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目指せ!オンリーワン企業

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目指せ!オンリーワン企業
中小公庫岡山支店 特別セミナー
(制作:岡山県)
『目指せ!オンリーワン企業』
(株)一柳アソシエイツ
代表取締役&CEO
一柳 良雄 氏
講師プロフィール
一柳 良雄 (いちりゅう よしお) 1946 年生まれ。
略歴:1968 年東京大学教養学科国際関係論分科卒後、通商産業省入省。近畿通産局長、総務審議官等を歴
任、1998 年退官。2000 年一柳アソシエイツを設立。
「一流シーズマネーファンド」ファンドマネージ
ャー、大阪産業創造館顧問、あずさ監査法人顧問、埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授等を務め
る。主な著書には、「役員室にエジソンがいたら」(かんき出版
監訳)、「一柳良雄のベンチャー実践
塾」(日刊工業新聞社)などがある。
どうも、ご紹介頂きました一柳でございます。
今日は“目指せ!オンリーワン企業!元気の出る企業経営”という事で、お話をさせて頂きま
す。皆さんのお手元には 1 枚紙で項目の書いた紙が入っていると思いますが、ちょっと欲張りす
ぎたかな、と思うのですが。1時間半、持ち時間で出来るだけ分かりやすくお話をさせて頂きた
いと思います。
先程ご紹介があったのですが私は長い間、役所、経済産業省、昔は通産省ですが、そこの役人
をしておりまして、辞めて丁度 6 年ちょっとになるのですが、私の同期で入った仲間達は、みん
な大企業とか特殊法人のトップとか、そういう所でみんな勤めております。私は当然、大企業の
就職の話があったのですが、お断りして、むしろベンチャーをやってみたいという事で、退職金
を株式会社の資本金にしまして、秘書と二人で会社を興した訳でございます。それを聞いた同期
の仲間が、「一柳、お前はバカだ」と。「やめろ。何でそんな事をするのだ。黒塗りのベンツを捨
てて、何で地下鉄を選ぶのだ」というような事を言われました。同期会で集まりましても、彼ら
は黒塗りの車でパーッと集まって来ますし、私は地下鉄、せいぜい上手くいってタクシーという
事で、会場に行くわけですが、宴会が終わった後もみんな、黒塗りの車でパーッと帰っていくわ
けです。
「一柳は本当にバカだ」と言われていたのですが、最近そういう機会がありますと「一柳、
帰りにちょっと二次会、飲みに行こう」。2、3 人の人間が、
「一柳君、君にはどうしても頑張って
欲しいのだ。君には是非成功して、大きな会社にしてもらいたい」
「ちょっと待てよ」と「昔、ダ
メだ、辞めろと言っていたじゃないか。何で今ごろ頑張れ頑張れと言うのだ。だけど、頑張るつ
もりでも中々、会社経営で大きくするというのは難しいよ」と。
「いや、君には頑張ってもらわな
いといけない。俺達の、今の天下りの環境が非常に悪くなってきた。だんだん境遇が悪いし、次
の職場というのは中々難しい。条件が悪くなる。一柳、同期で一緒に働いて飯を食った仲間じゃ
ないか。俺達が困った時はちゃんとお前、会社を大きくして俺らを面倒見ろ」と言って、
「それじ
ゃ、帰る」と言って、また黒塗りの車に乗って帰るのです。私はテクテク、また地下鉄に乗ると。
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中小公庫岡山支店 特別セミナー
(制作:岡山県)
こういうふうな状況によく出くわしておるわけでございます。
幸いにも会社を二人で設立して、今 10 人社員がいます。色々忙しくしておりまして 4 年半、色
んな形で、この混迷の時代だからこそ色々商売が繁盛するというふうな事で、今日は講演を頼ま
れました。昔は 10 万円、20 万円の講演なら喜んでいたのですが、最近は非常に忙しくなって、
「△○万円以下は受けない」と言ったら、
「どうしても前の中小公庫の講演を△万円でやってくれ
たから、それでお願いします」という事で、
「今日は△万円でやって下さい」と、破格の値段でご
ざいます。やはり、地方へ行きますと 1 日以上潰れてしまうのですね。そうすると私が 1 日幾ら
稼がなきゃいかんかとなると、10 人分の給料とオフィス代を稼ぐと言うのじゃ、なかなかこの△
万円じゃ大変なのですね。その分、今日は話のクオリティを落として喋ります(冗談ですが)
。そ
ういう事で聴いていただければと思います。
この岡山。以前、私と一緒に仕事をしていた萩原君が今、岡山市長をしておるのですが、以前
ベンチャーの交流会で来たのですが、よく調べてみますと、このベンチャー、ベンチャーと騒い
でおりますが、この起源は何と私は岡山じゃないかと発見しまして。そして萩原市長に言ったら、
「何で」とこう言うので、
「何を言っているの。桃太郎というのはこうじゃないか。桃太郎はまさ
にベンチャーですよ」と。「何でだ」と言うから、「ベンチャーというのは最初に理念が必要だ」
と。その理念というのは、やはり世の中の役に立つと言うのが非常に企業は大事なのですが、桃
太郎の理念というのは、
『悪い鬼を退治して村に平和を取り戻そう』、こういう理念があって、そ
して桃太郎が、ひとりでやはり事業をするわけにはいかん。そこで、色々仲間を募る。すると、
猿とキジと犬ですか、これが仲間になる。ところが、ただでは動かないのですね。やはり、そこ
にモチベーション、動機付け、ベンチャーで言えばストックオプションみたいなやつです。吉備
団子を目の前に吊るした。で、吉備団子をあげると動いてくれると。そしていよいよ鬼退治に行
くわけですが、これはリスクテイキングジョブですね。そして皆が、役割分担をしながら頭突き
でやり合う奴とか、噛付く奴とか、皆それで鬼を退治する。そして成果を上げる。盗まれた金銀
財宝、車に載せて帰ってくる。これはキャピタルゲインですね。こういう事で、非常にこのベン
チャーのまさにエッセンスがこの桃太郎に入っているわけでございまして。是非この桃太郎、こ
の原点、岡山にそういう事があるという事で、是非その遺伝子は引き継いで頂きたいと思います。
さて、本題の方に入って行きますが。先程、柴田会長(岡山中小公庫友の会)の話にもありました
が、景気はちょっと回復しておるが踊り場であると。全くそうだと思います。先が見えません。
支店長さんもおっしゃったように、二極化が進んでおります。勝ち組、負け組と言うやつですね。
こういう経済状況、これを最近、経済情報で「ホールインワン景気」と呼んでおります。これは
ゴルフをされる方は良く知っておるのですが、ティーショットすると、1 回で玉が穴に入ってし
まうと。つまり、通常はグリーンに乗ってパターをするのですが、
「ホールインワン景気」という
・
・
・
のは、パッとしないという景気でございまして、そういうふうな今の状況でございます。何故そ
れじゃあパッとしないのか、ホールインワン景気かと言うとやはり、やはりこれは全員が言いま
すように、昔のように先が読めなくなった。先行き不透明だと。混迷の時代だというふうに、皆
さんは思っております。まさにその通りでございます。それでは何故、混迷の時代なのか。これ
はですね、今いらっしゃるけど 5 年前の自分と、つまり 5 年前の自分に、一度自分を戻して考え
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中小公庫岡山支店 特別セミナー
(制作:岡山県)
て頂きたいですね。例えば経済の世界で、あの大銀行が、あの証券会社が、あんなにいとも簡単
に倒産するなんていうのは想像しなかったというふうな、意外な事が起こったのですね。それは
『山一證券』
『長銀』
『日債銀』と。そしてさらに、明治以来なみなみと頑張ってきたあの財閥が、
いとも簡単に『三井住友』にくっついてしまった。そんな事を 5 年前に予言した人はいなかった
と思いますし、ましてもや、私大阪なのですが、
『大和銀行』あれが、いとも簡単に潰れるとは思
わなかった。ましてもや、あの『りそな』という銀行なのですが、ちょっと余談なのですが。私
ほそ や
の友人に、『東日本 JR』、国鉄の民営化した会社の副社長している細谷さんというのが居まして、
「一柳、ちょっと夜あけてくれ。会いたい」と。なんやと話して会いますと、
「実は竹中長官、高
木長官から、
「『りそな』の国有化した後の社長、会長になってくれ。CEOになってくれ」と。
「ど
うするんだ」と。
「いや、一応キオスクの社長になっているのだけれども、やっぱり国からそうい
うのを求められたら、自分が国のお役に立つ事はやってみようと思っている」と。
「それはいいけ
ど、二つ問題があるな。ひとつはお前に能力があるかどうか分からん。鉄道経営出来ても銀行経
営はできるのか。2 つめ、お前、『大和銀行』というのは本店は大阪だぞ。特に大阪というのは、
こわい人がいて、特に不良債権は『大和銀行』
、有名な所だ。お前はそういう所に行くつもりか」
と言ったら「えっ、うそ。本店が大阪。それなら単身赴任になる。それは家族が猛反対する。そ
