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金融経済教育研究会 活動のご案内

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金融経済教育研究会 活動のご案内
金融経済教育研究会
活動のご案内
〔平成 27 年度版〕
代 表 挨 拶
本研究会は、東海地域の中学校・高等学校などの先生方が金融・
経済について自主的に学習し、研究することを目的とした研究会です。
東海4県下の教育委員会等の後援を得て活動しています。
今日ほど金融・経済のさまざまな知識や働きを理解し、それを通じて自
分たちが生きている社会について考え、また、自分自身の判断力を身に
つけ、将来の生活・生き方について自分なりに行動できるような力、すな
金融経済教育研究会
代表
わち将来豊かに生きていける力を身につけることが求められている時代は
沢里 義博
ないのではないでしょうか。そのための手立ての一つとして「金融経済教
(名古屋市立御田中学校)
育」を推進することが強く求められています。
本研究会では、金融経済の分野で活躍されている専門のエコノミストや大学の先生などを講師として
お迎えして、国内経済の諸問題はもちろんのこと、世界経済の最新の出来事や、そのことが日本経済
に与える影響など、授業に活かせるような話題を取り上げています。また、企業の工場見学会や金融
経済教育に取り組む際の課題について、参加教諭らによる研究発表も行っています。
先生方がますます多忙になっていく中で、「参加してよかった」と思えるような研究会にするためにはど
うすればよいかということを常に念頭におきながら、これからも先生方とともに魅力的な研究会を作り上げ
ていきたいと考えています。
また、参加されている先生方の専門科目、校種は様々ですが、日々工夫しながら金融経済教育を実
践されています。本研究会が先生方の交流の場となり、ネットワークづくりに役立つことができれば幸い
です。
最後になりましたが、本研究会の支援団体である日本証券業協会 金融・証券教育支援本部中部支
部の皆様には多大なる支援をいただいています。厚く御礼申し上げます。
登録参加者状況
(平成27年3月31日現在)
(単位:名)
府県別
愛知県
岐阜県
三重県
静岡県
その他
計
高等学校
71
15
7
7
2
102
中学校
35
2
5
4
0
46
小学校
6
2
0
1
0
9
その他
6
3
1
1
0
11
計
118
22
13
13
2
168
1
金融経済教育研究会の概要
□ 金融経済教育研究会とは
金融経済教育研究会は、主に中学校・高等学校の教諭が、金融・経済に関する課題を自主的に学習、
研究するサークルとして、東海 4 県下の各県教育委員会等の後援を得て、平成 21 年4月より活動を行って
います。
□ 活動内容
金融・経済問題を中心に、各分野の専門講師(エコノミスト、大学講師等)による講習会、企業の工場
施設見学会、参加教諭による各課題についての研究発表会、参加者間のネットワーク構築を目的とした交
流会等を実施し、実社会の現状を理解することにより、証券や金融経済に関わる教育の振興及び授業に
役立つ情報を自主的、継続的に研究しています。
【活動内容】
・講習会 年間7回程度、金融・経済問題についての講習会、研究発表会を実施
・見学会 年間1回〜 2 回、上場会社等の施設や工場見学会を実施
・交流会 年間1回、教員並びに教育関係者等の交流を目的とした交流会を実施
□ 対象
主に中学校・高等学校の教員(担当科目は問いません)
□ 参加費用
講習会、見学会 ・・・無料
交流会 ・・・実費相当額を負担いただきます
□ 後援(平成 26 年度実績)
愛知県教育委員会、岐阜県教育委員会、三重県教育委員会、静岡県教育委員会、
名古屋市教育委員会、愛知県金融広報委員会、名古屋証券取引所
□ 役員・事務局(平成 27 年度)
代 表 沢里 義博(名古屋市立御田中学校)
副代表 本田祐一郎(愛知県立中村高等学校)
事務局 日本証券業協会 金融・証券教育支援本部 中部支部
※ 日本証券業協会とは、金融商品取引法第 67 条の2第2項の規定により内閣総理大臣の認可を受けた認可金融商品取引
業協会であり、協会員(証券会社等)
をもって組織され、営利を目的としておりません。
□ 参加申込方法
巻末の「金融経済教育研究会 登録用紙」に必要事項をご記入のうえお申込みください。
※ 既に登録いただいている場合は、改めてお申込みいただく必要はありません。
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平成 27 年度 年間活動予定(平成 27 年 3月31日現在)
開催日
第1回
4/18(土)
第2回
5/16(土)
第3回
6/20(土)
第4回
7/29(水)
8/18(火)
8/19(水)
第5回
9/19(土)
第6回
11/21(土)
テーマ
◇ オリエンテーション
◇「進化する人型ロボットの未来〜もっと身近な存在に〜」
◇「ギリシャだけではない、ユーロが抱える課題の本質」
◇「円安が追い風?世界を席巻する
“Made in Japan”」
◇「変貌する内外のエネルギー事情と我が国の課題」
◇「トップメーカーが求める
“人財”とは」
◇「クラウドファンディングの可能性~ネットを利用した資金調達~」
◇企業の先端技術を学ぶ工場見学
ハウス食品㈱静岡工場(静岡県袋井市)
【日本証券業協会主催セミナー】
「授業に役立つ金融経済セミナー」に参加予定
経済、金融、証券等についての講義、企業見学等を実施予定(2日開催)
◇「資本主義は本当に終焉を迎えているのか」
◇「爆発する人口と世界地図の変化」
◇「北米と南米を結ぶキューバマジック」
◇「私たちはなぜ税金を納めるのか」
【日本証券業協会主催セミナー】
12/24(木)
12/25(金)
「授業に役立つ金融・証券体験プログラム(仮題)」に参加予定
金融・証券の基本に関する講義及び施設見学並びに体験型教材のワークショップ
を通じて、担当教科を問わず、広く金融・証券界の理解を深めてもらうセミナー
(2日開催)
第7回
2/20(土)
◇「“経済の教え方”教えます~経済番組の舞台裏から~」
◇ 総 会
◇ 交流会
注1 開催に際して、東海4県の教育委員会をはじめ名古屋市教育委員会、教育関係諸団体等に後援申請を行う。
注2 金融経済教育研究会の日程及び講演テーマについては予定であり、今後、変更となる可能性がある。
