 貸出 950 預金 1600 影響をスムーズに読み取れない。そ こ で (潜在成長率に沿って伸びたと仮定した また、3回の増税時について、同じく 増税5期前の実質GDPを100として、 1989年 定め、早急に財政・社会保障の抜本改革 と き の 実 質 G D P )を 比 較 し た の が 図 表 かい 我々に残された時間はそう長くない。 り トレンドGDPと実際の実質GDPの乖 離を描いたのが 図表3である。 このうち1989年のケースを見ると、 増税期と増税1期後(1989年7~9 P 」で あ っ た が、 増 税 4 期 後( 1 9 9 0 トレンドGD 年4~6月期)には大きく逆転している。 「日銀が国債をすべて買い切 例 え ば、 れ ば、 国 民 負 担 ゼ ロ で 財 政 再 建 で き る 」 民間銀行 というような主張もその一つだが、これ 資産 年のケースでは、増税期と増税 また 1 期 後( 1 9 9 7 年 7 ~ 9 月 期 )は「 実 現金 100 政府預金 50 準備 250 は誤解である。 国債 400 トレンドGDP」であった 負債 際のGDP 日銀 月 期 )に 資産 ~ 国債 800 が、 2 期 後( 1 9 9 7 年 政府預金 50 ト レ ン ド G D P 」と 負債 は「 実 際 の G D P 月の三洋証券の破綻から始まった 政府部門 12 ことが分かる。ただ、これは、1997 年 あると考えられる。 資産 > 10 なり、それ以降もその差が拡大している > 増税時については、 他方、2014年の 増税3期後以降、実際のGDPとトレン 図表4 < 97 「 平 成 の 金 融 危 機 」の 影 響 が 少 な か ら ず 11 ドGDPの乖離は縮小方向にあることが 特集 どうなっちゃうの? 社会保障 財政も異次元緩和も限界にきている 長期推計の「独立財政機関」 を創設せよ 53 2である。 図表3 (出所)内閣府「四半期別GDP速報」データ等から筆者作成 政府部門 負債 政府預金 50 国債 800 資産 日銀 負債 国債 500 現金 100 政府預金 50 準備 350 資産 民間銀行 負債 準備 350 国債 300 貸出 950 預金 1600 図 表 4の 日 銀 バ ラ ン ス シ ー ト の 負 債 側 に あ る「 現 金 」は 市 中 に 流 通 し て い る 日 行の自己資本などは無視する) 。 が、これらの合計1600を負債側の預 このバランスシートの資産側には準備 350、国債300、貸出950がある スシートを見てみよう。 るのだろうか。まず、民間銀行のバラン 銀券残高を意味し、 「準備」は中央銀行が 金1600が支えている。つまり、負債 国債以外の資産や自己資本ほか、民間銀 民間銀行から預かっている預金(=日銀 側 に あ る 預 金 の 一 部( 3 5 0)が 資 産 側 次 に、 日 銀 の バ ラ ン ス シ ー ト を 見 て み よ う。 こ の バ ラ ン ス シ ー ト の 負 債 側 の準備350を支えている。 当座預金)を意味する。 このとき、金融政策で国債の買いオペ レーションを行い、日銀が民間銀行から、 国債100を買い取ってみよう。 、準備350があ には現金100(=市中に流通している 日 銀 券 )、 政 府 預 金 り、それらの合計500が資産側の国債 易ケースで考察してみよう。 る。この意味を理解するため、以下 の 簡 相殺すれば、我々の預金の一部が消 滅 す を占める日銀保有の国債と準備を互 い に ある。仮に日銀バランスシートの大 部 分 加、 国 債 が 1 0 0 減 少 す る。 そ の 結 果、 スシート上では資産側の準備が100増 が100増加する一方、民間銀行バラン つまり、日銀バランスシート上では資 産側の国債が100増加、負債側の準備 100増やす。 