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-J-1- 自然災害および技術的災害に対するレジリ エンス(回復力)の
自 然 災 害 およ び 技 術 的災 害 に 対 する レ ジ リ エ ンス( 回復 力)の 構築 数 分 前 の 警告 に よ っ て生 命 を 救 える こ と も あ る 。 リ スク の 発 生 を定 期 的 に 再検 討 す る こ と が 重 要で あ る 。 たと え ば 、 気候 変 動 や そ の 他 の 変化 の 結 果 とし て 極 端 な気 象 現 象 ( 暴 風 雨 、熱 波 、 野 火な ど ) の 発生 頻 度 や 激 し さ が 高ま る 可 能 性が あ り 、 新た な 地 球 物 理 学 的 デー タ や そ の他 の デ ー タに よ っ て 、 そ れ ま で 認識 さ れ て いな か っ た 災害 要 因 が 明らかになるかもしれない。 概 要と背 景 災 害 は 社 会に 甚 大 な 社会 的 ・ 経 済的 損 害 を も た ら す。 災 害 発 生の 機 会 を 減ら し 、 レ ジ リ エ ン ス強 化 の た めの 新 た な 戦略 を 採 用 す る こ と によ り 、 そ うし た 損 害 を減 少 さ せ る こ と が でき る 。 最 近の 災 害 で の経 験 か ら 得 ら れ た 教訓 も 有 益 であ る が 、 レジ リ エ ン ス 構 築 の 指針 と し て は、 系 統 的 かつ 科 学 的 な リ ス ク 監視 と 危 険 の順 位 づ け に基 づ い た も の の 方 がよ り 効 果 的で あ ろ う 。こ の よ う な 根 拠 に 基づ い て 構 築さ れ た 戦 略は 、 原 因 に か か わ らず 広 範 な 災害 に 共 通 する も の で あ る た め 、そ う し た 戦略 の 実 施 は重 要 な 投 資 と な り うる 。 各 国 政府 は 、 国 家計 画 に も 開 発 援 助 計画 に も レ ジリ エ ン ス 戦略 を 組 み 入れることが急務である。 災 害によ る損 害 災 害 に よ る損 失 や 被 害は 増 加 傾 向に あ る 。 全 世 界 で の自 然 災 害 によ る 年 間 損失 額 が 初 めて 2005 年、2008 年、2011 年に 2000 億 ド ル を 超 えた 。 一 方 、死 亡 者 数 に関 す る デ ー タ で は 明確 な 傾 向 は見 ら れ な いも の の 、 先 進 国 の 方が 死 亡 者 数は は る か に低 く 、 レ ジ リ エ ン ス対 策 の 有 用性 が 示 唆 され て い る。 災 害 に よ る損 害 が 増 大し て い る 要因 の 一 部 と し て 、 脆弱 な 場 所 での 人 口 や イン フ ラ の 継 続 的 な 増加 、 イ ン フラ の 老 朽 化や 機 能 低 下 、 警 報 シス テ ム や 保護 シ ス テ ムに 関 し て 必 要 と さ れて い る 制 度的 取 り 決 めや 投 資 の 遅 れ な ど が挙 げ ら れ る。 将 来 の 海面 上 昇 や 気 候 変 動 によ っ て 災 害の リ ス ク や影 響 が 高 ま る お そ れも あ る 。 海辺 の マ ン グロ ー ブ な ど 、 災 害 の緩 衝 と な る自 然 の シ ステ ム が 弱 っ て い る ケー ス も 多 い。 社 会 は 、エ ネ ル ギ ー 、 食 糧 、医 療 、 情 報、 運 輸 、 金融 を 供 給 す る 相 互 作用 的 な イ ンフ ラ へ の 依存 度 を ま す ま す 高 めて き て い る。 そ の 中 のい ず れ か 1 つ に 障害が 起こると、 他のサービ スに ま で影響が及びうる。 多 く の 場 合、 災 害 へ の対 処 は 個 々の 国 の 能 力 を 超 え てお り 、 複 数の 国 が 影 響を 受 け る 可能性がある。 