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柴 田 健 雄 - 金沢医科大学

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柴 田 健 雄 - 金沢医科大学
しば
氏
名
学 位 論 文 題 目
柴
た
田
たけ
お
健
雄
Granulocyte colony-stimulating factor as a potential inducer of
ovulation in infertile women with luteinized unruptured
follicle syndrome
(黄体化未破裂卵胞症候群による不妊症の女性における顆
粒球コロニー刺激因子の排卵を誘導する効果について)
学位論文内容の要旨
研究目的
排卵障害の一つに,排卵誘発剤に治療抵抗性を示す黄体化未破裂卵胞(luteinized
unruptured follicle:LUF)症候群という疾患がある。卵子は成熟し,莢膜細胞や顆粒膜
細胞は黄体化するも,卵胞壁の破綻障害のために卵胞内から卵子が放出されない疾患で,
不妊となる。いまだ LUF 症候群の原因は不明であるが,排卵周辺期の炎症反応の低下が原
因ではないかと指摘されている。
1980 年に Espey が提唱した「排卵は炎症に類似する反応である。」という仮説のもと,
現在までに排卵機構における白血球やサイトカインなどの炎症メディエーターの役割に関
する数多くの研究成果が報告されてきた。なかでも炎症反応の中心的役割を担う好中球と
好中球数を増加させ,好中球機能を亢進させる顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte
colony-stimulating factor:G-CSF)は,排卵機構において重要な役割をはたしていると
考えられている。これまでの申請者らの教室の研究で,血清 G-CSF 濃度が,排卵の 1~5
日前に上昇することや,G-CSF が顆粒膜細胞に発現することや,卵巣内の G-CSF mRNA が,
卵胞期後期に他の月経周期と比較して有意に増加することが分かっており,G-CSF が月経
周期に依存して排卵直前の卵胞期から排卵期にかけて増加し,排卵機構に深く関与してい
ると考えられる。
G-CSF は実地臨床の場において,抗癌化学療法の際の白血球減少症に対する治療薬とし
て 30 年以上の使用経験があり,特に大きな副作用は報告されていない。そこで申請者ら
は炎症を惹起する G-CSF の投与が排卵を誘導するという仮説を立て,G-CSF が LUF 症候群
の治療薬として有用かどうかを評価した。
実験方法
研究期間は 2006 年 4 月から 2015 年 3 月,研究施設は金沢医科大学病院産科婦人科とセ
ント・ルカ産婦人科で行われた。金沢医科大学臨床研究倫理審査委員会の承認を得た後,
文書でのインフォームド・コンセントの得られた患者を対象とした。対象は排卵誘発剤で
あるクロミフェンあるいは卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)で
卵巣刺激を行い,ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)で
排卵を励起させるも LUF 症候群を発症した 68 人の不妊症の患者(クロミフェン+hCG 治
療:46 人,FSH+hCG 治療:22 人)。LUF 症候群の診断は,経腟超音波断層法を用い行った。
- 1 -
hCG の投与後に,少なくとも一つの卵胞で(1):卵胞径の減少,
(2):卵胞の消失,
(3)
:
排卵を示す卵胞内の形態変化,(4):
(1)~(3)の所見に加えてダグラス窩にエコーフリ
ースペースがみられる場合は排卵と診断し,LUF 症候群は排卵以外の場合とした。本研究
の包含基準は,40 歳未満で,腹腔鏡検査で卵巣周囲に強度の癒着が認められず,卵管性
不妊でなく一般不妊治療が可能な排卵障害患者とした。除外基準は,薬剤過敏症の既往や
アレルギー素因のある患者,肝臓・腎臓・心臓に高度な障害のある患者,G-CSF の投与予
定時の末梢血白血球数が 10,000/μL 以上ある場合とした。卵胞発育モニタリングは,経
腟超音波断層法と血清エストラジオール濃度を測定することで行った。排卵誘発剤の投与
方法は,クロミフェンは月経周期の 5 日目から 50 mg/日を 5 日間内服とした。FSH は月経
周期の 5 日目ごろから 75 単位/日より投与を開始した。hCG は主席卵胞径が 18 mm を超え
たのちに 5000 単位を投与した。G-CSF(レノグラスチム)は,hCG を投与すべきタイミン
グの 24~48 時間以前に 100 μg を皮下注投与した。
本研究における G-CSF が LUF 症候群の発症を予防しうるかどうかを,同一患者における,
排卵誘発剤(クロミフェン+hCG 治療あるいは FSH+hCG 治療)に G-CSF を追加投与した
周期(G-CSF 治療周期)の LUF 症候群の発症率と,その後の排卵誘発剤のみを使用し GCSF を投与していない周期(G-CSF 未治療周期)の LUF 症候群の発症率にて比較した。
実験成績
対象患者の全体(68 人)での検討では,G-CSF 未治療周期では 13 例も LUF 症候群が発
症し,LUF 症候群の発症率は 19.1%(13/68 人)であった。一方,G-CSF 治療周期では 3
例しか LUF 症候群は発症せず,4.4%(3/68 人)まで LUF 症候群の発症率が有意に低下し
た(P=0.013)
。クロミフェン+hCG 治療に G-CSF を追加投与した 46 人の検討では,LUF
症候群の発症率は G-CSF 未治療周期で 19.6%(9/46 人)であったが,G-CSF 治療周期で
は 4.3%(2/46 人)と有意に低下した(P=0.039)
。FSH+hCG 治療に G-CSF を追加投与し
た 22 人での検討では,LUF 症候群の発症率は G-CSF 未治療周期で 18.2%(4/22 周期)
,
G-CSF 治療周期で 4.5%(1/22 周期)で減少する傾向があった(P=0.375)
。G-CSF 投与に
よる副作用は臨床症状で重篤なものは認められなかった。末梢血白血球数は,G-CSF の投
与前は 6,354±1,814/μL で,G-CSF の投与後 1 日目には 19,622±4,991/μL と上昇したが,
G-CSF の投与後 6 日以降には 6,738±1,809/μL と G-CSF 投与前の値と同程度に戻った。
総括および結論
排卵誘発剤を用いる一般不妊治療を行う際に好発し,体外受精以外にいまだ有効な治療
法のない LUF 症候群を G-CSF で予防できる可能性が明らかとなり,通常の排卵誘発剤に追
加する新規の排卵誘発治療薬として G-CSF の有用性が判明した。特に,クロミフェン+
hCG 治療で G-CSF は LUF 症候群の発症予防に有効であった。
好中球は,LH サージ開始後に莢膜細胞層で集積し,卵胞破裂に関与するマトリックス
メタロプロテアーゼやエラスターゼなどの局所調節因子を放出し,卵胞破裂を起こす。ま
た,他の研究者より,ラットに白血球を投与すると排卵率が上昇することと,逆に,好中
球の中和抗体の投与により排卵率が低下することが報告されており,好中球は排卵に重要
である。本研究では,G-CSF の強い好中球の増殖分化作用により,好中球が全身性に増加
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したことに比例し莢膜細胞層でも好中球が増加し,LUF 症候群の発症を抑制し,排卵率が
上昇したのではないかと示唆される。
本研究は,LUF 症候群の治療方法として G-CSF が有用であることを臨床的に示した。今
後多くの排卵障害患者に対して G-CSF の投与を試みることで,G-CSF が不妊に対する治療
の選択肢の一つとして発展することが望まれる。
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