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平成22年度 特許庁委託事業 韓国産業財産権調査
平成22年度 特許庁委託事業 韓国産業財産権調査報告書 (第95回) 2011年2月 独立行政法人日本貿易振興機構 委託先:金・張法律事務所 特許法(権利範囲) 1.積極的権利範囲確認審判の場合、権利範囲に属するかどうかと特許権消尽如何 は何ら関連がないと判示した事例 【書誌事項】 当事者:○○○他 1(原告、被上告人) v. ○○○(被告、上告人) 判断主体:大法院 事件番号:2010 フ 289 言渡し日:2010 年 12 月 9 日 事件の経過:確定 【概 要】 確認対象発明が特許権の権利範囲に属するという確認を求める積極的権利範囲確 認審判の場合、確認対象発明の実施と関連した特定の物との関係で特許権が消尽し たとしてもそのような事情は確認対象発明が特許権の権利範囲に属するかどうかに 対する確認を求めることとは何ら関連がない。 【事実関係】 原告らは、被告が実施している「血粉飼料製造方法」に関する確認対象発明は自 分が共有している「有機性廃棄物を瞬間高温処理して飼料を製造する方法」に関す る特許(以下「本件特許」)の権利範囲に属するとして積極的権利範囲確認審判を 請求した。特許審判院は、被告の確認対象発明は本件特許と同一又は均等範囲に属 すると判断しながらも、被告が使用している飼料製造設備は本件特許の共有特許権 者のうちの1人が所有していたものを譲り受けたものあるため、原告の特許権は被告 が実施している確認対象発明に対する関係において既に消尽したとして原告の請求 を棄却した。そこで、原告は審決取消訴訟を提起し、特許法院は被告の飼料製造設 備が本件特許の共有特許権者のうちの1人が所有していたものを譲り受けたものだと しても他の共有権者の同意があったことを認める証拠がないとして、特許権が消尽 したという被告の主張を排斥し原告の請求を認容したところ、被告はこれを不服と して大法院に上告した。 【判決内容】 原審は方法の発明に関する特許権が共有の場合、韓国でその方法の実施にのみ使 用する物が譲渡されたとしても、その物が共有者のうち一部の所有であり、それ以 外の他の共有者がその物の譲渡に対し同意をしたところがなければ、譲受人又は転 得者がその物を利用し該当方法の発明を実施することと関連して特許権は消尽して いないと見なければならないとして、被告の主張を排斥した。 しかし、積極的権利範囲確認審判において特許権消尽理論が適用され得ることを 前提に判断した原審と異なり、大法院は特許権の積極的権利範囲確認審判は特許発 明の保護範囲を基礎として審判請求人が確認対象発明に対し特許権の効力が及ぶか どうかを確認する権利確定を目的としたものであるため、仮に確認対象発明の実施 と関連した特定の物との関係において特許権が消尽したとしても、そのような事情 は、特許権侵害訴訟における抗弁として主張することはともかく、確認対象発明が 特許権の権利範囲に属するという確認を求めることとは何ら関連がないと判示した。 大法院はこのような法理に基づき被告の確認対象発明が本件特許発明と同一又は均 等の範囲に属するという点が認められる以上、本件特許権が消尽したかどうかに関 する被告の主張に対する判断は不要であるとして、これに対する特別な説示なく被 告の上告を棄却した。 【専門家からのアドバイス】 原審は、方法の発明に対する特許権者が韓国でその方法の実施にのみ使用する物 を譲渡した場合でも、譲受人又は転得者がその物を利用し該当方法の発明を実施す ることと関連して特許権が消尽し得るという点を認め、さらにその方法の発明に関 する特許権が共有の場合にはその方法の実施にのみ使用する物を譲渡することにお いて共有者全員の同意があってこそ特許権が消尽すると判断することにより共有方 法発明の特許権消尽に関する説示をした。しかし、大法院は権利範囲確認審判は、 確認対象発明の実施と関連した特定の物との関係において特許権が消尽したかどう かは何ら関連がないとし、上記のような争点に対する判断をあえて行わなかったの である。この判断は、特許消尽に関する主張は侵害訴訟での抗弁事由に該当するも のであって、積極的権利範囲確認審判で判断できる適切な抗弁事由でないという点 を前提としているが、その根拠に対しては明確な理由を提示していない。上記の大 法院の考え方によると、特許権の消尽については別な侵害訴訟を起こさなければ争 うことができないことになり、不経済であると言える。審判段階においても特許権 の消尽についての判断が参考できるように判示されていれば、より望ましかったの ではないかと思われる。本件については特許権の消尽に関する原審の判断が大法院 により覆されずそのまま残っているわけであるから、侵害訴訟が別途提起された場 合には、原審の判断が大きな影響力を持つであろう。 商標法(侵害差止) 2.全体観察を通して商標が類似していないと判断した事例 【書誌事項】 当事者:株式会社大教(原告) v. Scholastic Inc.