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研究会抄録 - 泌尿器科

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研究会抄録 - 泌尿器科
~ ご 挨 拶 ~
第 8 回泌尿器科再建再生研究会
当番世話人 小川 修
この度、第 8 回の泌尿器科再建再生研究会をお世話させていただくことにな
りました。何卒、よろしくお願いいたします。
京都大学は 10 年以上前から附属研究所として再生医科学研究所を持ち、幹
細胞研究、再生医学の生物学的基盤研究、再生医工学の分野で幅広く活動して
きました。さらに最近では山中伸弥教授による iPS 細胞の発見が脚光をあび、
iPS 細胞研究所(CiRA)の設立とともに、再生医療への新しい方向性も出つつ
あります。本会の特別講演では、再生医科学研究所および CiRA の重要メンバー
のおひとりとして活躍されている戸口田淳也先生に再生医療の最前線に関して
お話をいただくことになりました。また京都大学薬学研究科の岡本均先生には、
最近の話題である「時計遺伝子」についての講演をいただくことになっていま
す。サイエンスと再生医療のホットな講演をご期待いただきたいと思います。
本年 3 月の未曾有の東日本大震災では 3 万人近くのひとが亡くなられたり行
方不明となっておられます。ご冥福をお祈りするとともに、心からお見舞い申
し上げます。本会の開催される 6 月には復興の兆しが見えていることを期待し
ていますが、原発事故の問題もあり、まだ厳しい状況下にあるのではないかと
予想します。東北地方、さらには日本全体の「再建再生」のために、私たち医
療人も力を合わせて協力しなければなりません。奇しくも「再建再生」という
キーワードを名前に持つ本研究会です。今回の学術大会が、立ちはだかる多く
の課題を克服し「再生再建」という革新的医療を実現するための一助となるこ
とを期待しています。たくさんの皆様に参加いただいて、本会を実りあるもの
としていただくようお願い申し上げます。
― 1 ―
第 8 回 泌尿器科再建再生研究会
会 期:平成 23 年 6 月 11 日(土)10:00 ~ 17:15
当番世話人:小川 修
会 場:芝蘭会館
〒 606-8501
京都市左京区吉田近衛町 京都大学医学部構内
■ 顧問(敬称略)
岡野 光夫(東京女子医科大学)
田端 泰彦(京都大学)
東間 鉱(牛久愛和総合病院)
■ 世話人(五十音順 敬称略)
浅野 友彦(防衛医科大学)
井川 幹夫(島根大学)
江藤 正俊(熊本大学)
小川 修(京都大学)
岡村 菊夫(国立長寿医療センター)
賀本 敏行(宮崎大学)
窪田 吉信(横浜市立大学)
後藤 百万(名古屋大学)
杉村 芳樹(三重大学)
武中 篤(鳥取大学)
田邊 一成(東京女子医科大学)
寺地 敏郎(東海大学)
西沢 理(信州大学)
羽渕 友則(秋田大学)
三股 浩光(大分大学)
山本 新吾(兵庫医科大学)
― 2 ―
荒井 陽一(東北大学)
五十嵐辰男(千葉大学)
大家 基嗣(慶應義塾大学)
大山 力(弘前大学)
筧 善行(香川大学)
木原 和徳(東京医科歯科大学)
黒川 公平(国立高崎病院)
斎藤 誠一(琉球大学)
高橋 悟(日本大学)
田中 正利(福岡大学)
塚本 泰司(札幌医科大学)
中川 昌之(鹿児島大学)
野々村克也(北海道大学)
藤澤 正人(神戸大学)
山田 拓己(埼玉医科大学)
吉田 正貴(熊本労災病院)
世話人会: 平成 23 年 6 月 10 日(金)18 時 30 分より
京都ホテルオークラ
3 階:金剛の間
〒 604-8558 京都市中京区河原町御池
TEL: 075-211-5111
懇 親 会: 平成 23 年 6 月 11 日(土)17 時 30 分より
事 務 局: 第 8 回泌尿器科再建再生研究会事務所
(京都大学医学部附属大学病院泌尿器科内)
TEL: 075-751-3777 FAX: 075-751-3740
E-mail: [email protected]
― 3 ―
〈研究会案内〉
1.受付・入場
1)総合受付は 6 月 11 日(土)午前 9 時 00 分より芝蘭会館内にて行います。
2)当日参加費 4000 円をお支払いください。
3)研究会は芝蘭会館で開始致します。
4)ご入会ご希望の方には入会申込書と年会費振込用紙をお渡し致します。
2.発表について
1)一般演題の発表時間は 7 分、討論 4 分の計 11 分です。時間厳守でお願い致します。
2)発表はすべて PC 発表に限ります。スライドは使用できませんのでご注意ください。
3)こちらで用意する PC の OS は Windows 7 です。それ以外の OS(Macintosh OSX 等)
での発表を希望される方はご自身 PC をご持参ください。
4)演者受付まで USB メモリーまたは CD-R をご提示ください。
5)口演発表時の PC 操作については演台で各自お願い致します。
6)使用するアプリケーションは PowerPoint に限らせて頂きます。こちらで用意する PC
の PowerPoint は version 2000 ~ 2010 に対応しております。
7)発表の 30 分前までに受付をお願いします。演者受付は芝蘭会館内になります。
〈Windows〉
◆動画を含まない PC 発表
原則として、当日 USB メモリーまたは CD-R 等のメディアをご提示ください。
一度当方の PC にコピーさせていただきます。データは研究会終了後、責任を持って消
去させて頂きます。
◆動画を含む PC 発表
原則としてご自身の PC をご持参ください。
発表の 1 時間前までに演者受付で試写を行い、動作の確認をお願いします。その際引換
券をお渡しして PC をお預かりいたしますので発表終了後にお引き取りください。
・会場での接続コネクタは D-sub15pin タイプです。変換コネクタが必要な機種をご使用
の場合は忘れずにご持参ください。
・PC 設定でスリープモードを解除してください。
