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平成23年度電子経済産業省推進費(空間位置情報コードの利活用等の

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平成23年度電子経済産業省推進費(空間位置情報コードの利活用等の
平成23年度
経済産業省委託業務
23 情報経・活第 337 号
平成23年度電子経済産業省推進費(空間位置情報コードの利活用等の
ためのサービスモデルに関する調査事業)
事業報告書
平成 24 年 3 月
一般財団法人日本情報経済社会推進協会
i
目次
1 はじめに .......................................................................................................... 1
2 調査事業について ........................................................................................... 6
2.1 調査の視点 ................................................................................................ 6
2.2 調査項目概要 ............................................................................................ 6
2.2.1 全体概要 ............................................................................................ 6
2.2.2 空間位置情報コードのサービス利用について ....................................... 7
2.2.3 官民連携等について ........................................................................... 7
2.2.4 地理空間情報に関する国際動向について ............................................ 8
2.2.5 ヒアリング ............................................................................................ 8
2.2.6 実施体制 ............................................................................................ 9
2.2.7 検討 WG の開催............................................................................... 10
3 空間位置情報コードのサービス利用について .................................................. 14
3.1 空間位置情報コードとは ........................................................................... 14
3.2 空間位置情報コードの使用方法 ............................................................... 17
3.2.1 申請方法について ............................................................................ 18
3.2.2 管理方法について ............................................................................ 22
3.2.3 空間位置情報コードの利用の有り方................................................... 23
3.3 空間位置情報コードの利活用について ..................................................... 35
3.3.1 空間位置情報コードの利活用シーンについて .................................... 35
3.3.2 ID による識別・連携における利活用シーンについて ............................ 37
3.3.3 位置保証スタンプにおける利活用シーンについて............................... 42
3.4 課題の整理 .............................................................................................. 59
3.5 セキュリティ等の観点で運用にあたって配慮すべき事項 ............................. 69
3.6 まとめ....................................................................................................... 76
4 官民連携等について ...................................................................................... 77
4.1 行政機関が保有する地理空間情報の民間利用について ........................... 79
4.1.1 地理空間情報利活用サービスモデルの検討 ...................................... 79
4.1.2 空間位置情報コードと他のコードを相互に関連づけたサービスの可能性
について .................................................................................................. 110
4.2 まとめ..................................................................................................... 116
5 地理空間情報に関連する国際動向について ..................................................117
5.1 地理空間情報国際標準化会議(Open Geospatial Consortium(OGC))概要
.................................................................................................................... 119
5.1.1 組織 ............................................................................................... 119
5.1.2 活動 ............................................................................................... 121
i
5.1.3 他の国際標準化団体との関係 ......................................................... 122
5.2 OGC における日本企業の取り組み ......................................................... 124
5.2.1 活動概要 ........................................................................................ 124
5.2.2 実証テスト OWS-6 への参画 ........................................................... 125
5.2.3 CityGML2.0 への提案 .................................................................... 128
5.3 OGC における屋内外空間データに関わる標準化動向 ............................. 129
5.3.1 CityGML........................................................................................ 130
(1)CityGML の概要と特徴 ....................................................................... 130
(2)最新動向 ............................................................................................ 132
5.3.2 IndoorGML .................................................................................... 133
(1)IndoorGML の概要と特徴 .................................................................. 133
(2)最新動向 ............................................................................................ 137
(3)Indoor Spatial Awareness (ISA) プロジェクト概要、韓国の動向 ........ 138
5.3.3 Open GeoSMS ............................................................................... 140
(1)Open GeoSMS の概要と特徴 ............................................................. 140
(2)最新動向 ............................................................................................ 140
5.3.4 空間位置情報コードに関わる動向.................................................... 143
5.4 OGC に関わるその他の最新動向 ............................................................ 145
5.5 まとめ..................................................................................................... 153
6 おわりに ....................................................................................................... 155
6.1 調査事業総括 ........................................................................................ 155
6.1.1 調査事業について .......................................................................... 155
6.1.2 空間位置情報コードの利活用について ............................................ 156
6.1.3 官民の連携のあり方について ........................................................... 159
6.1.4 今後の展望..................................................................................... 162
6.2 今後の展望 ............................................................................................ 164
ii
1 はじめに
地図をはじめとして、「位置+時間」情報を保有する様々な地理空間情報は、それ
をキーとするあらゆる情報を使って、様々な分野を横断的かつ広範につなげることを
可能にする。例えば屋外では、GPS機能を搭載した携帯電話やカーナビゲーションな
どを通じて、好きなお店などの情報を得ることができる。このことは、様々な分野におい
て、「位置+時間」をキーにして、「情報を引き出し、繋げる」ことができ、そのこと自体、
サービスの高度化などにおいて重要な要素の一つと考えられる。
経済産業省では、モバイル技術やセンサ技術などの発達により、従来のテキスト中
心のウェブ情報に比べ、動画像情報、センサ情報、シミュレーション情報などの利用が
高まっている中で、これらの情報に付与される「位置+時間」(いつ、どこ)という情報を
地理空間情報ととらえ、その高度な利用を通じた新サービスの創出を目指し、G空間
プロジェクトを推進している。
具体的には、平成22年度に実施した経済産業省「地理・空間情報活用基盤活用サ
ービス実証事業」(以下、「G空間プロジェクト」)では、屋内空間を含めた地理空間情
報を利用した新サービス市場を創出するため、屋内の地図情報と実際の位置情報
(世界測地系の座標値など)とを重ね合わせるキーとなる3次元座標点である代表点の
配置・利用の方法を検討した。また、屋内の地理空間情報を流通させるための標準的
データ仕様を具体的に検討し、屋内の3次元空間情報データベースの標準モデルを
作成した。更に、様々な屋内測位技術(無線LAN、QRマーカー等)と組み合わせた
サービスモデルを構築し、その効果等を検証するための実証実験を行い、フロアマッ
プに「緯度、経度、高さ」を付与し屋内空間を構築する手法の構築や、屋内測位と連
携した利活用の具体化など、大きな成果を得た。昨年度の参画事業者(株式会社マピ
オン、インディゴ株式会社など)は、それらの知見を踏まえて、実事業への展開を進め
ているところである。更に、平成23年度はその成果を活用した補助事業(次世代高信
頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業<G空間プロジェクト分野>)を推進(東京急
行電鉄株式会社、国際航業株式会社が二子玉川ライズで実施)している。(これは事
業補助であり、具体的な事業計画の下に、事業検証を実施するものである。)つまり、
G空間プロジェクトでは、「緯度、経度、高さ」を用いて、あらゆる情報を連携して、利用
することを目的に、屋外・屋内空間のデジタル化や、実用的なシームレス測位環境の
検討を進めているものである。
例えば、前述した平成22年度事業では、屋内地図(CAD、フロアマップ等)から3次
元空間情報データベースを作成し、店舗や施設等に世界測地系座標(x,y,z)を持っ
た代表点(ID)を付与し、屋内測位と組み合わせた位置情報サービスのユースケース
を作成・検証した。そのうちの一つに、Web上のコンテンツとのマッシュアップにより、
「いつ、どこで、どのような情報が生まれたか」というような、リアルタイムなソーシャル情
報(Twitterのつぶやき)を屋内地図(3次元空間情報データベース)の対応する代表
1
点(ID)に重畳・可視化することが実現できた(図表 1参照)。これによって、屋内空間
情報の収集コストの圧縮が期待できる。
図表 1 つぶやきの可視化
中小企業を含むサービス提供事業者、サービス利用事業者などが円滑にサービス
を導入できるよう、位置位置情報サービスに関する環境整備と併せて進めることで、空
間位置情報サービスその他の電子情報を活用した新市場創出の動きが加速できるこ
とが期待されている。
以上のように、屋内空間の情報到達コストの圧縮や、屋内外の測位技術の進展によ
って、屋内外の地理空間情報を活用した産業分野は今後ますます発展していくことが
期待できる。
政府においても空間位置情報サービスその他の電子情報を活用した新市場の創
出に向けた取り組みが推進されている。「新たな情報通信技術戦略(平成 22 年 5 月
11 日 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定(以下、IT 戦略本部))」で
は、空間位置情報サービスなど新市場の創出に向けて、関係府省の連携のもとに、新
サービス実現に必要な新たな位置情報基盤の確立を国で行うべき喫緊の施策と位置
付け推進している。IT 戦略本部の「空間位置情報サービスその他の電子情報を活用
した新市場の創出 工程表」(以下、IT 工程表:図表 2 参照)では、この具体的な取組
として、空間位置情報コードの発行・管理システムの構築、データベースの整備、サー
ビスモデルの検討・実証等を推進することを戦略的に行う(行政面での利用場面以外
に、民間での利活用について検討する)ことが明記されており、新サービスの創出、及
び既存サービスの高度化のために、「誰でも・いつでも・どこでも・簡単に・必要な種類
/精度の位置情報が得られる」ことを目指し、これらの技術を融合させ、地理空間情報
2
を屋内外で統一的に利用できる位置情報基盤の環境整備を行うことを目指している。
図表 2 IT 工程表
ここで言う「空間位置情報コード」とは、地理空間情報に付されるコード体系の一般
名称であり、具体的なコード体系として、国土地理院が「場所情報コード」を検討して
いる。場所情報コードは、「場所」を識別するために、ユニークなID方式であらゆる地
物や場所に対して一意に与えるコードで、緯度経度高さ情報等をコード化したもので
ある。
なお、平成23年度電子経済産業省推進費(空間位置情報コードの利活用等のた
めのサービスモデルに関する調査事業)(以下、本調査事業)では、「空間位置情報コ
ード」を、国土地理院が検討している「場所情報コード」と同義として用いる。また、この
事業報告書の中で、国土地理院が作成した資料を素材として引用する場合、その便
宜上、「場所情報コード」と明記する箇所があるが、これも「空間位置情報コード」と同
義として用いたものである。
G空間プロジェクトと空間位置情報コードを組み合わせることで、産業界における既
存サービスの高度化、及び新たなサービスの創出が期待できる。例えば、3次元空間
情報データベース内の店舗等に、空間位置情報コードを付与し、平常時は店舗情報
の発信を行い、非常時には水や食料の情報や、収容人員の状況などの情報を発信
することなどが想定でき、平常時でも、非常時でも利用可能な、「デュアルユース」な情
報発信基盤の構築に寄与することなどが期待できる(図表 3参照)。
3
図表 3 経済産業省G空間プロジュクトと空間位置情報コードが連携したデュアルユ
ース例
これまでのG空間プロジェクトで実施したサービス実証や、東日本大震災における
避難所マップや、通行実績マップ等の活動 1を通じ、位置情報サービスは、その有用
性が評価されている。一方で、既存のサービスは、個人を対象とした位置ゲームや、
交通機関の乗り換えサービス等から、行政のGISやデベロッパー等によるまちづくりや
大規模開発事業等の大規模なサービスまで非常に多岐にわたっているにも関わらず、
屋外を対象としたものが中心であり、またコンテンツの網羅性や鮮度を保つ関係から、
手がけられる事業者や、異業種間でのマッシュアップ事例も少ない状況である。
前述のように「位置+時間」の情報が付与される有用性や、G空間プロジェクトにお
いて、屋内空間まで利用ができることが実証できるようになった状況において、関連す
る事業を活用し、また異業種が連携して事業推進することで、新しいサービスの創出
や、新産業の創出などが期待できる。その具体化にあたっては、G空間プロジェクトや、
インディゴ株式会社が提供する「Map MashUp Manager for 0311(以下、MMM0311)」などがあ
る。
1
4
場所情報コードなど関連する取り組みについて、横断的・網羅的に知識習得でき、ま
た関係するユースケースを知ることによって、事業の企画等が効率よく実施できるよう
に行うための手段(ガイドラインなど)が求められるところである。
本調査事業は、民間サービスにおける「空間位置情報コード」の利活用や行政機関
が保有する地理空間情報の民間利用を含め、地理空間情報の利活用サービスモデ
ルの検討を行い、今後、サービス利用ガイドラインのとりまとめを行う上で必要となるニ
ーズの把握や取組課題の整理・検討のために実施するものである。空間位置情報サ
ービス創出のため、関連する国際標準化等の動向及びG空間事業での成果と併せ、
国土地理院「場所情報コードの利用技術に関する共同研究」における空間位置情報
コードの体系化・標準化、発行・管理システムの検討内容等も踏まえた検討を行う。
また、本調査事業は、上記のガイドライン(または、サービスの手引きのようなもの)を
整備するにあたり必要となる空間位置情報コードを利活用したユースケースや、官民
が連携して位置情報を共有し、位置情報を利活用した住民サービスや民間サービス
を実現するモデル等について、調査・検討を行い、平成 24 年度に予定されているガイ
ドライン整備における重要なインプットとして取り纏める。
以上を通じて、LBS(Location Based Services)に代表される位置情報サービスの
みならず、GIS(地理情報システム)の活用をはじめとした新たな位置情報基盤の利用
範囲が拡大するとともに、様々な位置情報サービスの技術開発が促進され、場所情報
コードの活用分野が広がり、屋内外を通して安心して位置情報、地理空間情報の高
度活用が図れる環境-バリアフリー社会への貢献や観光事業、防災対策等-の整備
が促進されることを目指すものである。
5
2 調査事業について
2.1 調査の視点
本調査事業は、IT 工程表において平成 24 年度に整備予定のガイドライン(以下、
「G 空間サービス利用のための手引き(仮称)」という)に記載すべき内容のコンテンツ
を整理し、その作成に必要な情報を収集・分析し、「G 空間サービス利用のための手
引き(仮称)」を策定するものである。また、その調査にあたっては、G 空間サービスの
ユースケース検討、官民連携による地理空間情報の利活用サービスモデルの検討、
国際標準化動向の調査を実施した。
図表 4 本調査事業の概要
1.空間位置情報コードのサービス利用について
2011年度
• 民間サービスにおいて利活用が想定される分野(ナビゲーション、観光、物流など)及び目的
(情報提供、安心安全等)ごとに利用の方法・利用上の課題、サービス提供の観点から運用・
管理に求められる要件等の検討
• アンカーポイントに対して、空間位置情報コードを付与・利用する上での課題の整理
• 空間位置情報コードのサービスへの利活用ニーズや適用事例(ユースケース)の抽出
2.地理空間情報の利活用における官民連携等について
• PI等を活用した民間サービスの可能性、利用拡大に向けての課題等についての検討
• 行政機関が保有する地理空間情報の民間利用、民間サービスにおける空間位置情報コード
の利活用を含めたサービスモデルの検討
3.標準化について
• 地理空間情報に関連する国際動向の情報収集(OGC等)
• 場所情報の紐付け、場所情報コンテンツのマッシュアップ等に
資する標準化について(Linked Open Data等)
2012年度
以降
サービス
ガイドラ
イン
標準化の推進
2.2 調査項目概要
2.2.1 全体概要
本調査事業では、34 件の事業者ヒアリングを実施し、空間位置情報コードのサービ
ス利用に関するユースケースの検討と、官民それぞれが保有する地理空間情報の新
たな利活用モデルの検討を行った。また、国際競争力の強化につながる地理空間情
報に関する国際標準化動向の調査を実施した。
また、調査・検討において、産官学から構成するワーキンググループを開催し、途中
経過の報告とレビューを実施し、調査結果をとりまとめるにあたり、助言・指導を頂い
た。
以下に、本調査事業の概要を記す。
6
2.2.2 空間位置情報コードのサービス利用について
(1) 空間位置情報コードの運用・管理に求められる要件の検討
民間サービスにおいて利活用が想定される分野(ナビゲーション、観光、物流など)
や、その事業目的(情報提供、安心・安全など)毎に、利用のあり方、位置精度等の利
用上の課題、運用・管理に求められる要件等を検討した。検討に関しては、主に位置
情報サービス事業者を中心としたヒアリングを実施し、利用者側の視点を踏まえたもの
となるように考慮した。具体的には、当協会が事務局を務める g コンテンツ流通推進協
議会(50 社)や、電子情報利活用推進フォーラム(165 社)などから本件に係るニーズ
や問題意識を持っている事業者を抽出し、ヒアリングを実施した。ヒアリング結果を基
に、業種毎、目的毎にヒアリング結果を整理し、運用・管理に係る要件を抽出した。
(2) 空間位置情報コードを付与・利用する上での課題整理
屋内と屋外との間のシームレスな位置情報サービスを創出するため、代表点(アン
カーポイント)に対して、空間位置情報コードを付与・利用する上での課題(技術的課
題、制度的課題など)を整理し、民間サービスにおける利活用において必要となる項
目を整理した。
(3) 「空間位置情報コード」のサービスへの利活用ニーズや適用事例(ユー
スケース)の整理
当協会が事務局を務める「g コンテンツ流通推進協議会」(50 社)や、「電子情報利
活用推進フォーラム」(165 社)などから本件に係るニーズや「場所」の識別に係る問
題意識を持っている事業者を抽出し、ヒアリングを実施した。ヒアリング結果を基に、
「空間位置情報コード」のサービスへの利活用ニーズや適用事例(ユースケース)を取
り纏めた。
2.2.3 官民連携等について
(1) 「場所識別子」(PI:Place Identifier)を活用した民間サービスの可
能性、利用拡大に向けての課題等の検討
当協会が事務局を務める「gコンテンツ流通推進協議会」(50社)や、「電子情報利
活用推進フォーラム」(165社)などから本件に係るニーズや問題意識を持っている事
業者を抽出し、ヒアリングを行った。特に、gコンテンツ流通推進協議会では、行政デ
ータの公開方法として、Linked Open Data 2等の検討を行っている。その中では、そ
れらと民間の所有情報を、PIで連携する基盤の必要性などの議論が行われており、ヒ
アリングを通じて、より具体的な適用事例を抽出するように考慮した。
2
Web の技術を利用して、計算機が処理しやすい形式で情報を共有する方法のこと。LOD と略する。
7
(2) 官民が連携した地理空間情報の利活用サービスモデルの検討
行政機関が保有する地理空間情報の民間利用や、民間サービスにおける「空間位
置情報コード」の利活用を含め、地理空間情報の利活用サービスモデルの検討を行
い、「G空間サービス利用のための手引き(仮称)」の検討の一環として、空間位置情
報コードの利活用のための諸要件を取り纏めた。
2.2.4 地理空間情報に関する国際動向について
位置情報と場所表現を連携する場所識別子(PI)や、公的情報への場所情報の紐
づけ、場所情報コンテンツのマッシュアップなどに資する標準化を推進するために必
要な取組み、検討を行った。また、空間位置情報コードの国際標準に関連する検討
状況の調査を行った。
2.2.5 ヒアリング
本調査事業では、民間事業者をはじめ、地方自治体や公共事業者まで、位置情報
サービスに関係する様々な団体・事業者を対象としたヒアリングを実施した。具体的に
は、図表 5 に示す団体・事業者に対し、空間位置情報コードの利活用における種々
の課題やユースケース、位置情報サービスに利用される地理空間情報の官民連携等
に関する内容のヒアリングを行った。
図表 5 ヒアリング先リスト
#
ヒアリング先
1
福岡大学
2
慶應義塾大学
3
東京大学
4
千葉県 浦安市
5
東京都 北区
6
神奈川県 横浜市
7
国土交通省 国土地理院
8
国土交通省 国土政策局
9
内閣官房 情報通信技術(IT)担当室
10
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
11
独立行政法人 産業技術総合研究所
12
財団法人 衛星測位利用推進センター(SPAC)
13
財団法人 国土地理協会(JGDC)
14
財団法人 地方自治情報センター(LASDEC)
8
#
ヒアリング先
15
財団法人 日本建設情報総合センター(JACIC)
16
財団法人 日本測量調査技術協会(APA)
17
ESRI ジャパン株式会社
18
KDDI 株式会社
19
株式会社 KDDI 研究所
20
日本電気株式会社(NEC)
21
NTT 空間情報株式会社
22
インディゴ株式会社
23
セコム株式会社
24
ソフトバンクモバイル株式会社
25
株式会社パスコ
26
株式会社日立製作所
27
株式会社マピオン
28
ヤマトホールディングス株式会社
29
株式会社構造計画研究所
30
国際航業株式会社
31
測位衛星技術株式会社(GNSS)
32
東京急行電鉄株式会社
33
表示灯株式会社
34
株式会社野村総合研究所
なお、ヒアリングは空間位置情報コードのサービス利用と、官民連携双方について
実施している。
2.2.6 実施体制
以下に、本調査事業の実施体制を示す。
9
図表 6 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)と企業・団体との関係
事業の実施にあたって、途中経過の報告とレビューを実施し、調査結果を取り纏め
るにあたり、助言・指導を頂くため、関係各所の有識者からなる「空間位置情報コード
の利活用等のためのサービスモデル検討 WG(ワーキンググループ)」を設置した。
空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル検討 WG には、官界、自
治体、学界、産業界(位置情報に関連するアプリケーション開発業界、航測業界等関
係する事業者等)のメンバを選定した。
2.2.7 検討 WG の開催
(1) 空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル検討 WG の構成
員
空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル検討 WG の委員及びオ
ブザーバを図表 7 に示す。
10
図表 7 空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル検討 WG 構成員
(敬称略)
業界
区分
氏名
所属
学界
主査
植原 啓介
慶應義塾大学
自治体
委員
和田 陽一
東京都北区
産業界
委員
永瀬 淳
ソフトバンクモバイル株式会社
産業界
委員
伊勢田 良一
NTT 空間情報株式会社
産業界
委員
佐藤 慶秀
株式会社構造計画研究所
産業界
委員
政木 英一
国際航業株式会社
産業界
委員代理
田端 謙一
国際航業株式会社
産業界
委員
坂下 裕明
株式会社パスコ
産業界
委員
東浦 亮典
東京急行電鉄株式会社
産業界
委員
高橋 陽一
インディゴ株式会社
産業界
委員代理
松澤 有三
インディゴ株式会社
産業界
委員
足達 嘉信
セコム株式会社
官界
オブザーバ
満塩 尚史
経済産業省
官界
オブザーバ
杉浦 秀明
官界
オブザーバ
石毛 正行
官界
オブザーバ
有倉 陽司
内閣官房 情報通信技術(IT)担当室
官界
オブザーバ
佃 誠太郎
内閣官房 情報通信技術(IT)担当室
官界
オブザーバ
神山 修
国土交通省 国土政策局 国土情報課
官界
オブザーバ
伊藤 夏生
国土交通省 国土政策局 国土情報課
官界
オブザーバ
寺谷 匡生
国土交通省 国土政策局 国土情報課
官界
オブザーバ
山際 敦史
国土交通省 国土地理院
官界
オブザーバ
檜山 洋平
国土交通省 国土地理院
官界
オブザーバ
坂部 真一
国土交通省 国土地理院
官界
オブザーバ
芦澤 宏和
総務省 情報通信国際戦略局 研究推進室
官界
オブザーバ
松本 賢司
総務省 情報通信国際戦略局 研究推進室
産業界
オブザーバ
菅原 敏
株式会社日立製作所
産業界
オブザーバ
河野 真作
株式会社日立製作所
産業界
オブザーバ
佐藤 暁子
株式会社日立製作所
産業界
オブザーバ
寺本 やえみ
株式会社日立製作所
経済産業省 商務情報政策局 情報政策課
情報プロジェクト室
経済産業省 商務情報政策局 情報政策課
情報プロジェクト室
11
(3) 開催日時
本 WG は下記のとおり、平成 23 年度において 3 回開催した。
第1回
平成 24 年 1 月 17 日(火)
10:00~12:00
機械振興会館 6D-1 会議室
第2回
平成 24 年 2 月 10 日(金)
14:00~17:00
機械振興会館 6D-4 会議室
第3回
平成 24 年 3 月 9 日(金)
14:00~17:00
機械振興会館 6D-4 会議室
(4) 空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル検討 WG の検討
状況
本 WG の開催概要を以下の図表 8 に示す。(なお、議事の詳細は添付資料-1を
参照のこと。)
図表 8
空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル検討 WG 議事概
要
回数
第1回
開催日
平成 24 年 1 月 17 日(火)
議事
・ 平成 23 年度 空間位置情報コード調査事業 事業説明
事業内容の説明
・ 新しい位置情報基盤の整備
国土交通省国土地理院よりご報告
・ 空間位置情報コードの事前調査について
空間位置情報コードのアンカーポイントへの付与について
・ ヒアリングについて
ヒアリング内容及びヒアリング先について
・ 自由討議
空間位置情報コードを活用したユースケースについて
審議内容と結果

平成 23 年度空間位置情報コード調査事業内容を紹介した。

事業内容、実施体制、スケジュール等について、案を提示して説
明し、これに基づき検討した結果、事務局案を承認した。

国土交通省国土地理院より位置情報点と場所情報コードについ
て、説明があり、空間位置情報コードについての認識を統一した。

空間位置情報コードの事前調査内容について、説明し、事務局案
を承認した。

ヒアリング内容及びヒアリング先について、説明し、事務局案を
承認した。

空間位置情報コードを活用したユースケースについて、自由討議
を行った。
12
回数
第2回
開催日
平成 24 年 2 月 10 日(金)
議事
・ 第1回議事録確認
・ 各省の取組みについて説明
内閣官房情報通信技術(IT)担当室の取組みについて
総務省の取組みについて
国土交通省の取組みについて
・ 空間位置情報コードの利活用について
報告書の骨子(案)について
三次元位置情報を活用したユースケースについて
・ 地理空間情報の利活用における官民連携について
報告書の骨子(案)について
Linked Open Data について
・ 標準化について
海外動向調査について
OGC の動向について
審議内容と結果

内閣官房情報通信技術(IT)担当室、総務省、国土交通省の地理
空間情報への取組みについて各省から報告を行った。

報告書の骨子案(空間位置情報コードの利活用について)の説明
し、空間位置情報コードについての認識を再度、統一した。

地理空間情報の利活用における官民連携について説明を行い、官
民連携した LOD に向けて進めていくことを確認した。

標準化について、海外動向の調査についての現状報告を行った。
また、OGC での日立製作所の活動内容について報告を行った。
回数
第3回
開催日
平成 24 年 3 月 9 日(金)
議事
・ 第 2 回議事録確認
・ 調査事業のまとめ方について
空間位置情報コードの利活用について
地理空間情報の利活用における官民連携について
審議内容と結果

報告書の骨子案と論点について説明を行い、事務局案を承認し
た。
13
3 空間位置情報コードのサービス利用について
空間位置情報コードは、民間サービスの様々な分野において活用が期待されてい
る。本調査事業では、空間位置情報サービスの創出のため、国土交通省が中心とな
って進めている空間位置情報コードの検討内容を踏まえつつ、ヒアリング及び WG の
審議を行い、具体的なサービス利用のあり方について検討した。具体的には以下の 3
点を中心に調査した。



民間サービスにおいて利活用が想定される分野(ナビゲーション、観光、
物流など)及び目的(情報提供、安心安全等)ごとに利用の方法・利用上
の課題、サービス提供の観点から運用・管理に求められる要件等の検討
アンカーポイントに対して、空間位置情報コードを付与・利用する上での
課題の整理
空間位置情報コードのサービスへの利活用ニーズや適用事例(ユースケー
ス)の抽出
上記の調査を通じて、民間において、空間位置情報コードを利用したサービスには、
どのようなユースケースが想定されるか、また、その具体化にあたって、どのような課題
があるかを洗い出し、IT 工程表において平成 24 年度以降に整備予定のガイドライン
(以下、「G 空間サービス利用のための手引き(仮称)」)の素材となるように取り纏め
た。
以下、本節では、3.1 から、3.2.2 において、国土地理院が検討している空間位置情
報コードの内容について記述し、3.2.3 以降において、上記の調査結果を記述する。
3.1 空間位置情報コードとは
空間位置情報コードとは、地理空間上に存在する地物又は一定範囲の空間に ID
と位置情報を与えるための一つの仕組みを提供するものである。地物に ID と位置情
報を与え、多様な地理空間情報を相互に関連付けることにより、様々なサービスへの
利用が可能となる。IT 工程表では、平成 22 年度から平成 24 年度の 3 カ年計画で、
空間位置情報コードの基盤整備に取り組むこととしている。
上記を基に、国土地理院では、空間位置情報コードの基盤整備の中で、場所情報
コードの検討を進めている。場所情報コードはucode 3を使用したコード体系で、国土
地理院で管理する位置情報点(基準点や三角点等)に場所情報コードを付与し、例え
ば、基準点の維持管理(地震による地盤のズレ等への対応)のために利用することを
3
コンピュータがモノや場所を識別するための128ビットの識別子
14
検討している。場所情報コードはその位置に関する情報を結びつける入り口となる、キ
ーとなるコードである。
図表 9 空間位置情報コードの考え方
4
出典:国土地理院資料
15
4
図表 10 空間位置情報コードの仕様
5
国土地理院が検討している空間位置情報コードの特徴は、主に以下の 3 つとして
整理できる。
(1) 1区画内において、64 個までコードを付与することができる。
64 個のうち、1 つ目は区画そのもののために利用され、2 つ目以降を「モノ」に
対し付与することが出来る。
(2) コードそのものに 0.1 秒の精度の座標値(緯度/経度)を包含する。
現状の GPS での測位では 15m 程度の誤差があるが、空間位置情報コードで
の位置参照は、ある程度の位置(3m のメッシュ)に絞り込まれる。また、通信を
介した発行機関(現時点では国土地理院のサーバ)への問い合わせを行うこと
で、より正確な信頼性のある座標値などのデータを得られる。
(3) 平面の座標だけでなく、高さの情報も持つ。
高さの情報は、建物における「階数」としてコード内に保持する。
さらに公的機関(国土地理院等)が ucode を発行することにより、公的機関が発行し
た一意性が担保されたコードとして取り扱うことが出来る。
5
出典:国土地理院資料
16
図表 11 空間位置情報コードの位置参照
空間位置情報コードが整備されていない現状で
は、位置を知るためにはGPSや携帯電話基地局
での測位を行う必要があり、その精度もGPSで
約15m程度、携帯基地局で補正しても5~10m
程度である。
空間位置情報コードでは、約3m四方の区画が定
められるため、測位を行わずとも、コードを読
み取ることで3m程度の精度で位置を知ることが
できる。
3.2 空間位置情報コードの使用方法
本調査では、現在、国土地理院で検討している空間位置情報コードの内容、及び
利用者側からのヒアリング結果から、使用方法における課題や要望を取り纏めた。
現在、国土地理院で検討している空間位置情報コードは、図表 12 のような利用を
想定している。空間位置情報コードを利用する場合には、申請者が位置情報点 6を設
置し、空間位置情報コードの発番依頼を行う。発番依頼をする際に、測定した緯度・
経度・高さ(階数)及び、設置した地物に関する基本情報を渡す。その情報を発番機
関(国土地理院等)は、基本情報の点検後、空間位置情報コードを発番し、基本情報
の登録・管理・公開を行う。基本情報の内容は、開示項目 7と選択開示項目 8に分けら
れる。
申請者は発番機関から得た空間位置情報コードを位置情報点に記録する。申請者
は詳細情報について、任意で公開する。利用者は公開された空間位置情報コードの
情報を取得し、利用する。
6位置に関する情報を発信する又は読み取りが出来る媒体を標識として持つ点のこと
7開示項目は場所情報コード、状態(予約、運用、停止、廃止)、停止理由(停止時)
8選択開示項目は、媒体種別、測定精度、データ取得日、緯度経度、階層、設置場所、データ作成日、
標高、登録日、位置情報の基準日、市町村コード、設置場所の住所、詳細情報の URL、信頼性指標、
移動情報等
17
図表 12 利用までのフロー
9
3.2.1 申請方法について
空間位置情報コードの申請から利用までの流れを示す。空間位置情報コードを申
請するに当たり、発番機関に対して、申請者情報の登録を行う。登録する際の項目は
現在、国土地理院で検討中であるが、申請者名称、申請者住所、責任者氏名、連絡
先、申請者ホームページのURL等となる予定である。 10
空間位置情報コードを利用する場合には、申請者が位置情報点を設置し、設置地
点の緯度・経度・高さ(階数)の計測を行う。その後、測定した緯度・経度・高さ(階数)
及び、設置した地物に関する基本情報を、発番機関を予定している国土地理院に申
請を行い、申請内容についてチェックを行い、空間位置情報コードを発行する。空間
位置情報コードを申請する際の緯度・経度座標の計測精度については、空間位置情
報コードの利活用・普及に重点を置き、位置の計測方法は限定しないこととしている。
9
10
出典:国土地理院資料
出典:第 5 回場所情報コードに関する共同研究(3/15 開催)WG4資料
18
図表 13 空間位置情報コード発番の仕組み(案) 11
空間位置情報コードの申請者は、その地物の所有者(施設の管理者、ビル管理会
社)の場合もあれば、テナント事業者が申請を行う場合もある。空間位置情報コードを
付与する際には、地物の所有者(施設管理者、ビル管理会社)の許可を取らなければ
ならないこととされている。そのため、申請者が地物の所有者(施設管理者、ビル管理
会社)の場合、申請者が地物の所有者(施設管理者、ビル管理会社)ではない場合の
2 つのケースでは、申請の流れが異なる。
申請者と地物の所有者が同じ場合は、テナント事業者からの依頼・要望を受けて、
地物の所有者が申請者となってコードの申請を行う。コードの設置工事は、各テナント
事業者が実施する。(図表 14 参照)申請者(テナント事業者等)と地物の所有者が異
なる場合、地物の所有者の許可を受けて、申請者が自らタグ設置工事と発行申請を
行う。(図表 15 参照)
11
出典:国土地理院資料
19
図表 14 申請者と地物の所有者が同じ場合(例) 12
テナント事業者
ビル管理会社
(申請者=施設管理者)
国土地理院
(発行者)
申請者登録申請を行う
申請者として登録
申請に必要な認証情報を取得
コード申請を依頼
コード予約を申請する
ICタグを製作する
予約したコードを取得
該当コードを予約する
ICタグを設置する
ICタグの位置を計測する
正式発行通知を受ける
計測データを添えて正式登録申請する
申請データを確認して正式登録
正式発行通知を受ける
コードの運用を開始する
12
出典:第 5 回場所情報コードに関する共同研究(3/15 開催)WG4資料
20
発行者DBで公開する
図表 15 申請者と地物の所有者が異なる場合(例) 13
テナント事業者
(申請者)
ビル管理会社
(施設管理者)
申請者登録申請を行う
国土地理院
(発行者)
申請者として登録
申請に必要な認証情報を取得
コード予約を申請する
コードの設置を許可する
該当コードを予約する
ICタグを製作する
ICタグを設置する
ICタグの位置を計測する
計測データを添えて正式登録申請する
申請データを確認して正式登録
正式発行通知を受ける
発行者DBで公開する
コードの運用を開始する
空間位置情報コードの申請者は、審査を厳しくすることで普及の妨げや確認におけ
るコストがかかってしまうという考えから、具体的な申請者の要件はなく、国内、海外問
わず、申請者から空間位置情報コードの利用の発番申請が行われた時に発行される
形になっている。但し、申請者は他人の所有物については地物の所有者(施設管理
者、ビル管理会社等)から必要な許可を事前に取得しなければならないとされている。
なお、空間位置情報コードを発行するまでの期間は、現状約 1 日としている。
審査項目の詳細については、国土地理院における現時点での検討では、緯度経
度、測定精度、データ取得日、階層、設置場所等を用いて申請することを予定してい
る。例えば、山間部等で測位した座標をその場で申請し、ucode 発行後、すぐにその
場で RFID の設置を行う等のケースに対応するため、今後は、システムとして自動審
査して、空間位置情報コードを発行できるよう審査の仕組みを簡易化する予定である
とされている。
13出典:第
5 回場所情報コードに関する共同研究(3/15 開催)WG4資料
21
3.2.2 管理方法について
空間位置情報コードの管理について示す。空間位置情報コードの管理内容として
は以下を想定している。




