Comments
Transcript
全文PDF(1098KB) - Japanese Journal of Antibiotics
Oct. 2013 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 251( 9 ) 岐阜県及び愛知県下において分離された基質特異性拡張型 ȕ-ラクタマーゼ産生株に対する各種抗菌薬の 抗菌活性サーベイランス 富山化学工業株式会社綜合研究所 東海アンチバイオグラム研究会ワーキンググループ 中川哲志・久田晴美・野村伸彦・満山順一 松原茂規 富山化学工業株式会社綜合研究所 松原耳鼻いんこう科医院 山岡一清 渡邉邦友 岐阜医療科学大学衛生技術学科 岐阜大学生命科学総合研究支援センター 嫌気性菌研究分野 浅野裕子 大垣市民病院医療技術部 末松寛之・澤村治樹 橋渡彦典 愛知医科大学病院感染制御部 高山赤十字病院検査部 松川洋子 山岸由佳・三鴨廣繁 岐阜県立多治見病院臨床検査部 愛知医科大学臨床感染症学 (2013 年 7 月 31 日受付) 岐阜県及び愛知県下の医療施設において,2007 年から 2011 年にかけて分離された 基質特異性拡張型ȕ- ラクタマーゼ(extended-spectrum ȕ-lactamase: ESBL)産生株 131 株 に 対 す る 各 種 抗 菌 薬 の 抗 菌 活 性 を 測 定 し た。今 回 評 価 し た 抗 菌 薬 の 中 で meropenem (MEPM)及 び doripenem (DRPM)の MIC50 並 び に MIC90 が 0.0313∼ 0.125 ȝg/mL であり,最も低かった。Clinical and Laboratory Standards Institute のブレ ,tazobactam/ イ ク ポ イ ン ト を 用 い た 感 性 率 は,MEPM, DRPM, imipenem(IPM) piperacillin(TAZ/PIPC)及び cefmetazole(CMZ)がそれぞれ 98.5%,98.5%,94.7%, 94.7% 及び 92.4% であり,良好な活性を示した。 ESBL 産生株の遺伝子型別では CTX-M-9 型単独保有株が 72 株(55.0%)と最も多 く分離され,これらに対する TAZ/PIPC, IPM, MEPM 及び DRPM の感性率はいずれ も 100% であった。 252( 10 ) 66―5 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS Oct. 2013 以上のように本地域にて分離された ESBL 産生株に対して,カルバペネム系抗菌薬 に加えて,TAZ/PIPC 及び CMZ が良好な抗菌活性を示した。 基質特異性拡張型ȕ-ラクタマーゼ(extended- 伝子型によって抗菌薬に対する感受性が異なるた spectrum ȕ-lactamase: ESBL)は一般に,ペニシリ め,当該地域での遺伝子型あるいは感受性の調査 ン系抗菌薬及び第一世代セファロスポリン系抗菌 を行うことは,ESBL 産生菌に対する適切な抗菌 薬のみならず,第二世代以降のセファロスポリン 薬の使用を行うためには重要である。今回,我々 系抗菌薬及びモノバクタム系抗菌薬を分解可能な は Clinical and Laboratory Standards Institute ȕ-ラクタマーゼと定義されている。ESBL は広範 (CLSI)の ESBL 一次スクリーニング基準である なȕ-ラクタム系抗菌薬を分解することから,その CTX あるいは CAZ の最小発育阻止濃度(MIC)が 産生菌による感染症に対して有効な抗菌薬は限ら 2 ȝg/mL 以上の条件を満たす E. coli,K. pneumoniae れており,また,ESBL 非産生菌による感染症と 及び P. mirabilis11)を岐阜県及び愛知県下の医療 比べて死亡率が高いことが報告されている 1)。 施設にて収集し,ESBL 産生株について各種抗菌 KNOTHE ら 2) が 1983 年 に SHV 型 の ESBL 産 生 薬の抗菌活性並びに遺伝子型の決定を行い,菌種 Klebsiella pneumoniae 及 び Serratia marcescens を 別及び遺伝子型別等での各種解析を行ったので報 世界で初めて報告し,日本においては ISHII ら 告する。 3) が 1995 年 に Toho-1 型 の ESBL 産 生 Escherichia coli I. 材料及び方法 を 報 告 し た。そ れ 以 降 も 数 多 く の 遺 伝 子 型 の ESBL 産生菌が分離され,海外並びに国内におい て ESBL 産生菌に対する各種抗菌薬の抗菌活性及 び遺伝子型の解析を含む多くのサーベイランスが 行われている 4∼10) 。 1. 