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資料3 セーフティネット・再分配と人的資本に関するこれまで

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資料3 セーフティネット・再分配と人的資本に関するこれまで
資料3
セーフティネット・再分配と人的資本に関するこれまでの議論の整理と論点
1.問題の所在と背景
(1)問題の所在
○ 「いざなぎ景気」を超える景気回復にもかかわらず、生活保護世帯が依然とし
て増加を続け、安定した職に就いていない低所得者が広範に存在するなど、貧困
層の増加が指摘される。このような層の拡大は、それ自体が社会問題となるだけ
でなく、持続的な経済成長のカギを握る我が国の中長期的な人的資本形成にとっ
てもマイナス。
○
失業の結果スキルの蓄積が困難となったり、低賃金の仕事が高賃金の職へのス
テップアップにつながらない場合には、これらの人々の能力が向上せず、所得格
差が固定化。
○
さらに、親の所得や学歴が子供への教育投資に影響を与えること等を通じて、
世代を超えて格差が継承・固定化するとすれば問題。このように、人生のスター
トラインにおける機会の公平性や社会的流動性が失われることは、次世代におけ
る人的資本の形成(=やる気と能力のある全ての個人が等しくチャンスを与えら
れ、力を発揮すること)を過小にするおそれ。
○
社会保障給付・負担が増加を続け、財政支出増加の最大の要因となっている
中、以上のような問題を放置することは、長期的にさらなる財政負担の増加を
もたらし、マクロ経済にも悪影響を及ぼすおそれ。
○
こうした状況の下、国民の「格差」や「再分配」に対する懸念・関心も高まっ
ており、持続的な経済成長を実現していくと同時に、「効率性(経済成長)」と
「公平性(再分配、セーフティネット)」の新たなバランスづくりが求められて
いる。
(2)背景
○
これらの背景として、1)長期にわたった景気低迷、2)ITに代表される単純労
働節約型の技術進歩、製品・サービス市場のグローバル化によるスキルの価値(対
価)の上昇、3)市場競争の激化、金融・資本市場のグローバル化、ガバナンス構
造の変化に伴う企業行動の変化、4)少子高齢化、単身世帯の増加といった人口動
態の変化、5)従来のセーフティネットの機能低下といった要因が挙げられる。
-1-
○
長期にわたる景気低迷(低成長)の結果、企業は新卒採用を抑制し、さらには
高齢層・中堅層の人員削減を行わざるを得なかった。この結果、就職氷河期世代、
リストラ中高年といった負の遺産。自営業者の中にも売上高減少の結果、所得の
減少や廃業による失業を経験した人が少なくない。特に、就職時期の不況や失業
は、職業経験を通じたスキル向上機会を失わせ、将来にわたり能力形成に悪影響
を持つ危険性。
○
貿易・投資・生産のグローバル化と最近の技術進歩は、スキルの高い労働力に
対する需要を高める一方で低スキル労働力の海外への置換や機械への代替を促
し、スキルの違いによる賃金格差を拡大する傾向を持つ。この結果、既に欧米の
一部では学歴や職種による賃金格差の拡大、中間層の二極分化といった現象が観
察されている。
日本では学歴間賃金格差拡大は顕在化していないが、単純労働や定型的な業務
の非正規化・外部化が拡大しており、若年層を中心として世代内の賃金格差が拡
大する傾向。グローバル化と技術進歩が更に進む中で、今後、中間階層の厚みが
失われていく可能性。
○
いわゆる「日本型雇用慣行」の下、長期雇用、企業内訓練、企業内福祉は労働
者にとって事実上のセーフティネットとして機能した。また、企業は売上高の変
動等のショックを利益変動で吸収し、賃金に変動を及ぼさないという形で、結果
として生活を保障する機能を提供してきた。さらに、年功賃金制は、家族手当等
の諸手当とともに個人のライフサイクルの中で必要な時期に賃金の支払いを行
うことを通じ、企業内の個人間での再分配効果を発揮するとともに、個々の労働
者に高い予測可能性を提供してきた。
しかし、90年代後半以降に生じた正社員を含む大規模な人員削減は、長期雇
用慣行が決して揺るぎないものとは言えないことを示した。また、構造的には、