災害 自 然 災 害 には 、 地 震 、地 滑 り 、 ハリ ケ ー ン 、 洪 水 、台 風 、 火 山噴 火 、 感 染症 の 世 界 的 流 行 な どが 含 ま れ る。 技 術 的 災害 に は 、 ダ ム や 堤 防、 エ ネ ル ギー 系 統 、 情報 ネ ッ ト ワ ー ク と いっ た 社 会 的に 重 要 な イン フ ラ の 偶 発 的 な もし く は 人 為的 な 故 障 や崩 壊 が 含 ま れ る 。 連鎖 的 効 果 によ っ て 災 害が 複 合 化 す る こ と も多 い ( 東 日本 大 震 災 での 地 震 ・ 津波・原子炉事故など)。本声明では、これ ら す べ て のケ ー ス に つい て 「 災 害」 と い う 語 を 用 い る。 災 害 の 中に は 徐 々 に発 生 す る も の も あ るが ( 干 ば つ、 感 染 症 流行 、 地 盤 沈下など)、ここでは短期間で発生する災害 に焦点を絞る。 ほ と ん ど の災 害 は 、 いつ 発 生 す るか を 正 確に予測することは不可能である。しかし、 科 学 的 研 究と 、 モ ニ タリ ン グ や 監視 を 入 念 に 行 う こ とに よ り 災 害要 因 と そ の発 生 に つ い て の 理 解を 深 め る こと が で き 、有 益 な 早 期 警 戒 を 提供 で き る こと も 多 い 。地 震 と そ れ に 伴 う 津波 の よ う な事 象 で さ え、 わ ず か -J-1- 災 害に対 する レジリ エン ス レ ジ リ エ ンス と は 、 シス テ ム お よび そ の 構 成 部 分 が重 大 な シ ョッ ク に よ る影 響 を 適 時 か つ 効 率的 に 予 測 し、 吸 収 し 、対 応 し 、 あ る い は そこ か ら 回 復す る こ と が可 能 で あ る こ と 、 と定 義 す る こと が で き る。 レ ジ リ エ ン ス の 能力 は 、 社 会の あ ら ゆ るレ ベ ル や 部 門 の 制 度の 中 で 構 築さ れ る べ きで あ る 。 多くの場合、レジリエンスが強化されると、 比 較 的 頻 度の 高 い 緊 急事 態 に よ って 直 接 的 に 引 き 起 こさ れ る 死 傷者 数 や 経 済的 損 失 の 減 少 に 役 立つ と 同 時 に、 将 来 の 災害 に 対 す る レ ジ リ エン ス が 構 築さ れ る と いう 、 複 数 の利益がある。 レ ジ リ エ ンス の 構 築 には 次 の よ うな 要 素 が ある。 ・ 災 害 リ ス クの 系 統 的 な評 価 と 監 視、 根 本 原 因 に つい て の 理 解を 深 め る ため の 継 続 的 研 究、 警 報 シ ステ ム の 改 善、 そ う し た リ スク に 対 す る国 民 な ら びに あ らゆるレベルの政府機関の認識 ・ 備 え 、 対 応、 回 復 に おけ る 計 画 およ び 協 力 の 責 任が コ ミ ュ ニテ ィ ( 民 間部 門 お よ び 市 民組 織 を 含 む) に 受 け 入れ ら れ る よ う にす る た め の文 化 や イ ンセ ン ティブの構築 ・ 土 地 利 用 やそ の 他 の 土地 区 画 ・ 建築 法 規など、 (災害)軽減策や予防策の長期 的な計画、投資、施行 ・ 先 進 的 な 計画 と 迅 速 な対 応 、 な らび に リ ス ク 要 因の 評 価 に 関す る 研 究 にお け る国際協力 レ ジリエ ンス 構築の 構成 要素 国 際 社 会 、特 に 災 害 リス ク 軽 減 を目 指 す 国際会議(GPDRR)および 2005 年に 168 カ 国 に よ り 採 択 さ れ た 兵 庫 行 動 枠 組 2005 -2015 に おいて、重要な取り組みが進めら れ て い る 。 ICSU(the International Council for Sciences (国際科学会議))は、 2010 年に 10 年間にわたる災害リスク統合 研究計画(IRDR)を立ち上げた。国連国際 防災戦略(ISDR)で は、現在、2015 年以 後 の 枠 組 みに つ い て 協議 を 進 め てい る 。 