・発表用ファイルは係りの者が判別可能なようにデスクトップに表示してください。ファ
イル名は「【演台番号】【氏名】」としてください。
〈Macintosh〉
◆原則としてご自身の PC をご持参ください。
・会場での接続コネクタは D-sub15pin タイプです。変換コネクタが必要な機種をご使用
の場合は忘れずにご持参ください。
・PC 設定でスリープモードを解除してください。
・発表用ファイルは係りの者が判別可能なようにデスクトップに表示してください。ファ
イル名は「【演台番号】【氏名】」としてください。
― 4 ―
〈芝蘭会館 交通アクセスのご案内〉
住所:〒 606-8501 京都市左京区吉田近衛町 京都大学医学部構内
〈空港から京都(JR 京都)
〉
・関西国際空港より京都駅まで JR 関空特急「はるか」で約 75 分。
朝 6 時台から最終 22 時台までほぼ 30 分間隔で運行。
・大阪国際空港(伊丹空港)より京都駅八条口まで空港バスで約 55 分。
朝 8 時台から 21 時台までほぼ 25 分間隔で運行。
※詳しくは交通機関 HP をご覧ください。
〈JR・近鉄京都から芝蘭会館〉
・市バス 京都駅前(D2 乗り場)より乗車。206 系統「東山通北大路バスターミナル」行。
約 35 分。
京大正門前下車、徒歩約 2 分。
・タクシーで約 20 分。
― 5 ―
第 8 回泌尿器科再建再生研究会タイムスケジュール
I
開会の挨拶
小川 修(京都大学)
09:50 ~ 09:55
II
一般演題(臨床・1)
座長:大山 力(弘前大学)
09:55 ~ 10:28
III
研究会賞応募演題
座長:筧 善行(香川大学)
10:28 ~ 11:45
11:45 ~ 12:00
休憩
IV
V
ランチョンセミナー
座長:野々村克也(北海道大学)
12:00 ~ 13:00
休憩
13:00 ~ 13:15
総会(世話人会及び会計報告等)
13:15 ~ 13:30
休憩
13:30 ~ 13:45
VI
一般演題(基礎)
座長:高橋 悟(日本大学)
13:45 ~ 14:18
VII
一般演題(臨床・2)
座長:寺地 敏郎(東海大学)
14:18 ~ 15:02
VIII
一般演題(臨床・3)
座長:塚本 泰司(札幌医科大学)
15:02 ~ 15:46
15:46 ~ 16:00
休憩
IX
イブニングセミナー
X
研究会賞発表
XI
閉会の挨拶
XII
懇親会
座長:三股 浩光(大分医科大学)
16:00 ~ 17:00
17:00 ~ 17:10
小川 修(京都大学)
17:10 ~ 17:15
17:30 ~
― 6 ―
プログラム
09:50 ~ 09:55
I
開会の挨拶
小川 修(京都大学)
II
一般演題(臨床・1)(発表 7 分、討論 4 分)
09:55 ~ 10:28
座長:大山 力(弘前大学)
1 侵襲低減を目的に鏡視下補助に施行した腎血管性疾患手術の 2 例
仲西 寿朗(熊本大学)
2 女性複雑型尿道憩室の治療経験
田中 博(北海道大学)
3 30 年間放置された Peyronie 病に対し大伏在静脈移植による
陰茎形成を施行した 1 例
押川 英央(串間市民病院)
III
研究会賞応募演題(発表 7 分、討論 4 分)
10:28 ~ 11:45
座長:筧 善行(香川大学)
4 脊髄損傷ラットにおける神経およびグリア前駆細胞移植の効果:
急性期および亜急性期における細胞移植の比較
三井 貴彦(北海道大学)
5 骨格筋間質由来多能性幹細胞シートペレットを用いた膀胱拡大術の試み
添田 宗市(東海大学)
6 放射線照射によるラット膀胱機能障害モデルを用いた骨髄細胞移植による
膀胱再生の試み
今村 哲也(信州大学)
7 腹膜抗線維化治療のための低分子量ヘパリン徐放化ゼラチンハイドロゲル調製
齊藤 高志(京都大学)
8 豚自己皮下脂肪吸引から抽出した脂肪組織由来幹細胞を用いた
傍尿道周囲注入実験
山本 徳則(名古屋大学)
9 前立腺全摘術後 Penile rehabilitation を目的とした PDE5 阻害剤が
術後尿失禁に与える影響について
海法 康裕(東北大学)
10 腎癌・前立腺癌骨転移に対する股関節再建術の試み
神村 典孝(弘前大学)
(休憩 11:45 ~ 12:00)
― 7 ―
IV
12:00 ~ 13:00
座長:野々村克也(北海道大学)
ランチョンセミナー
「時計遺伝子と疾病」
京都大学大学院薬学研究科 医薬創成情報科学講座
教授 岡村 均 先生
(休憩 13:00 ~ 13:15)
V
13:15 ~ 13:30
総会(世話人会及び会計報告 等)
(休憩 13:30 ~ 13:45)
VI
13:45 ~ 14:18
座長:高橋 悟(日本大学)
一般演題(基礎)
11 生殖細胞発現因子導入によるダイレクトリプログラミングの試み
小林 秀行(東邦大学)
12 プロテオミクスによるヒト外尿道括約筋特異蛋白の同定
秋田 泰之(大分大学)
13 ヒト外尿道括約筋衛星細胞における TGF-β の増殖抑制作用
三木 大輔(大分大学医学部附属病院)
14:18 ~ 15:02
座長:寺地 敏郎(東海大学)
VII 一般演題(臨床・2)
14 ロボット支援前立腺全摘除術の尿道膀胱吻合における
total anastomotic restoration の工夫
日向 信之(鳥取大学)
15 前立腺手術後の腹圧性尿失禁に対する経閉鎖孔式尿道スリング手術の経験
清水 洋祐(京都大学)
16 根治的前立腺全摘除術 3 ヶ月後の腹圧排尿および尿失禁の
術前予測因子に関する検討
柳内 章宏(神戸大学)
17 前立腺全摘術後の性機能障害の経時的変化および関連する因子について
大原 慎也(東北大学)
― 8 ―
15:02 ~ 15:46
座長:塚本 泰司(札幌医科大学)
VIII 一般演題(臨床・3)
18 腹腔鏡下膀胱部分切除術後の膀胱破裂の 1 例
舛森 直哉(札幌医科大学)
19 晩期放射線障害による膀胱腸瘻に対する濃厚血小板注入療法の試み
林 成彦(横浜市立大学)
20 人工尿道括約筋埋込み手術における手術時間の検討
