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新薬承認にみる薬事上の特別措置

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新薬承認にみる薬事上の特別措置
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2014年11月号 No.164
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政策研のページ
新薬承認にみる薬事上の特別措置
アメリカFDAが公表している「FY 2012 Innovative Drug Approvals」によると、2012年度に承認された新有効成分含
有医薬品35品目のうち18品目、ほぼ半数の新薬が、Fast Trackなどの特別な措置を受けて承認された新薬でした。
最近、アメリカでは、イノベーティブな新薬の開発の側面支援をさらに充実させるために、Breakthrough Therapy
制度を設けています。こういった薬事上の特別措置は、重要なニーズに対する新薬開発を促す施策として、ヨーロッパ、
日本でも同様に設けられており、その基本的な考え方は各地域で類似しているものの、適用基準、措置内容などを比
較すると必ずしも同じであるとはいえません。たとえば、希少疾病用医薬品(オーファン、Orphan)制度はいずれの地
域でも同様の名称およびコンセプトで制定されていますが、その適用範囲、措置内容は地域によって異なっています。
今回、最近承認された新薬のうち、薬事上の特別措置を受けたものについて、その状況を調査しました。
対象とした特別措置および調査方法
今回の調査で対象とした薬事上の特別措置一覧を表1に示します。
調査対象期間としては、2011年から2013年(日本については2011年度から2013年度)までの3年間としました。調査は、
適応症追加を含む各新薬承認のApproval Letter(アメリカ)、European Public Assessment Report(EPAR:ヨーロッパ)、
審査報告書(日本)の記載事項から確認し、一部これらの報告書で記載のない措置については、規制当局の年次報告、HP
上で公表している一覧、企業のニュースリリース等により補足しました。
表1 アメリカ・ヨーロッパ・日本の薬事上の特別措置[1]
アメリカ
ヨーロッパ
日本
Orphan
Fast Track
Breakthrough Therapy
Accelerated Approval
Priority Review
Orphan
Conditional Approval
Exceptional Circumstances
Accelerated Assessment
希少疾病用医薬品(オーファン)
優先審査
事前評価済公知申請
迅速審査
[1]アメリカ・ヨーロッパ・日本の各特別措置の解説は、政策研ニュースNo.42「Keyword」の記載を参照してください。
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直近3年間の特別措置対象承認数の推移
地域ごとの特別措置承認数の推移を表2∼4に、新薬承認数に対する特別措置承認の比率を図1∼3に示します。
これらの結果、特別措置を受けていた承認の割合が、ヨーロッパでは2∼3割程度とやや低いものの、アメリカおよび日
本ではおおむね3∼4割程度でした。日本では、2013年度に特殊措置の割合が2011、2012年度に比べやや低下しています
が、2011、2012年度承認に事前評価済公知申請が多く、これが一時的な特殊要因[2]
となり、全体に影響を及ぼしている
ものと考えられました。
ただし、各地域で特別措置指定に対する考え方が異なり、地域間で対象品目数あるいは比率を単純に比較することはで
きないと考えられます。たとえば日本において、希少疾病用医薬品(オーファン)に指定されると自動的に優先審査の、また、
事前評価済公知申請に指定されると自動的に迅速審査の対象品目となりますが、アメリカおよびヨーロッパでは、オーファ
ンに指定されても迅速審査が自動的に受けられるわけではありません。また、新有効成分含有医薬品以外の新薬について
は、各地域での薬事制度の違いから抽出された新薬の定義が微妙に異なることも結果を解釈するうえにおいて留意する必
要があります。
特別措置
表2 アメリカFDAでの特別措置承認数の推移
2011
17
特別措置承認数 注)
9
Orphan
9
Fast Track
‐
Breakthrough Therapy
2
Accelerated Approval
13
Priority Review
53
新薬承認数
2012
27
17
14
5
16
68
2013
21
13
10
2
2
12
61
2012
14
10
4
1
2
39
2013
14
7
2
4
5
60
FY2012
55
21
26
27
29
132
FY2013
36
15
24
11
12
129
‐
注)
「特別措置承認数」
とは、
特別措置を少なくとも1つ受けた承認数、
以下同様。
表3 ヨーロッパEMAでの特別措置承認数の推移
特別措置
特別措置承認数
Orphan
Conditional Approval
Exceptional Circumstances
Accelerated Assessment
新薬承認数
2011
10
5
2
2
4
48
表4 日本PMDAでの特別措置承認数の推移
特別措置
特別措置承認数
オーファン
優先審査
事前評価済公知申請
迅速審査
新薬承認数
FY2011
54
12
18
24
36
131
[2]事前評価済公知申請における迅速審査の扱いは、2010年9月に通知されており、本制度の元となった「医療上の必要性の高い未承認薬・適用外薬検討会議」
も2010年2月に初回が開催されていることから、制度開始にあたり、対象品目の多くが2011年度および2012年度に一挙に承認されたという特殊要因があ
りました。
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図1 アメリカFDAでの新薬承認数に対する比率
[%]
40
30
20
10
0
当
かに該
いずれ
Priority
Review
rack
First T
Orphan
roval
rough
BreakthTherapy
ted App
a
Acceler
2011 (53)
2012 (68)
2013 (61)
図2 ヨーロッパEMAでの新薬総承認数に対する比率
[%]
40
30
20
10
0
当
かに該
いずれ
Orphan
onal C.
