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工夫し創造する能力を育てる学習指導の工夫

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工夫し創造する能力を育てる学習指導の工夫
沖縄県立総合教育センター 1年長期研修員
第 55 集
研究集録
2014 年3月
〈技術〉
工夫し創造する能力を育てる学習指導の工夫
-栽培学習とキャリア教育の視点を踏まえた指導を通して-
北中城村立北中城中学校教諭
比
嘉
達
也
Ⅰ テーマ設定の理由
中学校学習指導要領技術・家庭の目標に「進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる」
とある。技術・家庭において「生活を工夫し創造する能力」とは、思考力・判断力・表現力を育てる部分
であり、学習指導要領改定の経緯に示されるように我が国における児童生徒の課題の1つである。
平成 24 年度から完全実施された学習指導要領において、技術分野では社会の変化に主体的に対応する観
点から「栽培」が「生物育成に関する技術」として必修となった。しかし、この内容は 20 年間教師による
選択として取り扱われていたため、育成にかかる時間や栽培する環境の課題により、取り扱われることが
少なかった。また、
「生物育成に関する技術」に対応した題材開発が進んでいないなど、工夫し創造する能
力の育成に効果的な実践がなされていない現状がある。
本県では、これまでの「学力向上主要施策」への意識調査や全国学力・学習状況調査の結果を踏まえ、
平成 24 年度に「夢・にぬふぁ星プランⅢ」がうちだされている。その取組の重点の1番目に「キャリア教
育の視点を踏まえた『確かな学力』の向上の推進」が掲げられ、その意義として「学習意欲の向上」
、「学
ぶ意義や働く意義を実感させる授業」などを推進している。これを受けて「生物育成に関する技術」の内
容においても、地域との連携を円滑にし、職業観や勤労観と関連付け、夢や希望を持たせる学習活動を指
導計画に意図的に取り組んでいく必要がある。
本校ではこれまで「生物育成に関する技術」において、校内の学級園やプランターなどを利用し、種子
や挿し芽からの花作りなどの技能を中心に指導を行ってきた。学校周辺に畑が広がっていることもあり、
生徒は土に触れることに抵抗感は少なく、自ら植え付けた作物は大事に管理し、意欲的に栽培に取り組ん
でいる様子が見られた。しかし、これまでの指導を振り返ってみると、土づくりや管理作業を知識や技能
としては学習するものの、実習では苗植えや水やり、雑草抜きなどの単純な管理作業を行うだけの活動が
多く、見通しを持って計画的に管理し栽培することや栽培に適した土づくり等は十分な指導ができていな
かった。また、授業において工夫し創造する能力を育成する場面が少なく、思考力・判断力・表現力の育
成や、
学習意欲の向上につながる題材設定、
学ぶ意義や働く意義を実感させる授業展開が不十分であった。
そこで、地域で栽培され、工夫した栽培技術が必要なイチゴを題材として設定した。生徒自身がイチゴ
苗に適した土づくりを行い、見通しを持った栽培計画を立て、イチゴの成長の変化に応じて管理作業を行
い記録していくことで、工夫し創造する能力が育つと考えられる。また、指導計画の中でキャリア教育の
視点を踏まえることにより、更なる学習意欲の向上と学ぶ意義や働く意義を実感できるであろうと考え、
本テーマを設定した。
〈研究仮説〉
「生物育成に関する技術」の内容において、イチゴを題材とした栽培学習と、キャリア教育の視点を踏ま
えた指導を図ることにより、学習意欲を向上させ工夫し創造する能力が育つであろう。
Ⅱ
研究内容
1 実態調査
(1) 目的
「生物育成に関する技術」についてアンケート調査により、小学校での既習内容や、教師の指導
実態を把握し、指導方法や題材開発をする上での基礎資料、仮説検証の資料とする。
(2) 対象および実施期日
① 北中城村立北中城中学校1学年5クラス(男子 75 人女子 69 人 計 144 人)
実施日:平成 25 年6月 13・14 日
② 中頭地区中学校の技術分野担当教諭 32 校(有効回答 28 校)
-1-
実施期間:平成 25 年9月6~20 日
32
31
22 15
A.材料と加工に関する技術
(3) アンケート調査の結果及び考察
15
24
33
28
B.エネルギー変換に関する技術
① 生徒アンケートの結果と考察「技術
26
39
C.生物育成に関する技術 14 21
分野の4つの学習内容でどの学習内容
39
24
19
18
D.情報に関する技術
に興味がありますか」との質問に「生
(%)
物育成に関する技術」を選んだ生徒は
1番
2番
3番
4番
N=144
14%で最も少なく、最も興味の低い学
図1 どの学習内容に興味がありますか
習内容であることがわかった。まだ学
習していない段階にも関わらず、イメ
85
15
バーミキュライト
ージだけで魅力がないと捉えられてお
21
79
腐葉土
り、生徒の学習意欲を向上させる題材
92
赤玉土 8
設定が必要と考えられる(図1)。
2
98
ピートモス
「聞いたことのある土はあります
99
鹿沼土 1
か」との質問で、腐葉土、赤玉土、ピ
(%)
聞いたことある
聞いたことない
ートモス、鹿沼土では1~2割程度が
N=144
聞いたことがあると答えた。「バーミ
図2 聞いたことがある土はありますか(複数回答可)
キュライト」については 85%が聞いた
ことがあると回答し、小学校理科の発
芽実験で使用されていたことがその背
48
24
16
12
景にあり、このことから、授業で取り
(%)
N=144
イチゴ
スイカ
メロン
トマト
扱うことにより他の土についても知識
図3 育てたい果実は何ですか
を習得できると考える(図2)。
「育てたい果実は何ですか」
との質
75
25
問にイチゴ、スイカ、メロン、トマト
の選択肢の中から 48%が「イチゴ」
(%)
N=144
はい
いいえ
と答えた。その理由は「甘いから」、
図4 将来、生物育成の技術は仕事に生かせそうか
「おいしいから」
が多いが、
中には
「育
ててスーパーの商品と比べたい」
、
「育
てて農家の人との違いを知りたい」、
8
62
30
0
「育てた達成感を味わいたい」という
(%)
N=28
理由もあり、イチゴ栽培に意欲的な生
高い どちらかといえば高い どちらかといえば低い 低い
徒がいることがわかった(図3)。
図5 教師からみて生徒の生物育成に関する技術への
「将来、
生物育成の技術は仕事に生
興味・関心は高そうか
かせそうか」との質問で、75%が「は
い」と答えている。その理由は「自分
4
27
54
15
で育てれば買わなくて済む」、「自給
(%)
自足できるから」という答えなどがあ
N=28
はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ
った。また、「いいえ」と答えた 25%
の主な理由としては「将来は農業をや
図6 生物育成に関する技術の指導に満足できているか
らないから」、「別の夢があるので関
表 14
係ないと思う」
という理由が多く、自分の職業選択の1つとは捉えていないと考えられる
(図4)
講演 。
会後
以上の生徒アンケートから、本研究ではイチゴを題材に栽培学習を行うなかで、キャリア教育
のア
の視点を踏まえた指導を取り入れることにより、生徒の学習意欲を高め、工夫し創造する能力を
ンケ
育てることを目指す。
ート
