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平成23年度 特許庁委託事業 韓国産業財産権調査
平成23年度 特許庁委託事業 韓国産業財産権調査報告書 (第 102 回) 2011 年 9 月 独立行政法人日本貿易振興機構 委託先:金・張法律事務所 商標法(登録取消) 1.登録商標に対する広告行為が登録商標に対する正当な使用に該当するための要 件に対して判示した事例 【書誌事項】 当事者:株式会社ソマ(原告、被上告人) v. 株式会社サムイクティーディーエフ(被告、 上告人) 判断主体:大法院 事件番号:2011 フ 354 言渡し日:2011 年 6 月 30 日 事件の経過:破棄差し戻し 【概 要】 登録商標の商標権者が商標登録取消審判請求日前に登録商標を指定商品に関して 広告をした事実があったとしても、当時指定商品が商標権者により国内で正常に流 通されていておらず、又は流通されることが予定されておらず、商標権者の広告行 為が単純に登録商標に対する不使用取消を免れるために名目上行なわれたに過ぎな ければ、登録商標を正当に使用したと見られないため、商標法第 73 条第 1 項第 3 号 1による取消を免れない。 【事実関係】 「シーソー、卓球台、野球用バット」などを指定商品とする本件登録商標2の商標 権者である原告に対し、被告は、商標法第 73 条第 1 項第 3 号により本件登録商標に 対する商標登録取消審判を請求したところ、特許審判院は、原告が本件登録商標を その指定商品に正当に使用したこと、又はこれを使用しなかった正当な理由につい 1 商標法第 73 条(商標登録の取消しの審判) ①登録商標が次の各号の一に該当する場合には、その商標登録の取消しの審判を請求することができる。 3.商標権者・専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが正当な理由がないのに登録商標をその指定商品に対 して取消しの審判の請求日前に継続して 3 年以上国内において使用していない場合 2 て証明しなかったとして登録を取り消す審決を下した。これに対する審決取消訴訟 で特許法院は、原告が本件登録商標をその指定商品に対して広告した事実があり、 原告の広告行為が単純に商標の不使用取消を免れる目的でした形式的な広告に過ぎ ないと断定し難いという理由でこの審決を取消したところ、被告はこれを不服とし て大法院へ上告した。 【判決内容】 大法院は、特許法院の判断と異なり、登録商標を指定商品に関して広告を出した 事実があるとしても、指定商品が国内で正常に流通していなかったり、流通される ことが予定されているのでなくて、単純に不使用取消を免れるための登録商標に対 する名目的な広告行為に止まった場合には、登録商標を正当に使用したと言えない という法理に基づき、本件登録商標の商標権者が本件審判請求日前に週に 1 回ずつ 合計 5 回にわたり生活情報誌に本件登録商標をその指定商品である卓球台、野球用 バットと関連して広告を出した事実は認めつつも、①別件の登録商標に関して訴外 株式会社サムイクスポーツから不使用による商標登録取消審判が請求されてから、 その頃になって上記の単発的な広告をした点、②原告が証拠として提示した写真の 撮影日を確認することができない点、③本件登録商標を使用した野球用バットなど の製造・販売及び納税などと関連した資料はもちろん、原告の基本的な会社運営と 関連したいかなる資料も全く提出していない点、④原告は休眠会社のみなし解散に 関する規定である商法第 520 条の 2 第 1 項によりみなし解散となったが、本件審判 の請求後に会社継続登記を済ませた点などに照らしてみると、原告が上記広告行為 を行った当時、その指定商品が国内で正常に流通していたり、流通されることが予 定されていたと見ることは難しく、したがって原告の上記のような広告行為は、単 純に登録商標に対する不使用取消を免れるために名目上行われたに過ぎないため、 本件登録商標は本件審判請求日前 3 年以内に国内で正当に使われたと見られないと として特許法院の判決を破棄した。 