状態の管理
品質の管理
0 番目(区画そのものを表す)の管理
付番の管理
空間位置情報コードの状態の管理については、国土地理院が行う。管理上、空間
位置情報コードが持っている状態は「予約」、「運用」、「停止」、「廃止」がある。申請者
から申請があった際に、空間位置情報コードの「予約」を行う。空間位置情報コードが
発番され、その位置参照点にコードが付与された時点から、コードは「運用」状態にす
る。「停止」は、何らかの自由により申請者が空間位置情報コードの利用を停止するた
めの措置である。対象物の移動を行う際には、一回「廃止」して、振り直しを行う。これ
らのことは発番機関では確認が難しいため、申請者の申請ベースで管理を行う。流れ
は下記の通りである。
図表 16 コード発行の流れ
廃止
予約
運用
コードを利用
する際に、コ
ードの仮押さ
えをする
申請内容を審
査して問題が
無ければDB上
に公開
停止
問題が発生し
た場合は停止
申請をだす。
タグを使わな
くなり、撤去
するときや移
動するときに
廃止申請を出
す。
登録された空間位置情報コードの管理は、登録された利用者の評価によって管理
を行うこととされている。
空間位置情報コードの 0 番目(区画そのものを表す)も、国土地理院が管理を行う。
また、空間位置情報コードに含まれる位置情報の精度管理を行う。空間位置情報コ
ードの位置の計測方法は、トータルステーションを用いた実測や民生 GPS を利用した
測位、地図からの取得等、様々な方法があるが、それぞれの計測方法から大まかな誤
22
差が類推できるため、計測方法ごとに精度のランク付けを行い、空間位置情報コード
の位置座標の保証を行うとしている。また、如何に高い精度で計測したとしても、地震
など地殻変動によるずれは回避できないため、、空間位置情報コードをキーに国土地
理院のサーバに問い合わせを行うことで、そのポイントの正確な位置がわかる仕組み
が考えられている。
付番については、同一区画内におけるコード付与の上限が 63 個という制約がある
ため、国土地理院で作成予定のガイドブックに申請者 1 人あたりの付番の数について
閾値を決め、閾値以上の申請が合った場合、申請者から申請の理由を確認、理由の
妥当性を元に、登録の可否を決める運用が検討されている。
以上が国土地理院の検討中の空間位置情報コードの内容である。
3.2.3 空間位置情報コードの利用の有り方
上記に記述した国土地理院で検討中である空間位置情報コードの内容を踏まえ、
現在、及び将来のサービス展開において、空間位置情報コードを利用する場合、どの
ようなところにニーズがあり、どのような管理・運用形態が想定できるか整理を行った。
具体的には、屋内における 3 次元空間情報データベースを構築する場合、施設・
店舗管理など地物に設定する場合、安心・安全に関わるサービスで利用する場合等
のケースを例に下記についてヒアリングを実施し、その結果を整理した。



空間位置情報コードに格納される座標系の定義や設定手法
付番や更新等の運用・管理
データベースの利用上の課題
(1) 空間位置情報コードに格納される座標値の定義や設定手法
コードの発行・管理機関である国土地理院や関連事業者等へのヒアリングを実施し、
現状の空間位置情報コードの技術仕様と、実際の位置情報サービスにおいての利用
可能性について調査すした。また、実際に空間位置情報コードを利用する際の具体
的な課題について整理した。更に、空間位置情報コードにおいて、高さの情報として
「階数」を定義することになっているが、「制御等を考えた場合、具体的な高さ(標高な
ど)を持った方が良い」と言った意見もあり、高さ情報の最適な値の持ち方を検討し
た。
具体的には、「屋内における 3 次元空間情報データベースを構築する場合」、「施
設・店舗管理など地物に設定する場合」、「安心・安全に関わるサービスで利用する場
合」、「利用分野やサービスの内容等を踏まえた高さ情報の取り扱い」の観点から検
23
討・整理した。以下に記述する。
 屋内における 3 次元空間情報データベースを構築する場合
G空間プロジェクトの視点から見ると、空間位置情報コードは、3 次元空間情報デー
タベース(屋内マップ)を整備するときの基準点になり得る。これによって、空間位置情
報コードのように緯度経度座標で書かれているコードを用いることによって、屋内屋外
をシームレスにつなげることができる。その場合、ある特定のサービス用途に限定され
るものではなく、様々なサービスが横断的に利用できるもの(協調領域(業界横断的に
裨益があるもの))として、整備されることが望ましい。
また、3 次元空間情報データベースを構築する場合に、その位置の確からしさを担
保すること(位置の認証など)が必要である。空間位置情報コードは、国土地理院とい
う国の機関から発番されるものであるため、その担保を裏付けるものになり得る。しかし、
一方で、技術的に、位置情報の詐称が容易に行われてしまうので、それをどう担保す
るかという課題もある。この対応としては、位置情報点に付けるタグに電子署名の秘密
キーを使って照合できるような仕組みやタグ自体の製造番号を併用して詐称出来ない
ようにするといった方法などが考えられる。
 施設・店舗管理など地物に設定する場合
空間位置情報コードを設置された場合、そのコードで場所が識別できるようになり、
そこへ到達できることになる。空間位置情報コードは、0.1 秒単位のメッシュを提供する
ため、GPS 等の測位環境を使用せずとも、誤差 3m 以内の精度で場所やモノ、及び
位置が特定できる。
24
図表 17 屋内空間における緯度経度の座標取得例
35゚36’42.938”
139゚37’40.183
35゚36’..….”
139゚37’……
3次元空間情報データベースか
ら緯度経度が分かるようになる。
35゚36’..….”
139゚37’……
 安心・安全に関わるサービスで利用する場合
東日本大震災のような災害時は、人の位置情報が分かることで救出や支援を行うこ
とが容易になる。そのため、公共機関が管理している施設や場所等に空間位置情報
コードが数多く振られることが望ましい。例えば、街路灯、電柱などに振られれば、もし
地震等で倒れたとしても、そのコードを読む(QR コードで読むなど)ことができれば、
「ここにいた」という生存証明にもなる。前述のとおり、3m メッシュで、当該人のおおよ
その位置等が分かる可能性があることから、例えば、公民館や学校等に振られていた
ならば、空間位置情報コードは緯度経度座標を持っているため、場所の特定ができ、
迅速な救助、及び支援が可能になる。
 利用分野やサービスの内容等を踏まえた高さ情報の取り扱い
空間位置情報コードは、高さ情報として「階数」を持つ。例えば、大型ショッピングセ
ンターなどにいるときに、自分の位置を知りたいときに階数情報は有用である。
他方、津波や洪水などの場合、高さ情報が階数のみでは屋外は1階と示されるため、
高台への避難誘導等を想定した場合は、意味をなさない。このような場合の高さ情報
は、標高や地上高が有効である。よって、高さ情報について、サービスごとに必要とな
る値の持ち方が変わるため、階数、標高、地上高、水深といったように管理することも
想定する必要がある。
25
上記の空間位置情報コードに格納される座標系の定義や設定手法について、以上
のようなことがヒアリング及び WG の審議により明らかになった。
なお、参考として、ヒアリング及び WG において得られた意見(抜粋)を以下に列記
する。
○位置認証の課題
測位された位置情報をどのように誰が認証するのか。ビジネスを創造する場合に
は、認証が重要であり、認証機関を作る必要があるのではないかと考えている。(通信
キャリア事業者)
○空間位置情報コードの設定について
アンカーポイントを設置する時も測量してアンカーポイントの値をとり、実際に商業
空間の中にどう落とし込むかは、技術的な問題だけでなく、商業施設だと見栄えの問
題などもある。測った値をどのような技術や物を使って、実際のリアルな空間に落とし
込むと使われるのかについても、運用上の大きな問題だと捉えている。(空間コンサル
タント事業者)
コードはモノ(live プロパティ)に付与するのか、場所(Dead プロパティ)に付与する
のかを分けて考える必要がある。場所に付与することにより、3m メッシュの範囲で、情
報空間と実空間を紐づけるためのグローバルかつパブリックな「参照近傍点」としての
役割が有効だと思われる。 また、ローカル識別子と空間コードとの紐付けは、緯度経
度のみでは困難なので、ID による連携が不可欠である。(位置情報サービス事業者)
○安心・安全なサービスを行う上での課題
災害シミュレーションを行う上で、その場所のポテンシャル、場所情報が重要である。
(空間コンサルタント事業者)
○位置情報の精度について
位置情報の精度についてはケースバイケースであり、誤差数 m の精度で良い場合
もあれば、ピンポイントで分かった方が良いものもあるのではないか。(セキュリティ事
業者)
○高さ情報について
茅ヶ崎の自治体では、電柱に標高を付与している。GPS の高さは海面からの高さと
は違う。正しい高さを取得するのは難しい。高さをうまく扱うアプリケーションが、GPS
に出来ない可能性としてあると思う。(学界)
26
(2) 付番や更新等の運用・管理
空間位置情報コードの運用・管理に関して、国土地理院では、3.2.1 項、0 項で述
べたようにその申請・発番等の仕組みが検討されている。
これについて、「民間事業者によるサービスの活用」という視点から、空間位置情報
コードの利用が想定される地理空間情報を利用する事業者のニーズを幅広く収集・整
理し、国土地理院が検討する申請・発番等の仕組みの中に、具体的に反映することに
よって、その利活用を促進できる。
本調査では、屋内空間の構築や、デュアルユース(平常時と異常時のどちらでも利
用可能)などの想定されるユースケースなどについて、関連事業者等へのヒアリングか
ら取りまとめた。また、その際の空間位置情報コードの申請・付番・更新・利用等、実際
に空間位置情報コードを運用・管理する際の基本的な考え方を整理した。
以下に、「運用、管理に関する諸手続きの進め方」、「施設、店舗の移転閉店やレイ
アウト変更等における番号の更新、廃番等の基本的な運用のあり方」、「測量方式に
ついて」の観点で整理した結果を記述する。
 運用、管理に関する諸手続きの進め方
国土地理院では、「場所やモノに空間位置情報コードを付与するために、申請者が
緯度経度座標を取得して発番機関に申請する場合、申請者はその地物の所有者に
対して、空間位置情報コードの付与、使用用途、及び位置情報の公開によるセキュリ
ティ対策方法等の説明を行ったうえで、申請許可を得ること」としている。
本節では、申請を含む運用、管理に関する諸手続きの進め方として、申請者と申請
対象の地物の所有者(施設管理者等)が同じ場合(図表 18 参照)、申請者と申請対
象の地物の所有者(施設管理者等)が異なる場合(図表 19 参照)について、申請者、
土地、建物などの所有者、位置情報点を測量する測量会社、発番機関(現状では国
土地理院)の役割を整理した。
27
図表 20 申請者と地物の所有者(施設管理者等)が同じ場合のフロー(例)
測量会社
④測量
③測量依頼
⑤測量結果
⑩タグの埋め込み
②-2予約申請
①コードの設置依頼
⑦運用申請
②-1コードの設置許可
⑥測量結果
⑨発番結果
依頼者
(テナント
事業者、
サービス
事業者等)
⑧発番結果
地物の所有者
(申請者)
■依頼者(テナント事業者、サービス事業者等)の役割
① 空間位置情報コードの申請者に設置依頼を行う。
③ 測量会社にコードを付与予定の場所の測量を依頼する。
⑥ 測量会社によって計測された測量結果を地物の所有者(申請者)に渡す。
⑩ IC タグに地物の所有者(申請者)から受け取った空間位置情報コードの情報
を書き込む。
■申請者(地物の所有者、ビル管理会社)の役割
②-1 依頼者から受けた空間位置情報コードの設置を許可する。
②-2 空間位置情報コードの予約を発番機関に申請する。
⑦ 依頼者(テナント事業者、サービス事業者等)から受け取った測量結果を発番
機関に渡す。
⑨ 発番された空間位置情報コードの情報を依頼者(テナント事業者、サービス事
業者等)に渡す。
■測量会社の役割
④ 依頼者から受けた場所又は地物の測量を行う
28
⑤ 依頼者(テナント事業者、サービス事業者等)に測量結果を渡す。
■発番機関(国土地理院等)の役割
⑧ 申請者から受け取った情報を審査し、空間位置情報コードを発行する。
図表 21 申請者と地物の所有者(施設管理者等)が異なる場合のフロー(例)
測量会社
⑤測量
⑥測量結果
④測量依頼
⑨タグの埋め込み
③予約申請
⑦運用申請
①コードの設置許可依頼
②コードの設置許可
⑧発番結果
地物の所有者
申請者
(テナント
事業者、
サービス
事業者等)
発番機関
(国土地理院等)
■申請者(テナント事業者、サービス事業者等)の役割
① コードの設置許可を地物の所有者に取る。
③ 空間位置情報コードの予約を発番機関に行う。
④ 測量会社にコードを付与する場所の測量を依頼する。
⑦ 測量会社によって計測された測量結果を発番機関に渡す。
⑨ IC タグに発行された空間位置情報コードの情報を書き込む。
■地物の所有者、ビル管理会社の役割
② コードの設置を許可する。
■測量会社の役割の役割
⑤ 測量を行う。
⑥ 申請者(テナント事業者、サービス事業者等)に測量結果を渡す。
29
■発番機関(国土地理院等)の役割
⑧ 申請者から受け取った情報を審査し、コードを発行する。
発番機関の運用・管理の観点からは、発番したコードについて、停止・廃止等を含
めて適切に管理する必要がある。
しかし、経年とともに機能しなくなった(使われなくなった)空間位置情報コードは、
申請者による廃番申請が無い限り、発番機関が関知しないまま蓄積される。この管理
データベースが、公開されるものである場合、利用者は使われなくなった空間位置情
報コードを参照し、サービスを行ってしまう可能性があり、その場合、サービス利用者
への影響が懸念される。
この解決策として、WG の検討では、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシッ
プ)のように、官と民とが協力し、空間位置情報コードのインフラを運用・管理することも
視野に入れるべきではないかという意見が挙げられた。例えば、公開されたデータベ
ースを利用している事業者から、そのコードが利用できなくなっていることを発番機関
へ通知する運用や、国土の変化によって緯度経度座標が変化する時に、コードの申
請者へ一斉通知を行うことで、利活用状況を棚卸する運用などが考えられる。
 施設、店舗の移転・閉店やレイアウト変更等における番号の更新、廃番等の
基本的な運用のあり方
インターネットのドメイン名では、それが先願主義であることから、第三者が有名企
業や著名な商品及びそれらと類似の文字列棟をドメイン登録し、その URL を使用しビ
ジネスを展開し、事業者が築きあげた信用にフリーライドする行為や、高値で買い取ら
せようとする行為などが世界中で多発した。このようなドメイン登録制度を逆手にとる行
為が日本でも横行したため、ドメイン名を巡る不正競争について、不正競争防止法で
規制の対象となっている。
空間位置情報コードについても、特にその付番に関しては、同一区画内におけるコ
ード付与の上限が 63 個という制約があるため、上記のような不正な取得(例えば、転
売を目的に、銀座一丁目周辺の空間位置情報コードが予め取得されるなど)が懸念さ
れる。
国土地理院では、コードの枯渇を防止するための方策を検討しているが、不適当な
取得がされないような運用が必要である。例えば、現状の運用では、空間位置情報コ
ードを付与する際には、地物の所有者(施設管理者、ビル管理会社)の許可を取らな
ければならないとされている。特に、利用者と、その付番される空間の所有者が異なる
場合に、所有者への確認を行う運用などが必要であると考えられる。
30
 測量方式について
空間位置情報コードを申請するためには、その地点の緯度経度座標が必要である。
これは、 コードそのものに 0.1 秒の精度の座標値(緯度/経度)を包含するためである。
その緯度経度座標は、測位によって取得する必要がある。この場合の測位方法に
は、4 パターン考えられる。具体的には、「①GPS、トータルステーションで測位する方
法」、「②屋上で測位する方法」、「③基盤地図等で測位する方法」、「④民生用 GPS
で測位する方法」がある。それぞれの方法について、以下に記述する。
① GPS、トータルステーションで測位する方法
GPS 受信機やトータルステーションを用い、空間位置情報コードを付与す
るための位置情報点の位置を計測する。GPS とトータルステーションを組み
合わせた測位方法は、衛星の信号を受信できる位置で GPS 受信機を用いて
測位する。続いてその位置を既知点としたトータルステーションによる測位を
行う。
なお、平成 22 年度、平成 23 年度の G 空間プロジェクトにおいて、屋内に
おける 3 次元空間情報データベースを構築した際(空間位置情報コードをア
ンカーポイントとしても使用した)に、この方法を採用した。(詳細は後述)
② 屋上で測位する方法
GPS を使った測量では、建物の陰などの原因のため上空視界が確保でき
ず、測位ができない場合がある。高層の建物の屋上であれば上空視界が確
保できることから、建物の屋上で測位する方法もある。。
なお、この方法は、G 空間プロジェクトでも検討されており、屋上で GPS 測
位した結果を使うことで、3 次元空間情報データベースを構築する際にも利用
が出来る。
図表 22 屋上の測位したポイントを利用した空間参照系データベースの構築例
31
③ 基盤地図情報で測位する方法
1/2500 都市計画基図(紙地図)などを用いて、空間位置情報コードの発行
を依頼する該当位置を目視で確認し、その座標値を求める方法である。
既存の測量成果の精度に依存するため、他の測位方法と比較して、その
測量成果の精度に依存してしまうが、現地測量が不要なため簡易に座標値を
求められることが出来るという利点がある。
④ 民生用 GPS で測位する方法
民生用 GPS を利用し、衛星からの信号を受信して座標値求めることができ
る。最近では、準天頂衛星「みちびき」に対応した民生用 GPS も市販されて
いる。但し、前記②のとおり、GPS の信号を受信する性質上、上空視界が確
保できないと測位結果に大きな誤差が含まれる可能性がある。また、高精度
の測量用 GPS と比べて、民生用 GPS の精度は高くないなどの課題がある。
以上のように、その測位方式には複数の手法が考えられる。空間位置情報コードを
申請する者の採用する測位方式によって、コードに内包される緯度経度の座標の精
度にばらつきが出ることが考えられる。
これに対して、申請された空間位置情報コードの座標(緯度経度)については、国
土地理院がにより推奨する計測方法を提示することや、発番機関側で、その取得方法
(測量等)により、精度のランク付けを行う(厳格な審査は行わない)運用などを検討し
ている。
上記、国土地理院の推奨する計測方法以外で測量されて空間位置情報コードの
申請があり、それが付与される場合に、発番機関において、申請されたコードの座標
の計測方法及び計測値が適正であるかどうか、個別に判断を行う運用が検討されて
いるが、その判断基準は、解りやすいものを提示する必要があると考えられる。
付番や更新等の運用・管理については以上のような内容をヒアリングから得た。主な
コメントについて、ヒアリングや WG の審議で得た主な意見を以下に記述する。
○空間位置情報コードのメンテナンス
コードの更新、保管、保全といったファシリティマネジメントが重要(セキュリティ事業
者)
コードの情報が正確なレベルでメンテナンス出来るか。(団体)
空間位置情報コードについて、厳格な運用で街の管理をやっていくと、申請者と対
象者が違う場合、申請が煩雑になってしまう恐れがある。民間の力を活用した公共的
な管理があると思われるので、そのような配慮があると良いと思う。(まちづくり事業者)
32
○測量について
アンカーポイントの測位は、精度はそれぞれの手法により異なり、トータルステーショ
ンを用いた測量、地図を用いた目視などの方法がある。サービスするうえで測量にか
かるコストは重要な観点である。(地図事業者)
○空間位置情報コードの 0 番目のコードの運用について
0 番は誰が使ってもよい、という明確な宣言を国からしていただきたい。(空間コンサ
ルタント事業者)
(3) データベースの利用上の課題
国土地理院では、発番した空間位置情報コードは、その場所を識別(Identify、以
下、「ID」))である。
国土地理院では、それらの ID や座標等を原則公開とし、ID に紐づく属性情報(申
請者名や、その他地物に関する情報等)は、申請者によって公開/非公開の選択が
できるとしている。
普及促進の観点からは、空間位置情報コードを利用するサービス事業者等にとっ
て、「簡便に利用できる仕組み」等の観点も重要である。
本節では、空間位置情報コードの「公開のあり方」、「管理のあり方(補正を含む)」
等について、産業界や自治体等へのヒアリングから課題を抽出し、求められる要件を
以下に取り纏めた。
 「空間位置情報コード」のデータベースの公開のあり方、公開範囲
空間位置情報コードのデータベースの公開のあり方、公開範囲については、国土
地理院が主催した「場所情報コードに関する共同研究」や、本調査事業 WG で議論を
重ねてきた。特に、産業界からは、空間位置情報コードの普及促進のためには、以下
の観点が重要ではないかとの意見があった



発番された空間位置情報コードの属性情報は、申請者によって、公開/非
公開の選択が可能であるが、多様なサービスの創出や、コードの発番や管
理を公共機関が担う観点では、原則公開としたほうがいいのではないか
デュアルユースの観点からは、平常時は、コード申請者によって、非公開
としている属性情報がある場合、災害時においては、その情報が役立つ可
能性のあるものについては、可能な限り公開できるような仕組みが必要で
はないか
空間位置情報コードの申請・利用について、対価が発生しないこと
33