② 教師アンケートの結果と考察
にお
中頭地区技術担当教師に「教師からみて生徒の生物育成に関する技術への興味・関心は高そう
ける
か」との質問で、70%が「高い」、「どちらかといえば高い」と答えた(図5)。本校と同様に、
生徒
の感
生徒は食べられる野菜や果実の方に興味があるように感じている。また、「生物育成に関する技
想例
術の指導に満足できているか」との質問で、69%が「いいえ」、「どちらかといえばいいえ」と
答えた(図6)。その理由として栽培する場所が無い事や評価についても課題があるとしている。
以上の教師アンケートから、本研究では生徒の興味・関心の高い果実であるイチゴ栽培をす
るうえで、生徒の工夫が見られる土づくりや一人一鉢の工夫栽培に取り組む。また、ワークシー
トや栽培計画表と記録表の作成により、学習評価にも役立てる学習指導を目指す。
-2-
2 理論研究
(1) 技術・家庭科における工夫し創造する能力と実践的な態度について
中学校学習指導要領技術・家庭の目標に「進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を
育てる」とあり、それは「習得した知識と技術を積極的に活用し,生活を工夫したり創造したり
する能力と,実践しようとする意欲的な態度を育てることをねらいとしている」と示され、工夫
し創造する能力育成は、「生活をする上で直面する様々な問題の解決に当たり,今まで学んだ知
識と技術を応用した解決方法を探究したり,組み合わせて活用したりすること,それらを基に自
分なりの新しい方法を創造することなど,実際の生活の中で生かすことができる能力と態度が重
要である。」とされている(図7)。これを踏まえ、本研究の具体的な指導にあたっては、生徒
自らが生活で生かせる能力と態度を持つために、実践的・体験的な学習活動をとおして獲得した
知識が、工夫し創造する能力を育て、生活の自立につながるような学習活動の場が必要と捉えた。
生
活
(で
実生
践か
的せ
なる
能
態力
度と
)態
度
実践的・体験的な学習活動
知
識
・
技
術
・応用した解決方法の探究
・組み合わせて活用
・自分なりに新しい方法の創造
工夫し創造する能力の育成
(問題解決能力)
図7
生
活
の
自
立
技術・家庭科における工夫し創造する能力が育つ過程
(中学校学習指導要領解説 技術・家庭科編を参考に作図)
(2) 中学校技術分野の「生物育成に関する技術」の変遷について
中学校技術分野において「生物育成に関する技術」の指導は、学習指導要領の改訂と共に大き
く変化している。表1に示すように、現在の学習指導要領では必修となっているが、それ以前 20
年間は教師による選択「栽培」として取り扱われていたため、栽培場所の確保の難しい学校や栽
培の指導経験に乏しい技術教諭らは生徒の関心も高く、社会的に必要性があった情報基礎などを
選択し実践する学校が多かった。
今回必修となった「生物育成に関する技術」については、選択として取り扱われていた 20 年間
の間に男女同時履修や授業時数の削減など、形態が変わってきた。そこで、これまでの指導内容
を整理し、地域や学校の実態を考慮し、教科のねらいを十分達成できる題材設定をする必要があ
る。(学習指導要領解説・P72(3)題材の設定)
表1
改訂
年度
昭和
52 年
平成
元年
必修
「木材加工」・「金属加工」・「電気」・「機械」・
「栽培」・「情報基礎」を必修として指導する。
選択
「木材加工」・「電気」は必修として指導する。
「金属加工」・「機械」・「栽培」・「情報基礎」は、
教師が2つ選択し指導する
3年間の
授業時数
1 年:70
2 年:70
3 年:105
-(家 20-35)
計 225-210
1 年:35
2 年:35
3 年:105
計 175
名称
栽 培
栽 培
「生物育成に関する技術」の変遷について
学習指導要領の技術分野での取り扱い
平成
10 年
作物の栽培
選択
「技術とものづくり」・「情報基礎」の内容を指導
する。
「作物の栽培」は「技術とものづくり」の学習項目
の1つで教師が選択して指導する
平成
20 年
生物育成に
関する技術
必修
「材料と加工に関する技術」・「エネルギー変換
に関する技術」・「生物育成に関する技術」・「情
報とコンピュータに関する技術」を指導する
男女の
履修形態
備 考
男女別
・情報基礎が加わる
・男子は 20-35 時間程
度家庭科を行う
・男女同時履修への試
行期間
1・2年は、
男女同時
3 年は
男子のみ
・男女同時履修により、
技術分野の指導内容
が削減
1 年:35
2 年:35
3 年:17.5
計 87.5
男女同時
・授業時数の削減
1 年:35
2 年:35
3 年:17.5
計 87.5
男女同時
・授業時数は変更ない
が、指導内容の増加
(3) 技術分野の学習とキャリア教育の視点について
① キャリア教育について
中学校キャリア教育の手引き(平成 23 年 3 月)第1章第 1 節では、キャリア教育の重要性が
叫ばれるようになった背景として、子どもたちが育つ社会環境の変化に加え、産業・経済の構
造的変化、雇用の多様化・流動化等が要因としてあると述べられている。よって、「子供たちは
-3-
理想となる大人モデルが見つけにくく,現在の不安定な社会環境の中にうまく将来の自分像を
描くことができず,希望をもって生きることが容易ではなくなっている」としている。そこで、
キャリア教育の定義として、「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や
態度を育てることを通してキャリア発達を促す教育」であると述べられ、将来が不安な状況下
でも、子どもたちが希望を持って自立し、未来を切り開くことができるように、各教科におい
て取り組みが求められている。
② 「生物育成に関する技術」におけるキャリア教育の視点
平成 21 年に国立教育政策研究所から出された「中学校教員向けキャリア教育推進用パンフレ
ット」において、キャリア教育の視点を「将来の社会的自立・職業的自立を念頭に置きながら,
子供たちの成長や発達を促進しようとする見方をもつこと」と答えている。中学校においては小
学校で身につけた能力や態度を土台に社会と自己のかかわりやこれからの生き方について考え、
卒業後の進路を主体的に選択・決定できるように支援していく視点が求められている。
よって本研究では、
「生物育成に関する技術」の学習指導において、学習したことと社会との
かかわりについて、根拠のある選択・決定させる様々な実習を継続的に行うことで、キャリア教
育の視点を踏まえ、工夫し創造する能力を育てることができると考える。
そこで、中学校キャリア教育の手引き第3章第4節の各教科における取組の「基礎的・汎用的
能力」の育成に特に関連する技術分野の指導内容の例を参考に、その能力と「生物育成に関する
技術」の指導内容との対応表を作成した(表2)
。これをもとに、題材の指導計画の中で職業観
や勤労観と関連付けて意図的に取り組んでいく必要がある。
分野/
能力
技
術
分
野
関
す
る
技
術
生
物
育
成
に
題
材
指の
導
計
画
表2 技術分野の指導内容と基礎的・汎用的能力との対応表
人間関係形成・
自己理解・自己管理能力
課題対応能力
キャリアプランニング能力
社会形成能力
○ 技術が生活の向上や産 ○ 緻密(ちみつ)さへのこ ○ 目的や条件に応じて設計・計 ○ 技術にかかわる倫理観や新
業の継承と発展に果た
だわりや忍耐強さなどを
画できる。
しい発想を生み出し活用し
している役割や,環境
育てる。
○ 情報手段を主体的に選択し