中川 晴夫(東北大学)
21 婦人科手術に伴う尿管損傷の臨床的検討
橘田 岳也(北海道大学)
(休憩 15:46 ~ 16:00)
IX
16:00 ~ 17:00
座長:三股 浩光(大分医科大学)
イブニングセミナー
「幹細胞を用いた再生医療の現況と展望」
京都大学 再生医科学研究所 /iPS 細胞研究所
教授 戸口田淳也 先生
X
研究会賞発表
17:00 ~ 17:10
XI
閉会の挨拶
小川 修(京都大学)
17:10 ~ 17:15
※懇親会は 17:30 から芝欄会館別館 1 階 レストランにて行います。
― 9 ―
ランチョンセミナー
時計遺伝子と疾病
岡村 均
(京都大学大学院薬学研究科 医薬創成情報科学講座 教授)
座長:野々村克也(北海道大学)
【ランチョンセミナー】
時計遺伝子と疾病
京都大学大学院薬学研究科 医薬創成情報科学講座
教授 岡村 均
近年、経済のグローバル化にともない交代性勤務や長時間労働が一般化して
おり、ライススタイルが劇的に変わり、不夜城と化した人工的な生活環境変化
が一般化している。そのため、生物のリズムを司る生体リズムシステムが破綻
の危機に陥っており、生体リズムの異常がもたらす疾病に関心が集まっている。
生体リズムの研究は、前世紀末に時計遺伝子が発見され大きく進展した。時
を司るわずか数個のこの時計遺伝子は、数千もの細胞機能に重要な遺伝子を周
期的に発現させ、ほとんどの生理機能が生体時計の下に動いている。この時計
遺伝子が形成する時計システムを分子時計というが、分子時計の異常は多くの
慢性疾患の発症、進展にかかわるのではないかと注目されている。
たとえば、血圧と生体リズムの関係は、正常者に見られる日内変動のみでな
く、高血圧の罹患率が昼夜交代勤務者において高いことなど、多くの臨床疫学
的報告がある。しかしながら、実際に体内時計と高血圧を結びつける分子機序
については従来、全く不明であった。我々は生体リズムの消失した遺伝子改変
マウス(Cry-null マウス)を用いてリズム異常に関連する病態を検索した。そ
の結果、Cry-null マウスでは、副腎球状層で新しいタイプのステロイド合成酵
素の異常が起こり、アルドステロン分泌が過剰となり、食塩感受性の高血圧を
示すことを見出した。マウスで見つかったアルドステロン産生系の特異酵素は、
ヒトの副腎球状層にもあり、それは HSD3B1 であった。この酵素は、ヒトの
高血圧の新しい病因としての可能性がある。
アルドステロン作用部位である遠位ネフロンでも時計遺伝子が機能してい
る。時計とアルドステロンの両者によって制御されている ENaC による、タン
パク質レベルの時計制御機構システムの解明は、原発性アルドステロン症によ
る病態解明に重要な示唆を与えるであろう。
― 13 ―
イブニングセミナー
幹細胞を用いた再生医療の現況と展望
戸口田淳也
(京都大学 再生医科学研究所 /iPS 細胞研究所 教授)
座長:三股 浩光(大分医科大学)
【イブニングセミナー】
幹細胞を用いた再生医療の現況と展望
京都大学 再生医科学研究所 /iPS 細胞研究所
教授 戸口田淳也
幹細胞という用語の意味するところは、極めて多様であるが、共通してもつ
べき性質は、自己複製能と分化能である。すなわち自分と全く同じ細胞を作り
出すと同時に、娘細胞と称せられる特定の細胞系譜に分化する細胞を生み出す
ことのできる細胞と定義されている。幹細胞は更に胚組織由来の胚性幹細胞
(Embryonic stem cell、
ES 細胞)
と成体組織に由来する体性幹細胞に分類される。
後者は特定の組織を構成する複数の細胞に分化することから組織幹細胞とも呼
ばれる。ES 細胞はその優れた増殖能と分化能により、医療への応用が期待さ
れる細胞であるが、生命の萌芽である受精卵を滅して作製されたものであるこ
と、かつ拒絶反応の制御が必要な他家細胞移植となることから本邦では研究の
展開が遅れていた。一方、組織幹細胞に関しては、様々な領域で臨床応用を目
指した研究が展開されており、特に間葉系幹細胞を用いた再生医療は既に臨床
レベルに達している。しかしながら、得られる細胞の種類が限定されているな
ど組織幹細胞を用いた細胞治療には限界があり、細胞製剤に関する規制等の影
響もあり、細胞治療全体としては、行き詰まった感があった。このような状況
の中で、iPS(induced pluripotent stem)細胞の出現は、大きなブレークスルー
をもたらすものであった。iPS 細胞は皮膚線維芽細胞のような最終分化を遂げ
た体細胞に複数の遺伝子を導入することに得られた ES 細胞と同等の能力をも
つ多能性幹細胞である。倫理的問題が無いだけではなく、自家細胞移植が可能
であり移植細胞として極めて有力な細胞源となる。加えて、特定の疾患の患者
さんから iPS 細胞を作成することで、病態の解明、更には創薬へと幅広く研究
を展開することが可能となった。組織幹細胞の臨床応用の現状を紹介し、iPS
細胞の臨床応用に向けて残された課題を考察する。
― 17 ―
一般演題(臨床・1)
1.侵襲低減を目的に鏡視下補助に施行した腎血管性疾患手術の 2 例
熊本大学医学部 泌尿器科 1)
熊本大学医学部 血液浄化療法部 2)
仲西寿朗 1)、西 一彦 1,2)、本多次朗 1)、伊藤徳浩 1,2)、
高橋 渡 1)、和田孝浩 1)、江藤正俊 1)
腎血管性疾患は希な疾患であるが、破裂のリスクや様々な症状の原因となり
外科的加療を要することも多い。この腎血管性疾患に対して、手術侵襲低減を
目的に鏡視下補助にて施行した 2 例を経験したのでこれらについて報告し、文
献的考察も行う。
症例 1、72 歳女性。約 2 cm の腎動脈瘤に対して、2010 年 9 月 1 日後腹膜鏡
下に右腎摘出を行い、体外にて瘤切除と瘤より分枝した腎動脈 2 本を 1 本化し、
右腸骨窩に自家腎移植術を施行した。
症例 2、40 歳女性。6 年前に肉眼的血尿出現し、精査にて腎ナットクラッカー
症候群の診断となる。2010 年 7 月より肉眼的血尿と左腰背部痛持続あり、貧
