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擬似体験学習を取り入れた消費者教育

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擬似体験学習を取り入れた消費者教育
第Ⅲ章 豊かな感性を育む授業実践
擬似体験学習を取り入れた消費者教育
1 感性と消費者教育
本校の家庭科では,自分の生活を楽しみ,それをよりよいものへと創造し
ていく子ども,最終的には自立した子どもを育てることを目ざしている。
人は消費生活を営んでいく上で,多様な価値観と出会う。いろいろな異な
る考え方があることを認め合い,その上で自分なりの考えをもつことが,自
立につながっていくであろうと考えられる。
感性とは,「価値あるものに気づく感覚」であると定義されている。様々
な価値観が存在する中で,自分なりの考えを持ち,それを自分の生活に生か
していくことが,消費者教育のねらいであるならば,感性が消費者教育に大
きく関わっているということがいえるであろう。
一人一人の生活は当然異なるものであり,物や金銭に対する価値観も様々
である。そこで家庭科における消費者教育では,単に物の買い方や選び方を
学ぶのみではなく,一人一人が消費生活における課題を見つけ,それを解決,
追究していくことのできるような学習を進めていきたい。また,消費者教育
の目的は"賢い消費者づくり"のみにとどまらず,もっと人間の生活の本質
を問うものであると考えていきたい。
2 実践事例-第5学年「通信販売で買い物をしよう」
(1)題材について
今日,人が生活していく上で,物を買うことは欠かせない行為である。し
かし,大量生産や大量流通のシステム,広告・宣伝などの情報の氾濫等によ
り,様々な消費者間題が発生している。多くの価値観が存在する中で,消費
者として何を選択するかを自己決定し,日常生活を的確におくるためにも,
学校教育において消費者教育を行うことが必要であると考える。
通信販売の利用率は年々増加しており,本学級においても,半数以上が通
信販売で家族の人などに品物を買ってもらった経験を持っている。さらに,
自分で品物を選んで購入したことのある子どもも25%にのぼる。その中で,
何人かの子どもは,品物のイメージと違っていたなどの困った点を指摘して
いる。しかし,通信販売で何か買ってみたいという気持ちを持っている子ど
もが多く,将来その利用率は増えることが予想される。
本題材では,通信販売で生じる問題点を解決する方法を探りながら,通信
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家 庭 科
販売の長所と短所を明らかにし,その上で通信販売に対する自分なりの考え
をもつことができるようにしたい。それが,子どもたちの消費者としての正
しい判断力を養うことにつながるであろうと考える。
(2)指導目標
① 通信販売で生じる問題点を見つけ,その解決方法を考えることによって,
主体的に判断する力を身につけ,消費者としての自覚を高めることができる
ようにする。
② 通信販売のしくみと,その長所と短所を明らかにした上で,これから通
信販売とどう関わっていくか,自分なりの考えを持つことができる。
(3)指導内容と計画…………………………7時間(本時 第二次 第4時)
第一次(1)
第二次(5)
第三次(1)
昭冊震一覧
(4)授業づくりにあたって
第二次では,通信販売の長所,短所を実感するために擬似体験学習を取り
入れた。まずは,おのおのの集めた通信販売の広告をもとに,_自分たちが売
ろうと思った品物の広告をグループごとに作ってみることにした。ここでは
優れた広告を作ることが目的ではないので,①商品名と値段は必ず書くこと
②消費者が安心して買える広告になるように心がけることの2点のみを確認
し,できるだけこちらからの投げかけはしないようにした。できあがった広
告を見せ合い,その中から自分の買いたいものをひとつ選んだ。
本時は,自分たちが作った広告をもとに自分が選んだ品物が,実際に手元
に届くというところから始まる。そこには,品物がイメージ通りだった,イ
メージ通りでなかったという二通りの感想が出ると思われる。異なる感想を
持った子どもたちが,自分の措いた具体的なイメージとその品物が一致した
理由,違っていた理由をそれぞれ出し合いながら,実物を見ないで品物を選
ぶ難しさを実感できるようにしたいと考えた。さらにイメージと違っていた
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第Ⅲ章 豊かな感性を育む授業実践
場合に,どう対処すれ
ばいいかという投げか
けをし,そのことから
も,どんなことに注意
して広告を見ればいい
かということに気づか
せ,子どもたちに消費
者としての判断力を身
につけさせたいと考え
た。
(子どもたちの作った広告より)
(5)授業仮説
自分 た ちの作 っ た通 信 販 売 の広 告 を も とに買 い物 をす る とい う擬 似 体
験学 習 を取 り入 れれ ば , 子 ど もた ち は どん な こ とに注 意 して広 告 を見 れ
ばい いか とい うこ とに気 づ くで あ ろ う。
(6)本時の目標
通信販売で買い物をするとき,どんなことに注意して広告を見ればいいか
ということに気づく。
(7)評価の観点
実 際 に届 い た 品 物 が , 自分 の 描 い た イ メ ー ジ と一 致 し
関 心 ・意 欲 ・態 度
た 理 由 , 違 っ て い た 理 由 を, 意 欲 的 に考 え よ う と して
い る。
友 だ ち と意 見 を 出 し合 う 中 で , 広 告 を見 る と き に ど ん
創 意 工 夫
な こ と に 注 意 した ら い い か , 自分 な りに 見 つ け る こ と
が で きる。
イ メ ー ジ通 りだ っ た 点 と そ の 理 由 , イ メ ー ジ と違 っ て
技 能
