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地域活性化と人的ネットワーク形成

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地域活性化と人的ネットワーク形成
3.3
地域活性化と人的ネットワーク形成
3.3.1
3.3.1.1
地域住民の参加手法と活性化
市民社会の到来「共働領域」の拡大
最近の社会課題や市民ニーズが多様化する中で、効率的及び最適な公共サービスを提供
することは、自治体だけでは限界があり、民間企業、大学法人、市民、NPOなどの多元
的で多軸な供給機関が必要だという認識が高まってきている。この考え方は、従来の「官
か民か」という二者の対立構造から脱却するとともに、「官から民へ」という一方的な民営
化という市場主義の反省から生まれたものである。
その上で社会全体の中で、地域に存在する全ての資源を生かして、地域社会の安心・安
全を維持し、市民生活を守っていこうとする市民意識が醸成され「市民社会」5への移行、
そして「共働」という領域を新たに形成しようとしている。
その背景には、大きな社会変革の3つの動きが関係している。
一つには、人口の減少と財政危機から 1980 年には 3300 あった市町村が、合併によって
現在では、おおよそ 18006にまで減少するなど、行財政改革が進んでいることにある。加え
て、三位一体改革や 2003 年の地方自治法の改正により「指定管理者制度」、その後の PFI
手法の導入等で、従来自治体に限定されていた公共施設の管理運営に関する規制が緩和さ
れ、民間事業者や NPO の参入が可能となり、小さい政府への動きが加速していることにあ
る。この規制緩和の中で、過度な競争原理やコスト主義に陥り、市民や企業が行政の下請
けとなる構造が生れ、行き過ぎた民営化への反省の機運が高まってきていることにある。
二つには、1998 年に議員立法で設立された特定非営利活動促進法、いわゆる NPO 法が制
定され、市民が地域で自主的にまちづくりや社会課題に対応するための非営利法人を設立
できるようになったことにある。あわせて、民法が 100 年ぶりに見直され、従来の公益法
人が抱えていた、法人格の取得と公益性の判断や税法上の優遇措置が一体となっているた
めに法人設立が難しいこと、あわせて、公益性の判断が主務官庁の裁量にまかされていた
という課題を解決したことにある。2006 年には、「公益法人制度改革三法」(いわゆる一般
非営利法人法)が制定され、社団法人、財団法人の設立については、非営利であれば準則
主義(登記)で、主務官庁の許可を得ることなく設立が可能となった。最大の課題とされ
てきた法人格取得と公益性の判断がようやく分離できたことになる。
こうした動きは、市民の自主的で自律的な組織の形成、自主的な地域活動を保証してお
り、NPO 法人は、2010 年1月期で約 3 万9千も設立されてきている。
あわせて、I ターンや U ターンなどで地域に戻ってきた人物や新たに住むようになった「よ
そ者」が、伝統的な自治会や地域の「結」など組織に新しい息吹を吹き込んで、新しい活動
を始める地域も出てきている。
5
市民社会の詳しい解説は 神野 直彦 澤井
権・市民社会の構図」2004 年 参照のこと
6 総務省ホームページより(2010.3.22)
69
安勇「ソーシャルバナナンス
新しい分
例えば、鹿児島県鹿屋市串良町上小原柳谷集落内にある 300 人の集落、通称やねだんで
は、公民館長を中心に、補助金に頼らない全員参加のまちづくりを進め、ついにボーナス
を出すまでに自立してきている。7
三つには、CSR=Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)とSRI
=Socially Responsible Investment(社会責任投資)という概念が日本に広まりつつある
ことによる。21 世紀を向かえ、インターネットやICT化の推進により、小さな出来事や
地域での様々な事業や一人の行動が、瞬時に世界を駆け巡るようになってきた。会社の安
全性への怠慢や小さな不祥事が、ネットを通じて、いち早く消費者に伝わり、不買運動や
市場の信頼を失い、企業の存続の危機に面することも多くなってきた。
今後企業は、①経営品質の向上と株主の利益を図るだけでなく、②顧客満足の向上、③
社員の信頼性、モチベーションの高い企業風土の醸成