使用菌株 2007 年から 2011 年にかけて,岐阜地区より岐 阜大学医学部附属病院,公立学校共済組合東海中 ESBL 産生菌で主流となっている遺伝子型は 央病院,中濃地区より岐阜県厚生農業協同組合連 CTX-M-1 型,CTX-M-2 型,CTX-M-9 型及び SHV 合会中濃厚生病院,東濃地区より岐阜県立多治見 型であり,菌種により保有する遺伝子型が異なる 病院,西濃地区より大垣市民病院,飛騨地区より ことが報告されている 。Proteus mirabilis では 高山赤十字病院,愛知地区より愛知医科大学病院 CTX-M-2 型保有株がほぼ全てを占める一方 ,E. で 分 離 さ れ た E. coli, K. pneumoniae, P. mirabilis coli では CTX-M-9 型保有株の分離頻度が高いこ のうち CLSI による ESBL 一次スクリーニングの とが知られている 4)。また,ESBL の遺伝子型によ 基準である CAZ あるいは CTX の MIC が 2 ȝg/mL り各種抗菌薬の抗菌活性が異なることも示され 以上の 157 株を用いた。 9) 9) ている。村谷ら 4) によると cefotaxime(CTX)は 各施設でマイクロバンクに保存された菌株は, CTX-M 型保有株よりも SHV-12 型保有株に対し ミュラーヒントン寒天平板上で増菌し,2 継代以 て抗菌活性が強く,一方 ceftazidime(CAZ)は 内の単一コロニーを各測定に使用した。 SHV-12 型保有株よりも CTX-M 型保有株に対し て抗菌活性が強い。 以上のように ESBL 産生菌は,その保有する遺 2. ESBL 産生株の検出 ESBL 産生株の検出は CLSI の ESBL 産生株確 Oct. 2013 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 253( 11 ) 認試験 11)に基づき実施した。収集した一次スク aztreonam ( AZT ), levofloxacin ( LVFX ), リ ー ニ ン グ 陽 性 株 に 対 し, CAZ, CTX, CAZ/ pazufloxacin (PZFX), ciprofloxacin (CPFX), clavulanic acid (CVA)及 び CTX/CVA デ ィ ス ク WRVXÀR[DFLQ(TFLX)の計 23 薬剤を用いた。なお, (栄研化学)を用いて,CAZ 単独ディスクと比較 SBT/ABPC,CVA/AMPC 及び SBT/CPZ はそれぞ して CAZ/CVA ディスクによる阻止円径が 5 mm れ, ABPC, AMPC 及 び CPZ 換 算 と し て, TAZ/ 以上拡大した株あるいは CTX 単独ディスクと比 PIPC は TAZ 4 ȝg/mL 存在下にて PIPC 換算として 較して CTX/CVA ディスクによる阻止円径が 5 mm MIC を測定した。 以上拡大した株を ESBL 産生株とした。 4. 抗菌活性測定 3. 使用抗菌薬 MIC は,CLSI 法 12)に準じてオーダーメイドの Ampicillin (ABPC), amoxicillin (AMPC), ドライプレート(栄研化学)を用いて行った。感 piperacillin (PIPC), sulbactam/ampicillin (SBT/ 性,中等度耐性及び耐性の分類は,CLSI の定める ABPC), CVA/AMPC, tazobactam/piperacillin MIC interpretive standard11)を参考とした。PZFX ( TAZ/PIPC ), sulbactam/cefoperazone ( SBT/ のブレイクポイントは類薬である LVFX を参考に CPZ),CPZ,cefazolin(CEZ),cefotiam(CTM), 2 ȝg/mL に定めた。 CTX , CAZ , cefmetazole ( CMZ ), flomoxef (FMOX),latamoxef(LMOX),imipenem(IPM), 5. ESBL 遺伝子型の決定 meropenem ( MEPM ), doripenem ( DRPM ), ESBL 産生株に対して表 1 に示すプライマーを 表 1. 検出用プライマー 254( 12 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 用いた PCR を行い特異的増幅の有無により保有し ているȕ-ラクタマーゼ遺伝子型を決定した 13∼15) 。 66―5 Oct. 2013 して試験に供した。 ESBL 産 生 株 131 株 の 菌 種 の 内 訳 は E. coli が TEM 及び SHV については,表 1 のプライマーを 109 株で最も多く,次いで K. pneumoniae が 16 株, 用いて direct sequence 法により塩基配列を確定 P. mirabilis が 6 株であった(図 1)。地区別分離株 し,既報の分類に従い遺伝子型を決定した 13∼15)。 数は,岐阜地区で 56 株,東濃地区で 46 株,西濃 地区で 15 株,愛知地区で 7 株,中濃地区で 5 株, II. 結果 飛騨地区で 2 株であった(図 2)。