価 と し て、 民 間 銀 行 の 日 銀 当 座 預 金 を こ の 政 策 は「 国 債 と 準 備 を 等 価 交 換 」 す る 措 置 で あ り、 日 銀 は 国 債 購 入 の 対 に対する債権」 、負債側で大部分を占め 部 分 を 占 め る「 国 債 」は「 日 銀 の 財 務 省 なお、日銀バランスシートの資産側で大 350を間接的に支えている構図になる。 ランスシートの資産側にある国債の一部 民間銀行バランスシート そ の 結 果、 の負債側にある預金の一部(350)が、 極端に低利の日銀準備は 預金課税と同等の効果 500を支えている。つまり、負債側の まず、現実の経済にはいくつもの 異 な る家計や企業、銀行等の金融機関が 存 在 政府部門・日銀・民間銀行のバランスシー 準備350が資産側にある国債の一部 しているが、政府部門・日銀のほか 、 一 このため、債権債務の関係から、日銀 債権」 (日銀から見ると負債)である。 資産側の準備350を通じて、日銀のバ 350を支えている。 つの民間銀行しか存在しないものとする。 る「 準 備 」は「 民 間 銀 行 の 日 銀 に 対 す る また、当初、政府部門・日銀・民 間 銀 行 の バ ラ ン ス シ ー ト は 図表4の 通 り と す る(注:簡略化のため、日銀が保有する 図 表 4と 異 な る 部 分 が 灰 色 で マ ー カ ー し た 部 分 で あ る が、 図表5は 何 を 意 味 す トは 図表5の通りとなる。 ているのは主に我々の預金であるた め で 第一の理由は、金融政策は資産の「等 価交換」で、日銀が買い取る国債を支え この内容は極めて重要であるため 、 以 下、順番に説明しよう。 資産 54 2016.10 50 図表5 再建を図る観点から、仮に日銀保有 の 国 と は で き な い が、 例 え ば 図 表 5で、 財 政 保有の国債と準備を一般的に相殺す る こ スシートは、負債側の現金100(=市 す る と、 図 表 6と な る。 こ の 統 合 バ ラ ン 負債側の両方に記載のある準備を相殺 で見ると、それは預金課税を行っている 制する場合、政府部門と日銀の統合政府 の付利を適切な水準まで引き上げずに抑 のと実質的に同等なためである。 中に流通している日銀券) 、政府預金 350に100%課税を行う政策と 実 質 いに相殺すると、それは政府部門が 準 備 図 表 4で 日 銀 と 民 間 銀 行 の バ ラ ま た、 ンスシートを統合し、資産側・負債側の を支えていることを意味する。 国債残高800、企業等への貸出950 我々の預金1600が、政府が発行した う。 この意味について、順を追って説明しよ 、 債の一部(350)と準備(350)を互 的に同等であり、最終的に民間銀行 に 預 両方に記載のある準備を相殺しても、 図 「超過準備」の付利を適切な水準 また、 まで引き上げる場合、統合政府で見ると、 け て い る 我 々 の 預 金 の 一 部( 3 5 0)が 表6と全く同じバランスシートが得られ ま ず、 こ の 理 解 を 深 め る た め、 と 図表5の 各 ケ ー ス に つ い て、 政 府 部 門 政府部門 負債 政府預金 50 国債 800 資産 日銀+民間銀行 負債 国債 800 貸出 950 現金 100 政府預金 50 預金 1600 図表7 (1)図表4のケース 政府部門+日銀 現金 100 国債 400 準備 250 資産 負債 準備 350 国債 300 貸出 950 預金 1600 図表7の(1) ・ (2)のどち 一つは、 らのケースも、統合政府(政府部門+ 図表7 か ら 読 み 取 れ る 事 実 の う ち、 最も重要な視点は二つある。 の結果が得られる。 に記載がある政府預金や国債を相殺する 図表4 債の発行)と概ね同等になるためである。 「超過準備」は実質的に国債発行(短期国 政府が発行する国債残 高 を ところで、 賄 っ て い る 原 資 は 基 本 的 に 預 金 で あ り、 る。この事実は、政府が発行する国債残 資産 消滅してしまう。 金融政策はその原資を増やすもので は な 50 と日銀の統合政府バランスシートを考え 民間銀行 高を賄っている原資は基本的に預金であ 現金 100 国債 300 準備 350 いという事実も重要 である。 