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平成 26 年度 年間活動報告
開催日
テーマ・講師
4月
◇ オリエンテーション
◇「消費税増税による日本経済・世界経済への影響」
野村證券㈱ 投資情報部 証券学習開発課
第1回
4/19(土) シニアファイナンシャルプランナー 有賀 政美 氏
◇「行動経済学の金融経済教育への応用」
名古屋商科大学 経済学部 教授 岩澤 誠一郎 氏
5月
◇「中国経済の行方と日中関係」
㈱富士通総研 経済研究所 主席研究員 柯 隆 氏
第2回
5/17(土) ◇「最近の労働問題への取組み~ブラック企業を見抜く力~」
厚生労働省 愛知労働局 労働基準部監督課長 小川 裕由 氏
6月
第3回
◇「今話題の経済ニュースから学ぶ~東海地域経済とアベノミクス~」
6/21(土) 神戸大学経済経営研究所 教授/名古屋大学 客員教授 家森 信善 氏
7月
第4回
◇ リンナイ㈱ 大口工場 見学会(愛知県丹羽郡大口町)
7/30(水) ◇ ㈱LIXIL 榎戸工場 見学会(愛知県常滑市)
8月
【日本証券業協会主催】
8/11(月)
「授業に役立つ金融経済セミナー」に参加
8/12(火)
経済、金融、証券などについての講義、企業見学(2日開催)
9月
◇「エネルギー問題の現状と今後の展望」
㈱大和総研 環境調査部 主任研究員 大澤 秀一 氏
第5回
9/20(土) ◇「欧米諸国の金融経済教育の実態」
東洋大学 文学部教育学科 教授 栗原 久 氏
11 月
◇「中間選挙後のアメリカ経済」
みずほ総合研究所㈱ 欧米調査部兼市場調査部 主席研究員 小野 亮 氏
第6回
11/22
(土) ◇「次世代環境車の変態・進化・変異について~環境車の今後の動向~」
トヨタ自動車㈱ 製品企画部 ZF チーフエンジニア 豊島 浩二 氏
12 月
1月
【日本証券業協会主催】
12/25(木) 「教育関係者向け 金融・証券体験プログラム」に参加
1/25(日) 担当教科を問わず、教育関係者を対象とした金融・証券に関する基本的な
知識についての講義、施設見学(2日開催)
2月
◇「今話題の経済ニュースから学ぶ」
信州大学 経済学部 教授 真壁 昭夫 氏
◇「シミュレーション教材を効果的に活用した経済教育」
第7回
2/14(土) 名古屋市立志段味中学校 教諭 伊藤 達也 氏
◇ 総 会
◇ 交流会
4
参加者からの声
(各回のアンケート・意見交換より抜粋)
○第1回
「消費税増税による日本経済・世界経済への影響」
・データを基にして順序立てた説明で、消費税増税と経済の影響の捉え方がよく分かり納得できた。
・話術・資料全て最高で、日本の現状と様々なデータを駆使して、分かりやすく説明いただいた。
・今まで漠然としていたアベノミクスの狙いと展望がはっきり分かった。
・分かりやすいレベルと分析で、大いに勉強になった。情熱的な話だった。
「行動経済学の金融経済教育への応用」
・質問を投げかけたり、失敗談を活用したり、内容も良かったが、授業スタイルも参考になった。興味関心を
高めながら話し進める展開が心地良く、最後まで飽きない内容だった。また聞いてみたい。
・自分にあてはまると実感をもちながら学ぶことができ、とても興味が持てた。もっと聞きたいと思った。
・私にとっては新しいテーマで大変興味深く、違った角度から経済を勉強させてもらうことができた。
・心理学的領域の話題の幅が広く、様々な場面で活用できるような気がした。
○第 2 回
「中国経済の行方と日中関係」
・中国の歴史を踏まえて、具体的な例を挙げながらの説明で、中国経済の現状がよく分かった。
・資料分析に頼った講義ではなく、中国人ならではの視点や成育歴があり、説得力もあるので大変興味深く拝
聴できた。
・中国政府の歴史認識や領土問題に対する考えの裏側の事情は、なかなか見えてこないのが実情であるが、
中国人という立場から様々な視点でそれを解説していただき、認識を深めることができた。
「最近の労働問題への取組み~ブラック企業を見抜く力~」
・多くの具体例を多く聞くことができ、中学校の授業でも使える。まず法制度を知ることが大切であることを生
徒達に還流していきたい。
・労働基準法を無視している企業や職場は意外と多く、労働者が自分を守るために法律を知ることは大事なの
で、具体的な事例を通して、生徒に学習させる教材を提示してもらいたい。
・若者がブラック企業に雇用され問題が多く起こっているので、労働者を守る法律、規則についての知識をつ
けていきたい。
○第 3 回
「今話題の経済ニュースから学ぶ~東海地域経済とアベノミクス~」
・家森先生の講義は、毎度ながらとても分かりやすく、豊富なデータで裏付けられた分析は、なるほどとうな
ずける内容だった。
・生徒達に考えさせる時に時間的な変化と外国との比較をさせて、政府の方針を知り、生徒の考え方を引き出
してやるという方法を教えていただき、大変勉強になった。
・経済について生徒に問う際には、正答を出させる(教える)のではなく、可能性を考えさせる。可能性につい
て論理的に組み立て、賛否を求めることが重要であると改めて感じた。
・大学を卒業して1年、日本経済について考えることがほとんどなかったが、今、日本で起きている状況や今
後の動向について学ぶことができ刺激になった。
「馬とロープ」の例えが面白く、経済学のイメージが変わった。
○第 4 回
リンナイ㈱ 大口工場 見学会
・日本企業の製品に対しての正確さを改めて学ぶことができ、やはり違うと感じ、日本企業(リンナイ)のプライド
を痛感した。
・あれだけのスペースで、プレスから塗装、解説書の印刷、箱詰めまでやってしまうこと、さらには多品種に対応
できることにも驚いた。
・社員技能指向が一目でわかる点、安全指標を設けるなど安全教育に心掛ける点、部品のIN・OUTを調整し、
生産数や工場の運転状況の画面表示など、誰が見ても分かりやすく安全、確実な商品を作ることに徹底してい
る点は大変勉強になった。
・ルールが徹底されており、工場が見える化され、大変きれいだった。その時々の目標が目で分かる労働環境の
工夫は学校でも生かしてみたい。
5
㈱LIXIL 榎戸工場 見学会
・トイレの進化の過程やトイレ業界の最新情報などを聞くことができ、今後の授業に活用できそう。期待以上
の内容だった。
・世界最先端の技術に触れることができ、日本の企業はすごい!と実感した。
・衛生陶器の製造工場を初めて現場学習でき、自己啓発につながると実感できた。とても有意義な1日を過ご
すことができた。
