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近年における IMF 業務の質的変革について * (上)
近年における IMF 業務の質的変革について* (上) 野 口 嘉 彦 はじめに 1. の融資制度の改革 2. 資金基盤の大幅な拡充と融資を巡るリスク (以上, 本号掲載) 3. のサーベイランス業務の質的変革 (以下, 次号掲載) 4. による知的技術支援の展開 5. のガバナンス むすびにかえて はじめに 世界経済は, 戦前戦後を通じ, 地域的経済金融危機をかなり頻繁に経験してきている1)。 し 年弱の経済史の中で僅かである2)。 かし, 地球規模的 (グローバル) な危機となると, 過去 近年における目立った地域的危機は あり, グローバルな危機は 年代末から 年のメキシコ危機, 年に発生したアジア危機3) で 年に勃発した世界金融危機である。 今回の世界危機は, 当初 年代末にかけて世界を覆った大恐慌にも匹敵するものと危惧され, 世界金融 システムは一時期不安定に陥ったが, 5∼6年経過後の現在, ユーロ圏経済の落ち着きもあり, *本論文執筆に当たっては, 武田哲夫・拓殖大学名誉教授より極めて貴重なご助言を頂いた。 ここに心 からの謝意を表したい。 また, 本論文執筆の端緒となった共著書の執筆参加の機会を与えて下さった 立教大学・山口義行教授および同書拙稿への有益な考察視角を示唆して頂いた東京富士大学・松田岳 准教授に改めて厚く御礼申し上げる。 さらに種々の有益なコメントを頂いた立教大学経済学部の先生 方にも深謝したい。 もちろん文中にありうべき事実誤認・誤解やその他の誤謬の類が, すべて筆者に 帰すべきものであることは申すまでもない。 1) 野口 ( <上>) によれば, 年から 年までの 年間における途上国 か国について, 件の通貨・金融危機が観察された ( に基づく)。 2) ( ) は, 今回の危機以前のグローバルな危機として, ・ラテンアメリカ危機, 年の欧州・アジア・ラテンアメリカ危機, を挙げている (前掲書 の表による)。 年の欧州 年の世界的な大恐慌 3) 実際にはアジア危機の関係国は, タイ, インドネシア, 韓国を中心にフィリピンや台湾等にもおよ びアジア危機が飛び火して, 年にはロシア危機, 年にはブラジル危機が生じた。 ここでは, 近 年の地域的な危機としてアジア通貨危機を代表させている。 立教経済学研究 第 巻 第2号 年 何とか小康状態を保つに至っている。 大まかに言えば, 戦後においてメキシコ・アジア危機以前の地域的危機は, 当該国の経常収 支の赤字に伴う国際流動性不足が問題であった。 これに対し, メキシコ・アジア危機から資本 取引が問題となるが, とくに今回の世界金融危機は資本収支面の巨額かつ急激な振幅が先行し, それが関係国の実体経済にまで影響を及ぼした。 戦後, 国際金融制度の安定維持のため設立された国際通貨基金 ( ) は, こうした地域的, 世界的金融経済危機への対応および加盟国からの借入等 の要請に際し, 極めて重要な役割を担ってきた。 この間, はその機能に関する組織内外 からの批判に対し, 業務面の相応の統治改善を試みてはきたものの, 官僚組織という制約もあ って抜本的改革に結びつかないままであった。 しかしながら, 今回の世界金融危機に際しては, は国際金融制度や世界経済の構造的変化, 国際政治面の情勢変化 (パワー・シフト) に 直面し, 融資制度を中心として業務面で創設以来例をみないほど改革を深化せざるを得なかっ た。 今後についても世界経済の展開は予断を許さず, もさらなる対応を迫られることが 予想される。 本論文は, 今回の世界危機の下で, の今後の役割に関し若干の展望を試みるものである4)。 ここでいう質 かにしたうえで, 的変革とは, の業務面における必然性をもった質的変革を明ら の資金基盤の近年にない大幅な拡大と人材面の強化を図り, 業務・組織面 の機動性・効率性を高めることによって, 今後の世界危機やグローバルな攪乱的資金変動に備 えるといった制度変革である。 これは今回の危機について, 従来のいわばアドホックな漸進的 改革が対処可能な域をはるかに超えたものであったとの判断が働いた結果と思われる。 以下では, まず①業務の実質的な中核をなす融資制度面の改革について論ずる。 そして②融 資の拡大傾向に備えた資金基盤の拡充状況について取り扱う。 次いで③ に課されたその 他の業務 (サーベイランスおよび知的技術支援) の質的変革を考察する。 やや視点を変え, ④ のガバナンス面での質的変革についても, 話題を絞って考察する。 最後に, ⑤ 「むすび にかえて」 では, が備えるべき今後の諸問題に関して大まかな展望を試みる。 1. IMF の融資制度の改革 いわゆるブレトン・ウッズ体制が れ以前の 年8月のニクソン・ショックを機に崩壊して以来, そ の重要な役割であった固定外国為替相場制の監視機能が廃止され (つれて加盟 国は為替相場制の選択が自由となった), 国際収支問題に直面した加盟国 ( 4) 筆者は, 野口 ( ) で近年の 業務の質的変革について概説した。 本論文は, それをさらに 幅広い観点から掘り下げて考察するものである。 なお, ら概観したものに ( 年7月現在 ) がある。 年代以降の 改革を主として米国側か 近年における 業務の質的変革について (上) か国) への融資, 加盟国を対象とする経済・金融・為替政策等の監視 (いわゆるサーベイラン ス) および知的技術支援が, 現在, 業務の3つの柱となっている。 ここでは融資制度の変遷と その特徴を概説したうえで, 融資の手法・内容の質的変革を検証する。 の融資の法 5) 的根拠は, 協定第1条の 「目的」, 第5項に記されている 。 (1) IMF 融資制度の変遷6) は, 戦後の国際経済の構造変化と, それに伴い生じた加盟国の国際収支等の課題に呼 応して各種の融資制度を提供してきた。 後掲の表1は, ①これまでに創設・廃止され現在は存 在しない制度と②現行制度, および③低所得国向けの, 融資とは異なる支援策をほぼ網羅した ものである。 廃止された制度には, 自然災害や石油危機といった一過性の問題に対応し, 問題解消に伴い 制度も廃止されたケース (オイル・ファシリティ, 体制移行融資, コンピュータ 年問題融 資等) のほか使い勝手の不便・効果僅少等の問題から廃止ないし他の融資制度の導入により発 展的に解消されたケース (緊急支援, 緩衝在庫融資, 輸出変動補償, 補完的準備補償融資, 短 期流動性ファシリティほか) がある。 いずれの場合も, が加盟国の直面した多様な問題 に, できるだけきめ細かく対応した痕跡が伺える。 一方, 現行の融資制度をみると, スタンドバイ取極 ( 年 年開始) と拡大信用供与 ( 開始) がそれぞれ比較的短期ないし中期的制度として, 長期間存続しており, 融資のい わば基本支柱となっていることがわかる。 しかし他の制度は, すべて今回の世界金融危機への 対応を趣旨に, 年以降導入されたものである ( に関する全面見直し案を承認した ( 理事会は 年3月, 融資の枠組み ))。 次節では, 現行制度の特徴をみることと する。 (2) 今次危機における融資の質的変革 今回の危機については, 米国, 欧州・東欧, 中国を中心とする国際収支の大幅なインバラン スを基本的な背景として, 巨額な投機資金が短期間に流出入し, 関係国において経済的バブル とその崩壊をもたらした現象という概括的描写が可能であろう。 からの主な借り手国は, アジア危機後 5) 年頃までは, タイ・インドネシア・韓国・ 協定第1条 「目的」 の第5項は, 「加盟国の国際収支の不均衡是正のため, の資源を一 時的に活用し, 当該国に信認を与える」 といった趣旨である。 6) ( の融資制度については, 表1の情報を含め, 次の資料に依拠した。 ), ( ), ( ), ( ), 等。 ( ), ), ( ( ) 立教経済学研究 (資料) 野口 ( ) , 図 図1 (資料) 年報 ( , 第 巻 第2号 を基に対象期間を延長。 原データは 年 における各国向け融資残高から作成。 主要国の IMF 借入残高推移 (1996∼2013年, 各年末) 年) の 図2 。 IMF 融資制度別取極決定額の推移 (各年4月末) 近年における 業務の質的変革について (上) ロシア・ブラジル・アルゼンチン等であった。 順調に進んだ結果, 融資残高は 億 年から ( 年にかけてはこれら諸国の返済が は脚注 を参照) を切り, 金融機関として の経営すら危惧される局面を迎えた。 しかしその後世界金融危機の発生とともに, 国 の 際収支の脆弱化が目立ったポルトガル・ギリシアなど南欧諸国, ウクライナ・ハンガリー・ル ーマニアなど東欧諸国, その他アイルランド, パキスタン等がこぞって ととなり, その他諸国と合わせて 年末には過去最高の残高 ( の門をたたくこ 億 ) を記録するに至 こうした局面の特徴は, 一つは国別にみて, これまで長年にわたり 融資を受ける国が った (図1)。 