材料別分離株数 は,尿 62 株,喀痰 27 株,血液 13 株,膿 6 株,便 6 1. ESBL 産生株の検出と検体の背景 収集した 157 株に対し,CLSI の ESBL 産生株確 認試験 11) 株,ドレーン 3 株,膣分泌液 2 株,その他 12 株で あった(図 3)。 を実施した結果,131 株(83.4%)が陽 性であった。以降はこの 131 株を ESBL 産生株と 図 1. 菌種別における ESBL 産生株の分離頻度 図 2. 各地区における ESBL 産生株の分離数 Oct. 2013 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 255( 13 ) 図 3. 各分離材料における ESBL 産生株の分離頻度 2. ESBL 産生株に対する各種抗菌薬の抗菌活性 ESBL 産生株に対してȕ-ラクタマーゼ阻害剤配 合剤を含まないペニシリン系抗菌薬は全て MIC50 及 び MIC90 が>64 あ る い は>128 ȝg/mL で あ っ た。ブレイクポイントの設定されている ABPC 及 び K. pneumoniae であり,IPM, MEPM, DRPM の MIC はそれぞれ 0.25, 16, 4 及び 0.5, 8, 4 ȝg/mL で IPM には感性であった。 モノバクタム系抗菌薬の AZT の MIC50 及び MIC90 は 16 及び 128 ȝg/mL,感性率は 19.8% であった。 び PIPC の感性率はいずれも 0% であった(表 2)。 キノロン系抗菌薬は PZFX の MIC50 及び MIC90 ȕ-ラクタマーゼ阻害剤配合剤を含まないセファ が同系抗菌薬の中では最も低く,8 及び 16 ȝg/mL ロスポリン系抗菌薬も CAZ 以外はペニシリン系 であった。類薬を参考にした PZFX の感性率は 抗菌薬と同様の傾向であった。 40.5% であった。 ȕ-ラクタマーゼ阻害剤配合剤はいずれも単剤よ り MIC50 が 1/4 以下に低下し,中でも TAZ/PIPC は MIC50 及び MIC90 が最も低く,2 及び 8 ȝg/mL であ り,感性率は 94.7% であった。 セファマイシン系及びオキサセフェム系抗菌薬 3. 菌種別の各種抗菌薬の抗菌活性 E. coli, K. pneumoniae 及び P. mirabilis について 各種抗菌薬の MIC50, MIC90 及び感性率を比較し た。今 回 収 集 し た 131 株 の ESBL 産 生 菌 の う ち の中では FMOX の MIC50 及び MIC90 が最も低く, 109 株が E. coli であり全 ESBL 産生株の 83.2% を それぞれ 0.125 及び 2 ȝg/mL であった。CMZ の感 性率は 92.4% であった。 占めた。 E. coli で は MEPM, DRPM, IPM, TAZ/PIPC 及 カルバペネム系抗菌薬は他系抗菌薬よりも抗菌 び CMZ の感性率は,それぞれ 99.1%, 99.1%, 98.2%, 活性が強く,中でも MEPM と DRPM の MIC50 は 95.4% 及び 93.6% であった(表 3)。キノロン系抗 いずれも 0.0313 ȝg/mL であり,MIC90 はそれぞれ 菌薬及び TAZ/PIPC 以外のȕ-ラクタマーゼ阻害剤 0.0625 及び 0.125 ȝg/mL であった。また両薬剤の 配合剤の感性率は 20.2∼39.4% であった。 感性率も全薬剤中最も高い 98.5% であった。全 K. pneumoniae では MEPM, DRPM, IPM, TAZ/ 131 株中,MEPM あるいは DRPM に耐性を示した PIPC 及 び CMZ の 感 性 率 は,そ れ ぞ れ 93.8%, のは,2 株であった。いずれも尿由来の E. coli 及 93.8%, 87.5%, 87.5% 及び 81.3% であり,E. coli と 表 2. 各種抗菌薬に対する ESBL 産生菌 131 株の感受性分布と MIC50, MIC90 及び感性率 256( 14 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 Oct. 2013 Oct. 2013 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 257( 15 ) 表 3. 菌種別の各種抗菌薬の抗菌活性 比べ低い傾向が見られた。一方,キノロン系抗菌 抗菌薬の MIC50, MIC90 及び感性率を比較した(表 薬 の 感 性 率 は 高 く,中 で も PZFX の 感 性 率 は 4)。最も多く分離された尿由来株では TAZ/PIPC, 87.5% であった。 IPM, MEPM, DRPM 及び CMZ の感性率は,それ P. mirabilis の 分 離 株 数 は 6 株 で は あ っ た が, ぞれ 98.4%, 96.8%, 96.8%, 96.8% 及び 95.2% であ MEPM, DRPM, TAZ/PIPC, CAZ, CMZ 及 び PZFX が良好な活性を示した。 