他 2(被告) 判断主体:ソウル中央地方法院 事件番号:2009 ガ合 138319 言渡し日:2010 年 11 月 26 日 事件の経過:控訴 【概 要】 著作物の題号として使われたとしても他人の登録商標を定期刊行物やシリーズ物 の題号として使用するなど、特別な事情がある場合には商標的使用に該当し得ると 言え、「The magic School Bus」のように国際的に周知性を獲得した標章の場合に は分離観察を通して商標の類似性を判断することは適切でなく、全体観察を通して その類否を判断しなければならない。 【事実関係】 原告は書籍、教育用フィルムなどを指定商品とする本件各商標 1の商標権者であり、 被告1は子供用科学絵本「The magic School Bus」シリーズ(以下「本件原著作物」 とする)の著作権者であり、被告2は被告1と本件原著作物に関する国内独占契約を締 結し「不思議なスクールバス」という題号で本件原著作物を翻訳した書籍出版物を 出版する者であり、被告3は被告1の利用許諾を受けて本件原著作物を翻訳及びダビ ングした「The Magic School Bus」のDVDシリーズを国内で販売する者である。原告 は被告が本件各商標と類似の「The magic School Bus」又は「不思議なスクールバ ス」などの標章(以下「被告使用標章」とする)を使用する行為は本件各商標権を侵 害するという理由で、被告を相手取って被告使用標章に対する使用差止を求めた。 1 (スクールバスのハングル)、 、 【判決内容】 被告は被告使用標章の使用行為が商標権侵害に該当しないという主張の根拠とし て、被告使用標章は書籍類の題号として使われたものであるため、商標的使用に該 当しないという点、被告使用標章は分離観察することが自然でないため、全体観察 してその類否を判断しなければならないという点などを主張した。 先ず、被告使用標章が商標的に使われたかどうかと関連し、法院は書籍類の題号 は特別な事情がない限り該当著作物の創作物としての名称ないしその内容を含蓄的 に表すものとして、普通名称又は慣用商標のような性格を持つものであるため、題 号としての使用については商標権の効力が及ばないのが原則であるが、他人の登録 商標を定期刊行物やシリーズ物の題号として使用する等、特別な場合には使用態様、 使用者の意図、使用経緯など具体的な事情によって題号の使用が書籍の出処を表示 する識別標識として認識されることもあり得るのであって、そのような場合には商 標権の効力が及ぶようになるという法理を土台に、被告使用標章がシリーズ物の題 号として使われたという点、今後も新しいシリーズ物が追加で出版されるものと見 られるとの点などを考慮し、被告使用標章の使用行為は商標的使用に該当すると判 示した。 次に、被告の使用標章が本件各商標と類似しているかどうかと関連し、原告は被 告使用標章のうち「不思議な」又は「The Magic」部分は識別力のない形容詞に過ぎ ないため、その要部は「スクールバス」又は「School Bus」であると言えるため本 件各商標と類似していると主張したが、法院は本件原著作物の世界的認知度及び国 内での認知度に照らして被告使用標章の各構成部分を分離して観察することは社会 通念上もしくは取引上自然でないため、被告使用標章は全体観察してその類否を判 断しなければならないと判示し、これに基づき本件各商標は被告使用標章とその音 節数が相違して外観及び称呼が相違し、スクールバスに乗って、人体、過去、宇宙 などのジャンルに移動しながら科学原理などを説明するといった子供の興味を刺激 する意味を含んでいる被告使用標章とはその観念も相違するため、本件各商標と被 告使用標章は類似していると見られないと判示し、これにより原告の商標権侵害差 止請求を棄却した。 【専門家からのアドバイス】 本事例において法院は、2つの争点について興味深い判示をしている。 これまで商標法にあっては、書籍の題号は商標的使用に当たらず商標権侵害では ないというのが定説であるが、本事例では、定期刊行物やシリーズ物の題号として の使用は特別な場合であって、書籍の出処を表示する識別標識として認識され得る と判示した点で、この部分では被告の主張を退けている。 しかし、識別力のない一般的な形容詞は要部にならず「スクールバス」のみに分 離観察することができるという点については、原告の主張を退け、結果的に非侵害 判断を下している。その理由として「本件原著作物の世界的認知度及び国内での認 知度に照らして全体観察すべき」と判示し、結果的に非類似として商標権侵害では ないと判断したのである。 原著作物の認知度が高く、その点を十分に疎明したことが決め手となったと言え るが、本件は高等法院に控訴中であり、上記2つの争点についてどのような判示がな されるか注目すべきであろう。 発明振興法(職務発明報償金) 3.職務発明報償金算定方式に関して判断した事例 【書誌事項】 当事者:○○○(原告) v. 