Excepti
nal A.
Conditio
ated A.
Acceler
2011 (48)
2012 (39)
2013 (60)
図3 日本PMDAでの新薬総承認数に対する比率
[%]
40
30
20
10
0
当
かに該
いずれ
査
迅速審
事前評
価済
請
公知申
査
優先審
JPMA NEWS LETTER 2014 No. 164 政策研のページ 新薬承認にみる薬事上の特別措置
ン
オーファ
2011 (131)
2012 (132)
2013 (129)
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特別措置品目の審査期間
対象となった品目の申請から承認までの期間を調査した結果を表5∼7に示します。
なお、アメリカ・ヨーロッパの審査当局から公表される審査期間は、独自の算定基準を設けており、特に、算定の開始日
の定義が異なり、同一条件で比較ができないため、今回の調査では申請者側からの提出日
(申請日)を算定開始日とする単
純な算定方法を採用しました[3]。
表5 アメリカFDAの審査期間(days)
特別措置承認
特別措置
Orphan
Fast Track
Breakthrough Therapy
Accelerated Approval
Priority Review
新薬承認
2011 年
371 (184)
482
404
569
313
553 (395)
2012 年
456 (290)
489
441
202
376
477 (306)
2013 年
279 (242)
324
234
190
221
198
464 (306)
2011
434 (441)
478
490
539
345
447 (451)
2012
563 (540)
604
510
1037
290
504 (484)
2013
538 (499)
662
599
837
317
502 (483)
FY2011
241 (210)
283
282
188
220
325 (305)
FY2012
231 (184)
344
318
147
143
282 (277)
FY2013
235 (218)
243
272
153
158
312 (319)
注)数値は平均値、ただしカッコ内は中央値を示す。表6、7も同様。
表6 ヨーロッパEMAの審査期間(days)
特別措置
特別措置承認
Orphan
Conditional Approval
Exceptional Circumstances
Accelerated Assessment
新薬承認
表7 日本PMDAの審査期間(days)
特別措置
特別措置承認
オーファン
優先審査
事前評価済公知申請
迅速審査
新薬承認
アメリカでは、すべての新薬承認に対し、いずれかの措置を受けた場合は、平均値、中央値のいずれも審査期間の短縮
がみられました。この傾向は日本でも同様であり、いずれかの措置を受けた場合、おおむね2∼3ヵ月程度、審査期間が短
縮されていました。一方、ヨーロッパでは、何らかの特別措置を受けた場合であっても、ほとんど短縮はみられず、むしろ
2012年、2013年はともに、措置を受けた場合は、すべての新薬承認よりも審査期間が長いという傾向がみられました。こ
のことから、アメリカおよび日本では、特別措置が審査期間短縮に対して貢献していると考えられますが、ヨーロッパでは、
特別措置が審査期間短縮にほとんど貢献しないと考えられました。
さらに、日本における審査期間は、特別措置を受けた場合で6∼8ヵ月、全体であっても、9∼11ヵ月程度であり、特別措
[3]今回の調査では、審査期間の算定に、申請者側の提出日から承認までの、より単純な算定方法としました。一方、アメリカ・ヨーロッパの当局が一般に公
表している審査期間は、異なる考え方で算定されています。たとえば、FDAでは、最初の審査(First Cycle)で承認が得られず、追加情報などで審査を再
開する
(2回目であればSecond Cycle)
ことがあり、その際、Second Cycleの開始であるComplete Response Letterの提出日が、算定上の開始日とされます。
このため、FDAから発表されている審査期間は今回の調査よりも短く算定されている傾向にあります。また、アメリカもヨーロッパも、申請提出日と受付日
で通常ずれが生じており、当局による審査期間算定の開始日としては、審査当局の受付日
(ヨーロッパは資料のバリデーションが終了し正式に受け付けた
日を使用しており、本調査のように、申請者側の提出日は採用されていません。
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置の有無にかかわらず、アメリカ・ヨーロッパに比べて短く、直近の状況では、PMDAによる審査の効率化が進み、日本の
審査はアメリカ・ヨーロッパよりもむしろ短くなっている傾向がありました。
おわりに
各地域の特別措置は、それぞれの社会背景や審査制度の違いなどから、適用範囲も、適用基準も異なった独自の施策と
なっています。さらに、それぞれの地域においても、種々多様な特別措置を設けており、これらの措置を一概に論じること
はできません。しかしながら、今回の調査において、一定の割合の新薬の承認が何らかの特別措置を受けていたことを考
えると、特別措置はもはや特殊な状況下での開発・申請だとは考えにくいと思われます。むしろ、各国の薬事上の特別措置
を十分に理解したうえで、開発初期から常に、どのような措置に該当させるかを明確にして、該当条件を満たす、あるいは
認定に有用なデータを優先して取るなど、開発戦略に組み入れることが重要になってくると考えられます。さらに、このよう
な戦略に沿った初期のデータを評価することが、グローバルでの開発意義やGo/No Goを見極める重要な要素になり得ると
考えられます。
(医薬産業政策研究所 首席研究員 小林 和道)
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