り,いずれも良好な感性を示した。 喀 痰 由 来 株 に 対 す る 感 性 率 は, MEPM 及 び DRPM が,いずれも 100% であり,次いで TAZ/ 4. 分離材料別の各種抗菌薬の抗菌活性 PIPC, IPM, CMZ がいずれも 85.2% であった。喀 分離材料別分離株数が 10 株以上であった尿由 痰由来株の MIC90 は尿由来株の MIC90 と比較し 来株,喀痰由来株及び血液由来株について,各種 て, TAZ/PIPC, LMOX, IPM が 4 倍, DRPM が 8 258( 16 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 Oct. 2013 表 4. 分離材料別の各種抗菌薬の抗菌活性 倍,CMZ が 16 倍,FMOX が 128 倍であった。 血液由来株では TAZ/PIPC, CMZ, IPM, MEPM 及び DRPM が 100% の感性率を示した。 同様に,西濃地区では FMOX の MIC90 が 16 倍, 全 て の キ ノ ロ ン 系 抗 菌 薬 の MIC50 が 1/4 以 下 で あった。西濃地区では ȕ-ラクタマーゼ阻害剤配合 剤が他地区よりも高い感性率を示し,特に TAZ/ 5. 地区別の各種抗菌薬の抗菌活性 PIPC は 100% の感性率を示した。一方で,西濃地 地区別収集株数が 10 株以上であった岐阜地区, 区では IPM の感性率が他地区より低く,感性率は 東濃地区及び西濃地区について各種抗菌薬の 86.7% であった。 MIC50, MIC90 及び感性率を比較した(表 5)。全株 での MIC に比べ,岐阜地区では FMOX の MIC90 が 6. ESBL 各遺伝子型保有株に対する各種抗菌薬 4 倍,東濃地区では CPFX の MIC50 が 1/4,CAZ の の抗菌活性 MIC90 は 2 倍以上であった。 ESBL 産生株に対し,既報 13∼15)のプライマーを Oct. 2013 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 259( 17 ) 表 5. 地区別の各種抗菌薬の抗菌活性 用いて遺伝子型を決定した結果を図 4 に示した。 が 5 株,CTX-M-1 型単独保有株が 1 株分離された。 菌種別では,E. coli(109 株)では CTX-M-9 型 CTX-M-9 型単独保有株,CTX-M-1 型単独保有 単独保有株が 70 株と最も多く分離され,次いで 株並びに CTX-M-1 型及び CTX-M-9 型保有株に CTX-M-1 型単独保有株,CTX-M-1 型及び CTX- ついて各種抗菌薬の MIC50, MIC90 及び感性率を M-9 型保有株がそれぞれ 17, 11 株であり,その他 比較した(表 6)。 の遺伝子型保有株はいずれも 2 株以下であった。 最も多く分離された CTX-M-9 型単独保有株で K. pneumoniae(16 株)では SHV-12 型単独保有 は 97.2% を E. coli が占めた。TAZ/PIPC, IPM, MEPM, 株が 4 株と最も多く分離され,その他の遺伝子型 DRPM 及び CMZ の感性率は 90% 以上であり,良 はいずれも 2 株以下であった。 好な活性を示した。オキサセフェム系抗菌薬 FMOX P. mirabilis(6 株)では CTX-M-2 型単独保有株 と LMOX はカルバペネム系抗菌薬に次いで MIC90 260( 18 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 Oct. 2013 図 4. ESBL 各種遺伝子型の分離株数 が低く,いずれも 2 ȝg/mL であった。モノバクタム 系抗菌薬 AZT 及びキノロン系抗菌薬の感性率は III. 考察 各々 25%, 34.7% 以下であった。 CTX-M-1 型 保 有 株 は 20 株 分 離 さ れ, 85% を 我々はこれまでに岐阜県及び愛知県下で分離さ E. coli が占めた。CTX-M-9 型保有株と比較する れた各種病原細菌について継続的な抗菌活性サー と TAZ/PIPC 以外のȕ-ラクタマーゼ阻害剤配合剤 ベイランスを実施してきた 16∼20)。今回は 2007 年 及び CAZ の感性率が低い傾向にあり,いずれも から 2011 年に岐阜県及び愛知県下の医療施設よ 感 性 率 は 30% 以 下 で あ っ た。そ の 他 の 薬 剤 も り分離された ESBL 産生株に対する各種抗菌薬の CTX-M-9 型保有株と比較すると感性率はわずか 抗菌活性を測定し,菌種別,分離材料別,地区別 に低い傾向にあった。 及び ESBL 遺伝子型別での比較を行った。 CTX-M-1 型及び CTX-M-9 型の両方を保有する ESBL 産生株全体に対し,カルバペネム系抗菌 株は 11 株分離され,全てが E. coli であった。