負債 資産 日銀)バランスシートの負債側にある 「国債」と「準備」の合計650は、民 間銀行バランスシートの資産側の「国 債」と「準備」の合計650に一致し、 その資産を支えているのは民間銀行バ 特集 どうなっちゃうの? 社会保障 財政も異次元緩和も限界にきている 長期推計の「独立財政機関」 を創設せよ 55 負債 て み よ う。 統 合 政 府( 政 府 部 門 + 日 銀 ) 政府部門+日銀 り、金融政策はその原資を増やすもので 図表7 (2)図表5のケース バランスシートの資産側と負債側の両方 預金 1600 はないことを意味する。 準備 250 国債 400 貸出 950 この事実は、日銀と民間銀行の統 合 バ ランスシートから簡単に理解できる 。 ま 負債 ず、 図表5の 日 銀 バ ラ ン ス シ ー ト と 民 間 民間銀行 と、各ケースにつき、図表7の(1) 、 (2) 資産 第二の理由は、もし金利が正常化する 中で、市場金利との比較で、 「超過準備」 資産 銀 行 バ ラ ン ス シ ー ト を 統 合 し、 資 産 側 ・ 図表6 金1600」であるという視点である。 になる。 銀)で見る場合、それは預金課税と同等 先に述べると、統合政府(政府部門+日 持すると、何が起こるだろうか。結論を 潤 は ゼ ロ と し て、 こ の 金 利 収 入 の 全 て +950×3%)になる。民間銀行の利 入 は ( = 3 5 0 × 1 % + 3 0 0×3 % 1 % で あ れ ば、 民 間 銀 行 が 得 る 金 利 収 利が3%で、もし付利がそれよりも低い もう一つは、統合政府(政府部門+日 銀 )バ ラ ン ス シ ー ト の 負 債 側 に あ る「 現 期金利よりも付利をずっと低い状態に維 金」 「国債」 「 準 備 」の う ち、 現 金 の 金 利 ランスシートの負債側にある我々の「預 コストは「ゼロ」、国債の金利コストは「長 2・ %(= 年国債の金利)」、準備の なお、以下では議論を分かりやすくす るため、少し極論だが、将来の一定期間、 期金利(例: 金 利 コ ス ト は「 付 利 」で あ る と い う 視 点 である。 を 預 金 者 に 還 元 す る 場 合、 預 金 金 利 は ÷1600)と計算できる。 よ う。 そ の 場 合、 長 期 金 利 も 一 定( 例: 短 期 金 利 は 一 定( 例: 3 %)で あ る と し 金金利は2・ 付利が1%よりも低いゼロであれば、預 %になる。 3 %)に な り、 こ れ は「 イ ー ル ド カ ー ブ 極論だが、マイナス金利政策(NIR P)で付利を▲ %にすれば、預金金利 する。また、民間銀行の利潤はゼロとし、 待仮説」に従えば、この状況では裁定取 は ▲ 0・ (利回り曲線) 」がフラットの状況に相当 (=長期金利)も、準備の金利コスト(= 貸出金利や預金金利の区別がなく、市場 % に で き る。 な お、 「純粋期 付 利 )も 概 ね ゼ ロ で あ る か ら、 図 表 7の 引が可能なので民間銀行から預金が流出 政 府( 政 府 部 門 + 日 銀 )の 負 債 コ ス ト は 概ね同等となる。 他方、国債の金利コスト(=長期金利) と 準 備 の 金 利 コ ス ト( = 付 利 )が 大 き く する可能性があり、市場金利の再調整が 起こるはずであるが、 「市場分断仮説」が ある程度成立すれば、預金金利を低めに 年 国 債 の 金 利 )や 貸 こ の と き、 例 え ば 市 場 の 名 目 金 利 が 3%に上昇していけば、市場の裁定が働 る場合、預金金利が低下し、それは預金 いずれにせよ、このような形で付利を 市場の名目金利よりも引き下げて抑制す 抑制できるかもしれない。 ケースにおける統合政府(政府部門+日 き、 長 期 金 利( = 異 な れ ば、 図 表 7の( 1)ケ ー ス と( 2) 94 銀)の負債コストも大きく異なってくる。 