・トイレの原材料が海外の輸入だけでなく、東海地方の瀬戸や多治見からも採掘されていることは、生徒にも
伝えていきたい。
○第 5 回
「エネルギー問題の現状と今後の展望」
・なぜ高い天然ガスを中東から買わされているのかという日本の現状や世界のエネルギー資源とその動向等を
分かりやすく説明いただいた。
・CO2 の排出と水素社会への取り組みを考えていかないといけないことが理解でき、とても参考になった。
・原発の止まった今、化石燃料の輸入増加による新たな問題が起こってきている件について考えていきたい。
・人々の生活を豊かにするためのエネルギーであっても、数々の問題が生まれてしまうため、政策を作ってもそ
れを上手く人々に伝えられるかがまた課題だと思う。
「欧米諸国の金融経済教育の実態」
・担当する簿記の授業では、解き方の説明で終わってしまうことがよくある。大切なのは「なぜ」そのような
処理をするのか?であり、そこに導くことが大切であると改めて感じた。金融教育でなくても通じるのでは
と思った。
・授業の中で、自発的に考えさせるためには疑問を持たせることが最も大事な部分だと感じた。
・金融は社会に出れば必ず触れるものであるため、10 代を中心とした教育が必要だと思った。その知識がそ
の人の価値観となり社会参画への手助けになると思った。
・根本的な社会的弱者とは金融に自分の方からアクセスすることができない人々だと気づくことができた。
○第 6 回
「中間選挙後のアメリカ経済」
・データに基づく分かりやすい話で、QE 3後の金融政策の見通しがよく分かった。
・失業率は低下してもインフレ率が向上しないというギャップがよく理解できた。
・TV ニュースの理解が深まった。
・経済指標を使った説明に説得力があり、中間選挙の結果から分かる今後のアメリカ経済の動向がより一層理
解できた。
「次世代環境車の変態・進化・変異について~環境車の今後の動向~」
・最先端で活躍する人の話はやはり素晴らしく、夢のある話だった。CO2 を減らし環境を考えていく会社、エ
ンジニアのモノの見方がよく伝わった。
・リスクに備えた多様なエネルギーの使用によるエネルギーの安全保障という考え方はとても重要だと思った。
「化石燃料社会」から「水素社会」への転換というところはとても興味があった。
・トヨタの技術の進化のための努力が日本の未来や世界の未来にも関連があり、とても参考になった。
・今、最もホットな話題である FCV の計画段階から、
これから先の未来についてまで、資源や環境との密接な
関係性を具体的に学ぶことができてよかった。また、
「夢を抱く」ということの大切さを再認識した。
○第 7 回
「今話題の経済ニュースから学ぶ~世界経済と金融市場の動向~」 ・いつもながら真壁先生のお話は分かりやすく、今後の日本や世界経済についての見通しを理解することがで
きた。
・世界経済の中の様々な問題、日本の立場など現在の状況がリアルタイムでよく分かり、自分なりの判断の基
礎となった。先生は「大学時代の勉強が役立った」とおっしゃったが、この研究会で研鑽して私もそうあり
たいものだ。
・具体的な数値に言及しながらも、専門的過ぎない形で話を進めてもらえたので理解がしやすかった。メモが
取り易く、話の内容がまとまっていて、とても参考になった。
・10 年周期説で 2017 年にどうなるか、生徒にも話し考えさせたいと同時に、日頃から統計を読み、考え
る「クセ」をつけたいと思った。
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講義録(抜粋・概要)
第1回金融経済教育研究会
日 時:2014 年4月 19 日(土) 14 時 55 分~ 16 時 10 分
演 題:
「行動経済学の金融経済教育への応用」
講 師:名古屋商科大学 経済学部学部長 岩澤 誠一郎 氏
1.行動経済学とは
行動経済学は最近誕生した経済学の一分野である。
これまでの経済学と行動経済学との最大の相違は、想
定する人間像の違いである。伝統的な経済学の理論で
は、ヒトが経済的な意思決定を行う際には、自分が最
も満足するように合理的に行うと考える。例えば、買
い物をするときには、予算の範囲内で最も満足度が高
くなるように買う物を選ぶと想定する。一方、行動経済学は、ヒトが経済的意思決定を行うときに、必
ずしも自分が最も満足するように合理的に行うとは限らない、という点に注目するのである。ここで重
要なのは、そこでみられるヒトの「非合理性」に一定の傾向があるということだ。ここに行動経済学を
学ぶ意義がある。つまり、行動経済学はそうしたヒトの「非合理性」を踏まえ、伝統的な経済学に比べ、
経済的な事象について、より的確な予測を行ったり、それを前提にして、現実の経済の中でより適切に
行動するためのアドバイスをしたりすることができるのである。もっともそうしたアドバイスを受けた
としても、ヒトが自分の行動を修正するのは容易ではない。気を付けてはいても、何度でも同じ間違い
をしてしまう。行動経済学をマスターするまでの道は遠いのである。だが行動経済学を学ぶことは面白
い。今の標準的な金融教育、経済学教育は、人間的な要素が乏しい。要は感情を刺激しないためあまり
面白くない。それに対し行動経済学を学ぶと、我々の頭だけでなく、感情、心も刺激を受ける。そして
我々に「人間とは何か」を考えるきっかけを与えてくれるのだ。
2.直感的判断の<システム1>と理性的判断の<システム2>
行動経済学では、経済的な意思決定をする際、脳の中には2つのシステムがあると考える。感情や直
感で処理する「システム1」、冷静な判断、理性的な思考の「システム2」である。システム1の特徴は「速
い」というところにある。例えば直感はすぐに心に思い浮かぶものである。人間は日常生活の多くの部
分をこのシステム1に頼って送っている。ところが、人間が意思決定をしなければいけない問題の中に
は難しいものもあり、特に経済的意思決定はシステム2を割り当てなければいけないものが多い。しか
し人間は、システム1の方が速く立ち上がってしまうため、本来であればシステム2の理性的判断を使
って推論しなければいけない問題に対しても、システム1の直感的判断を使用して解答を出してしまう
傾向がある。さらに、このシステム1の使用が、誤った判断をもたらすこともあるのだ。例えば、今、
7
喉が渇いているとする。次の場合、どちらを選ぶだろうか。
問1 A:今すぐに、オレンジジュースをコップに半杯。
B:今から5分後にオレンジジュースをコップに1杯。
次に、同じく喉が渇いている状況で、