血の進行も認めたため外科的加療の方針となる。腎静脈径にて血管内ステント
治療困難との判断で、2011 年 3 月 2 日、腹腔鏡下に左腎周囲と腎動静脈の剥
離を行い、約 13 cm の正中切開創より IVC- 左腎静脈再吻合と腎固定術を施行
した。
術後腎機能は 2 例とも問題無く、術後合併症も認めず良好に経過した。鏡視
下補助手術は各腎血管性疾患に対する手術侵襲低減に有効であると考えられ
た。
― 19 ―
一般演題(臨床・1)
2.女性複雑型尿道憩室の治療経験
北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学
田中 博、管野由岐子、橘田岳也、三井貴彦、野々村克也
【目的】女性尿道憩室は尿道の遠位腹側に発生する単純型の他に、腹側・近位
側に伸展し、尿道を円周状に囲む複雑型がある。当科で経験した複雑型尿道憩
室の治療成績に関して報告する。
【対象と方法】複雑型尿道憩室の確定診断は MRI により行った。手術は経膣的
に行い、憩室壁は尿道連結部を含め切除、尿道欠損部の閉鎖、Martius flap に
よる被覆の順に行い、さらに膀胱頚部に及ぶ例では筋膜スリングを追加した。
【結果】対象は 6 例で年齢中央値は 50 才、主訴は疼痛が 5 例、他院での膣壁腫
瘤切除後の尿失禁が 1 例であった。MRI では 5 例が全周型、
1 例が鞍上型であっ
た。憩室壁は 4 例で完全切除が可能であったが、2 例は一部残存した。術後膀
胱造影で憩室の残存を 1 例に認めたが、症状もなく追加治療は不要であった。
筋膜スリングを 5 例に施行したが、併用しなかった 1 例を含め 2 例に軽度の腹
圧性尿失禁を認めた。
【結論】女性複雑型尿道憩室の評価として MRI は有用である。手術には憩室壁
を尿道との交通部を含め切除することに加え尿道欠損部の慎重な閉鎖が重要で
あり、また尿失禁予防に筋膜スリング併用は有効である。
― 20 ―
一般演題(臨床・1)
3.30 年間放置された Peyronie 病に対し大伏在静脈移植による
陰茎形成を施行した 1 例
串間市民病院泌尿器科 1)
宮崎大学 泌尿器科 2)
宮崎大学 第 2 外科 3)
押川英央 1)、後藤崇之 2)、上村敏雄 2)、賀本敏行 2)、横田敦子 3)
症例は 63 歳男性。30 年前に陰茎硬化症の診断で当院 5 年間通院していた。
ステロイド局注等を受けたが、屈曲、勃起時の痛みなどの症状が軽快しなかっ
たため、通院自己中断した。
2010 年 6 月排尿困難を自覚し、他院泌尿器科を受診した。排尿困難に対して、
導尿施行しようとするも陰茎の屈曲強く、導尿困難と考え当院紹介受診。
陰茎は中央部より左側へ 90 度屈曲、陰茎海綿体左側を中心に硬結を認めた。
半年間保存的治療を行うも、屈曲の程度は変わらず、尿閉をきたしてカテー
テル留置となった。ご本人の希望も強く、2010 年 12 月 22 日陰茎海綿体白膜
切除および大伏在静脈移植術施行した。術後経過および文献的考察も含め報告
する。
― 21 ―
研究会賞応募演題
4.脊髄損傷ラットにおける神経およびグリア前駆細胞移植の効果:
急性期および亜急性期における細胞移植の比較
北海道大学大学院 腎泌尿器外科学 1)
Drexel University College of Medicine, Neurobiology and Anatomy 2)
三井貴彦 1)、Birgit Neuhuber 2)、Marion Murray 2)、Itzhak Fischer 2)、野々村克也 1)
雌ラットを用いて胸髄に挫傷損傷を作成後、神経とグリアの前駆細胞である
NRP/GRP を脊髄損傷部位に損傷直後の急性期(A)と損傷後 9 日目の亜急性
期(D)に移植し、脊髄組織の保護、腰仙髄における神経線維の状態、下肢お
よび下部尿路機能の回復について検討した。また、A + D における細胞移植の
相加効果についても検討した。A 群では損傷部位の保護作用は認められるもの
の、移植後 4 週目までにほとんどの細胞は死滅しており、機能回復は見られな
かった。D 群では、移植後 8 週目でも移植細胞は生存し、損傷部位のサイズの
減少、腰仙髄における下行神経線維の増加、求心性線維の減少、下肢および下
部尿路機能の回復がみられた。A + D 群では D 群に比べて、より損傷部位の保
護作用、腰仙髄における下行神経線維の増加はみられるものの、機能回復にお
ける相加効果は膀胱容量と残尿量の改善以外は認められなかった。A + D にお
ける細胞移植の相加効果は組織学的には認められるのもの、機能回復について
はさらなる改善が必要である。
― 22 ―
研究会賞応募演題
5.骨格筋間質由来多能性幹細胞シートペレットを用いた膀胱拡大術の試み
東海大学医学部外科学系 泌尿器科 1)
東海大学医学部基盤診療学系 再生医療科学 2)
静岡市立清水病院 泌尿器科 3)
添田宗市 1,2)、玉木哲朗 2)、星 昭夫 1)、増田真樹 2)、
新田正広 3)、赤塚 明 2)、寺地敏郎 1)
【目的】腸管を使用した膀胱拡大術では十分な容量は確保できるが、膀胱自身
の神経・血管が付随しないため、極端な容量拡大に伴う残尿量の増加やパウチ
破裂等のリスクが残る。そこで、神経―筋―血管ユニットを再構築できる幹細
胞群を用いた拡張術を試みた。
【方法】GFP マウス骨格筋を酵素処理して幹細胞群を単離、増幅培養して細胞
シートを作成した。EDTA にてシート化幹細胞群を浮遊・採取後、遠心してシー
トペレットを作成した。同時に、正常マウス膀胱壁を、粘膜および粘膜下層の
みを残すかたちで平滑筋層から外側を縦断的に切開、横方向に押し広げて膀胱
壁を伸展、容量を拡大した。露出膀胱壁を覆うように、幹細胞シートペレット
を添付移植、対象群には培地のみを添加した。移植 4 週後に、膀胱容量測定と
組織化学的検索を行い、各々正常群と比較した。
【結果及び考察】膀胱容量は、むしろ対照群で増加する傾向が示された。しかし、