【専門家からのアドバイス】 商標法第 73 条第 1 項第 3 号及び第 4 項本文の登録商標の不使用取消審判請求の制 度趣旨は、保護すべき業務上の信用が発生していない登録商標を取り消し、使用の 意思のある第三者に商標選択の自由を与え、もって産業の発達に寄与しようという ものである。 したがって、登録商標の使用行為が正当な使用なのか、単に不使用取消を免れる ための名目上の使用に過ぎないかを判断する場合は、その態様によって保護すべき 業務上の信用が発生しているか否かを十分吟味して判断することが合理的であると 言える。 しかし、現実的には、本格的な事業をスタートする前、場合によっては 3 年以上 前に潜在的な事業領域と関連した指定商品に対して商標出願をしておく場合や、さ らには、事業を進める予定はなくても、商標法上、登録商標の権利範囲には属さな いが自社の商品と関連の深い指定商品に、他人が同一・類似の商標を登録したり使 用することを防いで、ブランドイメージの管理を徹底したい場合も多くあるから、 不使用取消審判制度が権利者に多少苛酷に作用する面がなくはない。 かつては、名目的広告、例えば「指定商品を~とする登録商標○○○号は××社 の所有である」という内容だけの、商品を売るためのものではない業界紙への三行 広告でも、使用証拠と認めていた時代もあったが、現在では、本件大法院の判断を 見ても分かるように、その商品の写真やパンフレット・カタログ、看板などについ ては、その信憑性が疑わしい場合には日付や発行部数、印刷所との契約書、実際の 広告の状態などまで詳しく見ることがあり、さらには、その商品を製造・流通・販 売した、若しくは、しようとしていた証拠として取扱う法人の登記状態、投資や納 税の記録などまで参酌するなど厳格に適用されることがあるので、商標権者として は、登録商標の使用の証拠についてはできるだけ具体的に整えておく必要がある。 商標法(登録無効) 2.除斥期間経過後には商標法第 7 条第 1 項第 7 号の登録無効事由に対する比較対 象を追加提出するは認められないと判断した事例 【書誌事項】 当事者:株式会社アモーレパシフィック(原告) v. ○○○(被告) 判断主体:特許法院 事件番号:2011 ホ 4400 言渡し日:2011 年 7 月 29 日 事件の経過:上告 【概 要】 先登録商標①を比較対象標章として請求された商標法第 7 条第 1 項第 7 号3による 登録無効審判に対する審決取消訴訟係属中において、商標法第 76 条第 1 項4による 商標登録日から 5 年の除斥期間が経過した後に比較対象として新たに追加された別 の先登録サービスマーク②は、無効事由を主張するための比較対象になり得ない。 【事実関係】 緑茶、麦葉茶、プーアル茶など各種茶類を指定商品とする本件登録商標の商標権 者(被告)に対し、原告は、本件登録商標は先登録商標①との関係で商標法第 7 条 第 1 項第 7 号に該当するため、その商標登録は無効であるとして登録無効審判を請 求し、特許審判院は、本件登録商標は先登録商標と非類似であるとして棄却審決を 下したところ、無効審判請求人(原告)は、これを不服として審決取消訴訟を特許 3 商標法第 7 条(商標登録を受けることができない商標) ①次の各号のいずれかに該当する商標は、第 6 条にもかかわらず、商標登録を受けることができない。 7.先の出願による他人の登録商標(地理的表示登録団体標章を除く。)と同一又は類似の商標であってその指定 商品と同一又は類似の商品に使用する商標 4 商標法第 76 条(除斥期間) ①第 7 条第 1 項第 6 号乃至第 9 号の 2 及び第 14 号、第 8 条、第 72 条第 1 項第 2 号並びに第 72 条の 2 第 1 項第 3 号に該当することを事由とする商標登録の無効の審判、商標権の存続期間の更新登録の無効の審判及び商品分類 の転換登録の無効の審判は、商標登録日、商標権の存続期間の更新登録日及び商品分類の転換登録日から 5 年を 経過した後は、これを請求することができない。 法院に提起した。そして、原告はこの審決取消訴訟係属中に、本件登録商標の登録 日から 5 年が経過した後、先登録サービスマーク②を比較対象として提出して登録 無効の主張を追加した。 (先登録商標①) (ジャンウォングプジェ<壯元及第>のハングル) (本件登録商標) (漢字部分はジャンウォンと発音) (先登録サービスマーク②) (ジャンウォン産業株式会社のハングル) 【判決内容】 特許法院は、第一に、本件登録商標が先登録商標①との関係で商標法第 7 条第 1 項第 7 号に該当するかどうかと関連し、本件登録商標と先登録商標①は外観、呼称、 観念において互いに差があって全体的に類似していないとして原告の主張を排斥し、 第二に、先登録サービスマーク②との関係で商標法第 7 条第 1 項第 7 号に該当する かどうかと関連し、商標法第 76 条第 1 項の趣旨は除斥期間が経過した後には無効審 判を請求できないことはもちろん、除斥期間の適用を受けない無効事由により無効 審判を請求した後、その審判及び審決取消訴訟手続きの中で除斥期間の適用を受け る別な無効事由を新しく主張することも許容されないと判示した。原告が本件登録 商標の登録日から 5 年が経過した後になってはじめて本件登録商標が新しい先登録 サービスマーク②との関係で商標法第 7 条第 1 項第 7 号に該当するという主張を追 加したという事実が明白な以上、(1)商標法が一定の登録無効事由に対しては除斥期 間を設定することにより登録商標権をめぐった法律関係の速やかな確定を図ってい るという点、(2)審決取消訴訟手続きで審判段階では扱われなかった新しい先登録商 標を比較対象標章として提出することを許容しているとしてもこれは紛争の一回的 解決及び手続き経済のためのものであって、新たな先登録商標に基づいた登録無効 審判請求が可能であるということを前提とするだけであるという点、(3)除斥期間経 過後、新たな先登録商標に基づいて登録無効主張をすることを許容すれば実質的に 除斥期間の経過後に新たな登録無効審判請求をするのと同じであり、除斥期間を設 定した趣旨を没却させる結果になるという点等に照らしてみれば、除斥期間経過後 に新たに提出した先登録サービスマークとの関係で商標法第 7 条第 1 項第 7 号に該 当するという主張をすることは、許容できないとして原告の請求を棄却した。 【専門家からのアドバイス】 特許の無効審判に対して除斥期間を設けていない特許法と異なり、商標法は登録 無効事由を公益的無効事由と私益的無効事由の 2 種類に区分し、私益的無効事由に ついては 5 年の除斥期間を設けている。これは、瑕疵ある特許権が行使されると第 三者に大きな被害を及ぼし得る特許とは異なり、商標の場合には、瑕疵ある商標権 の行使によって発生する弊害より、長期間の使用により蓄積された第三者の善意を 傷づけることによる弊害がより大きいと考えた立法者の意図が反映されたものであ る。そして、韓国においては、たとえ審判段階で判断されなかった違法事由であっ ても、審決取消訴訟段階で新たに追加して主張・立証することができ、これを審 理・判断して判決の基礎とすることができるというのが大法院判例の定説とされて いる。しかし、商標法 76 条 1 項の除斥期間の経過が問題となる場合には、商標法の 上記のような立法趣旨が尊重されるべきであり、本件判決もこの立法趣旨に従った 判決であって、目新しいものではない。 以上のとおり、韓国では、日本のプラクティスと異なり、審判段階で判断されな かった証拠や違法事由についても、審決取消訴訟段階で提出、主張できるので、注 意されたい。 ただし、その際、除斥期間には十分留意し、先登録商標などの証拠資料も漏れる ことのないよう準備を進めるべきである。 特許法(拒絶決定) 3.先行発明に数値限定の対象が開示されていなくても進歩性有無の判断において は数値限定に対する臨界的意義を検討しなければならないと判示した事例 【書誌事項】 当事者: JX 日鉱日石金属株式会社(原告) v. 特許庁長(被告) 判断主体:特許法院 事件番号:2010 ホ 7679 言渡し日:2011 年 7 月 8 日 事件の経過:上告 【概 要】 たとえ数値限定の対象が公知の先行発明に明示されていないとしても、当該出願 発明に含まれている数値限定の「数値項目」ないし「数値範囲」が公知の先行発明 に開示されている程度及び当該数値限定の個別的な採用理由、目的、効果などを考 慮し、数値限定による個別的な効果が異質的であるか、または数値限定の臨界的意 義を認めることができない場合には、当該出願発明の進歩性は否定される。 