ようとする態度をはぐく
との関係について考え
活用する。
む。
る。
○ 職業観や勤労観をはぐくむ
○ 環境に対する負荷の軽 ○ 社会的、環境的及び経済 ○ 計画に基づき、適切な資材や ○ 作物の成長・収穫の喜びを
減や安全に配慮して栽
的側面などから、育成期
用具を用いて、合理的な管理
体験するとともに、これら
培方法を検討しようと
間などを比較・検討し、
作業ができる。
に関連した職業についての
する。
目 的 と す る 作 物 の 成 長 ○ 成長の変化をとらえ、育成す
理解を深める。
に適した管理作業など
る作物に応じて適切に対応
を決定する。
を工夫する。
○ 植物工場の専門職員に ○ 育成期間などを比較・検 ○ 計画に基づき、適切な資材や ○ イチゴの成長・収穫の喜び
よる講話から、環境に
討し、ミニトマトやペチ
用具を用いて合理的なイチ
を体験するとともに、イチ
対する負荷の軽減や安
ュニアの成長に適した
ゴの定植方法を実践できる。 ゴ栽培の成果と課題を多方
全に配慮した栽培方法
管理作業を実践できる。
面から考え、まとめて表現
を考える。
する。
※技術分野に関しては中学校キャリア教育の手引き(H23 文部科学省)より抜粋
③ 地域教育資源(人材)の活用について
本県では、平成 24 年度に学力向上主要施策として「夢・にぬふぁ星プランⅢ」がうちだされ、
小・中学校における施策推進の取組において、キャリア教育の視点を踏まえた教育課程の編成と
して、授業の単元の内容を検討し、「地域教育資源」の位置付けを行い、「学ぶ意義」や「働く
意義」を実感させ学習意欲の向上を図るとしている。
本研究では、人材活用を「地域教育資源」として位置付け、題材であるイチゴ栽培の専門家に
栽培方法を直接学ぶことで、扱う品種の特徴や管理作業方法の理解を深める。また、植物工場の
専門職員による講話を行い、先進的な農業技術のしくみを知り、生活と環境に与えるプラス面、
マイナス面の影響を思考させることで、
学習意欲の向上と自分の職業観や勤労観についての理解
を深めることを目指す。
3 素材研究
(1) 栽培に適した土(土壌改良材含む)の学習指導
① 良い土の状態(団粒構造)の見分け方
土を手のひらに乗せて握り、おにぎりを作るように固める。固めた土を指で突くと簡単に崩れ
る土が団粒構造と言われる良い土である。イチゴに適した土づくりに向け、良い土の状態を手軽
に調べる方法として、
直接体験を行い団粒構造の土に関する知識をより確かなものにする
(図8)
。
-4-
土を手のひらへ乗せる
土を握る
手を広げる
土を指で突くと崩れる
図8 団粒構造の見分け方の手順
② 土の性質一覧表について
一般的な培養土に使用される代表例を、ワークシートへ性質ごとに分類し特徴を一覧にして示
した。土の性質について知識を習得し、生徒がイチゴに適した土づくりを行う際の基礎資料と
する(表3)。表は主に後藤逸男著「基本からわかる土と肥料の作り方・使い方」を参考にした。
表3
性質名
土の性質一覧表(赤玉土・鹿沼土・腐葉土・ココピート・ピートモス・パーライト・バーミキュライト)
特
徴
赤
鹿
腐
コ
○
○
○
○
○
○
○
△
○
通気性
土の中にすきまがあり、根が酸素を吸収できる土
保水性
水分を適度に蓄え、必要に応じて植物に供給できる土
排水性
水分を溜めすぎず、余分な水を排出できる土
○
肥料成分を保持し、植物の根に効率よく肥料成分を供給できる土
△
ほ ひせい
保肥性
※
△
△
ピ
○
パ
バ
○
○
△
○
○
○
○
○特に優れている、△やや優れている
③ ジップ付きポリ袋を使った土の観察
土づくりを行うにあた
・透明の袋なので大きさ・色・形が容易に観察できる
り、各種土を透明なジッ
・薄い袋なので実際に触っている感覚に近い
プ付きポリ袋に入れ、各
・容易に袋を開けて匂い等が確認できる
グループ分準備し観察を
・中身を乾燥や湿気から守ることができる
することにより、各種土
・握ったり落としても破損せず、管理が容易
の持つ性質が実感を伴っ
て理解できる。その観察
図 9 観察用土入りジップ付きポリ袋
方法は図 9 に示す特徴が確認できた。
④ 簡易型保水・排水測定実験
良い土とは、保水・排水のバランスが優れていることを視覚的に理解させるために、土の保水
性、排水性について、リサイクル土(※)を含む3種類の土を用いて排水の様子を観察させた。
実験は、加工したペットボトルに測定したい土 250gを入れ、軽く押し固める。
次に水 200mL を注ぎ、下部から滴り落ちる水の様子や量を観察・記録する(図 10)
。
(※リサイクル土とは、学校で栽培が終わった後のプランターの土を指す)
【材料・道具】
A.保水性・排水性の悪い土(リサイクル土)
B.保水性が高い土(ピートモス)
C.保水性・排水性を兼ねた土(Aに赤玉土、パーライトを配合した土)
2L ペットボトル、生ごみ用網(100 円ショップ)、カッター、輪ゴム
【作成方法】
・ペットボトルのキャップを外し、注ぎ口部分を折りたたんだ網で包む。
・ペットボトルを半分に切り、上部を逆さまにして下部へ差し込む
A
B
C
図 10 簡易型保水・排水性測定器の作成と実験のようす
⑤ 工夫し創造する能力を育てる土づくりの指導
培養土のブレンドの割合は幾通りもあるの
で生徒に自分なりの工夫をさせやすい。生徒
はこれまで学習してきた土の性質や特徴をも
とに、根拠を持って自分なりの割合を考えて
設定する。その後グループによる話し合いで
お互いの考えを伝え合い、自分の考えやグル
ープの考えを発展させて、実習に向けた割合
を最終決定する。ワークシートに、個人の割
合とグループで決めた割合について根拠を持
-5-
事前に学習した知識を踏まえて
ブレンドの割合を設定させる
なぜ、そのブレ
ンドにしたの
か理由を示す。
リード文を付けて、書き出しやすく工夫する
図 11 生徒の工夫を促すワークシートの例
って記録させることで、工夫し創造する能力を育む。さらに生徒の実態に応じてワークシートを
工夫し、リード文を付けて書き出しやすくするなど、本研究における全ての検証授業において、
効果的、且つ継続的に活用することで、生徒の工夫し創造する能力を育てたい(図 11)
。
⑥ 教室内外の環境整備
沖縄の夏季に屋外での作業は、熱中症の危険や虫刺され、雨天時の対応など、安全面の懸念と
生徒の栽培学習への意欲低下につながることが考えられる。可能な限り屋内での学習と実習が行
えるよう、教室内外の環境整備を行った(表4)
。
表4 栽培学習における教室内外の整備の様子
栽培に関する掲示物と実物提示
各種用土の整理
方法とねらい
生徒が栽培に興味・関心を持てるよ
うに、土や肥料について種類や使用
方法、環境に与える影響などを提示
した。また、掲示内容と同じ実物を
手前に並べ、理解を深めさせた。
方法とねらい
土づくりの作業を効率よく行うた
めに、ブレンドする各種用土を色
分けしたバケツに入れグループご
とに棚に並べた。バケツには用土
名を表示し、一番上のバケツに計
量用のミニスコップを準備した。
栽培場所の整備
方法とねらい
陽当たりと風通しの良い栽培場所
として校舎3階の屋根のない広場
を利用した。ブロックを並べその上
に足場板を置き、全生徒の鉢が置け
る場所を作った。同階に栽培者の1
年生の教室があり、管理が容易。
(2)栽培計画表と栽培記録表について
① 栽培計画表
イチゴの生育期間と、管理作業の知識を習得させるために栽培計画表の作成を行った。計画表
には教師があらかじめ管理作業の様子をヒントとして示しておき、生徒はインターネットを利用
