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資料ダウンロード - JSCF NPO法人 日本せきずい基金

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資料ダウンロード - JSCF NPO法人 日本せきずい基金
日本せきずい基金 創立15周年記念
Walk Again 2014 脊髄再生国際シンポジウム
慢性期への挑戦
2014.9.
2014.9.20
20
主催:
NPO法人日本せきずい基金
主催:NPO
NPO法人日本せきずい基金
後援
文部科学省/厚生労働省/東京都
日本再生医療学会/日本脊髄障害医学会
日本難病・疾病団体協議会/難病のこども支援全国ネットワーク
SMA (脊髄性筋萎縮症)家族の会/全国脊髄損傷者連合会/全国多発性硬化症友の会/日本ALS協会
日本IDDMネットワーク/日本筋ジストロフィー協会/日本脳外傷友の会/日本網膜色素変性症協会
〔順不同〕
【プログラム】
11:45
開場
12:15
開会:来賓挨拶
12:45
シンポジウム開始〔司会/山本ミッシェール〕
12:45~13:15 講演①:岡野 栄之(慶應義塾大学教授)
iPS細胞による中枢神経系の再生医療
13:15~13:45 講演②:J. Fawcett(ケンブリッジ大学教授)
脊髄修復の新たなアプローチ:可塑性・再生・補装具
13:45~14:00
【休憩】
14:00~14:30 講演③:中島 孝(国立病院機構新潟病院副院長)
ロボットスーツHALによる随意運動障害治療
14:30~15:00 講演④:田島文博(和歌山県立医科大学教授)
徹底した集中リハの必要性―高負荷・高強度・長時間―
15:00~15:15
【休憩】
15:15~16:00 パネルディスカッション:
岡野 栄之・J. Fawcett・中島 孝・田島文博・中村雅也
16:00
閉会挨拶
1
lecture-1.
岡野
栄之
慶應義塾大学医学部
iPS細胞による
中枢神経系の再生医療
生理学教室教授
京都大学の山中 伸弥教授らは、皮膚の細胞のようなある特殊化した細胞に
4つの遺伝子(Oct4, Sox2, Klf4, c-Myc: 合わせて山中4因子と呼ばれます)を
導入するだけで、ES細胞そっくりの多能性幹細胞を作ることに2006年にマウス
で成功し、この細胞を人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell, iPS細
胞)と名付けました。翌2007年にはヒトでも成功しております。
この研究成果は、発生過程は非可逆的と思われていたが、成体の特殊化し
た細胞に鍵となる遺伝子を導入することにより、発生のごく初期の多能性を有
〔おかの ひでゆき〕
昭和58年 慶鷹義塾大学医学部卒業
する状態に戻すことができたという事を示すものであり、発生学の常識を変え
てしまう衝撃的なものでありました。この業績により、山中先生は、「体細胞の初
期化による多能性の獲得」に関する研究成果につき、核移植によるクローン技
学会
術を開発された英国のジョン・ガードン卿とともにノーベル医学・生理学賞を受
日本神経科学学会副会長(パネル理事)/
賞されました。
神経化学会脳研究推進委員会(委員長〕/日
本炎症・再生医学会(常務理事・編集担当〕/
日本再生医療学会(理事・生命倫理委員会
委員長)/日本末梢神経学会(理事〕/国際幹
細胞学会SSCR(理事〕
iPS細胞技術は、さらに医学・医療への応用として注目されています。それは
①再生医療への応用、②疾患モデル細胞による病態解明と創薬研究、③薬
の毒性検定などを含みます。②については、例えばてんかんやミエリン形成不
全症などの小児神経疾患では、病変部位である脳を直接調べることは実際上
専門
不可能ですが、これらの疾患の患児の方からの皮膚や血液の細胞からiPS細
分子神経生物学/発生生物学/再生医学
胞を作り、シャーレの中で神経細胞やグリア細胞に分化誘導することにより、こ
れら疾患の核心となる神経細胞の電気生理学的異常やオリゴデンドロサイトの
賞
細胞死の亢進などの病態を再現し、根治薬の開発に応用する研究が爆発的
慶鷹義塾大学医学部同窓会三四会より
に注目されています。
三四会賞受賞(昭和63年)/加藤淑裕記念事
業団よリ加藤淑裕賞受賞(平成7年)/慶鷹義
塾大学医学部よリ、北里賞受賞(平成/0年)/
ところが、実際の臨床応用には、腫瘍形成の問題等の安全性の問題をクリア