二次利用を容易にするために、機械可読な形式であること
「いつでも・どこでも・簡単に」利用できるよう、インターネットでの利
用(API 等)に対応していること
以上から、今後の検討においても、引き続き、上記の産業界からのニーズを考慮す
るとともに、省庁横断的に進める必要があるのではないかと考える。
 地盤の変化が生じた場合の「空間位置情報コード」の補正の必要性
東日本大震災のような大地震による急激かつ大規模な地殻変動のほか、台風や大
雨等による地すべりや地盤沈下等による地盤の変化は規模を問わず日常的に発生し
ており、長期的には日本列島全体においてプレートの動きによるズレも生じている。地
盤の変化により、空間位置情報コードを付与した地物の位置座標もずれる。
国土地理院では、空間位置情報コードそのものは ID と考えられているため、コード
そのものの変更やその座標の無効化などは行わず、ID と紐付く位置座標の情報を更
新する運用を検討している。
これは、ID と紐付く位置座標の情報を更新によって、これを利用するサービス側へ
の影響を配慮するものであるが、その更新のタイミング(例えば、年1回とか、大規模な
地震の後など)や、その更新情報の利用者への通知の仕方などは未定であり、サービ
ス側の迅速な対応のためにも、その運用の明確化が望まれる。
特に、東日本大震災でも課題になったように、震災の起こる前、起こった直後、現在
といった時間軸で空間情報をどう管理するということも、利用者にとっては重要なポイ
ントになる。検討中の空間位置情報コードの中には時間情報は入っていない。現状で
は時間による変化の管理は、ID の利用者側で行うことになるが、将来的には、コード
の扱う情報の中に時間情報を扱う部分を含めることも検討されるべきであると考えられ
る。
データベースの利用上の課題について、ヒアリングや WG で出た主な意見を以下
に示す。
○空間位置情報コードの利用方法についての課題
地方公共団体では公共基準点を設置している。国土地理院の三角点の考えと同
じように、位置を参照するために、精度管理しながら設置している。それと同じよう
に、5 級基準点のようなものを、もう少し様々な方が細かく配置したい、それを使って
サービスをしたいというニーズのために設置すると思っている。
お店ごとにある一定の精度で表す、より細かいフレキシブルな基準点が必要であ
るとイメージしている。それを実現できるのが、5 級基準点で、位置情報点であると考
えている。(自治体)
34
○公開のあり方、公開の範囲
公的機関が実施するサービスであるから、統一ルールに従って、基本的には属性
情報を含めて、広く公開するべきではないか。(団体)
○時間の情報の管理
時間軸で空間情報をどのように管理するか、という観点も重要なポイントになるので
はないか。(空間コンサルタント事業者)
3.3 空間位置情報コードの利活用について
3.3.1 空間位置情報コードの利活用シーンについて
本調査事業の民間事業者へのヒアリングを通じて、空間位置情報コードの利活用シ
ーンは、場所を一意に示し、その ID と連携する「ID による識別・連携」及び、公的機
関等が発行することによる「位置保証スタンプ」に大別することができた。
図表 23 空間位置情報コードの利活用シーン
1.ID による識別・連携
2.位置保証スタンプ
空間位置情報コードの利活用シーン
ここでいう「ID による識別・連携」とは、空間位置情報コードは位置情報点又は位置
に関する情報を発信する又は読み取りが出来る媒体(IC タグなど)を識別するための
ユニークな番号であるため、場所の識別での利用や空間位置情報コードと自社で管
理しているコードを結び付けて利用するものである。(図表 24 参照)
また、「位置保証スタンプ」とは、空間位置情報コードは、公的機関により発行された
緯度経度座標付きのコードであり、国がそのコードを付与、発行するということが、公的
に担保された情報である(国が位置情報の保証をするスタンプを押す)ということである。
(図表 25 参照)
上記の観点から、その他の用途も含め、分野毎にユースケースを抽出し、課題の洗
い出しを行った。
35
図表 24 ID による識別・連携例
データ連係
B社
A社
独自コード
空間位置情
報コード
空間位置情
報コード
独自コード
BB001
XX081-01
XX001-01
AA001
BB002
XX003-02
XX002-01
AA002
BB003
XX091-01
XX003-01
AA003
BB004
XX092-01
XX004-01
AA004
同じ場所
(3m区
画内に
ある)
IDによる
識別
IDによる
識別
36
図表 25 位置保証スタンプの例
測量
事業者
緯度・
経度
高さ等
申請
発番
保
証
発番機関
(国土地理院等)
3.3.2 ID による識別・連携における利活用シーンについて
ID による識別・連携における利活用シーンについて、ヒアリングや WG の議論の中
で分野ごとのユースケースの洗い出しを行った。
(1) ナビゲーション
街路照明灯など、ある一定の密度で設置されている地物に空間位置情報コード
を記録した電子タグ等を設置し、位置的に連続したコードを読み取ることで、疑似的
な測位が可能になり、必ずしも GPS や IMES(屋内 GPS)等の測位環境に依存し
ない、屋内外シームレスなナビゲーションを行うことができる。さらに SNS のつぶや
きなどから、「街灯の照度が低い(夜道が暗い)」などの情報もマッシュアップすること
が可能になり、「ヒヤリ・ハット」マップの作成などの防犯計画等に役立てたり、街路照
明灯が設置されている道を優先的にナビゲーションするサービスを行うなどの効果
が期待できる。
37
図表 26 ナビゲーションのユースケース
街路照明灯に空間位置
情報コードを付与
お勧めのお
店情報
街灯の照度
が低い
(2) 地図
地図にマッシュアップしたコンテンツの場所の情報について、空間位置情報コー
ドに関連付けるためのデータベース(空間位置情報コードで紐づけられた情報デー
タベース)のサービスを用いて、位置の特定に利用することが考えられる。
現状の位置情報サービスでは、同じ位置を対象とした登録であっても、サービス
事業者毎に登録される、もしくは参照できる情報が異なるため、マッシュアップの手
間がかかっている。
しかし、各社がそれぞれ持っているコンテンツを空間位置情報コードで紐づける
ことによって、容易にマッシュアップが可能になることが期待できる。
38
図表 27 空間位置情報コードを使った地図へのマッシュアップ
B社のコンテンツ
C社のコンテンツ
空間位置情報コード
によるコンテンツ連携
今までマッシュアップ
する際に変換作業が
必要だったコンテンツ
が簡単に地図上に載
せることが可能
A社のコンテンツ
(3) 防災・施設管理
安心安全の情報を提供するために、空間位置情報コードの位置情報を使うことで、
3m メッシュの災害シミュレーションを行うことができ、災害時における、その場所の
ポテンシャル(特性)を測ることができる。
これによって、現状の広域の防災情報の提供ではなく、その場所に応じた防災情
報を発信することが可能になる。
具体的には、そのコードに自治体が持っている住宅情報(築年数、工法など)の
紐付けを行えば、緊急時にその場所がどうなっているかが把握でき、効率的な復旧
作業も可能である。また、AED 等に空間位置情報コードを振ることで、そのモノの管
理(使える情報にあるか否かなど)や、緊急時にはどこにあるか等を検索することが
できる。
更に、電話、電気、水道、ガスなどのインフラ管理において、現在は電柱の管理
一つとっても、独自コードによって各社ばらばらに管理されているが、公的機関によ
り発行された共通のコードを付与することで、名寄せが可能となり、、必要に応じて
事業者間で共有することで、複数インフラの経年変化などの管理を行うことができ、
複数事業者のメンテナンス工事等の効率化が図れる。
(4) 広告
ダイレクトメールや、新聞折り込み等はある程度の範囲に同一な情報を流すこと
39
になるため、必ずしも、ユーザの属性(性別、趣味・嗜好など)に適応した情報が提
供できないことや、かけるコストに見合わないといった課題が、これまで指摘されて
いる。
空間位置情報コードは、3m メッシュ(但し、現状では高さ情報は階数のみ)を規
定していることから、「ある場所や時間に絞ったピンポイントな情報の配信」が期待で
きる。特に、狭域における広告の配信においては、ある店舗の位置が空間位置情
報コードで分かれば、店舗がある 3m メッシュのボックスと隣接しているボックスにい
る人にも広告を打つといったことが出来るようになる可能性がある。この場合、屋内
のチェックインやその空間の滞在時間・回遊時間の延長などのマーケティングの材
料についても利用が出来る。この場合、広告料も抑えられるので、今までは高コスト
のため広告を出せなかった事業者も、広告の出稿を行うことや、狭域専門の広告配
信事業の実施など、事業者裾野の拡大が期待できる。
図表 28 広告のユースケース
・屋内店舗のタイ
ムセール情報
・A店のお勧め情
報
(5) 観光
空間位置情報コードを、観光客のインバウンド整備のために使い、都市整備を行
う際には空間位置情報コードを使い、その紐づいた情報を海外に発信することが期
待できる。
その際に、空間位置情報コードに紐づけられた情報(スポット情報や、イベント情
報など)を見せ、ポータビリティ化(パーソナルなクラウドへリスト化するなど)すること
で、現地での案内まで連動することによって、満足度の向上や、関連する経済効果
が期待できる。
40
また、空間位置情報コードの登録や問い合わせに応じるセンター的役割を担う組
織を設置することによる雇用創出や、さらに地震から復興した街を海外の方へアピ
ールするために空間位置情報コードを利用し、その情報を積極的に出していき、海
外の観光客を含め様々な方を呼び込んでいくということが考えられる。
図表 29 観光のユースケース
海外旅行者を増やす
空間位置情
報コードDB
空間位置情報コード付きのコンテンツを世界へ
海外旅行者は事前に見た空
間位置情報コード付き情報
を使うことでその場への正確
なガイドでその場所に行くこ
とが可能になる
(6) まちづくり
高付加価値なまちづくりを目指すために、空間位置情報コードをセンシングのイ
ンフラとして導入し、交通量のチェックや場所の状況のチェック、混雑度を示すこと
で、その情報を利用したサービスが出来る。例えば、場所情報を用いたマーケティ
ング分析や人流の可視化等を行うことで、通行人の属性(性別や趣味・嗜好等)に
合わせた情報提供が出来るようになる。
具体的には外国人が集まるような場所では、多言語配信を行う等、場所やそこに
いる人の特性に応じた観光情報の配信サービスなどが期待できる。また、空間位置
情報コードを使うことで、3m メッシュごとの人流の可視化が可能になるので、店舗開
41
設へ向けた分析の初期コストの圧縮にもつながる可能性がある。
更に、高齢者、障害者支援等、弱者のためのインフラとして、点字ブロックに、空
間位置情報コードを付与したタグを埋めることで、A 地点から B 地点へモビリティで
の移動や認知症患者の見守りの利用等が考えられる。特に、このようなケースでは、
空間位置情報コードを媒介にして、自治体の情報と民間の情報を結び付けることが
可能となり、官民連携したサービス創出も期待できる。
図表 30 まちづくりのユースケース
混雑度の可視化(3m間隔)※円の大きさが混雑度を表す
店舗を新しく
出したい。
3.3.3 位置保証スタンプにおける利活用シーンについて
GPS を利用したカーナビなどに代表される、屋外のナビゲーションは既に広く普及
している。また、G 空間プロジェクトでも実証されてきたように、無線 LAN 測位や、
IMES(屋内 GPS)など、屋内の測位技術が進歩し、実用段階に入りつつある。しかし、
屋内外をシームレスにつなごうとした場合に、屋内に入ったという判断をどのように行う
か(機械的に行うか、アプリケーションの操作で行うかなど)が課題になってきた。
そこで、G 空間プロジェクトでは、屋内と屋外との間のシームレスな位置情報サービ
スを可能にするための検討・実証を推進してきた。具体的には、屋内の地図と屋外の
地図を重ね合わせるためのアンカーポイントの考え方を導入し、アンカーポイントが、
屋外と屋内をシームレスに連携するために結節点として利用することが効果的である
ことを実証した。
この時、アンカーポイントとなる点に対して、公的機関による担保(その点は正しいも
のであることし示すこと)があると、サービスの信頼度(ここでは、屋外と屋内の結節点)
が向上することが指摘された。
42
本節では、上記のようなものを「公的機関が空間位置情報コードを発行し、それを保
証する」位置保証スタンプとして捉え、空間位置情報コードの利活用シーンとしての検
討を記述する。具体的には、アンカーポイントに空間位置情報コードを付与し、利用す
る上での課題(技術的課題、制度的課題)を整理し、ヒアリング及び WG での審議を行
った結果を踏まえ、検討した結果を述べる。
(1) アンカーポイント
○アンカーポイントの概要
アンカーポイントとは、屋内の地図と屋外の地図を重ね合わせるキーとなる位置をい
う。
例えば、屋外から屋内へシームレスなナビゲーションを想定した場合、屋外の地図
と屋内の地図の連結(重ね合わせ)が必要である。一般的に屋内の地図と屋外の縮尺
や精度は異なる。この異なる精度の地図を重ね合わせるために、具体化されたのがア
ンカーポイントの考え方である。これを換言すれば、屋内外を連結するための位置情
報となりうるものの考え方である。
アンカーポイントによる地図の重ね合わせの手法を以下に示す。
図表 31 に示すように、例えば、屋外地図に該当する都市計画図と屋内の地図に
該当する建物配置図を重ね合わせるため、双方の座標系を、世界測地系に統一する。
つづいて、建物の特徴的な位置(例えば出入り口)を両地図で定め、その位置に基づ
いて重ね合わせを行う。
43
図表 31 アンカーポイントの概略
アンカーポイント
但し、建物の特徴的な位置を両地図で定める際に座標値の誤差が累積してしまい、
うまく重ならないケースがあることが実証実験によって明らかになっている。その問題を
解決するため、実際に建物を測量して高精度の座標値を得る手法を採用したことが、
以下に述べる G 空間事業での成果である。
○G 空間事業での成果
平成 22 年度に実施した経済産業省「地理・空間情報活用基盤活用サービス実証
事業」では、屋内空間を含めた地理空間情報を利用した新サービス市場を創出する
ため、屋内の地図と屋外の地図を重ね合わせるキーとなる 3 次元座標点である代表
点の配置・利用の方法を検討した。この検討の結果、明らかになったことが前述のアン
カーポイントの有効性である。具体的には、実際に建物を測量して高精度の座標値を
得る手法を取るため、屋内空間の構築(3 次元空間情報データベース)において、
CAD データのような精緻なデータではなく、フロアマップなどの簡易図面でもその構
築ができるようになったことである。同事業に参加した株式会社マピオン、インディゴ株
式会社などは、実際にアンカーポイント等の知見を踏まえ、実事業への展開を進めて
いるところである。
44
平成 23 年度はその成果を活用した「次世代高信頼・省エネ型 IT 基盤技術開発・
実証事業<G 空間プロジェクト分野>」を推進している(東京急行電鉄株式会社、国
際航業株式会社が二子玉川ライズで実施)。そこでは、事業化を前提に、実際の商業
空間において、あらゆる情報を連携、利用することを目的に、「緯度、経度、高さ」の情
報を用いて、屋外・屋内空間のデジタル化や、実用的なシームレス測位環境の実証検
証を進めており、当協会では、国土地理院の協力のもと、建物の出入り口を測量し、ア
ンカーポイントに座標値を付与する実証実験を行ったところである。
○アンカーポイントの用途
前述のとおり、アンカーポイントのひとつの目的は屋外の地図と屋内の地図を重ね
合わせることである。アンカーポイントを媒介することによって、双方の地図が誤差数
10cm 程度で重なり、屋外と屋内のシームレスなナビゲーションなどのサービスに活用
できる。
従って、アンカーポイントの代表的な用途は、屋外と屋内地図の重ね合わせであり、
言い換えると、シームレスなナビゲーションなどのサービス実現のための結節点であ
る。
前者については技術的側面からみた用途であり、後者はサービス的側面からみた
用途といえる。
このアンカーポイントについて、公的な基準点(緯度経度座標)を出入口等の接続
点に埋め込むことによって屋内空間と屋外空間をシームレスに連携することができな
いか、ということがここでのポイントになる。
なお、本調査事業では、後者の「シームレスなナビゲーションなどのサービス実現の
ための結節点」となることは、空間位置情報コードとアンカーポイントの組み合わせによ
って、新たな利活用シーンが想定されることを意味する。これについての具体的な利
活用シーンについては、「(5)ユースケース」で述べる。
(2) アンカーポイントの測位方法
○アンカーポイントにする位置の決定
前述のアンカーポイントの2つの用途を想定し、アンカーポイントの位置の決定方法
ついて述べる。
まず、アンカーポイントを媒介として、屋外と屋内の地図の重ね合わせを想定した場
合、屋内地図の精度を高める(誤差を小さくする)ことが重要である。誤差を小さくする
ためには、建物の特徴的な位置(建物の角、外壁に面した柱、出入り口)などをアンカ
45
ーポイントにすると良い。さらに、重ね合わせには複数のアンカーポイントが必要で、ア
ンカーポイント同士の距離が離れている方が、誤差を小さくできる(対象となる建物の
外周を取り囲むようなイメージ。図表 32 を参照。)。
次に、シームレスなナビゲーションなどのサービスの結節点を想定した場合、サービ
ス利用者が通過する位置をアンカーポイントとする。具体的には屋外出入り口が良い。
屋外出入り口をアンカーポイントとして設定し、次に示す測位方法で座標値を求め、そ
の座標値を空間位置情報コードとして発行機関(現状では、国土地理院を想定)に申
請する。
空間位置情報コードを ucode チップに記録し、該当位置に埋め込む場合は、外観、
電源の確保などへの配慮が必要である。例えば、次に示す GPS やトータルステーショ
ンを使う場合は、通行人の妨げにならない工夫も必要である。
図表 32 測位箇所(例)
出入り口
14
○測位方法
ヒアリング及び WG での検討を経て明らかになった、空間位置情報コードを付与す
るアンカーポイントの測位方法を次に示す。
14
建物の外郭は二子玉川ライズを引用
46
図表 33 アンカーポイントの測位方法
No
アンカーポイントの測位方法
①
GPS、トータルステーションで測位する方法
②
屋上で測位する方法
③
基盤地図で測位する方法
④
民生用 GPS で測位する方法
① GPS、トータルステーションで測位する方法
GPS 受信機やトータルステーションを用いてアンカーポイントの位置を測位する。具
体的な測位方法は、使用する機材や手法によって様々だが、ここでは「建物の出入り
口」の測位方法について述べる。
トータルステーションとは、一般的に利用されている測量機器で、水平方向と垂直方
向の回転角と対象物までの距離を同時に取得し、内蔵されているコンピュータで座標
の計算、記録、出力などを自動的に行うことができる。
GPSによる測位は、衛星から発せられた信号を受信 15して位置を測定するため、受
信機が衛星からの信号を受信出来なければ測位できない。高層ビルが多く立ち並ぶ
地域では、ビルの陰に入ってしまい信号を受信できない(上空視界が確保出来ない)
ことがある。また、建物の壁に反射した信号を受信すると精度が低下するなどの悪影
響を及ぼす要素がある。
そのため、大型商業施設の出入り口を測位する場合、その施設自体が衛星の信号
を遮る、又は信号を反射するなどの原因となることを考慮しなければならない。具体的
には、商業施設の出入り口にある、屋根、自動ドア、柱、除風室などの構造物が信号
の受信に悪影響を及ぼすかどうかの確認が必要である。確認の結果、悪影響がなけ
れば(少なければ)その位置に GPS 受信機を設置して測位を行うと良い。
一方、アンカーポイントの位置では上空視界が確保出来ないものの、アンカーポイ
ントから少し離れた位置 16で確保できる場合は、GPSとトータルステーションを組み合
わせた測位を行うことも可能である。アンカーポイントの周辺に上空視界を確保できる
位置が無い場合は、基準点を利用したトータルステーション単独での測位でも良い。
15一般的に、正確な位置を測定するためには 4 機以上の衛星からの信号を受信することが必要とされて
いる。
少し離れた位置:ここでは、トータルステーションでアンカーポイントの位置を測位できる位置をいう。
16
47
GPS とトータルステーションを組み合わせた測位方法の概要は、まず、出入り口近く
の衛星の信号を受信できる位置で GPS 受信機を用いて測位し、続いてその位置を既
知点としたトータルステーションによる測位を行う。図表 34 に GPS とトータルステーシ
ョンを組み合わせた測位の例を示す。
図表 34 GPS とトータルステーションを組み合わせた測位(例)
GPS測位
トー タルステーションによる
多角測量
出入り口
アンカーポイント
48
大型商業施設を GPS やトータルステーションで測位する場合は、施設管理者との
調整及び、通行人の妨げにならないよう配慮が必要である。人通りの多い場所での測
位作業には多くの手間と時間を要すため、測量する位置を減らすことを検討するとよ
い。その場合、最低 2 箇所測位し、その座標値を基に、CAD 図面で他のアンカーポイ
ントの座標値を相対的に計算から求めることも可能である(但し、場合によっては、数
m 程度の誤差がでることもある)。
図表 35 GPS受信機を使った測位の様子 17
17
協力:国土地理院
49
② 屋上で測位する方法
測位箇所において、建物の陰などが原因で、上空視界が確保できず GPS 測位が
できない場合、建物の屋上で測位し、取得した緯度経度座標をアンカーポイントに割
り当てる方法もある。この方法のメリットは、地上での計測に比べ、上空視界が確保し
やすくなるとともに、通行人への配慮が不要となることである。
屋上で測位する方法は、アンカーポイントとする位置に該当する屋上の位置に
GPS の機材を持ち込み測位する。ただし、屋上での測位する場所を決めるためには、
工夫が必要である。1 階から屋上まで垂直に貫通している構造物(柱)などを頼りに、
測位する位置を決めように配置する必要がある。図表 36 に屋上で GPS 測位した座
標値をアンカーポイントに利用した例を示す。
図表 36 屋上で GPS 測位した座標値をアンカーポイントに利用した例
屋上
GPS測位
①1階出入口の水平位置に相当する
屋上の位置をGPSで測位
1階
②屋上で測位した座標値を
アンカーポイントで利用
18
1階の地図及び屋上の輪郭の地図は新丸の内ビルの Web サイトから引用
50
18
③ 基盤地図情報で測位する方法
国土地理院が整備を進めている基盤地図情報
19を用いて、測位した結果を空間位
置情報コードの座標値として利用することも可能である。具体的には、1/2500 都市計
画基図(紙地図)などを用いて、空間位置情報コードの発行を申請する該当位置を目
視で確認し、その座標値を求める方法である。
他の測位方法と比較して、高度な機器や知識を必要とせず、低コストで手軽に座標
値を求められる。この方法は、1/2500 都市計画基図が持つ誤差によって、位置精度
が低下する可能性があることは留意すべきである。また、図表 37 で示す 1/2500 都市
計画基図のように基盤地図情報には建物の外郭は表現されているものの、出入り口な
ど詳細な構造物は確認できないことが多い。この場合、空間位置情報コードの発行を
申請する該当位置の特定が難しくなる。
図表 37 1/2500 都市計画基図(例)
20
④ 民生用 GPS で測位する方法
登山などアウトドアなどの用途に向けた民生用 GPS が市販されている。性能や機能
は様々であるが、衛星からの信号を受信して座標値を取得することができる。
また、最近では、準天頂衛星「みちびき」に対応した民生用GPSも市販されている
(Garmin eTrex 10J 21 図表 38 参照)。
民生用 GPS を使った測位方法はとてもシンプルで、測位する位置に立ち測位し、
座標値を得るだけである。また、測位した座標値をログとして記録する機能を備えた装
19
20
21
http://www.gsi.go.jp/kiban/towa.html 参照。
出典:国土地理院
http://www.garmin.co.jp/products/onthetrail/eTrex10J/ 参照。
51
置も多く、複数の位置を測位するには便利である。
G 空間プロジェクトにおいて二子玉川ライズでアンカーポイントとして測量した 9 カ所
を Garmin eTrex 10J で測位した際は、約 20 分で完了した。
高精度の測量用 GPS 機器と比べて、民生用 GPS の精度は高くないことも、あら
かじめ理解しておくべきである(後述)。
図表 38 Garmin eTrex 10J での測位イメージ
○求められる座標の精度
前述のとおり、測位方法によって得られる座標値の精度は異なる。サービスを行う上
で、精度が許容範囲であるか否かが重要である。
例えば、公共作業規定で定める座標精度は図表 39 に示すとおり、利用する地図
情報レベル 22 毎に平面位置の標準偏差の値がある。例えば、地図情報レベルが
2,500 の場合は、平面位置の標準偏差は 1.75m以内である。この精度は、前述の測
量方法では、GPSやトータルステーションを使った測量方法(①)でクリアできるものの、
民生用GPS(④)の方法では公共作業規定で定める座標精度を満足することは難し
い 23。
22地図情報レベルとは、数値地形図などデジタル化された地図でその位置や高さの精度を示すために
使われる用語で、アナログ地図の縮尺の概念と同じである。例えば地図情報レベル 2500 とは、アナロ
グ地図で 1/2500 の縮尺の地図の位置と高さの精度があることを示している。
23 カーナビなどの GPS 装置で測位した場合も、一般的に 10 数 m の誤差が発生することが多い、また
携帯電話の GPS も基地局補完などを行っても数 m~15m 程度の誤差がでることが、gコンテンツ流通
52
図表 39 必要とされる座標精度(公共測量作業規定より)
地図情報レベル
平面位置の標準偏差
250
0.12m 以内
500
0.25m 以内
1,000
0.70m 以内
2,500
1.75m 以内
5,000
3.50m 以内
10,000
7.00m 以内
図表 40 GPS&トータルステーションの測位と民生用 GPS の測位の差
番号
トータルステーション
緯度 経度
ガーミン
緯度 経度
No.1
35゚36’44.398” 35’36’44.54” 0.151
139’37’40.784” 139’37’40.66” 0.124
No.3
35゚36’44.165” 35’36’43.97” 0.195
139゚37’44.396” 139’37’44.50” 0.104
No.4
35゚36’42.925” 35’36’42.43” 0.495
139゚37’43.831” 139’37’43.07” 0.761
No.5
35゚36’43.284” 35’36’42.53” 0.754
139゚37’42.788” 139’37’42.41” 0.378
No.6
35゚36’42.938” 35’36’44.78” 1.842
139゚37’40.183” 139’37’40.22” 0.037
No.8
35゚36’42.419” 35’36’42.69” 0.271
139゚37’40.354” 139’37’40.27” 0.084
No.11
0.098
35゚36’42.558” 35’36’42.46”
0.505
139゚37’42.075” 139’37’42.58”
No.12
35゚36’42.239” 35’36’42.87” 0.631
139゚37’43.701” 139’37’44.01” 0.309
No.13
35゚36’43.433” 35’36’44.72” 1.287
139゚37’40.245” 139’37’40.49” 0.245
※度分秒
北
差
絶対値
No.1
No.3
No.13
No.6
No.8
No.5
No.4
No.11
No.12
■ガーミンによる測位:3月13日(火) 10:00~10:20
図表 40 は、G 空間プロジェクトにおいて二子玉川ライズでアンカーポイントとして測
量した 9 カ所を、Garmin eTrex 10J(以降、ガーミン)で測位した結果である。ガーミ
ンを用いての測位は、アンカーポイントを設置するための簡易的な測位方法として試
験的に行ったものである。
図表 40 では表の番号と、地図上の点で示した番号が対応している。GPSとトータ
ルステーションで測位した座標値と、ガーミンで測位 24した座標値の差を求めた。ガ
推進協議会において指摘されている。
24 測位した時間帯は、準天頂衛星「みちびき」の信号を受信していた。
53
ーミンの測位で比較的良い精度を得られた位置は、上空視界が良好な施設の外側
(図中のNo.1、No.3、No.8)でおよそ 0.1 秒(約 3m)ある。
このときの計測は、ひとつの測位箇所に対して一回だけ測位したものである。GPS
衛星は時間とともに移動し、仰角も変化するため、これを複数回測位すれば、得た値
を平均するなどして精度が向上する。また今後、受信機の性能向上により精度が向上
する。
空間位置情報コードは 0.1 秒単位(およそ 3m×3m)で場所を識別することから、空
間位置情報コードのアンカーポイントへの付与を考えると、アンカーポイントの座標値
として求められる精度も 0.1 秒程度と考えるのが自然である。
これまで述べた測位方法の特徴を、精度、手軽さ、コスト別に整理した結果を図表
41 に示す。
図表 41 測位方法別の精度、手軽さ、コストの比較
測位方法
精度
手軽さ
コスト
① GPS 、 ト ー タ ル
ステ ーシ ョ ンで
測位する方法
◎
△
△
② 屋上で測位す
る方法
○
△
△
③ 基盤地図で測
位する方法
△
◎
◎
④ 民生用 GPS で
測位する方法
△
◎
○
◎:優、○、良、△:可
大型商業施設で本格的なサービスとして空間位置情報コードをアンカーポイントに
付与させることを前提にすると、手軽さとコストが犠牲になるが、良質のサービスを提供
するために「①GPS、トータルステーションで測位する方法」あるいは「②屋上で測位
する方法」を選択し、場合によっては、測量会社等へ作業を依頼するのが望ましい。
一方、本格的なサービスを行う前に、試験導入をする場合などは、精度の高さより、
手軽さとコストを優先させ「③基盤地図で測位する方法」あるいは「④民生用 GPS で測
位する方法」を選択するとよい。
54
【参考】測位チップの国内外の動向
現在、米国の GPS、ロシアの GLONASS、日本の準天頂衛星などの全地球航法衛星システム
(GNSS)を利用できる民生端末が普及している。GPS については携帯電話(スマートフォン及びフィ
ーチャーフォン)で利用できることから、群を抜いて対応端末が多い。また、GLONASS に対応し
た端末も登場している。一方、準天頂衛星については、衛星の運用が始まって間もないこともあり、
対応端末はこれから増えていくと思われる。
こうした民生端末は、普及のために、小型化、省電力化、低価格化が求められており、測位に必
要な機能はひとつのチップとして端末本体に組み込まれている。従って、チップの機能や性能が、
そのまま端末の機能や性能に反映される仕組みである。例えば、GLONASS 対応の端末であれ
ば、内蔵するチップが GLONASS に対応している。
このようなチップは米国 Broadcom 社や台湾 MediaTek 社などの海外のメーカーが多く生産出
荷しており、特に、携帯電話に搭載されている GPS チップは、海外メーカー製のものがほとんどで
あり、セイコーエプソン株式会社や、古野電気株式会社などの国内メーカーも生産しているものの
出荷数に差があるのが現状である。そこには、国内メーカーの技術力は劣ることはないが、海外メ
ーカーが世界全体を市場としている一方、国内メーカーは国内を市場としているといった、規模の
違いが由来していることがヒアリングで明らかになっている。日本でも受信機メーカーを育成し、市
場を作ることで新たなビジネス創出が期待できる。
(3) アンカーポイントへの空間位置情報コードの付与
○空間位置情報コードの付与方法
空間位置情報コードをアンカーポイントに付与することについて述べる。これは、空
間位置情報コードは緯度、経度から得るコードであり、国土地理院への申請によって
振り出されるものであることから、公的な基準点(緯度経度座標)を出入口等の接続点
に埋め込むことを意味する。
申請者は、測位によって得た座標値と、設置場所等の情報と共に発番機関に申請
するが、高精度の座標を得るには、測位箇所の選定、測位方法の決定、測位実施、な
ど多くの工程を必要とする。さらに、測位が完了してからも、コードの付与、ucode チッ
プへの書き込み、ucode チップの設置の工程をたどる。
上記のように、設置までは時間を要するので、事前に発番機関に「予約」の手続きを
し、座標値を得た後にコード発番の申請を行うことが有効である(空間位置情報コード
には「予約」「運用」の状態が設けられている)。
なお、アンカーポイントの位置の変更やアンカーポイントの撤去などを行った場合は、
速やかに発行機関へ所定の手続きをすることが望ましい。
○空間位置情報コードを付与することによる信頼性の向上
民間事業者へのヒアリングからは、アンカーポイントに対して、公的機関が発行する
55
空間位置情報コードを付与することが、サービスの信頼性の向上につながるとの意見
が多かった。この背景には、現状は、事業者毎に地図等から地物の位置を特定し、位
置情報サービスに利用しているが、整備コスト増大や、「その位置は本当に正しいか」
等の観点から、民間事業者は、誰もが信頼できる位置を求めていることがある。これま
で、三角点や基準点などが国によって保証された位置として存在していたが、特定の
場所に固定されているものであった。アンカーポイントに公的機関が発行した空間位
置情報コードが付与されれば、「信頼できる位置情報」として活用できることが期待され
ていると言えよう。
(4) 保証スタンプにおける利活用シーンにおける課題
○座標の精度の課題
公的機関が発行する空間位置情報コードをアンカーポイントに付与することで、そ
の位置は公的機関によって「担保・保証」されたとみなすことができる。
ここでいう「担保・保証」とは、申請された座標値と申請者等の情報を基に、発行機
関が審査を経て、空間位置情報コードを発行し、それをサービス事業者が信頼して利
用していることを意味する。
発行されたコードに申請した座標値が記録されており、担保・保証の対象は、コード
そのもの、及びその中の座標値であると解釈できる。
しかし、国土地理院で検討されている運用(空間位置情報コードの仕組み)では、
申請する座標の精度に関しては、申請者による測位に依存し、発行機関は、その座標
値が本当に正しいかどうかは検査しないこととしている。従って、申請された空間位置
情報コードそのものについては、発行機関が保証するものの、座標値の精度を保証す
るものではない。
他方、空間位置情報コードを利用するサービス事業者にとっては、当該コードの精
度はどの程度正しいか等の情報は、提供するサービスの品質に大きく関わるものであ
る。
本件について、現状の国土地理院の検討する空間位置情報コード発行の仕組み
では、申請者が申し出る測量方法を基に、推測された「精度のレベル」が記録され、サ
ービス事業者はそれを確認することができる(但し、精度のレベルの表現方法等の詳
細は、今後制定される空間位置情報コードの発行に関する仕様書により規定される)
こととされた。これによって、推奨される測位データを用いることによって、アンカーポイ
ントは公的機関によって「担保・保証」されたとみなすことができる。
前述のとおり、空間位置情報コードは 0.1 秒単位(およそ 3m×3m)で場所を識別す
ることから、空間位置情報コードのアンカーポイントへの付与を考えると、アンカーポイ
ントの座標値として求められる精度も 0.1 秒程度となる。一方、0.1 秒の精度で測位で
56
きる方法は、前述の通り限られており、民生用 GPS や小縮尺(1/10,000 精度)の地図
を用いた測位方法では、全ての地物に対して、この精度を確保するのは困難である。
これらの課題に対して、国土地理院では、空間位置情報コードの普及を考慮して、0.1
秒以上の誤差の座標値でも、コード発行の申請を受け付ける、としている。
以上のことから、「保証スタンプにおける利活用シーンにおける課題」は、以下の2
点に集約できる。
① 民間事業者への高いコスト負担を避け、可能な限り高精度を確保できる測
位方法の検討。
② 民間事業者の業務の負荷にならない空間位置情報コード発行に関する仕
組み作り。
(5) アンカーポイントを使用したユースケース
空間位置情報コードを付与されたアンカーポイントのユースケースの代表としてあげ
られるのが、商業施設の屋外出入り口にアンカーポイントを設置し、屋外地図と屋内地
図の重ね合わせの結節点として利用することで、屋内外シームレスな案内等に活用す
る例である。このメリットについては、前述の G 空間プロジェクトにおける実証や、ヒアリ
ングなどから、その有効性が確認された。
アンカーポイントについては、行政機関が管理する施設(公民館や図書館など)や、
民間事業者が管理する施設(商業ビルや、駅などの公共施設など)の双方で設置され
ることが望まれる。つまり、空間位置情報コードを付与したアンカーポイントが点として
少数散在しただけでは、地域一体となった空間位置情報サービスの実現には不足で
あり、例えば駅などの人が多く集まる場所(公的空間と私的空間が混在する場所)にお
いて、コードが付与されたアンカーポイントが整備されることで、地域一体のサービス
の促進につながることが期待される。
また、前述の GPS やアンカーポイントの測量にはコストがかかるものの、地域の測量
業者に作業を発注すれば、全国に1万社余りある地域の測量会社を中心に新たな需
要や雇用を生むなどの地域活性化に向かうメリットも期待できる。
空間位置情報コードを付与したアンカーポイントのユースケースについて、ヒアリン
グや WG の検討で出た意見を以下に記述する。
57
ユースケースについてのコメント
○来客の判断
店舗事業者にとっては、お客様が店内に入ったかどうかの判断が出来れば、混雑
状況の配信サービス等に活用できるのではないか。お客様にとっても、屋外から屋内
までシームレスな移動が可能となり、また、屋内施設の場所(出入り口等)が高い精度
で分かる等、メリットは多いのではないか。(官公庁)
○生きた情報として客に提供(高付加価値)
単に店や設備の位置が計れるだけでなく、高い精度を保ちつつ、生きた情報とし
て、わかりやすく店や客に提供することができれば、双方にとって、高付加価値につな
がるのではないか。(まちづくり事業者)
58
3.4 課題の整理
ヒアリング及び WG の審議を行った結果、それぞれの分野における目的、利活用ニ
ーズ、ユースケース及び課題の整理をした。
図表 42 分野ごとのユースケース及び課題の整理
分野
目的
ナ ビ ・情報提
ゲ ー 供
ション ・エンタテ
イメント
・どこにい
るかの確
認
地図
利活用ニーズ
ユースケース
課題
・その人、その時、そ
の場所に応じた案内
を実現したい。
・外にいるか、中にい
るのかを判断したい
・高齢者、歩行者支
援等弱者のためのイ
ンフラとして利用した
い
・屋内外問わず現在地
を得ることができること
を活かし、現在位置か
ら目的地までの経路案
内等のナビゲーション
サービスを行うこと
・屋内のチェックイン
・商業施設の出入り口
にアンカーポイントを設
置することによっていシ
ームレスなナビゲーシ
ョンの実現
・プライバシ
ー 、 セキ ュ リ テ
ィ
・インフラ整備
・メンテナンス
・空間位置情
報コードのタグ
・ 情 報 提 ・地名などで位 置を
供
検索するときに、その
場所が特定できるよ
うにしたい
防災・ ・広域から ・安全安心の情報の
施 設 狭 域 へ の ために利用したい
管理 情報連携 ・外にいるか、中にい
・ 安 心 安 る(ある)かの判断し
全
たい。
・エネルギ ・バックヤードについ
ー管理
ての支援
・ セ キ ュ リ ・作業の効率化
ティ
・公的な世界と民間
59
・地図を活用し、コンテ ・ コ ー ド の な り
ンツの場所の情報を関 すまし、買占め
連づけるための入れ物
のサービスを展開し、
位置の特定に利用。
・各社それぞれ持って
いるグルメマップのマッ
シュアップ。
・位置情報と連動した
災害シミュレーション
・AED の位置把握
・お店の表だけでなく、
お店の裏を踏まえた防
災サービス
・共通のコードを付与
し、事業者間で共有す
ることで、複数事業者
・コスト
・空間位置情
報コードのタグ
・プライバシ
ー、 セキ ュ リ テ
ィ
・インフラ整備
・メンテナンス
分野
目的
利活用ニーズ
ユースケース
課題
・保守、点
検
・ライフラ
イン管理
の世界の情報を結び
たい。
・ロ ーカ ル な識別子
をグローバルにする
ための識別子として
利用
で行う メ ン テ ナ ンス 工
事等での利用
・機器、設備関連に振
ることで、メンテナンス
に利用可能。見えない
所の支援。
・火災報知機や配電盤
のようなライフライン系
の設備
・カート、ベビーカーの
利用状況の把握
・EV の充電の場所に
利用
広告
・位置情
報を使っ
た情報提
供・分析
・中小企業でも広告
を打ちたい。
・場所情報を使った
分析を行いたい。
・人流の可視化
・ピンポイント(範囲指
定)型広告
・場所情報を用いたマ
ーケティング分析
・通行人の属性に合わ
せた商品の案内
・保証された位
置情報が欲し
い。
・インフラ整備
・メンテナンス
・プライバシ
ー 、 セキ ュ リ テ
ィ
・空間位置情
報コードのタグ
観光
・情報提
供
・国際競
争
・狭域の情報を利用
したい
・センシングのための
インフラ
・観光客のインバウンド
整備のために使い、都
市整備を行う際には空
間位置情報コードを使
い、その紐づいた情報
を海外に広めて行く。
・インフラ整備
・メンテナンス
・プライバシ
ー、 セキ ュ リ テ
ィ
・国際標準化
・空間位置情
報コードのタグ
ま ち ・ 高 付 加 ・センシングのための ・高齢者、歩行者支援 ・インフラ整備
づくり 価 値 な ま インフラ
等弱者のためのインフ ・メンテナンス
60
分野
目的
利活用ニーズ
ユースケース
ちづくり
課題
ラとして、点字ブロック ・ 空 間 位 置 情
に タ グ を 埋 め る こ と で 報コードのタグ
歩行者支援
・A 地点から B 地点へ
モビリティで移動
・認知症患者を見守り
・交通量のチェック、場
所の状況のチェック、
混雑度を示すことで、
新規店舗開店の情報
として利用
上記表を元に環境面、技術面、制度面に分けて整理を行った。
図表 43 課題の整理
分野
ユースケース
環境面の課題
ナ ビ ・屋内外問わず現在地を ・インフラ整備
ゲ ー 得ることができることを活 ・メンテナンス
ション かし、現在位置から目的
地までの経路案内等のナ
ビゲーションサービスを行
うこと
・点字ブロックにタグを埋
めることで、歩行者支援を
行う。
・屋内のチェックイン
・商業施設の出入り口に
アンカーポイントを設置す
ることによっていシームレ
スなナビゲーションの実現
地図
・地図を活用し、コンテン
ツの場所の情報を関連づ
けるための入れ物のサー
ビスを 展開し 、位置の特
技術面の課題
制度面の課題
・空間位置情 ・ プ ラ イ バ シ
報コードのタグ ー、セキュリテ
ィ
・コードのなり
すまし、買占
め
61
分野
ユースケース
環境面の課題
技術面の課題
制度面の課題
定に利用。
・各社それぞれ持っている
グルメマップのマッシュア
ップ。
防
災 ・
施 設
管理
・位置情報と連動した災害 ・インフラ整備
シミュレーション
・メンテナンス
・AED の位置把握
・お店の表だけでなく、お
店の裏を踏まえた防災サ
ービス
・共通のコードを付与し、
事業者間で共有すること
で、複数事業者で行うメン
テナンス工事等での利用
・機器、設備関連に振るこ
とで、メンテナンスに利用
可能。見えない所の支
援。
・火災報知機や配電盤の
ようなライフライン系の設
備
・カート、ベビーカーの利
用状況の把握
・EV の充電の場所に利
用
・空間位置情
報コードのタグ
広告
・ピンポイント(範囲指定) ・インフラ整備
型広告
・メンテナンス
・場所情報を用いたマー
ケティング分析
・通行人の属性に合わせ
た商品の案内
・ 空 間 位 置 情 ・保証された位
報コードのタグ 置情報
・プライバシ
ー、セキュリテ
ィ
観光
・観光客のインバウンド整 ・インフラ整備
備のために使い、都市整 ・メンテナンス
備を行う際には空間位置
情報コードを使い、その紐
・空間位置情 ・ プ ラ イ バ シ
報コードのタグ ー、セキュリテ
ィ
・国際標準化
62
分野
ユースケース
環境面の課題
技術面の課題
制度面の課題
づいた情報を海外に広め
て行く。
ま ち ・高齢者、歩行者支援等
づくり 弱者のためのインフラとし
て、点字ブロックにタグを
埋めることで歩行者支援
を行う。
・ガイドレールのように A
地点から B 地点へモビリ
ティで移動する。
・認知症患者を見守り
・交通量のチェック、場所
の状況のチェック、混雑度
を 示すことで、新規店舗
開店の情報として利用す
る。
・空間位置情
報コードのタグ
 環境面の課題
 インフラ整備について
ヒアリングの中で、空間位置情報コードの申請が少なかった場合、インフ
ラとして機能しない(成り立たない)のではないか、という意見があった。
空間位置情報コードを利用したサービスを創出し、広域で展開していくため
には、空間位置情報コードを社会基盤として定着させていくことが重要であ
る。
 コードのメンテナンスについて
現状の国土地理院による申請基準で管理を行う場合、付与された事業者が
廃止申請や停止申請を行わないことで、機能しなくなったコードが蓄積され
ていく可能性がある。例えば、空間位置情報コードの申請者は、施設・店舗
の移転や閉店やレイアウト変更によって、コードの廃番等の申請を都度行う
必要があり、申請されないと、使われなくなったコードがそのままデータと
して蓄積されてしまい、発番機関の管理コスト増加につながってしまうばか
りでなく、事業者が利用されていない空間位置情報コードをサービスに適用
してしまうことも懸念される。
そのため、空間位置情報コードのファシリティマネジメントが重要になっ
てくる。ファシリティマネジメントの目的としては、4 つある。①設備投資、
63
施設運営費の最小化、②効用の最大化、③将来の発展、変化への柔軟な対応、
④社会、環境対応である。公的機関が管理、運用し、民間に利用されるため
にも、最適な状態(コスト最小、効果最大)になるように、総合的に企画・
管理する仕組みを構築されることが必要である。
 技術面の課題
 空間位置情報コードを付与した IC チップ等の管理について(セキュリテ
ィ面)
サービス事業者による空間位置情報コードを付与した IC チップ等を設
置・管理する場合においては、悪意あるユーザによって、別の IC チップに
置き換える等が行われないように、IC チップの製造番号や、電子署名の秘
密キー等を併用して照合できるような仕組みを構築することで、詐称を防ぐ
などの対策が必要である。
 制度面の課題
 保証された位置情報について
空間位置情報コードに格納される位置情報に対して、公的機関が「正し
い情報であること」を保証することにより、これまでは事業者毎に収集し
ている位置情報に対して、民間事業者は低コストかつ、確実な情報として
使うことが出来るようになる。
 国際標準化について
空間位置情報コードを利用して、様々なサービスコンテンツが配信された
としても、日本国内でしか使用できない形式では、国際競争力強化の観点か
ら望ましくない。例えば、観光分野において、海外の方に日本を知ってもら
い、国内へ呼び込む際にも、利用できるインフラになっているなどの配慮が
必要である。
また、空間位置情報コードのインフラが、海外でのまちづくりを行う際に
も、それを使って生活を支援できるソフトウェア等にも寄与するような環境
作り(国際標準化など)を行うことで、サービスの海外展開が促進されるの
ではないかと思われる。
利用者側のヒアリング調査から、一番の課題として挙げられるのが、インフラ整備に
ついてである。空間位置情報コードを利用する基盤が普及していなければ、サービス
の運用はできない。一方で、、空間位置情報コードの付与対象物について、何に振る
べきか整理することも必要である。具体的には、空間位置情報コードを付与する対象
は「地物」に想定されるが、その場合、ID を付与してモノを管理する場合に用いること
64
が想定される。またそれは、3m メッシュ(コード 0 番が付与されている区画)内に存在
する地物で、移動体ではないものが相当すると考えられる。以上のような点から、下記
の課題が導き出される。




