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autho rE-mail: fFftIffJヒ
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書.
XXV, 2014.03
レーザーアプレーション ICP 質量分析による
新原生代中期の花樹岩のジルコン結晶内部の U-Th-Pb 分布の調査
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はじめに
ジルコンは Zr を主成分とする珪酸塩鉱物(理想式: ZrSi04 ) である.この鉱物は,全岩中に Zr
を含む地殻内部のほぼ全ての火成岩・変成岩・堆積岩やマントノレ椴横岩にさえ副成分鉱物として希
少量存在し得る但eaman e
tal., 1990). 一般的なジルコンは,数百 ppm~多いときで 2000ppm 程度
の U と数百 ppm 程度の百を含む.二次イオン質量分析法 (SIMS) ・高分解能イオンプローブ質量
分析法 (SHRI聞を用いて,研摩したジルコン結晶表面の局所分析(サブグレイン分析)によっ
て U- , τ'h・Pb 系の年代測定を行なう手法は 80 年代から実用化された.ジルコンが大陸地殻の岩石
に普遍的に含まれる副成分鉱物であり,熱に対して頑強な性質を持っている特徴や,百8U, B51J, 232百1
の壊変定数が精度良く決定されているという理由のために,ジルコンは年代測定の手段として扱い
易く,電子プローブマイクロアナライザー (EPMA) を用いたトリワムーウランー全鉛量アイソク
ロン法 (CHIME; S阻止i andA伽chi, 1991) やレーザーアプレーション試料導入を組み合わせた誘導
結合プラズマ質量分析法 (LA-ICPMS) の開発・普及も相まって,サブグレインでのジルコン U-Pb
年代測定は近年の地質学・地質年代学分野で飛躍的に広まった. U- , Th-Pb 系列での年代測定を成
立させるための条件として,お8U, 23'U , 23可b のそれぞれの放射壊変系列の最終壊変生成核種であ
る 206pb, 207pb , 208Pb となるまでの閉鎖系が維持されている必要がある.しかし,ジルコンの U-Pb
同位体年代の測定開始当初から結品内部で閉鎖系が保たれない場合があると指摘されていて(例え
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;S店法i, 1987) ,この問題は取り置かれたままであった.近年の分析技術の進
歩に伴ってこの事象の検証が再び重要視されつつある侭田iak e
ta1., 2013). 著者らもこれを重要課
題ととらえ,年代誤u 定結果の信頼性を確認することを目的として,ジルコン結品内部のどのような
場所で,どの程度の頻度で,この事象が起こるか検証するための試験を 2013 年度より新たに開始
− 49 −
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書,
XXV , 2014.03
した.また,並行して, 2013 年 5 月に年代測定総合研究センターにて,研究小集会(参加者内訳:
学内 7 名,東京大学 1 名,京都大学 4 名)を開催し,ジルコン年代測定のあり方について討論した.
本稿では,経過報告として,インド南部地域から採集された花闘岩から分離した比較的均質な年代
を示すジルコンに対する LA-ICPMS 分析の結果を紹介する.
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ルコン結晶内部を移動するRnのイメージ.
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格子からフィッショントラックに入り,
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次の核種に異変するまでランダムウオー
クが起こるというモデルが示されている.
図1.コンコーディア図における年代一致曲線 (concordia) と
年代不一致線 (discordia) .例として,南インド Palghat-Cauvery
縫合帯の高度変成岩(チャーノッカイト)に含まれるジノレコン
年代測定の結果 (Sato
e
tal., 2012 を改編)を挙げた.誤差表記:
図 3. 本研究で LA・ICPMS 分析を行なった
2σ.
ジルコンの反射電子像と局所分析の位置
の一例.
2
. U.Th と Pb の非調和分布に関する過去の研究
図 1 の横軸 207Pb/235 U 比
縦軸 206Pb/238U 比で与えられるコンコーディア図において,閉鎖系が成
立するとき分析値は年代一致曲線(concordia) 上に与えられる.二次的な加熱を受けた高度変成岩
のジルコンでは,分析値が concordia から逸れて A-B の範囲で直線的に並ぶ場合がある(年代不
一致線: discordia).