ブレインサイエンス振興財団よリ、塚原仲晃
する必要があります。私達は、慶應義塾大学医学部整形外科学教室との共同
賞受賞(平成13年)/東京テクノフォーラム21よ
研究で、マウスおよびヒトiPS細胞由来の神経前駆細胞をマウスおよびサルの
りゴ ー ル ド メ ダ ル 賞 受賞/イ タ リ ア・Catania
脊髄損傷モデルへ移植することにより機能回復を誘導することに成功しまし
大学よリDist]nguished Scientists Award 受
た。今後これらの成果を、4年後のFirst Human Trialを目指し、どのように臨床
賞/日本医師会より日本医師会医学賞受賞
の現場へ応用するか、その道筋をお話し致します。
(以上平成16年)/文部科学大臣表彰・科学
技術賞受賞(平成18年)/Stem CellsよりLead
Reviewer Award受賞(平成19年)/井上科学
振興財団よリ井上学術賞(平成20年)/紫綬
褒章受章「神経科学」(平成21年)/日本再生
また、iPS細胞技術以外の脊髄損傷の新しい治療法として、私たちは今年より
HGF〔肝細胞増殖因子〕を用いた急性期脊髄損傷治療のPhase Ⅰ-Ⅱaの治験
を開始するとともに、細胞移植、リハビリテーション、軸索再生誘導 (Sema3A阻
医療学会よりJohnson & Johnson innovation
害薬)の併用療法による慢性期の脊髄損傷の治療法の開発に関する新知見に
Award 受賞(平成23年)
ついてもお話したいと思います。
2
lecture-2.
James W. Fawce
脊髄修復の新たなアプローチ
ケンブリッジ大学教授
—可塑性・再生・補装具
John van Geest 脳修復センター所長
Novel Approaches to Spinal Cord Repair: Plasticity, Regeneration, Prosthetics
脊髄機能の修復には主に3つの方法があり、それらは最終的には組み合わ
せて使われることになる。それは、①軸索の再生、②可塑性、③補装具を用い
て失われた機能を補填することである。脊髄損傷を完全に修復する治療が開発
される見込みは(現段階では)少ないので、いくつかの機能再建には補助的装
具が必要になると考えられる。
〔ジェイムズ・フォーセット〕
1972年 オクスフォード大学卒業(生理学)
1975年 医学士(MB.BS)
St. Thomas病院(ロンドン)
1982年 ロンドン大学より博士号(PhD)
1980年 王立医師会員(MRCP)
1984-1986年 カリフォルニア大学サンディ
エゴ校神経科学部非常勤准教授
1986-2002年 ケンブリッジ大学講師
(生理学)
2001年以降 ケンブリッジ大学脳修復セン
ター所長
2002年以降、ケンブリッジ大学実験的神経
学教授(メルク社寄附講座)
科学委員会顧問:Acorda Therapeutics社,
Alseres pharmaceuticals社, 国際脊
髄基金(ISRT/UK)、Spinal Cure
Australia, Wings for Life
コーディネーター:EU Framework 7 Project
PLASTICISE(Promotion of plasticity
as a treatment for neurodegenerative
conditions)
科学担当役員:Alzheimer’s Research
Trust(UK)
編集委員:Spinal Cord, Glia, Experimental
Neurology, Restorative Neurology
and Neuroscience
Fellowship of the Royal College of Physicians 2000
Fellowship of the Academy of Medical Sciences 2003
Ulrich Schellenberg Prize for spinal injury
research(IRP:国際対マヒ財団) Geneva
2003
Reeve-Irvine Research Medal 2003
CU Ariens Kappers Medal (Royal Netherlands Academy of Science 2008)
Guthrie Medal(Soc. Military Surgeons) 2010
〔JSCF編〕