対照群の拡張膀胱壁は薄く、十分な神経・血管形成も認められなかった。これ
に対し、移植群では多くの GFP 陽性繊維芽細胞が拡張膀胱壁を肥厚させ、さ
らにシュワン細胞に分化して末梢神経再生に貢献するとともに血管内皮、周皮
細胞にも分化して血管構築を行い、新たな膀胱壁を形成していた。
― 23 ―
研究会賞応募演題
6.放射線照射によるラット膀胱機能障害モデルを用いた骨髄細胞移植による
膀胱再生の試み
信州大学医学部 下部尿路医学講座 1)
信州大学医学部 泌尿器科学 2)
今村哲也 1)、石塚 修 1,2)、栗崎功己 2)、石川雅邦 2)、野口 渉 2)、
張 雷 2)、西澤 理 1,2)
【緒言】われわれは、放射線治療によって生じた排尿障害に対して、骨髄由来
細胞移植治療は膀胱機能を改善させるかどうか検討したので報告する。
【方法】10 週齢雌 SD ラットの恥骨に接する直径 1 cm 内に、週 1 回 2 Gy の放
射線線量を 5 回照射した後、2 週間通常飼育を行った。細胞移植 1 週間前に、
17 週齢雄グリーンラット大腿骨から骨髄細胞を採取し、1 週間初代培養を行っ
た。培養を終えた骨髄由来細胞(2.0 × 106 個)を放射線照射した膀胱に注入移
植した。対照群には、細胞を含まない溶液を注入した。移植 4 週間後、無麻酔
無拘束下にて膀胱内圧測定を行った後、組織学的検討を行った。
【結果】細胞移植直前の放射線照射を受けた膀胱は、正常な排尿と比較すると、
排尿間隔時間と残尿量の有意な増大など異常な排尿を示した。細胞移植 4 週間
後、細胞移植群は、対照群と比較して、排尿間隔時間の有意な短縮、および、
残尿量の有意な低下を認め、正常な排尿に近づいた。また、移植した細胞の一
部は、平滑筋特異的抗体、あるいは、神経特異的抗体に陽性な細胞への分化を
示した。
【結語】放射線治療により排尿障害が生じた膀胱に対して、骨髄細胞移植治療
は膀胱組織の再生、および、膀胱機能を改善する可能性が示唆された。
― 24 ―
研究会賞応募演題
7.腹膜抗線維化治療のための低分子量ヘパリン徐放化
ゼラチンハイドロゲル調製
京都大学 再生医科学研究所
齊藤高志、田畑泰彦
本研究の目的は、低分子量ヘパリン(LMWH)の徐放化による、腹膜抗線
維化の治療方法論の確立である。抗血液凝固剤として臨床で使用されているヘ
パリンは、細胞からの肝細胞増殖因子(HGF)の産生を促し、抗線維化作用
を示すことが知られている。本研究では、この HGF の局所産生による抗線維
化効果を高める。そのため、出血作用の低い LMWH を選び、ゼラチンハイド
ロゲルからの LMWH の徐放化を試みた。LMWH とカチオン化修飾ゼラチン
からなるコンプレックスを含有したゼラチンハイドロゲルを作製した。得られ
たハイドロゲルから LMWH の徐放が確認された。腹膜線維化モデルマウスの
腹膜直下に LMWH 含有ハイドロゲルを埋め込んだところ、未処理群に比べて、
腹膜線維化組織の厚みが有意に低下した。このことは、ハイドロゲルから
LMWH が局所徐放され、その結果抗線維化効果が発揮されたと考えられる。
― 25 ―
研究会賞応募演題
8.豚自己皮下脂肪吸引から抽出した脂肪組織由来幹細胞を用いた
傍尿道周囲注入実験
名古屋大学医学部 泌尿器科 1)
名古屋大学医学部 形成外科 2)
山本徳則 1)、鳥山和宏 2)、佐々直人 1)、松川宣久 1)、加藤真史 1)、
吉野 能 1)、服部良平 1)、後藤百万 1)
前学会では腹圧生尿失禁モデルに対して傍尿道周囲脂肪組織由来幹細胞注入
が有用であることを報告した。
今回は大動物(豚)を用いて豚皮下脂肪吸引から脂肪を採取し、細胞分離装
置(Celution800R)を用いて、脂肪由来幹細胞/間質を抽出し、傍尿道周囲に
注入実験を行ったので報告する。
全身麻酔下に皮下脂肪吸引を行い下腹部正中切開にて膀胱頸部、傍尿道を露
出を行うと同時に吸引脂肪からの細胞抽出(Celution sytem;サイトリテラ
ピューテック社)を行った。抽出細胞を露出させた傍尿道周囲に直視下で注入
した。
術後、完全尿閉、感染症の合併はなく、体重も 4 週間で増加傾向を示した。
術後 4 週間目の傍尿道周囲の摘出病理組織の細胞注入部位は尿道内腔に隆起
性の組織構造を HE 染色で認めた。同部位は同時に染色したデスミン染色、
Calponin type1, α smooth muscle actin, Myosin heary chain でも陽性を示し、細
胞注入部位は myogenic 構造の存在を示唆した。また、術後 4 週の時点では細
胞増殖を反映する Ki-67 染色は陰性であった。豚全臓器(脳、心臓、大動脈、肺、
肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、筋肉、皮膚、膀胱、尿道)では肉眼的、病理組織学
的にも腫瘍の発生、循環障害の所見は認められなかった。
豚自己皮下脂肪吸引から抽出した脂肪組織由来幹細胞を用いた傍尿道注入は
myogenic な再生を促し、安全な方法であることを示唆した。
― 26 ―
研究会賞応募演題
9.前立腺全摘術後 Penile rehabilitation を目的とした
PDE5 阻害剤が術後尿失禁に与える影響について
東北大学医学系研究科 泌尿器科学分野
海法康裕、大原慎也、荒井陽一
前立腺全摘除術後の勃起障害に対する Penile rehabilitation として、以前より
我々も積極的に PDE5i 投与を行っている。前回の本研究会で、PDE5i が術後
の性機能に加えて尿禁制の回復も促進し、術後 3 カ月以内に内服開始した早期
群が 3 か月以降群より尿禁制回復が良好であることを報告した。その結果をも
とに、最近は手術翌日から PDE5i 投与を行っている(超早期群)。2008 年 6 月
から 2009 年 12 月まで両側神経温存前立腺全摘術を施行した 38 例のうち超早
期群 34 例の、術前・術後 1、3、6、12、18、24 カ月後の尿禁制率(パッド使
用ゼロの割合)を調べ、以前のデーターと比較した。術後 1 カ月時点の超早期