CAZ 薬,TAZ/PIPC,CMZ は良好な抗菌活性を有して 及び AZT の感性率が他の遺伝子型保有株より低 おり,いずれも感性率は 90% 以上であった。ま く,それぞれ 9.1% 及び 0% であった。 た,CLSI によりブレイクポイントが設定されて CTX-M-2 型保有株は 7 株であり,うち 5 株が いないため感性率を算出することができなかった P. mirabilis であった。分離株数が少ないものの他 も の の, FMOX 及 び LMOX も MIC50 及 び MIC90 の遺伝子型保有株と比べて IPM の感性率が低く はカルバペネム系抗菌薬に次いで低く,強い抗菌 42.9% であった。一方,キノロン系抗菌薬の感性 活性を有していたと言える。 率が比較的保たれ,PZFX 及び LVFX の感性率は 今回収集した ESBL 産生株は菌種や分離材料や それぞれ 85.7% 及び 57.1% であり良好であった。 ESBL 遺伝子型といった背景が異なり,その背景 Oct. 2013 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 261( 19 ) 表 6. ESBL 各遺伝子型保有株に対する各種抗菌薬の抗菌活性 ごとに抗菌薬の抗菌活性に違いがあった。 感性率は 75.0% であった。しかし,2009 年カナダ まず,菌種別の解析から ESBL 産生 E. coli におい に お け る LOWE ら の 報 告 22)で は,ESBL 産 生 K. てはカルバペネム系抗菌薬と TAZ/PIPC がほぼ同等 pneumoniae に 対 す る CPFX の 感 性 率 は わ ず か の高い感性を示す一方,ESBL 産生 K. pneumoniae 9.1% であったことや本邦でも LVFX 耐性を示す においては TAZ/PIPC はカルバペネム系抗菌薬よ ESBL 産生 K. pneumoniae が 2009 年以降わずかな りやや感性が低かった。オキサセフェム系抗菌薬 がら増加していることから 23),本地域におけるキ で あ る FMOX 及 び LMOX の MIC90 も そ れ ぞ れ ノロン系抗菌薬の感受性を継続的に監視していく 64 ȝg/mL 及び 16 ȝg/mL であった。このように K. ことが必要であると考えられる。 pneumoniae はȕ-ラクタム系抗菌薬に対する感受 さらに,遺伝子型別でも各種抗菌薬の抗菌活性 性が低い一方,キノロン系抗菌薬に対する感受性 は異なる傾向が認められ,最も多く分離された は総じて高く,PZFX の感性率は 87.5%,CPFX の CTX-M-9 型保有株ではカルバペネム系抗菌薬並 262( 20 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 Oct. 2013 びに TAZ/PIPC が 100% の感性を示す一方,他の遺 カルバペネム系抗菌薬に加えて TAZ/PIPC 及び 伝子型ではカルバペネム系抗菌薬及び CMZ が CMZ が良好な感性を示した。カルバペネム系抗 TAZ/PIPC よりわずかに高い感性を示した。2006 菌薬は ESBL 産生菌に対する第一選択薬である 年の日本全国におけるグラム陰性菌を対象とした が,カルバペネム耐性株も検出されており,その SHIBATA ら の 調 査 9)と 今 回 の 我 々 の 調 査 で は, 増加が危惧される。今回の結果より ESBL 産生菌 ESBL 遺伝子型の分離頻度が異なり,中でも CTX- には遺伝子型の地域差が認められたことから,抗 M-2 型の分離頻度は大きく異なっていた。SHIBATA 菌薬に対する感性率も地域で異なることが懸念さ らの調査では全 317 株中 161 株(50.8%)が CTX- れる。ESBL 産生菌による感染症に対して選択さ M-2 型 ESBL を産生していたが,我々の調査では れる薬剤にはそれら情報を加味して十分な注意を 単 独 及 び 他 の 遺 伝 子 型を保 有 する CTX-M-2 型 払う必要がある。今後も ESBL 産生株の網羅的な ESBL 産生株は全 131 株中 13 株(9.9%)であった。 収集を続け,その性状を細かく解析することによ SHIBATA らの調査ではいくつかの地域ごとに結果 り,カルバペネム系抗菌薬と比べ限定的となるに を示しており,岐阜県及び愛知県を含む中部地域 しても,カルバペネム系抗菌薬以外の有効な選択 でも CTX-M-2 型が最も高い頻度で分離されてい 肢を模索することと,その選択肢を適切に活用し た。SHIBATA らは 2001 年から 2003 年にかけて菌株 ていくことがカルバペネム耐性株を増加させない を収集した一方,我々は 2007 年から 2011 年にかけ ために重要であると考えられた。 て菌株を収集しており,経年的に主流となる遺伝 子型が変化している可能性が考えられた。 