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(寄生パチ共生ウイルス (〝ポリ ドナウイルス) に関する研究)

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(寄生パチ共生ウイルス (〝ポリ ドナウイルス) に関する研究)
博士(地球環境科学)田中康次郎
学位論文題名
Studieson symbiontvir
usofendopar
asitoidwasp
( 寄 生 /ヾ チ 共 生 ウ イ ル ス ( ポ リ ド ナ ウ イ ル ス ) に 関 す る 研 究 )
ユ
学 位論文内容の要旨
寄 生 パ チ の 一 種 で あ る カ リ ヤ コ マ ユ パ チ ( Cot:esia kariyai) は ア ワ ヨ ト ウ
( Pseudaヱ eと ia separata)の 幼 虫を宿 主とする 。雌バチ によルポ リドナウ イルス・毒
液と 共にアワ ヨトウ幼虫 体内に産 下された 卵は、翌 日には孵 化し宿主体内で幼虫発育を完
了 し 11日 後に 体 外 に脱 出 する 。 さ らに 、 6日 間の 蛹 期 を経 て 成 虫とな り再び宿 主アワヨ
トウ 幼虫を求 めて活動す る。この 一連の生 活史の中 で、共生 ウイルスであるポリドナウイ
ルス はカリヤ コマユパチ が寄生を 成功させ るために 必要不可 欠な働きを担っている。ポリ
ドナ ウイルス はカリヤコ マユバチ の卵・幼 虫が宿主 アワヨト ウ幼虫の生体内で生存し続け
るた めに、そ の生体防御 反応の回 避や生理 状態のコ ントロー ル等様々な現象に関与してい
るが 明らかに されている 。
本研 究ではこ のポリドナ ウイルス のエンベ ロープタ ンバク質 の一種である免疫回避夕ン
パ ク 質( エ EP; immunoevasiveprotein)が 、 宿 主ア ワ ヨト ウ 幼 虫の血球 細胞によ る包
囲化 作用を回 避するタン バク質で あること を証明し た。さら に、免疫回避夕ンバク質の一
次構 造の決定 、遺伝子の 所在や発 現様式等 について 詳細に調 べた。また、このエンベロー
プタ ンパク質 とポリドナ ウイルス のキャプ シドタン バク質と の発現様式の違いについても
明ら かにした 。そして、 カルヤコ マユバチ の卵巣内 における ポリドナウイルスの存在とそ
の ゲ ノム DNA合成 の 時 間経 過 を明 確 に 解析 し た。 こ れ ら一 連 の 研究に より、カ リヤコマ
ユバ チとその 共生ウイル ス・ポリ ドナウイ ルスの関 係を理解 する上で重要な知見が得られ
た 。 具体 的 には 、 雌 パチ 卵 巣部 の cDNAライ ブラリー からェEPcDNAク ローン(エ EP−1)
とェ EPのホモロ グ(エEP一2) を単離す るのに成功した。これらのクローンのシークエンス
の 結 果 、 工EP− 1と 工EP−2はそ れ ぞ れ全 長 1088、1050 base pairsで 、codingregion
の 長 さ は 278、 272ア ミノ 酸 残基 で あ った 。 推定 さ れ る一 次 構造 上 で はど ち ら もシ ス テ
イ ン 残基 が 全体 の 10% に も及 ぶ シ ステイ ンルッチ なタンパ ク質であっ た。また 、それぞ
れ 5つ の EGF様 モ チ ー フ の 繰 り 返 し と 3つ の N− glycosilation siteが 見 い だ さ れ
た 。 Western blotと Northern blot解 析 の 結 果 、 産 生 さ れ た ェ EP夕 ン バ ク 質 は 雌
バ チ 卵巣 部 にお い て 見ら れ 、そ の mRNAの発 現は卵巣 部の側輸 卵管細胞に 限定され ている
こ と を ユ nsiとuhybridizationを行 う こ とに よ って 明 ら かに し た。 GenomicSouthern
blot解 析の 結 果 では 、 工 EP遺 伝子 は 寄生バチ の染色体 上にのみ コードされ ているこ とを
示 し た。 エ EPと ポ リド ナ ウイ ル ス キャプ シドタン パク質の それぞれに 対する抗 体を用い
て免 疫組織染 色を行いそ れらの発 現様式を 比較した ところ、 キャプシドタンパク質はポリ
ド ナ ウイ ル スが 産 生 され る カリ ッ クス 細胞を含 む側輸卵 管中に、工 EPはカリッ クス細胞
以外の側輸卵管中にシグナルが検出された。また、蛹時期での雌バチ卵巣カリックス細胞
におけるポリドナウイルスゲノムDNAの合成をチミジンの取り込みにより、キャプシド
タンパク質の発現、エEPの発現をWestern blot解析により比較したところ、これらの
問には時間的な隔たりが見られた。すなわち、蛹化1日後にポリドナウイルスのゲノムDNA
合成が開始され、2日後にキャプシドタンパク質の合成が、さらに、3日後にェEPの合
成 が 開 始 さ れ る こ と に よっ て ウ イ ル ス 粒 子 が 形 成 され る こ と を 明 らか にし た。
以上の実験結果から、エEP遺伝子は元々寄生バチ・カリヤコマユバチのゲノムにコー
ドされる遺伝子であり、ポリドナウイルスはこの遺伝子産物エEPをエンベ口ープタンバ
ク質として表面にまとうことによって宿主アワヨトウ幼虫の血球細胞による免疫反応を回
避しているものと結論付けられた。これは、共生関係を長期間維持する過程で元々宿主で
ある寄生バチの遺伝子産物をポリドナウイルスが自らの構造夕ンパク質として利用し始め