群の尿禁制率は 24%で、早期群(52%)・3 か月以降群(46%)よりも有意に
悪かったが、その後良好に回復し術後 24 カ月では早期群を超えるレベルに回
復した。術後超早期の PDE5i 内服は最終的に尿禁制回復に寄与するが、一時
的に術後尿失禁を増悪させることが示唆された。
― 27 ―
研究会賞応募演題
10.腎癌・前立腺癌骨転移に対する股関節再建術の試み
弘前大学大学院医学研究科 泌尿器科学講座 1)
弘前大学大学院医学研究科 整形外科学講座 2)
青森県立中央病院泌尿器科 3)
国立病院機構弘前病院整形外科 4)
神村典孝 1)、柳沢道朗 2)、得居範子 1)、今西賢悟 1)、杉山尚樹 1)、
畠山真吾 1)、工藤茂将 1)、米山高弘 1)、古家琢也 1)、米山 徹 1)、
盛 和行 1)、柿崎 寛 4)、川口俊明 3)、藤 哲 2)、大山 力 1)
1989 年から 2011 年まで腎癌及び前立腺癌骨転移に対し、転移巣切除術、再
建術を 17 例(前立腺癌 2 例、腎癌 15 例)施行した。術後の経過が判明してい
る 9 例(前立腺癌 2 例、腎癌 7 例)の平均生存期間は 24.6 カ月である。今回
は前立腺癌大腿骨転移に対して腫瘍切除術及び人工骨頭置換術を施行した症例
と腎癌の骨盤臼蓋部転移に対し、股関節再建術を行なった症例を報告する。症
例 1 は 78 歳の男性。主訴は歩行障害。去勢抵抗性前立腺癌に対し化学療法施
行中、左大腿骨転移の骨折を来たし歩行不可能となった。術後は杖歩行が可能
となっている。術後 16 カ月経過した現在、歩行可能である。症例 2 は 65 歳の
女性。右股関節痛の精査中に骨盤臼蓋部の転移性骨腫瘍と右腎癌が発見された。
右腎摘除後に臼蓋部の切除を施行し、股関節再建を行なった。リハビリ後杖歩
行まで可能となり、術後 22 カ月経過した現在も歩行可能である。腎癌や前立
腺癌では骨転移発症から死亡するまでの期間が比較的長く、症例によっては積
極的アプローチが奏功する場合もあると思われる。
― 28 ―
一般演題(基礎)
11.生殖細胞発現因子導入によるダイレクトリプログラミングの試み
東邦大学医学部 泌尿器科学講座
小林秀行、笠原瑞希、岡 祐輔、山辺史人、高杉啓一郎、上村修一、
田中祝江、鈴木九里、永尾光一、中島耕一
【目的】最近、繊維芽細胞から iPS 細胞を介さず、心筋細胞、血液細胞、軟骨
細胞が誘導できるダイレクトリプログラミングが発表され注目されている。
我々は、生殖細胞発現因子をヒト精巣由来繊維芽細胞に導入することによりダ
イレクトリプログラムが可能であるかどうか検討を行った。
【方法】精巣生検で採取した精巣組織より精巣組織由来繊維芽細胞を樹立した。
レンチウイルスにて VASA, DAZL, DAZ3, BOULE を精巣由来細胞に導入した。
数日後、① MEF フィダープレート② 0.1%ゼラチンプレート③胚様体形成プ
レート④無処理プレートにまきなおした。その後、RT-PCR にて VASA, DAZL
などの生殖細胞で発現している遺伝子の発現を確認した。
【結果】胚様体形成プレートにまきなおした細胞において、導入した遺伝子が
消失することなく、VASA, DAZL, BOULE の発現を認めた。
【考察】ES 細胞や iPS 細胞からの生殖細胞への分化を進める方法以外に、直接
的に生殖細胞へ分化させるダイレクトリプログラミング法は有用であり更なる
検討が必要である。
― 29 ―
一般演題(基礎)
12.プロテオミクスによるヒト外尿道括約筋特異蛋白の同定
大分大学 腎泌尿器外科学講座
秋田泰之、花田麻里、住野泰弘、佐藤文憲、三股浩光
【目的】外尿道括約筋は肛門挙筋などの骨盤底筋群とともに、尿禁制に重要な
役割を果たしているが、解剖学的、発生学的に四肢や骨盤内の骨格筋とは異なっ
ていることが報告されている。今回、外尿道括約筋で有意に発現亢進している
蛋白を同定することを目的とした。
【方法】
①同意の得られた膀胱全摘術症例より外尿道括約筋
(RS)、肛門挙筋
(LA)
を そ れ ぞ れ 微 量 採 取 し、10 μ m の 薄 切 標 本 を 作 成。LCM(laser-captured
microdissection)を用いて筋組織のみを回収し、二次元電気泳動を行い、RS
と LA でそれぞれ発現している蛋白の解析を行った。②同様に得られた薄切標
本より RNA を抽出し、DNA マイクロアレイを用いて発現遺伝子の網羅的解析
を行った。③ RS, LA の凍結組織から LC-MS/MS による質量分析を行った。
【 結 果 】 ① よ り RS に 有 意 に 発 現 増 強 し て い る 4 ス ポ ッ ト が 同 定 で き た
(P < 0.05)。また②、③から RS には Small leucine rich proteoglycan ファミリー
である Decorin が発現亢進していた。
【考察】この Decorin は TGFβ に拮抗する作用をもっており、筋肉の増殖に作
用すると考えられる。この作用機序が明らかになれば、外尿道括約筋の再生、
尿失禁治療に応用できる可能性がある。
― 30 ―
一般演題(基礎)
13.ヒト外尿道括約筋衛星細胞における TGF-β の増殖抑制作用
大分大学医学部附属病院 腎泌尿器外科
三木大輔、秋田泰之、住野泰弘、佐藤文憲、三股浩光
(目的)TGF-β は骨格筋に対して増殖抑制作用を示すが、最近になって加齢
に伴う骨格筋再生能力の低下に TGF-β が関与していることが報告されている。
今回我々は、TGF-β がヒト外尿道括約筋衛星細胞の増殖に与える影響を検討
した。
(方法)膀胱全摘除術時に採取したヒト外尿道括約筋から筋衛星細胞を
分離培養し、SV40T 抗原を導入して長寿化した細胞を用いた。(結果)TGF-β
により細胞増殖は有意に抑制され、フローサイトメトリーにて G0/G1 期へ
の細胞の蓄積を認めた。Western blotting にて Smad3 リン酸化の亢進、CDK