れなら断るわ」と言って、断るのですね。そうしたらまた電話が来て、
「一柳、大丈夫だ。何か国
有化したから本店は東京に持ってくるというから、また引き受ける」とか言ってですね、それで
・
引き受けて今、
『りそな』のCEOをやっているわけです。まあ、あれだけのど素人で、よく分か
らない人間がああいう銀行の経営ができるのかどうかと、これも私は予想もしませんでした。更
に、もうひとつ言えば皆さん、『カネボウ』が潰れる、『ダイエー』が潰れる。潰れてしまったら
どうしようもないですね。それから、
『UFJ』が、いとも簡単に『東京三菱』と経営統合、まして
もや、三井住友の頭取がちょっかいを出す。えげつないなと。要するに、どっちかと言ったら貧
乏だけど美人な女の子がいて、
『三菱銀行』が「いや、俺は持参金つけてやるから、俺のところに
おいでや」と言ったら、それの倍の持参金を用意して「俺の所に来い」と言ってですね、取りあ
いっこしていると。ああいう立派な都市銀行が、銀行を取りあいっこするという仁義無き戦いを
やるなんていうのは、誰も想像しなかった。これが自分らの目の前に起こっているのです。予想
もしない大変な事が起きていると。
これは、別の世界でもそうなのです。例えば今から、そうですね 3 年半前、自分を 4 年前にや
ってください。私も役所で割と政治の世界と係りが多かったのですが、やはり閣僚になってもあ
まり仕事をしない、派閥の閥務もあまりやらない、政治家の友達もあまりいない、そして東京に
家は無い、ゴルフ会員権も持っていない、別荘も持っていない、嫁さんも持っていない。こんな
人が総理になるなんて、絶対思わなかった。それが今、総理をやっている訳です。それからさら
に言いますと、私が通産大臣の秘書官をしていたのですけれども、当時外務大臣の安倍晋太郎の
秘書官にいたのが、安倍晋三君なのです。非常に仲良く、色々遊んでいた。ところがいつの間に
か副長官になった。そこまではいい。ところがその後、幹事長になった。いわゆる、十両から大
関になったという、これは永田町の誰もがびっくりするような世の中の変化。さらに言いますと、
私が通産省の課長をやっていた時の課長補佐で、「一柳課長、僕は政治家になりたいのだ」「お前
は向いてない。お前は学者の方が良いぞ」「いえ、絶対になりたいのです」と言うので、「どうし
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てもなりたいのだったらそれなら勉強しろ」という事で、たまたま角栄さんの秘書をやっていた
ものですから、その関係筋で、非常に良く政治の世界を分かった人を紹介した。そこで勉強をし
て、そして一応、小沢一郎の門下生で自民党で当選と。それが今、民主党の党首ですよ。岡田克
也。びっくりしますね。本来、学者の方が向いているのが政治家で野党の党首になっているとい
う。こういう予想もしない事が、身の回りで平気で起こっているというのが混迷の、先行きの見
えない象徴的な事だと思います。
次に、
「ちょっと待て。何でそんな予想もしない事が起こるのだ」と。それには理由があるので
すね。何が、理由だ。その理由はちょっと格好よく言うと、パラダイムが変わってきた。パラダ
イムというのは、我々が住んでいる直面している社会経済構造。これが変わってきたのだと。ど
ういうふうに変わってきたかというと。一言で言えば、量的成長の時代から、質的発展の時代に
変わりました。こういう事なのですね。それ行けどんどん、低価格で作れば売れる。こういう時
代ではなくなった。或いは、人よりも良い物を作ったらいいのだという、人を見てキョロキョロ
する時代でもなくなった。もっと高品質でブランドが取れるような、そして差別化して人とは違
った事をやるのだと。人の真似をして良いものを作るのじゃなくて、人と違った事をやらなきゃ
ダメだと。つまりオンリーワンを目指す。こういうのが求められる時代になって来た。組織に埋
没した人間よりも、自分の個性と独創性を発揮する人間が必要なんだと。
例えば、昔は組織に属しますと、できるだけ人のいう事は良く聞いてこいと。
「お前、あんまり
ペラペラ喋るな。みっともない」とこう言われていたのです。耳が 8、口が 2 と言っていたので
すけれども、最近は違います。
「人の言う事を良く聞いて取って来い。外国はどうなっている。こ
ういう研究開発はどうなっている」と。耳を 10 にしなければいけないと同時に、今度は自分の言
葉で人を説得するというか、理解するとか、分かってもらう為にまた口も 10 喋らなくてはいけな
い。特に難しい時代が、横文字が入ってきたり、特に IT の時代になると分かり難い。それを決断
する相手さんの人に分かってもらうためには、例え話をしなきゃいけない。例え話をするだけの
能力を持った人間を持たないと、この世の中、上手くひとりでも立ち向けない。なぜ例え話か。
本質の分かった人でないと、例え話はできないのです。教科書みたいな事をペラペラ喋っていた
って、絶対人は分かりません。そういうふうな人が求められる。別の言い方をしますと、枠の中
で考える、決められた事をちゃんとやる。こういう人はもう、あんまり要りませんと。これから
は枠を外して、そして重箱の隅を突くのではなく、重箱の形をどうしようか。それを自分の頭で
考えて、そして創意工夫を凝らして、自ら実行するような人間が物凄く求められる。これはパラ
ダイムが変わってきている、それぞれの象徴的な動きだと思います。
作る方を言いましたが、買う消費者の行動を見てもそうだと思います。昔は「人並みに美味い
ものを食いたい。家に住みたい。冷蔵庫持ちたい」どっちかと言ったら、生活を何とか上手く維
持するためのアレだったのですが、今度はだんだん人よりもちょっと良いものを持ちたい、だん
だん私だけの物だけ持ちたい。今はもっと贅沢で、自分の感性に合う感動できる物を持ちたい、
という事で消費者そのものの行動パターンも変わってきているという。これが、この時代のパラ
ダイムの変化です。
さて。それではさらに突っ込んで。そうは言うものの、そのパラダイムの変化というのは何で
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中小公庫岡山支店 特別セミナー
(制作:岡山県)
変わるのだ。それには大きな大きな世の中のこの世界的規模といいますか、そういうのが起こっ
ている潮流があるのですね。潮の流れがある。ひとつは皆さんご存知のような、グローバルゼー
ションというのがあります。これは国境は関係ありません。昔はペリーが来るのだ、黒船が来
て・・・という、そんな時代じゃない。もう、外国人が土足で平気で、自分の家庭にまで入って
くる。或いは、企業が国を選ぶような時代になってきた。
「所得税、法人税、高い。それじゃダメ
だ。本社をあっちへ移そう」というような形で、グローバル化は国境をなくしている。
2 つ目は、IT 革命でございます。これはもう皆さんご存知の通り、IT 革命というのは、情報を
取りやすくし、かつその情報を処理するコストを限りなくゼロにする。そういうふうなのに役に
立つ手法でございまして、それは例えば銀行で、昔、窓口で預金は預けるという時に、並んで姉
ちゃんの所へ行って、通帳持ってハンコ持って呼び出されたら、お金を貰った。それが ATM。ATM
だったらどう違うか。1/100 のコストで処理できるのです。スピードも上がる。そういうふうな
効果がある。これがだんだん進みますと、会社の中はどうなるか。社長が直接現場でコミュニケ
ーションをする。それをどんどん続けると情報経営ができますから、中間管理職がだんだん要ら
なくなってくる。中抜き現象。つまり、ピラミッド型から文鎮型に変わってきています。
さらにもって言えば、流通の所でこれが起きるのですね。昔はメーカーがあり、そして卸があ
って、そして問屋さんへ行って、小売店に行くと。そして消費者がいる。途中に流通業者がいて、
その間の度にそのひとつの儲け分が乗っていって、消費者は高いものを買うと。ところが今、IT
を使ってどういう事が起きているかと言いますと、メーカーが直接、消費者と取引してしまう。
そして消費者からダイレクトに注文をもらって、そして宅配便の会社を使ってお届けする。その
方が安く売れる。そういう中抜き現象が起こっているという事でございます。
さらに 3 つ目は規制緩和、或いは構造改革という事で。ニッチ市場がどんどこ出てきておりま
す。
4 つ目は技術革新。これは言うまでもありません。先程言った IT、バイオ、ナノ、エネルギー、
ロボット云々と。これもひとつの大きな社会構造を変える変化を与えてくるわけでございます。
そして 5 つ目は、知識時代の到来。つまり知恵を使わなければ、これからはあまり儲かりませ
んよ、という時代に入って来た。ある学者さんなんかは非常に分かりやすく言うのですが、
「一柳
さん、これからはもう 1 回“のうぎょう”をやらなきゃいけませんね。
“のうぎょう”やって“の
うじょう”を整備して、
“のう”産物作るのです」と言うから、「いや、こんな時代に日本がまた
農業をやるというのは大変ですよ」
「いや、
