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永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状が

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永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状が
論文
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状がトルクリップルに及ぼす影響
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状が
トルクリップルに及ぼす影響※
Effect of the Rotor Shape of an Interior Permanent Magnet Synchronous Motor (IPMSM) on Torque Ripple
上 田 正 嗣*1
Masashi UEDA
池 田 祐 司*1
Yuuji IKEDA
遠 藤 佳 宏*1
Yoshihiro ENDO
In this paper investigate the reduction of torque pulsation in concentrated coil motors which utilize the
characteristics of IPMSM’s for miniaturization and high efficiency, using magnetic field analysis to optimize the
positioning of the magnets and the rotor shape.
Key Words: IPMSM, rotor shape, concentrated coil, torque ripple
1.まえがき
Table 1
永久磁石埋込型同期モータ(以下 IPMSM と
Constrations
略す)は,リラクタンストルクの活用により,
小型・高効率化できる特徴があり,自動車業界
Requierments
では燃費向上を図るため HEV/EV 車両などの
Design constraints and requirements
Inverter bus voltage Vdc
Max phase current
Constant rating current
Constant rating speed
Rating torque
Max outer diameter of stator
Motor weight (Max)
173 V
21.2 Arms
10 Arms
5000 rpm
2.2 Nm
ϕ94 mm
1.05 Kg
車載用モータとしての利用が増加している.
一方,こういった車載用電動デバイスでは,
型に特化したモータアクチュエータをコンセ
商品性向上の観点において NV(音・振動)の重
プトとし Table 1 のように制約条件と設計要
要性を看過できないため,モータの振動源の
件を設定した.
ひとつであるトルクリップルやコギングトル
制約条件は,電源電圧が 173V,相電流は最
(1)
クの低減が課題
大 21.2 Arms,連続定格相電流は 10 Arms,定
であり,モータハードウエ
格出力時のモータ回転数は 5000 rpm とした.
アと制御の両面から改良手法の構築が進めら
(2)
れてきている
設計要件は定格トルク 2.2 Nm,モータ体格は
.
本稿では,磁場解析手法を用いてロータ形
レイアウト制約としてステータ外径を j 94 mm
状およびマグネット配置を工夫することによ
以下,磁気回路重量を 1.05 kg 以下とした.こ
り,IPMSM の特徴である小型・高効率をいか
こで磁気回路重量とはステータとロータおよ
しつつ,トルクリップルやコギングトルクを
びマグネットと巻き線の総重量である.
設計要件およびコンセプトを満たすため,
低減した検討経過と結果について述べる.
モータ形式は6極9スロットのインナーロー
2.検討モータモデル
タ形式とし,ステータは分割コアを採用し,さ
らに巻き線占積率向上と低銅損を両立させる
制約条件と設計要件
ため,巻き線はバイファイラとした.マグネッ
本検討では HEV/EV への搭載を想定し,小
トは磁束の有効利用を目的とし,1極につき
※2015 年 5 月 18 日受付,電気学会の許諾を得て,電気学会研究会資料 RM-14-076 より加筆修正して転載
*1 先進技術研究部
- 28 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
Table 2
本 検 討 で は ,定 格 ト ル ク 出 力 時 の ト ル ク
Specification of reference motor
Phases and poles
Nunber of stator slot
Diameter of stator
Diameter of rotor
Core length
Nunber of turns/slot
Type of laminating steel
Type of magnet
Magnetic thickness (r direction)
リップル低減を目的とするため定格電流であ
3 phases, 6 poles
9 slot
ϕ 93 mm
ϕ 53 mm
16.8 mm
84 turns (Bifilar coil)
35A270
Nd-Fe-B
3 mm
る相電流 10 Arms 通電時の最適位相角にて解
析を実施し,リラクタンストルクを含むトル
クリップル低減を検討した.
トルクリップルの低減のためにはギャップ
,
磁束密度を正弦波化する必要があり(3)(5)
,実
際の物理的対策としては,ステータのティー
2枚使用の V 字型配置とした.駆動方式は
ス先端形状の工夫およびマグネット形状の工
180 度通電正弦波駆動のセンサレス制御方式
夫等がある.今回は小型モータをコンセプト
を想定している.