7) もっぱら途上国であったのに対し , 先進国や新興国が含まれるようになったこと, もう一つ ) は融資制度別にみて (図2), 通常のスタンドバイ取極 ( 年の が, 億 億 を底に 年の 強まで急減) ほか, 億 年から 年末約 ( 同約 ン ( 弱のピークまで増大した (その後 年末には 年にかけてほとんどゼロであった拡大信用供与 億 億 ) とフレキシブル・クレジット・ライ ) が急拡大をみたことである。 拡大信用供 与が中期借入であること, フレキシブル・クレジット・ラインが資金引出に際しての条件が付 かず, 借入限度額も制限のないことなど, 融資要件の大幅な緩和が借入増の要因といえよう。 予防的流動性枠の借入が極めて少ないのは, 良好な経済ファンダメンタルズの実績という条件 が高いハードルとなったものと考えられる。 またラピッド・ファイナンシング・インストルメ ントの利用がないのは, 融資の趣旨が従前の緊急支援策のように商品市況の急変・自然災害等 への対応であり, 今回の危機時の借入事由にそぐわないためであろう。 上記のように急増をみた融資制度の融資限度 (加盟国のクォータ対比) は, スタンドバイ取 極の場合, その増枠が背景となっている。 すなわち, 世界経済の拡大にクォータ (加盟国によ る出資金で原則5年毎に見直し) が間に合わなくなってきていたこともあり, 来年間でクォータ比 大をみた (岡村 %, 累積で , %であったものが, それぞれ %, 年3月に従 %へと2倍の拡 )。 また, 拡大信用供与の限度額もスタンドバイと同様の拡 大措置が講じられている。 さらにフレキシブル・クレジット・ラインの要件を満たさない加盟 国のために, スタンドバイ取極に関し危機予防策としての利用を可能とすべく, 実際の引出し なしに予防的に高額借入の準備を行ったり, 均等割りでなく前倒しの引出しを可能としたり, さらには融資条件の見直し頻度や引出回数の削減などもできるように, 運用手法の弾力化が図 られてきている ( )。 アジア危機後の 7) もっとも 行したこと ( 年間をみると, , 融資の大部分がスタンドバイ取極によるものであっ 年代まで遡ると, 例えば英国が , , , , , 年にスタンドバイ借入を実 ) など, 先進国による借入の例がみられる。 また, アジア危機時に 融資を受けた韓国も既に先進国の位置付けにあった。 立教経済学研究 第 巻 第2号 年 たものが, その後最近までの6年間は拡大信用供与とフレキシブル・クレジット・ラインとい う資金需要の緊急性と中期を視野に入れた融資が主流となったが, これはとりもなおさず, 今 回のグローバルな危機への対応に際し, 融資内容が質的変革を遂げたことを意味している。 (3) IMF 融資に関する借入国側からの批判と改善状況 が実施してきた融資手法に対しては, アジア危機前後を通じ, 各方面から種々の問題 の指摘が行われてきた8)。 ここでは の融資に関する一般化された下記の批判項目と内容 (借入国の立場に立ったもの) について, 主として国宗 ( , ) に依拠しつつ, 筆者の考察を付け加えておきたい。 ①融資条件の数や種類に関する批判 の融資に際しては, 融資条件 (コンディショナリティ) が借入国に対し課される。 それは, 一国の対外収支やマクロ経済の安定性確保を目的としており, さらにそれを数値化 した基準 (パフォーマンス・クライテリア)9) と構造改革措置から構成される。 これらの基 準値ないし構造調整策について借入国と合意し, 通常四半期ごとに経済変数の実績を検証し つつ, 資金の引出し時期等を調整するという方式 (経済プログラム) が採られる。 これまで, 借入国当たりの条件数が過剰であり, 内容面にも問題ありとの批判が少なくなかった。 すなわち, 条件数については 「融資条件の数が多いほど, 未達の可能性が大きくなる」 と か, 内容面では 「規制緩和や国営企業の民営化など 融資の直接的な目的とは関係しな い」 ような 「条件を含めることは短期的な問題の解決に役立たないだけでなく, むしろ阻害 する」, あるいは 「直接的な目的から離れた融資条件については, 職員自身が十分な知 識や経験を持っていない」 といった問題が指摘されてきた (以上, 「 」 内は国宗 < > から引用, 以下同様)。 一方, コンディショナリティに関し, は 年頃から3年おきに見直しを実施して きている。 そうした中, とくに世界金融危機を機に大幅な改善 (近代化) が実施された。 危 機に際し弾力的対応を可能とするべく, 従来の融資実施と同時に設定していた条件に代え, 厳しめに事前の適格条件を設定するとともに, 年5月には構造改革面の判定基準の適用 が廃止された。 また構造調整策も, 借入国の必要性に焦点を合わせ, 実情を勘案したものに なるなど, 大きな質的変革をみた。 これらの効果をみると, 年以降 年までの期間中, 通常の数値基準数の案件 (国) ご 8) アジア危機時までに聞かれた借入国側のみならず 融資に対する批判については, 野口 ( , 内の評価機関のほか市場筋や学界等からの ) で具体的に紹介しているため, 本論 文では省略した。 9) 基準値としては通常, 経済成長率, 国際収支, 通貨総量, 外貨準備高等が対象となる。 近年における 業務の質的変革について (上) との平均値は, 各年6個程度で安定してきた反面, 構造改革面の条件数の平均値は, から 年まで各年8個前後であったものが, 年 年以降は4∼5個へと4, 5割方の減少 を見ているなど, かなりの改善ぶりが窺える (以上, )。 ②融資条件において財政・金融の緊縮策を条件とすることへの批判 これは, 融資に際し, 「これまで, ほぼ例外なく金融の引き締め (高金利政策) と財 政の引き締め (財政緊縮) の2つの政策が数値目標として設定されてきた」 が 「これが (ア ジア:野口補記) 通貨危機を収束するために役立ったという証拠はない」 といった批判であ る (国宗 , )。 確かにアジア危機までは, こうした批判が当っている面があった。 しかし, 国宗も指摘するように, アジア危機の途中からは 経済プログラム ) の財政政 策を現実的な目標へと柔軟化した。 金融政策についての引き締め姿勢は, 現在まで続いてい る。 この点について, 今回の世界金融危機に際し, 「米欧の先進国は例外なく低金利政策と 財政拡大によって景気後退を防ごうとしているが, これらは伝統的な の融資条件とは 正反対の政策である」 (国宗 同前) との批判も可能である。 しかしこれは, 国宗の指摘 ) もさることながら, ( ) 今次危機における先進国中央銀行 の役割が緊急・短期的な流動性の供給であったのに対し, はやや長い期間を視野に入 れ, 借入国の構造調整をも含む経済プログラムに沿った融資である場合が少なくないこと, ( ) 国際収支の改善が, 借入国の国際市場における信認回復を狙いとしていること, ( 信認回復に伴い民間資本の再流入 (触媒効果, 後述) が期待可能であること, ( 支が是正されれば, 経済成長の回復余地が生じること, ( ) ) 国際収 ) 借入国における現地審査の初 期段階で, 十分な統計データが揃っていないような場合には, 激しい資本流出を抑えるため, 取り敢えず高金利政策を採らざるを得ないケースがあり得ること, 等を勘案すれば, 融資と中央銀行融資の趣旨に幾分の相違があることは, 当然の面があると考えられる。 「国際的・国内的な繁栄の追求に反しない形での国際収支不均衡の縮小」 まず国内的繁栄を追求しすぎた借入国が, 国際収支困難を理由に ) と借入国は, コンディショナリティの設定という形で, ログラムに関し合意し (岡村 総裁が採るべき政策措置に関する コンディショナリティに関する ), ) といっても, 融資を求めてくるケ の意向を織り込んだ経済調整プ 融資の実行前に, 借入国から財務大臣・中央銀行 宛ての趣意書 ( ) が提出される。 作成の文献としては, ほかに ( など) がある。 ) 国宗 ( , ) は, 「 融資は国際収支危機に瀕している状況で行われるので, …… 背景となる経済状況はまったく同じではない。 よって, 異なる政策が行われるのはおかしくないと主 張することは可能……」, 「しかし, …… は, 少なくとも条文上では 追求…… (中略) ……に反しない形での国際収支不均衡の縮小 国際的・国内的な繁栄の を目的に掲げている。 通貨危機の際 の財政収縮策や高金利策は, この理念に反して, 国内的な繁栄を犠牲にした国際収支不均衡の縮小を 目指しているように見える。」 としている。 