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個人・ピア・グループの形態における第二言語発達のプロセス ダイナミック

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個人・ピア・グループの形態における第二言語発達のプロセス ダイナミック
The Japanese Society for Language Sciences
JSLS 2016 Conference Handbook
個人・ピア・グループの形態における第二言語発達のプロセス
ダイナミック・アセスメントに基づく作文能力の評価から
髙宮優実(アラバマ大学バーミングハム校)
Dynamic assessment of L2 writing development
across individual, peer, and group contexts
Yumi TAKAMIYA (University of Alabama at Birmingham)
Abstract
This paper reports on a study involving three interrelated stages of mediational activity within the Dynamic Assessment (DA)
framework. Developed as part of an advanced L2 Japanese writing course, the model comprised the following: teacher-student
sessions, peer group activities, and whole-class review of recurring errors. Analysis of the recorded and transcribed sessions
indicated the value for learners of encountering their own errors in each context and to collaboratively discuss and correct
occurrences of similar errors in their peers’ writing. The findings also underscored the importance of teacher expertise in
guiding interactions and preventing peer groups from moving in unhelpful directions.
1 はじめに
近年、Vygotsky (1978)が提唱した社会文化的アプローチに基づき、学習者が教師や他の学習
者との共同対話を通じて第二言語習得を進めるプロセスの理解を目指す試みが広くなされて
いる。この社会文化的アプローチの概念の枠の中から考案された評価法にダイナミック・ア
セスメント(以下、DA)がある(Lantolf & Poehner, 2004, 2014) 。本稿では、米国の日本語上
級作文コースの評価に DA を取り入れた実践について報告する。
2 先行研究
Luria (1961)は、ある特定の問題やタスクを学習者が自力で解決したか否かによって「発達
(development)」の水準を測り、評価するのではなく、学習者が他者とインターアクションを行
い、他者の援助を通して学習内容を内化し、言語として応用する能力をも評価する際に考慮
に入れる必要性があると主張した。これは社会文化的アプローチの基本概念の一つである発
達の最近接領域(zone of proximal development; 以下、ZPD)が基になっている。ZPD とは他者の
力を借りてできることは、次第に一人の力でできるようになる可能性があることを示した概
念である。DA では教師は学習者に質問したり問題を指摘したり例を示すといった形で助言を
与え、その結果も考慮に入れた上で、適切な援助があれば解決可能になる水準を評価する。
この教師の媒介により、問題の所在が正確に特定され、学習者をより第二言語をコントロー
ルできる方向へと導くことが可能になる。つまり、DA では、評価場面を学習の機会と捉える
こ と で 、 試 験 そ の も の に よ っ て 言 語 的 発 達 を 促 す こ と が で き る の で あ る (Sternberg &
Grigorenko, 2002)。一方、第二言語教育において DA を実施する際は、従来、教師と学習者 1
対 1 の形態で行われることが主流であったが、Guk and Kellogg (2007)や Poehner (2009)、
Poehner,
Infante and Takamiya (2015) は、さらに対象を広げ、グループの形態で実施する可能性につい
て言及している。グループ活動は、
「教育改革(progressive educational reforms)」(Egan, 2004)の
考えに基づくと、学習者の自律性を促す効果があり、特に第二言語学習では目標言語を使う
機会を増やすことに繋がる。だが、グループでの DA の実践は、現在までほとんど行われてお
らず、この形態での発達のプロセス解明には至っていない。そこで本研究では、教師と学習
者 1 対 1(段階 1)、学習同士でのピア(段階 2)、クラス全体(段階 3)という段階を追った DA を
実施し、インターアクションにおいて観察された発達のプロセスについて報告する。
3 実験
実践は、米国東部の大学の上級日本語作文コースで行われ、7 名の学習者が参加した。学期
を通じて 4 回の作文が課題として出され、
それぞれの作文について 3 段階の DA が実施された。
まず、段階 1 では、学習者は作文を教師の前で音読し、教師の助言を受けながら主に文法と
語彙の間違いを訂正をした。DA では、教師は Aljaafreh and Lantolf (1994:471) による「助言の
ためのスケール(Regulatory Scale) 」を用い、インターアクションを通じて暗示的なものから
明示的なものへとフィードバックを与えながら言語的発達を促そうと試みた。これは、発達
が進むにつれて、教師からの助言を必要とする段階から自らの力で訂正ができる段階に移行
するという ZPD の概念を考慮すると、発達を促す媒介となる助言も、より介入の度合いの少
ない暗示的なものから明示的なものへと変化するべきであると考えられるためである。スケ
ールの詳細は図 1 のとおりである。T とは教師 (Tutor) を、L とは学習者 (Learner) をさす。
0.