“のうぎょう”ですよ」で、話がかみあわないのです。
それが、次、
「一柳さん、もしかしたら字を間違っているのじゃないですか」「そうですよ、農業
と言うのは“アグリカルチャー”」
「違う。
“のうぎょう”の“のう”は“ブレイン”です。頭脳の
脳です。この頭脳を使う産業を育て、頭脳が集まるプラットフォームの脳場を作り、そこに頭脳
からの知恵を結集した脳産物を作るのです」という「それが大事ですよ」という話をしておりま
したが。この件については後程、知的経営という所でもう少し詳しくお話したいと思います。
もうひとつの日本で、これは東南アジア等色んな所でもそうですが、少子高齢化。これはもう
どうしようもない。老人が多くなり、若者が、子供が少なくなると。これも大きな構造変化を呼
び込んでいると。こういうふうな大きな 6 つの潮流がございます。
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中小公庫岡山支店 特別セミナー
(制作:岡山県)
さて 5 つめに話しました、知識社会の到来。知恵というのは。この知的経営とか知的財産、知
的資本、いろんな呼び方を書いております。これが非常に大変なことが起こっております。具体
的に言います。丁度、西暦が変わるといいますか 1999 年から 2000 年になる時に、大変なニュー
スが世界を走りました。それはどういうニュースかと言うと、ノミが象さんを飲み込んだと。一
体、何の事かというと、
“ノミ”というのはアメリカオンラインというベンチャー会社でございま
す。インターネットの会員制の、こういう会社が、象さんというのは『タイムワーナー』という
大きなハリウッドの、主にタイム誌とか CNN とか、メディアの王様、ハリウッドの王様、この
会社を飲み込んでしまったのです。1993 年にこの『AOL』の売上というのはせいぜい 3200 万ド
ルでございました。
『タイムワーナー』の売上は 131 億ドルと。3000 万ドルと 130 億ドルの違い
ですね、利益が全然違うと。1999 年、合併直前になりまして、
『AOL』の売上が 57 億ドル、
『タ
イムワーナー』が 235 億ドル。利益が『AOL』が 10 億ドル、『タイムワーナー』が 12 億ドル。
『タイムワーナー』の方が象さん、『AOL』の方がベンチャーで小さいです。ところが、これが
2000 年に合併した。なんと、株価の比率は AOL の方がずっと価値があって、『タイムワーナー』
の株価はもっと低くて、結局『タイムワーナー』は『AOL』に飲み込まれた。社長は『AOL』、
実質決定権は『AOL』下になると。みんな「何でだ、そんなのおかしい」と。おかしいのですね、
しかし現実に起こっていると。なぜか。有価証券報告書という目に見える財務諸表だけでは、
『タ
イムワーナー』の方が大きいのですが。目に見えない、無形資産、知的資産の部分では『AOL』
の方がぐっと良い。なぜか。将来の会社の成長、期待力、経営者の能力、そのへんがずっと『タ
イムワーナー』よりも『AOL』の方が評価されたわけですね。従って、企業価値が非常に高くな
った。そういう事で、こういう“ちびっこが巨人を飲み込む”というこういう事が起こった。
さらに、ポイントだけ申し上げますと、皆さん一番良くご存知なのは、特許の発明した人の報
酬をどうするかと言うので、最近、新聞を賑わせています。徳島県の発光ダイオード。中村さん
という教授が「払え」と裁判をして、200 億円払ったわけです。そうしたら今度は判決が「600
億円払え」と。しかし、
「請求は 200 億円だけだから、200 億円でいい。会社側は 200 億円払い
なさい」という裁判の判決が出て、物凄くもめたのです。今は色々、
『日立』とか『味の素』とか
『東芝』とか『シャープ』とか、元研究者で開発した人がみんな訴訟しています。判決もだいた
い 1 億円から 2 億円とか 3 億円、だんだん高くなっています。という事で、非常にこの知恵の値
段、成果物が高くなってきた。
もうひとつ申し上げましょう。
「この知的財産、或いは特許については経営者にはわかりにくい。
あんな専門的な事は、知的財産担当者なり弁理士なり、そういう分かる奴にやらせておけばいい
や」というのが大部分の社長さんなのですが。一部上場会社で、
『サミー』という会社がございま
す。先般、
『セガ』という会社を買収した会社でございます。その社長が里見さんという社長。こ
れは今から 2 年前の話なのですが、電話がかかってきまして、
「同業他社の『アルゼ』という会社
から、パチンコ・パチスロを作っている会社から訴えられた。そして裁判で争っている。それで、
何とか良い弁理士とかそういう分かる奴を紹介してくれ」と。で、私も相談に乗りました。とこ
ろが、地方裁判所の判決は、「『サミー』は『アルゼ』の、原告の言う通り特許を侵害している。
直ちに、賠償金を払え。金額は 74 億円」。で『サミー』の里見社長は「一柳さん、これはとんで
もない。そもそもアルゼの特許というのは無効だ」という事で、特許庁に無効申請をしていた。
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すると特許庁の方から、
「ご指摘の通り、『アルゼ』の特許は無効である」という事が出てきた。
里見社長は「勝った、勝った。これを高等裁判所に持って行って、それでうちは勝だ。向こうの
損害賠償請求なんか、不当だ」と。こう言って、高等裁判所に持っていくと、裁判所から「50 億
円の供託金、現金で入れてください」とこう来るわけですね。供託金を入れられないと、裁判で
きないのです。訴訟の損害額の 7 掛けの金を裁判所に供託しなければいけない。キャッシュで 50
億をポーンと出せる会社なんて、そんなにいないと思いますよ。出せなきゃ、裁判は終りです。
まあそれは、里見社長の所は、『サミー』は金持ちだから出した。ところがまた大変な事に、
『ア
ルゼ』が「特許庁の無効という審判は、これまたおかしい。これまた無効である」という事を裁
判所にまた訴えた。という事で、また 2 列車走っているのですよ、特許裁判が。そうしますと、
この前、里見社長が嘆いていたのが、訴訟費用だけで年間数億円かかると。トップレベルの弁理
士・弁護士の報酬とか、裁判費用とか。というほどに、知的財産権、特許、知恵というのは非常
に高い物になってきた。下手したら、会社が潰れるかもしれない。こういうふうな問題が色々、
出てきたわけでございます。そういう事で、特許もこれは重要な経営課題。同時に、国自身も知
的立国、知財立国いうのを掲げて、内閣で対策を見つけて一生懸命やっております。産学連携の
色んなプロジェクトもそういう考え方だ、と進めているわけです。日本はやはりもう少し、知恵
で付加価値を付けて儲ける国にならないと、どんどん汗水垂らして働くだけじゃ中国だとかに、
やられてしまうと言うんで、知恵を、付加価値をもっと付けようと。こういうふうな時代になっ
てきたわけでございます。
さて、後程もう少し知財の問題は触れますが。今日、経営者の人いらっしゃる中で、この大変
な変革の時期というのは、本当にどうしようかなと思う。これは試練かチャンスかという問題が
あるのですね。ちなみに恐縮ですが、こういう時代は試練だと思われる方、手を挙げていただけ
ますか。今の時代の経営は試練だと。あまりいらっしゃらない。チャンスだと思われる人はお手
を挙げていただけますか。そうですね、そうなのです。実はこの時代に閉塞感があるという事を
おっしゃる人が多いのですが、そうじゃないのです。この閉塞感は自分の心の中にあるだけであ
って、今はパラダイムが変わっているから色んな所、ひび割れニッチがいっぱい出てきているわ
けです。変化がその中に物凄いチャンスがあると思えばチャンス。逆にこれは試練でまだはっき
り分かんないと思えば慎重検討で先延ばし。結局は時代の波に付いて行けず、スピードも出ず、
最後はジリ貧になってしまうのですね。だからどうしても、これは試練かチャンスかという時に
全員皆さんは試練だと思わないで、チャンスだと思ってやって頂かなきゃいけないと。試練だと
思う人たちは、お役所と大企業なのですね。なぜか。後程説明しますが、下手に余計な事をやっ
てチョンボやったら大変だというふうな気持ちになってしまうから、慎重検討。もう少し検討し
ようと言って、せめて俺の任期だけの間は変な事は止めておこうと言って、先延ばしにしてしま
うと。逆にオーナー経営者やベンチャーは、みんなチャンスだと思ってやっております。
さてここで、その試練かチャンスかという時に、私もチャンスだと思って実はベンチャーをや
ろうとファンドを作りまして、7 社に金を入れて、いわばシーズ段階からハンズオンというか、
手塩に掛けて育てようという事で、取締役をやり、現場に入って事業計画、資金計画、販売改革
とかやった。難しいです。殆んど上手くいきません。いや、ベンチャーというのは難しい。よく
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(制作:岡山県)
考えてみますと大企業と、そういうベンチャーは、勝負のしようがないと。当たり前だと思うの