い た 点 と そ の 理 由 を , ワ ー ク シ ー トに ま と め る こ とが
で き る。
知 識
・ 理 解
広 告 を 見 る と き に どん な こ と に 注 意 した ら い い か とい
う こ とが わ か る 。
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家 庭 科
(8)学習の展開
学 習 活 動
指導・支援活動
1 日分の選んだ品物のイメ
1・同じ品物を選んだ子ども同士のグループを編成
ージを描く。
し,その広告を見る場とイメージを描く時間を設
ける。
2 届いた商品がどうだった
2・前時に書いたワークシートをもとに,自分がそ
かを確かめて,イメージ通
の品物を選んだ理由を確かめ,どこがイメージ通
りだった理由やイメージと
りだったか,またどこがイメージと違っていたか
の違いが生じた理由を考え
ということに気づくことができるようにする。
る。
◎イメージ通りだった点とその理由,イメージと
違っていた点とその理由を整理して考えることが
できるように,ワークシートを準備する。
3 それぞれの理由をグルー
3◎イメージ通りだった子どもと,イメージと違っ
プで出し合い,それを発表
ていた子どもとが,それぞれの理由を出し合いな
する。
がら,考えを深めていけるようにする。
4 イメージ通りでなかった
場合の対処方法を考える。
4・いろいろな対処方法がある中で,本当にそれが
可能かどうかを問いかけることによって,もう一
度広告を確かめることを促す。
5 通信販売の広告を見ると
5・自分ならばどんなことに注意するかということ
きに,どんなことに注意し
を,本時の学習をもとに考えるように投げかける。
たらいいかということを考
・一人一人の考えを大切にし,認めていく。
えてまとめる。
3 考察
(1)イメージについて,子どもたちはどのように受けとめたか。
「イメージ」ということばが,子どもたちにとってはとらえにくく,こと
ばそのものに惑わされた子どもが多かったように思う。
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しかし,ワークシートには,「イメージ通りだった点」に63点,「イメージ
と違っていた点」に75点の記述があり,通信販売ではイメージの違いが生じ
やすいことを感じることはできたようだ。
授業の最後に書いた,「広告を見るときに注意すること」を分析すると,
次のような記述が多かった。
○よく吉元む(商品の特徴,サイズ,返品,保証等を確認する)
・87.5%
○価格を検討する・
・52.5%
○写真をよく見る(色,形等を確認する)
・35.0%
これらから,広告から描くイメージと実物との違いを生じさせない努力が
必要なことに,意識が向いてきていることがわかる。また,写真や絵など視
覚的な情報だけで決定することの危険性も感じているようだ。
(2)実体験に迫る擬似体験になっていたか。
子どもたらが広告づくりをした品物は,置き時計(2グループ),腕時計
(2グループ),CD,本,Tシャツ,ジーンズである。広告づくりの際には
自分たちの売りたいものの広告を作ったため,買う立場に立ったときの,子
どもたちの購買意欲はどうだったかという課題が残った。通信販売でどんな
ものを買ってみたいかという事前に行ったアンケートをもとに,広告を作る
品物を決めるとか,もっと多くの品物の中から買うものを選べるようにする
という手立てが必要であったと思われる。また,通信販売では正しく注文す
ることができなければ品物は届かない。広告と品物を比較したイメージの違
いからくるトラブルの擬似体験だけでなく,注文書の書き方から発生するト
1- 川・1-
家 庭 科
ラブルの擬似体験も,授業の中辛組み込むことができればよかったのではな
いかということがいえる。
体験学習を取り入れた授業が,子どもたちを引きつけることは言うまでも
ないが,実際の体験よりも擬似体験の方がねらいに迫ることができる場合も
多い。実体験に迫る擬似体験学習を授業に取り入れるにはどのようにすれば
いいか,今後も探っていきたい。
(3)通信販売に対する自分なりの考えをもつことができたか
この題材の最終的なねらいは,通信販売の長所,短所を学習した上で,こ
れから通信販売とどう関わっていくか,自分なりの考えを持つことであった。
第三次の終わりにそれについて書いた子どもたちのノートを見ると,これ
からは広告をよく見るなどの注意をして,通信販売を利用していきたいとい
う記述が多かった。しかしごく少数ではあるが,通信販売は利用したくない
という子どももいた。二人の子どものノートの内容を紹介したい。
〇 時間がなくてお店に行けないということはあまりないけど,重い荷
物をたのみたいというときは便利だから,これからも利用したいと思
っています。でも頼むときは,値段や会社の住所,電話番号はきちん
と確かめてからにしようと思います。でも夕方は家にいないことが多
いから,生協のように品物を取りに行く方が,私は気楽でいいと思い
ます。
○ いくら店に行かなくても買えるといっても,やはり店の品物を選ぶ
という楽しみがなくてはいけない。店には車で行くとすぐに行けるけ
ど,通信販売だと時間がかかると思う。通信販売は品物がかぎられて
いるが,店には種類がいろいろあって,選ぶのが楽しい。いくら安く
ても,ぼくは通信販売であまり買う気にはなれない。
子どもたちは授業での学習をふまえた上で,今の自分の生活に応じた自分
なりの考えをもつことができたようである。しかしこれは現時点の考えであ
り,これから生活は変化していくし,考えも変わるかもしれないということ
を子どもたちと共に確認した。このように,通信販売の善し悪しについての
結論を出すのではなく,一人一人の異なる考えを認め合うことによって,自
分の生活をよりよいものへと創造していく力が育まれるのではないかと思わ
れる。 (植田 順子)
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