問2 A:20分後に、オレンジジュースをコップに半杯。
B:今から 25分後にオレンジジュースをコップに1杯。
さて、問1ではA、問2ではBを選んだ方が結構いるようだが、それは合理的とは言いにくい判断で
ある。なぜなら、「今から 25分後にオレンジジュースをコップ1杯」を選んでいたにも関わらず、そこ
から 20分間経過した後には「今すぐに、オレンジジュースをコップに半杯」を選ぶ、ということになり、
2つの判断が整合性を欠いているからである。つまり、今決めたことを将来覆して異なる選択をしてい
ることになる。オレンジジュースが目の前にちらつき始めると、「すぐにでも欲しい」というシステム
1による意思決定をしてしまうわけで、こうした選択の傾向は「現在バイアス」と呼ばれる。私もそう
であるが、今すぐに手にすることのできる快楽に弱い人間は少なくない。「目の前に誘惑があるといて
も立ってもいられなくなる、夏休みの宿題は夏休みの終わり頃にやることが多い」というような人は、
「現
在バイアス」が強いと言える。そして「現在バイアス」が強い人は、「健康のための努力より美食、喫煙
等を優先する」、「試験勉強よりゲームやテレビを優先する」、「貯金よりも消費を優先する」、「消費のた
めに安易な借金を行う」というような問題を抱える傾向があると言われている。
3.損失回避と株式投資行動
株式や投資信託など、価格が変動する金融商品を購入する際には、その価格がこれからどうなるのか
を慎重に判断する必要がある。それまで値上がりが続いているからといってそのまま続くとは限らない。
しかし実際には、数か月から数年にわたって値上がりが続くと、その金融商品を買いたいと思う投資家
が増える傾向がある。そして、そうした投資家がその後の値下がりで痛手を負うケースが少なくない。
また、株式や投資信託を購入した投資家は、次のような行動をとる傾向が見られる。株式を買った値段
よりも値上がりしている場合は、頻繁に現在の値段を確認しようとする。そして、すぐにその商品を売
却し利益を確定しようとする。一方、買った値段よりも値下がりしている場合は、現在の値段を見よう
としなくなる。そして「買った値段を1円でも下回っている限り売却しない」などと言ってズルズルと
値が下がる商品を延々と保有し続ける。本来であれば、値下がりしている状況の方が頻繁に確認しなけ
ればいけないのに、とにかく損失を避けたい、見たくないという心が働いてしまうため、そのような行
動をとるのである。これを避けるために重要なことは、株式や投資信託を購入した場合に「損切り」の
ルールを持つということだ。買値から何%下がったら、その時の状況を問わず必ず売却すると決めてし
まうのだ。これは、値下がりした場合に損失回避をしようとする心の弱さを補うためのものである。多
くの優れた投資家は必ずこうしたルールを持っている。
8
ヒトは「損失」に対し極めて敏感な嫌悪を示す。「10,000円の利益」による心の動きと「10,000円の損失」
による心の動きを比べると、後者の方が大きい。利益の領域では「リスク回避」、損失の領域では「リス
ク追求」するのは、損失の実現を強く忌避しているためである。ここでは、損得の勘定というシステム
2を作動させるべき局面で、損失は嫌だという感情のシステム1が作動してしまい、そのため、利益の
領域と損失の領域で違う行動を取ってしまうのだ。人間にとってこの「損失回避」の性向は、進化の早
い段階で形成された脳の部位に根深く組み込まれている。大昔、人間が日々動物との生存競争に明け暮
れていた頃、恐怖に対し敏感に反応しなければ生き残れなかった。そのことへの進化的な適応が人間の
「損失回避」性向を形成したと考えられている。
4.現在バイアスに負けないための工夫
米国の心理学者が学生を対象に、次のような実験を行った。「君たちはこの学期の間に3回レポート
を提出しなければいけない。提出は学期が終わる前ならいつでも構わない。ただし今週中に、それぞれ
のレポート提出の締切をいつにするか決意表明してもらう。いったん締切を決めたら変更はできない。
提出が遅れたレポートは、1日遅れる毎に成績を1%減点する。」ここで締切自己申告の効果を測るため、
学生を3つのグループ(①自分で締切日を申告する「締切自己申告グループ」、②教授が締切日をあらか
じめ設定する「規制グループ」、③学期の最後に3つのレポートを提出すればよい「自由グループ」)に分
けて、最も最終成績が良いグループはどこかという実験を行った。
最終成績の結果は、残念ながら「規制グループ」が最も良く、「規制グループ」>「締切自己申告グル
ープ」>「自由グループ」であった。やはり人間は弱いもので、規制されるのが一番効果を出すわけだ。
しかしこの実験結果で最も興味深いのは、「自由グループ」に比べ、「締切自己申告グループ」の方が成
績が良かったという点である。自己申告の内容を問わずとにかく自己申告をして、それを守らないと減
点、というだけでそれなりに効果があるということである。この結果は、夏休みの宿題がどうしても後
遅れになってしまう人は、いつまでにこれだけをやるという計画を事前に自己申告するだけで多少の効
果はある、ということを示唆する。高圧的な「外からの声」は確かに有効ではあるが、そればかりでは「外
からの声」がないと自制心を働かせることができない人間になってしまう。自分にとっての望ましい行
動の道筋を予め決意表明し、そのための具体的な行動を自分で設定すること、そしてそれを守る練習を
繰り返すこと。そうしたことが「現在バイアス」の克服に役立つと思われるのである。
5.今後も進化する行動経済学
ヒトがシステム2を稼働させるべき局面でシステム1による対応を行い、問題のある選択を行う傾向
を持つことをみてきた。しかしシステム1は、進化論的に古い時代に形成された脳の部分の働きではあ
るが、今日の我々の生活においても、様々に重要な役割を果たしている。例えば、人間関係は、人の顔
色を読み、それに応じた話し方をするなど、感情の働きの上に成り立っている。つまり、コミュニケー
9
ションはシステム1がなければ円滑に進行しない。我々の日常生活の意思決定や行動は、システム1の
適切な働きが支えている面が強く、システム1の脳の機能が失われると社会生活や重要な経済的意思決
定において、深刻な障害が発生しがちであることも明らかになっている。
ところで、世界各国の人を対象に「あなたは今の仕事にどの程度満足していますか」というアンケー
ト調査を行ってみると、日本人の YESの答えの比率は非常に低く、世界最低レベルなのである。これ