立教経済学研究 ースが多いのであるから, 第 巻 第2号 年 としては国際収支の是正こそが優先的課題となるほか, 資 本収支の大きな振幅から生じた世界金融危機であってみれば, としては関係国の対外 収支・為替相場不安定の早急な回復による国際金融システムの安定化が第一義的な使命であ ると考えられ, 短期的に現実的政策対応が協定と矛盾しても, ある程度は許容されるであろ う。 なお, 融資が成長率を引き下げるという実証分析もある (国宗 これは少なくとも従来の ) が, , プログラムが緊縮的な政策を中心としてきているだけに, あ る程度当然の結果ではないかと考えられる。 ③画一的な対応についての批判 この批判の背景は, ( ) 「 融資プログラムの策定は, 緊急を要する状況下で行われ る場合が多い。 そのため, 数週間の間に策定することも珍しくない」 こと, ( ) 「 に は国や地域に根差した専門家が少ない。 したがって, 個別国の事情を勘案した国ごとに特徴 のある政策を打ち出すことは難しい。 …… の厚さという点では見劣りする」 こと, ( は小さな組織であり, どうしても職員の層 ) 「 職員は, ある意味できわめて均一性が 高いバックグラウンドを持った人たちの集まりである」 こと, である (国宗 これまでの , )。 融資プログラムでは, こうした難点 (具体的事例としては, 専門スタッ フがマクロ経済のエコノミストに偏重していたこと) があったことは否定できまい。 ただ, アジア危機時の反省もあり, は国際資本取引や金融市場の分析強化に力点を置いて, 相応の組織改編を重ねてきている。 例えば, , 年には金融為替局 ( 年頃為替通商局から改称) を金融通貨制度局 ( ) と国際資本市場局 ( ) に分離したあと, 年には金融資本市場局 ( ) に再統合したほか, ) を 年頃まで存在した政策審査局 ( 年には戦略政策審査局 ( ) に改称したが, これらは取りも直さず, 近年の国際的な資本取引の急拡大を 背景に, とりわけ金融財政部門の重要性が増している現実を反映したものである。 同時に は近年, こうした分野の専門家の積極的な採用と同時に, ここ数年にわたり, 例えば 個別途上国の経済的脆弱性に関する分析力の強化策として ( ), 多様な業務経験 ・能力を有するスタッフの採用にも傾注していることが窺われ, 人材面でも着実に質的充実 に向けた変革を遂げつつある ( )。 加えて は, これまでも借入国の実情に応じ, 世銀との協働, 加盟国の財務省・中央銀行等からの専門家の派遣などの手法でも対応してき ている ( 掲脚注 も参照)。 , 岡村 , 後 近年における 業務の質的変革について (上) ④政治過程についての無理解 これには, 例えば次のような批判が含まれる。 すなわち, とくに経済構造調整を融資条件 とする場合, 構造調整実施の管轄は, 通常 中央銀行とは別のことが多く, が直接の交渉相手とする当該国の財務省・ が調整のための外圧として利用される危険性があると か, 国営企業の民営化が立法措置を要するケースなどがある。 こうした政治過程への理解不 十分により, 融資条件の達成について甘すぎる見通しになり, その結果 融資が中断す るような事態が生じれば, 投資家の不信感を煽り, 危機を深刻化させる事態を招くことにな りかねない (以上は, 国宗 , )。 実際, 構造調整 (銀行閉鎖, 補助金削減) が社会混乱を招いたケース (アジア危機時のイ ンドネシア) がみられ, への重要な教訓となっている。 としては, 限られた資源 (人材, 予算) と時間制約の中で, 今後もできる限りの対応に努めることが期待される。 こ の点, 上記①で述べたように, 構造面のコンディショナリティの数の削減や事後的な条件設 定の廃止措置は, この④の批判との関連でも, 評価されるべきであろう。 なお, と政 治問題の関係については, 後段で再論する。 ⑤先進国の利益を重視し開発途上国の利益を軽視 この観点を要約すれば, 1国で拒否権を有する米国を中心とする投票権の強い先進諸国の 意向が の政策に強く反映され, 「例えば, …… 取引の自由化によって最も得をするのは ある (国宗 , によれば, 開発途上国の資本 の金融機関だ……」 といったことで )。 1国1票の採決方法を採用している国連と異なり, 国家の経済規模を勘案して出資額と投票 権を配分している では, 主要国主導で運営されることはある程度論理的帰結といえよう。 これまでのグローバルないし地域的危機において, 上述③や④の問題もあり, 結果的に途 上国・新興国諸国の経済厚生面で苦境ないし混乱をもたらした事例 (インドネシア, 韓国, ギリシア等) があることは事実であり, は相応の反省をしてきているように思われる。 ただ, とくに資本収支の攪乱に対応する場合には, まず程度の差はあれ金融財政政策の発動 であり, 途上国での厚生面への対応は, 世銀その他地域開発金融機関や 補完的な役割分担が必要であろう。 また, 国宗 (同前 などとの相互 ) も指摘するように, 途上国の 資本取引自由化政策に関する 「このような批判はセンセーショナルではあるが, 実証するの は難しい」 ことも事実である。 この間, 年入り後の途上・新興諸国の経済力の拡大から, その発言力も増しており, 国際経済・金融問題の検討の場は, かつての 7から に移るという, 一種のパワー・シフ トの現象がみられた (この点も後段で論じる)。 こうした状況では, 国際政治情勢も絡んで, 一部先進諸国が恣意的に の政策運営を行うことは, 今や相当困難になっているといえる。 立教経済学研究 第 巻 第2号 年 2. IMF 資金基盤の大幅な拡充と融資を巡るリスク (1) 資金基盤拡充の背景 前述のように, 今回の世界金融危機の火元となった国はもとより, その波及効果から対外収 支や財政収支の不均衡に陥った東欧・南欧諸国からは, これらの国への への融資要請が集中していった。 融資は急増をみたわけであるが, 融資条件に関しては, ギリシアの場合 に典型的にみられたように, 厳しい財政緊縮策に対しては生活水準の切り下げへの社会的不満 がみられたものの, 緊急事態だけに大なり小なり受け入れざるを得ないのが現実で, 前節でみ た批判は当面抑え込まれているようである。 にとってのアジア通貨危機とユーロ・ソブリン危機との意味の相違について考 ここで 察を加えておくことは, 融資の質的変革を論ずるうえで有用と思われる。 双方の危機に共通している要素は, マクロ経済的には固定相場制, 相対的に大幅な経常収支 赤字, 自由化された対外資本取引, 金融機関体質の脆弱性等である。 では両危機の相違点は何 であろうか。 まず, ①今回の危機が元をたどれば米国発 (サブプライム危機, リーマン・ショック) とい う点であり, の最大出資国の米国は対応に最大の貢献を求められてしかるべきであった。 アジア危機に際して, 米国は危機国との距離を微妙に測っていた節がみられた。 ②近年の資本取引面における相互依存関係の急激な高まりの局面にあって, 欧州各国間の貸 借取引はとくに錯綜しており, 米国・ドイツ・フランス・北欧の金融機関が深くかかわってい る。 「ユーロ圏の銀行はソブリン危機と銀行危機の悪循環にはまりやすい」 (米倉 , ) だけに, これらの危機の表面化が瞬時に国際的なシステミック・リスクに繋がっていく惧れは, 想像に難くない。 時代の違いもあり, アジア危機時のシステミック・リスクの問題の深刻度は 今回の危機とは比べるべくもないであろう。 ③次に, クォータを比較してみる。 アジア危機の中心国となったタイ・インドネシア・韓国 の現在 ( 年5月頃。 以下同じ) の投票権合計の全加盟国に占めるシェアは %, 一方, 現在の主要借入国であるアイルランド・ギリシア・ハンガリー・ポルトガル・ルーマニア・ウ クライナの6か国で %とアジア3か国とほぼ同水準であるが, 例えばこれに国債利回りが 危機ラインに達したことのあるイタリア ( %) やスペイン ( %) を加えると, % とアジア3か国の3倍近い規模となり, 国際的な影響力・発言力に格段の差が生じてくる )。 ④最後に, 今回の危機における ) 現在の米国の投票権シェアは と ) の関係である。 は %と, 重要事項の決定に必要なシェア ( 年4月 (ロンドン %) を未達にできる だけの拒否権を未だに有している。 ) は, 従来の 7, 5か国, 8か国・地域 (アルゼンチン, オーストラリア, インドネシ 近年における ・サミット), 業務の質的変革について (上) の危機への取り組みのための中心的役割を果たすべきことを再確認し, 資 金基盤 (クォータ, 新規借入取極< 合意した ( >等総計) の3倍増, )。 このことも, 配分の大幅拡大などにも の融資が大きな質的変革を遂げたこと の証左といえよう。 