④地域・社会との対話
という多
様な経営の軸を持たなければ存在し得ない。企業が、営利の私企業という側面だけでは存
在できず、企業が私的所有物から、社会の機関として、公共サービス分野の担い手となっ
てきた。SRI(社会責任投資)は、そうした社会に貢献できる企業を選定し、投資して
いく行為である。投資を通じて「社会に貢献できるいい会社」を応援し一層「社会に貢献
し役立ついい会社」の基盤を強めていく手法である。
このCSRとSRIは、相互に補完する関係であり、両者の普及あってこそ、より良い
地域社会をつくる好循環を生み出すことになる。
地域での自治体、市民、企業、大学等の様々な機関の変革や新たな意識によって「共働
領域」が形成されることによって、市民は、公共のサービスの単なる利用者から、創造者
に成るということが求められている。
3.3.1.2
市民参加の手法の系譜
市民が行政への関心を高め、積極的に行動し始めたのは、1960 年代の高度経済成長のひ
ずみの中で、公害やごみ問題等の都市問題が顕在化する中で、独断的な行政施策への反対
や対立構造の中で始まった。その後 1969 年の地方自治法の改正により、市町村にまちづく
りの総合ビジョンとなる「基本構想」の策定が義務づけられたことにより、行政側からの
イニシアティブによる市民参加が全国的に広まっていった。
この市民参加手法の系譜について、コミュニティ行政・市民参加のモデル都市である三
鷹市の事例に見ていこう。
1970 代初期には、施設建設時における個別事業、個別市民参加方式が採用され、1970 年
代後半からは、基本構想、基本計画などの総合計画等へのまちづくりに関する政策形成過
程における総合的市民参加方式の形態として、地域の関連団体の代表による市民会議を全
国で最初に設置した。この計画策定段階では、市民による地域診断(コミュニティカルテ)、
まちづくりプラン(地域計画)など、住区を単位とする市民参加手法を生み出してきた。
7
やねだん地域の活動は、事例集を参照のこと。
70
1980 年代には、計画策定後の執行や運営段階で市民参加を志向し、市民の新しい組織で
ある「住民協議会」にコミュニティセンターの運営委託を開始。協議会による事業決定権、
職員の採用権、事業費の執行権までも任せている。この当時この方式は「金は出すが口を
ださない」と言われ、市民の自治権を尊重した画期的な手法を導入してきている。この自
主自立の運営手法は、指定管理者制度ができる 25 年もまえに公設民営方式を採用している
ことになる。
2000 年の第 3 期基本計画策定時には、
「みたか市民プラン 21 会議」を設置し、自治体が
素案を作成しないで「白紙」の段階から「政策委任」を実現。公募した市民約 400 人で形
成された市民会議と市とは、パートナーシップ協定を提携し、対等な立場にたって検討・
議論を重ねてきた。この大規模な市民参加を支えたのは、インターネット上での電子会議
やメール等の新たな ICT 技術である。
2006 年には、
無作為抽出により市民 3000 人を選定し、市民討議会へ参加案内を郵送した。
その中で、73 人が参加の意思表明を行い、抽選で 60 人が市民討議会に参加。この手法は、
従来の公募制での課題=問題意識の高い市民層、いつも同じメンバーが参加してくるとい
う点を払拭するための手法であり、サイレントマジョリティといわれた「普通の市民」の
意見を集約するとともに地域やまちづくりへの関心を醸成し、参加へのきっかけや機会を
提供したいという思いがある。今後、全国でも参加への意識啓発、機会提供を積極的に行
う「無作為抽出型」の市民討議会や市民ディスカッションの方式の採用が拡大しそうである。
三鷹では、市民討議会の運営も自治体だけでなく、NPO、青年会議所の共同主催によるもの
で、主催自体も、自治体から市民組織へと移行してきている。
そして 2010 年からは、
「ワールドカフェ」という新しい手法も期待されている。この手
法は、討論や議論ではなく、カフェで友人と「会話」しているようなりリラックスした空
間を作り出そうという手法である。この手法が従来の手法と異なるのは、単なる参加手法
ではなく、相互の理解を得るための会議手法であることだろう。なお、そのような手法に
ついては、巻末の松戸市の事例においても記載している。
3.3.1.3
市民参加における自治体の役割
「共働」の基本は、あくまで自発的・自立的協力による市民参加である。