ですね。ベンチャーに無くて大企業にある物が6つある。大企業は、必ずベンチャーに勝つので
す。人、物、金、情報、ブランド、信用力、これはベンチャーにはありません。ベンチャーは何
か特別なアイデア、技術、素晴らしいノウハウ的な物、そういう物しかないのですね。所詮ベン
チャーなんて、大企業と渡り合って自由競争の世界でやっても所詮、無理だと思いました。もう
傷だらけ。ところが、おっとどっこいと。ベンチャーはそれで成功している奴がいるじゃないか。
今プロ野球見たら、みんなベンチャーですから、孫も三木谷も堀江も。何でかれらは成功してい
るのだろうかと。ベンチャーをやっていくのは無理じゃないのだという事で、色々調べてみます
と、なんと、ベンチャーが大企業に対して必ず勝つことが 3 つあるのです。これを生かさなきゃ
ダメだと。必ず勝つ事って、一体なのだと。ひとつはスピードでございます。このスピードには
2 つありまして、ひとつは決断するスピード。大企業はだいたい、最低 2 ヶ月かかります。ベン
チャー及び中小企業経営者のトップは、二日あればできます。もうひとつは、働く時間の長さで
ございます。ベンチャーで本当に一生懸命やっている奴というのは会いますと、
「もうちょっと来
いよ」と言うと、
「いえ、ちょっと。先生、私はこちらから」
「いや、こっちにこい」
「臭いのです
よ」「どうした?」「1 週間、風呂に入ってないのです。ここにずっと泊まってやっております」
と言うのですね。睡眠時間が要するに 6 時間、それ以外は殆ど働いて、土日も働くと。大企業に
はそんな人はおりません。それで、これは 3 倍のスピードで勝てる。まずスピード。
2 番目はガッツですね。情熱、夢。大企業とかそういう所では、あまりありません。特に上に
行けば行くほど、無難に無難にというのが先に立ってしまって。やはりその辺のガッツとかガ−
ッとやる気というのはベンチャーの方が凄い。
3 つ目。これは何か挑戦して失敗した時を考えると、失う物が沢山ある人というのはやはり、
慎重になってしまうのですね。良いポスト、年収、将来の子会社への天下りなり、或いは昇進の
可能性。そこで変にしくじったら、
「いやー、損だから」、だいたい減点評価と言うのが多いので、
何とか無難に無難にと。だから、あまりチャレンジというふうな事をやらないのですね。ところ
がベンチャーは違います。チャレンジ、失敗する、失う物もあまりない。失う物を持っていない
がゆえの強みというのがあるのですね。逆にいうと、失う物を沢山持っている人というのは、あ
まりチャレンジをしないです、怖いから。失敗した時のマイナスが。その 3 つというのは是非、
有効に生かしてやって行かなきゃいけないと思っております。
そういう事を考えておりますと、政治の政界で、私も色々仕えて可愛がって頂いた、田中角栄
という政治家がおりまして。この角栄さんと言うのは、言わば政治の世界でベンチャーしたおじ
ばくろう
せがれ
さんじゃないかと。新潟の貧しい博労の 倅 で、教育も無く、そして東京へ出てきて最後、総理の
ポストを、東大出の大蔵省経験で、エリートのエリート、福田赳夫と争って最後、総理のポスト
を取った。この角栄さんというのは政治の政界の、ベンチャー政治家だ。ご存知のように、今角
栄さんが居たらどうなるか。或いは、今までの歴代の総理の中で、一番誰が良かった?なんてい
うのを、電通総研がアンケート取っていましたが、やはり格段に角栄さんの人気が高いですね。
私も 1 年以上、角栄さんに色々お世話になりまして、色々教えてもらいました。立派に彼は色ん
な実績を持っています。確かに金権政治家と言って、金の面で非常にあの人はひどい人だったと。
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これは色んな意見があると思います。ただ、私が当時、田中派が総理が金権政治家で総理を辞め
て、その後、田中派という当然減っていくと思ったら、何と江崎真澄とか田村元とかみんな田中
派に入っていくのですね。
「総理も辞めて、これから総理をするというのは無いし、金権政治家で
逮捕されたのだから、当然もう金はあまり来ない。だからこれからは、ニューリーダーの方に行
ったら良い。
」そう思うのが普通であろうと思って、ある実力者の政治家に聞いたら、
「一柳くん、
君らの考えは甘いな」と言ったわけです。
「そんな穢れた、田中先生の所に行かれるのですか」と。
「あいつは悪い事はやっていないよ」と。「悪い事やって捕まったじゃないですか」「それはみん
なやっている事だよ。あいつは貰った以上に俺らにばらまいてくれている。他の政治家なんて、
みんな自分のポケットに入れているのだ。角栄は違う。みんなに、ばらまいている」とおっしゃ
っていました。良いか悪いかは別にしても、だから辞めてからも派閥が膨れてどんどん仲間が増
えちゃうのですね。不思議だったのです。
ばくろう
せがれ
さて、それはそれで置いといて。じゃあ、あの角栄さんが田舎の貧しい博労の 倅 で教育も無く、
どうして総理になるような大プロジェクト、大事業を成功させたのか。その一番エッセンスを、
一度分析してみようと。従いまして、これから喋るのはあまり本にも出ていませんけれども、私
自身の身近に聞いた角栄さんの言葉。それを先生に聞き、自分なりに理解した事でベンチャーと
いうのは一体何かというのを、一度解き明かしたい。まず最初に彼が口癖で言うのは、
『末ついに
海となるべき山水も、しばし木の葉の下くぐるなり』、というのを良く言うのですよ。ついには、
最後は海になるぞと。しかし今の間はちょろちょろと山の水で葉っぱの下をちょろちょろやって
いるけれども、最後は大きな大海になるんだと。
『末ついに海となるべき山水も、しばし木の葉の
下くぐるなり』。誰かが結婚すると、色紙に書いてプレゼントしたりして、そういうのがもの凄く
好きだった。これは何か。夢だ、と言うのですね。或いは野望かもしれません。野心かもしれま
せん。「しかし俺はこのようになってやるぞ」という夢を持っている。
2 つ目によく言うのは、私も秘書をやっていましたから、
「一柳君、異なる 3 点から情報を取ら
なきゃダメだよ」、こういう事を言うのです。これはどういう事かと言いますと、例えば今日は社
長さんが多いと思うのですが、
「俺の部下は非常に立派だ。俺より頭が良い。あいつが言っている
事は間違いないから、あいつの言い切った事は信用してパッとやるのだ」というふうな部下をお
持ちの方、或いはそういうやり方をやっている方はいらっしゃいますか。もしそういうやり方を
している人がいれば、この角栄さんの言葉によると、
「そんなのはダメ。お前、そういう事だった
ら、間違いを起こすぞ」という事を言っているのです。なぜ、間違いを起こすか。これは例えば、
コップを横から見ると長方形です。上から見た人は丸です、と言うのですね。両方とも、正しい
のですね。
あるとき私は、原子力発電所を作る立地対策室長という、いわゆる立地の地元対策の責任者に
なったことがあります。島根も行きました。上関も行きました。豊北なんて所も行ったのですが、
例えば中国電力の重役さんが、「この地点に早く説明にいって下さい」
。おおよその地点の経緯か
ら問題点からみんな書いてある。これを見て、さすがきれいにきちっと、まとめるなあ、頭いい
なと思って、そこには『漁業補償でも法外なことを漁民はぶっつけてくる。とてもじゃないけど、
話にならないくらい苦労しております』。こういうふうに書いてあるのです。そこで、地元に入る
わけです。組長さんとか色んな方とお話すると、なんと中国電力の悪口がいっぱい出てくる。
「あ
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いつらサラリーマンで偉そうにしている」とか、「我々を見下している」とか、「土日にしか我々
家にいないのに、あいつらは土日は休みだと言ってウィークディしか来ない。しかし本社には仕
事をやっていると報告しているのだからな、あいつらはアカン。心のコミュニケーションが無い」
と。まあ、こんな悪口が出てくる。それからもうひとつは、漁業組合長さんの所へ行って、
「こん
な法外な漁業補償だめですよ」と。
「国は法外な補償を認める訳にはいきません。漁業補償という
のはそれなりに相場があります。だから理事長さん、それはダメですよ」と。「いや、課長さん。
そんなのは分かっています」と。
「分かっているって言っても、あなた、中電にえらい高い要求を
言っているではないですか」と言ったら「当たり前ですよ。まだ交渉はこれからだから、最初ふ
っかけておかないと」と。ところが仮に私が中国電力だけの情報で動いて現地の状況こうだと判
断したら、
「漁業補償というのは無茶苦茶言っているのだな」というのがまずひとつですね。漁民
はひどいやつだ。
2 つ目。
「いや、何か全体に上手くいっているみたいだけれども、これは中電さんの言う通りだ」
という事になるのですが。あれだけ悪口を自治体からも周辺からも言われているとは分からない
ですね。どういう事かと言いますと、ひとつだけの情報だと都合の悪い情報は絶対にこっちへ来