内外の競争の激化、産業構造変化の加速、製品のライフサイクル短縮化、企業ガ
バナンス構造の変化(資本市場からの投資収益圧力)の結果、企業の売上や収益
の変動の拡大、不採算部門からの迅速な撤退、M&Aの活発化等、日本型雇用慣
行の大前提であった企業自体の永続性・安定性が不確実化。
また、日本型雇用慣行の外にある非正規労働者が増加するとともに、正社員に
あっても年功賃金プロファイルのフラット化や業績連動・成果賃金部分の拡大に
より、企業内での所得保障機能が(失われてはいないものの)低下。
○
家族・親族や地域コミュニティは、ライフサイクルを通じて発生する負担やシ
-2-
ョックに対して、相互扶助や労力の分担を通して、私的なセーフティネットを実
現してきた。具体的には、老親の扶養、失業時の援助、育児の手助け、兄弟間で
の教育等が挙げられる。しかし、核家族化・世帯の小規模化、少子化、都市化等
に伴い、家族や地域のインフォーマルなセーフティネット機能が縮小。
○
高齢化が進む中、もともと若年世帯に比較して経済格差の大きい高齢世帯の増
加、単身世帯の増加は、貧困世帯を増加させる性格を持つ。加えて、少子高齢化
に伴う構造的な社会保障支出圧力の増大は、長期経済低迷による財政状態の悪化
ともあいまって、セーフティネットに対する制約となっている。また、企業又は
家族・親族や地域コミュニティの担っていたセーフティネット力の低下は、公的
なセーフティネットに対する負荷を高める。今後、少子高齢化の一層の進行に伴
い給付はさらに増加の見込み。現役世代の負担増には限界があり、また、政府債
務残高が増加していることに鑑みると、財政負担の大きな社会保障制度を続ける
ことは困難。
○
税・社会保障を通じた所得再分配政策の効果は、90年代を通じて、また、2
000年代に入っても拡大しており、全体としての所得の公平化に一定の貢献。
しかし、このうちの大きな部分は老齢年金給付を通じた現役世代から高齢世代へ
の再分配であり、現役世代内、高齢世代内の再分配は低下。すなわち、所得税の
フラット化、逆進性のある社会保険料負担の増加等により、税や保険料の負担を
通じた再分配機能は低下する傾向。
また、失業期間や生活保護受給が長期に及ぶ人が多くなっており、長期失業や
貧困からの脱出には必ずしも結びついていない。
-3-
2.基本的視点
(1)「格差」への対応の考え方
○ 「格差」の中には、個人の努力の結果によってもたらされるものもあり、その
全てが望ましくないものとして否定されるべきではない。格差是正、セーフティ
ネットといった政策対応を考える際には、1)その社会的な深刻度が高い課題、2)
スキルアップを目指す個人にチャンスが与えられないような場合、一度生じると
不平等の拡大再生産に繋がる場合など、将来の人的資本の形成にとって重大な問
題となりうる課題について、優先して対応する必要があるのではないか。
具体的には、①ジニ係数で計測されるような全体としての格差よりは貧困層の
問題、②機会の公平性や社会的流動性の向上、特に格差の世代を超えた継承の問
題の優先度が高いのではないか。
○
格差の実態については、所得、消費、資産といった様々なとらえ方が可能だが、
年々の所得は変動し、その度合いは人によって異なること、資産の蓄積や取り崩
しがあること等を考慮すると、単年度の所得分配だけに着目するのではなく、生
涯を通じた所得や消費を考慮する必要があるのではないか。また、所得や消費の
格差がどの程度持続的・固定的かに着目することが重要ではないか。
○
格差には経済的な格差だけでなく、教育格差、健康格差といった様々な側面が
ある。豊かな家庭に生まれた人ほど高い教育を受け健康度も高い傾向があるこ
と、教育水準の高い人ほど所得が多く健康度も高いこと、健康な人ほど就労が可
能で生産性・所得水準も高いこといった所得・教育・健康の相互補強的なメカニ
ズムがあることを踏まえると、真のセーフティネットは単なる所得移転ではな
く、教育や医療サービス給付のあり方を含む人的資本全体に遡った対応が必要で
はないか。
○
制度設計に当たっては、人生の各段階でのリスク(例えば、人生前半と人生後
半では、リスクの種類や適当な政策手段が異なる)、個人の生き方の自由度など