ユーロ加盟国の中央銀行たる欧州中央銀行 ( 能」 を欠く存在 ) ) が, 最近まで明確な 「最後の貸し手機 であったこともあり, 欧州では に欧州金融安定化基金 ( が 年5月以降ユーロ圏加盟国向け ) やこれを受け継いだ欧州安定メカニズム ( 危機時の流動性供給体制を整備した。 これらの機構では ) を設立し, との協調体制が謳われており, としても逃れられない体制に組み込まれている (後述, 第5章第3節を参照)。 が国際的に部分的な最後の貸し手機能を果たしていることを筆者は論じたことがある が (野口 ), その機能は後退するどころか, 一段と拡充の道を辿ってきたというべきであ ) ろう 。 もちろん, 今回の世界金融危機に対し, 主要国際金融市場における緊急かつ巨額の流 動性供給は米国・欧州・日本等の中央銀行が先行して担ったわけであるが, これに並行する形 は国際収支・財政問題に直面した諸国への融資を実行し, いわば中央銀行の国際的な で 最後の貸し手機能を確実に補完したということができる。 (2) 資金基盤拡充の内容と程度 アジア通貨危機以降の ) ) : の先行き融資コミット可能額 ( と融資実績をみると (図3), アジア危機直後の 年初に第 次クォータ増額 (+ %) によりコミット可能額が実際の融資実績を一時的に上回ったほかは, はコミット可能額を上回るか, ゆとりのない状況が続いた。 その後 年まで融資額 年までは大口借入国 (ブラジル, アルゼンチン等) を中心に返済が進み, コミット可能額が融資実績を遥かに上回 ア, 韓国, メキシコ, サウジアラビア, トルコ, 式に設立が承認された。 は, 年 月, ) から構成。 は 7財務相会議で正 年9月の首脳会議以降, グローバルな経済問題に関 し一段と活発な役割を果たすようになっている ( ) 「 年9月の )。 年8月5日から欧州の国債の購入を開始し」 (米倉 , ) たことで最後の貸 し手機能を果たし始めたとみられる。 ) は最後の貸し手機能としての役割を強調することから身を引き, 編メカニズム ( 年末頃には国家債務再 ) により が債務再編に寄 与することを提案したが, 負担増を恐れた民間部門からの反対などから, 日の目を見ることなく他の 方法が検討された ( , ) 先行きの融資コミット可能額 ( ) は, , 野口 <上>, )。 における, 概略次の計算による。 ( ) 原資総額(加盟国通貨, ( )( )− 一般資金勘定による借入取極額のうち引出未済額=コミット未済利用可能原資 利用可能額等)−利用不可能原資(貸出済み額等)=利用可能原資 ( )( )+ 先行き1年内の買い戻し額 + 同貸出期限到来額 − 必要準備額=先行きコミット可能額 立教経済学研究 (資料) (注) は ∼ 年までは先行き融資コミット可能額。 ( ) の表等を参考にした。 図3 る状態になった。 巻 第2号 ∼ 年 および (各年)。 年まではコミット未済融資可能原資 (旧統計) で代用。 IMF の融資可能額と融資残高 (各年末) 年以降は, 東欧・南欧・アジアの一部国等への融資が急増したが, この 間, 危機下 (とくに ( 第 年のユーロ危機時) の資金ひっ迫を睨み, か国) を結んだほか, 初の債券発行 ( 年7月, 理事会承認), 拡大 年3月) をみたことを背景に, 融資コミット可能額は ( 至っている ( との二国間借入取極 億 超へと増大, 現在に )。 資金基盤の内容を概観すると, 表2 ( 主要な , に依拠) に整理したとおりである。 すなわちクォータは 直し) するほか, 合計すると, の発効 ) は5倍強 , 二国間借入取極は 年4月以前の総額 億 の表 年3月以前に比し倍増 (第 次見 億 の純増である。 これらを からクォータ拡大後は 億 へと約4 倍増となる。 さらに以上の資金基盤に反映されていない, 実質的に 付け加えておく必要がある。 一つは, の資金増強の意味を持つ手段を 創設以来初の債券の発行である。 これは 建で ) 限られた機関にのみ保有が認められる5年もの中期債であるが , これまでのところブラジル ) は, 増額クォータの払込み完了までは, する扱いである。 これは 倍増となるが, クォータ増額実現後は, ほぼ半減 の原資が基本的に加盟国から払込まれたクォータであり, 臨時の調達手法であるとの考えに基づくものとみられる。 なお, 年3月末現在, 第 等は 次クォータ 拡大は, 米国議会の批准遅延のため, 未だ発効するに至っていない。 ) 加盟国は, 債券購入契約 ( ) を結ぶことにより, から直接購入す 近年における 表2 業務の質的変革について (上) IMF 資金基盤の拡大状況 の資金源 ( 実施時期 (決定ないし コミットメント) 資金源の種類 クォータ, (参加国 か国), ( 参加国中の か国) (注2) 資金増加額 ( 億 ) 年4月以前の 億 資金源 総額 クォータ (注1) 2国間信用 コミットメント 合計 − 状況 ) 緊 急 準 備 金 緊急準備金 のクォータ 総額に占め る割合 0 :1 0 7:1 実施済みの措置 ( 年3月 , 年3月) 二国間借入取極 (参加国 か国) (注4) ( ∼ , (参加国 ( 年3月 , 年4月) 二国間借入取極 (参加国 か国) (注7) ( , 年6月) クォータ総額 (注8) ( , 年 月) クォータ (注3) か国) (注5) 年 年4月) :1 0 1: 採択済みで未実施の措置 (注6) 1: 1:1 (資料) を筆者が翻訳, 転記。 ( ) (注1) クォータは, 加盟国からの自由利用可能通貨および自国通貨による払込み出資金の合計。 ただし, の融資プログラムで使用可 能な通貨は, 高水準の外貨準備を保有している国 (現在 か国) の通貨 (現在, クォータ総額の約 %に相当)。 (注2) 一般借入取極 ( ) の引出しは, 新規借入取極 ( ) の引出しとして記録される。 (注3) 年のクォータ改正は, 加盟国間のクォータ再配分を目的として企図されたもので, 選別的なクォータ増額が実施された。 (注4) 二国間借入取極を設定するための総額 億ドルに上るコミット済み信用枠の履行は, 各信用供与国と個別に進められ, 年3 月に完了した。 (注5) 二国間借入取極 は, 原資の増額が効力を発揮し, 取極が停止されるか 信用枠と統合されるかするまでの一時的な措置 として機能した。 (注6) ここでは, 二国間借入のコミットメントが, クォータ増額の効力発揮前に実現することを想定している。 (注7) 二国間借入取極確立のためのコミット済み原資総額 億ドル (約 億 ) の実現は, 現状未達である。 への追加的 参加の承認により, 現在の参加国は か国, 総額 億 となっている。 (注8) クォータ倍増は未だ効力を発揮していない。 クォータの増額が実現すれば, 総額は 億 減少 (つまりほぼ半減) する。 ・ロシア (各 億ドル相当), 中国 ( 保有金の売却益である。 金の売却 ( 億ドル相当) が購入の意向を示している。 二つ目は, ( ) によれば, ) を通じ, 合計約 億 年9月以降 年末までの保有 が低所得国向け融資 ( ) の原 ) 資に充てられた 。 ることができる。 理事会承認を得た 取引に使用される通貨の発行国 ) 年7月現在, 十分強力な対外ポジションを持ち, か国が, 債券購入契約の締結可能な国とされている ( は創設時のクォータ払込みの 年の売却は の収支構造改善とともに低所得国への融資の資金基盤の強化を企図したものである。 今回は の9割, 同年9月に 億 れる。 売却益の残額 (約 年3月末時点で, は )。 , 売却益が 億 億 とされ, その中から の9割が低所得国向け融資の原資 (計 億 )。 %が金とされていたことなどから, 金を保有してきた。 は, 以後散発的に保有通貨の補充や資産購入等のため金の売却を行ってきた。 までの売却手取り額が との ) は, 億 年2月に7億 ) になったと推計さ 財務の収支改善に向けられたとみられる。 なお, , 市場価格で 年末 億ドル相当の金を保有している ( 立教経済学研究 三つ目は, 第 巻 第2号 の直接の資金基盤とは異なるが, 上げである。 の全加盟国は ) (特別引出権) の配分額の大幅引き の配分を受けており, 外貨準備高として計上している。 外貨使用の必要が生じた場合, 加盟国は保有 きる。 加盟国は 年 を関係国との間で外貨と交換することがで の融資を受けることなく, 外貨流動性を調達できたことになり, これを 側からみると間接的に資金源が創造されたことになろう。 年8月, に, 特別配分 の意向を受け, 億 億 も行われ ( の配分が行われる (創設以来3回目) と同時 年以降に かった国への配分), これにより累積額は に比べ, に加盟し, 億 の配分を受けていな 億 へと第2回配分までの額 ( ) 倍増となった。 以上の資金基盤をすべて合算すると, 年4月以前の ゼロ) であったものが, クォータ払込みの発効後は1兆 億 (金売却, 債券発行は 億 になるものと推定され, 倍の拡大となる。 