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1 職業性ストレス簡易調査票における中小規模事業所の特徴について

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1 職業性ストレス簡易調査票における中小規模事業所の特徴について
職業性ストレス
職業性ストレス簡易調査票
特徴について
ストレス簡易調査票における
簡易調査票における中小規模事業所
における中小規模事業所の
中小規模事業所の特徴について
Characteristics of Small and MediumMedium-Sized Businesses
on the Brief Job Stress Questionnaire
臨床心理学研究科 0606-0702 井上 千恵
1.問題と
問題と目的
平成 14 年度の厚生労働省の調べでは心の健康対策に取り組んでいる事業所は全事業所
の 26.5%に過ぎない。その内訳を規模別でみると、5000 人以上の規模の事業所では 96.6%
と 100%に近いのに対し、300 人未満では 51%にとどまり、さらに規模が小さくなるにつ
れ実施率は低くなっている(厚生労働省,2003)
。
現在、
産業ストレスの領域では、
数多くの職業性ストレスの調査研究が行われているが、
中小企業の調査研究はまだ少なく(例えば、小堀・赤本・北条,2000;板倉,2002)
、中
小企業特有の職業性ストレスに関する調査研究は十分ではない。厚生労働省の調べでは、
「職場の人間関係」
「仕事の量と質」
「仕事への適応性」などが、主なストレス要因として
あげられているが、これは常用労働者 10 人以上の事業所のデータであり、規模別に調査
されたものではない。中小企業労働者に対する心の健康づくりの対策は、中小企業の特徴
を踏まえたものでなければならないと考えられる。というのは、企業規模によって、独自
のストレス要因があることが予想されるからである。
2.方法
1) 対象および手続き:中小規模事業所 3 社において、2006 年 11 月中旬から 2007 年2
月中旬、留め置き式にて調査を行った。回答は就業時間内に記入するように求めた。各社
における有効回答数は、飲食業(男性:24、女性:11)
、流通業(男性:12、女性:10)
、
製造業(男性:25、女性:9)であった。
2)調査票の構成:職業性ストレス簡易調査票を使用した。職業性ストレス簡易調査票は
ストレス要因(量的負担、質的負担、身体的負担、コントロール、技能の活用、対人関係、
職場環境、適性、働き甲斐)、ストレス反応(活気、イライラ、疲労、不安、抑うつ、身体
愁訴)、修飾要因(上司支援、同僚支援、家族支援、満足度)で作成された全 57 項目からな
る調査票である。心理尺度以外にフェイスシートに記入を求めた。
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3)分析方法:(1)基準値データと調査結果の平均値とをt検定により比較した。(2)
職種と性別による尺度得点を2要因の分散分析により比較した。
(3)各尺度間の相関関係
の分析を行った。
(4)ストレス要因を基準変数、ストレス反応を説明変数とし重回帰分析
を行った。
3.結果
t検定の結果、男性では、
「身体的負担」尺度(t[50]=4.54,p<0.01)、
「コントロール」尺
度(t[50]=2.50,p<0.05)、
「働き甲斐」尺度(t[50]=3.57p<0.01)において基準値データの平均
値より有意に低い値を示した。ストレス反応では、
「活気」尺度(t[50]=3.74,p<0.01)、「イ
ライラ」尺度(t[50]=3.74,p<0.01)「身体愁訴」尺度(t[50]=2.26,p<0.01) において基準値デ
ータの平均値より有意に高い値を示した。
女性では、
「対人関係」尺度(t[29]=2.14,p<0.05)、
「適性」尺度(t[29]=3.13,p<0.01)、
「働
き甲斐」尺度(t[29]=2.43,p<0.05)において標準化データの平均値より有意に低い値を示し
た。また、
「技能の活用」尺度(t[29]=2.43,p<0.05)の得点については有意に高い値を示し
た。
2要因の分散分析の結果、質的負担尺度では、事務職はサービス業より有意に得点が高
かった。身体的負担尺度ではサービス業は事務職より有意に得点が高く、ライン作業従事
者は事務職より有意に得点が高かった。コントロール尺度においては、ライン作業従事者
はサービス業より有意に得点が高かった。また、女性は男性より得点が高かった。対人関
係尺度では事務職はサービス業より有意に得点が高かった。適性尺度では事務職はサービ
ス業より有意に得点が高かった。
活気尺度では、サービス業は事務職より有意に得点が高く、ライン作業従事者は事務職
より得点が有意に高かった。疲労尺度においては、事務職はサービス業とライン作業従事
者より有意に得点が高かった。また、女性は男性より得点が高かった。抑うつ尺度では女
性は男性より得点が高かった。身体愁訴尺度では女性は男性より得点が高かった。同僚の
支援尺度では、ライン作業従事者は、サービス業より有意に得点が高かった。
ストレス要因とストレス反応における重回帰分析の結果、活気尺度は身体的負担尺度、
イライラ感尺度は適性項目、疲労感尺度は働き甲斐尺度、コントロール項目、量的負担尺
度、不安感尺度はコントロール項目、抑うつ感尺度はコントロール項目、技能の活用尺度、
身体愁訴尺度はコントロール項目、ストレス反応の合計(活気を除く)は、コントロール
項目、適性項目と有意な結果を示した。
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4.考察
中小規模事業所に従事する男性は、身体的負担が多いが、仕事の裁量権を持ち、働き甲
斐を感じており、ストレス反応として、活気、イライラ感、身体愁訴を感じている傾向を
示した。
ストレス反応であるイライラ感と身体愁訴は、ストレス要因が身体的負荷の多さと裁量
権があるという結果のみが示されたことから、本調査では得られなかったストレス要因が
あるのではないかと思われる。
女性においては、対人関係の問題が多いが、自らの技術、知識を活用しており、仕事の
適性と働き甲斐を感じている傾向を示した。本研究においては、女性は、自らの知識・技
術を活用する場を与えられていた。小田切ら(2005)は、女性は習熟度の高い仕事が与え
られていないと述べているが、本研究での中小規模事業所勤務の女性は、重要な働き手と
して組織内に受け入れられ、知識・技能を必要とする仕事を任されているのではないかと
思われる。そのため女性は仕事に対して適性と働き甲斐を感じているという結果が示され
たのではないかと思われる。
本研究においては、職種の職務形態がストレス要因に多く影響を与えたことが考えられ
た。そのため、作業形態を考慮した職種の選択をバランスよく行うことが必要である。ま
た、業種を増やすこと、各業種についての被験者数を増やすことがより正確な中小規模事
業所の特徴を捉えられるのでないかと思われる。
また、中小規模事業所における職業性ストレスの特徴を把握するために面接を行い、質
問紙にはない、より細かなストレスの特徴を探ることも必要であろう。
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