可塑性とは、損傷部を迂回して新たな神経回路を造るという、神経系に備わっ
ている能力である。現在、可能性のある治療法がいくつか存在する。それは損
傷した軸索や残存した軸索から新たな神経突起の発芽を促すことで、あるいは
既存のニューロン結合の強さを強化することで可塑性を高める方法である。可
塑性の能力はヒトでは5歳以降で急激に低下し、成人が脊髄損傷から回復する
能力を制限している。コンドロイチン分解酵素や抗ノゴA抗体〔ノゴA:軸索伸展阻
害因子〕を含む治療法によって、成人の中枢神経系でも可塑性が復元し、機能
回復を促進できる。いくつかの治療法は受傷後多くの月数を経た患者に効果が
あるが、受傷後すぐに処置すべきものもある。コンドロイチン分解酵素は、脳や
脊髄のニューロンを包み込んで可塑性を抑える神経細胞周囲網と呼ばれる構
造を分解する作用を持っている。一般に、機能を取り戻すために新しいニューロ
ン結合を使うには神経系を訓練させる必要があるので、可塑性の回復には適切
なリハビリテーションと組み合わせることが必要である。しかし、この治療によって
限られた数の新しいニューロン結合が競合してしまう恐れがあり、この治療につ
いては慎重に計画する必要がある。集中的リハビリテーションと閾値下〔イキチカ〕電
気刺激を組み合わせて、脊髄損傷後に残ったニューロン結合を強化し、いくつ
かの機能を明確に回復させることも可能になるだろう。
脊髄損傷では軸索の再生はうまく行われなくなる。なぜなら損傷脊髄から放出
される抑制分子、特に瘢痕組織のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンとミエリン
(髄鞘)のノゴAが軸索再生を邪魔するからである。抗ノゴA抗体は治験の第Ⅰ相
試験を通過し、コンドロイチン分解酵素は前臨床試験の段階にある。しかし、プ
ロテオグリカンやノゴAによる軸索再生阻害効果を中和させても、1cm程の損傷
のギャップを超えて神経回路を再生させる軸索の数はごく少数にすぎない。こ
の程度の軸索再生でも機能的には重要であるが、完全な機能再生にははるか
に不足している。再生される軸索がわずかなのは、受傷後に抑制分子が放出さ
れることに加えて、成人の脊髄軸索の再生能力が非常に乏しいからである。成
人軸索の再生能力を増大させるだけでなく、軸索が長距離まで伸びて宿主軸
索をリレーさせることができる幹細胞由来ニューロン又は胚性ニューロンを損傷
脊髄に移植しなければならない。成熟ニューロンが軸索伸長能力を喪失してい
る原因については理解が進み始めており、その軸索伸張能力を復元する方法
が開発されつつある。軸索伸長能力の喪失については、ニューロンが成熟する
と軸索に運ばれる蛋白質の内、軸索伸張に関連する分子が選択的に除外され
てしまうことが原因の一つである。それに加えて、切断された軸索が有している、
受傷後に新しい神経突起を作る能力に変化が生じてしまう。切断された軸索の
先端の細胞内シグナルやその他の生物学的プロセスに介入することで、いくつ
かの再生能力を元に戻すことができる。
また場合によっては、基本的な電気的人工装具を利用することもできる。その
ようなものには、機能的電気刺激を加えて膀胱機能や手の把持機能を復元させ
る補装具がある。補装具学は急速に高度化し、その学術領域も拡大している。
脊髄損傷者の深刻な問題は膀胱機能のコントロールである。脊髄に入る感覚神
経を使って膀胱での尿の量を知る新しい方法が開発中で、この方法で失禁を
抑えることができるようになる。膀胱を空にする必要がある時には膀胱に電気刺
激を送る補装具を使うことができまる。さらに、義肢や他の装置をコントロールす
るために脳から電気信号を直接引き出す方法もある。〔訳:JSCF〕
3
lecture-3.
中島
孝
国立病院機構新潟病院
ロボットスーツHALによる
随意運動障害治療
副院長
〔なかじま たかし〕
1983年 新潟大学医学部卒
1987 年 ~ 1989 年 National Institutes of
Health(USA) Visiting fellow
1991年 新潟大学医学部大学院卒、医学
博士
1991年~2003年 国立療養所犀潟病院 神
経内科医長、ほか
2001年~2004年 厚生労働省薬事・食品
衛生審議会専門委員(非常勤)
2004年1月~3月 国立療養所新潟病院 副
院長
2004年4月~ 独立行政法人国立病院機
構新潟病院 副院長/新潟大学脳研究所非
常勤講師/独立行政法人医薬品医療機器総
合機構(PMDA)専門委員