この場合,点 B が示す年代を二次的な過熱(変成作用)が起こった年代と考
える.しかし,高度変成岩のジルコンからは,分析値が A-C の範囲で直線的に並ぶことさえある
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.A-B 間の discordia は変成作用などの熱の影響でしばしば起こり得ると解釈でき
るが,分析条件が正しく設定されているとすれば A-C 間の reverse discordia は U や Pb の消失や獲
得以外に説明し難い.図 1 で一例として挙げたインド南部地域で採集された新始生代末期に原岩形
成して新原生代末期にグラニュライト相変成作用を受けたチャーノッカイトのジルコンからだけ
でなく,例えば,新始生代に広域的なグラニュライト相変成作用を被った南極大陸東部のナピア岩
体の変成岩類に含まれるジルコンからも,同様の discordia と reverse discordia の両方を示す U と Pb
の非調和分布が与えられる場合がある (Williams e
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− 50 −
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書.
XXV, 2014.03
なまされたジルコン結品内部のガラス中に濃集した Pb の影響 (McLar四 et al. , 1994),結晶内部で局
所的に濃集した Pb の影響 (Carson e
ta1., 2002) ,ウラン系列中の 23"uの影響(Romer, 2003) などの可
能性が挙げられた.例えば, S
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i(1987) では,坦8U, 235U, 23勺E それぞれの中間壊変生成核種で
ある mh, 219h,盟、n は半減期が短いものの常に気体状態で存在する事に着目して,目、n (次の
核種に異変するまでの平均寿命: 5.77 秒)と 222Rn (平均寿命: 5 .52 日)が直線距離でそれぞれ 50μm
と1. 5 cm 程度動く事ができるという計算結果を報告した.前述のように,ジルコン結晶内部での
u ・Thと Pb の非調和分布は,古い年代を示す岩石で,且つ,花筒岩類と比べて変成岩類のジルコ
ンで確認される場合が多いようである.しかし, S
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i(1987) の EPMA 分析では,後期白亜紀末
期~パレオジンの貰入年代を示す岐阜県苗木花商岩から分離したジルコンであってもこの事象は
起こり得るという結果が与えられている.
3.
試料の準備手順と分析方法
本研究では,南インドの花商岩から分離した既に新原生代中期(クリオジェニアン)の比較的均
質な年代値が確認されているジルコン [819 :t 2
6Ma(N=13 , 20"誤差表記) ;Saωet al. , 2012J の U,
τb, Pb の同位体組成を再調査した.南インドは原生代末期のゴンドワナ超大陸の形成に関係する
広域的なグラニュライト相変成作用を被った地域であるが(例えば, S
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tal. , 2009) ,本研究
で使用した花闘岩のように原生代末期の年代を与えず,新原生代中期だけを示すジルコンも時々報
告される (Saωet a1., 2011 , 2012). 試料の準備手順として,岩石試料を 80mesh を通過するサイズま
で砕き,水揚での椀かけ,一旦乾燥させてネオジム磁石を用いた分離,ポリタングステン酸ナトリ
ワム重液を用いた分離を行ない,ジルコンを抽出した. 30 粒のジルコンをエポキシ樹脂に埋めて固
めて,結晶表面を長軸の両端付近が剥き出しになるまで慎重に研摩して,顕微鏡を用いて透過像と
反射像を,電子顕微鏡を用いて反射電子像とカソードルミネッセンス像を撮影した.これらの像を
見て,包有鉱物を避けて局所分析の場所を選んだ.反射電子像が示す研摩した結晶表面の平均原子
番号が(1)均質なコア部分,
(2) 均質なリム部分,及び (3 )不均質(組成累帯構造;図 3) を
示す部分をまたいで,名古屋大学環境学研究科地球環境科学専攻に設置されている LA-ICPMS
(Agil阻t 7
700x1白'MS+ESI-Jap皿NWR2 13 レーザーアプレーションシステム)を用いて, 25μm の
レーザー径で 2""'Pb,却6pb ,加Pb,却8pb, 23吋h, 238U を測定した.分析条件の設定は,臼也描:hi e
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(2008) で記述された条件に従った.標準試料として, NIST610 ガラス (P伺rce e
ta1., 1997) と Nancy
91500 ジルコン(Wiedenbeck e
ta1., 1995 , 2004) を使用した. 238U/23 SU 比の値として 137.818 が適用さ
れた但ie四 et al. , 2012). 通常,ジルコンは燐灰石やゼノタイムなどの包有鉱物をしばしば含むので,
ジルコン結晶内部に包有された微細な燐灰石を予期せず巻き込んで測定してしまった分析値を排
除するために
内
"Ca の検出の有無を利用してスクリーニングした.その結果, 74 箇所の局所分析の
"Ca の顕著なピークが見られたものはお箇所で,見られなかったものは 41 箇所であった(内
訳:コア 4 箇所,リム 12 箇所,組成累体構造をまたいだ部分 25 箇所)
4.
