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複雑構造材料の特性解析グループ - Department of Precision

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複雑構造材料の特性解析グループ - Department of Precision
複雑構造材料の特性解析グループ
ナノサイエンス講座 量子物性学分野
教授 立花 明知,講師 中村 康一,助手 土井 謙太郎
1. はじめに
当研究室は 21 世紀 COE プログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」―複雑系の科学
による機械工学の新たな展開―・材料の複雑構造特性解析グループの中で最もミクロな領域を取り扱っ
ており、第一原理量子力学シミュレーションによる複雑デバイス材料の構造・物性解析や新規物質の予
測を行うための原子・分子レベルの新しい基礎物理とモデルの創出を目指している。とりわけ、相対性
理論に基づく化学相互作用の新しい QED 描像、
外部電場や電流存在下での非平衡系シミュレーション、
電子波動関数による第一原理物性抽出等に関する新しい理論手法による複雑デバイス材料の量子設計・
制御・信頼性予測を進めている。なお、中村講師は「材料における原子領域のトポロジー」
、土井助手は
「a-SiO2 のモデル化と外部電磁場に対する電子状態の応答についての理論研究」とそれぞれ題する研究
課題で本 COE・平成 17 年度フロンティア研究助成プログラムの助成を受けている。また、立花教授は
本 COE 材料グループの事業推進担当者の任を務めている。
2. 研究成果
平成 17 年度における本 COE プログラムの助成による研究成果を以下に挙げる。
2.1 相対性理論に基づく化学相互作用の新しいQED描像
量子力学的質量作用の法則、領域化学ポテンシャル非相等性原理、量子エネルギー密度、Rigged QED
(Quantum Electrodynamics)に基づく化学的相互作用の新しい描像等、Rigged QED 理論・領域密度汎関数
理論に基づき波動関数から導かれる量子的効果・化学相互作用を解析する独創的な理論を発展させた
[1-6]。計算化学に関する国際会議に出席、上記課題について最新の成果の研究発表、討論を行った。
2.2 分子系および周期系の領域密度汎関数理論計算プログラムの開発
分子系および周期系において適用される領域密度汎関数理論計算プログラムパッケージ Molecular
Regional (MR) DFT [7]、Periodic Regional (PR) DFT [8]をそれぞれ開発している。従来物性(電子状態、バ
ンド構造、フォノンスペクトル、誘電率、屈折率、第一原理 MD、波束ダイナミクス等)に加えて新規
物性(Effective charge, energy density, tension, stress)
、ならびに両者比較(局所電子状態、化学結合、局所
誘電率、局所屈折率など従来物性の局所密度表現)
、Born charge 等に関連する Berry phase 問題解消等を
扱う核-電子-電磁場複合ダイナミクスの第一原理計算プログラムとして期待されている。
2.3 材料における原子領域のトポロジー
物性解析のアプローチの1つである系における原子領域の分割に関して、電子密度を基準とする一般
的な方法(AIM 法)のほか、量子エネルギー密度を基準とした領域分割を行い、波動関数展開方法等の
計算条件依存も含めて材料における原子領域のトポロジーと含有する電子物性を解析した。
2.4 a-SiO2 のモデル化と外部電磁場に対する電子状態の応答についての理論研究
第一原理分子動力学法に基づいたアモルファス SiO2 のモデル化を行い、アモルファス構造の電子状態
を明らかにするとともに、外部電磁場に対するアモルファス構造中の電子状態の応答を計算することに
より、絶縁破壊の理論的解明を行った。
2.5 領域密度汎関数理論に基づく反応性指標に関する理論研究
領域化学ポテンシャル、領域化学ハードネス等の領域密度汎関数理論物性量と原子核変位との関連を
議論し、核変位に対応した反応性指標に関する応用計算を行った[9,10]。
2.6 ランタノイド酸化物材料の微視的構造と電子物性
高誘電率ゲート絶縁膜材料の第一原理計算[11,12]に関連して、最近注目されている La、Ce、Gd のラ
ンタノイド酸化物のクラスターモデルを導入し、最適な計算方法と基底関数系の組み合わせを明らかにする
とともに、非経験的電子状態計算によって薄膜の微視的構造や電子物性をシミュレートした[13,14]。
2.7 酸素欠陥 a-SiO2 の構造と伝導性
酸素欠陥アモルファス SiO2 モデルについて Nosé 法および Parrinello-Rahman 法による定圧定積の熱浴
系での分子動力学法を用い、さらに第一原理計算による構造最適化を行ったうえで、バンド計算の結果
や状態密度・量子エネルギー密度の観点から伝導性を議論した[15]。
2.7 燃料電池材料における水素吸着過程
Al 原子をドープしたグラフェン層[16]やカーボンナノチューブ[17,18]への水素吸着過程について第一
原理計算を用いた分子動力学的研究を行った。水素吸着過程においては、Al 原子、グラフェン層または
カーボンナノチューブ、および H 原子の相互作用により引き起こされる電荷移動が重要であることを明
らかにした。さらに、QM/MM 法を用いて[NiFe]ヒドロゲナーゼにおける水素分子生成反応の反応機構
を提案し、可逆的な水素貯蔵が実現する可能性を示した[19]。
2.8 その他
上記のほか、触媒水分子下でのゲルマン分子の分解反応過程に関する研究[20]、有機 FET 薄膜の量子
設計に関する研究[21]等を行った。また、2005 年 5 月に京都大学にて開催された第 9 回理論化学討論会
を運営した。
参考文献
[1] A. Tachibana, “Spindle Structure of the Stress Tensor of Chemical Bond,” Int. J. Quant. Chem., 100, (2004), 981.
[2] A. Tachibana, “A New Visualization Scheme of Chemical Energy Density and Bonds in Molecules,” J. Mol.
Model., 11, (2005), 301.
[3] A. Tachibana, in: S. P. Baker (ed.), Stress Induced Phenomena in Metallization, (2002), pp. 105-116, American
Institute of Physics, New York.
[4] A. Tachibana, in: K. D. Sen (ed.), Reviews in Modern Quantum Chemistry: A Celebration of the Contributions
of Robert Parr, Vol. 2, (2002), pp. 1327-1366, World Scientific, Singapore.
[5] A. Tachibana, in: E. J. Brändas and E. S. Kryachko (eds.), Fundamental World of Quantum Chemistry: A Tribute
to the Memory of Per-Olov Löwdin, Vol. 2, (2003), pp. 211-239, Kluwer Academic Publishers, Dordrecht.
[6] A. Tachibana, “Electronic Energy Density in Chemical Reaction Systems,” J. Chem. Phys., 115, (2001), 3497.
[7] K. Nakamura, K. Doi, and A. Tachibana, Molecular Regional DFT program package, ver. 1 (2004), Tachibana
Lab., Kyoto Univ., Kyoto.
[8] K. Doi, K. Nakamura, and A. Tachibana, Periodic Regional DFT program package, ver. 2 (2004), Tachibana
Lab., Kyoto Univ., Kyoto.
[9] P. Ordon and A. Tachibana, “Nuclear Reactivity Indices within Regional Density Functional Theory,” J. Mol.
Model., 11, (2005), 312.
[10] P. Ordon and A. Tachibana, “Investigation of the Role of the C-PCM Solvent Effect in Reactivity Indices,” J.
Chem. Sci., 117, (2005), 583.
[11] 立花明知,
高誘電率ゲート絶縁膜における電子ストレスの Rigged QED (Quantum Electrodynamics) 理
論に基づく第一原理計算,電子情報通信学会信学技報 (2005),電子情報通信学会.
[12] K. Nakamura, K. Doi, K. Fujitani, and A. Tachibana, “Theoretical Study on the First-Principle Dielectric
Properties of Silicate Compounds,” Phys. Rev. B, 71, (2005), 045332.
[13] K. Doi, K. Fujitani, N. Kadowaki, K. Nakamura, A. Tachibana, and T. Hattori, “First-Principle Calculations of
Clusters for Gadolinium Oxides,” Jpn. J. Appl. Phys., 44, (2005), 6115.
[14] 土井謙太郎・三日月豊・杉野真也・立花明知,希土類酸化物クラスター(La2O3, Ce2O3, Gd2O3)の電子
構造についての第一原理計算,ゲートスタック研究会-材料・プロセス・評価の物理-(第 10 回研究会)
予稿集,(2006),pp. 239-244,応用物理学会.
[15] 土井謙太郎・阪本俊夫・上原寛貴・立花明知,分子動力学計算によるシリコン酸窒化膜の安定構造
とその電子状態,ゲートスタック研究会-材料・プロセス・評価の物理-(第 11 回研究会)予稿集,(2006),
pp. 383-387,応用物理学会.
[16] H. Nakano, H. Ohta, K. Kawano, K. Doi, and A. Tachibana, “Molecular Dynamics Simulation of Hydrogen
Adsorption on Graphene Layer with Activated Aluminum,” J. Chem. Phys., submitted.