すべての地物をコードの付与対象として考えて良いのか。
どのくらいの期間、「そこに留まっている」地物ならば良いのか。
同一区画内で 63 個までという制限は普及の足枷とならないか。
公的機関が発行したコード(公的に位置情報が担保されている)と
いう性格上、コードの付与対象は公的な性格を持つべきではない
か?
図表 44 は、個々の地物は既に何らかの ID で管理されていることを示している。空
間位置情報コードを新たに別のコードを付与するというよりは、位置情報が明らかな基
準となる点との関連(または参照)を持つものが増えるという捉え方で位置情報と関連
付けるというほうが現実的ではないかという考え方がある。
WG では、「5 級基準点」(現実は 4 級基準点までが存在しており、5 級基準点はな
い。図表 45 参照)のような扱いが可能な、「厳密には基準点ではないが、基準点に類
するもの」として扱うものに付与すればよいのではないかという意見もあった。
65
図表 44 空間位置情報コードの位置付け案
25
Live Property
潜在的なPOI
屋内/屋外含め
背景地図を
問わないPOI
広範なニ次利用/
データ連携が可能に
特定システムや
データ内に閉じた
潜在POI
参照
参照
グローバル
&パブリック
ローカル
&プライベート
伝播
場所情報コード
参照
( 緯度経度座標/フロア)
ローカルな
座標や識別子など
情報空間と実空間を紐づけるた
めのグローバルかつパブリックな
「参照近傍点」としての役割
Dead Property
基準点とは、測量の基準とするために設置された測量標であって、位置に関する数
値的な成果を有するものをいう(公共測量作業規定より)。 基準点には第 1 級~第 4
級まで存在し、第 1 級が最も精度が高く、第 4 級が最も精度が低い。
図表 45 基準点
5級基準点
(?)
G 空間サービスで利用する場合は、「地物」ではなく、「場所」に付与する方が、その
効果は高いのではないかと考えられる。「場所」に付与する際のメリットは以下の通りで
ある。
25
出典:第 2 回空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル検討 WG 資料
66

コードを付与する対象は位置を参照するための点に過ぎないので、
コードを付与された対象が何であるかは問題にならない。
 地物は、最も近傍に存在するコードが付与された点との関連で定義
できる。(それだけ位置を絞り込める)
図表 46、図表 47 に屋外のコード付与対象の候補を示す。
図表 46 屋外のコード付与対象候補
屋外のコード付与対象の候補:
電柱、街路灯、点字ブロック、マン
ホール、自動販売機、各種基準点・境
界杭、等
67
図表 47 屋内のコード付与対象候補
屋内空間のコード付与対象の候補:
AED、火災報知機、WiFiアクセスポイ
ント、コンセント、等
68
3.5 セキュリティ等の観点で運用にあたって配慮すべき事項
空間位置情報コードが社会基盤の一つの要素として定着することがまず重要である
が、前節で示したように多くの利用シーンが想定される。
その具体化のためには、「廃止」、「停止」されたコードについてデータベース上で適
切に反映することや、コードの発行審査を公共機関(現行では、国土地理院を想定)
が行うことからそのコードの担保・保証となる仕組みなどが必要であることが明らかにな
った。
このような要件や課題を解決することで、空間位置情報コードを活用したサービス事
業者の増加が期待される。
一方、前節で述べたように、空間位置情報コードは ucode であるため、RFID などに
適用することができる。この場合、設置された RFID タグが、他のタグとすりかえられた
場合に、正しい位置が取得できなくなるという懸念があり、これは、電子情報を扱う際
には、漏洩の備えなど、セキュリティ対策を行う必要があることを示唆している。
また、空間位置情報コードを利用すると、必ずしも GPS 等の測位環境を使用せずと
も、誤差3m以内の精度で場所やモノ、及び位置が特定でき、様々な位置情報サービ
スに活用できるこのことは、空間位置情報コードという ID を中心に、様々な情報が結
びつくことができることを意味する。例えば、水道メーターのようなものの所在を識別す
るために、空間位置情報コードを利用した場合に、それが公開され、「誰でも自由に」
利用できる状況になると、そこに他の情報(例えば、「玄関前が汚い」などのつぶやきな
ど)が結びつく事で、不測の事象が発生する恐れが考えられる。
まこのことは、公開される空間位置情報コードの利用について、不正利用などが起
きないような配慮が必要なことを示唆している。
本節では、空間位置情報コードを利活用する事業者等のための「G 空間サービス
利用のための手引き(仮称)」作成の観点から、ステークホルダーとして、空間位置情
報コードの申請者、空間位置情報コードを利用したサービス実施者を抽出し、上記の
セキュリティの課題などを整理する。また、サービス利用者が、地理空間情報サービス
を利用するにあたっての不安感を解消させるために情報セキュリティにおいて、考慮
すべき視点について整理し、ユースケースを描いた上で、空間位置情報コードの申請
者、空間位置情報コードを利用したサービス実施者それぞれの立場から、配慮すべき
事項をまとめる。
情報セキュリティを考える上で、欠かすことのできない 3 原則が「機密性の確保」、
「完全性の確保」、「可用性の確保」である。この 3 原則を考慮し、守るべき情報資産を
見極めたうえで、想定される脅威に対するセキュリティへの配慮を行う必要がある。
69
図表 48 情報セキュリティにおいて、考慮すべき視点
視点
内容
機密性の確保
情報にアクセスすることを許可された者だけがアクセスできる
状況を確実に保持すること、また第三者に知られてはならな
い情報が漏洩するのを防止すること。
完全性の確保
情報および処理方法が正確であること、および完全であること
を保護すること。
可用性の確保
許可された利用者が必要なときに情報にアクセスできる状態
を確実に保持すること。
上記三つの視点について、空間位置情報コードでは、その発番機関が、適切に管
理する必要があることを示している。他方で、機密性の確保については、空間位置情
報コードの申請時や、サービス時にも、秘匿性が高い情報がある場合には、その漏洩
防止に配慮する必要があることを示唆している。
セキュリティ上、脅威となりうる種類の分類として、攻撃(悪意あるユーザーによる、故
意なアタック)の状態によって、分類する方法がある。「JIS X 0008」や「JIS X 5004」
では,具体的に以下のような脅威の分類を行っている。
図表 49 セキュリティの脅威の種類
脅威の種類
内容
具体的な視点
能動的脅威
メッセージの変更、偽メッセー 
ジの挿入、なりすまし,又はサ
ービスの妨害等、データ処理
システムの状態を、認可を得ず 
に意図的に変更する脅威。
空間位置情報コードを格納
した地物の扱いに対するリ
スク
プライバシー情報を含む対
象物の扱いに対するリスク
受動的脅威
伝送されるデータの横取りや、 
複数のデータの多角的な分析
等によって、保護必要情報の
復元がなされる等、データ処理
システムの状態を変更すること
なく、情報が暴露される脅威。
複数の空間位置情報コード
の収集・分析に対するリスク
空間位置情報コードの場合、能動的脅威に関しては、コードのデータの改ざんや不
正利用が発生しないよう、空間位置情報コードを発番・管理する機関において、堅牢
なセキュリティのトレードオフとして利便性を損ねることなく、適切にセキュリティを確保
70
する必要がある。
また、サービス事業者等においても、なりすましやサービスの妨害には、適切な対
策を行う必要がある。具体的に以下に記述する。
○空間位置情報コードを格納した地物の扱いに対するリスク
前述のとおり、G 空間サービスでは空間位置情報コードは場所に付与する方が、メ
リットがあるが、国土地理院の検討では地物への付与も含まれるため、地物の扱いに
対するリスクについて記述する。
例えば、街の情報配信サービスにおいて、空間位置情報コードを付与した RFID を
街路灯等に展開し、利用者が RFID に携帯電話をかざすことで、街の情報を取得す
るサービスを想定する。この場合、悪意のある第三者によって、別の RFID と付け替え
られ、エンドユーザが気づかないうちに、別のサイトに誘導され、精緻な位置に紐づい
た個人情報(行動履歴等)が抜き取られる可能性がある。
図表 50 悪意のあるユーザにより、個人情報が抜き取られる例
正規のサーバ
街路照明灯に空間
位置情報コードを
付与したRFIDを
設置
フィッシングサイト
お得な情
報を取得
しよう!
お得な情
報を取得
しよう!
悪意あるユーザに
よってすり替えられ
たRFIDにタッチ
悪意のあるユーザ
上記ようなケースは、悪意あるユーザが、正規のサイトからのイメージや HTML をコ
ピーし、サイトを似せ、あたかもその会社のサイトだと思わせて、不正に個人情報を取
得する「フィッシング」の攻撃手法と類似している。
この対策としては、例えば、既に公表・利用されている「電子タグに関するプライバシ
ー保護ガイドライン 26」を適用し、、技術的リスクへの対応や物理的リスク等の対応を行
うことが必要であると考えられる。
26
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/tag/privacy-gaid.pdf 参照
71
○プライバシー情報を含む対象物の扱いに対するリスク
空間位置情報コードは、様々な地物に付与することが可能であるが、その中には、
プライバシー情報を含むものもあるであると考えられる。例えば、米国では、スマートメ
ーターを介した電力使用量等の個人情報の流出によるプライバシー侵害の懸念が指
摘されている。米国標準技術局(NIST 27)では、各家庭に取り付けるスマートメーター
のプライバシーの問題に関して、「NIST IR 7628 Vol.2 28」でまとめている。具体的に
は、電力利用状況から、在宅の有無、住人の行動(寝ている等)の情報を得て悪用さ
れる可能性があることを指摘し、技術や制度等で対応する必要があることを示唆して
いる。
図表 51 電力利用状況(出典:NIST IR 7628 Vol.2)
オーブン
トースター
洗濯機
電子ケトル
冷蔵庫
スマートメーター(電気・ガス等)に空間位置情報コードを付与したサービスをユース
ケースとして想定すると、コードに対して、使用者や使用状況等の情報を紐づけて地
図へ可視化しすることが可能になり、これによって、使用年数よるメンテナンス訪問の
効率化が図れるメリットがある。
他方で、この場合の空間位置情報コードは、一般の民家の前の道路上や、個人住
27
28
National Institute of Standards and Technology の略。
http://csrc.nist.gov/publications/nistir/ir7628/nistir-7628_vol2.pdf 参照。
72
居の敷地内において採番されている可能性が高い。そのため、これが一般に公開さ
れ、誰もが自由に使えるようになると、、この ID を中心に、意図しない様々な情報を結
びつけることも可能になる。
上記の問題解決のために、サービス事業者側で、データを適切に管理することはも
ちろんであるが、例えば、個人の敷地に係る範囲の空間位置情報コードを申請者が
申請する場合には、所有者に事前に許可を得たり、機微と思われる属性情報は非公
開にする等の対応が必要であると考えられる。
また、前記図表 49 の受動的脅威は、攻撃者によって、正当な手順を踏んで情報を
取得してから、複数のデータを合わせて多角的な分析を行うことで、発生しうる脅威で
ある。
この場合、空間位置情報コードの場合、誰もが自由に利用できる状態になっている
ことを想定すると、コード発番機関及び申請者、サービス事業者等は、被害が明らか
になって、初めて状況を知ることが想定される。セキュリティの観点から、特に、ガス管、
水道管、電柱等の「公共インフラ」へ付与する場合、悪用されると、人命に重大な影響
を与える可能性があるので、十分に留意しなければならない。具体的なリスクについて、
以下に記述する。
○複数の空間位置情報コードの収集・分析に対するリスク
国土地理院では、空間位置情報コードにおいて、その ID 及び座標は公開し、ID
に紐づく属性情報(そこが何であるか等の情報)については、申請者によって公開もし
くは非公開の選択が可能としている。機微な情報については、非公開にすることによ
って、セキュリティが管理できる反面、公開された座標付き ID は、そのコードが緯度経
度を用いているため、地図へ可視化することによって、属性情報が無くても、それが何
であるかを推測できる可能性は内在している。
例えば、地中にあるガス管に対して、一定の間隔で空間位置情報コードを付与した
場合、複数のポイントを可視化することによって、属性情報は非公開であっても、位置
や形状等が推測される可能性がある。
73
図表 52 複数の空間位置情報コードを可視化したときの脅威
ガス管に空間位置情報コードを付与したイメージ
公開されている空間位置情報コードと座標
座標
空間位置情報コード
○○○
xxxxxxyyyyyyff01
△△△
xxxxxxyyyyyyff02
×××
xxxxxxyyyyyyff03
地図へ可視化
地図にプロットしたコードをつなげたら、
おそらくこれはガス管だな・・・。
ガスによるテロのための貴重な情報だ。
このように、公開される空間位置情報コードは、地図へ可視化すると、そのモノの位
置や形状等が推測されるため、申請者はこのようなリスクを認識したうえで、使用する
か、又は、秘匿性が高いものに空間位置情報コードを適用する場合には、その公開の
仕方などに一定の配慮が必要である。
以上の検討から、運用にあたっての配慮事項を下表のようにまとめた。
図表 53 配慮事項のまとめ
申請者が配慮 【人的な対策】
すべき事項
 申請者とコードを付与する対象物の所有者とが異なる場合、
所有者に許可を得ること(例えば、商業ビル内の店舗に設置
する場合、ビルオーナーや店舗管理者へ確認する必要があ
る)。
 また、住宅地などの空間で申請する場合に、個人の宅地など
に係るケースでは、公開の範囲について考慮をすること。
74