はあまり良い話ではない。現代社会において仕事というのは、皆、一日のほとんどの時間を費やしてい
るわけで、仕事に満足していないとあまりハッピーではない。それに仕事の満足度は、実は生産性にも
影響を及ぼす。調査結果では、仕事の満足度と相関が高い要因は「仕事が面白い、ストレスを感じない、
職場の人間関係が良い、その仕事に誇りを持てる」等、明らかに感情を刺激するようなシステム1に関
する要因であった。それに対して、収入が多いことが仕事の満足に直結するかというと、あまり相関は
強くないというのが実情である。したがって、仕事の満足度を向上させ、うまく生産性を上げていくに
は、システム1を満足させることが必要なのである。例えば、人間が仕事で一番やりがいを感じるのは
顧客から感謝の言葉をかけられた時ではないだろうか。したがって、顧客から感謝を伝える機会、本日
参加の皆さんであれば、生徒や卒業生から感謝してもらうという機会を年に一回程度作ってみてはどう
か。改めてご自分のお仕事に満足を感じられるようになるのではないだろうか。また、人間というのは
進歩したという感覚があったとき、とても嬉しいと感じる。したがって、その目標に対して少しでも前
に進んだという感覚を味わえるように、全体をマネジメントしていくことが、仕事を面白くするための
一つのコツではないか。企業サイドとしても、良い人材を惹きつけ、職場の活性化を図るためには、職
場の「システム1マネジメント」が問われることになる。今、最先端の行動経済学者の間では、システ
ム1を押さえ付けるのでなく、システム2が十全に機能し得るように、システム1の持つ力を上手く引
き出すにはどうしたらいいかを考える研究が盛んになっているところである。
第3回金融経済教育研究会
日 時:2014 年6月 21 日(土) 13 時 30 分~ 16 時 00 分
演 題:
「今話題の経済ニュースから学ぶ~東海地域経済とアベノミクス~」
講 師:神戸大学経済経営研究所 教授/名古屋大学 客員教授 経済学博士 家森 信善 氏
1.デフレの何が問題か
今、日本経済はアベノミクスの3本の矢によって、
20年続いた長期停滞・デフレから脱却しつつある。そ
もそもなぜデフレが悪いのか。デフレといっても、今
日だけ物価が下がって明日からは一定になるという状
態ならあまり問題はない。今日だけではなく、これか
らもずっと物価が下がるのではないかと予想すること
が問題なのだ。将来の物価が下がると思えば、私たちは物価が下がってから買おうとするので、ど
10
うしても今必要なモノ以外は買わない。そうすると、お金を使わないのでモノが売れなくなる。企
業は値段を下げないとモノが売れないので、儲けがなくなり従業員を減らすか賃金を下げざるを得
なくなる。従業員は給料が減って失業の不安もあるのでさらにお金を使わなくなる。
こうなると、特に問題が起こってくるのは借入をしている企業である。企業は、お金を借りて投
資をして、利益を生んで儲け、その借金を返してより大きくなっていくというのが本来の成長モデ
ルだ。しかし、借入をした企業は、販売価格が低下するため借金の返済負担が重くなり、下手をす
ると返済できなくなる。したがって、企業はデフレを心配して投資を行わなくなる。こうしてデフ
レスパイラルに陥るのである。
また、デフレは資産を持っている人と持っていない人で損得が分かれる。例えば、住宅ローンは
デフレでも名目価値が下がらないし金利もゼロより下がらず、一方ローンで買った住宅の値段は下
がってしまう。正規社員と非正規社員の賃金格差にも影響を及ぼす。こうした実質的な所得分配の
不均衡・不公平が問題なのである。
2.アベノミクスの成果と課題
アベノミクスは、デフレを脱却するため、経済政策の基本である需要を増やそうという政策だ。
需要を増やすためには誰かがモノを買わなければならない。一番簡単なのは政府の財布からお金を
出すこと、つまり財政政策である。アベノミクスの機動的な財政出動の結果、需要は増加した。
次に、民間の経済主体(家計や企業)がお金をたくさん使うようにするための金融政策である。
これは金利や為替に影響を与え、その結果として投資や消費、純輸出に影響を及ぼそうというもの
だ。日本銀行は昨年4月4日、2%のインフレ目標を掲げ異次元の量的・質的金融緩和を行ったが、
現時点では好意的に受け止められている。
しかし、単に景気を良くするだけで物価上昇率を2%に上げるのは、日本経済の今の状況ではあ
り得ない。インフレ率を引き上げるためには、GDPギャップを減らすか、期待インフレ率を引き
上げるかしかない。マクロ経済学におけるフィリップス曲線の議論からすると、失業者が減ると賃
金は上がる関係にある。そして賃金が上がれば物価が上がるというメカニズムだ。現状では日本経
済の物価は1%程度まで上げるのが限度で、この関係からは、かなり失業率を減らさない限りイン
フレ率2%は達成できないだろう。
アベノミクスの狙いは、異次元緩和によるインフレ期待の効果で景気を回復させ、賃金を上げさ
せることにある。しかし、順番が変わって賃金が上がる前に物価が上がったり、企業の収益が増え
だす前に金利が上がると、私たちはお金を使うのではなく貯金しようとする。そうなれば、物価は
また下がり所得も減少し逆戻りしてしまう。“期待”をどうやって操作するかということがアベノ
ミクスの最大の課題である。
一方、経済の実際の状況よりもアベノミクスがうまくいっているように見えるのが株価である。
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民主党政権の時代に 9,000円前後であった株価は、1万 5,000円程度まで上昇してきた。これは明ら
かに大きな成果であるが、2007年のリーマンショック前の水準と比較するとまだその水準に到達し
ていないという指摘もある。今回のアベノミクスの1つの特徴は、実体経済が劇的に回復していな
いのに、株価は倍近くになっているということだ。それだけに、現政権は非常に株価を意識する傾
向にある。為替レートも、一時は 80円近辺の水準であったのが、アベノミクスが始まって現在は
102円近辺にあり、短い期間に垂直を描くような変化が見られた。
3.潜在成長率引き上げの必要性
ここで最近の雇用環境を見てみると、確かにアベノミクスが始まったあたりで、従業員は増えて
いる。しかし、雇用は非正規雇用の拡大が中心なのが現状だ。企業にとっては、正規で雇う自信が
ないということだ。しかも、給料が上がったのは大企業のみで、それは日本全体で3割程度の人に