[17] Y. Kawakami, Y. Nojima, K. Doi, K. Nakamura, and A. Tachibana, “First-Principle Study on Structures and
Electronic Properties of Aluminum Nanowire Wrapped in Carbon Nanotube,” Electrochimica Acta, 50, (2004), 739.
[18] H. Nakano, H. Ohta, A. Yokoe, K. Doi, and A. Tachibana, “First-Principle Molecular-Dynamics Study of
Hydrogen Adsorption on an Aluminum-Doped Carbon Nanotube,” J. Power Source, submitted.
[19] H. Nakano, K. Doi, and A. Tachibana, “Reaction Path of the Catalytic Reaction in [NiFe] Hydrogenase by QM
and QM/MM study,” J. Am. Chem. Soc., submitted.
[20] N. Ibuta, F. Sagara, K. Doi, K. Nakamura, A. Tachibana, Y. Ishikawa, and K. Suzuki, “Quantum Chemical
Study on Reaction Processes of Germane Molecules with Catalytic Water,” Jpn. J. Appl. Phys., 44, (2005), 4133.
[21] K. Doi, K. Yoshida, H. Nakano, A. Tachibana, Y. Tanabe, Y. Kojima, and K. Okazaki, “Ab Initio Calculation of
Electron Effective Masses in Solid Pentacene,” J. Appl. Phys., 98, (2005), 113709.
物性工学講座 光工学分野
助教授 蓮尾 昌裕,助手 岩前 敦
1. はじめに
光は物質と密接に関連する.物質が発する光を調べることによりその本質に肉薄し,物質に光を作用
させることによりそのありようを制御できる.本研究室が対象とする物質,例えばプラズマは,その中
で生起する天文学的な数の素過程の結果,全体としては秩序だった単純な現象が発現するなど,複雑系
の典型である.このように本研究室は複雑集団過程そのものをおもな興味の対象とし,またそれを構成
する要素過程をも研究している.分光学の方法を基礎として,物質のいくつかの側面について測定手法
の開拓,制御法の探求をしている.具体的には、核融合研究用トカマクなどのプラズマに対する新たな
分光測定法の開発,放電プラズマを用いた励起原子の衝突過程研究,媒質中を伝播する共鳴光の偏光緩
和とその応用の研究,近接場光の特性を利用した新たな光測定法の開発,固体薄膜の光学特性と光照射
効果の研究などを行っている.
2. 研究内容
2.1 偏光プラズマ分光:プラズマに対する新たな分光測定法の開発
プラズマ中の原子・イオンからの発光スペクトルを観測し、そ
の強度・プロファイルに加え、偏光をも観測量とする「偏光プラ
ズマ分光」の開拓している.この方法は、今まで多くの場合熱的
分布が仮定されてきたプラズマ中電子の速度分布関数について,
その非等方性の情報をも得ることができるのが特徴である.スペ
クトル線強度・縦アライメント
(偏光度)
から,
励起原子のpopulation
と alignment を評価し,その alignment 生成の要因となった電子衝
突励起の非等方性を通じて,電子速度分布関数の非等方性を定量
的に推定することができる.実験は, ECR(2.45 GHz)放電カス
ププラズマ[1],LHD プラズマ(核融合科学研)[2],超短パルスレ
ーザ生成プラズマ(原研関西研)を対象としている.
2.2 極低温放電プラズマを用いた励起原子の偏極緩和衝突過程
のレーザー分光研究
カスププラズマ He I 501.6 nm 発
光線強度・偏光度マップ[1]
原子間のポテンシャル,特にその非等方性を評価にするには,原子間衝突による原子の偏極(alignment
と orientation)緩和の温度依存性を観測することが有効である.本研究室では,液体ヘリウム温度まで冷
却可能な放電管を用いた偏極緩和計測レーザー分光システムを開発し,励起状態にある希ガス原子の偏
極緩和を調べている.これまでの測定により、ヘリウム原子衝突によるネオン励起原子の偏極緩和速度係
数が 100 K 以下の温度に対し 1.6 乗のべき依存性を持つことが明らかになった.現在は計測システムを強
磁場中での実験が可能となるよう改良している.強磁場中では偏極緩和衝突過程が弾性衝突から非弾性
衝突になる.このことにより,放電ガス実験では困難な数 K 程度の温度に相当する衝突エネルギー領域
の偏極緩和に対する知見が得られることが期待される.
2.3 光の吸収・再放出による共鳴光の偏光緩和
原子・イオン等から放出された発光はその周りにある同種の原子・イオン等により吸収・再放出され、
観測位置までにその偏光が変化する.このような媒質中を伝播する共鳴光の緩和は,天体の分光観測か
ら量子ドット群・固体中の不純物の発光観測まで原理的に影響を及ぼすにも関わらず,これまで現象論
的な理解しかなされていなかった.そこで本研究室では,原理的にあらゆる全角運動量量子数間の遷
移に対応可能な量子力学に基づく計算アルゴリズムを構築するとともに、あらゆる光学的厚さやそ
の分布に原理的に対応可能なモンテカルロ・シミュレーションプログラムを開発している[3].また,
その妥当性をグロー放電プラズマに対し,レーザー誘起蛍光分光法を用いた実験により確認した[3].現
在はより一般的な場合に拡張すべく,磁場等の外場効果の取扱いや近接場成分の取扱いについて検討を
進めている.
2.4 近接場光を用いた光学禁制遷移の高効率観測法の開発
近接場光は誘電体表面や微小開口近傍に光の回折限界を超えて局在する光であり,ナノ領域での光学
観測法として注目されている.本研究室ではこれまで,光の全反射に伴う近接場光を利用し,原子の電
気四重極子遷移の大きさが近接場光特有の偏光・波数ベクトルに依存して増大することを実験的に実証
する[4]とともに,その詳細について理論的な定式化を与えた[5].この電気四重極子遷移や磁気双極子遷
移などのいわゆる光学禁制遷移は興味深い測定対象があるにも関わらず,光学許容遷移に比べ効率が著
しく小さいため,光学観測にはほとんど用いられてこなかった.しかし,光学禁制遷移は光の局在性を
反映する電場勾配にあらわに依存し,強く局在した光と相互作用することにより,その効率が大きくこ
とが期待できる.現在は近接場光を広い面積に効率よく生成する光学素子を模索するため,微小開口ア
レイを有する金属薄膜の光伝播を FDTD 法(Finite Difference Time Domain method)シミュレーションを用い
た電磁場解析により調べている.また,一般的な局在電磁場による物質の電気四重極子遷移効率についての
計算手法を構築し,シミュレーションより得られた電磁場空間分布に対して電気四重極子遷移の効率を評価し
ている.
2.5 塩化第一銅薄膜の光学特性研究と光照射効果
塩化第一銅は励起子の関わる光学特性研究のモデル物質として有名な半導体である.本研究室では
様々な基板に真空蒸着した薄膜やバルク試料の発光特性を調べている.これまで,励起子発光スペクト
ルが自由励起子発光と励起子共鳴ラマン散乱の二成分から構成されること[6]や,自由励起子発光のスペ
クトル形状が膜厚に依存し、薄膜内の励起子バンド内緩和過程を反映していると考えられることなどを
示した[7].また,長時間の光照射により出現する新たな発光の強度の試料温度依存性計測より,その発
光の起源が結晶中の新たな励起子束縛状態によるとの知見を得た[8].
参考文献
[1] A. Iwamae, T. Sato, Y. Horimoto, K. Inoue, T. Fujimoto, M. Uchida and T. Maekawa, Anisotropic electron
velocity distribution in an ECR helium plasma as determined from polarization of emission lines, Plasma Phys.
Control. Fusion, 47 (2005) L41.
[2] A. Iwamae, M. Hayakawa, M. Atake, T. Fujimoto, M. Goto, and S. Morita, Polarization resolved Hα spectra
from the large helical device: Emission location, temperature, and inward flux of neutral hydrogen, Phys. Plasmas,
12, (2005) 042501.
[3] M. Nimura, T. Imagawa, M. Hasuo and T. Fujimoto, Relaxation of atomic state multipoles by radiation
re-absorption: Neon 2p2 atoms in a discharge plasma, J. Quant. Spectroc. Rad., 96, (2005) 547.
[4] S. Tojo, T. Fujimoto and M. Hasuo, Precision Measurement of the Oscillator Strength of the Cs 62S1/2→52D5/2
Electric Quadrupole Transition in Propagating and Evanescent Wave Fields, Phys. Rev. A., 71, (2005) 12507.
[5] S. Tojo and M. Hasuo, Oscillator-Strength Enhancement of the Electric-Dipole-Forbidden Transitions in
Evanescent Light Field at Total Reflection, Phys. Rev. A., 71, (2005) 12508.