ないのですよ、自分の。それからもし、他から取った情報も、利害関係がありますと、それを踏
まえて人はものを言うのですよ。歪んでいるのです。そういう事で非常に、情報というのは異な
る 3 点から取る。例えば、部下から取る。今度は競争相手なり、或いは取引先から情報が取れれ
ば取ってみる。
3 つ目は、業界紙の新聞記者に一度そういう問題があった時、
「お前ら、どういう事かね」と取
ってみる。3 つ情報をあわせますと、ひとつの情報は線ですが、ふたつ持ってくると面になり、3
つ目の情報を別の視点で取ってくると立体像が出てくる。何を言いたいか。事態を客観的に、冷
静に見つめる事ができます。これが角栄さんの教え。
人間なんて、非常に曖昧なものでございまして。今のお役所というのは厳しくて倫理規定があ
って、あまり酒を業者の人と飲んではいけないとか、畳で飯を食ってはいけないだとか、夜のク
ラブに行ってはいけないだとか、うるさいですね。私は今はもう民間人ですから、時々、昔の知
っている社長さんらが「一柳さん、飯を食おう。北新地行きましょう」という事で、行くと本当
に若い子が働いているのですよ、そういうクラブで。聞くのです、
「姉ちゃんは昼間、何をしてい
るのだ」と。
「学生」と。
「大学生か」と言うと「そう」。「お前、こんな所で働いているのを親御
さんは知っているのか」
「いや、秘密。友達の家を手伝いに行っている事になっている」と。
「や
めとけ、こんな水商売のホステス。もっとちゃんとしたアルバイトがあるだろう。家庭教師とか
何か勉強するとか。もうちょっとまともになれ」と言うわけですね。そうすると、また社長が「一
柳さん、もう一軒だけ」と言って行ったら、また若い女の子が働いている。
「姉ちゃん、昼間は何
をしているんだ」と。「大学行って、勉強をしていると」言うのですよ。「あんた、大学生か」と
言うと「違う」と。「何やっているのだ」と言うと、「私はホステスをやっていたのだけれども、
これからの時代は自分で専門性を身に付けて能力をつけないといけないというので、夜はホステ
スやっているけれども、昼間だけでも勉強しなければいけないから大学に行く事にしたの」
「偉い
奴だ、がんばれよ」と言って。だけど、
「昼間学生で夜ホステス」なのは一緒なのですよ。どっち
で見るかというので全然違うのですね。これに気を付けていかないといけない、トップは。これ
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は例え話ですけれども。そういう話でございます。
さて、次に角栄さんが言うのは、『まず己のアンサーを持て、自分のアンサーを持て』。これは
どういう事かと言いますと、だいたい上から「こういう事をやれ」と言って一旦受けた部長が、
「お、この問題は課長が担当だ」と、
「課長、ちょっと来い。社長からこんなのをやれと言われて、
来週報告しないといけない。今週後半に俺の所に報告を持って来い」と、こういうパターンがあ
るのです。これはバツ。角栄さん流に言うと、
「こんな男は早くクビにしてしまえ」と、こういう
事なのですね。「なんででしょうか?」。これを角栄流に解説すると、まず社長から部長に話があ
った。もちろん、全て分かるわけじゃないのだけれども、俺ならこうするのだという、自分の中
で自分の答えを持つのですね。それで担当に発注する。これで部下は来るのですよ。3 つのタイ
プが来ます。第一のタイプ。
「部長、何か言われましたけど、どこらで調べればいいかまだ分から
ないのです、とか言って、全然作業が進んでいないのですね。どうやっていいかわからない。第
二に「部長、これどうですか」。自分の仮説、アンサーとぴたっと一致すると「おう、そうか。そ
れでいこう」と、これが二番目。三番目、
「部長、これでどうですか。これがいいと思います」
「全
然違う、おいちょっと待て」と、ここで議論するのですよ。必ずどちらかが、重要なファクター、
要素を落としている事があるのですよ。そういう時は、よりちゃんと要素を入れて考えた方の案
を取ればいい。その場合往々にして、
「相手のほうは良くわかっているな。こいつ、ここが凄いな」
とよく分かるのです。そういう 3 つのタイプがあります。
さて、これで何ができるか。ひとつは、スピードある決断ができるのです。いわゆる、みんな
で協議する小田原評定でどうのこうのなんていう検討会議で時間を取らない。スピードある決断
ができる。2 つ目、ここは大事です。自分でアンサーを持っていて、同じ答えの奴か、或いは別
の答えでも議論してやれば、上に自分の言葉で今度は喋れる。アカウンタビリティーを果たせる。
細かい所は課長に任せればいいのですけれど。基本は喋れるのです。3 つ目、部下の評価が物凄
く出来ます。A は一緒に仕事をしたらいけない人。B は「こいつ俺の代理でどこか行かせられる
な。何かの時に俺の代理で使おう」と。C のタイプ、
「こいつは俺の無い、こういう所を持ってい
るな。こういうプロジェクトの時、こいつと絶対上手く組んでやっていこうと」。そういうふうに、
部下の評価が出来る。最後に反射的に、自分の短所が物凄く見えてきますと。俺は、ここはちょ
っとやれるけれども、ここはできない。技術だったら技術ができないとか。そういう自分の短所
がわかってくる。だから、自分はもう少し全般を見れるような能力を磨こうとか、そういうふう
な事ができてくると。
さて、4 つめの言葉。角栄さんはよく、
『水は高きより低きに流れる』というのですね。閣議の
後、記者会見で私いつも呼ばれるのですが、時々ひとり言みたいに、
「水は高きより低きに流れる」
とか言うのですね。「まあ、その」とか言って。
「この人は何を言っているのだろうと、水が低い
所から上にいくはずがないと。この人はやはり高等小学校しか出ていない。僕は東大を出ている
のだ」と、こう思っていたのです。なんのなんの、「水は高きより低きに流れる」という意味は、
世の中の流れがどうなって、人の情、それがどう流れているか。それに沿うように物事を運んで
いかないといけないぞと。流れに逆らってもダメだ。こういうふうな事を言っているのですよ。
例えば、角栄先生に聞いたことがあるのですね。
「先生、教育も無く田舎から来て、自分が総理に
なって行くプロセスというのは、色々な人を自分の方にひきつけていかなければいけない。ひと
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りじゃできませんよね、先生。という事は、人を動かさないといけないでしょう。ある事業をや
る為に、この人間を是非動かしたい。どうするのですか」
。例えば、この事業のためにAさんを動
かさないといけない、こうなると、
「Aというのは金欲が強い。世の中はだいたい古今東西、金で
人が動くものだ。だから金であいつ動きよるぞ」。実際そうなのですね。金で動く人は多いのです
よ。ところが角栄さんは、
「ただな、金で動く奴は信用しちゃいかんぞ。分かるか」
「そうですか」
「もしな、外にもっとくれる人がいたら、そっちに行くからな」
「先生、ある事業やるのに、金で動かない。しかしこのBさんも力あるし、組んでやりたい。
どうしたらいいのですか」「女だ」と言うのですよ。「だいたい、中小企業のお偉いさんというの
は、金が貯まると女の所へ行くのだ」。女性の方もいらっしゃるのですけれども、事実を語ってい
るだけですので。私、意図的にセクハラ的発言ではないので、恐縮ですが。女をお世話すると言
いますか、そうすると言う事を聞くわけですよ。
「だけどな、これも信用してはいかんぞ。何でか
分かるか。他にきれいな女が出てきたら、すぐそっちへ行くからな」と言って。
「先生すいません、
これをやりたいのだけれども、この人間を・・・」。例えば今日の会長の柴田さん、「金でも女で
も動かない。しかしあの人、何とかして動かしたい。どうしたら先生、よいのですか」と。
「だい
たいお前ら役人とか大会社の役員とかはそうなのだ」と言うのですよ。「何でですか」「あいつは
な、保身しか考えていないのだ。だから恐怖をあたえるのだ。お前、こんな物が出来なかったら
出世終わりだな。お前のところの社長に言っておかないとしょうがないな」。「君はこの程度か。
君もこれで終りだね」と言ったら、
「先生、そんな事言わないで下さい。一生懸命やります」と言
って。だからその保身に入った人は、恐怖で動かします。だから皆さんもお役所で色々係わりを
持たれると思いますが、役人にお願いをしちゃダメです。
「あなた、こんなのが出来なかったら出
世も終りですね。大変ですね」と言って恐怖を与えたら、するとドキドキしますよ。私らもそれ
をやられてきたのです。逆に今やっています。もう読み筋からお役人の動きが分かるんですよ。
恐怖を与えたらピリピリっときます。そして思うのです、大企業の役員も。
「俺、社長になれるか
どうか・・・」。ただこの恐怖も最後までは続きません。恐怖は無くなると、その人はまた去って
いきますから。
さて、4 番目の質問を角栄さんにする。「先生、もしですよ。金でも女でも恐怖でも動かない。
しかしこの男となんか力を借りて、一緒にやらなきゃいけないという時はどうするのですか」
「そ