しイチゴに必要な管理作業を調べ、栽培計画表に記入を行う(図 12)
。
② 栽培記録表
生徒の栽培は「工夫栽培」として教師の行っている「通常栽培」と比較しながら記録を行う。
教師用の通常栽培は水やり以外の管理作業をしていないため、生徒の方が確実によい成果をあげ
ることができる。また、通常栽培と比較することで、自らの栽培に対して学習した知識と技能を
組み合わせて活用したり、自分なりに新しい管理作業を創造するなど、工夫し創造する能力の育
成の場となる(図 13)
。
実習前に作成
実習ごとに記録
〈工夫栽培〉
自らの栽培を教師の
栽培と比較して記録
〈通常栽培〉
教師の栽培を記録
教師があらかじめ
示しておく
記入例
比較する
生徒個人で決めたブレンドの割合
を、次回グループで再検討する
実際は手書き
図 12 栽培計画表
工夫と予
定を記録
図 13 栽培記録表
(3) イチゴについて
① イチゴ栽培の特徴
イチゴは定植から収穫までの栽培期間が短く(約5か月)、健全な生育を目指すために、土づ
くり・定植・休眠・管理・結実・収穫の至るところで技術が必要である。また、繰り返し収穫が
できるので、自分の求める良い実をつけさせるために何度も工夫することができ、生徒の関心も
高い。さらに、ランナー(ほふく茎)で株を増やし、時季の栽培に使用できる。今回は近隣地域
でも栽培されている品種「さちのか」を本研究の題材とした(図 14・15)
。
-6-
冬場も暖かい沖縄では、県外のようにイチゴを休眠させない対策が不要であり、こうした性質
を利用し、
長期間の収穫とランナーから新しい株を増やすといったサイクルで栽培を行っている。
② イチゴに適した土と管理について
イチゴを育てる土は排水性のある土壌か用土がよく、栽培場所は午前中に長く陽が当たる風通
しの良い場所が適している。本研究では、学校のリサイクル土に、ココピート、ピートモス、赤
玉土、パーライト(図 16)を組み合わせた生徒独自のブレンドの割合を、さらにグループで検
討・決定し定植する。その後、校舎屋上の日当たりと風通しの良い場所で栽培していく。また、
プラスチック製の鉢を使用し、急激な気象の変化を受けても容易に移動できること、生徒が収穫
後の持ち帰りが可能な利点を生かす。
ランナー
ランナーが定着
図 14 株からランナーが出る様子
図 15 ランナーで新しい株を増やす様子
図 16 市販の培養土の原料
③ 本校で行ったイチゴ栽培の手順(1 人分)
材
料
培
養
土
作
り
定
植
イチゴ苗(1 株)、角深 19 型プラスチック製の鉢(1 個)、軽石、排水性の良い培養土※1
※1 本校では、リサイクル土(4 割)、赤玉土(2 割)、ココピート(2 割)、ピートモス(1 割)、パーライト(1 割)をブレンドした。
栽培手順や管理方法について
注意事項・指導の工夫
〈教室内でグループによる活動の場合〉
①培養土の原料となる土を、バケツなどの容器に分けて準備する。
②原料となる土の割合を決め、机上のシートで混ぜ合わせる。
③鉢に排水性の良い培養土を、1/3 程度入れる。
④苗をポットから取り出し、クラウン※2 にかぶらないように、鉢の8~9割程度の土
を入れる。※2 株の根元は「王冠」の形をしていることからクラウンと呼ばれる。
⑤かん水
(水やり)
⑥追肥
⑦わき芽処理
管
理
作
業
※イチゴはバラ科な
ので、市販の「バ
ラの土」を使用可。
⑧ランナー処理
⑨摘葉
作
業
の
様
子
より排水性を高める場
合は軽石を底へ敷く。
クラウンは成長点なの
で、土で埋めない。
葉裏に泥水がつくと
病気になりやすい。
・定植から2週間後と開花後に、化成肥料(10-10-10)を与える
液肥の場合は、薄めて
・株元から7~8㎝離して、6粒程度を軽く押し込む。
1週間に1度与える。
耳かきなどで、かき取
・クラウン周辺から生えるので、養分を集中させるため随時取り除く。
るように取り除く。
子株を増やす場合は、
・クラウンから生えるランナーは、養分を集中させるため根元から随
2番目以降のランナー
時取り除く。
を使う。
・土の表面が乾燥したら、根元にゆっくり、たっぷり与える。
・枯れた葉は、養分を集中させるため根元から随時取り除く。
・柔らかい筆などで花の雄ずい(周辺部花粉)、雌ずい(中心部)をや
さしくなでる。
・目標が「大きいイチゴの収穫」なら、一果房あたり 5~7 果に調整す
⑪摘果(花)
る。調整は 7 果目以降の花や実を、摘果(花)する。
・陽当たりと風通しが良い場所を選び、花を太陽に向けて置く。
⑫栽培場所
・観察や管理作業が行いやすい場所を選ぶ
・イチゴに発生する主な病害虫は、ウドンコ病、ハダニ、アザミウマ、
アブラムシなどで、対策として鉢にネットをかける。
病害虫防除
・カタツムリや鳥、ネズミなどへの対策としては、イチゴの実に袋類
をかぶせる。本校では CD を鉢の上にぶら下げて効果をあげた。
・東村、中城村、宜野座村などでハウス栽培され「いちご狩り」やジ
ャムの生産を中心に経営されている。今回は宜野座村農業後継者等
沖縄県における
育成センターの職員から助言を受け、定植から収穫までを行った。
イチゴ栽培
・沖縄では 11 月始めに定植し、約 1 か月後に花が咲き、その約 25 日
後に収穫できる。5 月頃まで収穫することが可能である。
③培養土作り
⑥定植
⑩人工授粉
そ
の
他
リサイクル土の大粒の
塊は、ほぐしてブレン
ドする。
に設
従定
いし
混た
ぜブ
るレ
ン
ド
い
よ
う
に
植
え
る
クラウンの
拡大イメージ
-7-
ク
ラ
ウ
ン
を
埋
め
な
奇形果実にならぬよう
晴天時の朝に行う。
栽培の目標に応じて、
摘果する。
特に午前中の陽当たり
を重視する。
農薬を使用する場合は
植物由来(でんぷん等)
の市販品を使用するな
ど環境に配慮する。
大量に苗を必要とする
場合には、2ヶ月以上
前に予約をする必要が
ある。
⑫人工授粉
な
で
る
よ
う
に
行
う
筆
な
ど
で
2
,
3
回
(4) トマトやペチュニアを使った演習授業
イチゴ栽培に関する用語や材料・道具の使用法及び、管理作業の演習をトマトやペチュニアを
代用して行うことにより、初めてのイチゴ栽培に向けて、培養土のブレンド、定植、追肥に関す
る管理作業について技能を習得させた(表5)
。
表5
演習の様子
作業
トマトの誘引・脇芽取り・追肥
ペチュニアの種まき
ペチュニアの移植
形態
グループで1鉢
個人で8粒
個人で2ポット
・専用ひもによる誘引と園芸ハ
サミを使ったわき芽取りを
行う
・1gの化成肥料を量って追肥
・水で希釈した液体肥料の追肥
・セルトレイへ種まき用培養土を
入れ、ピンセットによる種まき
を行う
・種が動かないようにスプレーで
ゆっくりとかん水する
・各種用土をブレンドして花
用の培養土を作り、育苗ポ
ットへ入れる
・ピンセットを使い、セルト
レイから育苗ポットへ苗を
移植する
様子
内容
(5) 実習ビデオの制作と活用
実習を行う際に、教師が制作したビデオで実習方法を紹介し、生徒の関心を高めると共に、よ
り理解を深め、効率よく作業ができるように、実習前に活用した(表6)
。
イチゴの育て方
内容とねらい
実際に、生徒たちがイチゴ栽培の専門
家から、イチゴの育て方を学んだ様子
を紹介。沖縄でのイチゴ栽培の歴史か
ら、収穫に至るまでのイチゴの成長過
程と管理作業の理解を促す。
表6 授業で活用した実習ビデオの一覧
培養土の作り方
内容とねらい
培養土を作る際のブレンドの様子を
紹介。シート上で、各バケツに入った
各種用土を、スコップや手を使って土
の塊をほぐしながらブレンドしてい
く様子を見せ、作業工程の理解を促
す。
定植の方法