株式会社韓進重工業(被告) 判断主体:釜山地方法院 事件番号:2009 ガ合 10983 言渡し日:2010 年 12 月 23 日 事件の経過:控訴 【概 要】 従業員が職務発明をしてその発明に対する特許を受けることができる権利を使用 者に継承した場合にはその継承と同時に使用者に対してその職務発明に対する正当 な補償を請求する権利を取得し、その職務発明に対する特許の出願又は登録如何、 その特許の実施如何、その特許登録が無効となるかどうかなどの事情は補償金の金 額算定時に考慮される要素にすぎない。 【事実関係】 原告は被告会社の勤労者として在職しながら「スキッド搭載工法を利用したドラ イドックでの船舶建造工法及びこのためのスキッドボギーシステム(Skid Bogie Syst em)」に関する本件発明を発明し、被告会社は原告から本件発明に関する特許を受け ることができる権利を継承し各特許出願及び登録を済ませ、その頃からこれを実施 して船舶建造作業を進めた。原告は被告会社の職務発明報償規定により報償金30万 ウォンを受け取ったが、被告会社は本件発明を特許登録した後、これを実施して相 当な利益を得たという理由で、被告会社に対し正当な報償金の一部として10億ウォ ンの支払いを請求した。 【判決内容】 被告会社は実施している技術は公知の技術だけで成り立っているか、その技術分 野で通常の知識を持った者が公知の技術から容易に実施できるものであって、本件 特許の権利範囲に属さないため、報償金請求権が発生しないと主張したが、法院は、 従業員は職務発明に関して特許を受けることができる権利を会社に継承すると同時 に正当な補償を請求する権利を取得し、その後その職務発明に対して特許が実際に 出願・登録されたかどうか、使用者がその職務発明やこれに基づいた特許を実際に 実施したかどうか、又はその特許の登録が無効となったかどうかなどの後発的事情 は職務発明報償金請求権の発生自体には障害とならず、たんに補償金の金額算定に おいて考慮され得るだけであるとして被告の主張を排斥した。 さらに、法院は、原告が被告会社の職務発明報償規定により受領した30万ウォン は正当な補償額であるとは見難いと判断した。この点について法院は、被告が原告 に支払わなければならない補償金の金額は(「本件発明により被告会社が得た利益」 ×「原告に対する補償率」)により決定されなければならないところ、「本件発明に より被告会社が得た利益」は「被告会社の売上額」に「被告が本件発明を独占的に 利用することによって得た利益率」及び「第三者に本件発明に対する専用実施権を 設定して受けることができる適正な実施料率」をかけた金額に相当するとして、被 告が特許登録日からその存続期間満了日まで得る予想売上額は約9兆4,894億ウォン に達するが、本件発明に無効事由があるという指摘を受けて無償の通常実施権を許 与した経緯がある点、競争企業が代替技術を利用し類似の効果を収めた事例がある 点、客観的な技術価値や独占的地位が低いと評価されている点、被告会社は職務発 明について無償で通常実施権を持つことができる点等の諸般事情を考慮する時、被 告の独占的利益率は1%、適正実施料率は0.5%と見るのが相当であると判断した。 また、原告に対する補償率と関連し、屈指の船舶会社である被告会社の施設及び資 金支援を土台に本件発明が完成できたという点、被告会社がタスクフォースチーム を構成して開発業務に人的資源を提供し、タスクフォースチーム構成員の諮問と協 力なしでは本件発明がなされ得なかった点、タスクフォースチーム運営の総括責任 者であった役員が本件発明の基礎となったアイデアを提供した点、被告会社の職務 発明補償規定には発明者補償率を5%(上限2,000万ウォン)と規定している点などを 根拠に原告に対する補償率は15%と見るのが相当であると判断し、結局被告が原告 に支払わなければならない正当な補償金の金額は71,170,931ウォンであると判断し た。 【専門家からのアドバイス】 本判決は従業員が職務発明を完成し、これに対して特許を受けることができる権 利を使用者に継承することにより発明振興法上の要件を満たすのであれば、職務発 明報償金に対する請求権は従業員に一旦、確定的に発生するもので、特許の出願又 は登録如何、使用者の実施又は利益発生の有無、特許登録が無効となるかどうかな どの事後の事情は補償金の金額算定時に考慮し得る要素であるだけで、補償金請求 権の行使自体を阻止する事由ではないとの点を明確にしたという点にまずはその意 義があろう。 ただし、発明振興法第15条第2項では、職務発明報償規定などに規定された補償額 が「補償形態及び補償額を決定するための基準を定めることにおいて使用者などと 従業員などの間で行われた協議の状況」、「策定された補償基準の公表・掲示など 従業員などに対する補償基準の提示状況」、「補償形態及び補償額の決定時、従業 員などからの意見聴取の状況」などを考慮して合理的なものと認められればこれを 正当な補償と見ると規定している点を考慮する時、具体的な理由説示なく、原告が 被告の職務発明補償規定により受領した30万ウォンが正当な補償額であると見難い とだけ判示したのは非常に残念であり、少なくとも当時どのような算定基準で算出 されたのかについても考察があれば、今後の参考として重要な判決となったであろ う。現在、本事例も控訴中であり、上記の点も含め合理的な判断を期待したい。