しか当てはまらない。中小企業に勤める残りの7割の人たちの給料はまだ十分上がっていない。つ
まり、日本経済全体として成長力が高まっていないということだ。今後、どうやって中小企業の収
益力を上げて、そこで働く人たちの給料をどう上げていくかという問題に直面している。
中長期視点での展開として今後考えていかなければならないことは、一時的な賃金上昇では消費
は伸びない、持続的に企業が高い賃金を支払えるようになることが重要だということだ。そのため
には、労働生産性の向上が不可欠であり、それが構造改革につながっていく。アメリカの例を見ても、
非伝統的金融政策の効果は持続的ではない。もともと“期待”に働きかける政策であるため、期待
が失望になれば効果は剥落する。
日本の潜在成長率を上げていかなければいけないという中で出てきたのが、アベノミクス第3の
矢である成長戦略だ。しかし、この成長戦略の実行についてはまだ時間がかかっている。成長戦略は、
企業の生産性を上げることを重視するサプライサイド政策である。生産性を上げて魅力的な製品を
つくれば、利益が出て従業員の所得が増える。そうすると、需要が増えてさらに企業業績が上がっ
ていくことを狙っているのだが、今はこの成長戦略に注力すべき段階にきている。1本目、2本目
の矢の効果が効いているうちに、民間投資を喚起する成長戦略が的を射るかどうかが、日本経済が
復活するための重要なポイントになるだろう。
4.東海経済の現状と課題
東海地域は自動車などの輸出産業が多いこともあり、リーマンショックや東日本大震災の際には
かなりダメージを受けた。ただ最近は少し有利に展開している。今でも東海地域の特徴は製造業の
ウエイトが他地域に比べ高いことである。ただ、東海地域でも、もはや製造業は 28%程度であり、
実は、非製造業の方が多いのが現実だ。製造業の中でも自動車産業、輸送用機械が大きなウエイト
を持っているが、産業構造の多様化がこの地域の長年の課題となっている。しかし、むしろますま
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す自動車に特化する産業構造になってきていることは、東海経済にとってリスク要因の1つとなっ
ている。
中部の自動車産業のデータを見てみると、全体的に 2008年のリーマンショックから自動車輸出が
急激に落ちた。その後 2011年まで横ばいになっている。トヨタ自動車の生産・販売・輸出台数の推
移を見てみると、国内生産全体が急激に落ちているが、国内販売はあまり変わっていない。つまり、
輸出が減ったということである。既にトヨタも外国で自動車を製造する方が多いということだ。外
国で売る自動車は日本で作らずに外国で作る、地産地消になってきていることが分かる。そうする
と、これから学生が自動車関係で就職しようとする際、国内の工場で職を得るということがどんど
ん減っていくということだ。日本国内での自動車製造の仕事が減ってきているということは、やむ
を得ない事実である。そして、これからも国内生産は基本的に減っていくということにならざるを
得ないだろう。
その穴をどうやって埋めていくかというのが、東海地域の今後の大きな課題である。ただ、グロ
ーバル化というのは、競争相手も増えると同時に、新規顧客が猛烈に生まれているとも言える。今、
日本にとって有利なのは、新興国を中心に世界経済が伸びていくということである。少子高齢化を
迎えている日本でも、外国人を相手にすれば、マーケットが大きくなっているのである。自動車を
例にすれば、新興国が成長して車を買ってくれる人が増えていくということで、東海地域にこうし
た世界経済の成長を取り込める企業がたくさんあるということは、非常に大きなことである。
5.東海地方の成長戦略
東海地域には、当然ながらモノを作る熟練の人材や安定した財務基盤を持つ企業があり、自動車
や産業機械技術等の強みを活かした国際競争力がある。これらを活かして次にどんなことをやって
いったらいいのかということが喫緊の課題になっている。
こうした中、2012年に愛知県の中小企業 3,000社に対して、東海地域にとってこれから有望だと
思う産業を聞いてみたところ(アンケート回答 730社)、地域レベルの有望産業としては、「次世代
自動車」を考える企業が圧倒的に多く、次いで「航空宇宙」という結果となった。しかし、飛行機
は自動車以上にレベルの高い安全技術が要求されるため、中小企業にとってはかなりハードルの高
い難しい産業となる。そのため、地域としたら有望な産業と捉えていても、個別企業レベルで有望
産業と捉えている企業は非常に少なかった。そこで現在、愛知県は何とか県内の中小企業にも航空
宇宙産業に参入してもらおうと様々な支援策を打ち出している。将来、自動車を補完するような産
業として航空宇宙産業が育つかどうかが、この地域の1つの大きな分岐点となるだろう。
グローバル化が進む中、これからは企業規模に関係なく、こうした新しい分野にどんどん挑戦し
ていくことが必要不可欠になる。ただ、新しいものに挑戦するというのは、当然人材がいて、その
人材がチャレンジしていく環境を整えていかなければならない。チャレンジするという土台をうま
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く活用できるかどうか、今後も地域企業の参入等を促す強力な施策が必要となる。
最後に、“挑戦”という点で言えば、日本は学生が起業することはあまりないが、アメリカでは
学生がベンチャービジネスを立ち上げることが結構ある。アメリカでの話であるが、ある学生が
ITベンチャービジネスを立ち上げたが失敗してすぐ破綻した。すると、潰れた途端にアメリカの大
企業から、「うちで働きませんか」というオファーが結構あったということだ。アメリカでは、会
社を経営していこうという人を高く評価する。そして、失敗の経験にも価値があると判断して、む
しろそういう人こそ雇いたいといってオファーするのである。一方、日本では残念ながら、起業し
て失敗した学生が就職面談に行くと、おそらくネガティブな方向で捉えられてしまうだろう。そこ
が違うのだ。やはり、一度経営に失敗した人も次に頑張れるような社会にしていかなければ、日本
が次のステージに上がるのは難しいのではないかと思う。
第5回金融経済教育研究会
日 時:2014 年 9 月 20 日(土)13:30 ~ 14:45
演 題:
「エネルギー問題の現状と今後の展望」
講 師:株式会社大和総研 環境調査部 主任研究員 大澤 秀一 氏