内容とねらい
定植において、鉢底石や土の量などを
始めに紹介する。また、クラウンを埋
めないように土を丁寧に入れていく様
子を見せることで、イチゴの特徴を踏
まえた、工夫した定植であることを伝
える。
(6)キャリア教育の視点を踏まえた学習指導
① ワークシートの工夫
授業において使用する全ワークシートに学習
内容と社会や生活とのつながり、加えてキャリ
イチゴ栽培の良い面を書く
ア教育の視点を踏まえた項目を設け、生徒に記
述を求める。生徒は学習内容から、栽培技術の
プラス面やマイナス面を考えることで、その技
イチゴ栽培の課題を書く
術を評価し活用する能力を養う(図 17)。
また、学習内容と自分の価値観をもとに、根
拠のある選択・決定させる課題を与えることで、
キャリア教育の視点を踏まえ、工夫し創造する
学習内容と自分の価値観
能力を育てることができる。
を踏まえて書く
② 人材(地域教育資源)を活用した学習
ア イチゴ栽培の専門家による指導
図 17 ワークシートにおけるキャリアに関する項目
大規模な施設を見学しながら沖縄でのイチゴ
例
栽培の苦労や発展の歴史、イチゴの育て方を専門家から直接聞くことにより、学ぶ意義、働く
意義を感じて学習意欲の向上が期待されキャリア教育の視点を踏まえた学習指導を行うこと
ができる(表7)
。
-8-
イ 植物工場の専門職員による講話
植物工場についての講話では、
植物工場が我々の社会や生活にどのようにかかわっているか
を専門職員から学び、働くことが生活と環境にどのように影響するのかについて考え、将来の
自分の職業観や勤労観をイメージすることができる(表8)
。
表7
人材
人材を活用した学習
イチゴ栽培の専門家
植物工場の専門職員
様子
イチゴ栽培における専門家から管理作業の直接指導を
受け、授業で役立てる。
目的
イチゴを育てている専門家に協力を求め、学級よりリー
ダーの生徒6名が参加。授業での実習時に6名はリーダ
ーとして活動した。
形態
植物工場に携わる専門家による講話をとおし、植物
工場の環境面や経済面におけるプラス面、マイナス
面について学ぶ。
パネルディスカッション形式でプレゼンソフトを活
用しながら講演する。また、実際に工場で栽培され
た野菜を試食して、市販の野菜との比較をさせる。
(7) 技術分野の3カ年の指導計画
中学校学習指導要領技術分野において、「内容の各項目に配当する授業時数及び履修学年につい
ては、地域、学校、及び生徒の実態に応じて、各学校において適切に定めること。
」となっている。
内容項目ABCDについての時数は、下記のとおり学習する題材に応じて配当数を振り分けた
ものである(表8)。
表8 3年間を見通した指導計画
時
間
1
学
年
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35
ガ イ ダ C 生 物 育 成 に 関 す る 技 術 ( 13h)
ンス
(1)生物の生育環境と育成技術
A
(2)生物育成に関する技術を利用した栽培
(1)
A 材 料 と 加 工 に 関 す る 技 術 ( 20h )
(2)材 料 の 特 徴 と 加 工 方 法
( 3 ) 材料と加工に関する技術を利用した製作品の設計 ・ 製 作
「工夫栽培をしてみよう」
(2h)
D情報 (7h)
B エ ネ ル ギ ー 変 換 に 関 す る 技 術 (18h)
C生物育成に関する技 術 ( 10h)
2
(1)コンピュータの 基 本 構 成
(1)エ ネ ル ギ ー 変 換 機 器 の 仕 組 み と 保 守 点 検
(1)生物の生育環境と育成技術
学
年 ( 2 ) 情 報 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク と 情 報 ( 2 ) エネルギー変換に関する技術を利用した製作品の設計・製作 (2)生物育成に関する技術を利 用した栽培
モラル
D 情 報 に 関 す る 技 術 (17.5h)
3
(1)情 報 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク と 情 報 モ ラ ル
学
(2)デ ィ ジ タ ル 作 品 の 設 計 ・ 制 作
年
(3)プ ロ グ ラ ム に よ る 計 測 ・ 制 御
※上記指導計画の留意点
ア A(1)は 3 年間の学習の見通しを立てさせるためのガイダンス的な内容として、必ず第 1 学年の初めに履修させる。
(中学校学習指導要領 技術・家庭科より)
イ 「生物育成に関する技術」については当該地域の気候や学校及び生徒の実態に応じて適切に配置する。
ウ A(2),(3)及びBの学習内容は製作実習に多くの時間を必要とするため、単学年に集中し負担とならないよう、学年を分けて履修する
ように配置し、なおかつ製作実習の基礎である「材料と加工に関する技術」を先に配置して、工具や機械の使用方法なども併せて指導する。
Ⅲ
1
2
指導の実際
題材名「工夫栽培をしてみよう」
(C 生物育成に関する技術 (2)ア)
題材設定の理由
(1) 題材観
「生物育成に関する技術」が現行の学習指導要領から必修内容となっている。ここでは生物育
成に関する基礎的・基本的な知識及び技術を習得させるとともに、生物育成に関する技術が社会
や環境に果たす役割と影響について理解を深めそれらを適切に評価し活用する能力と態度を育成
することをねらいとしている。
小学校では、理科や総合的な学習の時間などに色々な植物に関する学習が行われているが、観
察・実験を主体としている。ここでは「イチゴに適した土をつくり、定植してみよう」と題して
「土」について知識を習得し、栽培する作物に応じた土づくりを実践し、計画的な栽培を行うこ
とで、工夫し創造する能力を育成していく。
-9-
(2) 生徒観
本校においては小学校での経験を踏まえ、栽培の学習でインパチェンスの花を挿し芽で増やし
プランターなどで栽培する授業を展開してきた。生徒は土や肥料に対する抵抗も少なく、ヘラや
クワ、スコップなどといった農具も無難に使いこなすことができている。生徒アンケートから 80%
が栽培実習において花や野菜類より果実類の栽培に興味があると回答したが、実際に実が成って
いる状態を見たことのある生徒は 54%と少ない。また、校区内には多くの畑があり、身近に農業
を目にする場面があるものの、
「将来生物育成に関する技術は仕事に生かせそうである」と回答し
た 75%の理由の大半は「自給自足できるから」
、
「自分で育てれば買わなくて済む」とし、将来に
おける「生物育成に関する技術」の知識や技能について必要性を感じていないように思われる。
(3) 指導観
本校においては授業で生物育成ができる畑は少なく、陽当たりや、水やり等の管理場所として
も様々な制限があり、学年全体が露地栽培をするには厳しい環境である。そのため、一人一鉢の
栽培実習を行うことで、天候や学校の環境に応じて管理場所を自由に設定できると共に、生徒個
人の創意工夫を生かせる授業展開を行う。
また、栽培に適した土づくりでは、生徒独自でブレンドした培養土を使い、地域のハウスでも
栽培されているイチゴを育てることで、学習意欲の向上と学んだ知識を確かなものにしていく。
そして見通しを持って学習を進めるために作成した栽培計画表と記録表を使い、確実な成功体験
とより良い栽培を目指すなかで、工夫し創造する能力の育成を図る。
3 題材の指導目標
栽培学習において、土づくりを実践し計画的に栽培することと、キャリア教育の視点を踏まえた
指導を図ることにより、学習意欲を向上させ工夫し創造する能力を育てる。
4 題材の評価規準