に与える影響も考える必要があるのではないか。
○
これから生まれ、これから就労する世代を念頭に置いた長期的な対応と、現に
存在する負の遺産(例えば、就職氷河期世代、リストラを受けた中高年者等)へ
の当面の対策とは区別して考える必要があるのではないか。
○
現在世代と将来世代の間での「世代間格差」の問題は、経済成長や財政の持続
-4-
可能性といったマクロ経済との関係が強く、貧困や機会の公平性といったミクロ
の問題とはさしあたり分けて考えるべきではないか。
(2)持続的な経済成長とイノベーションによる問題解決
○
高めの経済成長は、平均的な所得水準の引き上げを通じて貧困の減少に直接に
寄与する可能性。また、経済成長は、将来世代の所得の上昇、社会保障財政の持
続可能性向上、将来世代への投資(出産、教育等)を可能にすることを通じて世
代間の不公平感を改善。
他方、効率化・生産性向上を通じて経済成長を高めるための改革(規制改革、
WTO・EPA等)を円滑に進めるためにも、人的資本の調整コストに配慮し、
適正なセーフティネットや分配政策を伴うことが必要。
○
マクロ経済の安定は、個人・企業の予測可能性を高め、人的資本投資を促進す
る。逆に大きな景気後退は、第二の「就職氷河期」世代を生むこととなる。した
がって、景気の大きな振幅を生じさせない安定的なマクロ経済運営は、人的資本
投資の観点からも大事。
名目賃金には下方硬直性があるため、デフレは雇用量での調整を強いる傾向。
したがって、再びデフレに陥ることのないような金融政策運営を期待。また、国
内における不安定化リスク要因である政府債務の削減を着実・計画的に行う必
要。これは結果として世代間の公平性にも資する。
○
医療・介護サービスの生産性の向上、セーフティネットに関連する分野でのイ
ノベーションの活用(医療機器・新薬、電子医療記録、介護・福祉ロボット、テ
レワーク等)は、社会全体に恩恵をもたらすものであり、成長戦略の視点だけで
なく、経済成長(効率性)と公平性の両立の視点からも重点的に推進されるべき。
(3)事前予防と事後的なセーフティネット・再分配
○
高いスキルと健康は、所得稼得能力の基礎であり、経済全体の生産性・成長に
プラス寄与するとともに、セーフティネットへの「需要」を減少させる。人的資
本の質のばらつき(スキル格差、健康格差)を縮小することは、機会の公平性を
高め、所得のばらつきも減少させる。
すなわち、人的資本(基礎力、知力、体力)の平均的な質を向上させるととも
に、様々な困難に直面している人の底上げを図り人的資本成長の裾野を広げてい
くことは、いわば「事前のセーフティネット」として機能するのではないか。
○
しかし、持続的な経済成長やイノベーション、事前予防的なセーフティネット
-5-
をもってしても、人生のあらゆるリスクや不運を解消することは不可能であり、
並行して事後的なセーフティネットや再分配政策の再構築を行う必要があるの
ではないか。
○
安定したセーフティネットの確立は、個人・企業が確度の高い将来設計を描く
ことを可能とし、リスクを取ることを容易にする。これは、我が国における将来
に向けた人的投資を促進し、長期的な経済成長にも寄与する。すなわち、事前と
事後のセーフティネットを組み合わせることにより、効率的かつ持続可能な枠組
みの構築を目指す必要があるのではないか。
○
事前予防的なセーフティネットは、経済成長(効率性)と公平性を両立させや
すいが、事後的なセーフティネットや再分配政策においては、しばしば効率性と
公平性の間にトレードオフが存在。この場合、どの程度の公平性を社会が実現す
るのが最善かを技術的に決定することは不可能であり、最終的な判断は国民の選
択。
そのため、トレードオフが存在する政策については、政策の得失(公平性を高
めるために犠牲となる経済成長)や費用対効果をできるだけ定量的に示した上
で、政策の選択肢を国民に提示するべきではないか。
◆関連する論点:公平性を高めるための制度・政策によって、(労働供給、資本
蓄積、税負担等を通じて)どの程度効率性・経済成長が犠牲になるか?
また、
国民はどの程度効率性・経済成長を犠牲にしても公平性を高めたいと考えてい
るか?