1.日本のエネルギー問題
日本のエネルギー政策を考える上で、原子力の取扱
いは大きな課題とされている。東京電力福島第一原子
力発電所の事故が発生してから、全国の原子力の設備
利用率が一斉に低下した。一つの発電所の事故が全国
に波及してしまう原子力の特徴が出た格好だ。火力発
電や再生可能エネルギーでこうした事態は起こりにく
いと考えられる。
年間発電電力量に占める原子力の割合は、2010年度は約 29%あったが、2013年度は0%になった。
原子力を代替したのは主に火力である。既存施設の利用率を高めたり、旧施設を再稼働させたりし
て安定供給を維持している。中東のカタールから燃料の天然ガスを大量に輸入できたことも危機を
乗り越えた大きなポイントとして挙げられる。再生可能エネルギーの導入も徐々に進んではいるが、
出力特性や系統連系などに課題が残されており、原子力を代替することは未だできていない。
2.世界のエネルギー資源
カタールはもともと天然ガスを欧州に供給していたが、2011年から欧州の需要が縮小したことも
あり、その分を日本に供給し始めた。日本にとっては渡りに船の申し出となった。欧州で天然ガス
の需要が縮小したのは、より安価な石炭への需要が高まったからである。石炭へシフトした背景に
は欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)における排出権価格の低迷が挙げられる。
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欧州に石炭を供給しているのは主にアメリカである。アメリカではシェールガスやシェールオイ
ルの生産が増えている。シェール資源の台頭で行き場を失った石炭が欧州に輸出されている構図だ。
アメリカがシェール資源の事業化に成功したのは、起業家の存在とリスクマネーの供給があったこ
とが主因だが、掘削設備やパイプラインなどのインフラが整備されていることも重要な要因として
挙げられている。シェール資源は世界中に埋蔵されているが、インフラが未整備な途上国などで生
産が始まるまでにはもう少し時間がかかるだろうと言われている。
日本のエネルギー問題を取り巻く世界のエネルギー資源の現状はおおよそ上記のように整理する
ことができる。日本の課題を一つ挙げるとすれば、天然ガスの価格が高いことである。原子力事
故の後、電気事業者やエネルギー商社は価格よりも量の確保を優先せざるを得なかったと考えられ
る。円安も進行したため、貿易収支は 2011年に 30年ぶりに赤字に転落し、2013年は過去最大とな
る 11.5兆円を記録した。
3.今後の日本のエネルギー政策
今後の日本のエネルギー政策を考えると、原子力の再稼働は見通せないため、次善の策として、
天然ガスの輸入価格を下げることが考えられる。アメリカから安価なシェールガスを輸入する動き
があるが、液化設備や政策上の課題もあるため、あと3年ぐらいかかるだろうと言われている。財
政的に厳しい状況が続くが、技術の利用に制限があるため致し方ないと思われる。
ところで、日本のエネルギー政策は、「安全性(Safety)」を大前提に、「エネルギーの安定供給
(Energy Security)」と「経済効率性(Economic Efficiency)」と「環境への適合(Environment)」
を総合的に考えて決定される。これを「S+3 E」と呼ぶ。現行のエネルギー基本計画では、再生可
能エネルギーを最大限導入しつつ、足りない分は火力や水力、原子力等のエネルギーで賄うという
方向性が示されている。再生可能エネルギーについては、2030年に総発電電力量の2割程度まで導
入する見通しがあるが、欧州に比べると慎重な目標値である。
4.エネルギー政策に影響を与える国際環境条約
先進国が排出する温室効果ガス(GHG)は、京都議定書などの国際条約でその種類と量が制限さ
れる場合がある。そのため、各国のエネルギー政策は国際環境条約に大きく影響されることになる。
エネルギー政策の自由度を担保する経済合理的な環境政策には3つあると言われている。①排出量
取引制度(ETS)、②炭素税、③固定価格買取制度(FIT)である。日本には既に炭素税(地球温暖化
対策税)と FITが導入されている。ETSに関しては、産業界への配慮から国レベルでは未だ導入さ
れていないが、自治体レベルでは導入事例がある。
地球温暖化は事実で、その原因が人為活動から排出される二酸化炭素(CO2)などの GHGである
ことは科学的にほぼ証明されている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が詳細な報告書を発
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表している。産業革命以降、人類が排出してきた GHGの累積排出量と温度上昇の相関関係が見出
されている。IPCCは科学的な事実を提示しているだけで、政策的には中立である。
具体的な環境政策は各国の政策立案者が決めることである。地球温暖化は世界全体の問題である
ため、全ての国が参加する国際環境条約を作成して実行していくことが必要である。京都議定書は
一部の先進国しか参加していないため、実効性は薄いという評価が与えられている。2015年の年末
までに、気候変動枠組条約の下で京都議定書に代わる新たな国際環境条約が決定される見込みにな
っている。2020年以降、日本を含め、各国はこの新しい国際環境条約に整合する環境政策及びエネ
ルギー政策を立案・実行していくことが求められる。
第7回金融経済教育研究会
日 時:2015 年2月 14 日(土)15:45 ~ 16:10
演 題:
「会員による研究発表/シミュレーション教材を効果的に活用した経済教育」
発表者:名古屋市立志段味中学校 教諭 伊藤 達也 氏
1.シミュレーション教材活用の効果
生徒にとって、教科書だけを使った経済的分野の学
習は、自分の生活と結びつけて考えることができず、
はじめから難しく考えてしまう傾向がある。その結果、
社会科の中でも不得意な分野の1つとなってしまう。
しかし、経済的分野で学ぶ内容は、生徒の日常生活そ
のものである。自分たちの生活と密接に関係があり、
そして、将来、社会に出ていく力をつけるにはとても大切な分野でもある。そこで、私がこれまで
実践した、
①「街のTシャツ屋さん」(野村グループ提供)
②「みんなで体験!株式会社とお金のしくみ」(日本証券業協会提供)