公開するとセキュリティ上懸念のある属性情報は非公開に
すること。また、所有者の同意を得ること、など
【技術的な対策】
 同じ地物に複数の空間位置情報コードを付与する場合、全て
の点をプロット(可視化)すると、その位置や形状等がわか
る可能性があるため、セキュリティ上懸念がある場合、コー
ドを配置する間隔(粒度)を細かく設定しない等の対応を行
うこと。、など
サービス事業 【技術的な対策】
者が配慮すべ  空間位置情報コードと紐づいた個人情報を管理する場合、
き事項
「個人情報保護法」に基づき、適切に管理すること。
 「電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン」など既
存のガイドラインがある分野で利用する場合は、適宜組み合
わせて利用すること、など
【物理的な対策】
 すり替え等によるなりすましが起きていないかなど、定期的
にチェックすること。
 また、上記に関して、以下の観点を、利用者に対して明確に
すること。
○設置目的の設定と目的外利用の禁止
○設置場所、範囲
○設置していることの表示
○管理責任者の指定、操作取扱者の指定
○設置者等の責務
○取得した情報の適正な管理
○取得した情報の提供の制限
○個人情報保護法の遵守
○苦情への対応
○業務の委託
○保守点検 等
75
3.6 まとめ
本章では、国土地理院へのヒアリングにより、空間位置情報コードの現在の検討状
況についてまとめた。また、利用者側のヒアリングを通じて、空間位置情報コードの課
題や要件、ユースケースをまとめた。ユースケース検討の結果、空間位置情報コード
は申請対象については地物ではなく、場所に振ることが有効であること、また、民間事
業者が使えるローカル/プライベートな基準点に類するものとして利用することが有効
であることが明らかになった。
空間位置情報コードの利活用シーンは、「ID による識別・連携」及び「位置保証スタ
ンプ」に概ね分けられる。「ID による識別・連携」とは、空間位置情報コードは位置情
報点又は位置に関する情報を発信する又は読み取りが出来る媒体(IC タグなど)を識
別するためのユニークな番号であるため、場所の識別での利用や空間位置情報コー
ドと自社で管理しているコードを結び付けて利用するものである。「位置保証スタンプ」
とは、空間位置情報コードは、公的機関により発行された緯度経度座標付きのコード
であり、国がそのコードを付与、発行するということが、公的に担保された情報である
(国が位置保証スタンプを押す)ということである。
「ID による識別・連携」の利活用シーンはナビゲーション、地図、施設管理、まちづ
くり、観光、広告といった主に 6 分野のユースケースにまとめられた。また、その実現の
ためには、環境、技術、制度面の課題を解決しつつ、実例及びユースケースを充実し
ていく必要があることが明らかになった。特に、インフラ整備と社会への普及が非常に
重要であることが明らかになった。
「位置保証スタンプ」の利活用シーンでは、代表的なユースケースとして商業施設
等の出入り口にアンカーポイントを設置することがあげられる。
例えば、大型商業施設で屋内空間を利用したサービスを展開するために空間位置
情報コードをアンカーポイントに付与させる場合、高精度なサービスを提供するために
「GPS、トータルステーションで測位する方法」あるいは「屋上で測位する方法」を選択
し、その座標を用いることが望ましい。また、精度の高さより、手軽さとコストを優先させ
る場合は、「基盤地図で測位する方法」あるいは「民生用 GPS で測位する方法」を用
いた座標を利用するとよい。
また、空間位置情報コードを利用したサービスにおいて、セキュリティ対策上必要と
なるコードの申請者及びサービス事業者の配慮事項をまとめた。
76
4 官民連携等について
現在、地理空間情報を利用したサービス(測位と地図等を組み合わせたサービス)
は、市民生活にとって、身近な存在になりつつある。この背景には、屋外測位に関して
は、携帯電話やスマートフォンが GPS に標準対応し、屋内測位に関しては、IMES や
無線 LAN 等を使用したサービスが展開され始めたこと、また、地図に関しては、国土
地理院による基盤地図情報や、グーグルによる Google Maps 等、一定の条件で誰も
が無料で使用できる電子地図の公開により、利用コストが大幅に圧縮されたことなどが
あげられる。特に、フェイスブックや、フォースクエアなどのソーシャルネットワークサー
ビスにおけるチェックインや、位置ゲームなどの浸透が著しい状況である。
一方で、事業者等が地理空間情報サービスを行うためには、「①地理空間情報の
入手(二次利用による使用許諾等の処理を含む)」、「②入手した情報の加工(コンテ
ンツのマッシュアップ等)」、「③サービスとして提供」等、複数の工程を必要とするが、
そのうち、地理空間情報の入手(二次利用による使用許諾等の処理を含む)、及び整
備にかかるコストの増加などが課題となっている。
例えば、ナビゲーションサービス等を展開する事業者では、店舗や施設の情報(全
国で約 600 万件)は、電子化された電話帳データから抽出しているが、名称や住所等
以外の情報(店舗の営業時間等)情報は掲載されていないため、それらは、人海戦術
で定期的に現地調査していることが多い。また、そのようなデータの一部は、民間事業
者等により販売されているので、そこから購入しても、サービスの品質保持(網羅性と
鮮度)の観点から、現地調査を行う場合もある。地理空間情報のサービスの背景には、
このような労働集約型の要素が根強く存在しており、それがコスト圧縮できない要因の
一つとなっている。
しかし、「飲食店が出来る」、「空き地が駐車場になる」、「ガソリンスタンドができる」な
どのリアルタイムに更新される地理空間情報は、行政の関係機関へ、許可申請や、許
可書交付・登録といった手続きの際に提出される情報でもある。そして、それが認可さ
れるという事は、行政機関によって保証された情報であることを意味する。よって、これ
らの情報を、民間事業者が容易に利用できるようになれば、地理空間情報の収集・加
工・整備等の効率化が進むだけでなく、労働集約部分への投資を、他の部分(サービ
スの高度化など)に振り向けることが可能となる。
本章は、このような行政機関が保有する地理空間情報を公開し、民間の所有する情
報と融合して利用していくことを「官民連携」と称し、行政機関による地理空間情報公
開のための要件や、情報の公開における配慮事項(二次利用にあたって、加工しや
77
すいデータ形式での提供等)などを取り纏めるものである。
例えば、東日本大震災においては、自治体が公開した避難所情報が、機械判読で
きない形式(紙をスキャンした PDF 等)であったり、ジオコーディングされていない(位
置情報が入っていない)ものが多かったために、民間事業者はボランティア等とともに、
時には個人が公開しているブログ等の情報から、人海戦術で 48 時間以上費やして情
報を取得・加工(地図へのプロット等)した事例が報告されている。このような情報が、
平常時から、機械判読可能な形式、かつ、位置情報が付与されて公開されていれば、
非常時・災害時においても、迅速に情報提供ができたと考えられることから、平常時に
は、事業者の効率化・サービスの高度化に寄与し、非常時・災害時には、迅速な情報
の提供に寄与する仕組みなどの検討が必要である。
また、位置情報の付与の観点からは、ピンポイントでの位置情報が必要となる情報
(災害時における、安全な高台の位置等)は、前項までに述べた空間位置情報コード
を活用することが有効と考える。前述のとおり、空間位置情報コードの特徴は、一定の
区画(3m×3m)で場所を特定し、その場所を ID として識別できることと、その ID は国
土地理院によって管理され唯一性が保証されることである。想定される依頼者の種別
としては、行政機関、事業者、個人などがいる。本章では、このコードの主な利用者と
なる可能性が高い民間事業者を中心に、空間位置情報コード利用の諸要件をまとめ
る。
更に、唯一性が保証され、場所を特定する空間位置情報コードと、PI(Place
Identifier)を組み合わせ、事業者における民間サービスの可能性、利用拡大を実現
するために解決が必要な課題を取り纏める。背景には、既に PI は、JIS として制定さ
れており、現行のコード体系を活用しつつ、様々な場所表現を相互に関係づける特徴
があることから、それを基盤として利用することで、事業者への裨益が考えられるため
である。
78
4.1 行政機関が保有する地理空間情報の民間利用について
本節では、まず、行政機関が保有する地理空間情報の民間利用を促進するための
課題整理とその検討結果、及び、行政機関と民間サービスにおける空間位置情報コ
ードの利用拡大に向けた課題整理とその検討結果について「4.1.1 地理空間情報の
利活用サービスモデル」に述べる。
次に、空間位置情報コードや PI を活用した民間サービスの可能性、利用拡大に向
けての課題について検討した結果を「4.1.2 空間位置情報コードと他のコードを相互に
関連づけたサービスの可能性」に述べる。
4.1.1 地理空間情報利活用サービスモデルの検討
地理空間情報を行政機関及び民間事業者で利活用するための諸要件を取り纏め
るにあたり、次に示す「地理空間利活用サービスモデル」を定め、検討の基礎とするこ
ととした。
ここでいう、「地理空間情報利活用サービスモデル」とは、(1)「行政機関が保有
する地理空間情報の民間利用」と、
(2)「行政機関及び民間事業者における空
間位置情報コードの利活用」の2つの側面から構成される。それぞれの検討事項を
以下に示す。
(1) 「行政機関が保有する地理空間情報の民間利用」の視点
 行政機関が保有する地理空間情報を公開し、民間で利活用するために、行
政機関及び民間にとって、それぞれお必要なことは何か。
 行政機関と民間事業者の間で情報を共有し、円滑に利活用する際に必要と
なる情報の扱い方、及び情報の形式は何か。
 上記の検討の結果を踏まえ、民間事業者で新規サービスの創出及び既存サ
ービスの高度化を推進するための諸要件は何か。
(2) 行政機関及び民間事業者における空間位置情報コードの利活用」の視点
 空間位置情報コードを使った、民間事業者における空間位置情報コードの整
備に必要なことは何か。
 空間位置情報コードを使い、行政機関が保有する地理空間情報を民間サー
ビスで利用するために必要なことは何か。
 空間位置情報コードの整備にあたって、行政機関が果たす役割は何か。
なお、上記の検討にあたっては WG での審議、及び民間事業者や自治体等へのヒ
79
アリングを行い、それらを分析し、諸要件として取り纏めた。図表 54 に地理空間情報
利活用サービスモデルを検討の基礎とした諸要件の取り纏めまでの流れを示す。
図表 54 地理空間情報利活用サービスモデルと諸要件の取り纏め
地理空間情報利活用サービスモデル
(1)行政機関が保有
する地理空間情報の
民間利用
(2)行政機関及び民
間企業における空間
位置情報コードの利
活用
WGでの審議
企業へのヒアリング
諸要件を取りまとめ
80
(1) 行政機関が保有する地理空間情報の民間利用
○課題の整理
行政機関が保有する地理空間情報を、民間で利用することを考える前提として、まず、
「(A)コンテンツの鮮度、正確性、網羅性を維持するコストの課題」について整理した。
次に、「(B)行政機関が公開する地理空間情報を民間で利用する際の課題」につい
て整理した。
なお、本節では主に、行政機関の視点に立った課題を扱う。
(A)コンテンツの鮮度、正確性、網羅性を維持するコストの課題
現在、民間事業者では、コンテンツ 29の鮮度、正確性、網羅性を維持するために多く
のコストをかけている。図表 55 に、地理空間情報を利用したサービスを展開する事業
者の情報収集の例を示す。
図表 55 地理空間情報利活用サービスモデルと諸要件の取り纏め
横軸に収集手段、縦軸に情報量を示している。多くの場合、電子化された電話帳デ
ータを基礎データとして、タウン誌などの二次情報を用いて更新をかける。しかし、そ
れだけでは網羅性に欠けるため、地域レポーターまたは、調査員などを使って情報の
ブラッシュアップを進め、直近のデータなどは一者のクチコミや投稿を使ってブラッシ
ュアップする。
地理空間情報を利用したサービスを展開する事業者は、このようにコンテンツの網羅
性と鮮度を保つためにコストをかけている。しかしながら、これらの維持には大きなコス
29一般的なサービスとして利用されている地理空間情報は「地図」及びその上に表示する「コンテンツ」
に大別される。
81
トかかる半面、サービス価格には展開しにくいという状況が生まれている。
また、このようなコンテンツの販売を手掛ける事業者もいるが、それらを購入して整備
する事業者も、それらのコストの増分をサービス提供料にすぐに転嫁できない課題を
抱えている状況がある。
また、行政機関が保有しているものの、民間同士の取引では、コストをかけても、簡単
に入手できない地理空間情報(工事情報など)がある(詳しくは、次項で述べる)。
図表 56 現在の民間同士による地理空間情報の取引の課題
現在
民間 A
民間B
コンテンツ
地図
地図
調査
調査
82
コンテンツ入手のコスト増加
入手できないコンテンツあり
(B)行政機関が公開する地理空間情報を民間で利用する際の課題
行政機関が公開する地理空間情報を民間で利用する際の課題には、次の3点が考
えられる。
① 行政機関が持つデータの公開における課題
② データ公開に関するルールの課題
③ データ形式の課題
具体的に以下に述べる。
①行政機関が持つデータの公開における課題
民間事業者による地理空間情報の整備において、収集が難しいのが、現地調査等
によっても得ることのできない「計画(将来)」等に関する情報である。具体的には、「飲
食店が出来る」、「空き地が駐車場になる」、「ガソリンスタンドができる」などの、行政の
関係機関への許可申請と許可書交付や登録といった手続きを経た後に、営業が開始
される場所に関する情報である。
このような飲食店、駐車場などの開店や閉店などは、地方の商業地域に比べ、都市
部の商業地域では頻度が高い。民間事業者は、現地調査等によって店舗の開店(あ
るいは閉店)の情報を得ることが一般的である。そのため、民間事業者が該当店舗の
情報を知る時期は、関係機関からの許可交付書や登録が行われる時期より遅れること
になる 30。この時期的な差が「スマートフォンの道案内で、目的の店が無くなっていた」
といったサービス品質低下の原因のひとつと言われている。ここでは、店舗の情報を
例に挙げたが、店舗以外にも許可申請、認可、登録を必要する情報を行政機関が多
く保有している。
30川に掛る橋梁の情報も、市区町村のレベルになると、工事完成から、ナビゲーションサービスへの反
映まで約 2 年かかる事例が報告されている。
83
図表 57 行政機関に蓄積する許認可、届け出の情報
官
情報が蓄積
飲食店
開業・廃業情報
診療所
開業・廃業情報
ガソリンスタンド
開業・廃業情報
・・・
許可申請、届け出
民間企業
個人
また、許認可や届け出に関するデータの他にも、行政機関は多種多様のデータを
保有している。但し、それらの全てが、即、民間事業者にとって、ニーズがあるかどうか
は、今後調査が必要である。また、行政機関側も、保有する情報について、「①無条
件で公開できるもの」、「②制約を伴えば公開できるもの(一部のデータの公開や、公
開範囲の制限等)」、「③全く公開できないもの(機密事項等)」などがあると思われる。
以上のような観点から、データの公開を効果的に進めるためには、行政機関が所有
する情報の「カタログ化」を行うとともに、無条件で公開できるもの、制約を伴えば公開
できるもの、公開できないものを明らかにし、さらに、それらと民間事業者が必要とする
データとのマッチングを行う必要がある。
②データ公開に関するルールの課題
行政機関からは、平常時には統計等の一部データや、状況の変化(災害時等)によ
って、平常時は公開していないデータを公開しているが、公開する際のルールが、統
一的に整備されていないことも課題の一つである。
例えば、東日本大震災においても、自治体が所有する要支援者情報が民間事業
者へ公開されたが、個人情報を含んだ情報の提供ルールが整備されていないことが
原因で、公開が遅れ、効率よく支援が行われなかった例などが報告されている。これも、
前述のようなデータのカタログ化を行い、それぞれのデータ種別や状況(平常時・災害
時)ごとに、ひな形になるようなルールを策定することで、スムーズな公開が進むものと
84
思われる。
③データ形式の課題
現在も行政機関による情報の公開は行われているものの、公開における統一的な
ルールが存在しないため、組織毎に提供のタイミングやデータ形式がバラバラである。
データ形式については、紙をスキャナで取り込んだ PDF や JPEG 等、人間が読み取
ることは可能であるものの、機械判読不可な形式での提供が数多く存在する。そのた
め、電子的なサービスとして二次利用するには、民間事業者によって、別途加工が必
要であり、そのために多くの労力を割かなくてはならない点が課題となっている。
図表 58 公開するデータの形式の課題
行政
民間
場所、高さ
場所、高さ
Pdf
A情報
Jpeg
B情報
Pdf
A情報
住所
階数
excel
A情報
緯度・経度
標高
excel
B情報
緯度・経度
標高
加工
Jpeg
B情報
緯度・経度
標高
加工
csv
C情報
csv
C情報
目印情報
なし
excel
c情報
緯度・経度
標高
加工に時間がかかる
○課題に関する WG での審議結果及びヒアリング結果
上記課題に対し、WG での審議結果、及び行政機関や民間事業者にヒアリングした
結果について次に述べる。
①行政機関が持つデータの公開における課題
行政機関が情報を公開するにあたり、「行政機関内でデータを公開するための解釈
作り」に時間を要することがある。例えば、飲食店の開店などの許認可情報は、代理発
85
信(飲食店事業者に代わって、行政機関が代理で発信する)のような形式を用いない
と公開ができないが、それを行う指針などが存在しない。そのため、情報公開における
法制度の整備などが必要である。
「情報公開の継続性」については、公開に積極的な担当者が存在する機関では、
情報公開が進むことが多いが、多忙な通常業務や、後任への引き継ぎがスムーズに
行われていないと頓挫してしまうケースも報告されている。属人的な要素に左右されな
いように、継続性について考慮することが必要である。
ヒアリングでは、行政機関が公開したデータを、民間が有効活用することについては
歓迎する意見が数多くあった。また、公開したデータを基に民間が作ったデータを、逆
に行政機関で利用したいとの声があった(具体的には以下コメントを参照)。このデー
タ利用の流れは、本事業の官民連携が目指す一つの方向であると考えられる。つまり、
行政機関が公開したデータが民間事業者で加工・二次利用され、さらに行政機関も
利用することで、そのデータの活用の場を広げる。このサイクルの拡大が、民間事業者
での新サービスの創出、既存サービスの高度化、行政機関の事業の効率化等に貢献
する可能性が高い。
【コメント】行政機関が持つデータの公開における課題
○データ公開の解釈づくりの課題
民間のコストダウンにつながると思うが、行政データをで公開するための解
釈づくり、継続性が問題である。
例えば、GIS で様々な情報を出していくことは、GIS に精通した担当者のみ
に頼ることが多かった。一時期、様々なデータを出していたところも、数年経
過したら昔のように戻ってしまった、という言ったようなことがあった。行政
情報を公開した出した時のリスクも存在する。(官公庁)
○データ公開による市のメリット
データを公開することのメリットが目に見えてくると市としても取り組み
やすい。市が公開したデータを基に市民がグラフ化したデータを公開してくれ
ると、市側としても助かる。このような事例があれば、二次利用に関するアピ
ールにもつながる。(官公庁)
○平常時/災害時に関するデータ公開の課題
平常時には非公開となっているデータの一部について、災害時には使って良いと
は言われているが、平常時から使っていないものは、すぐには使えない。(官公庁)
86
②データ公開に関するルールの課題
(ア)データを公開するための解釈作りについて
前述の「①行政機関が持つデータの公開における課題」では、主に「データを公開
するための解釈作り」の必要性を指摘した。
この点について、ヒアリングや WG の審議から幾つかの示唆を得た。以下にそれら
を紹介する。例えば、ある市では、市の業務として作成したデータの公開の可否の判
断は、その業務に委ねられている。現時点で、当該業務担当者は、「機微な情報を含
まず、そのデータが市民にとって悪影響を及ぼさないこと」、「市民に伝える情報として
有効であること」などを判断基準として公開を行っている。(但し、データとして公開され
ているものではなく、ヒヤリ・ハット地図など、印刷媒体等で公開されている)
国土交通省では、行政データの民間利用について、平成 22 年度に「地理空間情
報の二次利用促進に関するガイドライン 31」を取り纏めている。ここでは、二次利用促
進の観点からの地理空間情報の整備・更新段階における留意点や、二次利用促進の
観点から、地理空間情報の提供・流通段階における留意点等が記載されており参考
になるものである。しかし、このガイドラインを用いた検証などを行っていないため、自
治体からの公開は進展していない。
他方、データを公開することに伴い、行政機関はそのデータに対して一定の責任を
負うことになるため、躊躇する例も確認できた。具体的には、ヒアリング結果にもあるよう
に、公開したデータが民間事業者で利用され、情報の鮮度や個人情報の扱い等によ
り、市民からクレームが寄せられることが十分考えられる。さらに、公開した情報を使用
した犯罪等のトラブルを誘発する可能性もあることから、公開を躊躇するケースがあ
る。
これらについては、トラブルの発生を防ぐと共に、トラブルが発生した際には、更に
被害が拡大しないように、事前に対策(利用規約の作成等)が必要である。
(イ)データの一元化について
既にインターネットでの公開が進んでいる統計情報については、「政府統計の総合
窓口(http://www.e-stat.go.jp/)」が整備されており、そこを使用して、多くの統計情
報が一元的に公開されている。
この仕組みのように、行政機関が公開するデータ(ここでは地理空間情報を対象)を
一元的に集約して公開したらいいのではないかという意見があった。
背景には、東日本大震災において、民間事業者が、被災者の支援等に役立つ情
報を集めるため、消防、警察、区役所、保健所など、数多くの施設に足を運んだケー
スがあった。このような課題を解決するために、例えば、災害時に役立つ地理空間情
31
http://www.gsi.go.jp/common/000056028.pdf 参照。
87
報が一元的に集約される仕組みを用意することで、民間事業者による、情報収集の負
荷が軽減できる可能性がある。
また、行政データを一元化して公開する場合に、そのデータを更新する体制ににつ
いての課題がある。他のデータ同様、位置情報を含むデータの公開自体は完了して
も、地理空間情報は時間とともに刻々と変化するため、データの更新(メンテナンス)が
重要となる。
ヒアリングでは、データの公開に積極的に取り組んでいる自治体では、位置情報を
含むデータの公開について、古いデータが公開されないよう留意していることなどが
明らかになっている。
これは、事業者が求める「情報の鮮度の担保」と同じものであるが、公開や更新対応
のための人的体制については、通常業務に加えて、大量の作業を今いる職員が抱え
てしまうようなことがあると、そもそもデータ公開に対して構えてしまう恐れがあるとのコメ
ントもある。解決策として、地域の NPO 等が代理で更新作業を行うことなどが考えられ
るが、別途、充分な検証が必要である。
前述のとおり、民間事業者は、公開されるデータについて、鮮度の担保や、高い網
羅性を求めている。特に、ナビゲーションサービスや、飲食店等の情報を紹介する
Web サイトに代表されるように、地理空間情報サービスでは、データの鮮度と網羅性
は必須の要素である。行政機関が公開するデータが、これらのサービスに大きく貢献
できることが望ましい。また、ヒアリングでは、民間事業者による公開データの更新や訂
正が可能になることを望む声もあった。
【コメント】データ公開に関するルールの課題
○自治体におけるデータ公開・非公開の判断
市の業務で様々な統計データを作成することがあるが、全てのデータが公開
対象ではなく、市の業務のみで使う場合もある。公開・非公開については、各
業務が判断することとなっている。また、公開したら有益となるのが明らかな
情報でも、市の政策として出せない場合もある。(官公庁)
自治体は、責任の負える範疇でないと動けないため、確かなな情報しか出す
ことが出来ないのが現状である。(官公庁)
○利用規約に関する課題
行政が保有するデータを公開し、民間で効果的に利用するためには、データ
の公開、及び利用等のルールを規約等で明確にすることが必要ではないか。と
りわけ、民間事業者による二次利用の場面では、利用のための条件を容易に判
断できる仕組み作りなどが必要である。(WG での審議)
88
○公開するデータの一元化
多摩川町会では、近年、住民が増えてきている中で、防災マップ等を自主的
に作ろうとしているが、入手の必要がある情報については、消防、警察、区役
所、保健所など多く所に出向かなければならない。このような情報が一元化さ
れていて、必要な時に、必要な情報が得られれば有効活用できる。災害時には、
駅やショッピングモールに設置されているデジタルサイネージ等を使って、情
報を提供できるかもしれない。(まちづくり関連企業)
○データの新鮮さ、網羅性の確保情報
どこに何の情報があるか、取り出しやすいようにインデックスのサイトがあ
れば良い。それとともに、行政側で、データの新鮮さ、網羅性は確保して欲し
い。(位置情報サービス企業)
○公開するデータの更新(1)
位置情報が付いている情報に関しては、時間の経過とともに、変更がある可
能性があるため、どのように更新するべきか留意しなければならない。
例えば、市が公開して、利用されたデータが古いとクレームにつながる可能
性がある。(官公庁)
○公開するデータの更新(2)
民間事業者によって、行政データに対して、共通のルールのもとで、書き加えや、
間違いのとき修正できれば良い。(位置情報サービス企業)
○データ公開に係る体制の課題
地図の複写については、複数の地図会社から、一日数百枚の単位で情報公開
請求が届く。それに対応するためには、職員数人が二時間くらいの残業で作業
を行わないと、データ出しが追いつかないのが現状である。
本件におけるデータ公開で、申請の手続きのタイミングが常時起こるとなると、自治体
はデータ公開に対して構えてしまう(消極的になる可能性がある)のではないか。(官
公庁)
③データ形式の課題
現在、自治体が公開しているデータは、自治体ごとにデータの出し方(公開方法、
公開形式、公開のタイミング等)が異なっている。民間事業者はそのデータを利用する
ために、機械可読な形式への変更や、位置情報がない場合は現地調査によって取得
する等、時間と手間をかけている例が多い行政機関が公開する地理空間情報の民間
利用を促進させるためには、この「二次利用 32におけるデータ形式」は重要な課題で
32
一般的に、「二次利用」には①電子データ形式としての利用のしやすさなどを意味する二次利用と、
②著作権などの各権利における二次利用の2つの側面があるが、本節では前者を中心に課題を整理し
ている。
89
ある。
二次利用しやすいデータ形式での公開は、ひとつの自治体だけでなく、都道府県、
国も含めて総合的に行う必要がある。言いかえれば、ある共通形式に沿ってデータを
公開することで、公開する側も、利用する側もその負荷が圧縮できる。
【コメント】データ形式の課題
○自治体独自の仕様の課題
地方公共団体のシステムはバラバラであるが、自治体同士が連携して、クラ
ウド等を活用することで費用削減を目指している。自治体独自仕様の部分につ
いては、今後どのようにしていくかが課題。(団体・協会)
○統一されていないデータ形式の課題
国や自治体のデータの出し方に課題があると思われる。例えば、まちづくり
には人口統計が必要だが、この情報は、自治体ごとにデータの出し方が異なる
(Excel、PDF 等)のが問題である。形式が違うデータを利用するのに、加工
等の作業で膨大な時間がかかり、その間に商機を逃しかねない。人口統計に、
世帯統計などが紐付いた状態でどこかに貯まっていて、取り出しやすく公開さ
れていると有効活用できる。(まちづくり関連企業)
○二次利用しやすく
二次利用しやすい形で公開してくれると、利用促進の面で効果が大きい。
(位
置情報サービス企業)
○機械可読の形式に
機械可読の形式で公開する仕組み作りを早急に行わなければならない。一つ
の自治体だけでなく、都道府県、国も含めて行う必要がある。(官公庁)
○一定の形式でのデータ提供の事例
震災の教訓の例であるが、電力自給のデータを提供し、民間事業者に使用し
てもらえないか呼び掛けたところ、そのデータを活用したアプリケーションが
50 個程位集まった。地下鉄の駅のデジタルサイネージに、現在の使用状況を表
示したり、電力ピークカットに貢献する新しいサービスが実現した。
(官公庁)
上記①~③の課題を以下の通り整理した。
90
図表 59 行政機関が保有する地理空間情報の民間利用の課題整理
No
課題
①
行政機関が持つデータの公開における課題
・行政機関がデータを公開するための解釈作り(データを
公開する業務を行うための指針)が難しい。
・データ更新の継続性を担保できない場合がある。等
②
データ公開に関するルールの課題
・データを公開するための解釈作りが難しい。
・定型化したデータの公開方法がない。
・データの更新を行う体制が整えられない。等
③
データ形式の課題
・現在、自治体が整備しているデータは、それぞれ独自の
仕様に基づいて作成され、データ公開の方法も異なって
いる
・標準化された二次利用しやすいデータ形式がない。等
○課題の対応策
上記でまとめた①~③の課題の対応策の検討結果を以下に述べる。なお、この対
応策はヒアリング、及び WG の審議結果で得た結果と事務局で取り纏めた案を基とし
ている。
①行政機関が持つデータの公開における課題の対応策
ヒアリング及び WG での審議を通じて、事業者は行政機関が保有するデータの公
開について、大きな期待をしていることが明らかとなった。特に、行政データが公開さ
れることで、新サービスの創出、既存サービスの高度化につながることを期待している。
一方で、公開における共通の指針などが無いため、行政機関ごとに、個別に検討を進
めている状況である。そのような状況を解決し、官民連携を促進するための対応策を
以下に記述する。
○公開するデータのカタログ化
データを公開するためには、まず、現在保有しているデータを仕分けする必要があ
る。行政機関が保有するデータのうち、「①無条件で公開できるもの」、「②制約を伴え
ば公開できるもの(一部のデータの公開や、公開範囲の制限等)」、「③法律や条例な
どの制限により、まったく公開できないもの」等でデータの仕分けを行い、カタログ化を
91
実施する必要がある。
○データ公開のためのルールの策定
行政機関がデータを公開するためには、共通的なルール(解釈作り)が必要となっ
ている。現状では法律や条例等に準じた、あるいは各行政機関が、個別に定めた基
準に従って、その公開ルールを定めている(但し、実際に公開されるデータは少ない)。
そのため、行政機関で保有しているデータを公開するための共通のルール(指針など)
を新たに定めることが必要である。但し、公開するデータの性質、関連する業務種別、
自治体や国などの行政機関の種別などによって、共通のルールでは対応しきれない
ものがあることも想定されるため、その点は、行政機関ごとに調査が必要である。
なお、データ公開のためのルールには、上記の点等を踏まえ、その他に、総則に相
当する事項の記載が必要と考えられる。例えば、「目的、データを公開することの意義、
データの公開/非公開の判断基準、データの品質、データの網羅性、データの形式、
データの更新、公開方法、作業委託など」が記載されると思われる。
この総則に相当する事項に加え、下記②で述べるデータ利用規約の作成も必要で
ある。
○継続運用できる体制の確立
共通ルール等の作成に加え、それを用いて、継続的な運用を行うことが重要であ
る。。そのために、共通ルールでは、継続的に運用するための体制作りについても考
慮するべきである。行政が提供する地図においては、例えば、三重県では、「三重県
自治会館組合」を設立し、地図精度 1/1000 の道路縁や、1/2500 の地形図の整備を
進めている。そこで、地域のNPO法人による運用や、ジオコーディングツール 33等の
導入などによるコスト削減等で、継続運用のための最適化を図る体制作りを行うことが
考えられる。これらの仕組みの実現のためには、データ作成から、提供、利用までの
一連の流れをPDCAとして回すことが必要であるため、実証等を通じての検証が必要
である。
○行政機関が保有するデータ種別と民間事業者が必要とするデータ種別間のマッチ
ング
先のカタログ化に合わせて、民間事業者には、そのカタログ情報について、ニーズ
のヒアリング等を行い、利用ニーズが高いものから公開を検討することが必要と考えら
れる。
33
例えば、住所を緯度経度に変換すること。
92
②データ公開に関するルールの課題の対応策
データを公開するためには、先に述べた公開するためのルール作り(指針等)が必
要である。
○データ公開のためのルールの考え方
ヒアリングの結果にもあったように、現在行われている、一部の行政機関のデータの
公開/非公開の判断は、各業務担当で行われている。ここで行われている判断の基準
を参考にしつつ、共通ルールを検討することが有効である。
今回の調査では、「機微な情報を含まず、そのデータが市民にとって悪影響を及ぼ
さないこと」、「伝える情報として有効であること」などの判断基準が明らかになったが、
他の事例も収集・分析し、共通化されたルール(指針等)としてまとめることが肝要であ
る。
○利用規約
利用規約には、公開するデータの二次利用を明確にするために、データの再利用
可、再配布可について記載する。
また、公開したデータが事業者で利用されることで、そのデータが原因で、様々なト
ラブルが発生することは十分考えられる。 34
民間事業者間、あるいは、民間事業者と一般消費者との間では、データの利用規
約(個人情報の扱い等)を明らかにするのが一般的である。具体的には、利用規約と
して、利用目的等を明らかにし、さらにトラブルが発生した際の責任の範囲についても
明記している。
民間事業者のデータの利用規約が、そのまま行政のデータの利用規約にも適用で
きることはないと思われるが、それらを参考にして、行政が公開するデータに関する標
準的な利用規約を作成することが肝要である。
民間事業者は、ルールを設けた上で、自分達の手によって、公開データの更新や
訂正が可能となることを望んでいる。また、一方で、前述のとおり、行政機関も、民間事
業者が更新した情報を利用したい、というニーズも確認できた。これが実現すれば、官
民連携が具体的に進むと思われる。
一方で、悪意のある攻撃者によるデータの改ざん、ウィルスの混入、サーバ機の乗
っ取りといった、セキュリティ上の課題の他、誤った更新、誤りによるデータの不整合な
民間の例であるが、海外では Google マップを使って事故になったとして、裁判になっている事例も
報告されている。
(http://www.technewsdaily.com/556-bad-directions-from-google-maps-lead-to-lawsuit.html)
34
93
ど、故意ではないものの、データに悪影響を及ぼす行為などが発生してしまうことに注
意しなければならない。
以上の対応策等を整理すると、利用規約には、例えば、再利用可、再配布可、禁
止事項などを記載することが考えられる。
③データ形式の課題の対応策
自治体をはじめとする行政機関が整備するデータ形式は、現在統一されていない
課題の対応策として、単純に「統一すればよい」ということではない。具体的には、事業
者が利用し易い形式(機械可読な形式を含む)を目指す必要がある。そこで、まずデ
ータ形式に求められる要件を整理した。①二次利用を容易にするため、機械可読な
形式であること、②インターネットでの利用が容易であること、③データ形式の利用に
おいて、対価が発生しないこと、④データ作成・編集のツールが充実していること、な
どが挙げられる。欧米では、上記を満たすデータ公開の考え方であるLinked Open
Data 35の検討が進んでいる。
○ユースケース:行政機関が保有する地理空間情報の民間利用
上記でまとめた課題、及び対応策の検討結果を踏まえ、行政機関が保有する地理
空間情報を、民間で利用したユースケースについて述べる。
図表 60 官民連携のユースケース
これまでは、人
海戦術で調査
していた
コスト
圧縮
【通行規制情報】
○日時:3/9 9:00~12:00
○場所:国道1号線
○理由:マラソン大会開催
のため
この近くの
駐車場は
どこ?
行政データ
警察署
【駐車場設置届】
○日時:3/9から
○場所:御成門交差点
自治体
駐車場設置届
通行規制情報
ナビゲーション会社
35
3/9 10:00現在
この位置だと通常は青
ルー トだが、交通規制中
か。であれば、御成門交
差点に駐車場が新設され
たから、赤ルートが最適だ。
既知だけど、新設された
駐車場に比べたら遠
い・・・
Linked Open Data については、「(4)二次利用に関する海外の先行事例の概要」を参照。
94
図表 60 で示すユースケースは、警察署、及び自治体が公開した行政データを、民
間のナビゲーション会社が活用し、サービス高度化を図る例である。
具体的には、警察署から「交通規制情報」が、自治体からは「駐車場の場所に関す
る情報」が、それぞれ公開された場合を想定している。自治体が公開する駐車場の情
報は、駐車場を営む民間事業者が駐車場の開設の際に、自治体へ「届出」されるもの
が基である。警察署の交通規制情報には、図中の中心を上下に通る大きな道 36で「何
月何日にマラソン大会が開催される情報」が含まれている。ナビゲーション会社はこれ
らの情報を基に、本来であれば、最も近い駐車場をサービス利用者に案内するところ
を、交通規制の影響を受けてしまうために、その駐車場の案内を避け、次の候補として、
自治体が公開した駐車場の情報から得た、次に近い駐車場を案内することができるこ
とを示している。
このように、行政機関のデータを活用することで、民間事業者のサービスの高度化
が図れ、延いてはエネルギーの効率化、CO2 の削減等にも貢献できると考えられる。
(2) 行政機関及び民間事業者における空間位置情報コードの利活用
○課題の整理
前述のとおり、行政機関が公開する地理空間情報を民間事業者が利用することで、
新規サービスの創出や既存サービスの高度化が期待できる。さらに本節で述べる、空
間位置情報コードを併せて利活用することで、一層効率化が図れることが期待されて
いる。
そこで、行政機関及び民間事業者で空間位置情報コードを利用する際の課題につ
いて整理した。
○行政機関及び民間事業者で空間位置情報コードを利用する際の課題
WG 及びヒアリングで挙がった課題は次のとおりである。
行政機関が空間位置情報コードを利用する際の課題のひとつに、「空間位置情報
コードを付与する場所」に関することがある。市民にとって、身近な施設である、交差点、
駅、警察、消防、市役所等は、先行して空間位置情報コードを付与することが必要で
あると考えられる。そのため、いかにこれらの施設にコードを付与するかが課題であ
る。
WG での審議で、「消防署は電柱の番号だけで目的地に到達できる。空間位置情
報コードと組み合わせるとワンランク上のサービスができることを期待している。」とのコ
メントがあった。空間位置情報コードの場所をユニークに識別する特徴を活かし、既存
36
道路は”線”としての広がりをもつため、”点”である空間場所情報コードで道路を表現するには、”点”
とそれ同士を結ぶ”リンク”を組み合わせるなどの工夫を施す。
95
のコードを組み合わせて利用することを意識した利活用を検討する必要がある。さらに、
この既存のコードの組み合わせについては、行政機関、民間事業者問わず検討が必
要である。
空間位置情報コードを記録する ucode のチップの仕様にもよるが、電源を必要とし
ない ucode のチップ(パッシブ型 RFID)を利用すれば、例えば、災害時等において、