[6] M. Hasuo, A. Shimamoto and T. Fujimoto, Exciton Luminescence Spectra of CuCl Films and Their Change by
Photo-irradiation, J. Lumin., 112, (2005) 181.
[7] M. Hasuo, A. Shimamoto, N. Okuda, T. Fujiwara, A. Iwamae and T. Fujimoto, Free Z3 Exciton Luminescence
spectra of Vapor-deposited CuCl Films, J. Phys. Soc. Jpn., 74, (2005) 3077.
[8] A. Shimamoto, T. Fujiwara, A. Iwamae, T. Fujimoto and M. Hasuo, Exciton Luminescence of CuCl Associated
with a New Bound State Generated by Long Time Photo-irradiation, J. Phys. Soc. Jpn., 74, (2005) 1625.
材料強度物性学講座 材料物性学分野
教授 北村 隆行,講師 梅野 宜崇,助手 平方 寛之
1. 微小材料の変形・破壊に関するマルチスケールメカニクス
材料はスケールによって原子,転位や格子欠陥,結晶粒などの特徴的な内部構造を有しており,力学特性
はそれら要素の相互作用によって生み出される.したがって,その体系的な理解にはマルチスケールアプロ
ーチが必要である.本研究室では,微小材料の強度特性を明らかにすることを目的として,サブミクロンからナ
ノスケールの薄膜・細線等の微小要素およびその界面の力学挙動についての実験・解析を行っている.原子
間力顕微鏡を用いたサブミクロン微小要素のはく離実験,ナノ材料の界面破壊についてのその場観察実験,
不均質材料の変形の分子動力学シミュレーション,量子力学電子/原子解析によるナノ薄膜・ナノ多層界面・ナ
ノワイヤ等の変形解析などにより,微小材料の力学についてのマルチスケールアプローチを行っている.
2. 主な研究内容
2.1
アモルファス金属の変形解析
非晶質材料の変形挙動は,金属ガラ
pmode
pdisp
スの発見により注目を集めているが,
本研究室では分子動力学法を用いた
原子レベルからのアプローチを行っ
ている.図 1 は,アモルファス金属の
引張り応力ひずみ関係と,不安定変
形時の変形モードと原子変位を示して
いる.不安定変形は原子 10 個程度の
局所領域で発生し,それが周辺に伝
播していくことで変形が進行し,応力
急減につながっていること明らかとなり,
応力‐ひずみ関係
不安定変形モードと変位
図 1 アモルファス金属の変形解析
結晶材料と異なる特有の塑性変形の
微視的メカニズムが示された.
2.2 SiC ポリタイプの変形解析 SiC では
同一の組成で積層パターンの異なるポリタイ
プが現れるが,これが機械的特性に及ぼす
影響は詳細に検討されていない.そこで,第
一原理計算により SiC ポリタイプのせん断変
形解析を行い,原子レベルの積層パターン
の違いが機械的特性に与える影響を原子・電
子レベルから検討した.図 2 に示すようにせ
ん断により異なる原子・電子構造が現れ,4H
構造では局所的に変形が集中する現象が生
じる.マクロな不均質材料で起こるようなひず
み集中現象が原子・電子レベルでも生じ,そ
れがポリタイプ間で異なることを明らかにした.
SiC-2H
SiC-4H
図 2 SiC ポリタイプのせん断変形解析
2.3 透過型電子顕微鏡による界面破壊のその場観察 先進電子デバイスやマイクロマシンにはサブミクロ
ンからナノメートルオーダの構造体が用いられている.様々な要素を組み合わせることによって多様な機能を
実現することができるが,これにより生じる異材界面には応力が集中し複雑な破壊が進行する.本研究室では,
多層ナノ薄膜や微小構造体の界面破壊試験と,それに基づく力学解析により,ナノ構造体の界面破壊を支配
する力学法則の解明に取り組んでいる.図3は,透過型電子顕微鏡(TEM)内でのその場観察界面はく離実験
を示す.本研究では,精密な試料移動が可能なステージと微小荷重の測定が可能な荷重センサーを具備した
微小負荷装置を TEM 中に組み込んだその場観察試験システムを開発した.本実験システムは,き裂が発生・
伝播する様子を明確に観察することができるだけでなく,試験荷重の測定が可能である.本試験によって,は
く離き裂発生時を明確に特定し,き裂発生荷重を測定することができた.
Si
Applied load P, μN
15
Cu
Specimen III
1.5 x 10-5 Pa
TEM: 200 kV
10
11.7 μN
5
0
SiN
-5
100 nm
0
2
4
6
Time t, s
8
10
界面はく離したナノ構造体
負荷曲線
図 3 ナノ構造体のその場観察界面破壊試験
2.4 ナノスプリングの変形特性 本研究は,本 COE プログラムから生まれた共同研究であり,ナノ物性工
学研究室の鈴木基史助教授のナノ構造作製技術と本研究室の微小力学試験技術のコラボレーションにより実
現した.本研究では,ナノオーダーの構造を有する要素(ナノスプリング)およびそれによって構成される膜の
変形特性を明らかにすることを目的として,評価試験法の開発とともに,ナノ構造と変形特性の相関および構
造に起因する変形異方性について検討した.図 4(a)は,ナノスプリングで構成される薄膜(酸化タンタル)とそ
の変形特性評価法を示す.複数のナノスプリングをキャップ層で束ねたナノスプリング膜を作製し,このキャッ
プ層に対して縦方向および横方向の負荷試験を行うことで,縦横両方向の変形特性を評価する.図4(b)は,荷
重‐変位関係の例を示す.これまでにナノスプリングの横剛性を評価した例は報告されていなかったが,本研
究によって初めてその実測に成功した.本ナノスプリングは,縦方向に比べて横方向に対して大きく変形しや
すい特性を示した.また,構造を制御することによって縦剛性および横剛性を大きく変えることができた.本ナ
ノスプリングを構成要素とする薄膜の見かけの縦および横弾性係数は,酸化タンタル薄膜よりも 2~3 オーダー
低くなり,極めて低剛性の膜を作製できた.
(a) スプリング薄膜への負荷方法
(b) 荷重‐変位関係
図 4 らせんスプリング構造を有する薄膜の変形特性評価
構造材料強度学講座
講師 小川 欽也,助手 野島 武敏,教務職員 杉山 文子
1. はじめに
構造強度学分野では,固体,材料,構造物の強度に関連した諸問題の研究を行っている.研究テーマ
として,(1)折り畳み・展開構造物の創生とその力学的挙動;(2)材料の衝撃強度および動力学的挙動;
(3)柔軟軽量飛行体の動的特性と構造流体連成解析などを取り扱っている.
何れの研究テーマも材料や構
造物の力学的問題に関連しており,
理論解析,
数値シミュレーションおよび実験によって考究している.
2. 研究概要
(a)
(b)
2.1 超軽量コア構造創生への折り紙工学の応用
現在,最も実用化が進んでいる軽量コアは,六角形に
よる平面充填形を有するハニカムコアである.ハニカムと
(c)
言う呼称は,蜂の巣状六角柱の集合体を意味するもので
あったが,今日では小さなセルに仕切られたコア構造全
体を指す言葉として用いられている.このようなハニカム
コアの製造方法としては,展張式とコルゲート式という二
つの製造方式が確立されているが,我々は,加工工程を
画期的に短縮できる新しいハニカムコアの創生を折り紙
(c)のように周期的にスリットを入れた薄板を,(b)のよう
に波型に折り,折線にそってジグザグに折りたたんでいく
工学に基づいて行っている.図1には,周期的にスリット
ことで六角形型ハニカムコアを製作する.(c)において,太
を入れた一枚の紙,または板を折りたたむことによって,
線がスリット,実線は山折り線,破線は谷折り線を表す.
ハニカムコアを作り出す一例を示す。
図1ハニカムコアの折り紙工学的製造法
この方法を使うと,一枚の板から機械的な折り曲げのみによ
って製作できる.さらに,(c)の段階で,薄板に空けるスリット
の形や、折線の角度を工夫することによって,パネルの厚
みの変化する複雑な形状のハニカムコアも,一枚の板から
製作することができる.図2に完成した折り紙モデルと
図 2 翼型コアの製作
そのチャートを示す.
図3は、我々の研究で新たに開発した、平板を周期的に
短形状に切り抜きこれを2軸方向に折り曲げて加工する
CUBE 状のコアパネルであり、図4は平板に塑性加工で3角
錐型の凹部を周期的に導入したものを2枚貼り合わせて作
る軽量コアパネルを示す。いずれのパネルも、ハニカムコア
などの従来の軽量コア構造に比べて容易に加工でき、比剛
性も同等あるいはそれ以上の優れた特性を示す。
図3 CUBE 状コアパネル
2.2 および動力学的挙動
弾性応力波伝播を利用したスプリット・ホプキンソン棒法を
用いた構造材の衝撃強度測定と、動的有限要素法による数
値解析を通じて材料の衝撃強度および動力学的挙動の把
握を目指している.