こ う し た 活 動に よ っ て 広範 囲 に わ たる 有 益 な 結 果 や 提 言が も た ら され て お り 、持 続 的 に 注視し、実施していくべきである。 系 統 的 な アプ ロ ー チ の採 用 と 多 面的 な ソ リ ュ ー シ ョ ン( 解 決 策 )の 特 定 が 、レ ジ リ エ ン ス 構 築 の重 要 な 要 素で あ る 。 我々 は 、 下 記の 5 つの局面に特に注目すべきであると 提 唱 し 、 各国 政 府 に 対し 、 国 内 およ び 国 際 的 な 科 学 界に こ う し た活 動 を 行 うよ う 求 め る。 1.継 続 的 な リ ス ク 監 視 と 日 常 的 な 評 価 の た め の キ ャ パ シ テ ィ ー ビ ル デ ィ ン グ (能 力 開発 ): 想定外の災害に対する備えをするのは 困難である。個々の地域、国家、そして 国際社会が、自らの直面する災害リスク を日常的に特定して評価するための戦略 を構築し、被害の発生を抑制しなければ ならない。この点では、継続的な監視が きわめて重要である。 2.公衆 衛生シ ステム の改 善: 発端となる事象が公衆衛生にかかわる ものでなかったとしても、大規模な社会 的混乱が生じると短い期間で伝染病など いくつもの危険につながりうる。災害を 回避するためにも、災害が発生した場合 の対応のためにも、公衆衛生システムを 強化し、維持しておかなければならない。 災害が人々の健康、特に脆弱な人々の健 康にもたらす影響への対応能力を、強固 な公衆衛生システムを構築する上での不 可欠な部分(なおかつ付加的な誘因)と すべきである。また、作物や家畜の健康 についても、食糧安全保障や経済への影 響が大きいため、同様の考えが当てはま る。政府は、地域レベル、国家レベル、 国際レベルでの公衆衛生の備えが適切で あるかを定期的に評価すべきである。 3.高度 な情報 技術( IT) の適用 : 情報技術(地理空間技術も含む)は、 差し迫った災害を監視し、特定し、警告 するためにも、被害や死傷者の場所、種 類、程度を評価して救助の派遣、調整、 配分を行うためにも重要である。国家は、 緊急対応専用の IT システムについて、複 合的役割を果たす共有システムと比較し てどのような潜在的な利点があるか、評 価を行うべきである。いずれにしても、 -J-2- そうしたシステムを効果的に活用するた めには、すべての重要な関係者がかかわ り、国民の参画や教育のための積極的な プログラムを備えた系統的な実施(緊急 対応のゲーミング)が重要である。 ロセスを継続していくよう邁進する。 4.脆 弱 性 を 最 小 限 に す る た め の 計 画 と 技 術 、そし て基 準の実 施: 建築物、道路、電力系統、水道、その 他のインフラの基準を改善し、脆弱性を 低下させるための区画整理をすることに より、災害からの損失を大幅に減少させ ることができる。住民および近代的イン フラの保護を計画することに加え、失わ れると取り戻すことのできない文化遺産 や自然遺産についても保護しなければな らない。革新的な設計、技術、材料に関 する継続的な研究と利用可能な技術や材 料に関する情報の普及が必須である。こ れらを効果的にするためには、そうした 施策が実施されていることを政府が確認 しなければならない。 5.開 発 援 助 プ ロ グ ラ ム へ の レ ジ リ エ ン ス 能 力の統 合: 開発援助プログラムは、被援助国が地 方レベルでも国家レベルでもレジリエン スの能力を構築するための支援をするこ とを可能とする。これが効果的であるた めには、もっとも必要とされているとこ ろに援助が届き、将来の脆弱性が減少す るようにしなければならない。脆弱な 人々や地域にとって特に重要なのが、公 的教育、市民参加、過去の災害からの教 訓の活用、伝達能力である。危機的状況 にあっても、開発援助では被災国の組織 や個人を参加させ、現地の経験や能力を 構築すべきである。 