この市民参加を支え、一層の参加を促進するためには、自治体および市民の双方での役
割が重要となってきている。
まず自治体の役割から見ていこう。三鷹市では 2001 年に策定した基本構想の中で「行政
の主な役割は、これまでの直接的なサービス中心の提供のあり方から総合的なコーディネ
トと機能を重視したあり方へ転換する」としている。2006 年の「三鷹市自治基本条例」の
前文でも「主権者である市民の信託に基づく三鷹市政は、市民と共働を基本とし、市民の
ために行われるものでなければならない」。とし、自治体の基本姿勢を明確にし、様々なし
くみや条例を制定し、市民参加と共働のまちづくりを保障してきた。
71
現在全国的に、住民自治基本条例の策定が進んでおり、市民参加だけでなく、市民会議、
議会等の会議の公開、パブリックコメント手続、住民投票等の権利が明文化され、首長が
代わっても、市民参加が促進されることを期待していきたい。
加えて市民が様々な場面で、まちづくりに参加し主体となって活動できるのは、行政と
同じ程に地域情報を把握していることにある。そこで、市民への情報提供手段として多様
で多元的な手法を用意することが重要である。情報公開条例は当然のことであり、広報誌、
パンフレット、ホームページ構築、CATVによる映像メディア等あらゆるメディアでの
情報提供だけではなく、説明会やまちづくりのワークショップの開催も有効となろう。く
わえて、市民のICT化を進め、現在最も情報源として活躍しているインターネットとパソ
コンが利用できるように様々な研修会や大学での学習機会、共働センター等の交流機会を
積極的に用意することも必要である。
今後自治体の役割は、自治体の限界を知ることであり、市民を信頼し、市民力を醸成し、
まちづくりの主体となる成熟した市民を形成することで、地域の自立を図ることが不可欠
となる。「市民」という人材こそ、地域の最も有効な資源であり、古くも腐りもしない最強
のコンテンツと成りうるのである。
3.3.1.4
市民の役割
高齢化と人口減少という地域社会が大きく転換する中で、市民の社会への意識も大き
く変化してきている。国民生活白書の中で、国民の公共への参加意識の問いでは「地域社
会を通じて社会に貢献したいと考えている人」が 69%もあり、ここ 5 年は増加し続けてい
る。また、NPO やボランティア活動に参加したいという割合が高くなってきているだけでな
く、団塊世代が定年を迎え、時間と体力とお金をもつシニア層のまちづくりへの参加が始
まってきている。都市のシニア層は、これまで会社を中心とした職縁であったが、定年を
迎え、24 時間暮らす地元での地縁を構築するための動きも加速している。老人クラブやシ
ルバー人材センターのみならず、シニアを中心とした NPO が全国に生まれてきているのも、
社会参加や地域貢献したいという市民の意識と行動の変化によるものであろう。
公共サービスの受益者であり、納税者という立場から、市民は同時に、公共サービスの
担い手として、自主的な地域活動を加速すると思われる。
その行動や取り組みの上で、市民の役割としては
① 公共サービスの本質とは何か、自らが必要なものは何かを見極めること
②
公共サービスや政策への提言、参加、検証を行うこと
③
アウトソーシング諸制度設計や実施体制への提言、参加、監視すること
④
コスト意識をもち、過剰なサービスを要求しないこと
⑤
市民自らも公共サービスの担い手となること(市民自治の推進)
72
となる。
3.3.1.5
市民社会の成熟が地方主権を進める
共働によるまちづくりを進める中で最も重要なことは、市民やNPO、民間企業ととも
に、事業を実施することである。市民会議などでの机上の検討だけでなく、実際に事業を
行うことによって、市民にまちづくりの主体としての自覚が生まれ、他人ごとから自分ご
ととして行動していく。それによって知財やノウハウは地域化することになる。
本質的には、共働の姿や形そのものを作り出すことは出来ない。共働とは、「市民やNP
Oと自治体が地域の目標を共有し、それぞれの役割分担を明確に発揮し、対等の立場で相
互協力しながら、それぞれの特性を最大限発揮し、その実現のためにともに汗をかき、さ
らには評価改善もともに行っていく実際の具体的な取り組み」いわば、共働して事業を一
緒に実施するとことで、共働は育まれていく。どの地域でも、共働を創り出そうと机上の
議論を進めているが、実際の事業の取り組みこそが「共働」である。いわば、「共働領域」