専門分野:神経内科学、遺伝子診断、統計
学的画像診断、難病ケア、緩和ケア、呼吸ケア
学会認定医:日本神経学会専門医、日本
内科学会認定医、日本認知症学会認定認
知症専門医、臨床遺伝専門医
学会活動:日本神経学会代議員、日本在
宅医療学会評議員、新潟核医学懇話会世
話人、Neurology 定量SPCT 研究会世話人、
日本栓子検出と治療学会評議員、神経病理
学会、日本脳卒中学会、日本リハビリテー
ション医学会会員
研究テーマ:
・ 遺伝子マッピングおよび人の脳機能画
像の標準化と統計画像解析法に関する研究
・ 臨床評価指標およびQOL 評価法に関
する研究
・ 難病ケア、緩和ケア、呼吸ケア、災害時
ケアに関する研究
・ ロボットスーツの臨床応用に関する研究
・ 新規医療機器・医薬品の開発評価に関
HAL (Hybrid Assistive Limb) は1991年より筑波大学山海嘉之教授が研究開
発し、サイバニクス(Cybemics) 技術を用いて、人の身体/脳とリアルタイムに情
報を交換して人を支援する生体電位駆動型の装着型ロボットである。HAL下
肢用は装着者が行おうとしている随意運動を、皮膚表面の生体電位などを使
い装着者の随意運動意図にデコードし、必要なモータトルクで歩行や立位な
どの運動パターンに基づいて多関節の動きをアシストすることにより、一連の随
意運動を増強する機能がある。
様々な病態によって起きた随意運動障害の治療としては、神経細胞・線維の
再生医療とシナプスネットワークの再構築治療の両者が必要となるが、シナプ
スネットワークの再構築はきわめて重要である。HALの機能を使ったそのアプ
ローチとして、随意運動障害に対して、実際の多関節運動からなる運動現象と
運動意図を反復連携させることで、人の脳-脊髄-運動神経-筋のシステム
における随意運動ためのシナプスネットワークの再構築が可能になると考えて
いる。
最も重篤な疾患群とも言える、脊髄運動ニューロンより下位が傷害される疾
患群に対する治験をNCY-3001試験として開始した。これらの疾患群では脳や
脊髄の疾患と異なり、運動単位としての皮膚表面の生体電位は低電位でまば
らになるため、随意運動意図をHAL○R 福祉用では十分に計測できない問題が
あった。医療機器モデルであるHAL-HN01はこの問題を解決し、さらに国際的
に通用する医療機器として必要条件を満たす装置として開発された。このため、
脳血管障害、脊髄損傷を始め、幅広い疾患群に利用可能と考えられる。神経
・筋難病に対するHAL-HN01を使った歩行プログラムにより、短期の歩行改善
効果と長期における進行抑制効果を想定した。
NCY-3001試験の対象患者は18才以上の脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎
縮症、下肢症状が緩徐進行性のALS、シャルコー・マリー・トゥース病、遠位型
ミオパチー、先天性ミオパチー、筋ジストロフィー、封入体筋炎および同等なも
のによる歩行不安定症である。HAL-HN01を使った歩行練習プログラムにより、そ
れらの疾患群に対して、短期の歩行改善効果がえられるか、有効性と安全性
を検証するために、「希少性神経・筋難病疾患の進行抑制治療効果を得るた
めの新たな医療機器、生体電位等で随意コントロールされた下肢装着型補助
ロボット(HAL-HN01)に関する医師主導治験-短期効果としての歩行改善効
果に対する無作為化比較対照クロスオーバー治験(NCY-3001試験)、治験調
整医師中島孝」(JMACCT ID:JMA-ⅡA00156) を開始した。治験実施計画届を
2013年1月に提出し、多施設共同治験を開始し、2014年8月に治験を実施した
9病院で予定した合計30症例に対して後観察期・追跡調査を終了した。2014
年12月に治験総括報告書の作成完了見込みである。その結果に基づいて治
験機器提供会社であるCYBERDYNE株式会社より医療機器承認申請が行わ
れる見通しである。
また、2014年9月からHTLV-1 関連脊髄症(HAM) などの痙性対麻痺症にお
ける歩行不安定症に対するHAL-HN01 を使った歩行プログラムによる改善効
果を検証する治験 (NCY-2001試験) を開始する予定である。この対象患者の
中で、その他の層として、外傷性脊髄損傷により痙性対麻庫を呈するASIA D
群が含まれており、HAM層と同様な有効性があるかを検証する予定である。
する研究
4
lecture-4.