わ れ わ れ の科 学 ア カ デミ ー は 、 世界 中 の 100 を超える科学・技術・医学分野の組織 と協力して、災害原因について理解を深め、 よ り レ ジ リエ ン ス の ある 社 会 に する 方 法 を 見 い だ し 、そ う し た 情報 を 広 く 普及 さ せ 、 必 要 と さ れる 数 々 の 方策 の 実 施 を助 け る プ -J-3- エ ネルギ ーと 水のつ なが り:持 続可 能な未 来 に向け た課 題 ら も 考 察 する 必 要 が ある こ と が 広く 理 解 さ れ て い る 。農 業 へ の エネ ル ギ ー 投入 、 農 業 用 水 の 使 用、 収 穫 後 の損 失 に お ける 効 率 を 高 め 無 駄 を削 減 す る こと が 、 食 糧安 全 保 障 と い う 重 要課 題 に 応 える 際 に 重 要な 取 り 組 みである。 概要 安 価 で ク リー ン な エ ネル ギ ー と 十分 な 量 と 質 の 水 のニ ー ズ 、 そし て 食 糧 安全 保 障 の ニ ー ズ が 、人 類 に と って ま す ま す中 心 的 な 課 題 と な って く る だ ろう 。 こ れ らの ニ ー ズ は 互 い に 強く 結 び つ いて い る 。 一部 の 地 域 で は 、 エ ネル ギ ー の 開発 と 利 用 のた め の 水 需 要 の 高 まり が 、 食 糧生 産 な ど 人間 の ニ ー ズ と 重 要 な生 態 系 の ため に 必 要 な水 の 利 用 を 脅 か し てい る 。 エ ネル ギ ー お よび 水 の イ ン フ ラ な らび に そ れ らに 関 連 す る政 策 の 計 画 や 投 資 に際 し て は 、水 と エ ネ ルギ ー と の 深 い 相 互 作用 を 考 慮 に入 れ る こ とが き わ め て 重 要 で ある 。 そ の 地域 に 固 有 の状 況 お よ び 長 期 計 画に 基 づ い たシ ス テ ム 的ア プ ロ ー チ が 不 可 欠と な る 。 それ ぞ れ の 要因 を 個 別 に 考 え て いた の で は 非効 率 的 で あり 、 食 糧 生 産 や 重 要な 生 態 系 のた め の 水 利用 が 圧 迫 さ れ 、 大 規模 な 停 電 やエ ネ ル ギ ー供 給 不 足 の リ ス ク が高 ま る 。 世界 の ほ ぼ すべ て の 地 域 で 、 エ ネル ギ ー と 水の よ り 効 率的 な 利 用 を 達 成 す る革 新 的 な 方法 が 、 こ のよ う に 互 い に 結 び つい た 課 題 に対 応 で き るか ど う か を決定づける重要なカギとなろう。 し か し 、 エネ ル ギ ー 需要 を 満 た すこ と と 水 の 利 用 可能 性 や 質 の確 保 と の 直接 的 な 相 互 作 用 に つい て は 、 あま り 認 識 され て い な い 。 エ ネ ルギ ー と 水 の利 用 可 能 性へ の 重 大 な 圧 迫 が 多く の 国 や 地域 で す で に感 じ ら れ て お り 、 そう し た 国 や地 域 の 拡 大が 予 見 さ れる。現在の水とエネルギーのインフラは、 広 域 に わ たり 不 十 分 なも の で あ る。 人 口 増 加 の 継 続 なら び に 人 々の 食 生 活 や生 活 様 式 の 変 化 に よっ て エ ネ ルギ ー と 水 の両 方 の 需 要 が 増 加 す る で あ ろ う (基 礎 栄 養 と 基 礎 的 家 庭 用 水 のニ ー ズ に 関わ る 需 要 を別 と し て も)。さらに、気候変動に伴う地域の水循環 の 変 化 は 人間 開 発 に おけ る 危 機 の可 能 性 を 高める。 エ ネルギ ーに は水が 必要 エ ネ ル ギ ーは 現 代 社 会を 動 か し てい る 。 世 界 の ほ とん ど の 地 域で 、 化 石 燃料 を 燃 焼 す る 大 規 模な 火 力 発 電所 に 電 力 を大 き く 依 存 し 、 原 子力 発 電 ま たは 水 力 発 電が 次 い で い る 。 