分離材料別の解析では,尿由来株においては TAZ/PIPC, CMZ 及びカルバペネム系抗菌薬が同 等 の 感 性 を 示 し た が,喀 痰 由 来 株 に お い て は MEPM 及 び DRPM の 方 が IPM, TAZ/PIPC 及 び CMZ よりも高い感性を示した。 抗菌薬の適切な選択に臨床検査室における感受 性測定は最も重要であると考えられるが,菌種や 遺伝子型や分離材料といった情報は,抗菌薬の感 受性測定以前に知りうる情報であり,より早い段 階で適切な抗菌薬を選択するために今回の検討結 果は良い手がかりになると考えられた。実際に RODRÍGUEZ-BAÑO ら は ESBL 産 生 E. coli に よ る 血 流感染においては ȕ-ラクタマーゼ阻害剤配合剤が in vitro で活性を示す場合にはカルバペネム系抗 菌薬と比較しても死亡率及び入院日数に差がない と結論付け,起因菌の感受性を確認した上ならば ȕ-ラクタマーゼ阻害剤配合剤がカルバペネム系抗 菌薬の代替になるとしている 21)。 本地域にて分離された ESBL 産生株に対して, 参考文献 1)PEÑA, C.; C. GUDIOL, L. CALATAYUD, et al.: Infections due to Escherichia coli producing extended-spectrum beta-lactamase among hospitalized patients: factors influencing mortality. J. Hosp. Infect. 68: 116∼122, 2008 2)KNOTHE, H.; P. SHAH, V. KRCMERY, et al.: Transferable resistance to cefotaxime, cefoxitin, cefamandole and cefuroxime in clinical isolates of Klebsiella pneumoniae and Serratia marcescens. Infection 11: 315∼317, 1983 3)ISHII, Y.; A. OHNO, H. TAGUCHI, et al.: Cloning and sequence of the gene encoding a cefotaxime-hydrolyzing class A beta-lactamase isolated from Escherichia coli. Antimicrob. Agents Chemother. 29: 2269∼2275, 1995 4)村谷哲郎,小林とも子,松本哲朗,他:基質 特異性拡張型 ȕ-lactamase 産生 Escherichia coli に対する各種抗菌薬の抗菌力。日本化学療法 学会雑誌 52: 556∼567, 2004 5)若松 篤,黒川博史,芹沢亜矢子,他:臨床 分離 CTX-M-2 グループ ȕ-ラクタマーゼ産生 Proteus mirabilis の各種抗菌薬に対する感受 性。日本化学療法学会雑誌 54: 447∼452, 2006 Oct. 2013 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 6)PATERSON, D. L. & R. A. BONOMO: Extendedspectrum ȕ-lactamase: a clinical update. Clin. Microbiol. Rev. 18: 657∼686, 2005 7)CANTÓN, R. & T. M. COQUE: The CTX-M betalactamase pandemic. Curr. Opin. Microbiol. 9: 466∼475, 2006 8)LIVERMORE, D. M.; R. CANTÓN, M. GNIADKOWSKI, et al.: CTX-M: changing the face of ESBLs in Europe. J. Antimicrob. Chemother. 59: 165∼ 174, 2007 9)SHIBATA, N.; H. KUROKAWA, Y. DOI, et al.: PCR FODVVL¿FDWLRQ RI &7;0W\SH EHWDODFWDPDVH JHQHV LGHQWL¿HG LQ FOLQLFDOO\ LVRODWHG *UDP negative bacilli in Japan. Antimicrob. Agents Chemother. 50: 791∼795, 2006 10)CANTÓN, R.; A. NOVAIS, A. VALVERDE, et al.: Prevalence and spread of extended-spectrum ȕ-lactamase-producing Enterobacteriaceae in Europe. Clin. Microbiol. Infect. 