生活や技術への関心・意欲・態度 生活を工夫し創造する能力
生活の技能
生活や技術についての知識・理解
・栽培技術の課題を見つけ、社会 ・栽培に最適な土について ・栽培計画をもとに作 ・作物の成長段階に応じて肥料を
的、環境的、及び経済的面から
数種類から比較・検討し
物の成長を踏まえ、
与えるなどの育成技術や、それ
比較・検討しようとしている。
、工夫してブレンドした
資材や用具を用いて
に必要な資材、用具、設備につ
土を作ろうとしている。 定植を実践できる。
いての知識を身に付けている。
5 題材の指導計画と評価計画
時
間
学習内容
ねらい
【関】関心・意欲・態度 【工】工夫し創造する能力 【技】生活の技能
学習活動
評価の観点
(★キャリア教育の視点)
関 工 技 知
○ 市販の土袋にある商 ○
品説明からその土の
特徴を知ることがで
2 土の観察
きる。
(2) 学習と実験
○ 土の性質を理解し、ま ○
とめることができる。
色々な種類の土の名称
と特徴を調べる。
ワークシート①
pH 観察
◎
実験をとおして土の性
質を調べる。
イチゴに
2 適した土づ
○ 色々な資料を活用し、 ★
(6) くりと定植
イチゴの成長を踏ま
(本時)
え定植の実践ができ
る。
計画に基づき、適切な資
材や用具を用いて合理
的なイチゴの定植方法
を実践できる。
(課題対応能力)
- 10 -
評価規準
土の種類を知り、それぞ
れの特徴を理解し、まと
めようとしている。
実践観察
土の性質を調べ、理解し
○ 土の性質実験 て ま と め る こ と が で き
る。
ワークシート② 培養土について理解し、
目的に応じてブレンドし
て作ることができる。
○
イチゴについて協力して
調べ、まとめようとして
いる。
栽培計画表
イチゴの生育条件を理解
し、資材や用具の活用を
◎
念頭に栽培計画を立てる
ことができる。
ワークシート③ イチゴに適した土につい
実践観察
て数種類から比較・検討
栽培計画表
し、工夫してブレンドし
作ろうとしている。
○ 花 の 培 養 土 を ブ レ ン ○ 花の種をトレイに蒔き、
ドして作ることがで
その移植用に培養土を
きる。
作る。
○
培養土につ ○ ペアで話し合い、協力 ○ PCを活用し、ペアでイ
2 いての学習
して調べ、まとめるこ
チゴについて調べ、まと
とができる。
める。
(4) と栽培計画
表の作成
○ イ チ ゴ の 生 育 条 件 を ○ 調べ学習を基にイチゴ
理解し、栽培計画表が
の栽培計画を学校の現
完成できる。
状を踏まえて作成する。
○ イ チ ゴ に 適 し た 土 を ○ 各種用土をグループで
工夫してブレンドし、
検討し、工夫したブレン
作ることができる。
ド割合でイチゴに適し
た土を作る。
評価方法
【知】知識・理解
◎
実践観察
栽培記録表
○
栽培計画表を活用し、イ
チゴの成長を踏まえ、資
材や用具を用いて定植を
実践できる。
2 肥料につい
ての学習と
(8)
実践
2 管理作業の
(10) 学習と実践
1 色々な栽培
方法の学習
(11)
○ 市販の肥料を観察し、 ○
特徴を知ることがで
きる。
○ 肥料の3要素の特徴 ○
について理解できる。
○ 栽培する植物に合わ ○
せた施肥ができる。
○ 色々な管理作業の名 ○
称や手順、道具の使用
法が理解できる。
○ ミニトマトの誘引、摘 ★
心、摘芽などの管理作
業ができる。
ペチュニアの移植が
できる
○ 生物育成に関する技 ★
術が生活にどのよう
に生かされているか
知ることができる。
色々な種類の肥料の名
称と特徴を調べる。
ワークシート④
肥料の種類を知り、それ
ぞれの特徴を理解してい
る。
実践観察
栽培する植物に最適な施
肥を検討し、実践できる。
作物の成長段階に応じた
管理作業についての知識
を身につけている。
適切な資材や用具を使っ
て目的とする作物の管理
作業を実践できる。
◎
肥料の3要素について
調べまとめる。
施肥の時期と分量や方
法を調べ、施肥を行う。
色々な管理作業の名称
と手順、用具の使用方法
を調べる。
育成期間などを比較・検
討し、目的とする作物の
成長に適した管理作業
を実践できる。(自己理
○
ワークシート⑤
○
実践観察
◎
解・自己管理能力)
植物工場の講話から環
境に対する負荷の軽減
や安全に配慮した栽培
◎
方法を考える。
(人間関係
ワークシート⑥
栽培技術の課題を見つ
け、社会的、環境的、お
よび経済的面から比較・
検討しようとする。
形成・社会形成能力)
〔このあとは、イチゴの成長の様子を踏まえ、必要に応じて授業を行う〕
2 収穫と
まとめ
(13)
○ 繰 り 返 し 収 穫 し な が ○ 生育状況を観察しなが
らイチゴの育成技術
ら栽培計画の変更があ
を実践できる。
れば、記録表へ記入す
○ 通常に販売されてい
る。
る イ チ ゴ と 大 き さ や ○ イチゴ苗を観察しても
値段、味など比べまと
らい専門家の評価を受
めることができる。
ける。
○ イ チ ゴ 栽 培 の 成 果 と ★ イチゴの成長・収穫の喜
課題を考え、自らの価
びを体験するとともに、
値観でまとめ、発表で
イチゴ栽培の成果と課
きる。
題を多方面から考え、ま
とめて表現する。
(キャリ
実践観察
糖度計観察
成長の変化を的確にとら
え、摘果、ランナー取り
などの育成技術を実践
し、目標の実の大きさや
甘さを達成しようとす
る。
ワークシート⑦
イチゴ栽培の成果と課題
を社会的、環境的、およ
び経済的面から考え、ま
とめて表現できる。
○
◎
アプランニング能力)
6 本時の学習指導(5・6/13)
(1)本時の主題「イチゴに適した土を作り、定植してみよう」
(2)指導目標
○イチゴに適した土を工夫して作ることができる。
○イチゴ苗の適切な定植が実践できる。
(3)本時の評価規準
【評価の観点】
評価規準
【生活を工夫し創造する
能力】
イチゴに適した土につい
て数種類から比較・検討
し、工夫してブレンドし
作ろうとしている。
【生活の技能】
栽培計画表を活用し、イ
チゴの成長を踏まえ、資
材や用具を用いて定植を
実践できる。
A 十分満足できる
イチゴに適した土について
理解し、検討した上で色々
な土のブレンドを工夫して
作ろうとしている。
判断の基準
B おおむね満足できる
イチゴに適した土につい
て理解し、色々な土をブ
レンドして作ろうとして
いる。
栽培計画表を活用し、イチ
ゴの成長を踏まえ、適切に
資材や用具を用いて、合理
的に定植を実践できる。
栽培計画表を活用し、イ
チゴの成長を踏まえ、資
材や用具を用いて定植を
実践できる。
C 支援の具体的方法
イ チ ゴ に 最 適な 土 に
ついて、色々な土をブ
レ ン ド し て 作れ る こ
とを伝える。
栽培計画表を活用し、
イ チ ゴ の 成 長を 踏 ま
え、資材や用具を用い
て 定 植 実 践 でき る こ
とを伝える。
評価方法
行動観察
行動観察
栽培計画表
(4)本時の展開
展開
導
入
(10)
生徒の活動
指導上の留意点
教材・教具
評価方法
○ はじめのあいさつ
○ 前時の確認:イチゴ
の調べ学習と栽培計
画表について
○ 出席確認
○ 前 時 の 確 認 を 通 し て 、本
時の学習内容につなげ
る。
・技 術 フ ァ イ ル
フ ァ イ ル 、ワ
ークシート
の準備
- 11 -
キャリア
教育の視点
○ 本 時 の 学 習 目 標 を 知 ○ 本時の学習を知らせる。
る。
本時の目標:イチゴに適した土を工夫して作り、定植してみよう
展
○ グループ協議で土の
割合を決定する
○ 割合決定の理由につい
ても記入を促す。