GPS 測位が出来ない場合の代替手段として、空間位置情報コードを活用できる。この
ような視点(デュアルユース)も意識した空間位置情報コードの整備が必要である。
今日、不動産の売却は頻繁に行われている。空間位置情報コードを付与したビル
の売却の前後を考えた場合、元のオーナーが申請し発行された空間位置情報コード
に関する情報を、ビルと共に販売して良いかどうか等の検討が必要である。つまりビル
の所有権移転は、通常の売買と登記で成立するが、空間位置情報コードについては、
そもそも情報の所有権の扱いをどうするか、発行元が所有するのか、発行依頼者が所
有するのか、この点を明確にする必要がある。
【コメント】行政機関、民間事業者における空間位置情報コードの利活用の課題
○ランドマークのコード化必要性
交差点、道路、駅、バス停といったランドマークになりそうなもの(場所)
のコード化が必要ではないか。さらにそのコード化は、行政機関と民間事業者
でバラバラにならないようにする必要がある。(WG での審議)
○既存のコードとの連携によるサービスの高度化
消防署は、電柱の番号だけで目的地に到達できるということもある。その様
なものと組み合わせると、ワンランク上の危機管理サービスができる、という
ところを期待している。(WG での審議)
○GPS の代替手段としてのコード整備の必要性
有事の際に携帯網が動かないこともあると思うが、コードを読めばある程度
の場所を把握することができるので、有事の際には GPS に代わる代替的な側
面もある。(WG での審議)
○不動産の流用性、所有権の課題
ビルに関しては、今は頻繁に取引されるものになってきた。ビルオーナーと
して登録したのだが、ビルを売った後はどうするのか。情報を廃止するのか、
情報を売って良いのかについても考える必要がある。不動産についても流動的
になっている。位置情報の所有権はいつまで誰のものかについて、整理できれ
ば、社会インフラの管理にも使えると思う。(まちづくり事業者)
96
○ヒアリング及び WG の審議の意見を整理した結果のユースケース
ヒアリング、及び WG での審議では、行政機関及び民間事業者における空間位置
情報コードの利活用に関するユースケースのコメントを頂いた。主なユースケースを次
に示す。
駐車場の場所の管理
一般の駐車場(不特定多数の人が利用できる駐車場)については、設置届や管理規
定届を自治体や警察署等に提出している。これらの情報が公開されれば、駐車場の位
置や、駐車場内の自動販売機を空間位置情報コードで紐付けた管理ができると思われ
る。
(WG での検討)
さらに、上記に対して、
「現在この駐車場は空いている」等のソーシャル情報(Twitter
等)を PI で紐付けし、リアルタイムな情報が提供できるのではないか。
(WG での検
討)
安心安全の観点からは、自治体等が保有するハザードマップが公開されると、地域
毎の防災計画が立てられるのではないか。
(現在は各地の県警から様々な方法で公開さ
れているが、同じ情報でも地域が違う場合、検索方法が異なっている。建築情報も自
治体によって異なる)
(WG での検討)
ファシリティ-マネジメントでのコード利用
空間位置情報コードの使い方は 2 つあると思う。グループ内のファシリティマネジ
メントの中で、工事業者がそこで作業を行ったかどうかを見るための位置管理に使え
ば、コストダウンにつながると思う。工事事業者でプロフェッショナルな人がいなく
なり、場所がわからなくて迷う方がいる。空間位置情報コードを使えば、電柱を使っ
て作業指示ができる。AR で建物、電柱についても確認できる。
(通信事業者)
3mキューブのリンク
場所情報コードのメッシュは、現実空間と仮想空間をつなぐキーになりそうな気が
する。例えば、アドレスマッチング用データとして使えないかと思う。例えば、北区
で用意していただければ、地域資源、面白い場所を、住所や場所でなく、3m キューブ
でリンクして使えるようになり、溜まっていくと面白いと思う。この 3m 四角の大き
さであれば、人や大きなものを運ぶサービスを展開すると面白いかもしれない(空間
コンサルタント事業者)
人口減少社会、価値を見いだす
新しい住宅団地等を作った後は、公共の管理は委託する形が通常のやり方である。
人口が減少している中で、新しい街を作ることは意味が無くなりつつある。都市更新
が高齢化社会の中で大事になってきている。既存のものをもう一度見直す、管理する、
何度も使い続けるということが重要になってくる。
今まで価値を見いだせなかったものに位置情報が付くと意味が出てくることがある
と思う。一般の駐車場(不特定多数の人が利用できる駐車場)について、設置届や管
理規定届を自治体や警察署等に提出する。これらが公開されれば、駐車場の位置や駐
車場内の自動販売機を空間位置情報コードで紐付けた管理ができると思われる。
(まち
づくり事業者)
また、ユースケースではないが、空間位置情報コードへの期待の声を次に示す。
97
【コメント】空間位置情報コードへの期待の声
○位置の担保によるメリット
位置情報の担保がされれば、民間のサービスがやりやすくなる。(通信事業
者)
○GPS では扱えない、高さの表現
GPS の高さは海面からの高さとは違う。正しい高さを取得するのは難しい。高さをう
まく扱うアプリケーションが、GPS に出来ない可能性としてあると思う。(WG での審
議)
98
○行政機関と民間事業者が連携して空間位置情報コードを整備
空間位置情報コードを使った新サービスの創出、既存サービスの高度化を効率よく
推進するためには、行政機関と民間事業者が連携して、空間位置情報コードを整備し
ていくことが必要である。
具体的には、行政機関は、公的な場所(交差点、役所、消防、警察、保健所、図書
館など)を整備した上で、民間事業者においての利用を促進し、結果として市民サー
ビスの向上を図ることが望ましい。
一方で、民間事業者側も、行政機関の整備が進むのを待つだけではなく、新規サ
ービスの創出、既存サービスの高度化を進めるために必要な取り組みや、できることは
何か、等の検討が必要である。
ビジネスの観点では、マネタイズ(収益を生む事業家)が重要である。先のユースケ
ースのような情報を基に、集客や収益拡大などの可能性について、今後、具体的な検
討が必要である。
図表 61 に行政機関と民間事業者が連携して、空間位置情報コードを整備するイメ
ージを示す。
図表 61 行政機関と民間事業者が連携して空間位置情報コードを整備
行政機関
①発行依頼
国土地理院
②発行
民間企業
①発行依頼
②発行
③設置
③設置
行政機関と民間企業が連携して空間位置情報コードを設置
空間位置情報コードを数多く面的に広げることで新たなサービスの創出が期待できる。
99
○行政機関と民間事業者がそれぞれ管理する空間位置情報コードを組み合わせた
ユースケース
行政機関が整備する空間位置情報コードと、民間事業者が整備する空間位置情報
コードを組み合わせたユースケースの一例を図表 62 に示す。
図表 62
行政機関・民間事業者が管理する空間位置情報コードを
組み合わせたユースケース
現実空間での空間位置情報
コードの利用イメージ
(ユースケース例)
○目的の駐車場を特定
・大量の自販機管理(外部委託等)に有効
・自販機設置、撤去
・商品補充、代金回収、機器メンテ
水道工事で通行止め
運転者、歩行者に通知
自販機会社 B社の
自販機の場所を意味する
空間位置情報コード
コインパーク会社 A社の
駐車場の場所を意味する
空間位置情報コード
自治体Cが管理する
マンホールの場所を意味する
空間位置情報コード
このユースケースは、駐車場(コインパーキング)を展開する民間事業者と、マンホ
ール管理する自治体が、それぞれの地物に対して、空間位置情報コードを付与し、サ
ービスを高度化する例である。具体的には、全国的に多くの駐車場を展開している A
社が、自社の駐車場の位置を効率よく管理することによるコスト削減を図るために、空
間位置情報コードを駐車場に設置することが考えられる。また、更なる収益拡大のた
めに、駐車場の空きスペースに対し、自動販売機の設置を奨励し、全国にある大量の
駐車場の場所を、空間位置情報コードで一括して、全国の自動販売機会社に案内す
ることができる。さらに、空間位置情報コードの利用が、カーナビゲーション分野等で
進めば、自社の駐車場への誘導につながる可能性がある。また、自治体が管理する
マンホールに空間位置情報コードを付与する場合を想定する。そのマンホール周辺
で工事を行う際、自治体は工事情報を空間位置情報コードとともに公開すると、マンホ
ールのそばにある A 社の駐車場へ向かう車に対して、工事周辺を回避するルートで案
100
内することができ、サービスの高度化につながると考えられる。
○空間位置情報コードを利用した分野横断的なデータ連係
図表 62 に示したユースケースでは、駐車場を経営する民間事業者(A 社)と自動
販売機の事業を展開企業(B 社)が登場している。この 2 社間で空間位置情報コード
を共有すれば、駐車場の管理や、自動販売機のメンテナンス等、企業横断的なサー
ビスの展開や効率化が図れる。
A 社が管理する空間位置情報コードと、B 社が管理する空間位置情報コードの座
標が一致すれば、同じ場所(3m 区画内)を示す。例えば、A 社が管理する駐車場に
設置してある自動販売機が故障したしたことを、空間位置情報コードを使って機械的
(システム化)に B 社に情報共有することができる。
行政機関、民間事業者問わず、大量の物や場所を対象とした管理を行う際には、
識別のために ID を利用するのが一般的である。空間位置情報コードを導入すること
想定すると、全ての場合において、既存の ID を廃止してまで空間位置情報コードに
置き換えることは考えにくいが、同じ地物を指し示す空間位置情報コードと、既存の
ID とが紐づくような仕組みを導入することが有効であると思われる。
具体的な方法として、後述する PI を応用し、空間位置情報コードから住所に変換し、
その住所を使って Twitter で”つぶやく”などの連携も可能である。図表 63 に、空間
位置情報コードを利用した、分野横断的なデータ連係のイメージ図を示す。
行政機関にとっても、民間事業者が管理するデータを共有できるメリットがある。次
に、官民でのデータ共有について、ヒアリング結果を示す。
【コメント】データ連携
○官民でのデータの共有
官側としては、民間事業者の管理している「モノ」の把握は困難であるが、
民間事業者の管理している「情報」を共有できれば、その情報の精度が上がっ
ていくはずである。(官公庁)
101
図表 63 空間位置情報コードを利用した分野横断的なデータ連係
国土地理院
災害等に役立つ
人流等のデータ
を自治体に
フィードバック
・マンホール情報を公開
・道路工事情報を公開
空間位置情報コードを発行
PI変換サービス
( 仮称)
その他の公開情報の例
・飲食店の開業・廃業
自治体C ・ガソリンスタンド開業・廃業
・診療所
データ連係
簡単な操作
で公開データ
を作成
電子地図上での
場所の確認
機械可読な
形式で公開
将来的には
M2Mを実現
PIで場所の
表現を変換
(場所コード→住所)
場所について
のつぶやき
(リアルタイム)
LOD
形式
コ インパーキングA社
自販機会社B社
独 自 コード
場 所 コード
BB001
XX081-01
BB002
BB003
BB004
場 所コー ド
独 自コー ド
XX001-01
AA001
XX003-02
XX002-01
AA002
XX091-01
XX003-01
AA003
XX092-01
XX004-01
AA004
同じ場所
分野横断、迅速、機械的データ連係、二次利用
102
(3) 行政機関及び民間事業者における地理空間情報の利活用についての諸要件
本節では、これまでに述べた、行政機関、及び民間事業者における、地理空間情
報利活用についての諸要件を整理する。
No
諸要件
①
行政機関が保有するデータの公開に関する諸要件
・公開するデータを仕分けること。
・データ公開のためのルールを作ること。
・継続的な公開を行うための運用の仕組みを想定するこ
と。
・公開するためのルールとして、総則や利用規約等を想定
すること。
・行政機関が保有するデータと、民間事業者が必要とする
データを比較し、何の情報が提供されれば、民間事業者
がサービス等で使用できるかを調査すること。
②
データ公開に関するルールの諸要件
・データ公開のためのルールの基礎として、既にデータを
公開している自治体の運用ルールを参考にすること。
・公開するデータの利用規約を策定すること。
・上記には、再利用可、再配布可、禁止事項等を記載する
こと。
③
データ形式に関する諸要件
・二次利用を容易にするため、機械可読な形式とすること。
・インターネットでの利用が容易であること。
・データ形式の利用において対価が発生しないこと。
・データ作成・編集のツールが充実していること。
④
行政及び民間で空間位置情報コードを利活用する際の諸
要件
・既存のコード(民間事業者独自の ID 等)を組み合わせて
利用可能な仕組みであることを留意すること。
・災害時等の際、GPS 測位が出来ない場合の代替手段と
して、空間位置情報コードを活用できることに留意するこ
と。
・空間位置情報コードの所有権について明確にすること。
・行政機関は、まずは公的な場所(交差点、役所、消防、警
察、保健所、図書館など)を整備し、民間事業者での利用
103
No
諸要件
を促進すること。
・民間事業者では、マネタイズ(収益を生む事業家)の可能
性について、具体的な検討が必要であること。
・既存の ID を廃止するのではなく、同じ地物を指し示す
空間位置情報コードと、既存の ID とが紐づくような
仕組みを導入すること。・機械可読かつ、二次利用しや
すいデータ形式にする必要があること。
上記の諸要件については、今後、さらにヒアリングや WG での審議を重ね、その結
果をガイドブックに記載することが必要である。
これまで述べてきた通り、行政機関が保有する地理空間情報を公開することで、現
在は、民間独自で行っているコンテンツの調達コストの圧縮に寄与する。この圧縮した
資金を、既存サービスの充実や、新規サービスの立ち上げに活用することも可能にな
ると思われる。図表 64 に行政機関が地理空間情報を公開する将来のイメージを示
す。
104
図表 64 行政機関がデータを公開する将来のイメージ
将来
官
民間
コンテンツ
飲食店
開業・廃業情報
地図
調査
診療所
開業・廃業情報
ガソリンスタンド
開業・廃業情報
許認可、届け出
圧縮
官が公開したデータを入手
・調達コストの圧縮 → サービス充実へ注力
・官が持つデータの公開
新規サービスの創出、既存サービスの高度化
105
・・・
(4) 二次利用に関する海外の先行事例
行政機関の地理空間情報の公開と、民間事業者による二次利用を進めるうえで、
海外の先行事例は参考になる。例えば、欧州では 10 年前にパブリックセクターインフ
ォメーションの EU 指令も出ており、公開データを使用して、サービスを展開している
事例もある。以下に、具体的な事例を示す。
○米国政府の例
米国では、平成 21 年 5 月、米国政府がオープン化された公共データのポータルサ
イトとして「Data.gov」 37を公開している。このサイトでは、人口統計、犯罪統計、経済
状況、環境等、数多くの統計データを提供している。また、提供されるデータは二次利
用を考慮し、XML、XLS、CSV、KML等の形式で公開され、民間事業者はダウンロ
ード及び利用できる仕組みとなっている。
図表 65 米国政府が公開しているオープン化された公共データのポータルサイト
37
http://www.data.gov/ 参照。
106
○二次利用に関する英国の先行事例
英国国立公文書館では、英国政府・公共機関のデータに適用するライセンス
「Open Government Licence(OGL)」を発表している。
このライセンスでは、政府のデータを許可なしに、民間事業者が再利用できるように
するもので、アプリケーションや Web サイトでの利用を奨励することで、経済活性化を
図っている。さらに OGL は、政府や公共機関のデータを再利用するにあたっての障
害を取り除くために、Creative Commons などのライセンスモデルと互換性があり、シ
ンプルさと柔軟性が特徴である。同ライセンスにより、これまでは政府データの利用に
必要だった登録や申請作業が不要となり、民間事業者は、政府や公共機関のデータ
を再利用して、アプリケーションやサービスを開発・提供できる仕組みとなっている。ま
た、イングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズの政府・地方政府、公共団
体に適用される。(引用:マイナビニュース)
○Linked Open Data の概要
Linked Open Data 38(以降、LOD)は、セマンティックWebにおける新しい流れで、
欧米を中心にW3Cや分野のコミュニティにより、データの公開と利用が進められてい
る。LODは、Webの技術を利用して、計算機が処理しやすい形式で情報を共有する、
新しい仕組みである。インターネット上のオープンな場へLODの形式で発信すること
で、情報を多くの人々へ迅速に伝えることが可能となる。また、発信された情報を、
Web上で共有したり、相互につなげる(Linkする)ことによって、Web上に巨大な知識
データベースが形成されていく。こうした知識を利用することで、近年では、価値ある
新しいサービスが立ち上がり始めている。図表 66 は、LOD形式で公開されているデ
ータの関連を表現している。
38
http://lod.sfc.keio.ac.jp/challenge2011/aboutlod.html 参照。
107
図表 66
LOD 形式で公開されているデータの関連
○著作権の明示に利用できる Creative Commons
ヒ ア リ ン グ で は 、 地 理 空 間 情 報 を 公 開 す る 際 の 著 作 権 の 明 示 に 「 Creative
Commons 39(以降、CC)」が有効であるとの意見を頂いた。地理空間情報を行政機関、
及び民間の間で、円滑な二次利用を活性化させるにあたっての障害を取り除くため、
CCを利用することを提案している。本調査事業で対象としている地理空間情報利活
用モデルでは、地理空間情報の入手方法のひとつとしてインターネットを想定してい
る。
CC はインターネット時代の新しい著作権ルールを目指すとしていることから、インタ
ーネットとの親和性が高い。そのため、地理空間情報をインターネットで公開する際の
著作権の明示等に CC を活用できるはずである。
39
http://creativecommons.jp/ 参照。
108
図表 67 Creative Commons Japan
○クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは
クリエイティブ・コモンズとは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC ライセンス)
を提供している国際的非営利組織とそのプロジェクトの総称です。CC ライセンスはインタ
ーネット時代のための新しい著作権ルールの普及を目指し、様々な作品の作者が自ら「こ
の条件を守れば私の作品を自由に使って良いですよ」という意思表示をするためのツール
です。CC ライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通さ
せることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすること
ができます。
○現在の日本の情報公開(統計情報)
一方、我が国でも、日本の政府統計関係情報のワンストップサービスを実現するた
めに、平成 20 年度から本稼働した政府統計のポータルサイトである、「政府統計の総
合窓口(e-Stat)」がある。このサイトでは、従来、各府省等のホームページに掲載され
ていた各種統計関係情報を、ワンストップで提供することを目指し、各府省等が登録し
た統計データ、公表予定、新着情報、調査票項目情報などの各種統計情報を提供し
ている。公開される主なデータ形式は、XLS や PDF である。
109
4.1.2 空間位置情報コードと他のコードを相互に関連づけたサービスの可能性
について
4.1.1 では、行政機関が保有する地理空間情報を公開して、民間で利活用したり、
空間位置情報コードを用いて、企業間、あるいは地域の情報連携について述べた。
本節では、空間位置情報コードと、その他のコードを相互に関連づけるサービスの可
能性について述べる。
ここでいうその他のコードとは、連携の対象が空間位置情報コードであるからして、
地理情報、特に場所や位置を識別できる必要がある。また、空間位置情報コードが、
インターネットでの利用を想定していることから、インターネットとの親和性が求められ
る。
この要件を満たすコード体系は幾つか存在する。本節では、そのコードとして PI
(Place Identifier:場所識別子)を想定して、サービスの可能性について述べる事と
する。
まず、PI の概要について次に示す。
(1) PI の概要
PI(Place Identifier:場所識別子)は、同じ場所に対して付与された、異なる識別
子(ID や呼び名)の関連付けを行うものである。例えば、「東京タワー」、「日本電波
塔」、「東京都港区芝公園 4-2-8」、「北緯 35 度 39 分 31 秒,東経 139 度 44 分 44
秒」という、別々な呼び名やコード(識別子)が、同一の場所を指し示す場合、これらは
同じ識別子である、ということを実現する仕組みである。
当協会では、これまでも PI の JIS 化、並びに様々な国際規格化に携わり、経済産
業省「G 空間プロジェクト」においても、PI を活用したサービスの事業実証等を実施し
ている。また、PI の利活用推進の検討及び関連ツールの開発を行うなど、PI の普及
活動も実施してきた。
110
図表 68
PI の概要
PI は既に「JIS X 7155:2011」(地理情報―場所識別子(PI)アーキテクチャ)として
JIS 規格として制定され、さらに当協会は、ISO/TC211 のエディタを務めるなど、PI の
国際標準化(DIS19155)を推進した。平成 24 年 7 月には国際標準(ISO 19155:
Geographic information — Place Identifier (PI) Architecture)として制定される
見通しである。
111
図表 69
2008年度
(20年度)
NWIP
PI の国際標準化の進捗状況
2009年度
(21年度)
2010年度
(22年度)
2011年度
(23年度)
2012年度
(24年度)
2008-10承認
CD
2010-02
DIS
2011-01
FDIS
2012-01
IS
2012-07
NWIP:
New Work Item Proposal(新業務項目提案)
PT:
Project Team(プロジェクトチーム)
WD:
Working Draft(作業原案)
CD:
Committee Draft(委員会原案)
DIS:
Draft International Standard(国際規格案)
FDIS
:
Final Draft International Standard
(最終国際規格案)
(2) 課題の整理
空間位置情報コードと PI を連携したサービスの可能性について、ヒアリング、及び
WG での審議を基にまとめた結果、次の課題が明らかになった。
○空間位置情報コードと PI を連携したサービスに関する課題
○PI のデータベース作成の課題
PI でいつでも連携できるようなデータベース作りの意識が必要である。 全
てを自動化しようとすると、コストがかかるので、まずは、位置情報のクロー
リングを行い、人力で紐づける等の対応を行うことが現実的ではないか。(官
公庁)
○PI のデータベース作成の課題
PI データベースを誰がどのように作成するのかが課題である。(WG での審
議)
○メンテナンスにかかるコストの課題
店舗名の多言語表示や、表記のゆれ等が存在するため、最初から精度の高い
辞書を作ろうとすると、完成するまで時間がかかり、普及が遅れるのではない
か。(WG での審議)
○品質確保の課題
PI の品質をどのように保証するのかが課題である。(団体)
112
(3) 課題の対応策
前節の課題について、さらにヒアリングを行い、事務局で検討を行った結果、次の
対応策が考えられる。
○対応策
○PI データベースの作成及びメンテナンスの課題の対応策(1)
まずは、位置情報をクローリングで収集し、人海戦術で紐付けてデータベー
スを作成し、運用していく中で、不安定要素を排除していく、というのも一つ
の方法ではないか。
○PI データベースの作成、及びメンテナンスの課題の対応策(2)
OpenStreetMap プロジェクトなど、ソーシャルな力を活用した地理空間情
報コンテンツの整備の試みも始まっており、3.11 震災直後も、Google 社のパ
ーソンファインダー等に代表される、ソーシャルコンテンツが有効であるとい
うことが示された。PI データベースに関しても、ソーシャルなリソースを使っ
て構築するのが、データベース構築のコストを抑える一つの方法ではないか。
○品質保証の課題の対応策
全ての情報に対して、精度の担保を求めると、多大なコストがかかるので、
街区レベルの情報は、広範囲かつ精度の高い情報として担保するために、まず
は、国もしくは国から委託された民間事業者が整備し、詳細情報については、
民間事業者が独自に整備する可能性もあるのではないか。
113
(4) ユースケース
GPS 測位を利用した、カーナビなどに代表される屋外のナビゲーションは、既に広
く普及している。また、屋内に関しても、IMES や無線 LAN 等に代表される測位技術
が進歩し、実用段階に入りつつある。このような技術の進展を背景に、屋外と屋内をシ
ームレスに案内するサービスの提供が始まりつつある。
PI(Place Identifier)を用いることで、「同じ場所を示す異なる表現同士をつなぐ」
ことが可能になる。本年度の G 空間補助事業でも、PI の仕組みを活用した屋内の店
舗等を案内するサービス実証を行っている。
空間位置情報コードは、それ単体では「位置情報付きのucode」であり、PIによって、
別のIDと連携・参照することで、その特徴を生かせると考えられる。事業者がO2O 40を
実施するときに、PIによって、グローバル識別子(空間位置情報コード)と、事業者独
自で管理しているローカル識別子を紐づけることで、グローバルな展開が可能となり、
さらに、行政データやソーシャル情報(Twitter等)を紐づけることで、「空間位置情報
コードを介した新たな地理空間情報サービスの創出」が期待できる。
そこで、前節の課題、及びその対応策や、ヒアリング、及び WG での審議から得た
結果等を踏まえ、空間位置情報コードと PI を組み合わせたサービス等のユースケー
スを次に示す。
【ユースケース】PI と空間位置情報コードを用いたコンテンツのマ
ッシュアップ
地図事業者等が、空間位置情報コードの情報を地図へマッシュアッ
プし、PI 変換サービスと地図(PI による地図と空間位置情報コード
との紐付け、及びマッシュアップの基盤となる地図)をセットで提供
することが考えられる。マネタイズに関しては、事業者向けには精度
の高い情報サービスを提供することで課金するモデルが考えられる。
【ユースケース】企業間での連携
物流(宅配)において、現在は集荷物に対して、会社毎に異なるコ
ード(郵便番号や地域コード等)で管理しているが、これらのプライ
ベートコードと空間位置情報コードを PI で紐づけて管理することで、
企業間での共通認識が可能となり、災害時には、柔軟かつ迅速に対応
するため、他の会社と連携した配達等が可能となるのではないか。
【ユースケース】アドレスマッチング
自治体では、アドレスマッチングで PI が活用できることを期待して
いる。特に、建物情報と住民記録が紐付けられると、災害時において
も、安否確認等に役立てられる。
40
Online to Offline の略。オンラインでの活動が、実店舗などでの購買に影響を及ぼすこと。
114
【ユースケース】PI を用いた屋内空間の識別
G 空間事業では、屋内地図の表現方法として、CAD やフロアマップ
から SVG(Scalable Vector Graphics)に変換し、流通フォーマット
として策定した。SVG では、ポイント、ポリゴン、ポリラインによっ
て部材を表現しているが、それぞれ ID が付与可能であるので、これ
らを PI でつなぎ、新たなサービスが生まれるのではないかと考えられ
る(例えば、あるお店の外郭を示すポリゴン ID と、お店の名前を紐
付ける等)
。
現在、二子玉川ライズで展開している「ニコトコサービス」では、
東急電鉄が以前から使用しているローカルな識別子と、屋内空間の代
表点(3 次元空間情報データベースの ID)との関連付けに PI を活用
している。屋内空間では、住所のような標準的な場所を示すものがな
いので、PI の効果が発揮されやすい環境である。
115
4.2 まとめ
「4.1.1 地理空間情報利活用サービスモデルの検討」では、行政機関が保有する
地理空間情報を公開し、民間事業者で利活用すること、さらに行政機関、及び民間事
業者における空間位置情報コードの利活用について、課題を整理し、ヒアリングと WG
での審議を経て、「課題の対応策」、「ユースケース」、「具体化が必要な諸要件」をまと
めた。
今後、上記の利活用を推進するためには、更なるヒアリングと、WG で審議を行い、
本文中で述べた諸要件を具体化する必要がある。
今後さらに具体化の必要な諸要件
①行政機関が持つデータの公開に関する諸要件
②データ公開に関するルールの諸要件
③データ形式に関する諸要件
④行政及び民間で空間位置情報コードを利活用する際の諸要件
「4.1.2 空間位置情報コードと他のコードを相互に関連づけたサービスの可能性」
では、空間位置情報コードと PI を相互に関連づけるサービスの可能性について、課
題を整理し、ヒアリングと WG での審議を経て、課題の対応策、ユースケースをまとめ
た。
本文中で述べたとおり、空間位置情報コードと PI を相互に関連づけるサービスが
創出できる可能性がある。幾つか挙がったユースケースの中でも、「PI を使った地図、
及び地図上のコンテンツとのマッシュアップ」は重要である。国内でも浸透している、ソ
ーシャルネットワークサービスにおいても、地理空間情報を扱ったものが創出され始め
ている。ソーシャルサービスと地図、あるいは地図上のコンテンツ同士を連携させるサ
ービスには、PI の特徴である、「同じ場所を示す識別子同士を相互に関連づける仕組
み」を用いることが有効である。
今後、空間位置情報コードと PI を相互に関連づけるサービスを具体化するために
は、課題及び対応策で示した PI データベースの構築が必要である。PI データベース
が構築され、インターネットでの公開運用が行われれば、多くの地理情報コンテンツや、
ソーシャルネットワークとの連携が期待できる。
116
5 地理空間情報に関連する国際動向について
空間位置情報コードの特徴の一つに、座標(x,y)及び高さ情報(階数)等をucodeに
格納し、IDを付与することによって、屋内外の場所やモノを一意に識別できることがあ
る。一方で、国際競争力の強化を視野に入れたときに、海外で検討・導入されている、
同様の事例に目を向けると、多層空間(都市空間)モデルをGMLに対応付けるため
のデータモデルとして、IndoorGML 41やCityGML等が検討されているところである。
日本でも屋内空間を対象としたサービスが始まりつつあり、空間位置情報コードが日
本国内でデファクト標準として普及したとしても、今後、海外から同様の規格が国際提
案され、それが、ISO 規格等の公的な標準規格(デジュール標準)になると、それに対
応した製品や技術等が、日本国内に安価で導入され、デジュールに置き換わってしま
う可能性が高い。日本がイニチアチブをとるためには、必要なものは国際標準にして
いく必要がある。そのために、コードの標準化状況のみならず、地理空間分野に関連
する国際動向を注視する必要がある。
以上の観点から、本調査事業では、平成 24 年 3 月 19 日~23 日に米国(オーステ
ィン)で開催されたOGC(Open Geospatial Consortium) 42の技術委員会に参加し、
関係者との意見交換を行い、海外動向の調査を行った。調査対象とした標準名は以
下の通りである。なお、OGC技術委員会での調査に関しては、日立製作所に外注し
た。
図表 70 本調査事業で調査対象とした OGC の標準名
標準名
概要
CityGML
OGC 技術委員会に参加し、関係者との意見交換から情報収集
を行った(CityGML の WG 会合は 3/21 に開催)。現状、最新
バージョンである CityGML2.0 の公開準備がほぼ完了し、平成
24 年 3 月に公開予定である。
IndoorGML
OGC 技術委員会にて関係者との意見交換・情報収集を行った
(IndoorGML の WG 会合は 3/19 に開催)。今回が第 1 回目
の WG 会合であった。
Open GeoSMS
今回の技術委員会では WG 会合は開催されないが、仕様提案
者である中国・台湾メンバ他関係者との意見交換から情報収集
を行った。
41
42
OGC から平成 24 年 1 月 20 日付で標準化 WG 発足のプレスリリースがあった
http://www.opengeospatial.org/ 参照
117
また、第 2 回WGでは、「JPGIS 43とIndoorGML及びCityGMLとの関係はどのよう
になっているのか、場合によっては、JPGISにIndoorGML及びCityGMLを反映した
場合、不整合が起きるのではないか」とのご指摘を受け、事務局で調査を行い、以下
のように整理した。
図表 71 各規格の特徴
規格名
特徴
ISO19136
(GML)
地図用の図形の標準形式(地理情報を記述するマークアップ言語)
CityGML
3 次元都市空間用のデータ交換形式、あるいはデータモデル
IndoorGML
屋内ナビゲーション用のデータ交換形式、あるいはデータモデル
JPGIS
ISO/TC211 国際標準、JIS 化された地理情報標準の中から日本
における実利用に必要な内容を取り出し体系化した標準
図表 72 ISO/JIS と JPGIS との関係
ISO/JIS
規格番号
ISO/TS19103
ISO / JIS
JPGIS2.0
ISO19136
引用有
(GML)
無
引用有無
概念スキーマ言語
○
○
規格名(英)
Conceptual Schema
規格名(和)
Language
JIS X7105
Conformance and testing
適合性及び試験
○
JIS X7107
Spatial schema
空間スキーマ
○
○
JIS X7108
Temporal schema
時間スキーマ
○
○
ISO19109
Rules for
応用スキーマのための規
○
○
applicationschema
則
Methodology for feature
地物カタログ化法
○
座標による空間参照
○
Spatial referencing by
地理識別子による空間
○
geographic identifiers
参照
Quality principles
品質原理
ISO19110
cataloguing
JIS X7111
Spatial referencing by
○
coordinates
JIS X7112
JIS X7113
43地理情報標準プロファイル(Japan
○
Profile for Geographic Information Standards)。日本国内に
おける地理情報の標準規格
118
ISO/JIS
規格番号
ISO19114
ISO / JIS
規格名(英)
Quality evaluation
規格名(和)
JPGIS2.0
ISO19136
引用有
(GML)
無
引用有無
品質評価手順
○
procedures
JIS X7115
Metadata
メタデータ
○
ISO19117
Portrayal
描画法
○
ISO19118
Encoding
符号化
○
○
ISO19123
Schema for coverage
被覆の幾何及び関数の
○
○
geometry and functions
ためのスキーマ
Data product
空間データ製品仕様書
○
Geography Markup
地理マーク付け言語
○
Language(GML)
(GML)
ISO19131
○
specifications
ISO19136
以上のように、IndoorGML 及び CityGML は、ISO19136(GML)のアプリケーショ
ンスキーマとして作成されている。また、JPGIS2.0 を構成する各規格は、ISO19136
が引用する全ての規格を含んでいるため、今後、JPGIS に IndoorGML 及び
CityGML を反映しても、不整合は起こらないと考えている旨を第 3 回 WG で報告し
た。
5.1 地理空間情報国際標準化会議(Open Geospatial Consortium(OGC))概要
5.1.1 組織
OGCは、地理空間情報の相互運用性の向上を目的とする、米国の非営利の業界
標準化団体である。地理空間情報分野の世界の主要なベンダー、政府組織、大学な
ど 437 メンバ(平成 24 年 3 月現在)が積極的に参加し、データ交換形式やWebサー
ビスインタフェースなどの標準仕様を策定している。地域別の参加メンバの割合を図
表 73 に 示 す 。 企 業 か ら の 主 な 参 加 メ ン バ は 、 米 Google 社 、 米 Esri 社 、 米
Intergraph社、英Bentley社、米Oracle社等。米Google社は、自社のGoogle maps、
Google Earth等でサービス、ソフトウェアで採用している、地理空間情報の表示機能
の管理のための記述言語KML 44 およびそれに関わる仕様の策定を行っている。米
Esri社は、自社のGIS 45ソフトウェア製品であるArcGISで採用しているプログラミング
インタフェースの仕様をOGC標準化する活動を進めている。英Bentley社は、3D都市
Keyhole Markup Language である。
Geographic Information Systems の略。地理情報システムのこと。
44旧称は
45
119
モデルに関わる作業部会に積極的に参画している。日本からは、(株)日立製作所(以
下日立)、独立行政法人産業技術総合研究所(以下産総研)、一般財団法人リモート
センシング研究センター(以下RESTEC 46)が定期的に技術委員会に出席している。
また、国土地理院もメンバ登録している。日立は主に、3D都市モデルや屋内外地図
データ仕様および水文関係の仕様に関わっている。産総研は主に、地球環境データ
やメタデータを扱う仕様に関する情報収集を行っている。RESTECは主に、衛星画像
やそれを用いたアプリケーションに関わる仕様について情報収集を行っている。また、
平成 24 年 3 月の技術委員会では、気象庁より初の参加があり、気象・海洋学関係の
作業部会にて発表があった。なお、気象庁は現時点ではOGCメンバではない。
図表 73 地域別の OGC 参加登録団体数
中東 8
その他 6
アジア 61
欧州 203
北米 159
OGCは、平成 6 年に「Open GIS Consortium」として設立されたが、平成 16 年に
「Open Geospatial Consortium」に改名されている。その名が示すように、標準化対
象範囲はGIS(地理情報システム)だけでなく、画像処理、位置情報サービス、センサ
ネットワーク、デジタル著作権管理、セキュリティ、ITS 47など地理空間情報全般にわた
る。なお、「OpenGIS®」は米国および世界各国(日本含む)の登録商標で、現在も標
準仕様の名称「OpenGIS® Standard」として継続利用されている。
OGC標準の位置付けは公的なデジュール標準ではなくデファクト標準(フォーラム
標準)だが、地理空間情報分野の最先端かつ実用的な国際標準として広く認知され、
欧米政府の公式採用や実装製品/オープンソース等も多い。またオープン標準で、仕
46
47
Remote Sensing Technology Center of Japan の略。
Intelligent Transport Systems の略。高度道路交通システムのこと。
120
様書は無償公開されている