払込まれるクォータのうち比較2時点間でほぼ2分の1しか利用 これは 可能通貨にならないので, これを勘案すると, 資金基盤は 実質7倍程度の 億 から へと 億 創立以来の大幅拡大となる。 従来のいわばアドホックで慎重な姿勢に比 べると, 今次世界金融危機がいかに革新的な方針転換を国際金融社会と とにもたらした かが明らかである。 (3) 融資に関する IMF 側のリスク問題 は, 加盟国からの出資金 (クォータ )) の払込みを受け, その資金プールの中から融 資するという仕組みを採っている。 そこに銀行のような信用創造機能はないため, 基金 (ある いは協同組合) という性格付けが適当である (岡村 , )。 また, 加盟国による実際の 借入れは, 払い込んだ自国通貨と交換に必要な他国通貨を取得する方法であり, この点も 融資の特色である。 ) は, 国際流動性補完を目的に, でもなく, 年7月に創設された。 これは通貨でも, への請求権 加盟国の自由利用可能通貨に対する潜在的な請求権 (準備資産) とされている ( )。 は加盟国のクォータに比例して配分され, 配分増額の見直しはほ ぼ5年毎に行われるが, 実際は 年以前には ∼ 年の 億 , ∼ 年の 億 の2 回にすぎなかった。 は の対外的な取引, 内部経理の計算単位として使用される。 また の価値は, 米ド ル・英ポンド・ユーロ・日本円の加重平均により, 金利も同通貨国の短期金利の加重平均により計算 されている。 ) 加盟国のクォータ ( ) は, まれる。 さらに自国通貨部分の %を特別引出権 ( %のうち ) で, %が現金, 残額 %を自国通貨で に払い込 %が加盟国通貨に代わる証書 (日本の場合は基金通貨代用証書) で払い込まれることになっている。 日本の代用証書は の償還請求に応じ外国為替特別会計から円現金が供給される。 いずれも経理は (岡村 , から 建で行われる )。 またクォータは, 加盟国が融資を受ける際の限度額の基準となっている。 近年における いずれにしても 業務の質的変革について (上) が金融機関であることに変わりはなく, 融資に当って は種々の リスクに常時留意しておく必要がある。 近年の国際的な経済金融取引面における相互依存関係 の極度の密接化 ( がみられる中, ), とくに ∼ 年の危機の波及速度の加速, 影響度の高まり 自体の抱えるリスクにも一段の留意が必要になってきていることも, 融資の質的変革を象徴している。 以下では, そうしたリスクに焦点を当てて, 詳しく考察する こととする (ここでは, , 同 を参考にした)。 の金融機関としての特色と内包されているリスク ① が通常の銀行とは仕組みが異なることは前述のとおりである。 具体的には, 融 資の返済を確実にする手段として, まず借入国との関係において優先的債権者の立場にある ことが暗黙の了解になっていること, また借入国の返済義務をいわば無期限に延長すること ができることである。 もともとは, 融資は短期を対象とし, 当該国の一時的な流動性 不足を緊縮的な経済プログラムを伴いつつ補い, 返済も確実であるため, 債権国たる加盟国 にとって に保有する準備資産はリスクとは無縁 (リスク・フリー) とみなされてきた。 しかし, 近年のように危機の中で 融資が巨額, 中期的なものになると, 信用リスクと は無縁というわけにはいかなくなる。 の融資には, すでに質的・量的な信用リスクが内包されているといえる。 質的には, プログラムの効率性の劣化」 ( 「 ) である。 これは ) 経済調整の規模の割に融資量が過大になりつつある た予防的ファシリティに関しては, ということや, とくに新たに導入され が大半事前的な調整政策を要請するとの決定をし ていることである (これにより経済動向の事後的定期的チェックができにくくなる)。 量的な面では, 前述の質の面と表裏をなす。 まず融資量が急増し長期化すると, 当該国の 債務不履行を回避するため借り換え措置と経済プログラムの継続が必要となり, これが繰り 返されると, 短期流動性の供給という 本来の使命と背馳し, そこに信用拡大リスク ) 例えば, ウクライナの場合, 経常収支赤字が目立った に対しスタンドバイにより できる。 同国はその後 年から 年から 年にかけても経常赤字 (対 から 年にスタンドバイ融資 (年平均 は 年から 年 (対 年まで融資が実行された (年平均 億 比の年平均 %) ) とみることが %) を続け, ) を受けている。 両期間中, 名目 %の拡大, 経常赤字額 (同) は2倍程度の拡大であるのに対し, みたことになる。 ただし, 比の年平均 億 年 (年平均額) 融資額は8倍弱の増大を 年2月末現在の同国向け融資残高のクォータ比は %にとどまって いる。 今回の危機の前, の で推移, この間の名目 億 年にポルトガルは %であった。 その後 と, この間実に 年から 億 額は約2倍増であった。 倍の著増である。 則 (3年間累積のクォータ比 の 融資を受け, その年の経常赤字幅は 年にかけての経常赤字の対 比は6%から %の間 融資 (拡大信用供与) 額は1年当たり 年2月末の融資残高は, クォータの %) を大きく逸脱する水準を示している。 %と従来の原 立教経済学研究 ( 第 巻 第2号 同前< 年 >) が生じてくる。 融資の 長期化は, それだけ利用可能通貨が特定国向けに固定されることになり, にとり流動 ) 性リスクも高まる 。 加盟国における不安定な対外債務の動きを勘案して, が統一された明確な評価基準 に基づき, 説得力のある徹底したリスク分析を提示できればよいが, 実際には実現困難であ ろう。 リスク発生の確実な予防も難しい。 そうであれば としては, 過剰な借入国が返 済不能に陥った場合を想定して, 他の対外ポジションにゆとりのある国から, 支援の保証を 取り付けておくことが重要であろう (同前< >, の資金基盤拡充の一環として進められた, みた )。 第2章で の拡大や二国間借入取極が, こ れに相当する。 ②担保の問題と与信集中リスク は融資に際し借入国から担保の差し入れを要求することはない。 これは基本的に の流動性が全加盟国からの出資金のプールにより保全され, これまで動静が比較的安定して きたためであると考えられる。 また実際問題として, 流動性の高い担保の提供能力は, 各国 によって相当の差異があり, 融資面での の公平性を保つうえで, 担保の提供を求める ことは適当でないと思われる。 融資の返済を確実にするための担保の代替機能として, きめ 細かい融資条件 (コンディショナリティ) が と借入国との間で合意されてきたと考え ることができる。 一方, 銀行の場合と異なり, は借入国の地域や経済規模, 実施時期の選択について 主体的にバランスをとることも実際上難しい。 とくにグローバルな危機の局面にあっては, 一部の国が巨額の借入を同時発生的に ちなみに, 融資額の に求めるため, 集中リスクは不可避ともいえる。 年末時点でみると, 大口借り入れの最大手であるギリシア向け融資残高は全 %を占め, また上位3か国 (ギリシア, ポルトガル, アイルランド) のシェアは %に上る )。 また融資 (各種合算) 1件平均のコミット額は 百万 で にすぎなかったものが, 年から 年から 年までの5年間では約 9倍増をみている。 これらの集中状況の分散を図ることは, 年までの5年間 億 にまで がいわば受身的に借入要 請を受ける立場にあるだけに, ほとんど不可能である。 ) 年4月末現在, で, ソマリア ( 億 に対する6カ月以上の延滞は合計約 ), スーダン ( っている ( ) 年4月末, 欧州全体で 占める ( 億 億 ), ジンバブエ ( (融資残高総額の 億 %) ) の3か国にとどま )。 %, 中東・中央アジアで7%とこれら2地域で融資残高のほとんどを )。 近年における ③借入国の財政不均衡を対象とする 業務の質的変革について (上) 融資 上記の集中リスクの問題とも関連するが, 近年になるほど の融資規模・プログラム 対象期間, 返済期間等の面で条件緩和が目立つが, その典型はユーロ圏諸国向けである。 そ のプログラムの中でも, は当該国が財政刺激策のために融資を利用することすら受け 入れている。 いうまでもなく, 財政刺激策による対外ポジションの改善は非常に困難で あって, 例えば貿易赤字は, 長期的にしか削減できないことが経験上分かっている (同前 > < )。 もっとも, 融資事由としての国際収支の不均衡が形骸化し, 財政収支の不均衡も融資事由 はこれ になると言い切れるかどうかについては, 留意が必要と思われる。 なぜなら, までのところ, 公式には財政問題を融資対象にすることを明言してはいないように窺われる ためである。 