を形勢することこそが、共働なのである。その真意を見誤らないで欲しい。
共働領域を形成するとは、市民やNPOなどの自主的、自立的な市民活動を尊重し、地
域のことは地域に委ねていく地方主権の真髄に立ち戻るということになろう。
今後の地域再生を進める上で、自治体の限界を市場領域によって克服するのではなく、
成熟した市民による市民社会を強化することによって克服しようとすることが最強の手法
となろう。その基本は「市民参加」の促進にある。
参考文献
1 三鷹市「三鷹市基本構想」2003 年
2
桜井
通春監修「地方自治体の2007年問題」官公庁通信社
3
三鷹市「協働推進ハンドブック」2006 年
4 株式会社まちづくり三鷹「三鷹 IZM」2003 年
73
2005 年
3.3.2 地域活性化のためのネットワーク活用
3.3.2.1 ネットワークの意義と視点
今日の複雑化する地域改題に対応するために、従来のマネジメントでは対応が厳しくな
っていることは、公共政策をはじめ様々な学問領域で指摘をされている通りである。従来
のように行政主導のトップダウン型地域づくりの限界が叫ばれ、地域を構成する多様なセ
クター及び個人の自立性を高め、「創発」を生み出すボトムアップ型の「新しい公共」の確
立が必要なのだ。「創発」とは「部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が全体として
現れること」であり、地域に関するひとりひとりの持っている可能性が他者のとの協働の
中で十二分に発揮されることである。こうした視点で考える際に重要なのが、地域におけ
る「人財」とそのつながり「ネットワーク」なのである。そこで本章ではこの「ネットワ
ーク」に着目する。地域活性化のネットワークを「地域において創発が起こり、従来停滞
していた機能が活発に働くようになるネットワーク」と定義し、そのネットワークの在り
方について述べることとする。
まずこのネットワークを捉えるにあたり、2種類のネットワークがあることを前提とし
て指摘しておきたい。地域内のネットワーク(ネットワークの内部性)と地域間のネット
ワーク(ネットワークの外部性)である。(図3−19)これはイノベーションの視点から
も重要である。従来、地域活性化を議論する際のネットワークとしては、その内部性に着
目し議論されることが多い。クラスターの考え方に代表されるこの視点は、地域内で創発
を起こすことを考えれば当然まず着目すべき点であり、地域の産学官民の様々な立場から
議論されるべき視点である。一方の外部性については議論されることが少ないのが実態で
あるが、域内だけのリソースでは十分とはいえない地域が多数存在することや、地域内の
しがらみに囚われて硬直化した地域内ネットワークを活性化させることを考えると、外部
性についても十分視野を広げてネットワークを検討することが重要である。
図3−19
2つのネットワーク視点
74
次にネットワーク形成のカギになるのが、参加する人々に共有される「関心」である点
に留意しておきたい。ネットワークは人がつながれば自然発生的にできるというものでは
ない。人があるテーマや活動に対して共感、共鳴することではじめて発生するものである。
そのためどのように「関心」を可視化していくのか、そして「関心」によって集まったコ
ミュニティを醸成していくのかという視点が必要なのである。(図3−20)
図3−20
「関心」を中心としたネットワークの多視点モデル
3.3.2.2 ネットワークの機能とツール
全国で様々な分野で展開されている地域活性化のネットワークについて、前節で述べた
視点から分析をしてみると、その機能は、①コミュニケーション機能、②アーカイブ機能、
③コラボレーション機能として捉えることができる。(図3−21)①コミュニケーション
機能とは、人と人とのつながりを創る基盤となる情報伝達による相互作用プロセスのこと
である。伝達される情報はフロー情報といえる。②アーカイブ機能とは、情報を保存し一
覧性を持たせることで、情報をストック化すると共に、情報の活用の可能性を拡大するも
のである。③コラボレーション機能とは、コミュニケーションの連鎖によって創発的な成
果が生み出される活動のことである。
なお地域ネットワークの同様の言葉として「地域メディア」「地域プラットフォーム」と
いう言葉が使われることがあるが、本研究では主に①②の機能が中心となったものを「地