現 在稼 働 し て いる 化 石 燃 料火 力 発 電 所 、 原 子 力発 電 所 、 太陽 熱 シ ス テム は 、 大 量 の 取 水 を必 要 と し 、あ る 程 度 の水 消 費 を 伴 う 。 そ うし た 必 要 量は 冷 却 シ ステ ム の 種 類 に よ っ て大 き く 異 なり う る 。 一方 、 太 陽 光 発 電 や 風力 発 電 な ど、 一 部 の 再生 可 能 エ ネルギーはほとんど水を必要としない。 背景 世界人口は過去 12 年 間で 60~70 億人に 増加し、今後 30 年以内に 90 億人に達する と 見 込 ま れて お り 、 十分 な 食 糧 供給 に つ い て の 迫 り 来る 課 題 に 対す る 懸 念 が広 く 共 有 さ れ て い る。 そ う し た懸 念 の 元 とな っ て い る の は 、 現在 の ニ ー ズお よ び 将 来の 予 想 ニ ー ズから考え て世界の食 糧生産は現 在 の 2 倍 の 水 準 が要 求 さ れ るよ う に な り、 な お か つ 水 資 源 に対 す る 需 要が よ り 高 まる 状 況 下 で 食 糧 増 産を 行 わ な けれ ば な ら ない こ と で あ る 。 農 業は 世 界 の ほと ん ど の 地域 で 飛 び 抜 け て 多 くの 水 を 使 用す る 部 門 であ り 、 エ ネ ル ギ ー 需要 も 非 常 に大 き い た め、 食 糧 安 全 保 障 に つい て は 水 とエ ネ ル ギ ーの 側 面 か 化 石 燃 料 は、 ほ と ん どの 運 輸 シ ステ ム も 含め、世界の現在のエネルギー需要の約 80%を供給している。タールサンド、ガス ハイドレート、タイトフォーメーション(硬 質 地 層 中 )の ガ ス ・ 石油 な ど 重 要性 を 増 し つ つ あ る 「非 在 来 型 」燃 料 を 含 め、 一 部 の 化 石 燃 料 は、 水 の 量 や質 に 重 大 な関 係 が あ る 。 代 替 的な 輸 送 用 燃料 、 と り わけ バ イ オ -J-4- 燃 料 の 生 産も 、 具 体 的な 適 用 次 第で 水 資 源 および水質に重大な影響を与えうる。 水 にはエ ネル ギーが 必要 水 の 量 と 質を 供 給 す るた め に 大 量の エ ネ ル ギ ー を 必要 と す る 場合 が あ る 。多 く の 国 や 地 域 で は、 水 源 か ら利 用 者 ま で長 距 離 に わ た っ て 水を 運 ば な けれ ば な ら ず、 水 を ポ ン プ で 送 るた め に か なり の エ ネ ルギ ー が 使 用 さ れ て いる 。 水 は ある が 汚 濁 がひ ど い 場 所 で は 、 エネ ル ギ ー に依 存 し た 方法 に よ っ て 廃 水 処 理な ど 水 質 改善 が 行 わ れて い る 。 そ の 極 端 な例 が 海 水 の淡 水 化 で あり 、 大 量 のエネルギー投入が必要とされる。 水 ストレ スと 水不足 水 の 量 と 質の 問 題 は 、人 間 の 福 祉と 健 康 に も 、 生 態系 に も 、 重大 な 関 係 があ る 。 現 在 の デ ー タな ら び に 今後 数 十 年 の需 要 予 測 (人口、水集約的な食糧の需要、生活水準、 エ ネ ル ギ ー源 と 最 終 利用 量 ) に よる と 、 水 ス ト レ ス また は 水 不 足の 状 況 に おち い る か 、 も し く は 食料 の 自 給 生産 が で き なく な る と 思 わ れ る 地域 の 数 が 世界 的 に 増 える 。 気 候 変 動 の 継 続と 加 速 な らび に 水 循 環へ の 影 響 に 関 す る 地域 規 模 の 予測 に よ れ ば、 水 ス ト レ ス と 水 不足 が 悪 化 する 地 域 が 世界 の 一 部 で 生 じ る が、 厳 密 に どこ で 生 じ るか は 不 確 か で あ る 。