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ブラジル経済 基礎編
November 2012 NO.1 ブラジル経済 基礎編 ルーラ前大統領からルセフ大統領へ引き継がれる経済政策 安定経済路線を踏襲するなど極左政権とは一線を画し、 バラ 近年、成長目覚しいブラジル ですが、政府、中央銀行、企業、 ンスのと れた政治手腕を発揮しました。同時に対外債務削減 を進め、好調な輸出にも助けられながら、過去の債務危機に 国 民 、投 資家 それ ぞ れがブ ラ ジルの「今」を作り上げています。 IMF(国際通貨基金)から受けた融資借入金を2005年には完 済するなど、海外投資家からの 信用を取り戻しています。また その一方では、貧困層支援策「ボルサ・ファミリア」やインフラ投 「今」なお続くブラジルの魅力 について、全8回にわたりレポー トをお届けします。 ■ 中南米の大国ブラジル 国名 首都 人口 面積 主要産業 資計画「PAC(経済成長加速化計画)」など財政出動を含め た景気刺激策を打ち出し、国民所得は増加傾向にあります。 (2012年11月現在) ブラジル連邦共和国 ブラジリア 約1億9,500万人(世界第5位) 851.2万平方k m(世界第5位) 製造業、鉱業、農牧業 なお、現在はルーラ前大統領の右腕として活躍したルセフ氏 が後継者として大統領に 就任してい ます。ルセフ大統領は、 「ボルサ・ファミリア」や「PAC」等の基本政策を引き継ぐとともに、 新たに「ブラジル拡大計画」を発表しました。 実質GDPの推移 (出所)外務省、I MFのデータを基に三菱UFJ投信作成、人口は2011年(見込み) 世界第5位の人口と国土 を擁するブラジルは、豊富な資源、 農畜産業や製造業の発達、堅調な消費に支え られ、新興国 (期間:1980年~2011年) (10億レアル) 1,600 では中国に次ぐ世界第6位(2011年 時点)の 名目GDP(国内 総生産)規模の国に まで成長しました。 こうした着実な成長を 1,400 背景にブラジルは国際社会での発言力を急速に強めており、 1,000 99年変動相場制へ移行 1,200 中南米においても周辺国との積極的な外交や関税同盟メルコ スール(南米南部共同市場)等の連合締結などを進めることで、 800 中南米の代表国としての存在感を高めることに成功しています。 400 9 4年レアルプラン実施 9 0年~コロル政権 市場開放路線 600 過去のブラジル経済のあゆみは、「ストップ・アンド・ゴー」とも 揶揄されるように、中南米債務危機やハイパーインフレ、通貨 08年リーマン ショ ック 82年メキシコ 債務危機 200 ■ ブラジル経済発展のあゆみ 05年IMF融資完済 99年ブラジル 通貨危機 ハイパーインフレ 0 80年 85年 90年 95年 00年 05年 10年 (出所)IM F「ワールド エコノミック アウトルック(2012年10月)」のデ ータを基に 三菱UFJ投信作成 危機といった困難を伴うものでした。そのため、ブラジル政府は 通貨レアルやインフレターゲットの導入、市場開放路線等の構 造改革、財政健全化などを進めることで(詳細は次回以降のレ ■ ブラジル景気の拡大エンジン-消費 こうして近年は比較的底堅い成長を続けてきたブラジルです ポートでご紹介)回復を図ってきましたが、これらの取り組みは 現在も進められています。 が、景気拡大のエンジンはGDPの約6割を占める個人消費で あり、同国は国内需要により経済成長できるというポテンシャル を有していると考えます。この堅調な消費の背景には、「ボル ■ ルーラ前大統領からルセフ大統領へ 2003年から2010年まで就任したルーラ前大統領は、当初、 サ・ファミリア」や最低賃金の引き上げといった政府支援、低位 で推移する失業率にみられる雇用の安定、および資源等の輸 左派政党出身だ ったため 保護主義的な政策に逆行するので 出の伸びによる国民所得の増加などがあげられます。 