Comments
Description
Transcript
食思不振、全身倦怠感を主訴に救急搬送された56
症例検討会 瀬戸内徳洲会病院 指導医 朴澤憲和 2年次研修医 下山京一郎 全身倦怠感、食思不振を主訴に 搬送された56歳男性 症例:56歳 男性 主訴:全身倦怠感 食思不振 現病歴:来院4日前より全身倦怠感、 食思不振が出現し我慢できなくなった為 平成27年9月1日救急搬送となった。 既往歴:統合失調症 アルコール性精神病 内服:炭酸リチウム レボトミン ロシゾピロン タスモリン エバミール テグレトール ベンザリン 生活歴:10年間禁酒 喫煙1日1箱20年 インスタント中心で1日1食が多かった。 職歴:建築関係 家族歴:精神病、癌の家族歴なし ROS 陽性: 食欲不振 全身倦怠感 体重減少 陰性: 悪寒戦慄、咳嗽、嘔吐、発作性夜間呼吸 困難、心窩部痛 吐血、黒色便、筋力低下、 夜間頻尿、異味症 身体所見① 身長:172cm 体重:57.7kg general slightly sick 意識:清明 血圧:122/68mmHg HR:77回/min RR:15回/min SpO2:100%(RA) 体温 36.7℃ 身体所見② ・頭頚部:年齢不相応な白髪あり 眼瞼結膜蒼白 眼球結膜黄 染なし 口腔内粘膜蒼白 舌乾燥なし 舌炎様所見なし 口腔内 環境はやや汚い 頚部リンパ節触知せず 甲状腺の腫大や圧痛 はなし コマ音聴取なし 頚静脈怒張なし 冷や汗なし ・胸部:肺雑音なし 呼吸音左右差なし S1→S2→S3(-)S4(-) 心雑音なし 心尖部拍動の拡大なし ・腹部:平坦で軟 圧痛なし 季肋部巧打痛なし CVA tenderness陰性 腸蠕動音正常 肝脾腫なし 腹壁の静脈怒張 なし 直腸診:明らかな腫瘤触れず、便塊触れず ・四肢:明らかな発赤なし、皮疹なし 爪の変化なし 浮腫なし 末梢冷感なし ・神経学的所見:脳神経に明らかな異常を認めない MMTの低 下なし 感覚障害なし 下肢振動覚の低下なし 異常反射なし 検査所見① 血液検査所見 検査所見② 生理検査所見 ECG:同調律 正常範囲内 心エコー:no asynergy EF 66% 腹部エコー:特記すべき所見なし 検査所見② 画像検査所見 ・胸部Xp ・CT ・内視鏡 経過① 入院後RCC輸血とVB12にて治療開始。 第4病日、RCC8単位でHb6.8まで回復。 第5病日、VB12 192pg/ml 葉酸 1.5ng/ml →葉酸補充開始 第7病日、RCC12単位でHb10.5まで回復 経過② 第8病日、抗胃壁抗体陰性 第15病日骨髄穿刺結果判明 過分葉好中球、巨赤芽球を認めた。 現在内因子抗体検査中 診断 葉酸、VB12欠乏による巨赤芽球性貧血 経過③ Fe剤投与継続とし全身状態は安定。 連休明けまでゆっくりと過ごされ、 第24病日退院予定。 巨赤芽球性貧血① ・病態 DNA合成障害により巨核大細胞が生じ 全血球で成熟障害をきたす。故にFeの利用 障害が生じFe増加、汎血球減少が生じる。 ・原因 VB12、葉酸欠乏が殆ど。その他薬剤性等 巨赤芽球性貧血② ・症状 下痢 体重減少 抑うつ 認知症 便秘 ・身体所見 白髪の増加 舌炎 運動失調 前頭筋の 萎縮 色素沈着 巨赤芽球性貧血③ ・検査所見 MCVの上昇,汎血球減少,VB12,葉酸低値 抗内因子,抗胃壁抗体陽性,過分葉好中球 巨赤芽球出現,LDH,間接Bil上昇、Fe上昇 巨赤芽球性貧血③〜神経所見〜 神経障害 VB12欠乏 葉酸欠乏 正常 32% 35% 認知障害 26% 27% 情動障害 20% 56% 亞急性連合性脊髄変性症 16% 0% 末梢神経障害 40% 18% (1)Lancet Neurol 2006;5:949-60 多彩な神経症所が出現するが 出現しないものも多い。 巨赤芽球性貧血④ ・治療 VB12,葉酸の補充 食生活の改善 禁酒 薬剤の中止等原因に合わせた治療を行う。 考察 今症例では乱れた食生活+テグレトール等 の副作用による葉酸欠乏+VB12欠乏が 貧血の原因と考えられた。 栄養状態悪化に伴う巨赤芽球性貧血は 葉酸欠乏とVB12欠乏を合併する率が高い とあり、今症例でも双方の欠乏がみられた。 結語 MCVの著明な増大を示さず、神経症状も ない葉酸欠乏とVB12欠乏を合併した貧血 を経験した。 VB12,葉酸欠乏状態でも貧血をきたさない 事もあるので、高齢者等で前述の神経障害 が出現した場合はVB12,葉酸の評価を 行っても良いかもしれない。 参考文献 ・up-to-date megaloblastic anemia ・ハリソン内科学 巨赤芽球性貧血 ・(1)Lancet Neurol 2006;5:949-60 ・Indian J Pathol Microbiol ・Am J Med 1994;96:239-4 2000;43:325-9