世 界 の 多 くの 場 所 は 降水 、 地 表 水 、 涵 養 帯水 層 に 頼 って い る が 、一 部 の 場 所 で は 、 再生 不 可 能 な化 石 地 下 水に 依 存 し た り 、 あ るい は 帯 水 層の 涵 養 量 をは る か に 上 回 る 取 水が 行 わ れ てお り 、 水 スト レ ス と 水 不 足 の 深刻 な 拡 大 が予 見 さ れ る特 別 な 事 例となっている。 提言 水 は 、 あ る意 味 に お いて は 、 地 域的 課 題 で あ る と 同時 に 世 界 的課 題 で も ある 。 水 の 量 や 質 、 現在 の 使 用 とニ ー ズ 、 将来 予 測 と こ れ ら の 予測 の 不 確 実性 に 関 し て、 個 々 の 国 や 地 域 がそ れ ぞ れ 固有 の 状 況 を抱 え て い -J-5- る 。 食 糧 安全 保 障 と 人間 の 消 費 のた め の 水 供 給 は 局 地的 な 課 題 であ る ば か りで な く 、 地 域 や 世 界的 な 課 題 でも あ る 。 食糧 、 エ ネ ル ギ ー 、 その 他 の 財 の市 場 の 極 端な グ ロ ー バル化が進み、 「バーチャルウォーター(仮 想水)」の大規模な取引が行われ、これによ り 世 界 的 規模 で の 水 スト レ ス は 軽減 さ れ る が 、 局 地 レベ ル で は 増大 さ せ る とい う こ と も あ り う る。 多 く の 者に と っ て 、食 糧 安 全 保 障 の 代 替策 、 よ り 良い 水 管 理 およ び 技 術 の 代 替 策 が必 要 で あ る。 地 域 規 模で の 水 に 関する協力は多くの場合必須である。 エ ネ ル ギ ーに 関 す る 選択 肢 は 、 地方 の 資 源 (存在する場合には)、世界的供給、利用可 能 / 安 価 な技 術 的 選 択肢 の 複 合 的な 組 み 合 わ せ で あ る。 地 方 の 状況 は さ ま ざま で あ る た め 、 世 界全 体 で は クリ ー ン エ ネル ギ ー 技 術 の 幅 広 い選 択 肢 を 必要 と し て おり 、 そ う し た 選 択 肢が 水 に 与 える 影 響 に つい て も 十 分 に 理 解 し、 意 思 決 定プ ロ セ ス の中 で 考 慮 に入れる必要がある。 し た が っ て、 各 国 政 府に 対 し 、 我々 、 科 学 ア カ デ ミー の 代 表 者は 下 記 の とお り 提 言 する: エネルギーと水に関するプログラ ムが全面的に統合され、そうした ソリューションが相互依存性を考 慮に入れたシステム的アプローチ で構築されるよう確保すること。 特に重要なのは、エネルギー効率、 水の効率と再利用、そして両方の 需要の管理であろう。この統合に おいては、食糧生産との密接なつ ながり、土地利用における持続可 能性、生態系の維持にもしっかり と対処していなければならない。 エネルギー最適化と水の持続可能 な使用に関する総合的な科学研究 および技術革新、ならびにそうし た課題に取り組むためのシステム 分析アプローチのさらなる発達の ために投資すること。 エネルギー、水、農業システムの 統合的な管理を促進する効率的な ガバナンスの仕組みと明確な政策 を構築すること。そのためには、 水の消費もしくは劣化などエネル ギープログラムによる間接的な費 用を明示的に見積もり、そうした 費用を価格に反映させることが必 要になるかもしれない。 水とエネルギーに関する基本的な データを監視し、フリーアクセス を可能にするシステムを構築する こと。 こ う し た 行動 の そ れ ぞれ に は 、 必要 と さ れ る 調 査 、デ ー タ 収 集、 評 価 、 計画 、 ガ バ ナ ン ス 、 技術 適 応 、 長期 的 な 維 持の た め の 局 地 レ ベ ルや 地 域 レ ベル で の 人 材や 組 織 の 能 力 育 成 が要 求 さ れ る。 こ の よ うな 能 力 開 発 は 、 長 期計 画 の 必 要性 や 効 率 と保 全 の 重 要 性 に つ いて の 社 会 の認 識 に 基 づい て い な け れ ば な らな い 。 