衝撃変形では変形初期に振動波形が観測されることが多く,
その原因を把握して,材料特性として現れる降伏現象との明
確な差異を明らかにすることが重要である.そこでひずみ速度
依存性が殆どないとされるアルミニウム合金A707-T6および、
図 4 ダイヤコア
x(m)
ひずみ速度依存性が大きい二種類の高強度鋼の板状試験片
を用いて準静的および衝撃引張試験を行うとともに,FEM解析を行い,
ホプキンソン棒型衝撃試験法の問題点について考察した.その結果、
変形初期に現れる降伏現象には材料特性に基づくもののほか,応力波
の伝ぱによるものがあることがわかった..応力波の伝播によるものは、図
4に示すように、試験片と応力棒の断面積比が大きい場合,試験片から
応力棒に伝播する三次元応力波が半径方向に引き起こす振動が最も
大きな影響を示すことが分かった.
2.3 ジャンピングバルーンのカオス運動
航空機の離着陸時の騒音,排気ガスの放散,などを抑制すること
は容易ではなく,また,都市近郊から離れた空港へのアクセス路の確
保も益々困難になってきている.このような観点から,垂直離着陸が
容易に行え,その際の環境への負荷が極めて低い環境に優しい飛
行システムとして気球や飛行船が改めて注目を浴びている.従来,飛
行船・気球は浮力によって重力を支え,水平方向の運動はプロペラ
等の別途に設けた推進装置によって実現してきた.しかしながら,
図5 応力棒を伝播する弾性応力波
重力場での上下方向運動は媒質からの揚力・抗力を浮遊体に及
ぼすから,これを水平方向の運動の駆動力として利用することが可
能である.我々は,上下方向の運動を継続的に行えるシステムとして
1.5
浮遊体にバランシングロープ(BR)と名付けた線状の分布質量系
ω=-0.002(rad/s)
ω=-0.001(rad/s)
ω=0.000(rad/s)
1
を付帯させることを考案し,これを駆動・操作することによって重
ω=0.001(rad/s)
ω=0.002(rad/s)
力を変化させ,浮遊体の上下方向運動を実現できることを示して
0.5
きた.本年では,BR を多数のリンクとして表現し,柔軟性と大変
0
形性に基づく非線形運動解析を行うとともに,それがシステムに
-0.5
及ぼす効果について数値シミュレーションによる解明を行った.
-1
多自由度を有するリンクの運動は強い非線形性とあいまってカ
-1.5
オス的な挙動を示すことが予測できる.図6には下端が地表にま
-2
で達する長さの BR を上下に運動させ続けた際の球形気球の横
0
200
400
600
800
1000
time(s)
方向への運動を示す.ごく僅かの初期条件の違いによって BR
の地面との接地状況が変化し,時間の経過とともにカオス的に
図6 球形気球の横方向運動
予測不可能な状況になる.今後は,扁平な気球に生じる揚
力・抗力を利用し水平運動が可能となるグライダーバルーンについて
も明らかにしてゆく.
参考文献
[2] 構造工学ハンドブック,矢川元基編,「折紙・針金構造」,948-958(2004),丸善
[3] K.Ogawa,S.Ohuchida, Dynamic response of a newly developed ballooning ‘The advanced Jumping
Balloon’,PBE2004,(2004)
1200
ナノサイエンス講座 ナノ物性工学分野
教授 木村 健二,助教授 鈴木 基史,助手 中嶋 薫
1. はじめに
本研究室では,イオンビームと固体表面との相互作用に関する基礎研究,それを応用したメゾ
スコピックな領域での固体の構造解析,よく制御された微小な構造や形態をもつ薄膜の創製やそ
の性質に関する研究等をおこなっている.ここでは,それらの研究の中からいくつかの研究を紹
介する.
2. C+
60 イオンと KCl(001) 表面の相互作用に関する研究
1985 年の発見以来 C60 に関する研究は数多く行われており,最近では C60 イオンを 2 次イオン
質量分析法に利用するなど,C60 イオンの応用も始まっている.それらの基礎となる C60 イオンと
固体表面の相互作用について, 1–3 keV の C+
60 イオンを KCl(001) 表面にすれすれの角度で入射さ
せた時に生じる鏡面反射現象を利用して研究を行っている.得られた主な結果は以下のとおりで
ある.
+
1. 荷電変換:C+
60 イオンの速度が v ∼ 0.01 a.u. と非常に低速であるにもかかわらず, C60 イオン
の多くは中性化されずにイオンのまま散乱されることがわかった.また,中性の C60 を入射さ
せた場合は 96%以上が中性のまま散乱されることがわかった.荷電変換過程が抑制されている
のは,C60 のイオン化エネルギー (7.6 eV) が KCl のバンドギャップの中に存在しているためで
ある.
+
2. 散乱角度分布:C+
60 イオン入射時の散乱した C60 イオンはほぼ鏡面反射の角度に散乱されてい
ることがわかった.一方散乱の際に中性化により生じた C60 は鏡面反射の角度よりも少し大き
な角度に散乱されており,イメージ加速を確認できた.このイメージ加速の大きさから,C+
60
+
のイメージポテンシャルを評価すると, C+
イオンが表面に近づくと
C
の電荷は表面側に局
60
60
在する傾向が見られた.
3. エネルギー損失と C2 放出:散乱したイオンのエネルギースペクトルを静電型のエネルギー分
析器で測定したところ,等間隔に並んだ複数のピークからなるスペクトルが得られた.これら
+
+
のピークは C+
60 イオンから C2 放出により生じた C58 ,C56 等である事がわかった.また,散乱
+
した C60 イオンのエネルギー損失は入射角が 0.5◦ ∼ 7◦ で 20–100 eV もあり,通常の核的阻止
能や電子的阻止能が無視できる極低速領域にもかかわらず,大きなエネルギー損失が観測され
+
た.これらの結果は,C+
60 イオンの運動エネルギーが C60 イオンの内部励起に使われ,その結
果 C2 放出が生じたことを示唆している.
3. HfO2 /SiO2/Si の酸化に伴う Si の挙動 [1]
MOS-FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor) に使用されているゲート酸化膜の
厚さは,素子の微細化に伴い 2nm を切るようになってきており,従来の SiO2 膜や SiNO 膜を使用
していては,数年のうちに,急速に進展している微細化に対応できないことが明白になっている.
このために,SiO2 をより誘電率の高い物質に置き換えることが検討され,最もふさわしい物質の
探索が精力的に行われている.現在最も有力視されている材料は Hf をベースにした酸化膜やハフ
ニウムシリケート,ハフニウムアルミネートなどである.これらをゲート絶縁膜として使用する
際には,MOS-FET 作成のプロセス中に存在する,高温の熱処理に対する耐性が問題となる.そこ
で,HfO2 /SiO2 /Si を酸素雰囲気中で熱処理した際の構造変化を,高分解能ラザフォード後方散乱
法で測定した.その結果,600 ◦ C 以上の熱処理に伴って SiO2 層が増加し表面に薄い SiO2 層が形
成されることがわかった.熱処理の初期には界面 SiO2 層の増加分の 30%程度の量の SiO2 が表面
に形成された.また,熱処理時間の増加とともに,界面,表面ともに SiO2 層が増加したが,界面
の SiO2 層の厚さが 1.5 nm 程度を超えると表面の SiO2 層は増加しないことがわかった.Si の酸化
の際に Si と SiO2 の界面に生じる歪を緩和するために,Si が SiO2 層に放出されることが理論的に
予測されているが,観測された表面の SiO2 は放出された Si が SiO2 と HfO2 中を通って表面に達
したものと思われる.
4. 動的斜め蒸着 Ag ナノ粒子アレイの近赤外表面増強ラマン散乱基板への応用 [2]
真空蒸着によって薄膜を形成する際,基板を蒸発源に対して斜めに配置してその姿勢を変化さ
せる動的斜め蒸着法 (DOD) によって,内部に螺旋やジグザグなど様々な形のナノコラム構造をも
つ膜を形成することができる.我々は昨年度,この技術を応用し,扁長な形の Ag ナノ粒子を長軸
の方向をそろえて高密度に配置したナノ粒子アレイをエッチング,リソグラフィ,その他の前後処
理を用いずに直接形成し,薄膜偏光板等に応用可能な大きな二色性を実現した.大きな二色性は
Ag ナノ粒子に閉じ込められた自由電子プラズマの共鳴によるものであり,共鳴状態にあるナノ粒
子の近傍では入射光の強度が強烈に増強されることが期待できる.特に我々の手法によって作製
した扁長ナノ粒子の共鳴波長はいわゆる「バイオウィンドウ」呼ばれる生体材料が吸収や蛍光を
示さない近赤外領域にアジャストすることが可能であり,表面増強ラマン散乱 (SERS) の基板とし
ての応用が期待できる.そこで本年度は実際に DOD で作製した Ag ナノ粒子アレイを用いた,ラ
マン散乱実験を行った.