金利正常化の果てに何が 次の増税はさらに難しい の名目金利が一つしかないものとする。 15 (1)ケースと(2)ケースにおける統合 もっとも、デフレ下で名目金利が 概 ね ゼロである状況では、国債の金利コ ス ト 41 56 府 部 門 + 日 銀 )の 負 債 コ ス ト は 図 表 7の 低い状態に維持できれば、統合政府(政 例 え ば、 長 期 金 利 よ り も 付 利 を ず っ と も3%に引き上げる必要が出てくる。 出金利も3%に上昇していくので、付利 では、金利が正常化した場合、付利を 適切な水準まで引き上げると、何が起こ ることを意味する。 課税を行っているのと実質的に同等であ この場合も、長期金利や短期金利、貸 も し 付 利 を 3 % に 引 き 上 げ な い 場 合、 預金金利も3%を割ってしまう。例えば、 (1)ケースよりも(2)ケースの方が低 長 期 金 利( = 国 債 の 利 回 り )や 貸 出 金 るだろうか。 では、金利が正常化した場合でも 、 長 く、負債コストを軽減できる。 図表7の(2)ケースで考えてみよう。 10 56 2016.10 41 34 10 場 合 を 考 え て み よ う。 こ の 場 合、 図 表 7 が3%のとき、付利を3%に引き上 げ る 長 期 金 利( = 国 債 の 利 回 り )や 貸 出 金 利 と、 物 事 が 分 か り や す く な る。 例 え ば 、 名目金利が一つしかないケースで考 え る 出金利や預金金利の区別がなく、市 場 の 有する国債や市場に流通する国債が増加 ちていく。その場合、民間銀行などが保 いと、国債は日銀バランスシートから落 なお、日銀が保有する国債は償還期限 があるため、十分時間が経ち、何もしな 引き上げる必要がある。 低、コールレートの水準近くまで付利を この資料によると、過去の景気拡張期 の 平 均 は 約 3 年( ・ 2 カ 月 )で、 第 2 に公表している。 確定し、その資料を2015年7月 2012年3月、谷を2012年 判 定 を し て い る が、 2 0 0 9 年 3 月 か 授=当時)の議論を踏まえて景気循環の 月に 循環の景気の山を の( 1)・( 2)の ど ち ら の ケ ー ス に お い する。つまり、国債市場の需給関係が供 日 コ ー ル レ ー ト 等 の「 短 期 金 利 」と 同 水 準 過 準 備 の 付 利 は、 短 期 国 債 の 利 回 り や コストは同じ3%になる。 厳密には 、 超 ンスシートの負債側にある国債と準 備 の ければ、財政は厳しい現実に直面するは り進め、市場の信認を得ることができな 政治が財政再建や社会保障改革をしっか 期金利が上昇)する。このような状況で、 給増に変化し、国債の価格が下落(=長 2020年まで拡張期が続く確率はきわ は あ る が、 そ れ で も 2 0 1 8 年 拡張期が6年近くに及ぶケースも過去に いつ終わってもおかしくない状態にある。 前からスタートした今回の景気拡張期は、 次 安 倍 政 権 発 足( 2 0 1 2 年 月 )の 直 で あ り、 こ れ は 統 合 政 府 で 見 る と、 「超 ずである。 月 で、 過 準 備 」は 実 質 的 に 国 債 発 行( 短 期 国 債 年頃の長期金利やコールレートの過 去 の する。これは、1986年から19 9 5 レートも長期金利と同様の水準まで 上 昇 だが、資金の貸借市場の需給が需 要 増 に傾くと、短期金利の下限であるコ ー ル 準に維持できる可能性もある。 場合、長期金利よりも付利を若干低 い 水 そ の 理 由 は 二 つ あ る。 第 一 の 理 由 は、 「景気循環」である。内閣府は「景気動向 しろ増税のハードルは高いと考えられる。 ことなので完全な予測はできないが、む 2019年 月に消費税率を % では、 に引き上げることはできるのか。将来の ことが肝要である。 政再建や社会保障改革をしっかり進める 2019年 も で き た が、 次 の 増 税 時 期 と さ れ る 年 7 月 )の 参 議 院 選 挙 の 後 に 行 う こ と 月 で は、 そ れ が で き な い。 