T は L に、面談の前に作文を読んで間違いを見つけ、自分で修正するよう指示する。
1.
1の作業を T のいる前でさせ、協働で修正作業をする可能性がある状態であることを指摘する。
2.
間違いが含まれているセンテンスを強調する。
3.
T は特定の箇所に問題がある可能性があることを指摘する。例:
「この文には何か間違いがありませんか。
」
4.
T は L が誤って間違いを認識した場合に指摘し、否定する。
5.
T は間違いのある部分の範囲を狭めて指摘する。例:T は間違いのある部分を繰り返す。
6.
T は間違いの種別を指摘するが、間違いを特定しない。例:
「この文には時制の間違いがあります。」
7.
T は間違いを特定し、指摘する。例:
「ここで助動詞は使えません。」
8.
T は L の誤った訂正を否定する指摘をする。
9.
T は L が正しい形に直せるような助言を与える。例:
「それは過去ではなく、現在も起こっていることです。
」
10.
T は正しい形を与える。
11.
T は正しい形を使うための説明を与える。
12.
T は L が正しい解答をするための 11 までの助言が失敗した場合に、正しい形での例文を与える。
図1 助言のためのスケール (Regulatory Scale)
次に段階 2 では、間違いの多かった文法・語彙の項目ごとに学習者の作文から間違いを含
む文章を抜粋したパケットを作成し、2-3 人の学習者同士で協働で間違いを修正、理由を説
明・確認しあう作業を行った。最後に、段階 3 では、学習者が共通して間違う項目を取り上
げ、教師主導のもと、クラス全体で修正とその理由説明を行った。すべてのデータは録画・
録音後に文字化され分析に用いた。
4 結果と考察
ここでは 2 つの例を紹介する。1 つ目の例は、
「最近書いた小説は人間の最近の意見を表す
と思います。
」という文を書いた学習者 A の、
「書いた」という能動態の部分を「書かれた」
と受動態に修正するまでの過程である。学習者 A は、1 対 1 の DA において、教師からの助言
で受身に直すべきだということに気づいたものの、その後挙げた修正候補は「書けた」
「書か
った」
「書ける」等で、自らの力で正しく修正することができなかった。その後のインターア
クションの中で、教師によって「私の財布は(盗まれた)
」
「私のケーキは(食べられた)」等、
受身を学習した際に学んだ典型的な例文の状況設定のみをヒントとして挙げられると、
「盗ま
れた」
「食べられた」と受身の部分を正しく言うことができた。その後、教師に作文中の誤用
であった「書く」の受身はと促されると、学習者 A は「書かれた」と自ら正しく修正するこ
とができた。その後のクラス全体での DA では、学習者 A 本人が別の作文で書いた「神道は
命のために使わせ、仏教は死去のために使わせます。
」という文章について、二箇所の使役形
「使わせ」を「使われ」という受身に直さないといけないことについて自ら指摘し、その理
由も正確に説明できるようになっていることが観察された。また、他の学習者の作文中に現
れる受身に関する間違いも、次第に正確に指摘、修正できるようになった。さらに、4 回の作
文を通じて、回数を経るごとに、受身に関する間違いが減っていくことが観察された。
「私はそのような日本語があるTシャツがあります。
」という文
2 つ目の例は、学習者 B が、
章について、
「ある」を「書かれた」と受動態に修正できるようになるまでの過程である。ピ
アの学習者とどのように修正すればいいか話し合っている段階では、
「ある」が同じ文章に 2
回出てくることが間違いであろうという点までは推測することができるのだが、学習者同士
の力のみではどのように修正すればよいのか、具体的な解決策を導くことはできなかった。
「日本語のTシャツがあります」
「日本語にあるTシャツがあります」等をピアの学習者が修
正候補として挙げるものの、学習者 B は賛同しない。その後、ピアのセッションに教員が参
加、教員によって受動態を使うべきだという助言を受けたことで、自ら形を修正する方法に
気づき、最終的に正しく言い直すことができるようになった。学習者 B は、その後のグルー
プセッションでも、同様の間違いについて正しく修正し、修正すべき理由を説明することが
できるようになったことが観察された。
以上のデータ分析により、学習者は、教師と学習者1対1のDAの段階では、暗示的なフィ ー
ドバックでは自力で解決することが難しかった間違いが、ピア、グループへと段階が進むに
つれて、間違いをどうすれば正しく修正できるか、より理解を深めていくことが明らかにな
った。また、ピアのセッションでは、それぞれの学習者の間違いを、他の学習者の作文から
抽出された文章でも、特定し、修正することがより可能となった。ここでは、協働でインタ
ーアクションを行いながら、自分の間違いと似た相手の間違いを修正していくことを通じて、
自らの問題も解決していく様子が観察された。グループDAの段階では、それまでに1対1、ピ
アの形態で課題解決のための作業を経てきていることにより、より暗示的なフィードバック
のみで問題が解決できるようなっており、学習者自身で自分の文章の間違いの理由を正しく
説明することができるようになった。このような変化は、初期の段階での教師の的確な指摘
や、ピアでの確認作業を経なければ見られなかったかもしれない。この結果を踏まえると、
予め決められた過程に沿って学習者個々の能力とは関係なく学習を進めていくのではなく、