エ ネル ギ ー と 水に 関 す る 国 家 の 総 合的 な プ ロ グラ ム を 計 画し 実 行 す る 能 力 を 育成 す る た めに は 、 も っと も 脆 弱 な 国 々 の 多数 へ の 開 発援 助 も 含 む世 界 的 な 協力が不可欠である。 -J-6- 温 室効 果ガ スの排 出お よび吸 収に 関する 知 見の向 上 排出量については適度に正確な推定を得 られるが、それ以外のほとんどの温室効 果ガスについては推定の不確実性が大き い。 背景 ほ と ん ど の国 は 、 温 室効 果 ガ ス の人 為 的 排 出 を 制 限す る こ と を約 束 し て いる 。 そ う し た 取 り 組み が 成 功 して い る か どう か を 判 断 す る た めに は 、 温 室効 果 ガ ス ―― 二 酸 化 炭 素 ( CO 2 )、 メ タ ン ( CH 4 )、 亜 酸 化 窒 素 ( N 2 O) な ど ― ― の 自 然 お よ び 人 為 的 な 排 出 量 と 吸 収量 を 国 家 レベ ル で 正 確に 推 定 す る た め の 標準 化 さ れ た方 法 を 使 用す る 必 要 が あ る 。 そう し た 推 定は 、 国 際 的な 気 候 変 動 条 約 を 検証 す る た めに も 、 自 然の 温 室 効 果 ガ ス 排 出量 ( メ タ ンハ イ ド レ ート か ら の 大 規 模 放 出な ど ) や 吸収 源 の 変 化を 検 出 す る た め に も必 要 な も ので あ る 。 さら に 、 ブ ラ ッ ク カ ーボ ン ( 温 室効 果 ガ ス とい う よ り は 煤 煙 ) の世 界 的 な 分布 へ の 理 解が 深 ま れ ば 、 人 体 の健 康 面 へ の影 響 に 対 する 管 理 能 力 を 向 上 させ る と と もに 、 気 候 変動 へ の 寄 与 に 対 す る評 価 を 向 上さ せ る こ とが で き る。 温 室効果 ガス 排出量 の推 定方法 温室効果ガスの推定には主に 3 つの方法 が あ り 、 その い ず れ も最 終 セ ク ショ ン で 述 べ る 提 言 を実 施 す る こと に よ っ て改 善 さ れ 、 排 出 量 推 定の 不 確 実 性を 低 下 さ せる こ と が できる。 1. 排 出 量 と 吸 収 量 の 国 毎 の イ ン ベ ン ト リ: 各国が、気候変動に関する政府間パネ ルによって開発された方法を使用して国 連気候変動枠組条約に排出量を報告して いる。排出量は、人間活動(燃焼した石 炭トン数など)を測定して排出係数(1 トン当たり CO 2 排出量など)を乗じるこ とによって推定される。この方法の適用 による推定の精度はさまざまである。比 較的正確な推定は、国別排出係数および 精巧な排出源モデルに基づいたものであ る。この方法では、化石燃料からの CO 2 2.大気 観測法 : 人為的および自然の排出量と吸収量の 純合計は、温室効果ガスの大気観測及び /または海洋観測(衛星からのリモート センシングを含む)、ならびに大気と水の 流れに関する最先端数学的モデルを使用 して推定することができる。こうした方 法により、ガスインベントリの推定値を 独立にチェックする機会が得られる。た だし、これらの方法は国家レベルでの温 室効果ガスの排出量および吸収量を十分 な精度で推定するためにはまだ使用でき ていない。輸送誤差、自然の排出量のバ ックグラウンド変動の大きさおよびそう した変動への理解の不完全さ、ならびに サンプリング地点の数の少なさや地理的 分布の偏りなどがその理由である。たと えば、現在の大気サンプリング網は、都 市のような大規模排出源を避けているた め、衛星観測の解釈が困難になっている。 さらに、関係するすべての同位体につい て大気サンプル分析が行われているわけ ではない(例えば、放射性炭素[ 14 C]の 計測を行っていれば化石燃料からの CO 2 排出量を化石燃料以外からの排出量と区 別して評価できるなど)。 大気温度に影響を及ぼすブラックカーボ ンは一般的に大気汚染プログラムの一環 として監視されている。 3.