③「ケーザイへの3つのトビラ」(日本証券業協会提供)
の3つのシミュレーション教材を活用することで、次のような効果があったので報告したい。
◆経済主体の1つである会社の役割・活動、株式会社の特色、企業の社会的責任、資金を調達する
方法としての直接金融・間接金融や、外国為替・金利等の動きが経済に与える影響について理解
させることができた。
◆与えられた条件から自分が最適と思うものを選択し、その理由を考え整理する能力を身につけさ
せることができた。
◆自分の意見を発表し、他者の意見と比較・交換していく中で自分自身の考え方の1つの方向性を
導きだすことができた。
◆知識として学んだことを楽しみながら体験することで、より理解を深めるとともに、生徒が主体
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的に学習することができた。
この結果を踏まえて、座学を中心にした学習だけでなく、よりアクティブな体験型のシミュレー
ション教材を活用することで、経済活動をより身近に感じ、経済に対する関心と理解を深めてもら
うことができたと実感している。そして、これからの初等中等教育段階の経済学習においては、よ
り現実の生活に即した内容を授業でシミュレーションしていくことで、生徒個々の経済に対する知
識や思考・判断力の向上につながっていくのではないかと思う。いずれの教材も教材の提供は無料
(※)
であり、先生方も是非取り入れてはいかがだろうか。
※教材「みんなで体験!株式会社とお金のしくみ」は、提供を終了しており、現在は、
「株式会社をつくろう
!
ミスターXからの挑戦状」
を日本証券業協会が無料で提供している。
【留意事項】
ここに掲載されている内容は、各講義の抜粋版・概要であり、実際に行われた講義の全ての内容を示
すものではありません。また、掲載内容は、講義が行われた当時の情報に基づいているため、現時点にお
ける情報と異なる場合があります。なお、講義録の内容を当研究会の許可なく複写・複製することはご遠
慮ください。
17
金融経済教育研究会会則
(名 称)
第 1 条 本会は、金融経済教育研究会と称する。
(目 的)
第 2 条 本会は、金融・経済に関する実態状況について学び、会員の生徒指導に寄与することを目的とする。
(事 業)
第 3 条 本会は、目的を達成するために次の事業を行う。
1
2
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4
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6
金融・経済に関する講習会の開催
企業の施設・工場見学会の開催
授業用教材の研究
参加者の交流を目的とした交流会の開催
金融経済教育に関する課題研究・発表会の開催
その他本会の目的達成に必要な事業
(構 成)
第 4 条 本会に代表を置く。本会は、代表を参加者より選出し、代表は本会の事業を統括し、企画立案をはじ
め事業活動において中心的な役割を担うものとする。なお、代表の任期は1年とし、毎年3月末日までに事務局
が選出するものとする。
2 本会は、事業を統括する代表の他に、本会の運営協力を行う副代表等を置くことができる。副代表選出にあ
たっては、代表及び事務局が協議のうえ、決定する。
(事務局)
第 5 条 事務局は日本証券業協会 金融・証券教育支援本部中部支部内に設置する。所在地は愛知県名古屋
市中区栄三丁目8番 20 号に置く。
(会 員)
第 6 条 参加者は、金融・経済に関する学問を生徒に対し指導する教員とする。ただし、本会代表が認める者
については、この限りではない。
(入 会)
第 7 条 本会に参加しようとする者は、所定の様式を事務局に提出し、事務局の承認を必要とする。
(退 会)
第 8 条 本会を退会しようとする時は、退会申込書を事務局に提出する。
この会則は、平成 21 年4月1日から施行する。
付 則
付 則
この改正は、平成 22 年4月1日から施行する。
(注)改正条項は、次のとおりである。
(1)金融経済教育研究会(中部)から金融経済教育研究会へ名称変更。
(2)第3条第6号を新設、第5号を繰り下げ第6号とする。
(3)第3条旧第5号を改正。
(4)第4条第2項を新設。
この改正は、平成 23 年7月1日から施行する。
(注)改正条項は、次のとおりである。
第5条を改正。
この改正は、平成 24 年4月1日から施行する。
(注)改正条項は、次のとおりである。
(1)第6条を改正。
(2)第7条を改正。
付 則
付 則
18
金融経済教育研究会 登録用紙
〔FAX 052−252−0526〕
〔 新 規 ・ 登録内容変更 〕
どちらかを○で囲んでください。
年齢
フリガナ
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歳
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勤務学校名
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「個人情報保護宣言(プライバシーポリシー)」に沿って適切に取り扱い、本研究会の
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ご覧のうえ、請求手続きをしていただきますようお願いいたします。
上記の取扱いに同意のうえ、お申込みください。
上記の内容に 同意します ( を入れてください)
〈お問合せ先〉日本証券業協会 金融・証券教育支援本部 中部支部統轄
通信欄
( )
ご希望等がございましたら、
ご自由にご記入ください。
◇ 「金融経済教育研究会」に初めてお申込みの場合は〔新規〕を○で囲んでください。登録後、各回の
開催の都度、事務局より開催案内をお送りしますので、改めて参加のご連絡をお願いします。
◇ 既に登録いただいている方で、勤務先の異動や連絡先の変更が生じた場合は、〔登録内容変更〕を
○で囲んで、変更後の内容を事務局にご連絡ください。
【申込先・お問い合わせ先】
金融経済教育研究会 事務局(日本証券業協会 金融・証券教育支援本部 中部支部内)
〒460-0008 名古屋市中区栄3-8-20 名古屋証券取引所ビル3階
電 話:052-251-3891 FAX:052-252-0526
(H27.3)
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