の時かい。その時は俺と一緒に寝ようと言うのだよ」
「一緒に寝るってどういう事ですか」。まあ、
角栄さんのその言葉は要するに、俺と男と男の勝負をして、男が男に惚れるかどうかという、真
剣勝負をやろうという、言わば竹中半兵衛と秀吉の関係のようですね。敵の参謀の所へ夜陰、刀
を外して秀吉が、
「竹中さん、少しお話があるのですが」と行くわけですね。竹中さんも、
「何だ、
敵の大将じゃないか。いつでも斬れる、何の用だ」
「いや、あなたは良い能力ある人だ。私も色ん
な人とやっているけれども、私と仕事してくれませんか。日本をもっと大きい良い国にしたいの
です。その為に、あなたの能力、戦略、借りたい」。竹中半兵衛は秀吉を切ることも、どっちでも
できるのです。にも関わらず、自分の命をかけ、俺の能力をここまでかってくれる、この大将の
この凄さ。惚れてしまうのですね。だから良く、「師は己を知る者の為に死す」、というふうにあ
るのですが、そういう関係を作ってしまうのですね。そうすると裏切りがないのですね。
最後に、
『籠に乗る人、担ぐ人、そのまたわらじを作る人』。これは皆さん、有名でございます。
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これは何を言っているかと言うと、要するに籠担ぎと、籠に乗る人だけを見てはいけないと。世
の中のシステム、ビジネスシステムというのは目に見えない所の物に支えられてシステムができ
ているのだと。目に見える所だけで判断してはいけないというのがひとつと、もうひとつは気配
り。そういう縁の下の力持ちを大事にしろよ。ですから角栄さんも、下足番から守衛から秘書か
らみんな、大事にしました。この角栄さんの言葉、これは実際に喋った言葉なのです。それをち
ょっと、ベンチャー経営者風にアレンジしますと、やはりプロジェクトの夢を持てと。夢と志を
まず持て。『末ついに海となるべき山水も、しばし木の葉の下くぐるなり』。2 つ目、異なる三点
から情報を取るのは、的確に客観情勢をまず把握しろよ、バイアスかかったらいけないぞ。それ
で 3 つ目に、まず自分のアンサーを持てという所ですが、常に仮説を自分で立て、そして部下や
自分の強み弱みを評価して、一緒に組む仲間の役割を良く理解しておけよと。ひとりじゃできな
いぞ、良い仲間をこしらえろよと。そして 4 つ目の、
『水は高きより低きに流れる』は、時代の変
化の潮流をよんで、そういう中で関係者との信頼関係を構築して行く。時代の流れを見ろよ、と
いう所が大事なのですが。そして最後に、感謝の気持ちを忘れんと、そして全体システムの中に、
自分が何をやるかという事を明確にして頑張れ、という事を言いたいのではないかというふうに
思います。
従いまして、リーダーの条件というのは私は 4 つだと思います。やはり夢を持つ、会社の社員
に夢を語る。次は、決断力。次に実行力。そして最後に、それを継続させる情熱だと思うのです
ね。この 4 つはどうしても必要だと。そしてそれを支える要素として、情報が取れる、そういう
勉強といいますか、それは大事な事だと。それから 2 つ目が人脈と言いますか、色んな人との信
頼関係のネットワークを作るだとか。3 つ目は、小さくても良いからここだけはひとりでできる
ぞという、専門知識、専門分野。それから 4 つ目、ここが大事なのですが、現場の体験、経験。
これが無いと、決断は空振りに終わります。最近立派に、現場を経験しながら良いリーダーにな
み た ら い
『トヨタ』の奥田さんもそうで
っている人、いっぱい居ますね。『キャノン』の御手洗さんとか、
すし、色々そういう現場を分からないとやはり、本当の勉強だけじゃダメだと。そして、最後に
思いやりというのもあります。こういう要素を持って、頑張って頂きたいと。
という事で、こういう混迷の時代に、先程、田中角栄がベンチャー政治家として何を喋り、ど
ういう事を彼は頭に描きやってきたのかというのを、これは一柳の仮説でございますけれども、
それを説明しましたがやはり、これからの時代、どういう人がリーダーとして、或いは上に立つ
上司として求められるかというのを見ますとヒントがありまして、ひとつは知的じゃなきゃいけ
ない。インテリジェンス。勉強しなさいよ、知性、もっと好奇心持って勉強して下さい。ところ
が、知的なだけじゃダメなのですね、混迷の時代は。要するに、体を張ってもらわないといけな
いのですね。まあ、大学の先生は一般論としてですよ、那野先生は違いますけれども。一般論で、
知的ではあるのだけれども、評論家なのですね。体張って、命を掛けるという事をやらないで、
すぐ研究室に逃げちゃうから。もうひとつは、それだけじゃ霧の中を一緒に行こうなんて出来な
いですから、体育会系要素がいるのです。チームワークだとか、一緒に喜び、悲しみ、苦しみを
共有して、「感動した、あの人に付いていきたい」とか、「あの人なら」という感性の部分で非常
に魅力を感じるという人間性、この知的体育会系。この知的体育会系、こういう人がやはりこれ
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から大事なのです。一方、自分は安全地帯に居て「君たち、危険な所に行け」と言われても、動
きません。一緒に体育会系として感動していけるような、そういうふうな人がこれから求められ
るのだと思います。英語では“エモーショナル・インテリジェンス”と言うのですよ。エモーシ
ョン、感動。このインテリジェンス。“エモーショナル・インテリジェンス”。
さて、だいぶ時間も来たので段々、飛ばしたりもしますけれども。先程、知的資本が大事だと
いう事を申し上げました。知的資本が大事だと、知恵の時代が来る。実際ですね、このマーガレ
ット・ブレアさんという博士がブルッキングス研究所で研究した結果なのですが。企業価値、会
社の値打ち、これは何によって構成されているかというと、目に見える資本と、目に見えない資
本がありますと。その目に見える価値とは何だと。これは有形資産という物ですが、皆さんが見
てのとおり、財務省の有価証券報告書に出てくる数字です。触って分かるやつ、見て分かるやつ、
数字に出てくるやつ。
無形資産、目に見えないやつ。これは有価証券報告書に出てこないです。何ですか。例えば、
はなわ
『日産自動車』に 塙 さんという社長さんがいて、赤字でダメで、ゴーンというおじさんがきまし
た。彼の改革で会社が凄い利益を出して、優良会社になり株価がグーンと高くなりました。つま
り、社長の能力というのは出ていないのです。企業価値の中には、社長の能力というのは、物凄
く大事なのです。しかし、それは出ていない、無形資産。社長が立派かボンクラか。これで会社
が全然違う。或いは先程、『AOL』と『タイムワーナー』の話をしました。『AOL』がなぜ良
かったか、評価されたか。2000 万人を超える立派なロイヤリティのあるお客さんを抱え込んでい
たのですね。これは物凄く評価されたというのはひとつです。それから、将来に発展する、時代
を切り開くビジネスモデルで戦略的に実行できる力を経営陣が持っていたという。これも目に見
えないです。有価証券報告書には出てこない。それが物凄く評価された。或いは、別の状況から
言えば、特許の数は分かるのだけれども、物凄い事を、モチベーションの高い、営業の優れた、
一生懸命やる社員が沢山居るとかですね。そういうのが、目に見えない資産です。これがアメリ
カで、企業価値が 1978 年に 100 の時、有形資産 83%。無形資産 17%。ところが 1998 年、約 20
年あと、同じ調査をアメリカの殆どの企業でやりますと、企業価値が 100 で、有形資産、つまり
財務省の有価証券報告書で見えるやつは 30%。目に見えない無形資産が 70%。例えば、この例
を見ていただくと、『GE』(ジェネラルエレクトリック)というのがあるのですが、ここは知恵
で稼ぐ経営戦略を物凄く強化した。具体的に知恵で稼ぐとはどういう事か。1980 年、『GE』は
売上の 85%が製品で売っていたのです。ハードで。ところが、2000 年には知恵を組み込んだ、
そういう活用をしたサービスをどんどん広げて、売上の 75%は知恵を組み込んだサービス。別名、
ソリューションとか色々な事を言われますが。製品のウエイトはドンと減らした。そういう目に
見えない色んな知的価値というのが無形資産なのですね。
それでは、なぜその無形資産が目に見える有形資産と比べて企業価値の大部分を占めるように
なったのか。これはひとつは、先程言った、法律なり色んな制度の環境が変わったのです。特許
を大事にしよう。物まねは許さないと。そういう法制度がどんどん完備して、特許を推進しよう
と。だから、特許を取りやすくすると。その代わり、権利侵害とか物凄く高くして、今度罰金を
増やす。こういう事で法律改正して、特許の侵害の罰金を物凄く高くしたのですね。それがひと
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つ。それからインターネット、IT時代になると何が変わるかというと、いわゆる高度成長期の
工業化時代というのは、この有形資産、工場とかそういう物が価値の源泉だったのですよ。しか
