Comments
Transcript
本科 / 実戦トレーニング期 / Z Study 解答解説編 / 京大コース 日本史
本科 / 実戦トレーニング期 / Z Study 解答解説編 / 京大コース 日本史 見 本 XNAP2A-Z1C3-01 《奈良時代の土地制度》 次の各問に答えよ。 (25 点) 問1 723 年に発布された三世一身法の内容について,60 字以内で説明せよ。(11 点) ① ② 問2 743 年に行われた土地政策の変更とその後の初期荘園の成立について,80 字以内で説明 せよ。 (14 点) ポイント 奈良時代の土地制度に関する論述問題である。問1・問2ともに,このテーマに関する基本中の 基本の知識を問うているので,過不足なく説明できるよう,しっかりと復習をしてほしい。8世紀 の土地制度の変遷は,古代史定番のテーマであり,論述問題でも問われやすい。本問で問うた法令 の内容や初期荘園の成立の経緯の他,律令政府が土地政策を変更した背景や,初期荘園の特徴など についても文章で説明できるよう,問題編冊子必修テーマ STEP1−3も参考にしながら重要語 句やフレーズを確認しておこう。 解 答 問1 新たに灌漑施設を設けて開墾した場合は3代まで,旧来の施設を利用して開墾した場合は本 人1代に限って,開墾地の私有を認めた。 (60 字) 問2 律令政府が墾田永年私財法を発布して開墾地の永久私有を認めると,8~9世紀には貴族や 大寺社が付近の農民や浮浪人を使って私有地の拡大をはかり,初期荘園を成立させた。(80 字) 解 法 問1 思考のプロセス ⃝問…三世一身法の内容について説明する 歴史事項の内容を説明する,典型的な事項説明型の問題である。事項説明型では,5W1H 1Rの要素の中から,何が解答の中心となるかを見極め,要素を取捨選択していく必要がある。 今回は 60 字で説明するので,5W1H1Rをすべて盛り込むのではなく,最も重要な「どの ような法令か(what・how) 」に焦点を当てていこう。 解答の組立て ⃝新たに灌漑施設を設けて開墾した場合…3代 ⃝旧来の施設を利用して開墾した場合…本人1代 開墾地の私有を認める XNAP2A-Z1C3-02 問2 思考のプロセス ⃝問…① 743 年に行われた土地政策の変更 ②その後の初期荘園の成立 2つの事柄が問われているので,それぞれについて解答すべき要素を検討する。 ①…743 年に行われた土地政策の変更とは,具体的にどのようなことか? ⇒ 743 年の土地政策の内容(what)を中心に考える。 ②…初期荘園はどのようにして成立したのか? ⇒初期荘園の成立の時期・主体・経緯(when・who・why・ how)を中心に考える。 また,まとまった解答を作るために,①・②の関連性にも着目したい。743 年の土地政策の 変更が初期荘園の成立につながったことを念頭に解答を作成してほしい。 解答の組立て ⃝ 743 年に行われた土地政策の変更=墾田永年私財法の発布 …律令政府は開墾地の永久私有を認める ⃝初期荘園の成立…(時期)8~9世紀 (主体)貴族や大寺社 (成立の経緯)付近の農民や浮浪人を使って私有地の拡大をはかる [ヒントの空欄の解答] 1・2 貴族・大寺社(順不同) 3 浮浪 解 説 ▪奈良時代の社会問題 8世紀には,鉄製農具の一層の普及などによって農業が発展し,生産 力の上昇に伴って人口も増加した。しかし,租税の負担が重い上,収穫 物の多寡は依然として自然環境に左右されやすい状態であったため人々 の生活は安定せず,困窮した農民の中には,口分田を捨てて浮浪・逃亡 する者も多かった。また,勝手に僧侶となったり(私度僧),貴族の従 者になったりして,租税を免れようとする動きがあった。こうしたこと から,8世紀後半には調・庸の滞納や品質低下が目立つようになってい た。 ▪公地公民制の崩壊 さらに,人口増加の一方で,耕作を放棄された口分田の荒廃が進み, 班給できる口分田が不足しつつあることも,律令政府にとっては重大な ぶ 問題であった。そこで政府は,722(養老6)年に百万町歩開墾計画を 立てて耕地拡大の方針を打ち出し,翌 723(養老7)年には三世一身法 を発して収入を確保しようとした。三世一身法は新たに灌漑施設を設け て開墾した場合は,3代(子・孫・曾孫とする説が有力),旧来の灌漑 施設を利用して開墾した場合は,本人1代という期限付きでの土地保有 XNAP2A-Z1C3-03 を承認するものであった。しかし,定められた私有の期限が過ぎた後, その土地は国家に収公されることになっていたため,効果はあまり上が らなかった。そこで政府は,743(天平 15)年,公地公民制を大幅に修 まま 正して, 「今より以後,任 に私財と為し,三世一身を論ずること無く, みなことごと なか 咸 悉 に永年取ること莫れ」と命じる墾田永年私財法を発した。 ▪初期荘園の成立 墾田永年私財法は,開墾地を政府の管理下に置くことで,政府の掌握 する田地を増加させ,政府の土地支配を強めるという積極的な意味を持 つものであった。この法は人々の開墾意欲を大いに刺激し,貴族や大寺 社,有力な地方豪族の間で私有地拡大の動きが進んだ。とくに,東大寺 ここもチェック 墾田の所有面積は無制 限 で は な く, 一 位 は 500 町,初位・庶人は 10 町 と い う よ う に, 位階や身分によって制 限が設けられていた。 のような大寺院は,広大な原野を独占した上,国司や郡司の協力も取り 付け,付近の農民や浮浪人などを労働力に編成して,大規模な開墾を 行った。こうして8世紀から9世紀にかけて,各地で初期荘園が次々に 成立していった。 ▼奈良時代の土地政策の変遷 政権 年代 長屋王 722 年 図表のここに着目 内容 百万町歩開墾計画 農民に食料や道具を支給し,10 日間開墾事業に 従事させる 723 年 三世一身法…期限付きで土地私有を認める 新たに灌漑施設を設けて開墾→3代 旧来の灌漑施設を利用して開墾→本人1代 橘諸兄 743 年 墾田永年私財法…開墾地の永久私有を認める ※位階などによって所有面積に制限あり 道鏡 765 年 加墾禁止令…現地の百姓と寺院を除き開墾を禁止 →道鏡の失脚後,772 年に廃止された 奈良時代の土地政策の 変遷について,制度・ 法令の内容を整理する。 それぞれの政策が行わ れた時の政権担当者も 合わせて押さえておき たい。