「 選 挙 」で あ る。 2 0 第 二 の 理 由 は、 17年4月の増税判断は、 直近 (2016 推移を見れば一目瞭然であり、超過 準 備 次の延期で再建計画は崩壊 再建の仕組み構築が重要 めて低い。 「日銀が国債をすべて 以 上 の と お り、 買い切れば、国民負担ゼロで財政再建で る。 月に延期となった消費増税を含め、財 12 11 指数研究会」 ( 座 長: 吉 川 洋・ 東 大 院 教 もっとも、厳密には短期金利と長 期 金 利の区別はあるので、金利が正常化 し た きる」という主張は誤解で、2019年 の発行)と概ね同等になることを意味す らスタートした第 て も、 統 合 政 府( 政 府 部 門 + 日 銀 )バ ラ 11 24 15 36 の規模を長期的に維持するためには 、 最 えるが、その前に、2019年夏の参院 自 民 党 総 裁 任 期( 2 0 1 8 年 9 月 )は 越 10 選が控えているためである。 特集 どうなっちゃうの? 社会保障 財政も異次元緩和も限界にきている 長期推計の「独立財政機関」 を創設せよ 57 10 10 10 ま た、2 0 1 9 年 度 の 予 算 編 成 を 行 う た め に は、税 収 の 見 積 も り を 固 め て 2020年度のPB黒字化は達成できず、 済再生ケース」でも、政府が目標とする 同試算によると、楽観的な高成長(実 質GDP成長率が2%程度で推移) の 「経 あ る 予 算 編 成 を 縛 る と い う 目 的 も 含 め、 進国では、政治的な意思決定プロセスで が重要である。このため、いくつかの先 右されずに財政再建を促す仕組みの構築 せずに始めることは不可能で、政治に左 お く 必 要 が あ り、増 税 判 断 は 最 低 で も 約 5・5 兆 円 の 赤 字 と な る こ と が 明 ら か 財政ガバナンスを改革する動きが広がっ さ ら に、2 0 1 4 年 月の選挙で当選し 月 頃 に は 行 う 必 要 が あ る。 になっている。 2018年 た 衆 議 院 議 員 の 任 期 は 4 年 な の で、 解 例えば、拘束力が強い中期財政フレー ム、トップダウン型の予算編成、財政予 てきている。 散 が な け れ ば、も っ と も 先 延 ば し し て も し か も、 こ の「 経 済 再 生 ケ ー ス 」は、 2019年 月に消費税率を %に引き 上 げ て い る こ と を 前 提 と し て お り、 仮 測やリスクに関する包括的な報告書の作 月には選挙が行われる 。 こ 月の増税も延期したと 2018年 のような複雑な政治的要因も、次の 増 税 に2019年 年 6 月 末 に 閣 議 決 定 し た「 骨 太 の 方 針 るかということである。政府が20 1 5 月の消 費 増 問題は、もし2019年 税も延期すると、財政再建計画はど う な 壊してしまう。 に達し、現在の財政再建計画は完全に崩 2020年度のPB赤字幅は約 )とは、 Independent Fiscal Institutions 選挙で選ばれるものではない専門的な集 ( I F I: こ の う ち「 独 立 財 政 機 関 」 す れ ば、 楽 観 的 な 高 成 長 ケ ー ス で も、 2 0 1 5」 (経済財政運営と改革の基本 そ の 一 方 で、 2 0 2 0 年 度 か ら 2 0 25年度にかけては団塊の世代が 歳以 団で構成され、政治的独立性を有する非 年後の の設置などが挙げられる。 ル ー ル 順 守 を 評 価 す る「 独 立 財 政 機 関 」 方針2015)では、2018年度の国 上となり、医療・介護費が急増する。厚 党派の公的機関をいう。 兆円超 と地方を合わせた基礎的財政収支(以下 労 省 の 推 計 に よ る と、 2 0 1 5 年 度 で 兆 円 の 医 療・ 介 護 費 は、 2025年度には や財政パフォーマンスの監視、財政政策 約 度までにPBを黒字化する財政再建 の 目 も膨らむことが予測されている。 