48。さらに各仕様のXMLスキーマや名前空間も公開され
ており、OGC外で作成された仕様や応用スキーマ、プロファイルからも利用可能であ
る。
OGC の参加団体は、企業から 41%、大学から 24%、政府機関 から 18%である。
また、地域別に見ると、ヨーロッパから 203 団体、北米から 159 団体、アジアから 61 団
体である。これらの参加団体によって、現時点で 35 の仕様が策定・メンテナンス中で
ある。
5.1.2 活動
OGC の組織構成を図表 74 に示す。OGC の活動は、大きく Interoperability
Program、Specification Program(Standards Program と呼ばれることもある)、
Outreach Program (Marketing and communication Program と呼ばれることも
あ る ) の 3 つ の プ ロ グ ラ ム が 相 互 に 関 連 し て 成 り 立 っ て い る 。 Interoperability
Program は、OGC 仕様のプロトタイプ作成とテストを行うものである。これによってイン
タフェース開発とその評価を加速し、事業化における interoperability を確保すること
を目的としている。Specification Program は、参加者間および他標準化団体とのコ
ンセンサスを取りながら地理空間情報・位置情報の標準仕様策定を進める活動である。
Outreach Program は、OGC 標準仕様の有効性、採用事例、事業価値を増大させ
る活動であり、OGC メンバと提携パートナーとで進める。
OGC 最大の活動は Specification Program である。技術委員会(Technical
Committee (TC))が年 4 回開催され、毎回 30 以上の作業部会(Working Group
(WG))でコンセンサスプロセスにより標準仕様が策定されている。作業部会には、仕
様分野毎の基礎検討と情報交換を行う分野作業部会(Domain Working Group
(DWG))と仕様の策定、修正を行う仕様策定作業部会(Standard Working Group
(SWG))の 2 種類があり、議論内容は、コンセプト、技術、仕様詳細、実システム事例、
ユーザ運用までと幅広い。特にセンサウェブ関連の Sensor Web Enablement(SWE)
DWG や 3D 関連の 3D Information Management(3DIM)DWG は参加者も多く、
議論が盛んである。
また、実用化/市場展開の加速のための仕様検証/検討を行うInteroperability
Programの活動も盛んである。最大の活動は、平成 13 年より継続実施されている
OGC Web Services (OWS) テストベッド(実証テスト)である。平成 20 年~平成 21
年のOGC Web Services, Phase 6(OWS-6)では、航空管制や意思決定支援、セン
サウェブ、適合試験など複数テーマについて大規模な仕様検証が実施された。意思
決定支援のテーマでは日本単独提案も初採択されており、デモムービーがOGCウェ
48
http://www.opengeospatial.org/standards 参照。
121
ブサイトで公開されている 49。
これら複数の活動が OGC 運営メンバの努力により有機的に連携され、標準仕様の
素早い策定に繋がっている。
図表 74 OGC の組織構成
Board of Directors
Specification Program
Technical Committee (TC)
Domain DWG
Working Group (DWG)
StandardSWG
Working Group (SWG)
Interoperability Program
IP Management Team
Interoperability
Initiatives
Interop. Initiatives
Outreach Program
5.1.3 他の国際標準化団体との関係
OGCはISO 50の専門委員会TC211(地理情報/ジオマティックス)、TC204(ITS)、
ISO/JTC 1(情報処理技術)とリエゾン関係にある。OGCでは、策定した仕様をISO仕
様に提案する活動も行っている。OGCの特徴は実装標準を策定している点にあり、
OGCは策定した標準の一部を継続的にISO/TC211 に提案している。数年後にほぼ
そのままの内容でISO 19100 シリーズ国際規格となる場合があり、最新の国際標準化
状況を把握する上でも注目されている。例えば、ISO 19100 シリーズの基礎となる幾
何オブジェクト等を規定するISO 19107:2003 Spatial schemaや、地図データ交換
形式のISO 19136:2007 Geography Markup Language (GML)などの規格原案は
OGCで策定されたものである。平成 24 年 3 月現在、OGC標準は 62 件ある(Abstract
Specification 21 件、OpenGIS® Standards 41 件)。また、JIS 51はその多くがISO
規格に準じており、OGC標準仕様とJISは対応関係を持つ。主なOGC標準仕様と、
それらとISO規格、JIS規格との関連を図表 75 にまとめる。
49
50
51
http://www.opengeospatial.org/projects/initiatives/ows-6 参照。
International Organization for Standardization の略。国際標準化機構のこと。
Japan Industrial Standard の略。日本工業規格のこと。
122
ま た 、 OGC は 、 IETF 52 、 OASIS 53 、 ITU 54 、 IEEE 55 TC9 、 buildingSMART
Alliance(BIMの仕様を策定)、W3C 56、OGF 57)、OMG 58、Web3D 59など様々な標
準化団体と協力関係を結んでおり、各種コミュニティ標準において地理空間情報の記
述等にOGC標準が活用されている。OGCとITUは、IoT 60)などのトピックでスタッフ間
の協力関係を結んでいる。最近では、OGCとITUの共同仕様にすべく、位置情報を
SMSで送受信するための記述仕様であるOpen GeoSMSをITU SC24 に対して提案
している。ITU側はOGCがITUのメンバとなることを望んでいるが、OGC側はITUと
MoU 61を結びたいと考えている。OGCとOASISは、正式なMoUを結んでおり、平成
16 年から協力関係にある。主には危機管理技術委員会(Emergency Management
TC:事故や緊急事態に対応するための情報交換に用いる仕様を策定)、SOA技術委
員会(Service Oriented Architecture TC:サービス指向アーキテクチャに関する仕
様を策定)等で協力関係を結んでおり、危機管理技術委員会のGIS分科委員会では
OGCの最高技術責任者であるReed氏が議長を務めている。
図表 75 主な OGC 標準仕様一覧
Ver.
名称
Abstract Specifications: Topic
5.0
Doc #
01-101
1 - Feature Geometry
関連規格
ISO 19107:2003
JIS X7107
2 - Spatial referencing by coordinates
4.0
08-015r2
ISO 19111:2007
JIS X7111
6 - Schema for coverage geometry and
7.0
07-011
ISO 19123:2005
JIS X7123 原案
functions
11 – Metadata
5.0
01-111
ISO 19115:2003
JIS X7115
12 - The OpenGIS Service Architecture
4.3
02-112
ISO 19119:2005
Internet Engineering Task Force の略。インターネット技術タスクフォース、インターネットで利用
される技術の標準仕様を策定している。
53 Organization for the Advancement of Structured Information Standards,の略。構造化情報
標準促進協会のこと。
54 International Telecommunication Union の略。国際電気通信連合のこと。
55 The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.の略。
56 World Wide Web Consortium の略。WWW で利用される技術の標準仕様を策定する。
57 Open Grid Forum の略。グリッドコンピューティングの技術開発と普及促進を行う。
58 Object Management Group の略。オブジェクト指向の標準化推進のための業界団体のこと。
59 Web 上での 3 次元グラフィック表示技術仕様のオープン標準を策定・推進する団体のこと。
60 Internet of Things の略。モノのインターネット、あらゆるものがインターネットを介してつながってい
る状態を指す。
61 Memorandum of Understanding の略。了解覚書、組織間の合意事項を記した文書であり通常は
法的拘束力を持たない。
52
123
Ver.
名称
18 - Geospatial Digital Rights Management
Doc #
関連規格
1.0.0
06-004r4
ISO CD 19153
1.2.0
06-103r3
ISO 19125-1:2004
Part 2: SQL option
1.2.0
06-104r3
ISO 19125-2:2004
Geography Markup Language (GML)
3.2.1
07-036
ISO 19136:2007
Reference Model (GeoDRM RM)
Simple Feature access
Part 1: Common Architecture
JIS X7136 原案
OGC KML
2.2.0
07-147r2
-
City Geography Markup Language
1.0.0
08-007r1
-
Web Map Service (WMS)
1.3.0
06-042
ISO 19128:2005
Web Feature Service (WFS)
1.1.0
04-094
ISO DIS 19142
Filter Encoding (FE)
2.0
09-026r1
ISO DIS 19143
Web Coverage Service (WCS)
1.1.2
07-067r5
-
Web Processing Service (WPS)
1.0.0
05-007r7
-
Rights expression language for geographic
0.9.0
06-173r2
ISO DIS 19149
2.0
10-025r1
ISO/DIS 19156
(CityGML)
information – GeoREL
Observations and Measurements
5.2 OGC における日本企業の取り組み
5.2.1 活動概要
日本からは、日立が唯一の投票権を持つ技術委員会メンバである。近年では、日
立のほか産総研や RESTEC が定期的に技術委員会に出席し、情報収集を行ってい
る。本章では、現時点では日本から唯一 OGC の仕様策定活動に参画している日立
の、近年の活動内容について詳しく述べる。
日立は、屋内外空間のシームレスなサービス提供実現のためOGCに参画し、3D都
市空間データ交換仕様CityGML 62 に対し、仕様拡張提案を行った。同社は、平成
20 年末にOGCの実証テストに初めて参画し、平成 22 年 2 月に仕様変更要求を 3 件
提出した。その中の 2 件がCityGMLの次期バージョンの仕様書へ採択された。残り 1
件 は 平 成 24 年 3 月 に 立 ち 上 が っ た 屋 内 ナ ビ ゲ ー シ ョ ン デ ー タ 交 換 形 式
IndoorGML 63の仕様策定作業部会にて検討することとなった。
62
63
City Geography Markup Language の略。
Indoor Geography Markup Language の略。
124
5.2.2 実証テスト OWS-6 への参画
日立は、平成 20 年から平成 21 年にかけて実施されたOGCの実証テストOWS-6
(OGC Web Services, Phase 6)に参画した。OWS-6 では、航空管制や意思決定支
援、センサウェブ、適合試験など複数テーマについて大規模な仕様検証が実施され
た。同社は、意思決定支援のテーマにて、非常事態でのナビゲーションのデモンスト
レーションを単独提案し、日本からは初めて採択された。デモの想定シナリオは、テロ
リストがビルに立てこもった状況で、救出部隊が突入する進路を携帯端末で屋内外ナ
ビゲーションするというものある。本実証実験のため同社は、自社施設内の建屋の
CityGML で記述した 3Dモデルを生成し、ナビゲーション用のネットワークデータ(部
屋や廊下の接続関係を表すデータ)を構築した。これらのデータを利用し、屋外の
GPS測位と屋内の無線LAN測位を連携させる形で屋内外シームレスナビゲーション
のアプリケーションを構築した。屋内地図のデータ構造を図表 76 に、アプリケーショ
ンのシステム構成を図表 77 に示す。また、携帯端末で動作する屋内外ナビゲーショ
ンのアプリケーション画面例を図表 78 に示す。同社のデモンストレーションは高く評
価され、実験結果がOGC公的ドキュメントとしてまとめられ公開された 64。
64
09-067r2 “OWS-6 outdoor and indoor 3D routing services engineering report”
http://www.opengeospatial.org/standards/per)
また、デモムービーが OGC の Web サイトにて公開されている。
(http://www.opengeospatial.org/projects/initiatives/ows-6)
125
図表 76 屋内地図のデータ構造
126
図表 77 屋内外シームレスナビゲーションのシステム構成
図表 78 屋内外ナビゲーションのアプリケーション画面例
127
5.2.3 CityGML2.0 への提案
CityGML 仕様のバージョンは平成 20 年末には 1.0 であったが、平成 21 年末に
1.1 へのマイナーアップデート、その後 2.0 へのメジャーアップデートが予定されていた。
日立は、先に述べた OWS-6 実証テスト成果の評価結果と、実証テスト活動等を通し
て行った仕様策定メンバとの関係構築に基づき、CityGML 1.1 の仕様策定活動に参
画することとなった。
CityGML 1.1 仕様策定には、キックオフ会議開始時点で 51 メンバが関心を持って
おり、そのうち日立を含む 14 メンバが創立委員(Charter Member)である。日立は
CityGML1.1 の仕様策定作業部会における議論に参画した後、平成 22 年 2 月に
CityGML に対し仕様変更要求を 3 件提出した。さらに、その後の作業部会にての、
仕様変更要求内容に関するプレゼンの実施及び議論、電話会議での議論等を通じて
の検討の結果、CityGML 1.1 の作業スケジュールに、日立提案の仕様変更要求 2
件が採択されることとなった。
図表 79 に CityGML 1.1 への日立の仕様変更要求の概要を示す。同社は、次の 3
件の仕様変更要求を提出している。
・仕様変更要求 1:屋内空間における部屋間のネットワークトポロジモデル定義
・仕様変更要求 2:複数の部屋から構成される階の概念定義
・仕様変更要求 3:ドア・窓の定義拡張(可動域表現など)
仕様変更要求 2 および仕様変更要求 3 については CityGML1.1 に採択されるこ
ととなった。仕様変更要求 2 は階数に関する属性記述の追加が採択され、仕様変更
要求 3 は CityGML1.1 の付録(Annex)として採択された。また、仕様変更要求 1 は、
CityGML 仕様ではなく、同仕様策定作業部会から別仕様として提案された屋内ナビ
ゲーションデータ交換形式 IndoorGML の仕様策定作業部会の中で議論することに
なり、日立は IndoorGML の創立委員に就任した。
なお、CityGML1.1 であるが、下位仕様との互換性の問題により、メジャーアップデ
ート CityGML2.0 に変更となり、既に技術委員会の承認を得ている。平成 24 年 3 月
の現時点で、近日中に正式に仕様が公開される予定である。
128
図表 79 CityGML に提出した仕様変更要求の概要
(CR1) 10-056_CityGML_Change_Request_-_Network_topology_for_indoor_routing
(CR2) 10-057_CityGML_Change_Request_-_Description_of_Storey
(CR3) 10-058_CityGML_Change_Request_-_Description_of_Doors_and_Windows
(CR1):屋内空間における部
屋間のネットワークトポロジ
モデル定義
→2012年以降IndoorGML
にて継続議論
(CR2):複数の部屋から構
成される階(Storey)の概念
定義
→階数に関する属性記述の
追加がCityGML Ver.1.1採
択
(CR3):ドア・窓の定義拡張
(可動域表現など)
→CityGML Ver.1.1 Annex
採択
©OGC
©OGC, 08-007r1, OpenGIS® City Geography Markup Language (CityGML) Encoding Standard
5.3 OGC における屋内外空間データに関わる標準化動向
本調査事業では、空間位置情報コードの利活用を目的とし、空間位置情報コード
および屋内外空間データに関わる標準化動向を把握するために、OGC の関連する
標準化動向を調査した。調査対象とした OGC 仕様は以下の通りである。調査のため、
平成 24 年 3 月に米国・オースティンのテキサス大学内 Commons Learning Center
で開催された OGC 技術委員会に出席した。
規格名
開催日程
場所
主な参加者等
CityGML
平成 24 年 3 月 21 日 Longhorn
(水)午前 8 時~10 時
1.130
英
韓
仏
蘭
米
日
IndoorGML
平成 24 年 3 月 19 日 Mustang
(月)午後 4 時~6 時
1.162
韓 釜山大、ソウル市立大、
HYUNDAI 社
蘭 デルフト工科大学
英 ノッティンガム大
米 NOKIA 社
日 日立、東京大学
129
陸地測量局、Bentley 社
釜山大、HYUNDAI 社
地理院
デルフト工科大学
NOKIA 社
日立、東京大学、産総研
規格名
開催日程
場所
OpenGeo SMS
平成 24 年 3 月の技術
委員会では開催なし
主な参加者等
5.3.1 CityGML
(1)CityGML の概要と特徴
CityGML は、仮想 3D 都市および景観モデルの記述、管理、交換のためのデータ
形式標準であり、平成 20 年 8 月に OGC 標準となった。OGC で原案が策定された
ISO 19136:2007 Geography Markup Language(GML)の応用スキーマとして実
装されている。記述内容としては、屋内を含む 3D 建物はもちろん、地形や道路などの
地物、電話ボックスや信号機などの”City Furniture”や樹木など、様々な都市構成
要素がモデル化されている。CityGML 策定以前は 3D 都市モデルの交換に CAD や
CG などのデータ形式が用いられていたが、幾何形状のみで複雑な地物間の関係等
を記述できない、地形や植生データ等の記述管理や地理空間座標系に未対応、など
の問題があった。先進国ドイツではベルリンなど複数都市で CityGML を公式 3D デ
ータ形式として採用し、都市全体のデータベースを構築済みで、各種解析や行政サ
ービス等に利用している。
CityGMLの大きな特徴の一つはLOD(Level Of Detail)である。LODとは、もとも
とはCG(Computer Graphics)の分野で、視点からの距離に応じて描画する 3Dオブ
ジェクトの頂点数を増減させる技術である。CityGMLは、3D都市モデルの詳細さのレ
ベル設定にこの考え方を導入し、LODの段階(全 5 段階を設定)に応じてモデルの表
現する情報の詳細さ(例えば、地形レベル、建物外形レベル、建物内部構造レベル、
等)を統一しており、LODを通じて地形データ(DEM 65、TIN 66等)、屋外地図(道路
地図)、屋内地図(建物内 3D CAD)などを統合利用できる(図表 80)。最も詳細な屋
内地図レベルLOD4 では、BIM分野のIFC標準と調和が図られており、IFC形式のモ
デルをインポート可能である。
CityGML のもう一つの大きな特徴は、Application Domain Extension(ADE)と
呼ばれる仕様拡張の方法を備えており、アプリケーション毎に必要となる詳細なモデ
ル記述仕様を追加定義可能な点である。現在、トンネル、橋、配管設備、騒音分布等
を表現する ADE がそれぞれ定義され利用されている。
Digital Elevation Model の略。数値標高モデルのこと。
Triangulated Irregular Network の略。地表面を三角形の集合で表現するデジタルデータ構造
のこと。
65
66
130
図表 80 CityGML の LOD の例
Copyright © 2012 Open Geospatial Consortium
CityGML は、現在主に欧州での採用事例が多い。ドイツ・ベルリン市では、市街の
3D モデルの整備が進んでおり、地下の配管設備等も含めたモデル化を行っている。
また、スイス・チューリッヒ市でも、LOD2 の 3D 都市モデルを構築している。フランスで
は、仏地理院(Institute Geographique National (IGN))が中心となって BATI-3D
プロジェクトと呼ばれる、都市の植生の 3D モデル化を行うプロジェクトが進められてい
る。アジアにもいくつかの採用事例があり、中国・武漢市において CityGML を用いた
3D 都市モデルの構築が進められている。CityGML の採用事例を図表 81 に示す。
131
図表 81 CityGML の採用事例
ドイツ・ベルリンの3D都市モデル
スイス・チューリッヒの3D都市モデル
フランスのBATI-3Dプロジェクト
中国・武漢市の3D都市モデル
Copyright © 2012 Open Geospatial Consortium, Source: Nagel, Kolbe 2010
(2)最新動向
現在の CityGML の仕様策定状況は、CityGML1.1 が、下位互換性の問題のため
バージョンをメジャーアップデートの CityGML2.0 に変更したうえで、平成 24 年 3 月
25 日時点で近日中に公開予定である。仕様策定作業部会の次のアクションは、
CityGML の採用事例を拡大し、実用面の問題点を明らかにすることである。次のバ
ージョンアップはそれらの検討をふまえた上で進めることとなる。
平成 24 年 3 月の米国・オースティンでの技術委員会では、CityGML の次のバー
ジョンに向けて取り組むべき課題について、ざっくばらんな議論が行われた。その中で
特に議論が活発であったのが、屋内空間データの表現のための仕様である。具体的
には、CityGML では、データ表現のレベル設計が LOD として定義されているが、屋
内についても LOD を定義するべきだとの提言があり、これについて議論された。屋内
の空間データで必要となるレベル設計は、アプリケーションによって異なるため、現在
132
定義されている(屋外から屋内までを表現するための)LOD とは異なる LOD の設計を
検討するべきとの意見や、IndoorGML で採用されているような、レイヤを自由に設計
できる仕様とすることも考えられるのではとの意見が出た。今回議論された課題は、今
後も議論を重ねて集約し、仕様変更要求としてまとめる方向である。CityGML の次の
バージョンでは、屋内空間の表現についても詳細に議論される模様である。また、
IndoorGML の仕様と CityGML の仕様は、基本的には独立したものであるが、仕様
策定のメンバが重なっていることもあり、IndoorGML や屋内ナビゲーションの観点か
ら、CityGML に対して仕様変更要求を提出する可能性もあり得る。
5.3.2 IndoorGML
(1)IndoorGML の概要と特徴
IndoorGMLは、屋内ナビゲーションデータの記述、管理、交換のためのデータ形
式標準であり、平成 24 年 3 月に仕様策定作業部会が立ち上がった。IndoorGMLが
対象とするアプリケーションは、屋内位置情報サービス、屋内地図配信サービス、屋内
避難誘導、屋内ロボティックス等である。屋内外を対象としたナビゲーション向けのデ
ータ仕様策定の動きはITS分野の標準化を推進しているISO/TC204 にもあり、
WG17(ノーマディックデバイス(持ち運び可能な機器)に関する仕様策定を推進)より
新業務項目提案(New work item Proposal(NP))が提出・公開されている。OGCは
ISO/TC204 とリエゾンを結んでおり、IndoorGMLはこれと連携して仕様策定を進める
計画である。ISO/TC204 WG17 のメンバである韓HYUNDAI社はIndoorGMLの創
立委員にも就任している。また、IEEEのロボット関連部門であるIEEE RAS 67は現在
の仕様を屋内空間にも適用できるよう拡張し、データを屋内外シームレスに扱うことを
目指している。
IndoorGML の目的は、屋内空間の部屋、通路、地物等の接続関係を表すネットワ
ークモデルを記述、管理することである。このネットワークモデルは、主に屋内のナビゲ
ーションを主要アプリと考えている。ネットワークモデルは、屋内空間の物理的な 2D、
3D モデルとは分離して管理すべきというのが IndoorGML の基本的な考え方である。
よって、屋内空間の物理構造の表現形式は、CityGML、IFC、CAD 等、任意の形式
で記述することを想定しており、そこから部屋や通路等のオブジェクト間の接続関係を
抽出して IndoorGML を用いてネットワークデータとして記述する。
IndoorGML の 仕 様 の 検 討 は 、 OGC に 提 案 さ れ る 以 前 か ら 韓 国 ISA ( Indoor
Spatial Awareness)プロジェクト 68による独自仕様として進められていた(ISAの詳細
は(3)にて後述)。ISAプロジェクトの期間は平成 19 年 11 月~平成 23 年 11 月であり、
平成 23 年のプロジェクト終了後、研究成果であるIndoorGMLのOGC標準化をめざ
67
68
Robotics and Automation Society の略。
http://u-indoor.org 参照。
133
している。IndoorGMLの仕様策定作業部会立ち上げに先立ち、ISAプロジェクトでの
議論結果に基づくIndoorGML仕様原案(Discussion Paper)がOGCに提出され、
平成 22 年 12 月に公開された 69。これに述べられているコンセプトでは、まず、3D屋
内空間に対し、部屋や通路等の部分空間同士が物理的に接続しているか否か(部屋
の隣接等)を表す接続関係と、部分空間の間を移動可能か否か(部屋と通路がドアで
つながっているか等)を表すトポロジー的な接続関係の2種の接続関係を明らかにす
る。さらに、これらの接続関係から、物理的な接続関係を表現するグラフ構造と、トポロ
ジー的な接続関係を表現するグラフ構造を生成する。そして、それぞれの 3D構造お
よびグラフ構造での接続関係表現方法の間の変換方式を定義する(図表 82)。図表
82 に示す 4 種の表現方法とその間の変換方式を持ったモデル(IndoorGMLではこ
れをStructured Space Modelと呼ぶ)を用いることにより、屋内空間における多種の
接続関係を一つのモデル(記述仕様)で表現することが可能となる。このモデルをさら
にマルチレイヤとし、それぞれのレイヤで、部屋の物理的な接続関係、トポロジー的な
接続関係、測位デバイスの配置等の、異なる種別の情報を管理する(図表 83)。さら
には、レイヤ間の対応関係も定義可能とする。
図表 82 IndoorGML の Structured Space Model
©OGC, 10-191r1, Requirements and Space-Event Modeling for Indoor Navigation
10-191r1“Requirements and Space-Event Modeling for Indoor Navigation”
http://www.opengeospatial.org/standards/dp 参照。
69
134
図表 83 IndoorGML のマルチレイヤデータ管理
©OGC, 10-191r1, Requirements and Space-Event Modeling for Indoor Navigation
IndoorGML の主な特徴を以下に列挙する。
(1) 想定アプリは、ショッピング、Activity Tracking(工場など屋内での人のトラッキン
グ)、空港などの公共空間のナビゲーション、ロボットナビゲーション(飛行ロボット
が屋内計測のため飛行することも想定しており 3D 情報が必要)等。アプリの 90%
はナビだが、残り 10%は施設管理などを想定している。IndoorGML の実現機能
イメージを図表 84 に示す。
(2) 「ナビゲーション=位置の特定+経路の決定」との定義に基づき、位置の特定と経
路の決定に必要な情報を纏めてモデリングすることが狙い。実現機能は、位置お
よび向きの特定、経路計画、経路上の位置の追跡等。
(3) 位置の特定に関し、屋内では屋外の GPS に相当する基本デバイスがないため、
建物毎に異なるデバイス/インフラを利用するなど、異種センサを統合できる具体
的な手法が必要である。IndoorGML では、位置特定の手法自体は扱わないが、
モデルをレイヤ毎に構造化し、利用可能なセンサなどに応じてレイヤを取捨選択
可能とすることにより、異種センサの情報の統合をモデル化する。
(4) 経 路 の 決 定 に 関 し て は 、 移 動 モ ー ド ( 歩 行 ( 人 、 車 椅 子 、 ロ ボ ッ ト ) 、 飛 行
(Microdrones(小型無人飛行機)、UAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空
135
機)))を扱うことを検討している。また経路計算は、経路ネットワークを階層的にグ
ルーピングし、それぞれのグループ内で経路を決定する(ビル間の移動、部屋間
の移動等)。
(5) ナビゲーション対象の状況を考慮する。例えば、屋内外ナビアプリでは、時間帯や
ユーザ属性(ハンディキャップ有無等)等の状況に応じて、異なる経路情報を提供
する(ex.車椅子がショッピングモールの閉店後に移動可能な経路、等)。
(6) 3D 構造については、既存コンセプトとの重複回避のため、既存 3D データ交換形
式 CityGML、IFC、 X3D(ISO が定めた 3D コンピュータグラフィックスを表現す
るための XML ベースのファイルフォーマット)等を活用。3D 屋内データの典型的
な モ デ ル と し て は 、 空 間 の 表 面 構 造 を 定 義 す る Surface-Oriented Model
(CityGML)、物体の形状を定義する Volumetric Elements Model(IFC)、空
間の境界を平面で表現する Paper Wall Model 等がある。
(7) ク ラ ス 構 造 は 、 NavCoreGML ( コ ア ) 、 IndoorNavGML ( 屋 内 ナ ビ ) 、
OutdoorNavGML(屋外ナビ(GDF など既存フォーマットを適用しても良い))の大
きく 3 つからなると想定している。
特に(3)の屋内の位置の特定については、RFID、Wi-Fi、UWB 70)などの異なるデ
バイスを統合利用できる手法/理論を検討している。屋内測位デバイスの制約を、標準
仕様の工夫により乗り越えようとする意欲的な仕様と言える。
図表 84 IndoorGML が狙う実現機能イメージ図
©OGC, IndoorGML: A Data Model and Exchange Format for Indoor Navigation, http://portal.opengeospatial.org/files/?artifact_id=36918
70
Ultra Wide Band の略。超広帯域無線のこと。
136
(2)最新動向
平成 24 年 3 月の米国・オースティンで開催された技術委員会にて、第一回の
IndoorGML の仕様策定作業部会が開催された。作業部会では、議長、副議長、仕
様編集者の選出と、今後の仕様策定までのスケジュールの確認、IndoorGML の仕
様案のレビューが行われた。また、ISO/TC204 WG17 の韓 HYUNDAI 社 Shu 氏よ
り 、 「 Indoor navigation for personal and vehicle ITS station 」 と 題 し て 、
ISO/NP17438 での屋内ナビ向け仕様の検討に関するプレゼンが行われた。
今回の仕様策定作業部会での決定事項は、議長、副議長、仕様編集者と、仕様策
定スケジュールである。議長は、釜山大 Li 教授、副議長は、ソウル市立大 Lee 教授、
デルフト工科大 Zlatanova 氏、英ノッティンガム大 Morley 氏、仕様編集者は、Li 教
授、Lee 教授、Zlatanova 氏、独ベルリン工科大 Kolbe 教授に決定した。仕様編集者
には、他に北米からも協力者を募る予定である。
IndoorGML の策定スケジュールは、IndoorGML1.0 の公開までを約 1 年半で行う
という非常にタイトな計画となっている。スケジュールを下記に示す。
平成 24 年 9 月 最初の仕様原稿を作成
平成 24 年 10 月 技術委員会(韓国・ソウル) 仕様原稿に関する議論
平成 24 年 10 月~平成 25 年 1 月 仕様原稿の修正
平成 25 年 1 月 技術委員会(米国・レッドランド)での仕様策定作業部会にて投票を
行い、仕様原稿を承認
平成 25 年 2 月 仕様原稿を OGC 技術委員会/プログラム委員会に公開、パブリック
コメントを募集
平成 25 年 3 月/4 月 技術委員会(開催地未定)での仕様策定作業部会にてコメント
のレビュー・議論
平成 25 年 4 月~6 月 仕様原稿の修正
平成 25 年 6 月 技術委員会(開催地未定)での仕様策定作業部会にて投票を行い、
最終版仕様原稿を承認
平成 25 年 7 月 最終版仕様原稿を技術委員会に提出
IndoorGML は、まずは GML3.2 の拡張とし、いずれ GML3.3 に対応する予定で
ある。また、仕様策定と並行して、CityGML、IFC 等の 3D 構造を表現する仕様と
IndoorGML を組み合わせたデータを用いたアプリケーションの実証テストを行う予定
である。最初の計画では、屋内測位手法に関わる詳細な検討は IndoorGML の範疇
外としていたが、屋内測位の正確さはナビゲーションに必要なトポロジー構造の仕様
に大きく影響するため、今後の議論課題に含めることとなった。また、3D 構造からトポ
ロジー構造を生成する方法や編集ツールに関しても今後議論することとなった。
137
今回の仕様策定作業部会の参加者は、議長、副議長、仕様編集者(ベルリン工科
大 Kolbe 教授は不在)のメンバの他、韓 HYUNDAI 社、韓 ETRI(韓国電子通信研
究院)、米 NOKIA(NAVTEQ)社、東京大学等であった。韓 HYUNDAI 社は、
ISO/TC204 WG17 に関わっており、IndoorGML の創立委員でもある。屋内ナビゲ
ーションデータについては、IndoorGML のデータを ISO 側の仕様が読み込んで利
用するという連携の仕方を想定しているとのことである。韓 HYUNDAI 社はこれらの
仕様を利用して屋内外シームレスナビゲーションサービスを提供することを検討してい
る。米 NOKIA(NAVTEQ)社は、すでに屋内地図の配信サービスを行っており、今回
は屋内ナビ向けの仕様策定の動向調査のために参加した様子である。現在は自社の
独自仕様で地図データを記述しているが、いずれ OGC の仕様(CityGML、KML 等)
を採用する可能性もある。IndoorGML に関しては、ナビゲーション用のトポロジー構
造データはアプリケーション側で生成することを想定しており、これをデータ配信するこ
とは今のところ考えていないので、自社で利用する可能性はあまり高くないと話してい
た。
(3)Indoor Spatial Awareness (ISA) プロジェクト概要、韓国の動向
ISAプロジェクトの主な目的は、1)屋内空間のデータモデルおよび理論の構築、2)
屋内空間を扱うシステムおよびDBの開発、3)実証実験の推進および試験アプリの開
発である。さらに屋内だけでなく、屋外も含むコンテキストアウェアネスの実現を狙って
いる 71。詳細を以下に示す。
・ ISA 予算元は韓国政府 Ministry of Land, Transport and Maritime Affairs
(国土海洋部)。プロジェクトの期間は平成 19 年 11 月~平成 23 年 11 月まで。
平成 22 年度(平成 22 年 3 月~平成 23 年 2 月)だけでも約 14 億円の予算を確
保しており、大規模なプロジェクトとなっている。韓国 u-City プロジェクトとは直接
関係ないとのことだが、技術や製品など様々な関連がある模様。
・ 平成 23 年のプロジェクト終了後、プロジェクト成果である屋内ナビゲーション用デ
ータモデル IndoorGML の OGC 標準化を推進している。
・ 参加メンバ
 8 大学、8 企業。ほとんどは韓国メンバだが、米 Maine 大、独ベルリン工科大、
デンマーク Aalborg 大も参加。
 メンバ構成は下記の 3 グループからなる。
 Group1:Data model and management system。リーダーは釜山大
Li 教授、Indoor Spatial Management System を担当。ソウル市立大
Lee 教授もメンバに入っており、Indoor Spatial Data Modeling を担
当。
71
http://u-indoor.org 参照。
138
 Group2:Data authoring。リーダーは韓、延世大Choi教授。CADデー
タを背景として表示し、その上で半自動・簡易に 3DモデルDBを構築す
るツール群などを開発(Gong製品群 72 )。
 Group3:Application and Testbed。リーダーは KT 社 Kim 氏。平成 21
年度に試験アプリを開発しており、今後は病院、商業施設等を対象とした
実サービスを狙う。
 キーメンバ
 韓国釜山大Li教授:Indoor Spatial Management Systemを担当。
ISAのDB関連の取り纏めを行っており、既存DBを活用した屋内GIS 3D
DBを開発した。他メンバはLi教授の実装したDB基盤上でアプリ開発し
ている。IndoorGMLの議長、CityGMLの投票権を持ったメンバであると
同時に、韓国の空間位置情報コードにあたるu-position 73の仕様検討グ
ループの元リーダーでもある。
 韓国ソウル市立大 Lee 教授:Indoor Spatial Data Modeling を担当。
IndoorGML 仕様等のデータモデリングを担当。
 独ベルリン工科大 Kolbe 教授、Nagel 氏:IndoorGML 仕様検討の支柱。
但し、ソウル市立大 Lee 教授との分担は不明。Kolbe 教授は、CityGML