inhibitor の発現亢進を認めた。
(結語)ヒト外尿道括約筋は TGF-β によって
CDK inhibitor の発現が亢進し、増殖が抑制された。これらに関しては Smad3
の関与が示唆された。
― 31 ―
一般演題(臨床・2)
14.ロボット支援前立腺全摘除術の尿道膀胱吻合における
total anastomotic restoration の工夫
鳥取大学医学部器官制御外科学講座 腎泌尿器科学分野
日向信之、岩本秀人、井上誠也、松本真由子、森實修一、八尾昭久、
本田正史、磯山忠広、瀬島健裕、武中 篤
当院ではロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術(RALP)を施行する
際に、膀胱尿道吻合において posterior rhabdosphincter reconstruction(PRR)
と anterior reconstruction の両者を含む total anastomotic restoration を全例に施
行している。
PRR を 行 う こ と に よ る 早 期 尿 禁 制 の 改 善 へ の 寄 与 に つ い て は 未 だ に
controversial であるものの、PRR を膀胱尿道吻合に先立って行うことにより、
膀胱尿道吻合操作そのものの難易度は、膀胱と尿道の距離が近づくことにより
容易になる。また、吻合部周囲を安定化させることによる組織治癒の促進が期
待されうる。
しかしながら、PRR を施行する際に、尿道背側への運針は神経温存の観点
より可及的に組織を薄くひろう必要があり、かつ不用意な縫合操作は組織の断
裂を引き起こす可能性がある。また、RALP における体位は通常極端な頭低位
であるため、縫合時に相当の tension がかかることや、縫合が連続縫合で行わ
れ糸結びの際の緩みが起きやすいなどの問題点があり、PRR は手技的な難易
度が高い操作である。
我々が行っている手技上の工夫と、total anastomotic restoration の術式をビ
デオにて供覧し、当院における尿禁制の短期成績につき報告する。
― 32 ―
一般演題(臨床・2)
15.前立腺手術後の腹圧性尿失禁に対する
経閉鎖孔式尿道スリング手術の経験
京都大学大学院医学研究科 泌尿器科学
清水洋祐、吉村耕治、兼松明弘、小川 修
【緒言】男性の腹圧性尿失禁(SUI)は前立腺手術後にみられる。重度 SUI に
対するゴールドスタンダードである人工尿道括約筋は価格や保険適応などの問
題点も多い。一方、女性の SUI に対する経閉鎖孔式テープ(TOT)法の普及
が支えとなり、男性スリング手術の報告が最近なされてきていた。
【目的】前立腺手術後の SUI6 例に対し経閉鎖孔式尿道スリング手術(TOS)を
施行したためそれを報告する。
【対象と方法】対象はホルニウムレーザー前立腺核出術後の 2 例と前立腺全摘
除 術 後 の 4 例、 平 均 年 齢 は 69.5 歳(58–79 歳 ) で あ っ た。 文 献(Eur Urol,
2008; 54: 1051)を参考に 2009 年の 7 月より開始した。
【結果】平均手術時間は 149.8 分(112–180 分)で出血はいずれも少量で、術中・
術後に明らか合併症は認めなかった。前立腺全摘除術後の PSA 再発に対し放
射線治療を施行した 2 例は改善を認めなかったが、その他の 4 例は完全に尿禁
制が保たれている。
【結語】前立腺手術後の SUI 6 例に対し TOS 手術を施行した。TOS 手術は安全
で、症例を選べば比較的有効な治療法となりうる可能性が示唆された。
― 33 ―
一般演題(臨床・2)
16.根治的前立腺全摘除術 3 ヶ月後の腹圧排尿および
尿失禁の術前予測因子に関する検討
神戸大学大学院医学研究科 腎泌尿器科学
柳内章宏、三宅秀明、田中一志、藤澤正人
【背景】今回我々は、根治的前立腺摘除術術前・術後の尿流動態検査の結果から、
術後の腹圧排尿および尿失禁に関する術前予測因子について検討した。
【方法】2008 年 8 月から 2010 年 1 月に根治的前立腺全摘除術を施行した 51 例
を対象とした。術前および手術 3 ヶ月後に、膀胱内圧測定、圧流量測定、尿道
括約筋筋電図および安静時尿道圧測定を施行した。
【結果】腹圧排尿は、術前および術後に、それぞれ 5 例(9.8%)および 18 例
(35.3%)に認め、その割合は有意に増加していた。尿失禁症例は術前には存
在せず、術後は 17 例(33.3%)に認めた。尿失禁群と尿禁制群における各パ
ラメータの多変量解析において、術後の最大尿道閉鎖圧に加え、術前の排尿筋
過活動が独立した尿失禁の予測因子であった。術後腹圧排尿群と自然排尿群に
おける多変量解析では、術前の Watt Factor maximum 値が独立した腹圧排尿の
予測因子であった。
【考察】根治的前立腺摘除術術後 3 か月の時点では、尿道括約筋機能の低下に
加え、排尿筋活動の低下を伴うことにより、腹圧排尿を行っている症例および
尿失禁症例が一定の割合で存在すると考えられた。
― 34 ―
一般演題(臨床・2)
17.前立腺全摘術後の性機能障害の経時的変化および関連する因子について
東北大学大学院医学系研究科 泌尿器科学分野
大原慎也、海法康弘、佐藤琢磨、石戸谷滋人、荒井陽一
【目的】前立腺全摘術後の QOL にもっとも影響を与える合併症の一つである
性機能障害の術後の経時的変化および回復に影響する因子について検討した。
【対象と方法】当科で 2002 年 1 月から 2009 年 9 月までに恥骨後式前立腺全摘
術を行い、術前ホルモン療法を施行していない 287 例を対象とした。UCLAPCI, EPIC の勃起の硬さの質問から「ふつう」以上を正常勃起と定義し、術前、
術後 1、3、6、12、18、24、36、48 カ月で正常勃起の割合(正常勃起率)を
算出し比較した。
【結果】全体の正常勃起率は術前、術後 1、3、6、12、18、24、36、48 カ月で