田島
文博
徹底した集中リハの必要性
和歌山県立医科大学
—高負荷・高強度・長時間
リハビリテーション医学講座 教授
〔たじま ふみひろ〕
昭和59年 産業医科大学医学部医卒業
平成 2年 同 大学院博士課程卒業/医学
博士・リハビリテーション科専門医
平成4年 ニューヨ—ク州立大学バッファロー
校医学部/リハビリテーション科Buswell fellow
(Assistant Professor)
平成 6年 産業医科大学リハビリテーション
医学教室講師に復帰
平成12年 浜松医科大学医学部附属病院
リハビリテーション部助教授
平成15年 和歌山県立医科大学リハビリテ
ーション医学教授
平成20年 和歌山県立医科大学スポーツ・
温泉医学研究所所長 併任
平成21年 文部科学省先端科学研究所指
定/和歌山県立医科大学げんき開発研究所
所長 併任
平成26年 和歌山県立医科大学附属病院
副院長 併任/文部科学省認定 共同利用・共
同研究拠点/和歌山県立医科大学みらい医
療推進センター センター長 併任
学術活動
日本リハビリテーション医学会評議員・監事
日本脊髄障害医学会理事(第46回学術集
会会長)
日本障害者スポーツ学会常任理事
日本体力医学会評議員(第70回日本体力
医学会会長)
脊髄損傷における再生医療が現実のものになろうとしている。おそらく、iPS
細胞等を駆使し、十分な基礎研究に基づき、臨床応用すれば神経の再生は
可能であろう。しかし、リハビリテーション医学の専門家としては、その再生した
神経にいかに機能を持たせるかが非常に大きな課題であると強調したい。
神経機能再建目的治療は30年以上前から取り組まれている。例えば、わたく
しの恩師の一人である前浜松医科大学整形外科教授長野昭先生が取り組ま
れていた腕神経叢損傷患者に対する肋間神経移行術はその代表例である。
また、人工内耳手術も工学を応用した再生医療という意味では確立された治
療法といえる。両者に共通なことは、手術に成功した上で術後のリハが成否を
左右することである。まず、機能再建を目的としたリハの実態についてご紹介
する。
脊髄損傷における神経再生では、元通りの神経連絡になることは確率的に
ありえないであろう。したがって、遠心性の運動神経活動が誘発できる脳の部
位を特定し、そこからの遠心性信号を自由にコントロールできるように学習す
る。そして、実用的な下肢運動に繋げていくように努める。これらを応用し、大
阪大学医学部脳神経外科で自家嗅粘膜移植による損傷脊髄機能再生法を
施行された脊髄損傷完全対麻痺者にリハを施行した。まず、筋電図バイオ
フィードバック法による随意筋放電の検索を行う。麻痺域で誘発された随意筋
収縮の強化と実用化のため、装具等を用いた歩行訓練と上肢筋力強化、温泉
療法等を組み合わせ、高負荷・高頻度で訓練する。運動により誘発される脳由
来神経活性因子の分泌増加も期待し、できるだけ長時間の運動を行う。このよ
うな訓練を1年以上施行した結果、腸腰筋や大腿四頭筋に随意筋放電誘発が
可能となった。訓練を繰り返し、股関節屈曲と膝関節伸展の随意運動が認めら
れた。
ただし、自家嗅粘膜移植は、最近、移植した粘膜組織が脊髄内でmassとして
生育した例が報告されているので、注意する必要があることを強調しておきた
い。
脊髄神経再生医療でも、再生した神経を実用化する成否はリハにかかって
いると言える。当症例に対するリハは現在も進行中ではあるが、一定の効果を
認めており、神経再生術後のリハ発展の一助になれればと考えている。
専門
リハビリテーション一般(超急性期リハと僻
地医療におけるリハ)
研究分野は高齢者、脳血管障害、脊髄損
傷のリハビリテーション、温泉医学。
特に障害者スポーツの普及発展に努めて
いる。
社会的活動
財団法人日本障害者スポーツ連盟医学委
員会副委員長。同メディカルチェック委員会
委員長。
5
パネリスト
司 会
山本ミッシェール
中村 雅也
フリーアナウンサー
慶應義塾大学医学部
整形外科学教室准教授
〔Michelle Yamamoto〕
〔なかむら まさや〕
昭和 62年3月 慶應義塾大学医学部卒業
平成10年1月 米国ジョージタウン大学へ
脊髄損傷に対する神経幹細胞移植の研究
のため留学
平成12年10月 慶應義塾大学医学部助手
平成16年 4月 同大学医学部専任講師
平成19年 4月 京都大学再生医科学研究
所非常勤講師
平成24年6月 慶應義塾大学医学部准教授
現在に至る
筑波大学比較文化学類 比較文学科 卒
所属学術団体等
Society for Neuroscience, International Spinal
cord Society