14: 144∼153, 2008 11) CLSI: Performance standards for antimicrobial susceptibility testing; Twenty-Third informational supplement. Approved Standard M100-S23 CLSI 33:2013 12)CLSI: Methods for dilution antimicrobial susceptibility tests for bacteria that grow aerobically; Approved Standard-Seventh Edition. M07-A8. CLSI 29:2009 13)JOUINI, A.; L. VINUÉ, K. B. SLAMA, et al.: Characterization of CTX-M and SHV extendedspectrum ȕ-lactamases and associated resistance genes in Escherichia coli strains of food samples in Tunisia. J. Antimicrob. Chemother. 60: 1137∼1141, 2007 14)LOPES, A. C.; D. L. VERAS, A. M. LIMA, et al.: blaCTX-M-2 and blaCTX-M-28 extended-spectrum ȕ-lactamase genes and class 1 integrons in clinical isolates of Klebsiella pneumoniae from Brazil. Mem. Inst. Oswaldo Cruz 105: 163∼ 167, 2010 15)JONES, H.; M. TUCKMAN, D. KEENEY, et al.: Characterization and sequence analysis of extended-spectrum-ȕ-lactamase-encoding genes from Escherichia coli, Klebsiella pneumoniae, 66―5 263( 21 ) and Proteus mirabilis isolates collected during tigecycline phase 3 clinical trials. Antimicrob. Agents Chemother. 53: 465∼475, 2009 16)満山順一,山岡一清,浅野裕子,他:岐阜県 下における肺炎球菌の各種抗菌薬に対する感 受 性 サ ー ベ イ ラ ン ス ―2004 年 ―。 Jpn. J. Antibiotics 59: 137∼151, 2006 17)田中知暁,満山順一,山岡一清,他:岐阜県 下で分離されたグラム陰性菌に対するフル オロキノロン系の抗菌力(2005 年) 。Jpn. J. Antibiotics 60: 141∼151, 2007 18)帰山 誠,水永真吾,満山順一,他:岐阜県 下で分離されたインフルエンザ菌の感受性 サーベイランス(2006) 。Jpn. J. Antibiotics 61: 195∼208, 2008 19)河元宏史,野村伸彦,満山順一,他:岐阜県 下より分離された streptococci に対する各種抗 菌薬の感受性サーベイランス(2005 年∼2007 年) 。Jpn. J. Antibiotics 62: 509∼524, 2009 20)藤原将祐,水永真吾,野村伸彦,他:岐阜県 及び愛知県下において分離された緑膿菌の各 種抗菌薬に対する感受性サーベイランス (2008 年) 。Jpn. J. Antibiotics 65: 15∼26, 2012 21)RODRÍGUEZ-BAÑO, J.; M. D. NAVARRO, P. RETAMAR, et al.: ȕ-Lactam/ȕ-lactam inhibitor combinations for the treatment of bacteremia due to extended-spectrum ȕ-lactamaseproducing Escherichia coli: A post hoc analysis of prospective cohorts. Clin. Infect. Dis. 54: 167∼174, 2012 22)LOWE, C. F.; A. MCGEER, M. P. MULLER, et al.: Decreased susceptibility to noncarbapenem antimicrobials in extended-spectrum-ȕ-lactamase-producing Escherichia coli and Klebsiella pneumoniae isolates in Toronto, Canada. Antimicrob. Agents Chemother. 56: 3977∼ 3980, 2012 23)野竹重幸,三井真由美,近藤寿恵,他:今日 的話題の多剤耐性菌の動向と対策 1. わが 国の医療機関における臨床分離細菌の多剤耐 性化の現状とその対応(3)市中病院における 多剤耐性菌の現状―当センターの現状―。