○ イチゴの定植方法に
ついて確認する。
○ 手順をワークシートで
確認後、動画で示す。
○ イチゴに適した土の
ブレンドをグループ
で行う。
○ 効率よくブレンド作業
ができるように必要な
道具をグループで協力
し準備させる。
○ 鉢へ定植する。
○ 定植に時間がかかるグ
ループを支援する
○ 定植した様子を絵や
文章で栽培記録表へ
記入する
○ ス ケ ッ チ は 簡 単 に 、文 章
はスケッチを補足する
ように書かせる。
・ワ ー ク シ ー ト
○ ワークシートに学習
での工夫を書く。
○ 計画から変更して工夫
できたことを書かせる。
・栽 培 記 録 表
○ ワークシートの記入
から数名発表する。
○ うまく発表ができない
生徒への支援をする。
・ワ ー ク シ ー ト
ワークシー ト
・技 術 フ ァ イ ル
・栽 培 記 録 表
・栽 培 記 録 表
開
(70)
・パ ソ コ ン
・電 子 黒 板
・ビデオカメラ
・栽 培 計 画 表
・ワ ー ク シ ー ト
・土 の ブ レ ン ド
と定植につい
ての動画
・各 土 壌 改 良 材
・角 深 19型 鉢
・イ チ ゴ 苗
・ス コ ッ プ
・養 生 テ ー プ
・マ ジ ッ ク
行動観察
行動観察
(各準備係
りの動き)
栽培記録表
ワークシート
行動観察
まとめ:学習内容から工夫したことを発表しよう
○ 本時の学習内容を振
り返りワークシート
の※「キャリア」の
項目を読み、感想を
書く。
ま
と
め
(20)
○ 次時の学習内容を確
認し鉢を屋上へ移動
する。
Ⅳ
○ 学 習 内 容 を 振 り 返 り 、ワ
ークシートをまとめら
れ る よ う 支 援 す る 。ま た
、「 キ ャ リ ア 」 の 項 目 に
ついて近い将来を考え
ながら感想を書くよう
に促す。
○ かん水することを伝え、
移動させる。
計画に基づ
き適切な資
材や用具を
用いて、合理
的な管理作
業ができる
<課題対応
能力>
※「キャリ
ア」の項目
「イチゴ農
家はプロと
して管理作
業をしてい
るが、中学生
はどこまで
プロに近づ
けるのか?」
仮説の検証
(アンケートについては検証授業を行った2学級の 70 名とする)
1 栽培に適した培養土作りを通して、工夫し創造する能力が育ったか
事後アンケートより、
「各課題において工夫
33
37
24 6
を考えることができたか」との質問に 70%の
N=70 (%)
生徒が「はい」
、
「どちらかといえばはい」と
はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ
答えた(図 18)
。また「イチゴの培養土作り
図 18 各課題において工夫を考えることができたか
で、自分の考えをグループで話し合ったこと
は良かったですか」との質問に 96%の生徒が
「はい」
、
「どちらかといえばはい」と答えた
64
32
22
(図 19)
。生徒のワークシートの記述例より、
N=70
(%)
はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ
培養土のブレンドの割合を設定した際に、
「イ
チゴ苗は排水性の良い土を好むので、保水性
図 19 培養土作りで、グループでの話し合いは良かったか
のある赤玉土は入れずに、排水性のあるパー
ライトを多く入れた」と記載され、学習した苗の性質や土の特徴を自分なりに組み合わせて活用する
など個人での工夫が見られた。その後のブレンド割合を最終決定するグループの話し合いでは、
「パー
ライトは使わず、その分、保肥性のあるピートモスを入れた」と、設定を変更していることから、予
想や仮説についてグループで議論を深める事で、より高次の解決策に至ったと考えられる。
- 12 -
よって、ブレンド割合が幾通りもある培養
○個人設定での記述
土作りは、
個人やグループによる検討を経て、 ・イチゴ苗は排水性の良い土を好むので、保水性のある赤玉土
工夫し創造する能力の育成につながったと考
は入れずに、排水性のあるパーライトを多く入れた。
えられる。
事後アンケートの感想からも、
「グループ
○グループ設定での記述
でよく話し合うことで考えが変わったり、新
・イチゴ苗は排水性の良い土を好むので、ココピート、赤玉土
しいアイディアが生まれたりしたから良い土
を多くし、赤玉土と性質が重なるパーライトは使わず、その
が作れた」と述べられ、グループでの話し合
分、保肥性のあるピートモスを入れた。
い活動は、工夫する場としても効果的である
○ワークシートの実際
左側でブレンドの割合設定
と生徒自身も実感している(図 20)
。
し、右側でその理由を記述
2 栽培記録表を通して、工夫し創造する能力
が育ったか
栽培記録表の生徒の記録に、通常栽培では
放置された「ランナー」に気付き、記載され
○事後アンケートの感想
ている。また工夫栽培では「食べてみると少
・自分はこうした方がいいと思っても、グループでよく話し合
し固い」と、品種の特徴などが文章や絵で記
うことで考えが変わったり、新しいアイディアが生まれたり
されている。これにより教師の通常
したから良い土が作れた。
栽培と生徒の工夫栽培では、同時に定植した
図 20 割合の設定に関する、ある生徒の記述の変化と感想
にも関わらず、土や管理作業の工夫により生
育の比較が確認できた。さらに、変更点と次
回の予定には、
「2回目はあまり摘果せずたくさん実を取る」など、1回目の収穫を参考に計画を変更
した記述があり、目標に応じて意欲的に工夫していく態度も見られた。以上のことから、栽培記録表
は工夫し創造する能力の育成に効果的であったと考えられる(表9)
。
表9
時期
管理作業
栽培記録表に記された生徒の記録例
通常栽培(先生の栽培)
工夫栽培(生徒の栽培)
(作物の状態を文章や絵で書く) (通常栽培と比べ、文章や絵で書く)
絵
で
記
さ
れ
て
い
る
ラ
ン
ナ
ー
に
つ
い
て
文
と
比較する
記
さ
れ
て
い
る
品
種
の
特
徴
が
記
さ
れ
て
い
る
変更点と次回予定
工今
夫回
がと
記次
さ回
れの
て摘
い果
るの
3 ワークシートの「キャリア」の項目を通して、工夫し創造する能力が育ったか
全授業のワークシートに設定した「キャリ
37
41
20
2
ア」の項目について「学習内容と社会がつな
N=70
(%)
がっていることを実感するのに役立ちました
はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ
か」との質問に 78%の生徒が「はい」
、
「どち
図 21 ワークシートの「キャリア」は、学習内容と社会がつ
らかといえばはい」と答えた(図 21)
。全授
ながっていることを実感するのに役立ちましたか
業のうちワークシート③、⑥、⑦において学
習内容と社会のつながりを実感し、具体的な
15
49
36
ワークシート③
工夫について、A:十分満足できる、B:お
42
35
23
ワークシート⑥
おむね満足できる、C:支援を要する、に分
5
69
26
ワークシート⑦
類し割合を算出した(図 22)
。授業当初のワ
A:十分満足 「学習内容と社会のつながりを実感し、具体的な工夫について記述がある」
ークシート③ではAが 15%で、Bが約半数の
B:おおむね満足 「具体的な工夫について記述がある」
49%を占めているが、授業終盤のワークシー
C:支援を要する 「無記述や不明瞭な感想などの記述がある」
N=70 (%)
ト⑦では、Aが 54 ポイント上昇し 69%に達
図 22 「キャリア」の項目に関する感想の記述内容の割合