日本整形外科学会(代議員、移植再生委
員会委員長)/日本脊髄障害医学会(脊髄
再生医療委員会委員長)/日本脊椎脊髄病
学会(評議員)/日本再生医 療学会(評議
員)/日本運動器疼痛学会(理事)/東日本
整形外科災害外科学会(評議員)/日本運
動器移植・再生医学研究会(幹事)
NHK記者時代 京都放送局
「おはよう日本」リポート・京都府警担当、
京都温暖化防止会議C0P3取材
元、NHK京都放送局記者
現、NHK国際放送局アナウンサー
現、桜美林大学 非常勤講師
パフォーマンス教育協会
認定インストラクター
SPIS公認ピア・パフォーマンス
カウンセラー、
エグゼクティブ・コーチ
NHK国際放送局英語ニュース
アナウンサー
平成17年よりNHK WORLD TV、
NHK RADIO JAPAN 配属
現在出演中の番組
NHK WORLD TV :「Science View」
NHK RADIO JAPAN:「英語ニュース」、
「Japan Hit Tunes」、「Music Journey」、
「The Reading Room」、「Easy Japanese」、
「Japanese Pop Culture Magazine」
専門領域
臨床:脊椎・脊髄外科
研究:脊髄再生、神経幹細胞、神経栄養因
子、ニューロイメージング
認定医・専門医
日本整形外科学会認定医/日本脊椎脊
髄病学会指導医/日本整形外科学会認定
脊椎脊髄病医・臨床修練指導医認定医
国際会議など、バイリンガル司会多数
雑誌掲載
「美人計画」(青春出版)コラム「やまとなで
しこの素」連載(2007~2008)
CNN ENGLISH EXPRESS(朝日出版社)コ
ラム 「国際派アナ ミッシェールの英会話
Cafe」
賞罰
慶應義塾大学医学部三四会奨励賞(平成
8年)/Cervical spine research society Basic
science research award(平成16年~20年)/日
本整形外科学会・学会奨励賞(平成18年)/
慶應義塾大学医学部三四会・北島賞(平成
18年)/第一回日本再生医療学会学会賞(臨
床部門)(平成26年)
著書
「『見るだけ30分!!あなたに合った「聞く」
「話す」が自然にできる!』(すばる舎)
6
7
8
9
10
用語解説
【JSCF事務局編】
ASIAスコア:米国脊髄損傷協会(ASIA)が作成した感覚・運動
核移植:あらかじめ核を取り除くか核を不活化した細胞に,別の
機能の評価尺度。各脊髄レベルの神経支配を受ける一つの筋肉
細胞の核を移植する方法。
群に対して0 (完全マヒ)から 5 (最大抵抗時の動作)までのスコアを
幹細胞:自己複製能と様々な細胞に分化する能力(多分化能)
割り当てることにより計算する。ASIA-A;完全麻痺、D;歩行可能
を持つ特殊な細胞で、主に胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、
iPS細胞などが挙げられる。
BBBスケール:慢性脊損の機能回復を評価するためのマウスや
ラットの下肢運動機能評価スコア。21点満点で、20点以下が麻痺
間葉系幹細胞:間葉(カンヨウ)は3つの胚葉から派生した胚内の
発生、シッポが挙げられないと19点、びっこの出現が13点、両下肢
未分化の疎性結合組織の一種で、間葉系幹細胞は骨芽細胞、脂
麻痺が出現すると7点となる。前臨床研究で機能回復レベルの評
肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能
価に用いる。
をもつとされる細胞で、骨や血管、心筋の再構築などの再生医療
への応用が期待されている。
ES細胞 →胚性幹細胞
HGF(hepatocyte growth factor):肝細胞増殖因子。肝細胞の増
機能的電気刺激(FES):脊髄損傷や脳卒中などにより麻痺した
殖因子として阪大で発見され、その後、多種多様な臓器、細胞に
手足の動作を補助・再建する技術。筋を活動させて関節を動かし,
対して非常に強力な再生治癒能力を有することが分かり、国内で
運動を発生させるので,筋力増加や廃用症候群の予防,末梢循
は2014年に脊髄損傷急性期の患者へのフェーズⅠ・Ⅱの臨床試
環系の改善に効果的。
嗅粘膜移植:嗅粘膜は鼻の奥にある粘膜で、中枢神経系で唯一
験が開始された。
神経再生が認められる部位。神経幹細胞や嗅神経鞘細胞が含ま
HTLV-1関連脊髄症(HAM):ヒトT細胞白血病ウイルスに感染し
れており、これを採取し脊髄の損傷部に移植し、脊髄機能の回復
たTリンパ球が脊髄の中に入り込み脊髄障害の症状を呈す。
を促す治療法。