蒸発源に対して 82◦ の角度に保持したガラス基板上に連続 2 方向斜め蒸着によって SiO2 を蒸着
し,異方性表面形態を有する雛型層を作製した.その上に 70◦ の方向から少量の Ag (∼ 10 nm) を
蒸着して扁長な Ag ナノ粒子アレイを形成した.図 1 に作製した Ag ナノ粒子アレイの表面の SEM
像を示す.明るく見える斑点が Ag ナノ粒子であり,長軸を一方向に揃えて並んでいることがわか
る.この試料を 100 nM–14 mM の 4,4’-bipyridine(bpy) 水溶液に浸漬し,波長 785 nm のレーザ光
(15 mW) を入射して顕微ラマン測定を行った.ナノ粒子アレイを溶液に浸漬してから SERS 測定
までの時間は 15 分程度であった.
1 µM 以上 SERS の濃度の溶液について典型的な 4,4’-bpy の SERS スペクトルが得られた (図 2).
検出の下限を決めているのは表面の汚染に起因すると思われる背景散乱の存在であり,適切な清
浄化を施すことによって改善することができると考える.本手法によって作製したナノ粒子アレ
イは安価で高感度の近赤外 SERS 基板として有望であることがわかった.
7
6
intensity (a.u.)
p
SiO2
s
5
s
4
3
SiO2, Ag
2
1
0
600
p
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
Raman shift (cm-1)
図 1: Ag ナノ粒子アレイの表面の SEM 像.
図 2: 入射光の偏光に依存した SERS スペクトル.
参考文献
[1] Zhao Ming, K. Nakajima, M. Suzuki, K. Kimura, M. Uematsu, K. Torii, S. Kamiyama, Y. Nara and
K. Yamada, “Si emission from the SiO2 /Si interface during the growth of SiO2 in the HfO2 /SiO2 /Si
structure,” Appl. Phys. Lett., in press.
[2] M. Suzuki, W. Maekita, Y. Wada, K. Nakajima, K. Kimura, T. Fukuoka and Y. Mori, “In-line aligned
and bottom-up Ag nanorods for surface-enhanced Raman spectroscopy,” Appl. Phys. Lett., in press.
バイオマイクロシステム工学分野
教授 井手 亜里
1. はじめに
加工寸法、分析領域が原子・分子レベルに達している現在では、その加工手段として原子・分子・光子
ビームを使わざるを得ない。本研究室ではイオンマイクロビーム、放射光マイクロビームを用いた従来
の精密加工分析の応用を機械・電子材料だけではなく、
生体機能やバイオテクノロジーに対しても行い、
統一的視野に立った研究を行う。
2. 主な研究テーマ
2.1 イオンビーム加工による次世代プラズマディスプレイ材料開発
プラズマディスプレイにおいて、電極を覆う誘電体を保護す
る保護膜は重要な役割を果たします。そのため、保護膜に
求められる性質は多岐に渡ります。現在保護膜材料には
MgOが用いられていますが、この保護膜、ひいては保護膜
材料の開発はプラズマディスプレイの改良において不可欠
な要素です。特に省エネルギー化においては保護膜の特
性が大きな影響を持ちます。そこで本研究では新しい保護
膜材料の開発とその製膜法を確立すべく、保護膜材料とし
てMgOに様々な添加物を加えたものを用い、製膜、分析を
行っています。
イオンビーム加工・蒸着装置
2.2 表面二次電子放出比測定装置設計・開発
プラズマディスプレイをはじめとする放電を利用した技
術では、その放電効率を上げるために表面二次電子を利
用します。表面二次電子が多いほどより効率よく放電を
行えるため、さまざまな方法で材料開発が進められてい
ます。開発した二次電子放出装置、測定装置ではイオン
ビームを使って直接的に材料の表面二次電子放出比を簡
便に測定することができるため、材料開発に大きく寄与
すると期待されています。またこの装置を使って、まだ
未知な部分が多い表面二次電子放出の機構について研究
を行っています。
二
次電子放出比測定装置
2.3 可視光域分光特性を用いた材料推定システムの構築 (文化財微細構造イメージング・超精密分析)
(日本学術振興機構研究成果活用プラザ育成研究プロジェクト)
本研究の目的は,画像データの測色値から推定される分光反射率を用いて材料推定を行うシステムを構築す
ることである.画像データはスキャナやデジタルカメラなどの可視光を用いた測定により得ることができるため,
非破壊・非接触で材料を推定することができる.材料の推定対象としては,日本画の顔料を用いた.顔料の推
定は大きく分けて次の2段階により行う.まず,推定対象の画像データから得られた測色値より分光反射率を推
定する.次に推定された分光反射率を,標準サンプルの分光反射率を登録したデータベースと比較すること
で顔料を推定することが出来るというものである.そのために,分光反射率推定アルゴリズム及びデータベース
比較法の考案を行う.分光反射率推定アルゴリズムとしては,重回帰分析による分光反射率推定法を応用し,
さらに誤差の影響まで考慮したアルゴリズムを考案した.その結果従来の重回帰分析による推定よりも高い推
定精度を得ることができ,誤差による推定精度への影響を小さくすることに成功した.また,データベース比較
法においては,推定された分光反射率とデータベースの分光反射率との各波長での反射率誤差に重み付け
を行うことにより,単純に比較するよりも顔料の推定精度を向上させることが出来る.この材料推定システムを用
いて標準サンプルである日本画色見本による顔料推定実験を行った結果,画像データから顔料を推定するこ
とが可能であることが示された.今後さら可視光域分光特性を用いた材料推定システムの構築特に文化財微
細構造イメージング・超精密分析装置開発及びソフトウェアー開発寮観点から文化財保護、活用に貢献
できるコンセプトを構築する。
3. その他のテーマと共同研究者
1. “Distribution of lead in the brain tissues from DNTC patients using synchrotron radiation
microbeams” Ari Ide-Ektessabi, Yukihide Ota, Ryoko Ishihara, Yutaka Mizuno, Tohru
Takeuchi.
2.
3.
4.
“RBS and XPS analysis of the composite calcium phosphate coatings for biomedical applications”, Ari
Ide-Ektessabi, Tetsuro Yamaguchi, Yoshikazu Tanaka
“MgO-NiO 複合材料薄膜の二次電子放出率の測定”,村上 茂人, 井手 亜里 田中 義和 森本 康彦
“機械ストレスによるバイオ組織への影響に関する研究”,太田 幸秀, 井手 亜里,マリオナ ラビオネット
5.
“スパッタリングを用いたハイドロキシアパタイト薄膜の作製とその評価”, 山口 徹朗, 井手 亜里, 田中
6.
7.
8.
9.