はという懸念が広がり ました。しかし、 同氏は中南米諸国の左 派政権と外交交流を持ちつつも、国内では市場開放といった こうしたなかブラジルではCクラスと呼ばれる中間所得層の拡 大がみられ、今後も更なる消費拡大が予想され ます。 例えば、自動車にかかる工業製品税の減税措置などは、販 所得階層別の人口シェア推移 売台数をみるとその効果が確認できます。さらに、その他工業 (期間:1999年~2014年) (%) 100 製品への減税や、生産地比率等を条件とした自動車への適 用税率差別化といった国内製造業の優遇政策など、内容は 多岐に渡っています。 75 また、直近のブラジルでは利下げや為替介入といった過度な 自国通貨高を抑制する政策が進め られ、国内消費と輸出競 50 争力の強化という形で、製造業の回復が後押しされています。 これらの取り組みは徐々に効果を現し始め、今後の製造業は 25 0 1 999年 2004年 2009年 2014年 (見通し) AおよびBク ラス (月収:約29万円~) Cクラス (月収:約7万円~約29万円) Dクラス (月収:約4万円~約7万円) Eクラス (月収:0万円~約4万円) (出所)FGV(ジェットゥリオ・ヴァルガス経済財団)の データを基に 三菱UFJ投信作成 2014年は拡大成長の 見通し、為替レートは1ブラジルレアル=39円(2012年10月末)で計算 回復基調につくとみています。 ■ サッカーワールドカップ、オリンピックが相次いで開催 -インフラ投資に期待も ブラジルでは、2014年に サッカーワ ールドカップ、2016年に オリンピックが開催予定となっています。インフラ投資計画「PA C」が進め られ、上記イベントに伴う競技会場や宿泊施設といっ た 大型施設の建設、 交通機関等の輸送や電力等の エネ ル ■ 購買意欲が高い傾向にある? ブラジルでは、過去のハイパーインフレや通貨危機の影響か ギー整備など各種インフラ投資が行われています。 ら貯蓄より消費に所得を回すといわれるなど、購買意欲が高い 傾向にあるとみられます。さらに割賦販売が定着していることも、 さらに2012年8月に は、高速道路や鉄道関連の1,330億レ アル(名目GDP比約3%)にわたる長期大型インフラ計画が発 所得がたとえ低くとも家電等の単価の高い商品を購入すること 表されました。インフラ整備に遅れがみられるブラジルにおいて、 を可能にします。こうしたブラジル人の消費傾向は、引き続き 消費増加に寄与すると考えられます。 中長期的な効果が期待できるインフ ラ投資が今後進め られる ことは明るい材料になります。また、ワールドカップやオリンピック と い った大 規模 なイベ ■ 一方で懸念の残る製造業だが・・・ 製造業の鈍化が直近の景気回復の重石となっていたことか ントを控え、 こう した 多 様なインフラ投資だけ ら、ルセフ大統領は就任した2011年の夏に国内産業強化策と して「ブラジル拡大計画」を発表しました。 同計画は、減税措 で なく、開催時の訪問 置などを通じた技術革新、投資、輸出の促進や国内産業の保 者増加等に よる消費 増など、様々な効果が 護と育成などを目的とし、適宜、期間延長や拡充が行われて きました。 期待で きると考え ます。 コラム ブラジル大統領は人気者? ルーラ前大統領は、国民からの 人気は高く退任前も80%以上の 支持率を得てい ました。そし て当時、大統領府文官長などを務め 同氏の右腕と されていた人物が、現大統領の ジルマ・ヴァ ナ・ルセフ氏です。 ルセフ大統領は、初の 女性大統領として2011年から就任しており、米国経済誌フォーブスが 発表する「世界で最も影響力のある女性100人(2012年発表)」で第3位にランクインするなど、 世界の注目人物です。さらに、ルーラ政権時代から実務能力や経済知識の評判は高く、汚職疑 惑の政治家を更迭するなどクリーンな政治体制を示しており、国民から高い支持を得ています。