.
結果
LA-ICPMS 分析とその後の "Ca の検出の有無によるスクリーニングを通過した分析値について,
U, τb, Pb 同位体の分布を図 4 に与える.ジルコン結晶内部で U ・ τE と Pb の非調和分布が存在し
ないとき,全ての分析値は置線的に並びアイソクロンを描くはずである.分析の結果,図 4 におい
て,組成が均質なコア部分とリム部分の分析値は 238U
却6pbベア(ウラン系列), 235U_2町pb ベア
(アクチニウム系列), 2
3
2
Th_208 Pb ベア(トリウム系列)の全てで,測定された濃度の 10% と仮定
して添えられたエラーパーの範囲内でアイソクロン上にプロットされた.一方,組成塁帯構造をま
たいで(図 3) 測定した結果でも多くの分析値がアイソクロン上に位置したが, 3 箇所の分析値(分
− 51 −
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書,
XXV,2014.03
析番号: 26 , 27 , 37) で異なる様子が確認された(図 4) .分析番号 26 と 27 では,ウラン系列とア
クチニウム系列で 10 %のエラーパーの範囲内では互いの調和を示したものの,
トリウム系列では
23>rhの測定値に格差が見出された.分析番号 37 では,アクチニウム系列とトリウム系列でアイソ
クロンから大きく逸れる結果が与えられた.今回の試験では比較的均質な新原生代中期の年代を示
すジルコンの LA-ICPMS 分析が行なわれ,その結呆,組成塁帯構造をまたいで測定した 25 箇所の
内の 3 箇所の分析値で弱い非調和分布が確認された.この結果をみると,非調和分布が生じる頻度
はそれほど高いとは言えない但し,この問題は未だ解決しておらず,今後も様々なタイプ・年代
を示すジルコンに対して調査を行ない,この事象について調べてゆく必要がある.
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謝辞
本研究を行なうにあたり,名古屋大学に所属する地質・岩石・地球化学系の研究者の方々から多
くの議論・ご支援をいただいた.とくに,加藤丈典准教授(本学年代測定総合研究センター) ,束
田和弘准教授(同博物館) ,鈴木和博博士(同名誉教授)からは多くのアドバイスをいただいた.
山本鋼志教授(同環境学研究科)からは LA-ICPMS 分析の諸作法のご指導をしていただいた.野崎
ますみ博士(同博物館)に SEM を用いたカソードルミネッセンス像撮影のためのマシンタイムを
割り当てていただいた
尚,本稿で紹介した内容は,平成 25 年度名古屋大学年代測定総合研究セ
ンターの新研究創成経費を使用して行なった研究の成果である.
引用文献
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日本語要旨
本研究では,南インド産の新原生代末期に形成した花商岩から分離したジルコンに対して,その
結晶内部の U ・ τb と pb の非調和分布の有無・その頻度について調べるために LA-ICPMS 分析を行
なった.その結果,組成塁帯構造をまたいで測定した数箇所の分析値が弱い非調和分布を示した.
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