た可能性を示すものであり、寄生パチとポルドナウイルスの共生進化を考える上で重要な
知見と考えられる。
学 位論文審査の要旨
主査 教 授 芦田 正明
副査 教 授 東 正剛
副査 助教授 早川洋一
学位論文題 名
Studies on symbiont virus of endoparasitoid wasp
( 寄 生 バ チ 共 生 ウイ ル ス (ポ リ ドナ ウ イ ルス ) に関 す る 研究 )
寄 生 バ チ の 一 種 で あ る カ リ ヤ コ マ ユ バ チ ( Cotesia kariyai) は ア ワ ヨ ト ウ
( Pseudaヱ etiaseparata)の幼 虫 を宿 主 と する 。 寄生 の 際 、雌 バ チは 卵 と 共に ポ リ ド
ナ ウ イル ス・毒 液を宿主 アワヨト ウ幼虫体 内に注入 する。宿 主体内に入 った卵は 2日後に
は 孵 化し 宿 主体 内 で 幼虫 発 育を 完 了 し11日 後に 体 外に 脱 出 する 。 さらに 、6日問の 蛹期
を経 て成虫と なり再び 宿主アワヨ トウ幼虫 を求めて 活動する 。この一連の生活史の中で、
共生 ウイルス であるポ リドナウイ ルスはカ リヤコマ ユパチが 寄生を成功させるために必要
不可 欠な働き を担って いる。ポリ ドナウイ ルスは、 カリヤコ マユパチの卵・幼虫が宿主ア
ワヨ トウ幼虫 の生体内 で生存し続 けるため に、宿主 の生体防 御反応の撹乱や宿主幼虫発育
の制 御など様 々な現象 に関与して いるが報 告されて いる。本 研究はこのカリヤコマユバチ
のポ リドナウ イルスに ついて生化 学的・分 子生物学 的解析を 通してその役割や進化的背景
を明 らかにす ることを 目的とした ものであり、申請論文は全部で3章より構成されている。
第1章で は、ポリ ドナウイ ルスのエ ンベロー プタンパ ク質の一 種である免 疫回避夕 ンバ
ク 質 ( IEP, immunoevasive protein)が 、 宿 主ア ワ ヨト ウ 幼 虫の 血 球細 胞 に よる 包 囲
化 作 用を 回 避す る 活 性を 有 する タ ン バク質 である確 証を提示 した。さら に、エEPの cDNA
の単 離を通し て一次構造の決定、遺伝子の所在や発現様式等について詳細に調べた。また、
こ の ェEPとポ リ ド ナウ イ ル スの キ ャプ シドタ ンパク質 との発現 部位の違い について も明
らか にした。 具体的に は、キャプ シドタン バク質は ポリドナ ウイルスが産生されるカリッ
ク ス 細胞 を 含む 側 輪 卵管 中 に、 エ EPは カルッ クス細胞 以外の側 輸卵管中に 存在し異 なる
部 位 での 合成が 示唆され た。続く 第2章では 、カリヤ コマユパ チの卵巣内 カリック ス細胞
に お ける ポ リド ナ ウ イル ス の存 在 を 証明 し 、 さら に 、ゲ ノ ム DNA、 キャプ シドタン バク
質 、 IEPの 合 成 の時 間 経過 を 正 確に 解 析 した 。 ウイ ル ス ゲノ ム DNAの 合 成 をチ ミ ジン の
取 り 込 み に よ り 、 キ ャ プ シ ド タ ン パ ク 質 の発 現 、 IEPの 発 現を Westernblot解 析 によ
り 比 較し たとこ ろ、これ らの間に は時間的 な隔たり が見られ た。すなわ ち、蛹化 1日後に
ポ リ ド ナ ウ イ ルス の ゲノ ム DNA合成 が 開 始さ れ 、2日後 に キ ャプ シ ドタ ン バ ク質 の 合成
が 、 さ ら に 、 3日 後に IEPの合 成 が 開始 さ れる こ と によ っ て ウイ ル ス粒 子 が 形成 さ れる
こ と を明 ら かに し た 。こ れ ら一 連 の 実験 結 果 でも IEPと他 の ウ イル ス構成 成分との 違い
を明 らかにし 、カリヤ コマユパチ とその共 生ウイル ス・ポリ ドナウイルスの関係を理解す
る 上で 重要な知 見を得た 。第3章で は、ポリド ナウイル スの培養 細胞とア ワヨトウ 幼虫血
球 細胞 へ の 感染 に つい て 解 析し 、 この 結 果 から IEPが ウイ ル ス感 染時に直 接関与す る可
能 性の 無いこと を証明し た。また 、培養細胞 で発現す る3種類の ウイルス 遺伝子を 同定、
構造決 定し、こ れらの遺 伝子が寄 生された アワヨトウ 幼虫血球 細胞でも発現していること
を明ら かにした 。
以 上 の 実験 結 果か ら 、 エEP遺 伝子は 元々寄生バ チ・カリ ヤコマユ バチのゲ ノムにコ ー
ド され る 遺 伝子 で あり 、 ポ リド ナ ウイルスは この遺伝 子産物エ EPをェンベ ロープタ ンバ
ク質と して表面 にまとう ことによ って宿主 アワヨトウ 幼虫の血 球細胞による免疫反応を回
避して いる可能 性が強く 示唆され た。これ は、共生関 係を長期 間維持する過程で元々宿主
である 寄生バチ の遺伝子 産物をポ リドナウ イルスが自 らの構造 夕ンバク質として利用し始
めた可 能性を示 すもので あり、寄 生バチと ポリドナウ イルスの 共生進化を考える上で重要
な知見 と考えら れる。
審査員 一同は、 これらの 研究成果 を高く評 価し、大学 院課程における取得単位なども併
せ、申 請者が博士(地球環境科学)の学位を受けるに十分な資質を有するものと判定した。
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