義和
”PDP 保護膜材料開発に関する研究”, 田中 義和, 村上 茂人, 井手 亜里, 森本 康彦
“超高解像度大型平面入力スキャナの開発に関する考察”, 片山 朋子, 井手 亜里, 藤井 照夫, 小林
直樹
“希土類酸化物添加 MgO 薄膜の評価”, 田中 義和, 村上 茂人, 井手 亜里, 森本 康彦
“Investigation of effects of ion beam irradiation on properties of magnesium oxide films”,
Yasuhiko Morimoto, Yoshikazu Tanaka, Ari Ide-Ektessabi
10. “Ion beam modification of polyimide with linear ion source”, Tetsuro Yamaguchi, Shih Hsiu
Hsiao, Yoshikazu Tanaka, Ari Ide-Ektessabi
11. “Simultaneous Deposition of ITO Film on Ion Beam Treated Polymers”, Shih Hsiu Hsiao,
Tetsuro Yamaguchi, Yoshikazu Tanaka, Ari Ide-Ektessabi
12. “The Role of Trace Metallic Elements in Neurodegenerative Disorders: Quantitative Analysis Using XRF and
XANES Spectroscopy” Ari Ide-Ektessabi, Mariona Rabionet
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ナノシステム創成工学講座
ナノメトリックス工学分野
教授 小寺 秀俊,助教授 神野 伊策,助手 鈴木 孝明
1. はじめに
本研究室ではナノ・マイクロシステム工学の基礎となる薄膜材料の作製プロセスに関する研究からマ
イクロファブリケーションを用いた MEMS デバイス開発、またデバイスの動作特性に関しての評価お
よびシミュレーション技術を用いた最適設計法に至る一連の研究をおこなっています。特に、材料およ
びシミュレーション技術を融合させてバイオ・メディカル分野への応用を目指したマイクロ TAS システ
ムに関する展開を推進しています。
Reservoir
PZT cantilevers
2. インプランタブルホスピタルデバイス
近年の IT 技術の高度な発展は超小型情報機器の開発を可能
とし、モバイル、ユピキタスな情報環境をもたらした。これら
の技術と医療技術とを統合することによって、ユピキタスメデ
ィスンの実現が期待されています。この新しいデバイスをを自
現 す る た め の 中 核 と な る 技 術 と し て 、 MEMS
(Micro-Electro-Mechanical Systems) お よ び μ TAS(micro Total
Analysis Systems)の研究が注目されています。本研究室では、こ
れら個々のデバイスの機能・構造原理に関して研究するととも
に、従来の Si プロセスを用いたマイクロマシニング技術、更に
樹脂やゴムなどの柔軟性に富む有機材料を利用したマイクロデ
バイスの製造・加工に関する研究をおこなっています。今年度
はマイクロ流体技術を用いたバイオセンシングの研究に取り組
み、マクロポンプの開発及びそのポンプと SPR(Surface Plasmon
Resonance)センシングとの融合に取り組んだ[1,2]。ポンプの構
造および SPR と一体化したマイクロポンプの外観写真を図 1 に
示す。この装置を用いて BSA(Bovin Serum Albumin)の抗原・抗
体反応を測定したところ良好な SPR シグナルが確認でき、これ
まで標準として用いられてきたシリンジポンプ等の外部ポンプ
に代わって、システム全体の小型化に向けた取り組みを行って
いる。
Microchannel
10mm
Micropump
Narrow band pass filter
Reservoir
10µm
Sensor chip
Polarizer
図 1 マイクロポンプおよび SPR と一
体化したデバイスの外観写真
3. MEMS 技術を用いたミリ波通信デバイス
高度情報化社会が加速する日、無線通信技術の高度化が求め
られています。本研究室では次世代大容量高速無線通信技術と
して期待されているミリ波通信用の各種デバイスをマイクロマ
シン技術を用いて開発しています。現在、当研究室ではミリ波
スイッチの研究を進めています[3,4]。図 2 は圧電薄膜を用いて
形成したミリ波スイッチです。これまで、単純な片持ち梁およ
び両端支持梁構造のユニモルフマイクロアクチュエータを作製
し評価してきたが、初期たわみおよび変位の低下等の問題が浮
かび上がってきた。今年度は素子の設計を最適化することで特
図 2 PZT 薄膜を用いて形成した
RF-MEMS スイッチ用マイクロア
クチュエータ
108
107
(200)MgO
(220)KN
(200)Pt
3. 圧電薄膜材料の開発
(110)KN
性向上を試みた。図2は今回作製した X 形状の梁構造の 1/2 モデルにおける FEM 解析結果および外観
写真である。両端支持梁構造であるが、中央部を X 形状とすることで内部応力の緩和、および初期たわ
みの低減が実現できた。FEM の計算結果では約 3μm/5V の変位が予想されたが、実際の素子ではその
1/5 程度の変位にとどまっている。今後試作の精度向上および変位向上へ向けた材料物性の検討等を行
う予定である。
Kβ
(111)KN
SRO
Intensity(C.P.S.)
センサーとアクチュエータはナノ・マイクロマシンを構
106
成する重要な要素部品です。当研究室では、強誘電体を初
105
めとする機能性材料を用いたマイクロデバイスの研究を進
104
めており、特に圧電材料の薄膜化およびその特性評価に関
103
する研究を進めています[5,6]。今年度は電界誘起ひずみの
102
向上を目的として反強誘電体材料の薄膜化、および環境適
101
100
合材料としての非鉛系圧電薄膜の開発に取り組んでいます。
20
30
40
50
2 θ (deg.)
非鉛系材料は、近年 KNbO3-NaNbO3 系セラミックスを配
向制御することにより PZT と同程度の圧電特性が報告さ 図 3 RF スパッタ装置を用いて作製した
れた。本年、当研究室ではスパッタ法を用いて
KNbO3 薄膜の XRD パターン
KNbO3-NaNbO3 薄膜の作製を試みた。図 3 は Pt/MgO 基板
上に形成した KNbO3 薄膜の XRD パターンである。図より擬立方晶で(001)に優先配向した薄膜が形成
されていることが確認できた。今後電気特性の改善、及びその結晶構造との関連を調べることで、非鉛
圧電薄膜材料の開発を進めていく予定です。
参考文献
[1] T. Suzuki, H. Hata, H. Shintaku, I. Kanno, S. Kawano, and H. Kotera, VISUALIZATION AND
OPTIMIZATION FOR FLUID FLOW OF TRAVELING WAVE MICROPUMP, Proc. Micro Total Analysis
Systems 2005, 1108-110
[2] T. Suzuki, T. Tokuda, N. Fujiwara, H. Yamamoto, I. Kanno, M. Washizu, and H. Kotera,SINGLE-MASK
FABRICATION PROCESS FOR HIGH ASPECT-RATIO EMBEDDED MICROCHANNELS WITH
OPENINGS,(2003), Proc. Micro Total Analysis Systems 2005, 1183-1185
[3] Isaku Kanno, Hironobu Endo, Hidetoshi Kotera, Low-Voltage actuation of RF-MEMS switch using
Piezoelectric PZT thin films, Proc. Micro System Technologies 2003, 529-531
[4] Isaku Kanno, Hironobu Endo, Takaaki Suzuki, Hidetoshi Kotera, Piezoelectric micro-actuators for RF-MEMS
switches, Proc. IQEC and CLEO-PR 2005, 1380-1381
[5] Isaku Kanno, Hidetoshi Kotera, Kiyotaka Wasa, Measurement of transverse piezoelectric properties of PZT thin
films, Sensors and Actuators A, 107, (2003), 68-74
[6] Isaku Kanno, Yu Yokoyama, and Hidetoshi Kotera, Kiyotaka Wasa, Thermodynamic study of c-axis-oriented
epitaxial Pb(Zr,Ti)O3 thin films, Physical Review B, 69, (2004), 064103
ナノシステム創成工学講座 ナノ・マイクロシステム工学分野
教授 田畑 修,助教授 土屋 智由,助手 菅野 公二
1. はじめに
本研究室は,物理科学に根ざした発想をベースに,新奇でユニークな機能を発現する次世代微小電気機
械融合システム「ナノ・マイクロシステム,MEMS/NEMS (Micro/Nano Electro Mechanical Systems)」を実現する
ためのナノ・マイクロシステムシンセシス工学(SENS: Synthetic Engineering for Nano/Micro System)の確立を目
指している.三次元微細加工技術とナノ・マイクロスケールアセンブル技術などのナノ・マイクロ加工技術,構造
材料として用いられるナノ・マイクロスケール材料の機械的物性評価・解析技術,センサ・アクチュエータなどを
集積化したナノ・マイクロシステム創製技術を研究の 3 本柱とし,実験および理論の両面からのアプローチで研
究を遂行している.また,他研究室,他専攻,他大学との連携を積極的に推進すると共に,研究成果の産業応
用を図るために産学連携にも積極的に取り組んでいる.
2. 研究内容と成果
2.1 ナノ・マイクロ加工技術
次世代微小電気機械融合システムの実現に必要不可欠なナノ・マイクロスケールにおける新奇な加工技術
に関する研究開発として,①MEMS基板に三次元微細構造を付与するための3次元微細加工技術,②MEMSに
ナノ構造を集積化して量子効果利用センシングなどの新機能・高機能をMEMSに付与するためのトップダ
ウン型アプローチとボトムアップ型アプローチを融合したアセンブル技術,に取り組んでいる.
三次元微細加工技術では,
厚膜レジス
テンプレート基板(Si)
トの3次元微細加工を行うための移動
液架橋力によるアセンブル
マスク露光機能を有する紫外線露光装
置の開発と厚膜レジストの3次元加工
シミュレーションシステムの構築に着
テンプレートパターン
手した.試作した露光装置により厚膜
レジストの3次元加工が可能であるこ
SAM付加基板への転写
とを確認した.
アセンブル技術では,溶液中に分散
させた微細部品を,光誘起誘電泳導力
を用いたマニピュレーションによって基
温度制御による転写
板上の任意の領域に搬送するシステム
を実現した.
コンピュータ制御により,
複数の微細部品を基板平面上で自由に
搬送することが可能である.さらにテ
ンプレートを用いた 2 段階転写による微
細部品のパターニング手法を提案した.
キャリア基板
ターゲット基板(Si)
500nmのポリスチレン粒子をターゲットシ
(PDMS)
リコン基板上に転写した結果を図 1 に示
す.また,微細部品を予め決められた順
序で MEMS にアセンブルする技術とし
て,部品間の界面張力, DNA 塩基対
のハイブリダイズ機能を用いる方法を提
20 μm
案し,基礎実験を開始した.