○
団塊世代の高齢化、就職氷河期世代での格差の固定化のおそれ、政府債務残高
の増大等の状況を踏まえると、セーフティネットの再構築にはスピード感のある
対応が必要。他方、高齢化のピークは 2050 年頃であり、少なくともそれまでを
視野に長期的視点に立った持続可能な制度設計が必要。
○
セーフティネットや再分配政策を検討する際には、一つ一つの制度・政策毎
に修正を加えていくだけではなく、まずは基本的な考え方を明確化した上で、
政策の費用・効果・副作用等を考慮しつつ、整合的・体系的に改革の方向を考
えることが大事ではないか。同時に、移行措置にも配慮する必要があるのでは
ないか。
-6-
3.対応の方向
(1)人的資本強化による事前予防的なセーフティネットの構築
○
我が国の現実のセーフティネットや再分配制度は、高齢者に偏っている(高齢
者への一律の移転)。高齢者の貧困リスクが高いのは事実だが、人生の前半のシ
ョックは生涯にわたる持続性・累積性を持つことから、早い段階のリスク防止、
ショックの緩和(「人生前半の社会保障」)ほど長期的な効果が大きく、事後的
なセーフィティネットの必要性を低下させる(費用対効果に優れている)のでは
ないか。また、高齢者に偏った政策資源配分を改善するという意味もあるのでは
ないか。
○
教育機会の均等化は世代間の経済的地位の継承を弱める効果を持ちうる。特
に、今後も続く技術や産業構造の変化に対応するためには、具体的な職業スキル
もさることながら新しい技術・技能を習得できるような汎用性・可塑性のある基
礎力(「学ぶ力」)がより重要であり、ライフサイクルの初期における人的資本
格差是正が特に必要ではないか。
また、初期の教育には将来の賃金の向上という私的収益だけでなく、将来の納
税額の増加や公的扶助の必要性の軽減等の社会的利益もある。この点で、就学前
の教育や初中等教育は効率性と公平性のトレードオフが小さい。
このため、人生のスタートラインに当たる出生から義務教育までの期間につい
ては、政府による積極的な関与が必要ではないか。特に、所得等の面で恵まれな
い家庭環境の子供には重点的な支援を行うべきではないか。
◆関連する論点:生まれながらの能力差をどの程度政策的に埋めるべきか、機会
の均等化を超えたアファーマティブな対応をどの程度行うべきか?
逆に、潜
在能力が高いものの貧しい家庭環境のために就学に制約のある子供に対してい
かなる対応をすべきか?
○
高等教育や職業教育においては、競争メカニズムや市場原理の活用、インセン
ティブの付与によって人的資本投資の効率を高めるとともに、就労の初期段階で
のミスマッチのリスクを低減し、学校から就労への移行を円滑にすることが重要
ではないか。他方、高等教育は格差を拡大する可能性もあり、高等教育以前の段
階での支援とのバランスが重要ではないか。
また、仕事に直接関連するスキルに加えて、コミュニケーション能力、実行
力、積極性といった「社会人基礎力」の強化を図ることは、リスクへの対応力
を高める効果を持つのではないか。
-7-
○
若年労働者のスキルアップ(特にスキルの質が低い人の底上げ)は、人的資本
投資の回収期間が長く比較的効率性が高いことに加え、将来の所得水準の向上、
子供世代の初期教育の充実等を通じ、将来にわたって公平性を向上させる効果を
持つ可能性。
特に当面の課題として就職氷河期世代の再訓練は緊急性が高く、政策資源を重
点的に投入すべきではないか。
◆関連する論点:非正規労働者と正規労働者の賃金格差は、スキルの違いに起因
する部分が大きく、純粋の賃金格差は見かけほど大きくない可能性が高い。本
質は非正規労働者のスキル形成の違い(勤続、職種等の寄与)によるのではな
いか?
○
共働きは、世帯単位での所得水準を平準化させるとともに、失業や病気によっ
て貧困に陥るリスクを軽減することから、セーフティネットとしての効果も持
つ。共働きであっても就労と育児を両立できる環境整備が必要ではないか。また、
second earner に高い限界税率を課す効果を持っている諸制度の見直しが必要で
はないか。
◆関連する論点:家族(世帯内)のセーフティネット機能をどう考えるべきか?
個人単位化という考え方とどう整合的に理解すべきか?
○
働く意欲のある高齢者の就労は、所得水準の向上と健康増進を通じ、事後的な
所得再分配への需要を減少させる。また、就労期間の延伸は人的資本投資の回収
年数を長期化し、投資収益率を高める効果を持っている。したがって、中高年層
が技術・産業構造の変化に応じたスキルを身につけることができ、その能力を活
かして働くことができる(「生涯現役社会」)ような環境整備が必要ではないか。
○
不健康(病気)は貧困に陥る最大の要因。逆に健康の増進は、生産性や労働力
率の向上を通じ経済成長に寄与するとともに、セーフティネットへの需要を減少
させる。個人・企業の健康増進を後押しする環境作りが必要ではないか。
◆論点する論点:GDP は健康の経済厚生上の利益を過小評価しているという見方
があるが、GDP で測った成長率の低下を甘受しても経済厚生の向上にプライオ
リティを置くべきか?