土 地 利 用 に つ い て の 直 接 的 イ ン ベ ン ト リ: 地表もしくは地表付近での計測(生態 系における炭素量の地上と地下での変化 など)ならびに森林破壊や植林について の衛星計測の2つの時系列計測を使用し て、CO 2 の排出量と吸収量を推定するこ とができる。すべての排出量および吸収 量が測定されれば、生態系からの CO 2 を 十分な精度で推定することが可能であろ -J-7- 2. 温 室 効 果 ガ ス 排 出 量 及 び 吸 収 量 を 推 定するための技術や方法を向上させ、新 たに誕生した適切なアプローチや技術を 採用するための、各国の調整と協力。最 先端技術の共有や、世界中や宇宙へのコ スト効果が高い計測装置の配備、ならび に地上及び衛星からのデータの組み合わ せやデータの分析に一丸となって取り組 むことにより、成果が迅速化し、科学的 な能力も形成される。そうした取り組み のためには、計測方法や分析方法、デー タの質的評価や不確実性の推定のための 基準の設定についての情報交換が必要で ある。 う。いくつかの温室効果ガスについては 排出量推定はまずまずであるが(畜牛か らのメタン排出量など)、それ以外の温室 効果ガスや排出源の推定は悪い。N 2 O 排 出量は、その土地の利用法(特に窒素肥 料の使用)ならびに局所的な気候、地形、 土壌、植生特性によって、空間や時間で 変動する。N 2 O の正確な推定ができるよ うにするためには、まず根本的な理解を 深めることが必要である。 提言 温 室 効 果 ガス の 排 出 量お よ び 吸 収量 の 正 確 な 推 定 が可 能 で あ るこ と は 、 国際 的 な 協 定 や 国 家 の排 出 削 減 プロ グ ラ ム が有 効 で あ る た め の 前提 条 件 で ある 。 こ れ が可 能 に な る か ど う かは 、 温 室 効果 ガ ス の 排出 量 お よ び 吸 収 量 につ い て の 知見 や 理 解 の向 上 、 排 出 量 お よ び吸 収 量 に つい て の 地 表、 大 気 、 宇 宙 シ ス テム を 組 織 した 観 測 、 そし て す べ て の 国 々 から の 自 由 な情 報 ア ク セス に か か っ て い る 。主 要 な 知 見の ギ ャ ッ プは 、 そ れ ぞ れ の 国 や地 域 で 重 要な 温 室 効 果ガ ス の 排 出 量 お よ び吸 収 量 に 対し て 既 存 の測 定 プ ロ グ ラ ム の 焦点 を 定 め 直す こ と に より 、 こ れ か ら 数 年 で埋 め る こ とが 可 能 で ある 。 下 記 の最初の 2 つの項目を実施すれば、 UNFCCC( 国連気候変動枠組条約)で取り 上 げられてい る温室効果 ガス排出量 の 約 4 分の 3 を占めている化石燃料使用および森 林伐採に由来する CO 2 排出量の正確な推定 と独立した検証が可能になるであろう。3 番 目 の 項 目を 実 行 す ると 、 炭 素 循環 に つ い ての根本的な理解が深まる。 3. 大 気 中 の 温 室 効 果 ガ ス の 大 幅 及 び / または急激な増加をもたらす変化の可能 性を理解することに主眼を置いた国際 的・学際的な研究プログラムを構築ある いは促進するべきである。最大のリスク としては、高緯度や海底堆積物からの CO 2 及び/または CH 4 の潜在的な放出、 海洋の生物地球化学および循環の変化、 多雨林の炭素収支の変化などが挙げられ る。地球規模での生物化学循環の枠組み の中でこうした温暖化ガスフラックスを 解析することが重要である。 平 成 24 年 5 月 10 日 大西会長より野田総理に共同声明を提出 (首 相 官 邸 ) 1. 化 石 燃 料 燃 焼 お よ び 土 地 利 用 に 由 来 する CO 2 排出量ならびに工業排出源およ び生物起源の CH 4 排出量など、現在正確 に推定できる温室効果ガス排出量及び吸 収量の毎年の計測、及び報告をすべての 国が実施。一部の国については、そうし た排出量及び吸収量の正確なインベント リを作成するために必要な能力の育成を、 世界の科学界が支援すべきである。 -J-8- 野田総理に共同声明を提出する大西会長