図 1 ナノ粒子パターニング
2.2 ナノ・マイクロスケール材料の機械的物性評価・解析技術
複雑な 3 次元構造を有する次世代微小電気機
荷重印加用櫛形
械融合システムの構造材料として用いられる
静電アクチュエータ
ナノ・マイクロスケール材料は,スパッタリングな
どの分子・原子の堆積や原子レベルの結晶成長
荷重検出用
キャパシタ
により形成され、プラズマエッチングなど分
子・原子を単位とする反応を用いて加工される
荷重検出用バネ
ため、材料そのものが複雑系である.本テーマ
伸び検出用
キャパシタ
では次世代微小電気機械融合システムのモデリ
ング、設計に貢献するためにナノ・マイクロスケー
ル材料の機械的物性値の測定,体系化により,
カーボンナノチューブ
機械的物性値データベースを構築することを最
終目標としている.
現在,静電チャック方式の薄膜引張疲労試験
図 2 ナノスケール材料引張試験用 MEMS デバイス
装置をベースに,高サイクル印加可能な荷重印
加機構,試験環境の温・湿度制御機構,高温
(800℃)下での荷重印加・ひずみ測定機構,最小印加荷重 1nN・最小測定変位 1nm のナノ材料用評価機
構などの新しい機能を付加し,
評価法の開発,
評価装置の構築を進めている.
図2 はSWCNT
(Single-Walled
Carbon Nano Tube)の機械的特性評価用として研究中の引張試験用 MEMS デバイスである.今後,他大学・
企業・マイクロマシンセンターなどと連携し,数年後のナノ・マイクロ材料の疲労試験方法に関する国
際標準規格発行を目指す.
2.3 ナノ・マイクロシステム創製技術
形状記憶合金薄膜を応用した触覚提示用
スマートボタン,静電駆動型オプティカル
スキャナー,微粒子合成用マイクロ流体デ
バイス,遷移放射X線源,微粒子含有液滴
生成システム,静電容量型 3 軸加速度セン
サなど,各種の微小電気機械融合システム
に関する研究を行っている.
図 3 は SOI(Silicon on Insulator)基
板を用いて製作した静電容量型 3 軸加速度
センサである.新規な 3 次元加工プロセス
を駆使して,段差構造を有する縦型櫛歯構
造を形成することによって 3 軸の加速度検
出機能が実現された.検出部は僅か 1mm 角
15 μm 厚で,3 軸方向に最大 10G の加速度
を検出できるように設計されている.この
検出部サイズで 3 軸の加速度検出が可能な
デバイスは世界初である.
3. まとめ
500 μm
100 μm
図 3 静電容量型 3 軸加速度センサ
次世代微小電気機械融合システムは機械・電子・電気・化学・光・バイオなどのマルチディシプリナ
リな現象を微小領域において巧みに融合した微小複雑システムであり,これらの現象解析とモデル化及
び制御と設計論の構築を通して本 COE の目標達成に貢献するものと期待される.
マイクロシステム創生講座 マイクロ加工システム分野
教授 島 進, 講師 津守 不二夫
1. はじめに
近年,電気・機械部品の高度化においては,さらなる高機能化,高精度化が求められ,特にマイクロ・
ナノテクノロジー分野に対応した新たな技術開発も必要とされている.本研究室ではこのような課題に対
し,理論的な基盤の構築および解析システムの作成,またそれらを元にした新たなプロセス開発に関し研
究を行っている.特に 21 世紀 COE プログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」のもとで
は,主として粉末微粒子のものづくりへの応用を目指しいくつかのテーマを立ち上げている.粉体は微小
な粒子の集合体であり,微細な外乱においてもそれら個々の相互作用により極めて複雑な挙動を呈する.
このような粉体について本研究室で実施している主要なテーマは具体的に以下の通りである.
1.
2.
3.
4.
個別要素法をベースとした粉末挙動解析システムの作成
磁性粒子の挙動把握およびマイクロアクチュエータへの応用
半固形モールド粉体成形法による微細複雑構造体の作製
小型 SPS 装置により微細焼結プロセスの開発
以下に各テーマについての概要,平成 17 年度の成果について説明する.
2. 各研究課題の概要と今年度の成果
300 μm
2.1 個別要素法をベースとした粉末挙動解析システムの作成
概要 粒子個別要素法は粉末を構成する個々の粒子の運
動方程式を解くことにより集団としての粉末挙動を解析
する手法である.本年度は微細な粒子の表面付着力の効
果を直接考慮したモデルを開発し,セラミックス材料等
の微細な粒子により構成される粉末において付着力の影
響を評価した.また,FEM による磁場解析と個別要素
法の連成解析による磁性粒子の挙動のシミュレーション
も行った.前者については付着力モデルを導入した解析
を行い,同時にモデル材料を用いたマイクロフォーカス
X 線 CT 装置による検証実験を行った.後者については
0 ms
1.0 ms
2.0 ms
3.0 ms
21世紀COEプログラムの若手研究助成を受けている
図1 自由落下充填の二次元解析例
ため詳細についてはその報告書に譲る.
今年度の成果 微細な粒子の表面付着力の効果は主に粒 (凝集塊の生成).
子表面に吸着したガスおよび水蒸気層による液架橋が原
因とされている.図 1 に二次元解析結果の一例を示すが,このような付着力の影響により自由落
下充填の際に凝集塊が生成していることが分かる.このような凝集構造は実験によっても類似の
構造が観察されることが従来より知られている.また,三次元解析結果およびモデル材料による
実験結果が比較され,両者が良好な一致を示していることが見て取れ,粉末の流動特性を評価す
るうえで必要となる解析および実験手法が確立できた.これらの成果については平成 16 年度日
本粉体粉末冶金協会秋季大会および International Conference on Computational Plasticity
において発表を行った [1].また,粉体および粉末冶金協会に成果を投稿中である [2, 3].
2.2 磁性粒子の挙動把握およびマイクロアクチュエータへの応用
概要 磁場中に配置された磁性粒子群は相互に力をおよぼし合い,鎖状・柱状の構造を取ること
が知られている.本研究では弾性シリコンポリマー中に磁場により生成した磁性粒子の構造を固
定し,磁場による操作することによりマイクロアクチュエータを作製することを試みた.設計に
は前節で述べた個別要素法をベースとした解析システムを利用している.
今年度の成果 本テーマは21世紀COEプログラムの若手研究助成を受けているため,詳細に
ついては別報に譲る.この成果は国際会議 PM2TEC2005 [4,5] および IPMM2005 [6] において発
表を行った.
2.3 半固形モールド粉体成形法による微細複雑構造体の作製
概要 ビンガム流体静水圧成形(Bingham semi solid/fluid Isostatic Pressing ; BIP)と呼ばれる半固
形型を使った新たな静水圧成形法が研究推進者らによって最近開発された.これは半固形状材料
であるビンガム流体で型を作ることにより,その中に充填した粉末に直接静水圧を加えることの
できる新しいプロセスである.BIP 成形は,複雑形状部品においても割れなく作製することが可
能であり,将来非常に有望な成形法である.本年度は微細構造体の作製を試み,プロセスの改良
を行った.
本年度の成果 微細構造体作製のためのプロセス改良点は以下の 3 点; 1) Soft MEMS プロセスに
よる型の作製,2) 固形ワックスモールドの温度制御による状態変移の利用,3) スラリーを用いた
粉末材料の充填,である .従来の半固形材料は粘着性でありその材料特性から非常に強度も低
くハンドリングに難があり微細な型を作製するのは困難であった.そこで,固形ワックスを用い
た微細なパターンを有するモールドを作製し,プロセス時の温度制御により半固形化することを
試みた.しかしながら,微細なパターンへの乾式の粉末の直接の充填は困難であるため,スラリー
を用いた充填を行った.その結果,100 μm 程度の梁により構成された網目状のセラミックス焼
結体を得ることができた.粉末加圧成形プロセスにおいても微細構造体を作製する新たな指針が
示せたと言える.この成果は国際会議 PM2TEC [7]で発表,また,PM2006 においても発表予定で
ある.
6 mm
Slurry A
Slurry B
Slurry C
図2 BIPプロセスによるセラミックス焼結体の例(スラリー組成の違い
による成形性の違い).
参考文献
[1] Fujio Tsumori, Keiichiro Hayakawa and Susumu Shima: Simulation of Powder Behavior Based on
Discrete Model Taking Account of Surface Effect of Particles, Proc. Int. Conf. Computational Plasticity
Fundamentals and Applications (2005), pp 591.
[2] 津守不二夫,早川敬一郎: 粒子間付着力を考慮した個別要素法による粒子挙動の解析(第一報)
-二次元モデルによる解析-, 粉体および粉末冶金, (投稿中).
[3] 津守不二夫,早川敬一郎: 粒子間付着力を考慮した個別要素法による粒子挙動の解析(第二報)
-三次元モデルによる解析およびモデル実験-, 粉体および粉末冶金, (投稿中).
[4] Fujio Tsumori, Masamichi Hirata and Susumu Shima: Column Structure Growth Simulation of
Magnetic Particles by Distinct Element Method Coupled with Magneto-FEM, Proc. Powder Metallurgy &
Particulate Materials (2005), pp 74-84.