それぞれ 57.5%、2.6%、3.5%、3.0%、3.4%、5.4%、7.6%、10.1%、12.5%
であった。神経温存別で比べると、両側温存群および片側温存+片側移植群が、
片側温存群および温存無し群と比較して正常勃起率の回復が良好であった。上
記結果に加え、幾つかのパラメーターが回復に与える影響を検討し報告する。
― 35 ―
一般演題(臨床・3)
18.腹腔鏡下膀胱部分切除術後の膀胱破裂の 1 例
札幌医科大学 泌尿器科
舛森直哉、田中俊明、竹内 基、井上隆太、新海信雄、前鼻健志、
水野孝祐、田端秀敏、桧山佳樹、塚本泰司
症例は 32 才男性。クローン病があり、低脂肪低残渣食とイムランによる治
療を行っていた。2010 年 8 月に S 状結腸膀胱瘻に対して腹腔鏡下に S 状結腸
切除術と膀胱部分切除術を施行した。S 状結腸の口側を離断後、尿膜管を切断
して膀胱前面を展開した。S 状結腸は強い炎症性変化にて膀胱と固く癒着して
いたが、瘻孔部を含めて後三角部の膀胱部分切除術を行った。尿管口を確認し
て 2-0 Vicryl による全層縫合にて膀胱を閉鎖した。2 週間後に膀胱造影を行い、
200 ml 注入でリークなきこと確認して尿道カテーテルを抜去した。同年 12 月、
排尿後の下腹部痛を自覚し、腹腔内への膀胱破裂と診断した。尿道カテーテル
留置により保存的に改善したが、2011 年 2 月に同様のイベントがあった。再々
発する可能性があるため、4 月下旬に開腹による膀胱修復術を予定している。
膀胱コンプライアンスは良好で残尿も認めず、膀胱破裂を起こした原因は不明
であるが、クローン病による栄養障害などが不良な創傷治癒に寄与した可能性
がある。
― 36 ―
一般演題(臨床・3)
19.晩期放射線障害による膀胱腸瘻に対する濃厚血小板注入療法の試み
横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器病態学
林 成彦、小川毅彦、坂田綾子、佐野 太、槙山和秀、中井川昇、
上村博司、矢尾正祐、窪田吉信
晩期放射線障害の一つである膀胱膣腸瘻は、有効な治療法がなく、患者の
QOL を著しく損なう。我々は、1986 年に子宮頸癌に対して広汎子宮全摘術・
全骨盤放射線照射を施行し、2003 年に膀胱膣腸瘻を発症した症例を経験した。
2004 年から高圧酸素療法を断続的に繰り返し、小康状態が得たが、2009 年か
ら糞様尿と水様便が生じ、膀胱鏡にて左側壁と頂部に瘻孔開口部が認められた。
人工肛門増設を検討したが、造影検査にて瘻孔が確認できず、経過観察となっ
ている。そこで難治性褥瘡に対して有効性が確認されている濃厚血小板注入療
法を、患者の同意のもとに試みた。腰椎麻酔下に膀胱鏡越しに、3 か所の瘻孔
部周囲に濃厚血小板液を 0.5 ml ずつ計 14 ml 注入した。術中・術後の合併症は
なく、術後 3 日目に退院した。術後 1 日目は水様便が軽減したとの報告があっ
たが、以後は以前同様の症状に戻ったとのことで、残念ながら本治療法の有効
性は確認できなかった。
― 37 ―
一般演題(臨床・3)
20.人工尿道括約筋埋込み手術における手術時間の検討
東北大学大学院医学系研究科 泌尿器科学分野
中川晴夫、海法康裕、荒井陽一
【緒言】男性腹圧性尿失禁は前立腺全摘術などの泌尿器科手術後に発生するこ
とが多い。通常、術後 1 年以内に改善することが多いが長期間持続することも
ある。重症例に対する治療として人工尿道括約筋植え込み術が行われているが、
以前の報告では手術時間の長い症例で長期作働率が低下していることが報告さ
れている。今回当院における手術時間の検討を行った。
【方法】当院で行われた人工尿道括約筋植え込み術 15 例の手術時間を診療録か
ら集計し解析を行った。また、手術時間と術後の尿失禁の症状との関連につい
て検討した。
【結果】15 例の平均手術時間は 88 分であり、3 名の術者間で有意な差は認めら
れなかった。各術者の初期の症例とその後の症例との間にも有意な差は認めら
れなかった。また手術時間と術後の効果についても明らかな差は認められな
かった。
【考察】当院における手術時間はこれまでの報告と比較すると短時間であり、
効果も満足できるものであった。この理由として海外での新鮮解剖体でのト
レーニングの経験や 3 名の術者がチームを組み効率的に手術ができるよう工夫
している結果と考えられる。
― 38 ―
一般演題(臨床・3)
21.婦人科手術に伴う尿管損傷の臨床的検討
北海道大学 腎泌尿器外科学分野 1)
函館中央病院 泌尿器科 2)
橘田岳也 1)、土屋邦彦 2)、田中 博 1)、三井貴彦 1)、菅野由岐子 1)、
守屋仁彦 1)、秋野文臣 2)、野々村克也 1)
【緒言】尿管損傷の多くは医原性外傷であり、中でも開腹手術に伴う損傷の大
半は婦人科手術時に認められる。
【対象】今回我々は、婦人科手術に伴う尿管損傷のうち外科的治療を要した
17 例を検討した。
【結果】手術時年齢は中央値 49 歳、発症契機となった疾患は子宮頚癌 9 例、子
宮体癌 3 例、卵巣癌 3 例、子宮筋腫 2 例であった。損傷部位は U2 が 2 例で残
りは U3 であった。損傷側は右 7 例、左 9 例、両側 1 例であり、6 例は術中に
損傷が確認されていた。臨床症状は、水腎症 7 例、膣からの尿流出 4 例、ドレー
ンからの尿流出 2 例、下腹部痛が 2 例であった(重複あり)。治療過程におい
て経皮腎瘻を作成した症例は 7 例あり、受傷から根治手術までの期間は中央値
4 カ月(0 ~ 106)であった。修復術式は Psoas hitch 法が 7 例、Boari + Psoas
hitch 法が 10 例であった(うち 1 例は鏡視下)
。なお、経過観察中に腎機能低
下に陥った例が 3 例見られた。
【考察】尿管損傷に対する外科的治療は患者個々の病態を考慮して適切な時期
に適切な術式を選択する必要がある。
― 39 ―
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