【事実関係】 原告は「Sb-Te 系合金焼結体スパッタリングターゲット」に関する本件出願発明に 対して特許出願したが、特許庁審査官は、本件出願発明はその発明が属する技術分 野で通常の知識を有する者が比較対象発明により容易に発明できるから進歩性が否 定されるという理由で、特許拒絶決定し、特許審判院の拒絶決定不服審判でも棄却 されたため、特許法院に審決取消訴訟を提起した。 【判決内容】 特許法院は、本件出願発明の構成 2 は「ターゲット表面粗度 Ra(中心線表面粗度) が 0.1μm以下」というもので、比較対象発明にこれに対応する構成がないことは事 実であるが、比較対象発明 2 も本件出願発明と同一な元素組成のガスアトマイズ粉 を本件出願発明と同じ方法でホットプレスで焼結させ、これを機械加工、錬磨加工 により仕上げる技術であり、比較対象発明 2 の効果も「クラック発生及びそれによ るパーティクル発生を防止する」という構成 2 の効果と同質のものである。該当技 術分野で表面粗度を微細に調整してノジュールの発生を抑制してパーティクルを低 減させる技術及び錬磨フィルムなどを利用した錬磨加工で表面粗度を 0.02μm程度 に錬磨する技術は本件出願発明の優先権主張日以前から広く知られた周知慣用の技 術であるという点などを考慮すれば、たとえ比較対象発明 2 に明示上の記載がなく ても、構成 2 は比較対象発明 2 に既に内包されているものであり、構成 2 により得 ようとする効果は比較対象発明 2 と同質のものであって、構成 2 が数値限定した表 面粗度 0.1μmの前後で発明の効果に顕著な差がなく、その臨界的意義を認めること もできないため、構成 2 は通常の技術者が比較対象発明 2 の表面粗度を検査し反復 実験を通してその数値を適切に限定することにより容易に導出できるものであるか ら進歩性が否定されると判断した。 原告は、比較対象発明 2 に数値限定の対象である「表面粗度」に対して全く開示 されていない以上、その臨界的意義を問う必要がないと主張したが、特許法院は、 数値限定の対象が公知発明に明示的に記載されていないとしても、当該数値限定の 「数値項目」ないし「数値範囲」について、公知発明に開示された程度及び当該数 値限定の個別的な採用理由、目的、効果などを考慮して、当該数値限定による個別 的な効果が異質的であるか、または臨界的意義を認めることができない場合には、 その進歩性を否定できるものであると説示した。その上で、本件について、比較対 象発明 2 が「表面凹凸」や「ターゲットのクラック」など、表面粗度と相関関係が ある重要な変数を考慮することを開示している上、構成 2 の効果と比較対象発明 2 の効果も同質である以上、その臨界的意義を疎明することは必須であるとして原告 の請求を棄却した。 【専門家からのアドバイス】 数値限定発明とは、請求項に記載された発明の構成になくてはならない事項の一 部が数量的に表現された発明を意味するところ、韓国特許庁の審査指針及び大法院 判例に照らしてみれば、数値限定発明の進歩性が認められるかどうかと関連し、当 該発明の課題及び効果が先行技術の延長線上にある場合には、当該数値限定範囲が 臨海的意義を有していること、すなわち、その数値限定範囲内での効果が数値限定 範囲外の効果に比べて顕著に向上していなければならないこととされており、一方、 当該発明の課題が先行技術と相違しその効果も異質的な場合には、数値限定の臨界 的意義は必ずしも必要ではないこととされている。 そのため、まず、先行技術とその課題及び効果が同一であるかどうか判断し、次 に、同一であれば当該数値限定の臨界的意義が認められるかどうかに対する判断が 必要ということになる。本件判決も、本件出願発明の課題及び効果が比較対象発明 2 の延長線上にあると見られる以上、数値限定の臨界的意義を検討しなければならな いと説示するものであり、数値限定発明の進歩性判断に対する既存の法理に忠実な ものであると言える。 数値限定発明の進歩性を肯定するためには、単に先行技術に当該数値限定が記載 されているか否かを主張するのではなく、このプラクティスにしたがって主張をす る必要がある。数値限定発明の場合、有効性に関する基準が非常に厳格であるので、 注意を要する。