○
転職市場の整備、労働形態の多様化といった労働市場全体の機能向上のため
の取り組みは、セーフティネットとの関係でも重要ではないか(第6回「働き
-8-
方・人材育成」の中で整理)。
(2)事後的なセーフティネット・再分配政策の改革
○
事後的なセーフティネットや再分配に係わる諸制度の設計において、仕事への
意欲やスキルアップを促すものとすることが効率性とのトレードオフを低減し、
成長政策との両立を図る上で重要ではないか。
○
この関連で、セーフティネットや再分配に係わる各制度の設計に当たっては、
典型的な世帯を前提とした一律の制度ではなく、個人の選択肢の拡大を政策目標
の一つとし、ライフスタイルの選択(婚姻・同棲、子供の有無、親との同居、引
退年齢等)や就労形態の選択(サラリーマン/自営業、正規/非正規)に対して
中立的なもの、制度間での不連続がなく国民全体をカバーするできるだけユニバ
ーサルな仕組みを目指してはどうか。
特に、社会保険が就業形態によって異なることは、非正規労働の拡大や正規労
働者の長時間労働を助長するといった副作用を持っており、就業形態に中立的な
ものとすべきではないか。
◆関連する論点:「中立的」に関連し、特に、個人単位/世帯単位の問題をどう
考えるべきか?
ユニバーサル化を行う場合、制度を効率的に運用・執行でき
る仕組みについても併せて考えることが必要ではないか?
○
社会保障負担の増加は、労働供給や資本蓄積の低下を通じて経済成長に負の影
響を持つ。公的給付や各種控除制度を、真に必要な人に重点化し、負担の増加を
抑制することが望ましいのではないか。
また、財源を含め、分野横断的に総合的な見直しを行い、より重点化・効率化
を行うべきではないか。
◆関連する論点:「健康で文化的な最低限度の生活」の保障は政府の義務だが、
相対的貧困、絶対的貧困といった様々な概念がある。どの程度の水準を政府が
保障すべき「最低限度」と考えるべきか?
◆関連する論点:年金のような金銭給付はゼロサム型の移転であって、公共投資
や政府サービスとは異なり効率化の余地が乏しいことに注意する必要があるの
ではないか?
○
セーフティネット・再分配の財源(税、保険料)は、できるだけ経済成長への
負の影響の小さい財源によるべきではないか。
-9-
◆経済成長への影響が小さい財源が世代内・世代間の公平性の観点からも望まし
いとは限らない。財源の選択において世代内の公平性や世代間の負担のバラン
スをどの程度考慮すべきか?
◆関連する論点:財源に関して保険機能と再配分機能を分けるべきとの議論があ
ったが、例えば医療保険は短期のリスクをカバーする保険であり、所得再分配
を目的としたものではない。現実には医療保険制度の中で所得水準によって負
担率が異なる、リスクの高い高齢者の負担を低くしているといった措置が広範
に存在するが、これらをどう評価するか?
全ての分配政策を一括所得移転で
行うのでない限り、現実の制度は保険機能と再分配機能をあわせもつため、要
は機能を明らかにしてそれに見合った財源を用いるということではないか?
○
少子高齢化に伴い、資産の取り崩しによる消費、相続を通じた資産の継承等ス
トックの重要性が高まっている。再分配政策を考える際にも所得というフローだ
けでなく、ストックを考慮することが必要ではないか。
◆関連する論点:巨額の相続財産のように世代間の継承を強める効果を持つもの
がある一方、ストックには自らリスクに備えるために蓄積したもの(予備的動
機)という性格もあり、その限りでは自助努力によって公的なセーフティネッ
トの負荷を軽減しているという見方もできる。また、資産課税は、資本蓄積や
就労行動への負の影響も指摘される。現状との比較でどの程度ストックに負担
を求めるべきか?
○
再分配の手段として個別政策(公共投資、補助政策、価格政策、規制政策)を
用いることは、市場による資源配分を歪めることから、市場の失敗の是正を目的
とする場合に限定すべきではないか。公平性の実現は、基本的に個人又は世帯を
単位とした税・社会保障政策によるべきではないか。
○
政府によるセーフティネット・再分配政策には、効率性とのトレードオフとい
う問題に加え、①画一的なサービス、②政治的影響力が高いグループへのバイア
ス、③負担を先送りする傾向、④制度改正に時間を要する、⑤政府への信頼感が
不十分、⑥生産性向上インセンティブの乏しさといった様々な問題点が指摘され
ている。
市場機能の活用(産業としての社会保障)、「民の公共」の活用による政府機
能の補完、透明性・信頼性の向上を図っていく必要があるのではないか。また、
できるだけ意思決定を自動化できるメカニズムを折り込んだ制度設計を検討す
べきではないか。関連して、所得や資産の的確な捕捉が重要ではないか。
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