にしており, マグネットの V 字配置型の採
F i g . 1 に検討モータの断面図を示し,
用および,巻き線スペースのロスを考慮し,
Table 2 にモータ緒元を示す.今回の試作機で
Fig. 2 のようにロータ外周形状を磁極中心か
はこの初期型モータをベースとし,モータの
ら磁極間にむけて緩やかにギャップを広げて
振動源のひとつとなるトルクリップルを低減
いく手法を検討した.
F i g . 3 にパラメータスタディとして,モー
するべくロータ形状および,マグネットの開
タ中心とロータ最外径 R 中心をオフセットし
き角に着眼した検討を実施した.
たロータ形状によるモータ特性の変化につい
ϕ5
3
ての磁場解析結果を示す.磁場解析には株式
会社 JSOL の提供する JMAG を使用した.
オフセットのない初期型モータモデルのト
ϕ93
ルクリップルは,Peak to peak で 0.32 Nm で
あった.ロータ最外径 R のオフセットの増加
に伴い,モータ出力トルクは減少していくが,
トルクリップルは減少していき,オフセット
6 mm にて最小値をとる一方オフセット 7 mm
以上では増加傾向に転じている.モータ出力
トルクの減少は磁極間部のギャップ拡大に
Fig. 1
よって, 有効磁束量および q 軸方向のインダ
Reference motor model
クタンスの低下により,リラクタンストルク
Of
fse
tR
3.解析結果
3.1. ロータ外径形状の影響
Offset
トルクリップルの構成要素は以下の3つで
ある.
①ス テータの作る電磁石とマグネットの吸引
No
et
offs
反発力
②コギングトルク
③リラクタンストルク
Fig. 2
- 29 -
Mimetic diagram of rotor shape with offset
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状がトルクリップルに及ぼす影響
フセット量 4 mm 仕様との定格電流時のトルク
成分が減少した結果といえる.
波形を示す.
F i g . 4 にロータ形状違い(ロータ最外径 R
の各オフセット設定量違い)における誘起電圧
波形を導出し,F F T 処理した結果を示す.比
3.2. さらなるトルクリップルの低減
較するとオフセット 4 mm の場合が最も高調波
前述の通り,ロータ外径 R のオフセット
成分を含まず,それよりオフセット量を大き
量最適化により,初期型モータに対しトルク
くしていくと,主に5次の高調波成分の重畳
リップルを低減することができたが,コギン
により誘起電圧波形が歪み,理想的な正弦波
グトルクは,ほぼ変化がなく低減できていな
からのかい離が大きくなっていく.センサレ
いことから,ギャップパーミアンスの不均一
ス制御においては,誘起電圧波形の歪が角度
が改善されておらず,さらなるコギングトル
推定誤差と電流波形の歪等を招き,モータ性
クおよびトルクリップルの低減の手法を検討
(4)
能と効率を悪化させる要因となるため
した.Fig. 6 に V 字配置型ロータのマグネッ
,誘
起電圧波形は正弦波に近しい方が望ましい.
ト開き角変更によるモータ特性変化を磁場解
以上より低トルクリップルと誘起電圧の低歪
析にてパラメータスタディした結果を示す.
比較すると,マグネット開き角 75 度以下で
率を両立する外径 R オフセット量 4 mm を今
のコギングトルクは 0.05 Nm 近傍で推移して
回仕様の最適値として採用した.
いるが,76 度以上からは,コギングトルクが
Fig. 5 に初期型モータとロータ最外径 R オ
Torque ripple
Torque
0.3
0.25
2.3
2.5
2.28
2.45
2.26
2.4
2.24
2.35
2.22
0.2
2.2
0.15
2.18
2.16
0.1
0.05
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
2.3
2.25
2.2
2.15
2.14
2.1
2.12
2.05
2.1
Offset 4mm
No offset
2
0
20
40
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
Change in motor characteristics as a result
of difference in rotor shape
0
1
2
3
4
5
6
7
Fig. 5
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
BEMF THD [%]
Fig. 3
80
100
120
8
Torque waveform (No offset & offset 4mm)
Torque ripple
Cogging torque
Torque
2.3
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
72
Offset [mm]
Fig. 4
60
Rotor angle [deg]
Offset [mm]
73
74
75
76
77
78
79
80
81
2.28
2.26
2.24
2.22
2.2
2.18
2.16
2.14
2.12
2.1
Torque [Nm]
0
Torque [Nm]
Cogging torque
Torque [Nm]
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
0.35
Magnet open-angle [deg]
THD comparison of BEMF waveform as a
result of difference in rotor shape
Fig. 6
- 30 -
Change in motor characteristics as a result
of difference in magnet open-angle
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
増大傾向に転じている.この結果から今回の
場合,モータの組み立て性を考慮した現実的
なマグネット配置として 76 度を選択した.次
に,磁極間部分のギャップのみさらに広げて,
2段曲率としたロータ外径構造を検討した.