的には, 借入の際の事由 ( ) は法 協定第5条第3項 ( ) および ( ) で規定されており, ( ) 加盟国は国際収 ( ) によれば, 支上の必要があるときにのみ借入れるべきこと, ( ) 借入資金は, 返済を確実に行うため 国際収支の根本問題を是正するために使用すべきことが謳われている。 また, 「引き出され た資金の使途が特定されることはないが, 国際収支上の必要性を示さなくてはならない」 , (岡村 ) ともされており, この点からは財政赤字の補てんに からの借入資 金が使用されること自体, ルール違反とはいえないことになる。 ( ) は, 財政ファイナンスと国際収支のファイナンスを経済的視点から みれば密接に絡み合っており, 例えば, 拡張的財政政策は経常赤字幅を幾分拡大させる一方, 予期せぬ資本流入の停止に伴い政府の財政ファイナンスが支障をきたすこともあるし, 財政 の対外ファイナンスと国際収支ファイナンスとは相当重複しており, いかなる形態の政府の 財政支援であっても, 事実上の国際収支支援であったりする, などと説明している。 結局, は借入国の経済状態が, 経常赤字と財政赤字の併存があれば, 国際収支問題 ありとの大義名分により融資を実行していると解釈できよう。 実際, 今回の危機前後以降の からの大口借入国7か国すべてで, 経常赤字と財政赤字が併存してきたことが見て取 れる (図4)。 もちろん, こうした傾向が強まれば, 既述のような信用拡大リスク内包の可 能性が高まる筋合いにある。 ④ 経済プログラムの矛盾と矛盾を統一する要素 の支援する経済調整プログラムと民間比有利なコストによる融資は, 民間金融部門 にとって矛盾する要素が含まれている (同前< わち, こうした性格を持つ > )。 すな の融資により当該国の対外ポジションが強化され, 対外借 入の返済能力も向上することが期待できる。 他方, 既述のように は優先的債権者の立 場にある。 このことは, 他の信用供与者を排除 (クラウド・アウト) する結果となり, 彼等 立教経済学研究 第 巻 第2号 年 (資料) 図4 IMF 主要借入国の財政収支と経常収支 (2007∼2013年の平均値, 対 GDP 比) からの資本流入を阻害し, 結局, 借入国の からの卒業をも難しくしてしまう側面があ る。 こうした矛盾を解決する重要な要素は, <同前 融資のもつ触媒効果 ( > ) であろう。 借入国にコンディショナリテ ィを受入れさせ, 政策にコミットさせることにより国際市場における同国への信認の強化と 民間による融資の誘発を図ろうとする政策である。 触媒効果の厳密な計測は別途の作業が必要になると思われるが, 大まかには途上国等を相 手とする過去の公的資金供給と民間資金の動きをフォローすることにより, ある程度確認・ 推量することができる (図5)。 すなわち, 「危機の時期 ( ∼ 年と 年以降) に途上 国等への民間資金の流入が急速に先細る反面で, 公的資金の流入が増える傾向を示している。 一方, 危機の間に挟まれた時期には, 公的資金 (特に 民間資金の流入急増となっている (野口 ケート調査によれば ( %が前向きに評価し (反対 ームの責任者) の , %, 不詳 , ), ) のネットの流入後の返済進捗, )。」 また, が 年に行ったアン 融資の触媒効果について, 資金提供国の %), ミッション・チーフ (加盟国への経済調査チ %が同意している (反対 %, 不詳 %)。 融資の直接の関係者で あるため, バイアスがかかっている可能性はあるが, 一応過半が触媒効果を実感として認め ていることがわかる。 近年における 図5 1 (資料) 野口 ( 図 図5 2 業務の質的変革について (上) 途上国への公的資金の流出入 (ネット) )。 原資料は 途上国への民間資金の流出入 (直接投資を除く, ネット) 立教経済学研究 以上のように 第 巻 第2号 年 融資の実行後, 民間資金の流入が中期的に促進されるとすれば, 加盟 からの卒業が阻害されるという前述の危惧は, 全てのケースを通じてではないに 国の しろ, 杞憂に終わることが期待されると考えられる。 (次号に続く) 参考文献 英文文献 ( ) ( ( ) ) ( ) ( ( ) ( ) ( ) ) ( ) ( ) Ⅰ Ⅱ ( Ⅰ Ⅲ ) ( ) ( ) ( ( ) ) ― ( ) ( ) ( ( ) ) ( ) ( ) Ⅰ Ⅲ ( ) ― ( ( ) ( ) ) ( ) ( ) 近年における ( 業務の質的変革について (上) ) ( ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ( ) ) ) ( ) ( ( ( ) ) ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ( ) ( ) ) ( ) ( ( ) ( ) ( ) ( ) ) ― ( ( ) , ) ( ) ― ( ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ( ) ― ) ( ) ) 立教経済学研究 ( ) ( ) ( ) ) ( ) 巻 第2号 年 ( ( ( ( 第 ) ( ) ) ) ( ) ( ( ) ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ( ( ) ) ― ( ( ) ( ) ( ) ) ( ( ) ( ) ) ( ( ) ( ) ) ( ― ( ( ( ) ― ) ) ) ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ( ) ) ( ( ) ( ) ) ― ( ) ( ) 近年における ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) 業務の質的変革について (上) ― ( ( ) ) ( ( ) ( ) ( ) ( ( ) ( ) ( ) ) ( ) ( ) ― ( ( ) ) ― ( ( ) ( ― ) ( ) ) ( ( ) ) ( ) ― ( ( ) ( ) ) ( ) ― ( ( ) ( ) ( ) ( ( ) ― ( ( ) ― ( ( ) ) ― ) ) ) ( ) ) ( 立教経済学研究 ) ( ( ) ( ) 巻 第2号 ) ( ) ( ) 年 ) ( ( ( 第 ) ( ) ) ( ( ( ( ) ) ) ) ( ) ― ( ( ) ( ) ( ( ) ( ) ) ― ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ( ( ) ) ) ( ( ) ( ( ( ) ) ( ( ) ) ) ) ( ( ) ( ) ) ( ( ) ( ) ( ) ) ( ) ( ( ) ( ) ( ( ) ( ) ) ) ( ( ) ) ( ) ( ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ) ( ) ― ( ) ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ( ) ( ) 近年における ( 業務の質的変革について (上) ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ) ) ( ( ) ( ) ( ) ) ) ) ( ( ) ) ( ( ( ) ( ( ( ) ( ( ) ( ) ) ( ) ( ) ( ) ( ) ) ) ( ( ( ) ( ) ) ) ( ( ( ( ( ) ) ) ( ) ( , ( ) ( ) ) ( ( ) ( ) ) ( ) ( ( ) ) ( ) ( ) ( ) ( ( ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ) ) ( ) ( ( ) ) ( ( ) ) 立教経済学研究 ( ) 第 巻 ( ( ) ( ) ( ) ( ) 第2号 年 ) ( ( ) ) ) ( ( ( ( ) ) ( ) ) ( ) ( ( ) ) (ローレンス・ ・マッキラン他 [編] < 改廃論争の論点 東洋経済新報社) ( ) ( ) ( ( ) ) ( ) ( ( ( ) ) ) ( ) ( ) ( ( ( ) ) ) ― ( ) ( ( ) ) > 近年における ( ) ( ) 業務の質的変革について (上) ( ( ) ) ( ) ( ) ( ( ) ) ( ) ( ) ( ) 邦文文献 安東次男他 [編] ( ) ニューフロンティア国際関係 伊藤正直・浅井良夫 [編] ( 岩田勝雄 ( ) 戦後 東信堂 史―創生と変容 名古屋大学出版会 ) 「アメリカの覇権と国際経済関係の展開」 立命館経済学 岡村健司 [編] ( 翁百合 ( ) ) ) ) 坂元浩一 ( ) ) 仲浩史 ( エティック国際関係学 出版 東信堂 改革と通貨危機の理論:アジア通貨危機の宿題 国宗浩三 [編] ( 岐路に立つ 