化 学療法の領域 27: 1610∼1629, 2011 264( 22 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 66―5 Oct. 2013 Antimicrobial activity of several drugs against extended-spectrum ȕ-lactamase positive Enterobacteriaceae LVRODWHVLQ*LIXDQG$LFKLSUHIHFWXUH Research Laboratories, Toyama Chemical Co., Ltd., :RUNLQJ*URXSRI7RNDL$QWLELRJUDP6WXG\*URXS SATOSHI NAKAGAWA, HARUMI HISADA, NOBUHIKO NOMURA and JUNICHI MITSUYAMA Research Laboratories, Toyama Chemical Co., Ltd. KAZUKIYO YAMAOKA *LIX8QLYHUVLW\RI0HGLFDO6FLHQFH YUKO ASANO Department of Clinical Laboratory Medicine, Ogaki Municipal Hospital HIKONORI HASHIDO Takayama Red Cross Hospital YOKO MATSUKAWA Clinical Laboratories, *LIX3UHIHFWXUDO7DMLPL+RVSLWDO SHIGENORI MATSUBARA Matsubara Otorhinolaryngology Clinic KUNITOMO WATANABE Division of Anaerobe Research, Life Science 5HVHDUFK&HQWHU*LIX8QLYHUVLW\ HIROYUKI SUEMATSU and HARUKI SAWAMURA Division of Infection Control and Prevention, Aichi Medical University Hospital YUKA YAMAGISHI and HIROSHIGE MIKAMO Department of Clinical Infectious Diseases, $LFKL0HGLFDO8QLYHUVLW\*UDGXDWH6FKRRORI Medicine We investigated the antimicrobial activity of several drugs against 131 extended-spectrum ȕ-lactamase(ESBL) SRVLWLYH FOLQLFDO LVRODWHV LQ *LIX DQG$LFKL SUHIHFWXUH IURP WR Meropenem(MEPM)and doripenem(DRPM)gave the lowest MIC50 at 0.0313 ȝg/mL. MEPM gave the lowest MIC90 at 0.0625 ȝg/mL. According to the Clinical and Laboratory Standards Institute breakpoints, the susceptible rates of carbapenems, tazobactam/piperacillin(TAZ/PIPC) and cefmetazole(CMZ)were higher than 90%. The susceptible rates of MEPM, DRPM, imipenem(IPM), TAZ/PIPC and CMZ were 98.5%, 98.5%, 94.7%, 94.7% and 92.4%. :HXVHGWKH3&5PHWKRGDQGLGHQWL¿HGWKHPROHFXODUW\SHVRIWKH(6%/SRVLWLYHLVRODWHV Seventy-two strains had CTX-M-9 group gene and CTX-M-9 group gene is the most frequently detected. Against the CTX-M-9 group gene harboring strains which were the most common in our investigation, the susceptible rates of TAZ/PIPC, MEPM, DRPM and IPM were 100%. It is suggested that not only carbapenems but also TAZ/PIPC and CMZ are useful against infections caused by ESBL positive isolates.