財政運営に対する客観性を担保するた めに、予算編成のためのマクロ経済予測 標を盛り込んでいる。しかし今回の 増 税 供することを任務とする。 兆円 延期により、前者の目標達成はまず 無 理 この強烈なダブルパンチが財政を直撃 す る 前 に、 厳 し い 財 政 の 現 実 を 直 視 し、 財 政 再 建 を 早 急 に 進 め る 必 要 が あ る が、 兆円へ、実に である。 肝心の政治は財政再建に本気で取り組む 25 だが、本当の改革は厳しい現実を直視 化を防ぐには、憲法で財政均衡を義務付 主義の下で財政を均衡させ、政府の肥大 なお、この独立財政機関は、本稿冒頭 で紹介したブキャナン氏らによる「民主 について規範的な助言や指針を政府に提 で は 後 者 の 目 標 は ど う か。 内 閣 府 は 2016年7月の経済財政諮問会議 に お 誘因が弱いのが現実であろう。 1%程度にする目安のほか、202 0 年 75 10 10 成、予算編成の前提となる指標の作成や 判断に影響するはずである。 10 「 P B 」と い う )の 赤 字 幅 を 対 G D P で 10 い て、 「中長期の経済財政に関する試算」 の改訂版を公表している。 75 50 10 58 2016.10 10 12 12 12 最 近( 2 0 1 4 年 )、 日 本 も 加 盟 す る O E C D( 経 済 協 力 開 発 機 構 )は、 「独 深く関係する。 けるしかない」という伝統的な議論にも 公式な推計として、 慮等からそれ以降の推計は避けており、 2024年度までのマクロ経済や財政 の 経 済 財 政 に 関 す る 試 算 」に お い て、 年ほど先を見通 の見通しを示しているが、政治的な配 立財政機関の指針に対する委員会勧 告( Recommendation of the Council す 財 政 収 支 に つ い て の「 長 期 の 試 算 」 は公表していない。 その点、諸外国では、長期の財政に 関する将来推計を公表している例が少 なからず存在する。 例えば、欧州委員会による「財政の 持続可能性に関する報告書」 ( Fiscal )は そ の 代 表 的 Sustainability Report な存在だ。 OECD諸国で設立が相次いでいる 。 、1 9 7 4 年 設 立 )が 長 い Budget Office 歴 史 を も ち 有 名 だ が、 2 0 0 0 年 以 降 、 ている。 年 ま で の 規 模( 対 G D P 比 )を 推 計 し 関する報告書」 ( Ageing Report )も作 成し、社会保障費について、2060 推 計 を 実 施 し、 「 ベ ー ス ラ イ ン・ シ ナ (出所)筆者作成 on principles for Independent Fiscal )」を公表した。 Institutions 各国で続く独立機関設立 日本は試算公表も避ける 独 立 財 政 機 関 と し て は、オ ラ ン ダ の 経 済政策分析局(1945年設立)やアメリ たとえば、イギリスの予算責任庁(O また、アメリカの議会予算局(CB O)は、推計の信頼性を高めるために 「高齢化に 同 委 員 会 は 3 年 に 1 回、 BR: Office for Budget Responsibility 、 2 0 1 0 年 設 立 )、 ス ウ ェ ー デ ン の 財 政 政治的な中立性や独立性を確保しつつ、 カの議会予算局(CBO: Congressional 政 策 会 議( 2 0 0 7 年 )、 カ ナ ダ の 議 会 今後 年 間( 2 0 8 7 年 ま で )の 将 来 予 算 官( 2 0 0 8 年 )、 ア イ ル ラ ン ド の 財政諮問会議(2011年)などである。 在の政策が継続した場合、自然体での リオ」 ( 現 行 制 度 を 全 く 変 更 せ ず、 現 にもかかわらず、現在のところ日 本 に おいて、独立財政機関は存在しない 。 