学習者のZPDにあわせて柔軟にカリキュラムをたてていくことが重要であると言えよう。また、
ピアでの対話では、 課題解決が一部分しかできなかったり、間違った方向に進んでいったり
することもあったが、要所要所で教師が助言を与えた場合には、効果的に解決策を導くこと
ができることもわかった。つまり、学習者同士のみで課題解決に取り組んだ場合には、Donate
(1994)が提唱するように、相手から修正に必要となる情報を得る姿勢は観察されるものの、教
師というエキスパートからの助言が欠けた状況では適切な課題解決にたどり着くことは極め
て困難であることがわかる。これによりピアワーク、グループワークでは完全に学習者同士
に任せるのではなく、適宜教師が介入し、軌道修正することが必要であると言えるだろう。
5 おわりに
このように、教師の助言から学習者の力を引き出す評価法は学習者の言語的発達を促すこ
とを可能とするものであり、今後の評価法研究やフィードバック方法の研究に重要な示唆を
与えると考えられる。発表では、一連の社会文化的アプローチの流れの中で、段階を追った
DAをクラス活動に取り入れるための具体的な方法についても言及し、言語教育における評価
のあり方を考える機会を提供したいと考える。
参考文献
Aljaafreh, A., & Lantolf, J. P. (1994). Negative feedback as regulation and second language learning in the zone of proximal
development. The Modern Language Journal, 78(4), 465-483.
Donate, R. (1994). Collective scaffolding in second language learning. In J. P. Lantolf & G. Appel (Eds.), Vygotskian
approaches to second language research (pp. 33-56). Norwood, NJ: Ablex.
Egan, K. (2004). Getting it wrong from the beginning: Our progressivist inheritance from Herbert Spencer, John Dewey, and
Jean Piaget. New Haven, CT: Yale University Press.
Guk, H., & Kellogg, D. (2007). The ZPD and whole class teaching: Teacher-led and student-led interactional mediation of
tasks. Language Teaching Research, 11(3), 281-299.
Lantolf, J. P. & Poehner, M. E. (2004). Dynamic assessment of L2 development: Bringing the past into the future. Journal of
Applied Linguistics, 1(1), 49-72.
Lantolf, J. P., & Poehner, M. E. (2014). Sociocultural theory and the pedagogical imperative in L2 education. London:
Routledge.
Luria, A. R. (1961). Study of the abnormal child. American Journal of Orthopsychiatry. A Journal of Human Behavior, 31,
1-16.
Vygotsky, L. S. (1978). Mind in society: The development of higher psychological processes. Cambridge, MA: Harvard
University Press.
Poehner, M. E. (2009). Group dynamic assessment: Mediation for the L2 classroom. TESOL Quarterly, 43(3): 471-491.
Poehner, M. E., Infante, P., & Takamiya, Y. (2015). Understanding Interactional Processes of Mediating Learner L2
Development across Individual and Group Contexts. Paper presented at the American Association for Applied Linguistics
2015 Conference, Toronto, Canada.
Sternberg, R. J., & E. L. Grigorenko. (2002). Dynamic testing: The nature and measurement of learning potential. Cambridge:
Cambridge University Press.
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