域メディア」とし、①∼③機能全て含んだものを「地域プラットフォーム」として捉える
こととしたい。
75
図3−21
ネットワーク機能構造
このような機能を実現する方法として、「リアル」と「メディア」によるコミュニケーシ
ョンがあると考えられる。前者は対面(フェイスツーフェイス)のコミュニケーション、
後者はマスメディアと ICT を使ったコミュニケーションのことである。特に今日では ICT
の技術進展やそれに伴う環境変化により、その活用が地域にとって重要になっている。
さて実際の地域活性の現場をみてみると、どれか一つの方法だけでネットワークを構築
しているケースはほとんど見当たらない。地域特性やその形成段階に応じて、それぞれの
方法をハイブリッドに組み合わせることが重要なのだ。例えば、対面できるときは対面し、
できない時はデジタルコミュニケーションで補う。更に情報を共有するために ICT を活用
して価値を共有し、そうして醸成されたコミュニティをベースに具体的な活動を実施する、
という具合だ。どのようなハイブリッドネットワークを構築するかについては、その特徴、
特に ICT の特徴を踏まえた上でデザインする必要がある。そこで、ICT 活用については次
節にて詳細に述べることとする。
3.3.2.3
ICT 技術を活用したネットワークの現状と展開方向
前節で述べた通り、ICT 技術の進展は著しい。それに伴い現在ソーシャルメディアと呼
ばれるものが台頭してきた。ソーシャルメディアとは、ユーザーが情報を発信し、形成し
ていくメディアのことである。個人が発信する情報が不特定多数のユーザーに対して伝達
し、受信・閲覧したユーザーはレスポンスを返すことによりコミュニケーションの連鎖が
発生する仕組みになっている。UGC(user-generated content)や CGM(consumer-generated
media)とも呼ばれている。こうしたユーザーサイドのパワーを活用するソーシャルメディ
アはボトムアップ型の地域づくりには強力なツールだといえる。
このようなソーシャルメディアサービスには①メーリングリスト、②電子掲示板、③電
子会議室、④Q&A サイト、⑤Wiki、⑥動画共有サイト、⑦ブログポータル、⑧SNS など
があげられる。こうしたサービスの特徴を上手く理解し、地域活性化に必要とするネット
76
ワーク機能を実現するためにサービスを活用することが重要になるのだ。(図3−22)
図3−22
今後のネットワークの課題を考えた場合、二つの視点に着目する必要がある。一つは時
間的な視点、次に地理的な視点である。まず時間的な視点であるが、これはリアルタイム
性を意識しネットワークの「同期性/非同期性」のことである。従来同期性を満たすサー
ビスがなかなか立ち上がってこなかったが、携帯電話をはじめ日常の情報端末の普及によ
りこうした同期性を支えるインフラが一気に広がって現在において、このリアルタイム性
を重視したサービスが不足しているといえる。昨今の twitter の盛り上がりをこの視点から
捉えると、この「同期性」ニーズを満たしたサービスとして着目されていると捉えられる。
次に地理的な視点として上図からもわかるように地域間のコラボレーション機能を満たす
サービスが不足していることが言われている。フェースツーフェイスが重要視されるこの
部分にどのように ICT を活用していくかはこれからの課題であるが、こうしたところに新
しいサービスの可能性があるといえる。このように時間的、地理的な視点からそのギャッ
プを解消するネットワークデザインをしていくことが今後重要になってくるとみている。
3.3.2.4 ネットワーク構築の実践と課題
これまで述べてきたように技術のめまぐるしい進展により、地域におけるチャンスは格
段に増えてきたといえる。しかし一方そのチャンスを上手くいかせていないケースも多数
見受けられる。地域活性化に寄与し、地域格差を是正するツールである ICT だが、それを
活用できないことでかえって格差を生み出してしまう恐れもある。そうした状況を避ける
ためにも、地域の「情報リテラシー」が何よりも重要になる。リテラシーとしてここでは、
①受発信力、②編集力、③誘発力の 3 つの能力を上げておきたい。①発信力とは、多様な
情報を積極的にかつ分かりかつできるだけ分かりやすく発信する力である発信力と、自ら
に必要な情報を適時取捨選択し必要な解釈を加えて受け取る受信力のことである。②編集