[5] Fujio Tsumori, Hiroyuki Ogawa and Susumu Shima: On-demand Droplet Spotter for Formation of
Micropattern Using Electrostatic Force, Proc. Powder Metallurgy & Particulate Materials (2005), pp 96107.
[6] Fujio Tsumori and Susumu Shima: Simulation of Column Structure Growth of Magnetic Powder in
Applied Magnetic Field by Coupled FEM-DEM Modeling, Proc. Intelligent Processing and Manufacturing
of Materials (2005).
[7] Fujio Tsumori and Susumu Shima: Isostatic Powder Compaction Process with Bingham Semisolid/fluid Mold Material, Proc. Powder Metallurgy & Particulate Materials (2005), pp 157-169.
機械材料力学講座 適応材料力学分野
教授 北條 正樹,助教授 安達 泰治,助手 田中 基嗣
1. はじめに
本研究室では,バイオ・ナノ技術の融合による新たなスマート材料・構造と機能創製を目的として,
複雑な階層構造を持つ対象をマルチスケールメカニクスの視点から検討している.先進複合材料や生体
組織はいずれも複雑かつ複合的な構造を有しているが,その機能発現の基礎となる微視的な要素・組織
に注目が集まってきている.ここでは,生体組織・細胞の持つ自己診断性や修復性,環境適応性の研究,
さらには細胞システムおよびそのナノレベルでの構成要素と人工システムの融合マイクロバイオメカニ
クスの研究を重点的に展開している.最終的には,これらの集合システムとしてのふるまいを組織レベ
ルにまで階層的に数理モデル化し,構造と機能の設計原理を明らかにすることを目的としている.将来
的には,自ら力学的環境を感知して適応し,損傷を修復する人工材料創製原理の探求を検討している.
2. 移動性細胞におけるアクチン骨格構造のひずみと脱重合の関連
接着基板上を移動する細胞の運動機能は,様々なタンパク質からなる構成要素の連携機構により実現
されている.これらの連携機構は,生化学的因子のみではなく,張力・ひずみ等の力学的因子との相互
作用により調節されることが知られている.細胞の運動機構を明らかにするための実験的検討として,
移動性細胞ケラトサイト内のアクチン骨格構造を可視化し,その動態観察の結果から,細胞内アクチン
骨格構造のひずみ増分分布を解析するとともに,アクチン骨格構造の脱重合との関連について検討した.
まず,アクチン骨格構造を可視化するため,単離細
胞内に対して蛍光ドット(Qdot-Phalloidin)をマイクロ
インジェクションし,アクチン骨格構造の蛍光スペッ
クル顕微鏡観察を行った.また,得られた蛍光画像か
ら,画像相関法によりアクチン骨格構造の変位分布を
求め,取得画像間の増分ひずみテンソルを求めた.
実験より得られた蛍光スペックル観察画像を図 1(a)
に示す.移動中のケラトサイトは三日月形状をしてお
り,この図では右方向に移動している.輝度の高い細
(a)スペックル像
(b) 変位ベクトル分布
胞体の周囲に輝度の低い葉状仮足が確認できる.さら
図 1 移動中のケラトサイトにおけるアクチン
に,図 1 中正方領域の拡大図から,蛍光ドットによる
細胞骨格ネットワークの蛍光スペックル観察
蛍光スペックルが確認できる.この蛍光スペックルを
用いて画像相関法により得られたアクチン骨格構造の変位ベクトル分布を図 1(b)に示す.図中長方形領
域の拡大図から,アクチン骨格構造は,およそ葉状仮足前縁の法線方向へ先導端から細胞体に向かって
移動することが分かる.
解析より得られた葉状仮足の中心線分(a-b)上の移動方向の垂直
ひずみ増分Δεp分布を図2に示す.横軸は,アクチン構造の変位が追
跡できた領域における移動方向の相対位置を表す.葉状仮足領域で
は,Δεpが負になっていることが分かる.葉状仮足においては,前
縁部から細胞体方向に近づくにつれて,アクチンネットワーク密度
が脱重合により低下することが観察されている.また,アクチン細
胞骨格は,骨格内部の張力解放により脱重合が促進されることが知
図2 葉状仮足の中心線分(a-b)上の
られている.これらの結果とあわせて考察すると,アクチン骨格構
移動方向の垂直ひずみ増分分布
造の脱重合は,葉状仮足前縁に対して垂直に配向したアクチンフィ
ラメントから順に選択的に脱重合され,アクチン骨格構造量の減少に寄与している可能性が示唆される.
3. 生体組織マトリクスの変形・損傷場と細胞ネットワークの相互作用
骨細胞ネットワークは,骨梁に対するマクロな力学負荷により生じ
る骨基質の変形・損傷場をミクロに感知し,刺激情報を周囲の細胞に
伝達する機能をもつと考えられているが,その詳細なメカニズムは未
10μm
10μm
解明である.単離骨細胞の刺激付与部位と細胞応答の関連付け,およ 図 3 単離骨細胞細胞突起へ
び骨組織の変形に対する細胞応答の観察を目的とした.
の局所変形付与にともなう細
まず,単離骨細胞に対してマイクロニードルにより局所変形を与え 胞内 Ca2+濃度変化
た際の細胞内 Ca2+濃度変化をその場観察し,細胞応答と細胞内アクチ
ン骨格構造との関連について検討した.アクチンフィラメントが細胞突起に局在する単離骨細胞におい
ては,細胞体への局所変形に対して Ca2+応答は発現せず,細胞突起根元部分への局所変形に対して Ca2+
応答が発現した(図 3)
.細胞体内部にアクチンフィラメントが存在する単離骨芽細胞においては,細胞
体への局所変形に対して Ca2+応答が発現した.骨芽細胞が骨細胞
へ分化する際に,周囲の力学環境の変化に適応してアクチン骨格
構造を変化させ,応答特性に違いが生じることが示唆される.
次に,骨組織に対してマイクロニードルにより局所変形を与えた. 5μm
その結果,骨組織の局所変形に対する骨細胞のCa2+応答を確認でき
図 4 骨組織への局所変形付与に
た(図4)
.骨組織・細胞の適応的リモデリング・力学刺激感知をシ
ともなう骨細胞内 Ca2+濃度変化
ステムと捉え,スマート複合材料創製原理の確立が期待される.
4. SEM 中その場観察とメゾ的 FEM による CF/Epoxy のトランスバース破壊起点の評価
複合材料を構造物に応用する場合に問題となる重要な破壊機構として,トランスバース破壊が挙げら
れる.この破壊挙動をよりミクロなスケールで見ると,繊維/樹脂界面の強度が密接に関係している.
界面強度評価法に関しては,これまで主に行われてきたモデル複合材料によるせん断応力場での評価よ
り,90°引張強度が界面特性の違いを反映することが報告されている.さらに,90°引張りはトランスバ
ース破壊に直接結びつく界面引張強度を評価しており,構造強
度の観点から重要である.しかし,90°引張りでは各繊維周りの
応力分布は複雑で,かつ成形時の微視的熱残留応力の影響もあ
り,これまでこの試験から直接破壊起点の界面強度を定量的に
求めるのは困難であった.特殊な積層構成の試験片を用いるこ
とにより,安定的な90°引張りにおける界面破壊発生を走査電子
顕微鏡(SEM)中のその場観察により評価するとともに,成形時
図 5 HTA/RTM6 [902/07/902]積層板の
の熱残留応力も考慮したメゾ的な有限要素解析を行った.両者
初期破壊
の結果を比較することにより,
界面破壊起点の条件を検討した.
図5にHTA/RTM6の[902/07/902]積層板での初期破壊の様相を示す.破壊は繊維間距離が短い箇所でかつ
界面が荷重方向に垂直な箇所で発生した.破壊前のSEM像から,発生箇所での樹脂厚さは0.5-1mm程度
であることが観察される.比較的少数の界面で破壊が発生した後,すぐに最終破壊に至った.次に,繊
維配置を六角形のユニットセルとして,曲げ試験における界面初期破壊発生マクロ応力に対応する微視
的な応力分布を計算した.初期破壊発生に対応する界面での微視的な引張応力σr,せん断応力τrθの最大
値が界面引張強度(INS),界面せん断強度(ISS)に相当すると考えられる.上述の[90207902]積層板での初期
破壊発生時(マクロ応力54.3MPa)でのσrの最大値はマクロな荷重方向で発生し,その値(INS)は86MPa
となり,マクロ応力の1.6倍となった.τrθの最大値は荷重方向から反時計回りにθ = 33°で発生し,その値
は34MPaとなった.図5の観察結果より,INSにより破壊は発生したと考えられる.その場観察実験は,
[9011], [90403904], [90305903], [90207902], [901,09901]で実施したが,それらのINSの平均値は123MPaと求まっ
た.この値は,報告されている樹脂強度および界面破壊強度と比べ若干高い値であるが,寸法効果等を
考慮するとより適当な値が得られたと考えられる.
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