例 財政やマクロ経済の姿を予測するも 図表8 世代会計の試算結果(単位:万円) 50 えば、現在のところ、内閣府は「中長期 特集 どうなっちゃうの? 社会保障 財政も異次元緩和も限界にきている 長期推計の「独立財政機関」 を創設せよ 59 75 込んだ場合の姿)の2種類を公表してい 政府からどれだけの受益を得るか」を推 「国民が生涯を通じ 「 世 代 会 計 」と は、 て、 政 府 に 対 し て ど れ だ け の 負 担 を し、 の)と「代替シナリオ」 (政策変更を織り る。 代」 の受益超過は3990万円に拡大する。 すなわち、今回の増税再延期で、将来 世代は一人当たり約 万円も損が拡大す 者は筆者もメンバー)。 モデル」(β版)を構築し公表している(後 関 係 で 2 0 1 6 年 6 月、 「長期財政推計 提言を2013年に公表しており、 こ の に独立推計機関の設置などを求める 政 策 であると位置づけ、超党派議員で、 国 会 将 来 世 代 と の 世 代 間 格 差 は、 既 に 約 内 閣 府 の 付 注 を 参 考 に、 筆 者 が 試 算 し た 結 果 に よ る と、 歳 以 上 の 世 代 と を試算する。 の )を 推 計 し、 純 受 益( = 受 益 するのに必要な税金・保険料といったも れ る も の )と 負 担( 公 共 サ ー ビ ス を 供 給 護といった政府の公共サービスから得ら とに、その生涯の受益(年金、医療・介 重要だが、将来世代の利益も視野に、 「国 「2020年度までに国と地方を合わ せた基礎的財政収支を黒字化する」とい 795万円も損が拡大する可能性がある。 らにツケを先送りするだけであり、図表 スだが、 これ以上の延期は、 将来世代にさ 費税率を確実に 安倍首相は、 次回は増税 現在のところ、 の 再 々 延 期 は せ ず、2 0 1 9 年 月 に 消 る可能性を意味する。 また、「2005年度版・年次経済財政 報告」等において、内閣府は 「世代会計」を 1億2千万円にも達している。 代」といった世代ご 一時は公表していたが現在は政治的 な 配 代」とか「 計する手法をいい、具体的には、 「 慮から作成しておらず、 日本に独立財政機 歳) 負担) 関が創設される場合、 当該機関が世代会計 歳 以 上 の 世 代 と 将 来 世 代( 0 ~ というのは、現状においても、例 え ば 財政無策がひき起こす 衝撃的な世代間格差 の推計や公表を担うことも重要である。 社会保障改革の道筋をつけることが、現 とか「 44 一般のサラリーマンの生涯賃金を2億 円とすると、その約5割にも達する格差 このため、東京財団では、財政健 全 化 は日本にとっての重要な政策課題の 一 つ 20 %に引き上げるスタン 10 年の計」として、しっかり財政再建・ 急に求められている。 在を生きる私たちの責務である。 高 橋 是 清 が『 明 治 大 正 財 政 史 』の 序 文 で 述 べ て い る と お り、 「財政は経国の枢 がある。 した結果が 図表8である。 機にして、国務の運営一として之に頼ら そのため、財政の長期推計や世代会計 の公表等を担う独立財政機関の創設が早 歳以上の世代は3982万円の得(受 る。 沿革に依て之を窺ふを得べし」なのであ ざるはなく、一国隆替の跡は正に財政の 2 0 1 7 年 4 月 に 増 税 を 行 っ た 場 合、 将来世代は8221万円の損 (負担超過) 、 では、先般の増税再延期の影響はどう か。この世代会計を用いて、筆者が試算 家 う従来の財政再建目標を堅持する姿勢も が示す通り、 増税を恒久的に延期すれば、 10 月に 益超過)であったが、2019年 歳以上の世代 るが、先般の増税再延期が各世代に 及 ぼ は8265万円に拡大、 増税を行った場合、将来世代の負担超過 把握できないためである。 15 - 50 60 2016.10 30 す影響は、 「世代会計」という手法でしか の負担には、大きな世代間格差が存 在 す 19 60 60 10 60 60