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力とは、情報に意味づけをして付加価値を加えることである。地域の文脈を俯瞰して捉え
る事が求められる。③誘発力とは、情報に共感・共鳴を与えることである。「関心」との関
連づけが必要であり当事者意識を誘発することが求められる。
このようなリテラシーを身につけてネットワークを構築したとしても、ツールありきで
は地域活性化は起こらない。地域活性化のためにどのようなツールを選択しネットワーク
を構築するかを考えなければ目的と手段を取り違えることにもなりかねない。そうなるこ
とを防ぐためにも、ネットワーク構築にあたり7つの視点をあげておきたい。これは『コ
ミュニティ・オブ・プラクティス』の中でコミュニティの形成のために必要なこととして
指摘されていることだが、ネットワークの創出についても同じことがいえると考えている。
(表3−23)
表3−23
「コミュニティ・オブ・プラクティス」の七つの原則
1.進化を前提とした設計を行う。
2.内部と外部それぞれの視点を取り入れる。
3.様々なレベルの参加を奨励する。
4.公と私それぞれのコミュニティ空間をつくる。
5.価値に焦点を当てる。
6.親近感と刺激を組み合わせる。
7.コミュニティのリズムを生み出す。
最後に筆者のネットワーク構築・運営の経験を踏まえ上で、ネットワーク形成に関する
課題を述べておきたい。筆者は現在全国ベースの地域活性化キーマンネットワーク(通称:
KMT)を運営している。
(平成 22 年 3 月 1 日現在)地域活性化を実践し、サポートしてい
る産官学民 1500 人強のメンバーからなるネットワークである。こうした経験を前述の7つ
の原則と対比させながら課題について次の7つポイントとして整理する。①ネットワーク
は常に変化することを前提に発展段階に応じたコーディネートを実施すること。②内輪だ
けのネットワークにしないこと。常に厳しい外の目線を入れると共にしっかりとしたテー
マを持ちその軸はぶらさないこと。③ネットワークの参加者の濃淡を認めると共に、それ
ぞれの参加者が自分の役割を果たせるように投げかけをすること。④参加者の多様な自己
を受容すること。会社の立場の人もいれば個人の立場の人もいるので、どのような形態で
あってもネットワークにどのように生かせるかを考えること。⑤大切な価値観を共有する
ことであり、プロセスを楽しむこと。⑥定型、非定型のリアルイベントを企画しネットワ
ークを刺激すること。⑦ネットワークの成熟度の度合いによってルールを変更し、参加人
数の調整も行うこと。こうしたポイントに留意し、地域におけるネットワークを形成する
ポテンシャル、「リンクする力」を引き出し、ネットワークシステムとしてデザインしてい
くことが大切なのである。
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参考文献
今井 賢一,金子郁容(1988)『ネットワーク組織論』
野中郁次郎、柴田友厚他(1998)『知識と地域』
野中郁次郎, 紺野登 (1999) 『知識経営のすすめ』
国領二郎 (1999)『オープン・アーキテクチャ戦略』
国領二郎,野中郁次郎(2003)『ネットワーク社会の知識経営』
安田雪(1997)『ネットワーク分析−何が広域を決定するか?』
丸田一, 国領二郎, 公文俊平 (2006) 『地域情報化 認識と設計』
丸田一(2007)『ウェブが創る新しい郷土 ~地域情報化のすすめ』
河井孝仁・遊橋裕泰(2009)『地域メディアが地域を変える』
庄司昌彦(2007)『地域 SNS』
西口敏宏 (2009) 『ネットワーク思考のすすめ』
広井良典(2009)『コミュニティを問いなおす』
ティエンヌ・ウェンガー他(2002)『コミュニティ・オブ・プラクティス』
ヘンリー チェスブロウ他(2008)『オープンイノベーション』
伊丹敬之 (2005)
『場の論理とマネジメント』
リチャード・フロリダ (2009)『クリエイティブ都市論』
濱野智史(2008)『アーキテクチャの生態系』
飯盛義徳(2006)『地域情報化プロジェクトにおける協働メカニズムの研究』
河井孝仁(2007)『創発型地域経営を導くための情報技術の活用に関する研究』
内閣府経済社会総合研究所(2007)『地域の人材形成と地域再生に関する調査研究』
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