し、Bが 23 ポイント、Cが 31 ポイントそれ
ぞれ減少し 26%、5%の結果となった。このことから、学習内容と社会とのつながりを実感させる指
導を継続していくことで、具体的な工夫を盛り込んだ記述が増え、工夫し創造する能力の育成に効果
- 13 -
的であったと考えられる。ワークシート③、
⑥の「キャリア」の項目には、
「仕事探しに生
かす」
、
「生産過程をよく知る」
、などの記述が
あり、学習内容が将来の社会的自立・職業的
自立に向けた態度の育成にも役立ったといえ
る(図 23)
。
さらに、ワークシート⑦では授業で行った
・イチゴ用培養土のブレンドは、栽培条件に合った土を良
図 23 「十分満足できる」に分類された生徒の感想
いとこ取りするので、人に合った仕事探しに活かせると
感じた 例
(ワークシート③)
・不安全な食べ物もあると学んだ。安全な野菜を選んだり、
これからは生産過程をよく知ることも必要だと思う。
※原文のとおり記載
(ワークシート⑥)
図 23 「十分満足できる」に分類された生徒の記述例
グループによるイチゴ栽培のプラス面、マイ
ナス面の話し合いが、経済面や環境面などか
ら考察され、その後の「あなたはイチゴを買
学習した栽培の良い面が書かれている
いますか、育てますか」という問いについて
の判断材料となった(図 24)
。それを踏まえ
学習した栽培の課題が書かれている
て個人の価値観でイチゴを「買う」
・
「育てる」
を理由付けて選ぶことができたことは、これ
学習内容と自分の
価値観が踏まえら
までに本研究の授業において、生徒に根拠の
れて書かれている
ある選択・決定させる様々な課題を、キャリ
ア教育の視点を踏まえた指導を継続的に行っ
てきたことで、工夫し創造する能力を育てる
ことができたと考える。
4 人材(地域教育資源)の活用で、工夫し創
図 24 ワークシート⑦の「キャリア」に関する実際の記述例
造する能力が育ったか
植物工場の専門職員による講話後のアンケ
44
50
42
ートにおいて、
「植物工場のプラス面、マイナ
N=70
(%)
はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ
ス面が理解できて、これからの生活に生かせ
そうですか」との質問に 94%の生徒が「はい」
、 図 25 植物工場のプラス面、マイナス面が理解できて、
これからの生活に生かせそうですか(N=70)
「どちらかといえばはい」と答えており(図
25)
、ほとんどの生徒が栽培技術のプラス面と
・直接、専門家から話を聞くことで植物工場のことがよく
とマイナスとなる部分についても興味・関心
わかり、LEDの光の種類を変えてどう育つか実際に知
を持って記述できていた。
りたくなった。(興味・関心)
感想からも、太陽光発電の利用や節電によ
・植物工場での電気代を太陽光発電から利用したり、他の
る改善についての記述があり、多くの生徒が
場所の節電で補うことが必要と思う。(工夫・創造)
興味・関心を持っていた。
よって地域で働く栽
・ 図 26 講話後のアンケートにおける生徒の感想例
培の専門職員から、具体的な工夫や課題面を
直接聞くことは、自分の立場を踏まえ、他者と協力・協働して社会に参画する人間関係形成・社会形
成能力を身に付ける場となり、そこで植物工場の課題となるマイナス面について自らのアイディアを
示すなど、工夫し創造する能力を育てることができたと考えられる(図 26)
。
Ⅴ 成果と課題
1 成果
(1) 栽培する作物に合った培養土作りは、幾通りも方法があり、個人やグループで話し合うことで工夫
し創造する能力を育てることに効果があった。
(2) 栽培計画表と記録表は、作物の生育環境の変化や成長の変化に応じて対応できる基礎資料となり、
生徒が意欲的に工夫し創造しようとする能力を育てることに効果があった。
(3) キャリア教育の視点を踏まえた指導は、学習内容と社会とのつながりを実感させ、生徒に根拠のあ
る選択・決定させる課題を継続的に与えられたため、工夫し創造する能力を育てることに役立った。
2 課題
(1) 授業で使用する資材の予算案作成や資材の運搬など、事前準備を計画的に行うことが必要である。
(2) 生徒が学習内容と社会がつながっていることがわかりやすく理解でき、
工夫し創造する意欲が湧く
ようなキャリア教育の視点を踏まえた課題が必要である。
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〈主な参考文献〉
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―技術立国ニッポンの将来のために― 東京書籍
中村祐治ほか 2013 次に,これだけは「技術の評価・活用」 学習指導と学習評価の実際
―技術立国ニッポンの将来のために― 東京書籍
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2013 イチゴつくりの基礎と実際 (社)農山漁村文化協会
後藤逸男
2012 イラスト 基本からわかる 土と肥料の作り方・使い方 家の光協会
北尾倫彦ほか 2012 観点別学習状況の
文部科学省
評価規準と判定基準[中学校技術・家庭] 図書文化
2011 中学校キャリア教育の手引き
国立教育政策研究所 教育課程研究センター 2011
評価基準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料【中学校 技術・家庭】
加藤幸一ほか 2011 新しい技術・家庭 技術分野 東京書籍
国立教育政策研究所 2009
仲里研一郎
中学校教員向けキャリア教育推進用パンフレット
2009 「問題解決能力を育む学習指導の工夫」~栽培計画の作成を通して~
『沖縄県立総合教育センター 研究集録』 第47集
文部科学省
2008 中学校学習指導要領技術・家庭編
文部科学省
2008 中学校学習指導要領解説技術・家庭編
矢部和則
2001 NHK 趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 イチゴ
〈参考 URL〉
沖縄県教育委員会 学力向上施策-夢・にぬふぁ星プランⅢ
http://www.pref.okinawa.jp/edu/gimu/jujitsu/shisaku/ninufua/index.html(2014/03/10 アクセス)
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http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/1306815.htm(2014/03/10 アクセス)
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http://www.yasashi.info/i_00005g.htm(2014/03/10 アクセス)
かんたん!わかる!家庭菜園初心者ガイド
http://www.kanri-seikatu.com/(2014/03/10 アクセス)
住友化学園芸 e グリーンコミュニケーション
http://www.sc-engei.co.jp/index.html(2014/03/10 アクセス)
初心者でも簡単!家庭菜園の作り方
http://www.redpython.net/(2014/03/10 アクセス)
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