in vitro:インビトロ。試験管内の、という意味のラテン語。試験管や
筋電図バイオフィードバック法:自分の意識の状態を正確に把
培養細胞レベルでの研究に対して使われる。
握してコントロールする方法がバイオフィードバック法。筋肉の動き
In vivo:インビボ。生体内で、の意味のラテン語。ヒトや動物を用
を画像や音に変え、それを目や耳で捉えてマヒした筋肉を動かす
いた研究に対して使われる。
イメージを繰り返すことで、次第に協調した動きが出るようになる。
iPS細胞(induced pluripotent stem cell/人工多能性幹細胞):幹
細胞と同様に増殖して各種の細胞へと分化することが可能な細
グリア細胞:神経系を構成するニューロン以外の細胞の総称。
胞。2006年、山中伸弥らがマウスの体細胞に初期化因子とよばれ
主にアストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびミクログリアの三種に
る数種類の遺伝子を導入することで、初めて作製に成功した。
分類される。
Sema(セマフォリン)3A阻害薬:神経線維の伸長を阻害するセ
グリア瘢痕:中枢神経系の損傷周囲部に形成される高密度の瘢
マフォリン3Aという物質を阻害(物質の活性を低下または消失する
痕組織。軸索伸長を阻害するコンドロイチン硫酸プロテオグリカン
こと)する薬剤。
を含み、軸索再生を妨げる物理的な障害にもなっている。
痙性対麻痺:下肢の痙縮(筋緊張の亢進)を伴う対麻痺。
アストロサイト:中枢神経系に存在するグリア(ニカワ)細胞の1つ。
抗ノゴA抗体:Nogoは脊椎動物の中枢神経細胞に対して軸索伸
アストログリアとも言う。神経系の構築、細胞外液の恒常性維持、血
長の阻害効果をもち、髄鞘(ミエリン)に含まれる軸索損傷後の再
液脳関門の形成などの重要な役割を果たしている。
生を阻害する分子。抗ノゴA抗体はNogoの軸索伸張阻害効果を中
和し、軸索伸張を促進する効果がある。
閾値:イキチ。生体に興奮を引き起こさせるのに必要な最小の刺
コンドロイチン:正式名称はコンドロイチン硫酸で、動物体内に
激の強さの値。
イノシン:ヌクレオチド構造を持つ有機化合物の一種。
みられるグリコサミノグリカンの一種。通常、コアタンパク質と呼ばれ
インタラクティブ・バイオ・フィードバック(iBF)仮説:HALによる神
る核となるタンパク質に共有結合したプロテオグリカンとして存在す
る。
経・筋の可塑性の考え方。中枢から末梢神経・筋へ、あるいは末梢
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG):神経突起伸長阻
神経・筋から中枢へのネットワークが回復し、自分の手足を動かす
害因子。コンドロイチン硫酸がタンパクと結合して作る糖タンパク複
機能の再獲得に至る。
合体で、軟骨などの結合組織を構成する。脊髄損傷後の軸索の伸
エフリン:軸索成長を制御する分子の1つで、軸索伸長を反発す
長および再生を抑制する。
る効果を持つ。レセプターとしてEphファミリーがある。
コンドロイチン分解酵素(コンドロイチナーゼ):脊髄損傷後の軸
オリゴデンドロサイト:神経細胞の1種で、神経軸索に巻き付い
索の伸長および再生を抑制するCSPGを分解する酵素。
て有髄神経を形成したり、神経線維を束ねたりする。
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再生医療実現拠点ネットワークプログラム:科学技術振興機
反応性アストロサイト:アストロサイトは、組織障害においては反
構(JST)が中心になり推進する研究プロジェクト。iPS細胞等を使っ
応性アストロサイトとして線維成分が増加し、やがてグリオーシス(グ
た再生医療・創薬について、世界に先駆けて臨床応用するべく研
リア瘢痕)を形成する。中枢神経の外傷などのさまざまな病態で,
究開発を加速するため、2013年から2022年までの10年間で1,100
アストロサイトは,突起が伸長しかつ細胞体が肥大した反応性アス
億円の公的支援が見込まれている。
トロサイトとよばれる細胞へと変化する。
サイトカイン:細胞から放出され、種々の細胞間情報伝達分子とな
皮質脊髄路:大脳皮質から脊髄にかけて走行する軸索(神経線
る 微量生理活性タンパク質。
維)の大きな束(伝導路)のこと。錐体路(スイタイロ)ともいう。
サイバニクス:筑波大学の山海教授が提唱するサイバネティック
ヒアルロン酸:細胞外マトリックスの骨格分子
ス(動物-機械の制御・通信)・メカトロニクス(機械工学+電気工学)・イ
封入体筋炎:炎症性ミオパチー(筋炎)の3つの主要なグループ