F i g . 7 に今回の検討において,最終的に決
定した最終ロータ形状を示す.この最終ロー
タ形状により,先述の外径 R オフセット 4 mm
仕様に対しては.Fig. 8 に示すように,トルク
0.35
Latest model
0.25
0.2
0.15
74% reduction
0.1
67% reduction
0.05
0
Fig. 9
Cogging torque
Torque ripple
Comparison of torque ripple and cogging
torque of reference model and latest model
リップルを 33% 低減することができた.当初
の初期型モータモデルとの比較では,Fig. 9,
Reference model
0.3
2.5
F i g . 10 に示すように,トルクリップルを
2.45
2.4
74%,コギングトルクを 67% 低減することが
Torque [Nm]
2.35
できたうえ,モータ出力トルクの低下はほぼ
ゼロに押さえ込むことができている.
2.3
2.25
2.2
2.15
2.1
76º
2
Latest model
0
20
40
60
80
100
120
0
Rotor angle [deg]
R3
R22.5
Reference model
2.05
Fig. 10
Comparison of torque waveform of
reference model and latest model
2.1
4
4.まとめ
本稿では,集中巻 I P M S M を題材にロータ
形状を工夫することでモータの振動源のひと
つであるトルクリップルとコギングトルクを
5.2
低減する手法とその効果を確認し,実例と数
Fig. 7
値を持って示した.
Outline of latest rotor
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
しかしながら,今回確認した具体的な効果
は,モータの所要出力や体格といった制約・設
0.14
0.12
0.1
33% reduction
4mm offset model
Latest model
計要件は元より,使用する各磁性材料物性等
によっても異なるため,今後は,より多方面で
0.08
最適解を得る多目的最適化設計のプロセスの
0.06
構築にも取り組んでいきたい.
51% reduction
0.04
0.02
0
Fig. 8
参考文献
Torque ripple
Cogging torque
Comparison of torque ripple and cogging
torque of 4mm offset model and latest model
(1)堺 和 人・徳 増 正:「 永 久 磁 石 モ ー タ の コ
ギ ン グ ト ル ク 解 析 」日 本 A E M 学 会 誌
- 31 -
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状がトルクリップルに及ぼす影響
Volume2 Number1 (1994)
(2)浅野能成・伊藤浩:「磁界解析を用いた永
久磁石埋め込みモータの低騒音化」,信学
技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE
(1997)
(3)武田洋次・松井信行・森本茂雄・本田幸夫:
「埋め込み磁石同期モータの設計と制
御」,オーム社 (2001)
(4)株式会社日立製作所総合教育センタ技術
研修所:「わかりやすい小型モータの技
術」,オーム社 (2004)
(5)川村清美・横内保行:「業務用空調向け回
路一体型 IPM モータの開発」,Panasonic
Technical Journal Vol.55 No.3(2009)
著 者
上田正嗣
池田祐司
遠藤佳宏
車載用電動デバイスの音・振動といった課題
に対し,磁場解析により最適化をおこなう事
ができました.今後も様々なニーズに応じた
モータの最適設計ができるよう磁場解析のみ
ならず,関連技術への理解を深めたいと思い
ます.本研究を推進するにあたり,ご指導・ご
協力をいただきました皆様に感謝申し上げま
す.
(上田)
今回の成果は,開発の手順・工夫の観点な
ど,そのノウハウの蓄積が具体的な成果となっ
て表れたと考えます.今後は,システム設計の
観点から,より効率的な磁気回路と制御性を両
立した高度な設計を目指していきます.
(池田)
- 32 -
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