し、これは使えば使うほど減価したのですね。値打ちが減っていく。ところが、このインターネ
ット、情報化時代というのは逆なのですね。情報からより多くの価値が生み出される。そして、
使う人が増えれば増えるほど、情報の価値はまた上がるという。
例えばコップは、今日は 200 人にいると言ったら、200 個作らないといけない。情報なんて 1
個作っておけば 200 人でも 2 万人でも同じです。情報はそれを利用する人が 100 万人になるとコ
ストがもう一人当りで無茶苦茶安くなるのですね。だけど、コップは若干コストダウンするけれ
ども、そこまで下がらない。今度フィードバックして多くの仲間が来てコミュニティができる。
物凄くそこに情報の付加価値が高まると。幾何級数的に情報でそこで価値が取れるという。そう
いう、使い減りしないで使い増しすると言いますか、そういうふうな事になってくるのです。
3 つ目は、この知的な資本こそ、これからの成長のエンジン。或いは木の根っこ。大きな葉っ
ぱ、幹、果物、それを咲かせる、会社でいう成長と利益をもたらすもの。その為には、目に見え
ない地下のところでいい根っこを持っていないと、根が張って伸びて、いい物にならなければい
けない。これが知的資本なのですね。ここが良いと、先程言った『AOL』で経営者が非常に将
来の時代を見据えた新しい、何処にもないビジネスモデルを持って、そして良い顧客を押さえ込
んで、ロイヤリティは高い。これは物凄く財産だと。そういうふうな事で、知的財産を非常にこ
れから大事にしなければいけないというのはひとつでございまして。その中に、産学連携という
のも非常にそういう流れで大事になってきた。特に、経済産業庁が産学連携 1000 社なんて言っ
ていますが、もう 1000 社、ほぼ到達です。これよりも増えてくると思うし、さらに、アンジェ
スとかオンコセラピーとかトランスジェニックとか、色んな会社がIPOしている。これは大学
が、独立法人化するとますます、大学自身が自分で稼がなきゃいけないという事で、こういう分
野も熱心になって拍車が掛かるとは思います。企業の方からしますと、大学を活用するというの
は非常に大事な事なのですね。ひとつは特許を得るというだけではなくて、最先端の研究レベル
から色んな情報が取れる。と同時に、自分の研究開発を充実できると思いますし、さらに今ある
施設、大学の施設を安く上手く活用できる事もできますし。もう少し上手く行けば、そこで一緒
に働いた卒業生を自分の会社にそれでまた、採用できるかもしれないという。そういうメリット
があります。しかし日本は、まだまだ外国と比べると遅れております。フィンランドとか英国、
色んな事を前向きにやっております。まだまだスタートしたばかりですから、ただ出来るだけこ
の可能性を上手く使うのが、大事だと思います。大事な所をこれから申し上げますが、大学と自
分の会社が、何か共同研究をやるとか、これは昔からやっているし、そんなような大それた事じ
ゃないです。大事なのは、やはり地域の中で大学が中心になって、そしてネットワーク、これは
組織じゃない。人のネットワークをどこまで張れるかが、一番の問題でございます。ベンチャー
とか企業というのは、組織じゃございません。良い人がめぐり合える事は、中々難しい。従いま
して、大学を中心とした起業関係者のネットワーク。起業というのは企業を起こすことですね、
そういうネットワーク。例えば、調査を通商産業省がやったのですが、そういう人的ネットワー
クがあった中で、この売上を増やして行って頑張って伸びている会社と、人的ネットワークもな
く一生懸命頑張っているそういう会社と、どういうふうに違うだろうか。やはり人的ネットワー
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クを持ちながら、その中で売上を上げようという会社の方が、3 倍売上のスピードが速いと言い
ますか、売上高が高いと言いますか、効率がよいのですね。そういう事で、実際の売上に繋がっ
た例でも、やはりそういうネットワーク、人的ネットワークが非常に大事だという事でございま
す。
特に地域の大学というのは、地域経済の振興も勿論ありますけれども、やはり地域のそういう
中小企業、ベンチャーと一緒になってセミナーやカンファレンス、或いはそういう色んな経営者
研修とか色んな事をやりながら、やはりインフラの底を高めて行く、その中でいい人がネットワ
ークで結び付いてやって行くという、そういう二段構えが非常に大事だろうと思っておりますし、
現にそういう所が成功しておると。にも関わらずですよ、このやはり産学連携とか TLO とか知財
管理とかと大学で言っておるのですが、中々現実的には動いていません。難しいのです。なぜか。
これはやはりひとつは、国有財産をどういうふうにもう少し、使い勝手を良いようにするかとい
う、そのような中々まだ難しい事があったり、そこをもっと使い勝手を良くする仕方はないだろ
うかとか、大学の教員が民間会社と何か一緒にやると言っても、何か利益操作が起こるとか、授
業を放っておいて金儲けに走るのかとか、色んなそのへんのルール整理がちゃんとなされていな
いというのもありますし。もうひとつは TLO とか知財管理とか、形は上手い事作るのですが、一
番問題なのは、形ばかり作ってあって実際にはエンジンが何も入っていない。その仕組みの中で
働いている人が、何をインセンティブに、何をモチベーションに、更に頑張るのかな?と思う。
ただ言われたから、補助金が付いているからやっていますというのでは、良い物は生まれない。
そういう中身の問題が、まだあります。更には、もっと大学が現場に出、そして企業の人も大学
に入り共同で経営者幹部の養成とか、色んなそういう実務的な経営論というものも、みんなで学
んでいかなくてはいけない。日本が一番少ないのは、経営者が居ない事ですね。本当にプロジェ
クトを全体に上手くまとめて、ちゃんとやっていく人が、中々いない。そういう事でこれから若
い人がどんどん勉強されると、物凄いチャンスが色々あるな、というふうには思います。従いま
して、逆に言いますと中小企業はチャンスだぞと、やる気があってひとりで倍研究して、倍働く
と、物凄い、大企業なんかすぐ抜いてしまうような気もいたします。
さてだんだん時間が押し迫りましたが。今年の初めにたまたま、星野仙一さんという阪神タイ
ガースを去年、優勝させた監督がいまして、彼と対談をする機会がありまして、事前の打ち合わ
せとか色々彼と対談をやった所、あの人は中々、見かけよりも立派だなと思いました。やはり、
「阪神をなぜ優勝させたか」と言うと最初は、
「いや、運に恵まれました。仲間が良かったから」
とか言っているのですけれども、
「そんな話は聞いていない。あなた、どこがどうやと思ったので
すか」と。そうしたら言うのですよ。例えば、
「その今までの阪神には、何が足りなかったのです
か」。こんな事を言いましたね、「ビジョンの欠如。今までの阪神はビジョンが無かった。それか
ら集中力が無かった。緊張感が無かった。従ってビジョンが無いと、人も組織も動いていかない。
ビジョンが無いと、人は育たない」と言ってですね。そして、
「このビジョンが無いと、自分達が
生きている今の姿さえ分からなくなる」と。
「だから明確な反省点も、これから発展の踏み台、ど
の程度の所に踏み台を置くかも分からない」と。さらに言っていましたね。
「人生とは、一柳さん、
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情熱と感性です。諦めずにとことんやる事ですよ」と言っていました。さらに、
「やる前から、あ
れこれ考えてやらないで後悔するよりも、例え失敗するにしても、自分でやってみて答えを出し
てから後悔する方がいいのじゃないですか。それが人生ですよ。自分らしい人生、とことんやる
という事じゃないですかね」と。さらに、
「退路を絶った人間に怖いものはありません。人間はし
がみつくと弱くなるのです」。偉い立派な事を言っていましたね。やはりああいうふうに、実際阪
神を優勝させたという、3 年間頑張った。そのへん非常に参考になるのじゃないかと思います。
それから具体的な例として、
『資生堂』という化粧品を売っている会社があるのですが、あそこ
の今の社長の池田さんというのが、あの人ともよく勉強会で一緒によく議論していたんですが、
あの人は秘書業だったのですね。経営とか営業とかでなく秘書やっていて、突然社長になりまし
てね。あの人はクリスチャンで、「いや、これからは『資生堂』も大変だな。」と思っていたら、
ある経済雑誌を見ていたら『資生堂』の池田社長の“逆ピラミッド構想”と書いてあるのが出て
くるのですね。逆ピラミッドとは、なんだろうかと言ったら、
「要するに社長がトップにいて、重
役がいて、部長がいて、それから従業員、それから現場で販売する人がいますね。それからデパ
ートがあってお客さんがあって、こうなっていると。逆だ。私は彼らがやるために、一番下で支
える男だと。重役は俺よりも先に支えるのだ。だからお客さんが一番大切で、そこに前線で色々