勁草書房 :改革の課題, 地域金融協力との関係 ・世界銀行と途上国の構造改革 ) 「 月) 大蔵財務協会 不安定化する国際金融システム 奥田宏司他 [編] ( 国宗浩三 ( 国際金融危機と ( 英文エッセイコンテスト への日本の貢献」 説明会, 財務省 根本忠宣 ( ) 野口嘉彦 ( ) 「経済システム安定に役立つ知的支援を目指して―日銀による知的支援の概要」 ( 基軸通貨の政治経済学 アジア経済研究所 大学教育出版 学文社 ) 「国際的な最後の貸し手機能と 年3月 日 , 第 巻第1号 (上)・(下)」 年7月 立教経済学研究 日, 第 巻第4号 , 立教大学経済学研 究会 ( ) 「国際的な政策協調を巡る問題と の役割」 総合政策研究紀要 第 号 (総合政策 学部創立 周年記念号), 尚美学園大学, ( ) 「調査報告2: をめぐって」, 山口義行 [編] 終わりなき世界金融危機:バブルレ 立教経済学研究 ス・エコノミーの時代 毛利良一 ( 米倉茂 ( ) ) 巻 第2号 年 岩波書店, グローバリゼーションと ・世界銀行 すぐわかるユーロ危機の真相 奥寺, 伊東, 駒木 ( 梅原季哉 ( 第 大月書店 言視舎 ) 「 8崩壊危機」 朝日新聞 3月 日朝刊 版1ページ ) 「 8の時代は終わった」 朝日新聞 3月 日朝刊 版 ページ ) ) 月 短期流動性ファシリティ ( 予防的クレジットライン ( 輸出変動補償融資 ( ) ) ) ∼ 月 月 年4月 年 年4月 年 ∼ 年2月 年3月 ∼ ∼ 月 年3月 年 補完的準備補償融資 ( ∼ 年9月 年3月 ∼ コンピュータ 年問題融資 ) ( ) 月 石油危機の鎮静。 年問題による対外収支問題発生の可能性に対応す 利用皆無により廃止。 利用度が極めて低調なことから 廃止。 予防的に使用不能など, 使い勝 ・確固たる経済政策を実施しているものの, 国際資本市場の動向によ 手に難点。 フレキシブル・クレ り一時的な流動性問題に直面している国に短期的, 大規模, かつ迅 ) の設 ジット・ライン ( 速, 前倒しに融資を行う。 立により発展的に解消。 ・通貨危機等の波及に伴う国際収支の困難に機敏に対応するための予 条件緩和にもかかわらず利用皆 防的資金枠。 無のため廃止。 ・一時的な輸出の落込みないし過剰な穀物輸入に対する中期的な支援。 ・市場の信認が危殆に瀕するような事態を背景とする国際収支の困難 利用減少に伴い廃止。 (巨額の資本流出に伴う多額の資金補填の必要性) を短期的に支援。 ・コンピュータ るもの。 ・経常収支に対する偶発的な外生的ショックに備えることを趣旨とす 資金の利用がほとんどなくなっ る。 たため廃止。 原油価格の落着きに伴い停止。 ・計画経済から市場経済への移行の初期段階を支援する (比較的少額, 時限立法的措置。 緩和的条件)。 ・原油価格の高騰への対応。 価格安定効果微小。 両支援策の整理統合と近年の一 般資金利用の弾力化の考え方を 反映。 ・加盟国の農産物等価格安定基金の資金繰りを支援するための融資。 廃止の事由 融資の目的 IMF 融資制度の推移 ・突然かつ予測不可能な自然災害による国際収支悪化への支援 ( 年導入, ) お よび紛争に伴う国際収支問題への支援 ( 年導入, )。 表1 年 月 に ・湾岸戦争中に高騰した原油価格に対応。 追加, 年末停止 年4月 年4月 ∼ 年4月 ∼ 年3月 年6月∼ 年 年 年8月 年初 ) ) ) 年∼ 年∼ 実施期間 輸出変動補償および偶発融資のうち偶発融資部分 ( ) 輸出変動補償および偶発融資のうち 原油輸入融資部分 ( 体制移行融資 ( 第2次オイル・ファシリティ ) ( 第1次オイル・ファシリティ ( 緩衝在庫融資 ( 緊急支援 ( 融資制度の名称 (1) 廃止された融資制度 (注1) (2013年12月末) 近年における 業務の質的変革について (上) ) 拡大構造調整ファシリティ (注2) ( ) ∼ 月 年7月 年 ∼ 月 年7月 月 月 年 年 ∼ 年 年3月 年 月 ∼ 年8月 年 月 ∼ 実施期間 スタンドバイ取極 ( ) 融資制度の名称 年6月 導入時期 (理事会承認) か月 か月) 適用期間 ・短期的な国際収支問題への対処。 新興国・先進 国を対象とし, 非譲許的融資の大半を取扱う。 ∼ 対応方針が 年春以降弾力化され, 予防的・ (最長 緊急的な目的での活用, 前倒し利用, 基準限度 額を超過する借入 (ケース・バイ・ケースで 融資の目的, 要件等 ∼ 年 返済期間 (支払から) ) 1年間に % 累計 % 限度額 (対クォータ) 融資条件の概要 , 岡村健司 [編] ( 大蔵 ・基準金利 ( 金利) + b p , 増額に 対し金利上乗せ (サー チャージ) ・コミットメント・フィ 金利・手数料 (注1) 国際金融危機と ・経済の多様性を欠き外貨準備増強に限界のある低所得国が, 外生的 高次アクセス部分を に, ショックにより国際収支問題に直面している際に, 譲許的融資で支 外生ショックに伴う緊急性を要 援 (貧困削減・成長ファシリティ信託基金< >の下 するものを に吸収整理。 で導入されたもの)。 の要件不要に。 借入国の要望に合わせ, 一層弾 ・貧困削減と成長促進にさらに重点を置き, 最貧国向けに融資。 世銀 力的に支援すべく, 拡大クレジ との協働。 (融資限度:最大クオータの %<最大 %, 例外的 ット・ファシリティ ( ) に %>, 融資期間, 返済期間は と同様) に移行。 を量的に拡充。 成長促進を目指した構造調整に重点。 (融資限 低所得国の多様な要望に応える 度:クオータの %<最大 %, 例外的に %>, 融資期間, ため, に移行。 返済期間は と同様) ・ ・低所得国における国際収支問題への対応を, 譲許的条件で支援する。 譲許的支援強化のため, (融資限度:クオータの %, 融資期間3年, 返済期間 ∼ 年, に移行。 金利 %) 第2号 ①一般資金勘定によるもの (非譲許的条件) 廃止の事由 巻 (2) 現行の融資制度 (概要, 2013年12月末現在) 融資の目的 ・対外金融面へのショックに対処。 強固な経済的基礎条件と政策枠組 利用が不名誉の烙印を残す恐れ み, 政策実績を有する国が対象。 などから, 利用が限られたため ・フレキシブル・クレジット・ラインよりも適格要件はやや緩やか。 予防的流動性枠に切換え。 第 (資料) 主として の各種 , , ( , ) 財務協会, 国宗浩三 ( ) 改革と通貨危機の理論 勁草書房等を参照した。 (注1) 制度の変遷を示すことを趣旨としているため, 融資条件等の詳細は省略した。 (注2) 低所得国向けの譲許的融資 ( の活用)。 外生ショック・ファシリティ (注2) ) ( 貧困削減・成長ファシリティ (注2) ( ) ) 構造調整ファシリティ (注2) ( 予防的信用枠 ( 融資制度の名称 立教経済学研究 年 ) 年 月 年3月 フレキシブル・クレジット・ ライン ) ( 予防的流動性枠 ( 年9月 ないし を拡充) 年4月 (従来の 導入時期 (理事会承認) 拡大信用供与 ( ) ) 高アクセス予防的取極 ( 融資制度の名称 通常3年 (最長4年) 1年∼2年 6か月 (短期 的国際収支困 難<潜在的な 場合を含む>) または1∼2 年 ・これまでの経済動向が良好であり, 政策枠組も 非常に堅実な加盟国が, 危機の予防ないし軽減 のために必要とする資金に対応。 事前に設定さ れた適格基準に合致の要。 引出に際しては条件 なし。 ・予防的信用枠 ( ) を拡充改善。 より 適格要件を緩め, 良好な経済ファンダメンタル ズを維持しつつも政策分野で幾分の脆弱性を有 し, 利用の困難な国に対し弾力的・迅速 に流動性を供給。 これにより市場の信認維持, 危機波及の抑制, 危機による損失削減を図る。 ・要件として, 対外収支, 市場アクセス, 財政・ 金融政策, 金融規制監督, 十分なデータ収集面 で堅実な政策を実施していること。 に同じ 適用期間 ・経済構造面からくる中期的国際収支問題に対し, より長めのプログラムにより, その調整 を支援。 ・スタンド・バイ取極の枠組みとして, 危機回避 のため, に適格でない加盟国による多額 かつ前倒しの予防的な借入を可能とする。 通常 の四半期見直しを半年に延長。 ・債務の維持可能性, 堅実な政策運営, 良好なマ クロ経済運営等が要件。 が判断) などが可能。 ・経済構造面の量的条件 (パフォーマンス・クラ イテリア) を撤廃。 融資の目的, 要件等 年 ∼ 年 ∼ 年 ∼ に同じ 返済期間 (支払から) %まで に同じ ー (引出時に返戻) あ り ・引出時にサービス・チ ャージ支払いの要 金利・手数料 (注1) % (6か月の場 % (1年目) % (全期間) 合) ・金利, コミットメント ・フィー, サーチャー ジは と同様。 ・金利は に同じ 限度なし (ケース・ ・コミットメント・フィ バイ・ケースで判断) ー, サービス・チャー ジあり ・基準金利+2% (クォ ータの %超部分), +3% ( %超が3 に同じ (例外 年を超えた場合) 上乗 的に基準限度を超え せ る場合あり) ・コミットメント・フィ ー, サービス・チャー ジは とほぼ同様 累計で 限度額 (対クォータ) 融資条件の概要 近年における 業務の質的変革について (上) 年 ラピッド・ファィナンシング ・インストルメント ( ) 年7月 スタンドバイ・クレジット・ ファシリティ ( ) ∼ か月 3∼4年 (最長5年) 適用期間 年 4∼8年 ∼ 返済期間 (支払から) 金利・手数料 (注1) ・金利, コミットメント ・フィー, サーチャー ジは と同様。 同上 ・金利は年 % (ただ し 年末まではゼロ, 2年毎に見直し) 譲許的融資残高総計 ・金利は 年末までは で1年間に %, ゼロ (2年毎に見直し) 累計で %まで 限度額 (対クォータ) 融資条件の概要 %, 累積 金利・手数料 (注1) 第2号 ・ある程度安定的なマクロ経済に到達していても 依然外生的ショック等による短期的な資金ニー ズや調整の必要性 (通常2年以内の解決が前提) のある低所得国に対し, 支援を行う。 外生ショ ック・ファシリティ ( ) の高次アクセス部 分を代替。 ・安定的で持続可能なマクロ経済達成のためのプ ログラムの支援を通じ成長の促進, 貧困の削減 ・長期化した国際収支問題を支援, 安定的で維持 可能なマクロ経済の実現を通じ, 確実な貧困削 減と成長を促進。 ・監視対象のマクロ経済変数:通貨総量, 外貨準 備高, 財政収支, 対外借入。 ・構造調整面の留意点:金融部門運営の改善, 社 会的セフティネットの構築, 財政運営の強化。 ・貧困削減・成長信託基金 ( , 特 定加盟国等が出資) を資金源とする。 融資の目的, 要件等 1年間に で % 限度額 (対クォータ) 融資条件の概要 巻 年7月 導入時期 (理事会承認) ∼ 年 返済期間 (支払から) 第 拡大クレジット・ ファシリティ ( ) 融資制度の名称 か月 か月) 適用期間 ・従来の緊急支援策 ( ) に代わり, より広範囲の緊急性のある 国際収支の困難 (市況商品の価格急変, 自然災 害, 紛争等によるもの等を含む) を支援。 ∼ ・加盟国は趣意書で政策の概要説明とその遵守を (最長 約束の必要あり。 ただし総合的なプログラムと その見直しは不要。 ・留意分野は, 統計制度, 財政・金融・外国為替 制度等。 融資の目的, 要件等 ②貧困削減・成長信託基金によるもの (低所得国 (注2) 向け譲許的条件) 月 導入時期 (理事会承認) 融資制度の名称 立教経済学研究 年 年7月 導入時期 (理事会承認) 重債務貧困国イニシアティブ ( 政策支援インストルメント ( ) 政策の名称 ) 月 導入の目的, 資格要件と政策目標等 1回限りの引 出や一定年数 内での繰り返 しの引出 適用期間 年 利用期間 ∼ 返済期間 (支払から) 金利・手数料 (注1) 利用方法 ・重債務貧困国の対外債務を維持可能な水準まで削減することを目的とする (主用国際機関, とくに世銀と協調)。 他の国際 機関, 民間機関にも協力を要請。 年6月, 国連ミレニアム開発目標 ( ) 達成に向けマルチ債務救済イニシアティブ ( ) により補強。 債務国 ・ 通常, 半年毎の見直し。 プログラム下の経済パ フォーマンスの評価に 際しては理事会が重要 な役割を果たす。 見直し方法等 1年に %, 累 計で % (外生 ・金利は, 年末まで はゼロ (2年毎に見直 的ショックの場 し) 合, 1年に %, 累計で %) 限度額 (対クォータ) 融資条件の概要 と加盟国間の親密な政策対話を促進し, 同時に当該 国の政策の健全性に関し資金提供国・債権者その他一般に との同時利用は 明確な情報を提供する。 不可。 ・対象は, 全ての貧困削減・成長信託基金への適格要件を備 短期融資の必要が生じ 1∼4年間 え, 当座ないし先行きの国際収支問題のない加盟国で, 強 た場合や不確実性やリ 力な貧困削減・成長促進策と整合的な安定的, 維持可能な (最長5年ま スクが高まった場合に で延長可能) マクロ経済状態を概ね達成している国。 は, ないし , ・加盟国が貧困削減の戦略目標を推進するに際し, 当局者を 予防的 との同時 支援。 当該国は, 自国経済の実情に合った政策目標や改革 利用可能。 戦略を自由に策定できる。 対象分野は, 財政部門運営の改 善, 金融部門の強化, 社会セフティ・ネットの構築等。 ・ ・緊急な国際収支問題に直面する加盟国 ( 適格) に対し迅速に格段の譲許的条件で, かつ プログラムに基づくコンディショナリティなし に少額を融資する。 それにより貧困削減, 成長 促進の目的に資する。 ・各種ショック, 自然災害, 経済の脆弱性からく る緊急事態の発生等, 種々の状況に対し弾力的 に支援を行う。 従来の緊急支援 ( ) をさらに合理化したもの。 無条件 引出が可能。 年9月 年 導入時期 融資の目的, 要件等 を目指す。 ・早急な国際収支問題への対応の必要性が要件。 ・監視対象のマクロ変数, 構造調整面の留意点, 資金源は, 上記 と同様。 (3) 融資以外の低所得国支援策 (2013 年 12 月末現在) ラピッド・クレジット・ ファシリティ ( ) 融資制度の名称 近年における 業務の質的変革について (上) 利用方法 見直し方法等 大蔵財務協会, 国宗浩三 ( ) ・ハイチの壊滅的地震発生を契機に, 大災害に見舞われた最貧国の債務削減を目標として設立。 これにより利用可能となった 資金は, 災害と復興に伴う例外的な国際収支上の必要資金として活用されることが企図され, これが新たな資金提供者によ るファイナンスと による譲許的な流動性支援を補完することとなる。 ・適格要件は, と 借入対象国。 具体的には, ①人口の少なくとも3分の1が直接被害を受けていること, ②生産 能力の4分の1が破壊されるか, の %超が被害を受けていること。 当初の基金枠は の原資から約 億ドル。 ・被災国は, 2年以内に返済時期の来る 債務の元利払いを免除される。 被災により多額かつ長期持続的国際収支問題を 生じた場合には, 債務残高の解除も可能 ( は 年7月, ハイチの債務残高の全額解除を決定)。 が , 世銀グループの国際開発協会 ( ), アフリカ開発銀行の3機関に対し, ・世銀による イニシア ティブの資格要件を満たす加盟国の債務をゼロにすることを提案。 これによる余裕資金で当該国が国連ミレニアム開発目標 を達成することを目指す。 ・ 年3月には, 西半球の加盟国向け債務救済のため米州開銀が参加。 の資格要件は, の要件を満 たしていること, 年末に からの借入残高を有すること, 1人当たり国民所得が ドル以下であること。 さらに 理事会は, 当該国が への責務を果たし, マクロ経済政策・貧困削減・財政支出政策の面で満足な実績を示してい ることを条件として要請。 ・ 年9月末の対象国は, か国。 救済額 (名目ベース) 億ドル。 元利払い, 貧困削減関係支出等に関し, 当該国は ・世銀に対し定期的に報告。 ・ ・低所得国が, その資金需要と元利払い能力をバランスさせ, 長期的に債務を維持可能とする方法につき, 当該国独自の実情 に合わせて指針を示すことを主目的としている。 債務は公共部門, 民間部門のものを含む。 ・本枠組みでは, 借入国について先行き 年間の債務負担および対外的・政策的ショックに対する脆弱性を計測, そこから得 られた基準値 (債務残高対輸出・ ・歳入比率) と政策・制度の強度に照らして, 債務持続性を評価するとともに, 借 入国 (および資金供与側) の債務重圧のリスクを抑制するための借入策を勧告する。 ・本枠組みが先行き見通しの性格を有していることから, 債務面の難局に関する早期警告システムとしても機能。 第2号 (資料) 主として の各種 ( ) , 岡村健司 [編] ( ) 国際金融危機と 改革と通貨危機の理論 勁草書房等を参照した。 (注1) 金利, 手数料等の詳細は, の各種関係 を参照。 (注2) 低所得国は, の資格要件 (世銀の譲許的貸出に際しての1人当たり国民所得額が基準) に合致する先である。 年1月 利用期間 巻 ) 年6月 マルチ債務救済イニシアティブ ( ) 導入の目的, 資格要件と政策目標等 ( 年9月末現在で か国) は, 貧困削減にコミットし, 良好な政策運営の実績を示す必要あり。 実績評価により, 最初 は債務の一部, 次に残りの債務の削減を受ける。 削減後も, 慎重な対外債務の管理運営持続が必要。 ・ の当該資金源は ( 分担部分, 約 %)。 年末現在の対象国は か国。 救済額は約 億ド ル ( 年末の現在価値ベース)。 債務削減により浮いた資金は, 社会福祉・教育等に活用される。 第 災害後債務救済基金 ( 年4月 導入時期 債務持続性枠組み ( ) 政策の名称 立教経済学研究 年