ンフォマティクス(情報処理・情報工学)を統合した概念。
のひとつ。50歳以上の炎症性ミオパチーにおいてはもっとも頻度が
細胞外マトリックス:コラーゲンなど動物細胞の外側にある安定
高い。
な物質で、細胞外基質ともいう。
フェーズI/IIa 臨床試験:フェーズⅠ(第1相試験)は最初の段階
軸索:ジクサク。ニューロンの構成要素で,神経細胞より発する長
の臨床試験で安全性を確認する。フェーズⅡは安全性と有効性、
い突起。末端は分枝して,次のニューロンまたは効果器にシナプス
薬物動態、投与法を確認するもので、早期試験(フェーズ IIa)と後
結合し,神経細胞の興奮を伝導する。
期試験(フェーズ IIb)とに分けて探索的臨床試験、実証臨床試験
シナプス結合:シナプスは神経細胞の接合部。神経と神経、ま
とすることもある。さらにフェーズⅢは実際の使用に近い形で評価
たは神経と筋肉などの器官との連結部分にはシナプス間隙〔カンゲ
検証し、これでOKとなれば臨床治療が可能となる。フェーズⅣは
キ〕というすき間があり、信号伝達物質を介して信号が伝えられる。
市販後試験。
シナプスネットワーク:シナプスを介した神経ネットワーク。
プロテオグリカン:糖とタンパク質の複合体で、糖タンパク質の一
神経可塑性:神経系は外界の刺激などによって常に機能的、構
種。もっとも重要な生体成分であり、体全体の組織中の細胞外マト
造的な変化を起こしており、この性質を一般に“可塑性"と呼ぶ。
リックスや細胞表面、関節軟骨の主成分としても存在している。
神経系マーカー:神経系細胞に特異的に発現するタンパク質。
ミエリン化:神経細胞の軸索を包む円筒状の層(髄鞘〔ズイショウ〕、
例 と し て、神 経 系 幹 細 胞 に 発 現 す る タ ン パ ク 質 で あ る nestin、
ミエリン鞘)が形成されること。
musashi、NotchI受容体などを組み合わせることで神経系幹細胞を
同定できる。特に細胞表面に発現するマーカー(表面マーカーと
ミエリン鞘:髄鞘(ズイショウ/ミエリン・シート)ともいう。ニューロンの
呼ばれる)が重要な理由は、複数種類の細胞が混ざった集団から
軸索の周りに存在する絶縁性のリン脂質の層。神経パルスの電導
そのマーカータンパク質を発現する細胞のみを生きたまま選別し、
を高速にする。グリア細胞の一種で、末梢神経の髄鞘を形成する
純度を上げることができるからである。
シュワン細胞と中枢神経系の髄鞘を形成するオリゴデンドロサイト
から成っている。
人工多能性幹細胞 → iPS細胞
ミエリン関連糖タンパク質(MAG):神経突起伸張を阻害する多
錘体路傷害:脳の運動野から脊髄の運動ニューロンに至る伝導
量のミエリンタンパク質で、髄鞘構成糖タンパク質ともいう。
路の障害。運動神経線維(ニューロン)の遠心性経路で延髄の錐
ミエリン形成不全症:遺伝子変異などが原因で最初からミエリ
体を通る随意運動の指令を伝える経路のことを錐体路(スイタイロ)と
ン(髄鞘)形成が不完全になるもので、白質ジストロフィーなど。
いう。脊髄損傷やHAM(HTLV-1関連脊髄症)による痙性対麻痺症
など。
ランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験:ランダム化比較試
セマフォリン:神経細胞の軸索を伸ばす方向を決めるタンパク質。
線維芽細胞:皮膚の機能を保つ上で最も重要な細胞。揖傷が加
験(RCT)は対象を無作為に選び、介入(薬・検査・看護など)を行う
わると揖傷部に遊走し,コラーゲンなどの細胞外マトリックスの産生
グループ(実験群)と介入を行わない群(対照群)にわけ、評価を行
を始める結合組織の固有細胞。
う方法。プラセボ法は、医者にも患者にもどちらが、薬効のある薬か
わからないようにして、治験を進める方法。「二重盲検」とは、各被
験者に割り付けられた治療を、 被験者及び治験実施医師だけで
ニューロン:神経細胞で、その機能は情報処理と情報伝達に特
なく、治験依頼者、 被験者の治療や臨床評価に関係する治験実
化している。細胞体とその突起(軸索)からなる。
施医師のスタッフも知らないことを意味する。
肋間神経移行術:腕を動かす末梢神経を繋ぎ、肘関節の屈曲
胚性幹細胞:ES細胞(万能細胞)。動物の発生初期段階である胚
機能を再建する。■
盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞株。ほ
ぼ全ての組織に分化する分化多能性を持ち、ほぼ無限に増殖さ
せることができる。
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