化粧品を売ったりお化粧を手伝っている人、それを支える従業員。要するに、ピラミッドを逆に
した、これをやる」と。面白いから池田さんと会った時、
「池田さん。一度色々、お話聞かせてく
ださい」、「池田さん、あなた、あれ何でああいうのを思いだしたのですか」と。あの人はクリス
チャンです。最近難しい英語の経営の言葉がはやってますね。そういう事を言うかと思ったら言
わないのですよ。
「一柳さんね、お客さまの心を我が喜びとするのですよ」、えっ、と思って、
「そ
の次に、先様の喜びは我喜び、という事ですよね」。どこかで聞いた事があるなと思って。「そし
て、まず義を求めてそのあと利を得る」。ああこれは、利を追わずとか。
「要は、三方よしですよ」
ばいがん
「そうです。江戸の中期に石田梅岩がいて、
と言うのですよ。「お、石田梅岩の言葉ですね」と、
あの人のを読みました」と言うのですね。「商人道心得」と。「三方よしと言うのが一番大事。そ
れからお客様の喜びを持って、我喜びとする。従ってお客さんが一番上なのです」と。
「我々のや
る事は、ただお客さんだけに喜んでもらうわけにはいかない、喜んで貰うのだけれども、我々も
また喜ぶ。そして世間様も喜んでくれると。この三方よし。これがやはり大事だ」と言うのです。
「当たり前の事をやるようにしただけなのです」というような謙虚な言い方をするのですが、ま
さにそうだと思うのですね。あまり横文字の難しい事をなんやかんや言わず、原点で本当に何が
一番大事なんだと。だから、本当にベンチャーも、金儲けのベンチャーは崩壊します。先程の角
栄さんの話ではないですが、IT をする前にキャピタルで金儲けで、人から金を預かっているのは、
「こっちに投資した方が儲かるよ」なんて言って、途中でころっと変わって、
「こっちに儲かる物
があるよ」なんて、彼らは事業に夢を持っていないのです。金儲けの会社なのです。ベンチャー
とか中小企業は、事業に夢を持っている。そして、相手さんもお客さんも喜び、我々も喜び、世
間様も喜んでくれる、そういう貢献ができる事業。これが大事だというのを言っているわけです
ね。
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中小公庫岡山支店 特別セミナー
(制作:岡山県)
そしてもうひとつ、夢の話をしましたが。私も感銘を受けた話がありまして、これはヤン・カ
いし く
ールソンという社長が『真実の瞬間』という本の中で言っていることなのですが。二人の石工。
石工というのは石の大工さんのことですが、その話を書いています。これは、
「自分はいつもまた
胸に叩き込むのだ」と書いてあって、私も読んで感銘したのですが、平たく言うとこういう事な
のですね。石の教会、スペインのバルセロナにサクラダファミリアという石の教会がある。まだ
100 年経っても完成していないのですが、そこの二人の、石をコンコンコンコン削って教会を作
っている人がふたりいた。ひとりはまあ、Aさんとしましょう、
「Aさん。あなた今、何をしてい
るのですか」と、「いや実は、この設計図でこんな石を作れと言って来たのだけれども、この石、
いう事を聞かない。こんちきしょう」とコンコンコンコンやっている。こっちにまた、Bさんと
いう人が「あなた、何をやっておられるのですか」と。
「いや、わしは今、世界で一番美しい石の
教会の基礎を作っているのだ」と、一生懸命、石を削っているのです。遠くから見ると、ただ二
人は石を削っているだけなのです。しかし皆さん 1 年 2 年経つと、どっちのほうがより向上心が
あり自分の良い創造価値を作っているか。或いは、皆さんがもし一緒に仕事をするなら、Bさん
の方に行きますか、Aさんの方に行きますかと。こういう事なのですね。夢なのです。そういう
思いを持って物事を取り組むというのが、非常に大事なのです。
だんだん時間が迫ってきたのですが、私が非常に仲良くして且つ、非常に一緒に指導と言った
らおかしいですが、知恵出しながら頑張ってきた会社に『アスクル』という会社があります。あ
れは、注文があると明日来るという、そういう意味で『アスクル』と言うのですが。あの会社が
非常に立派だなと思うのは、“プラス”という文房具屋、“コクヨ”の競争相手。そこの通信販売
部門からスタートしたのですが、ある時プラスの製品を売物にしてきた通信販売部門が独立する
わけですけれども、一番大きなデッドヒートのケンカになったのは、お客さんが「お宅は“キン
グジム”とか“コクヨ”の物は売らないの。そんな物は無いの」と聞いてくるのですね。そうす
ると当然、「いやいや、それよりも、うちの“プラス”のものは、もっといい物がありますから」
という事で、みんなで営業とか返事を色々していたのですが。そういう事をしたら、全然お客さ
んが逃げてしまったと。だから、
「ダメだ、こういう商売は」と言って、彼はお客さんの欲しい物
は、コクヨは売ってくれないけれども、他のマーケットから引っ張ってくるのだと。儲けなくて
もいいと。損しなければ、それをお客さんに届けようと。それをやったら、プラスの親会社が怒
って、
「お前は何だ、敵のものを、お客さんに持っていくのか。お前ら俺らの販売部門じゃないか。
何を、生意気な」と、こんな事になってしまった。そうこうして、自分らの出向している人間を
みんな引き上げてしまって、結局わずかの人間が残っただけになってしまった。にも関わらず、
お客さんには欲しい物をすぐ届けた。
今、話しています。
「一柳さん、僕らの業界は何て言うのですかね。昔は販売代行業と言ってい
たけど。今は購買代行業ですよね。お客さんの右腕になって、こんな物が欲しいですと言うと、
色んな所のサプライのサイドの色んなメーカーと協力して新商品を作ってお客さんに届ける。こ
ういう事で一部上場になり非常に利益を出してもう一千数百億円の売上になっているという。ま
だ 10 年にならない、会社にして 6 年くらいですね。色んな事があるのですが、ここで一言だけ言
いたいのは、あそこの会社で偉いなと思うのが、こんな事が書いてあるのです。
『売上は、お客様
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(制作:岡山県)
の支持の現れだ』。そうですね、お客様の支持がないと売上は上がらない。『しかし、利益は我々
の知恵の証だ』。知恵を出す、そして知恵があるかないかで利益が決まると。よく頑張っています。
まあ私自身、役所を辞めて会社経営をやってきましたが、一番大事なのは総括としてH・D・
A。Hは批判。この批判というのは大事。しかし、批判だけではいけないと。批判したら、どう
したら良くなる、こういうふうにしたらよいという代案を出さないといけない。これがD。最後
に大事なのは、代案で終わってはいけない。代案をやったら、自分は微力だけれどその為に何が
できるか。こういう事を実行すると。この実行が Action でA。そしてちょっと頑張って、それを
続けると。これがH・D・A で、非常に大事な事だと思います。
よく引用されるのですが、私の好きな言葉に、ゲーテの言葉があるのですね。皆さんも見ると
ころ、若い人もいますが、もう人生あとわずかだなという方もいらっしゃるのですが、やはりこ
のゲーテの言葉、大事だと思うのですね。
『地位や財産を失う事は、少しを失う事だ。地位や財産
はたいしたことない。名誉を失う事は、大変多くの事を失う事だと。しかし、勇気を失うという
のは、全てを失います。
』という言葉があるのですが。是非、この自分で勇気を持って、やはりチ
ャレンジをしていただきたいと思います。そして、オンリーワンの企業になれ。裏返して言いま
すと、皆さんの会社は、他の人から、お客さんから無くなってもいい、無くなったら困る、とど
ちらの企業ですかと。やはり、無くなったら困る、という会社になって下さいねと。そういう会
社にする為には、自分自身も無くなったら困る、という人間にならないといけないと。それは別
の言い方をすると、魅力ある存在の人間になる。そういうふうな事を日々頑張って、やって頂き
たいと、こういうふうに思います。
まあ、今日は色々、端折りました。皆さんのお手元のところに私の著作物の説明がちょっと入
っております。後ろの方に、最後から 4 枚目ぐらいでしょうか、3 冊ほど紹介をさせて頂いてお
ります。“知的経営の真髄”、というのがあります。東洋経済新報社から出ております。これは非
常に睡眠不足なり、寝つきの悪い人には良い本です。寝室に持っていって、これを読み始めると
10 分で深い眠りに入ります。非常に難しい、お勧めしません。次の、“役員室にエジソンがいた
ら”。今日私、色々引用して喋りましたが、そのへんのエッセンスがこの中には入って、割と読み
やすい本でございます。そして最後の、
“ベンチャー実践塾”というのは、色んな体験、経験に基
づいて、ベンチャーを技術的ではなくて、もうちょっと実践的にこうした方がいいという本でご
ざいます。また機会がある時に、読んで頂ければと思います。
ご清聴、ありがとうございました。
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