仕様策定の中心人物でもあり、IndoorGML の副議長に就任の予定であ
ったが、これは多忙のため辞退。今後、IndoorGML の仕様策定には、
創立委員および仕様編集者として関わる予定。
 韓国 KT 社:韓国最大の通信企業。韓国では GIS ビジネスに参画する大
企業が少ないが、KT 社は平成 22 年度の 3D 屋内 GIS サービス提供開
始に向け製品開発中であり、屋内 GIS の観点でも韓国最大の企業であ
る。ISA プロジェクトを通じて Wi-Fi 屋内測位設備を構築済み。
 韓国Virtual Builders社:韓、延世大Choi教授のベンチャー。屋内 3D
データの簡易な編集ツール製品群等を開発。平成 23 年 6 月に中国・台
湾にて開催されたOGC技術委員会の 3DIM DWG 74において、Choi教
授がVirtual Builder社のソフトウェアを紹介するプレゼンを行った。
ISA プロジェクトを推進している韓国は、屋内外空間情報の整備を、国家予算を投
じて積極的に行っており、韓国全土の 3D 都市モデルを構築する国家プロジェクトが
進められている。但し、このプロジェクトにアドバイザとして参画している釜山大 Li 教授
によると、この計画は、現時点ではコスト等の観点から時期尚早であり、現在、3 年ほど
http://www.vbuilders.co.kr 参照。
ISO/CD 19151 ”Dynamic position identification scheme for Ubiquitous space”
http://www.iso.org/iso/iso_catalogue/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber=32569
74 http://www.opengeospatial.org/projects/groups/3dimdwg 参照。
72
73
139
かけて主要都市の 3D モデルを作成している状況であるが、全土の 3D モデルを完備
するのは難しいと見ているとのことであった。都市モデルの記述には CityGML をベー
スとした韓国独自の記述仕様を用いている。CityGML をそのまま適用しなかった理
由は、LOD の設計が表現したいものに合っていなかったためで、LOD1 と LOD2 の
中間にあたる詳細さのモデル記述仕様を定義した。
5.3.3 Open GeoSMS
(1)Open GeoSMS の概要と特徴
Open GeoSMS は、Short Message Service(SMS)を用いて、異なる位置情報サ
ービス(Location-Based Service(LBS))間で情報をやり取りするための、SMS の拡
張仕様である。Open GeoSMS の記述例を下記に示す。
http://maps.geosms.cc/showmap?location=23.9572,120.6860&GeoSMS
payload
Open GeoSMS は非常にシンプルな仕様であり、メッセージの 1 行目には必ず
http/https の URI を記載する。URI の最後には必ず”&GeoSMS”の接尾辞を記述し、
URI の最初のパラメータは緯度経度で表した位置情報である。
Open GeoSMS はそのシンプルさゆえに幅広いアプリケーションへの適用可能性を
持った仕様である。仕様提唱者の Chuang 氏らは、Open GeoSMS を適用したアプリ
ケーションの拡大を精力的に進めており、最近では、3 ヶ月毎の技術委員会で、毎回
新しいアプリケーションの適用事例のプレゼンテーションを行っている。また、OGC の
事務局長である Ramage 氏と Chuang 氏が中心となって、現在 Open GeoSMS の
ITU での仕様化の提案を行っている。
(2)最新動向
Open GeoSMSは、平成 23 年 3 月にOGC Candidate Standardとして公開され、
平成 24 年 1 月にOGC Standardとしてバージョン 1.0 が正式に公開された。Open
GeoSMS を 提 唱 し た 中 国 ・ 台 湾 の Industrial Technology Research Institute
(ITRI、工業技術研究院)では、この仕様を災害マネジメントシステム(SAHANA)や
(図表 85 参照)、自然災害情報を地図上で共有するシステムであるUshahidiに適用
した。Ushahidiでは、サモアのサイクロンのシミュレーションを行い、シミュレーション
結果に基づいてOpen GeoSMSを利用して警報を発信するという実証実験を行った。
な お 、 Ushahidi は 、 東 日 本 大 震 災 の 復 興 支 援 を 支 え る 情 報 共 有 サ イ ト で あ る
140
sinsai.info 75のプラットフォームにも利用されている。また、台湾のカーナビゲーション
サービスであるNaviKingにOpen GeoSMSを用いて目的地や位置情報を共有する
機能を提供した。(図表 86 参照)
議長の Chuang 氏によると、Open GeoSMS は、現在は屋外で利用することを想定
しており、アプリケーションも屋外のもののみであるとのことであった。屋内を対象とする
ためには、位置の表現方法を緯度経度以外に拡張する必要があると思うが、それにつ
いての検討はまだ始めていないとのことであった。なお、平成 24 年 3 月の技術委員会
では、Open GeoSMS SWG のミーティングは開催されていない。
75
http://www.sinsai.info/ 参照。
141
図表 85 Open GeoSMS の災害マネジメントシステムへの適用例
©2009 ITRI 工業技術研究院
142
図表 86 Open GeoSMS のカーナビゲーションサービスへの適用例
©2009 ITRI 工業技術研究院
5.3.4 空間位置情報コードに関わる動向
位置を特定するための識別子(以下、空間位置情報コードと記載)と OGC 標準との
関連性、各国の空間位置情報コードに関わる標準化活動状況についてのヒアリングを
行った。
(1) 各仕様との関連
① CityGML
CityGML の中心メンバの一人であるベルリン工科大学 Kolbe 教授によると、
CityGML の仕様策定の中で、特に空間位置情報コードに関わる検討を進める予定
はないとのことである。但し、CityGML で記述したオブジェクトに、GML の ID 属性を
利用してユニークな ID をふることは可能である。複数のソースからなる都市空間デー
タの場合、名前空間を適切に管理し ID のユニーク性を保つ必要がある。
143
② IndoorGML
IndoorGML の議長である釜山大学 Li 教授らは、屋内ナビネットワークのノードや
リンクにユニークな ID を割り当て、人の移動軌跡を ID 列で表現することを考えている
との ことである。また 、韓国が ISO に提案した空間位置情報コード体系である
uposition の 策 定 メ ン バ の 一 人 ( Korea Research Institute for Human
Settlements(KRIHS)、Kang 氏)が OGC の標準化活動(CityGML、IndoorGML)
に関わっていることもあり、Li 教授らはコード体系の整備についても検討課題があると
考えている。
③ OpenGeoSMS(OpenGeoSMS 議長 ITRI Chuang 氏)
Chuang 氏らは、Open GeoSMS において、空間位置情報コード(主に Place
Identifier(PI))を使うことを視野に入れている。具体的には、Open GeoSMS の位置
情報を表現する URL に、PI で記述した詳細情報を付加するという使い方を考えてい
る。Open GeoSMS に PI を適用して、センサネットワークにおけるセンサ情報の送受
信を行う例を次に示す。
http://pi.hitachi.co.jp/tokyo/buildings/3pw9c/sensors/45/loc?q=35.698771,139.
772937&co2=600&GeoSMS
東京都千代田区外神田 1丁目17-6
CO2 sensor alert! Need some more fresh air!
Indoor-sensor-bot service
この例では、”3pw9c”が建物 ID を、”45”がセンサ ID(CO2 センサ)を表す。建物位
置が(緯度,経度)=(35.698771,139.772937)であり、センサ値が 600ppm である。こ
のような形式で、センサ異常値のアラートをスマートフォン等の携帯端末に SMS によ
って配信する。リンク先のデータは、XML、地図情報、画像等の任意の形式で、ホスト
サーバが提供する。
(2) 各国の空間位置情報コードに関わる標準化活動状況
① ドイツ(ベルリン工科大学 Kolbe 教授)
ドイツでは、空間位置情報コードの整備や仕様の標準化は進んでいない。
CityGML を用いたアプリケーションでは、アプリケーション毎に名前空間を管理して、
オブジェクトユニークな ID を実現していると考えられる。
② 韓国(釜山大学 Li 教授、KRIHS Kang 氏)
韓国では uposition と呼ばれる空間位置情報コードの仕様を平成 21 年に
144
ISO/TC211 に提案したが(ISO/TC 211 N 2906)、仕様策定には至らなかった。
OGC も仕様提案先の候補であったが、先に ISO への提案が進んでいたため、OGC
への提案はしなかった。韓国でも複数の空間位置情報コードが提案されているが、今
はいずれの仕様も標準化活動は行っていない。
③ 中国・台湾(ITRI Chuang 氏)
中国・台湾では、空間位置情報コードの整備や仕様の標準化は進んでいない。中
国・台湾から仕様提案する動きは無く、PI 等の標準仕様となったものを利用するスタン
スを取っている。
5.4 OGC に関わるその他の最新動向
平成 24 年 3 月 19 日~23 日に、米国・テキサス州オースティンのテキサス大学内
Commons Learning Center にて、第 80 回 OGC 技術委員会が開催された。技術
委員会の様子を図表 87 に示す。本技術委員会の参加者は、最近の技術委員会の
中では比較的少なく、登録者のみで 156 名であった。参加者の内訳は、欧州から 38
名(うち北欧から 3 名)、北米から 91 名、アジアから 18 名、その他が 9 名であった。ア
ジアからの参加者は日本 7 名、韓国 9 名、中国・台湾 2 名、日本からは産業技術総合
研究所 2 名、気象庁 1 名、東京大学 1 名、日立 3 名が参加した。技術委員会のアジ
ェンダは下記に公開されている。
http://www.opengeospatial.org/event/1203tcagenda
145
図表 87 技術委員会の様子
テキサス大学 Commons Learning Center
Opening Plenary
IndoorGML SWG
146
本章では OGC に関わる下記活動の最新動向をまとめる。
(1)3D Information Management (3DIM) DWG
(2)KML2.3 SWG
(3)Asia Forum
(4)INSPIRE
(5)Business Value Committee
(6)3DIM registry subgroup
(7)GML3.3 SWG
(8)ARML 2.0 SWG
なお、本技術委員会での主な動きは下記に公開の予定である。
http://www.ogcnetwork.net/node/367
(1) 3D Information Management (3DIM) DWG
3DIM DWG は、3D 都市モデル全般について、各国の取り組みに関する情報交換
や議論を行う作業部会であり、CityGML や IndoorGML の活動も 3DIM での議論が
ベースとなっている。
最近では、オランダの 3D pilot の取り組み(実施期間平成 22-平成 24 で継続中)
が大きな動きとして報告されている。これは、オランダの Genovum 社、Kadaster 社、
Dutch geodetics committee、Ministry infrastructure & Environment らが提唱
者となって、オランダの都市データモデルの構築と標準仕様策定を進めるというもので
あ る 。 そ の 他 の 参 加 企 業 ・ 組 織 は 、 英 Bentley 社 、 蘭 iDelft 、 蘭 Gemeente
Rotterdam 等。平成 22 年 3 月-平成 23 年 6 月が phase1、平成 23 年 7 月-平成
24 年 6 月が phase2 として実施されている。Phase1 の成果は、オランダの都市デー
タモデル標準仕様である Information Model Geography(IMGeo)2.0 を策定したこ
とである。この仕様は、2D IMGeo(大規模なトポグラフィモデル)と CityGML をベー
スにしており、2D、2.5D、3D を表現可能である。もう一つの成果は、各組織の協力を
得て、オランダの 3D データの整備が進んだことである。Phase2 では、3D ツールキッ
トやスターターズガイドの整備、3D データ関連のオープンネットワークコンセプトの拡
大、オランダの国内仕様や BIM との整合性の確保等の取り組みを進めていく。参画
組織は 80 にのぼるとのことである。平成 24 年 3 月の技術委員会では、このプロジェク
トに参加しているデルフト工科大 Zlatanova 氏より、地下構造の 3D モデルを、表面構
造とボクセルモデルの両方で記述する方法とそのデータベース管理についての報告
があった。表面構造の表現には CityGML を拡張した仕様も用いている。
また、3D表示データの相互運用性を検討するための実証実験である 3DPIEの成
147
果について報告されている。今回の実証実験には主に欧州から、仏地理院、独ベルリ
ン工科大、CACI等の 10 組織が参画した。3DPIEのフォーカスは、大きくWeb 3D
Service(W3DS)とWeb View Service(WVS)の 2 つの仕様である。いずれの仕様も
現段階ではディスカッションペーパーが公開されている 76。3DPIEでは、データソース
のフォーマットにCityGML、OpenStreetMapが利用され、グラフィックデータの交換
に、KML、Collada 77、X3Dが利用された。これらによる様々な種類のサーバ、クライ
アント構成について、相互運用試験が実施された。実験の結果、オープンなデータ記
述仕様とサービス仕様を利用した、3Dデータ表示システムの構築方法が示された。ま
た、大規模なモデルの配信や高さ情報の扱い方に課題があることが明らかになった。
さらに、W3DSとWVSの仕様について変更を加えるべき点が明らかになった。これら
の実験に関するレポートは既に公開されている。平成 24 年 3 月の技術委員会では、
検討したシステム構成に従って、マインツ、ベルリン、パリの 3 つの都市のCityGMLデ
ータおよびOpenStreetMap(オープンソースの地図作成プロジェクトであり、世界中
の地図を編集可能な形で維持している。)の 4 種の 3DデータをWebサービスとしてブ
ラウザ表示するアプリケーションを実装した例が紹介された。システム構成を図表 88
に示す。3Dモデルを表示する端末は、PCや携帯端末、タブレット端末を利用した(図
表 89 参照)。
http://portal.opengeospatial.org/files/?artifact_id=37257、
http://portal.opengeospatial.org/files/?artifact_id=36390 参照。
77対話型 3D コンピュータグラフィックスアプリケーション間の交換用ファイルフォーマット
76
148
図表 88 3DPIE のシステム構成
Copyright © 2012 Open Geospatial Consortium
図表 89 3DPIE の 3D モデルの端末表示例
Copyright © 2012 Open Geospatial Consortium
149
他には、IndoorGML 策定者の釜山大 Li 教授より、「Super Eye – A Smart
CCTV in Indoor Space」と題して、IndoorGML を用いた、映像監視システム
(Closed Circuit Television(CCTV))による、リアルタイムの 3D モデリング・モニタリ
ングシステム(SuperEye)についての報告があった。これは、CCTV で撮影した映像
からリアルタイムに 3D モデルを構築し表示するアプリケーションである。現在は、3D
モデル表現に 3D Service を利用しているが、将来的には CityGML を用いる予定と
している。また、SuperEye のメタデータは CityGML で定義可能にするとしている。
(2) KML2.3 SWG
KML の仕様策定は、次期バージョン 2.3 の仕様を検討する KML2.3 仕様策定作
業部会の立ち上げに向けたキックオフミーティングが、平成 23 年 12 月にベルギー・
ブリュッセルでの技術委員会にて開催された。キックオフミーティングでは、KML2.3
仕様策定作業部会の設立趣意書の原稿、KML のベストプラクティスドキュメントと、未
解決の仕様変更要求のレビューが行われた。KML2.3 の議長はカナダ米 Galdos 社
の David Burggraf 氏、副議長は米 Google 社の Sean Askay 氏が就任した。平成
24 年 3 月の米国・オースティンの技術委員会では、スキーマとドキュメントの変更点を
レビューし、未解決の仕様変更要求や今後のアクションについて議論がされた。議長
の Burggraf 氏によると、現在のところ KML に屋内地図表現に特化した仕様を追加
する検討は行っていないとのことである。また、POI(Point Of Interest)等の位置情
報を表すための仕様については、それ自体の検討は KML の扱う範疇ではないが、
現在 OGC WFS(Web Feature Service)の Gazetter service features、W3C POI、
ISO の PI 等、多くの仕様が議論されており、これらをどのように整理していくかの包括
的な議論が必要と考えている。CityGML や IndoorGML と KML の関係性について
は、3D 構造やセマンティクスを重視した仕様(CityGML、IndoorGML)と、可視化を
重視した仕様(KML)という役割の違いがあり、重なる部分もあるがそれぞれが役割に
従って発展するという共存を望んでいる。副議長の Askay 氏によると、Google map の
屋内地図は、現時点では KML ではなく独自の記述フォーマットを用いており、これに
ついては現在特に標準化の取り組みは行っていない。
(3) Asia Forum
アジア各国からの OGC 参加メンバは年々増加しており、その活動は近年非常に活
発になっている。主に中国・台湾および韓国からの参加が積極的であり、他には、日
本、中国等からの参加がある。また、インドからの参加者は現時点では少ないが、平成
25 年にインドでの技術委員会の開催を予定しており、これをきっかけに参加が活発に
なる可能性がある。このような状況のもと、中国・台湾がリーダーとなり、OGC のアジア
150
メンバの活動を活性化し、情報交換を促進することを目的として、Asia Forum が立ち
上げられた。平成 23 年 3 月のドイツ・ボンでの技術委員会でのランチミーティングをス
タートとして、平成 23 年 6 月の台湾技術委員会で事前会合が開催され、平成 23 年 9
月の米国・ボルダーでの技術委員会で設立趣意書が承認され、平成 23 年 12 月のベ
ルギー・ブリュッセルでの技術委員会で第一回会合が開催された。第一回会合には、
中国・台湾、韓国、日本、インド、中国、ネパールから 25 名程度が出席した。日本から
は、産総研、日立、東京大学、RESTEC らが出席した。
中国・台湾は、Asia Forum の活動に非常に積極的であり、学術分野と OGC との
連携を密にしていきたいとの考えが強い。例えば、中国・台湾 Feng Chia 大学 GIS
研究センターでは、OGC 標準化活動を防災とともに優れた教材とみなしている。また
OGC 事務局としても、いくつかの大学に対し OGC 活動の拠点となるよう依頼しており、
この動きを歓迎している。
韓国も Asia Forum の活動に積極的である。韓国は国を挙げて地理情報分野を支
援しており、ISA プロジェクトの予算元でもあった韓国国土海洋部は、平成 24 年 10
月に開催予定の OGC 技術委員会のホストである。同技術委員会は、Smart Korea
2012 (NSDI conference) と同時開催を予定している。さらに、同技術委員会では、
OGC チュートリアル、第三回 Korea Interoperability day を開催し、韓国の学術会、
産業界が国際標準の情報に触れる機会を設ける。なお、Smart Korea とは、韓国国
土海洋部主催の GIS カンファレンスであり、平成 23 年 10 月にも開催された。その際
は、韓国大統領、首相、政府高官、OGC COE & president も出席し、TV ニュースで
放映された。韓国としては、産業活性化のため、アジア圏での OGC 標準を活用したユ
ースケースやベストプラクティスを共有していきたい考えている。
日本は中国・台湾および韓国と比較すると参加メンバもまだ少なく、各社・団体とコミ
ットの仕方を探っている状況と言える。日立は、Asia Forum への参加を継続する中で、
日本としてコミットする目的の明確化、スケジュールの詳細検討を行い、日本からの参
加メンバを増やす活動を行いたい所存である。
今後は、Asia Forum の会合を毎回の技術委員会で開催する予定となっている。ま
た、Asia Forum ポータルサイトを立ち上げたいとの動きもある。
(4) INSPIRE
INSPIRE は、欧州の EU 域内の地図・空間情報の統合・共有化を目指す活動を推
進するプロジェクトであり、公共機関のもつ地図・空間情報を統合したポータルを構築
し 、基 本 的な情報は EU の イ ンフラ とし て無料で開放する試みを 行っ ている。
INSPIRE のメンバの多くが OGC にも参加しており OGC と密に連携した活動を行っ
ている。OGC の欧州メンバの全体数は、平成 20 年に北米を超えて急速に増加してい
る。また、最近新たな作業部会の発足が盛んであり、欧州からの参加者が主体となっ
151
ているものも多い。例えば、ARML2.0、Geoservices REST API、WaterML 2.0 等
がある。
平成 23 年 12 月にベルギー・ブリュッセルで開催された技術委員会では、
INSPIRE の 活 動 報 告 が 行 わ れ た 。 活 動 報 告 の 目 的 は 、 INSPIRE の
Implementing Rules(IR、実装基準)と Technical Guidance(TG、技術指針)のドキ
ュメント化の現状を報告し、OGC に参加しているベンダーやソフトウェア開発者に
INSPIRE に関わるソフトウェア開発に関心を持ってもらうことである。
「INSPIRE Implementation: Discovery and View Services」と題した発表では、
INSPIRE の IR、TG のうち、主にネットワークサービスとメタデータに関わる部分につ
いて、現在の活動状況が報告された。INSPIRE では、欧州の地理空間情報インフラ
を構築するためのルールを定義しており、平成 19 年 5 月 15 日より施行されている。
対象とするのは、公的な地理空間データである。またこれは、新たに地理空間データ
を収集することだけを目的にしているわけではない。報告では、INSPIRE での仕様
策定の流れや、ISO、OGC との関係性について詳細が説明された。平成 24 年末に
は INSPIRE Geoportal を公開の予定である。
「INSPIRE Data specifications Status of IR and TG development」と題した発
表では、INSPIRE の IR、TG のうち、データ相互運用性に関連する部分について、
現在の活動状況が報告された。現在、24 件のデータ相互運用性に関する TG ドキュメ
ント(データ仕様)が公開されているとのこと。INSPIRE のデータ記述仕様は、
GML3.2.1 をデフォルトエンコーディングとしている。また、ドメインモデルには、
CityGML 等を採用している。これらの仕様のメンテナンスは、OGC と INSPIRE とで
協力して進めていく予定とのこと。
(5) Business Value Committee
Business Value Committee(BVC)は、地理空間情報の標準仕様が活用された際
の、事業面でのコストと利益について明らかにし、その指針を示すことを目的とした団
体である。157 の組織が参画しており、そのうち 80 が OGC メンバである。OGC の
Steven Ramage が議長を担当している。活動の一つとして BVC サーベイを行った。
BVC では他にも、OGC の各種ドキュメントのレビューや、OGC の企業からの参加者
の BVC への参加呼び込み等の活動を行っている。平成 24 年 3 月の技術委員会で
は、1 時間のミーティングが開催され、BVC サーベイの結果等が報告された。
(6) 3DIM registry subgroup
3DIM registry subgroup では、CityGML 等の 3D モデルにおいて、アプリケーシ
ョン依存の部分として外部定義する、Feature concept dictionary(地物概念辞書)、
Feature catalog(地物カタログ)、Codelist、ADE を対象として、アイテムのレジストリ
152
をどのように管理すべきかについて議論を行っている。これらのレジストリ方法につい
ては、各コミュニティで独自に定義してよい場合もあり、標準仕様が必要か否かについ
ても検討を行っている。ISO19135 をベストプラクティスとして今後議論を進めていく方
向である。現在議論されている課題は、GML のインスタンスドキュメントを、どのように
デフォルトの地物概念辞書にリンクさせるか、また、特定の地物概念辞書にリンクさせ
てデフォルトのものを書き換えるにはどうしたらよいか、等である。
平成 24 年 3 月の技術委員会では、7 人という少人数のミーティングが開催され、
ADE の検証・登録・管理の方法について議論された。各 ADE に対し、名前空間の衝
突がないように 3DIM registry subgroup にて検証し、OGC のディスカッションペー
パー等の正式文書として公開したうえで管理することを検討している。
(7) GML3.3 SWG
GMLはバージョン 3.3 の仕様策定はほぼまとまりつつあり、現在、次のアクションを
どうするかについての議論が行われている。平成 23 年 9 月の米国・ボルダーでの技
術委員会で開催されたGML4 ワークショップの議論を通して得られたGML3.3 SWG
メンバの意向は、GML4.0 策定に進むのではなく、OGCの他の仕様との関連性も含
めたチュートリアルやベストプラクティスを文書化することが必要というものである。また、
XMLベースでない、すなわちJSON 78等のより軽量なデータ交換フォーマットを用い
た地理情報記述仕様が望まれているが、これはGMLのスコープ外であると認識され
ている。
(8) ARML 2.0 SWG
ARML は Augmented Reality(AR)を用いた Web アプリケーション用のデータ記
述仕様である。ARML1.0 は AR Standard にて策定されたが、これの次期バージョン
である ARML2.0 が OGC 標準として仕様策定されることとなった。平成 23 年 12 月の
技術委員会の SWG では、仕様策定に向け、KML と ARML との関係性について議
論が行われた。ARML を完全な KML の拡張仕様とするか、KML のサブセット+
ARML 独自仕様とするかについて検討が進められている。KML の仕様を、(1)変更
なく ARML で利用できるもの、(2)根本的な変更を加えないと ARML で利用できない
もの、または ARML の仕様から除外してよいもの、(3)多少の変更が必要だが ARML
の仕様に含むべきもの、の3種に分け、それぞれについて検討を行い、α版の仕様原
稿が平成 24 年 3 月の技術委員会の SWG にてレビューされた。
5.5 まとめ
本章では地理空間情報国際標準化会議(Open Geospatial Consortium(OGC))
78
JavaScript Object Notation の略。
153
における国際標準化について説明した。
OGC に お け る 屋 内 外 空 間 デ ー タ に 関 わ る 標 準 化 動 向 は 主 に CityGML 、
IndoorGML、Open GeoSMS があり、それぞれの最新動向について述べた。また
OGC に関わる屋内外空間データに関わる標準化動向以外の部分について調査を行
った。
(1)3D Information Management (3DIM) DWG
(2)KML2.3 SWG
(3)Asia Forum
(4)INSPIRE
(5)Business Value Committee
(6)3DIM registry subgroup
(7)GML3.3 SWG
(8)ARML 2.0 SWG
上記を含め、国際標準化に向けた活動について今後とも注視していく必要がある。
154
6 おわりに
6.1 調査事業総括
6.1.1 調査事業について
本調査事業では、大きく 3 つの調査を実施した。
(1) 空間位置情報コードの利活用について
空間位置情報コードの技術仕様や整備・運用の仕組みを検討している国土地
理院にヒアリングを実施し、現状の検討状況を整理するとともに、サービス事業者
を中心としたヒアリング調査により、空間位置情報コードを利活用した G 空間サー
ビスのユースケースの検討を実施した。
本調査の結果は、平成 24 年度に実施されるサービスガイドライン(G 空間サー
ビス利用のための手引き(仮称))整備において、具体的な活用事例としての重要
なコンテンツとなるものである。
(2) 官民連携のあり方について
東日本大震災の際、民間事業者が収集した情報と行政機関が保有する情報を
マッシュアップすることで、数多くの震災支援サービスが生まれた。この事実は、位
置情報サービスの新たな可能性の一つとして大きく注目されている。本調査事業
では、実際に被災を経験した千葉県浦安市をはじめとした自治体や民間事業者
へのヒアリングを通じ、行政データと民間データの融合の結果産まれる新たなサ
ービスの可能性と、今後の官民連携のあり方についての検討を実施した。
ここでの調査結果は、位置情報サービスのみならず、行政データと民間データ
を融合させた新サービスの創出という意味においても、平成 24 年度に実施される
G 空間サービス利用のための手引き(仮称)整備の重要なコンテンツの一つであ
る。
(3) 国際標準化動向の調査について
平成 24 年 3 月に開催された OGC の国際会議に出席し、関係者との意見交換
等を実施することで、OGC における最新の標準化動向を調査するとともに、標準
化に関わる国際的な企業の動向や世界各国の標準化の取り組み等について調
査・整理した。
今後、G 空間サービスを海外展開していく上では、国際標準への対応は必須
であり、かつ、今後の海外 G 空間サービス市場を占う上で、常に最新の国際動向
を把握しておくことは、非常に重要である。
それぞれの調査内容については、以下に総括する。
155
6.1.2 空間位置情報コードの利活用について
空間位置情報コードに関しては、国土地理院が「場所情報コード」としてコードの技
術仕様から運用・管理の仕組みまで、全体を通じて検討を行なっている。本調査事業
では、国土地理院にて検討中の内容を整理しつつ、「具体的にどのようなサービスに
空間位置情報コードが利活用されうるのか」という点にフォーカスした調査を行った。
具体的には、事業者ヒアリングを実施し、具体的な利用場面(ユースケース)を複数
検討するとともに、現状明らかになっている技術仕様や管理・運用体制のもとでどのよ
うな課題が生じうるか、という点を検討した。
ヒアリング調査及び検討の結果、空間位置情報コードには大きく 2 通りの利活用方
法があるということが明らかとなった。
(1)ID による識別・連携(地物に空間位置情報コードを付与し、利活用する)
1 つ目は、何らかの管理対象物に対して空間位置情報コードを付与することで、
従来、位置情報を持たない管理対象物に対して、位置情報を付与することができ
るのではないか、というものである。
(2)位置保証スタンプ(場所に空間位置情報コードを付与し、利活用する)
2 つ目は、空間位置情報コードを基準点あるいは基準点として機能しうる地物
に付与することで、必ずしも GPS 等による測位を行わなくとも、大まかな位置を把
握できるのではないか、というものである。
図表 90 空間位置情報コードの 2 つの利用場面
156
■ID による識別・連携
前者については、主に空間位置情報コードの 0 番(3m 四方の区画に付与されたコ
ード)を利用する場合を想定している。例えば、街路照明灯などの管理を想定してみる
と、現状は管理対象物に対して管理 ID を付与して管理しているものと思われるが、必
ずしも管理 ID と位置座標とは関連付けられていないかもしれない。個々の管理対象
物の管理 ID に対し、空間位置情報コードを付与することができれば(言い換えれば、
管理対象物が 3m 四方のどの区画に存在しているのかが分かれば)、CAD 等による
管理図面等を作成することなく、個々の管理対象物に対して位置座標を与えることが
可能であり、ジオコーディングも可能となる。管理図面作成のコストを考えると、管理業
務における大幅なコストダウンを実現することが可能になるだろう。
勿論、空間位置情報コードの持つ位置座標は、平面で 3m 四方、垂直方向は建物
の階数という精度的な条件は存在するが、それ以上の高精度な位置座標を必要とす
る管理対象物は、それほど多くはないのではないかと考えられる。測量という行為を行
うことなく、管理対象物に対して、位置座標を付与することができるメリットは非常に大
きいと思われる。
図表 91 管理対象物への空間位置情報コードの付与
■位置保証スタンプ
もう一つの用途である、基準点もしくは基準点として機能しうる地物(以下、準基準
点)に対して空間位置情報コードを付与する、という方法は、擬似的な測量を行うとい
157
う行為に近い。すなわち、空間位置情報コードを読み取ることが出来れば、誤差 3m
以内という精度での位置情報が取得できる。
前者の管理対象物そのものに空間位置情報コードを付与する際は、管理対象物そ
のものに対しての測量行為は必須ではないが、本ケースによる空間位置情報コードの
利活用場面は、空間位置情報コードが付与された地物のコードを読み取ることで位置
座標を把握するという、言わば“擬似的な測量に近い行為”である為、準基準点は、予
め測量された点であることが望ましい。
通常、「基準点」と称されるものは、「公共測量」によって測量された成果であり、1 級
から 4 級までが定義されている。本調査事業の検討の中では、厳密には基準点では
ないが、基準点としても機能しうる地物として、「5 級基準点」と定義できる場所に対して
も、空間位置情報コードを付与し、それを参照することで位置を把握できるのではない
か、という提案がなされた。5 級基準点として空間位置情報コードを付与する対象とし
ては、屋外であれば電柱、マンホール、点字ブロックなど、屋内であれば、電源コンセ
ントや火災報知機など、一旦設置された後にはその位置が変化しないような地物が対
象となりうる。これらの地物のほとんどは、元々測量されてはいないものが多いため、5
級基準点として扱うためには測量を行うことが必要となり、新たな測量市場を喚起する
ことも期待できる。
図表 92 5 級基準点の提案
158
図表 93 基準点への空間位置情報コードの付与と位置把握
空間位置情報コードの利活用については、「ID による識別・連携」と「位置保証スタ
ンプ」という 2 通りの使い方があり、それぞれのユースケースについて整理することがで
きた。今後、空間位置情報コードを利用した具体的な G 空間サービスが普及するため
には、本調査事業にて検討したユースケースの具体化と、コードの発行・運用・管理の
システム構築(運用の仕組み)と、コードの運用に関するガイドラインの整備(制度の整
備)が必要となる。前者については、平成 24 年度に整備予定である G 空間サービス
利用のための手引き(仮称)において、サービス導入の手引きとして取り纏める予定で
あり、後者については、国土地理院においてシステム構築とガイドライン整備を行う予
定である。
6.1.3 官民の連携のあり方について
東日本大震災では、災害発生直後から、官民問わず様々な情報が公開され、それ
らの情報をマッシュアップした多くの災害対策サービスが行われた。一方、サービス公
開にあたり、行政が公開した情報が機械判読できない形式だったため、マッシュアップ
するために多大な労力が投入されたのも事実である。本調査事業では、主にヒアリン
グを通じ、情報公開の重要性と課題について整理した。
■位置情報の重要性
東日本大震災の際には、避難所の情報や放射線観測地点の情報などを地図上に
マッシュアップし、その有効性や効果は大きく評価された。ところが、それらの情報を公
開するためには、ボランティア等の多大な労力によって、正規化されていない住所情
159
報をキー入力したり、座標をあわせたりといった作業が発生した。
位置情報の有効性や重要性は十分に周知されたが、位置情報をいかにして簡易
に情報と結びつけるか、という課題は残されており、既存の情報に位置情報を簡易に
付与するためのツールや手法の存在が不可欠である。
本調査事業においても調査を行った、PI や Linked Open Data 等の情報の関連
付けや意味づけのための技術は、この課題を解決する一つの方法になるのではない
かと考えられる。
■位置情報の付与
位置の情報が全く関連していない既存の情報に位置の情報を付与することは非常
に困難である。住所や地名などの位置に関連する情報が予め関連付いていれば、そ
れらを元にしたジオコーディングが可能となるが、必ずしもそうではない場合も多い。
そこで、本調査事業では、空間位置情報コードに着目し、空間位置情報コードを既
存の情報に関連付けることで、位置情報を付与できないかという検討を行った。空間
位置情報コードは、端的に表現すると、3m 四方のメッシュに建物の階数の情報が含
まれるコードであり、緯度経度で言うとそれぞれ 0.1 秒の精度を持つ位置情報というこ
とになる。空間位置情報コードによって日本全国が 3m 四方のメッシュに区切られ、住
所や地名という曖昧さの残る情報ではなく、標準的なコードによって位置情報を得るこ
とができるというのは大きな利点と考えられる。
図表 94 空間位置情報コードの付与と位置把握
160
■情報同士の関連
行政や民間から提供される情報は、本来それぞれの業務やサービス向けに作られ
たものであり、必ずしもすべてが関連付けられるわけではない。だが、情報同士が関連
を持つことで可能となるサービスは非常に多いと思われる。本調査事業では、情報同
士を関連付ける技術として、PI:Place Identifier と LOD:Linked Open Data に
ついて調査を行い、適用場面や具体的な事例について検討を行った。
■PI:Place Identifier
PI(Place Identifier:場所識別子)は、場所の名称や位置情報等を記述し、場所と
場所との関連を意味づけするためのアーキテクチャを定めた標準規格である。PI の特
徴は、場所を記述するための標準的な記述仕様というだけでなく、場所同士の関連
(たとえば、「東京タワー」という名称と、「東京都港区芝公園 4-2-8」という住所が同一
の場所を指すという意味づけ)を定義できるという点である。また、PI の標準規格では、
関連付けた場所を検索するための API も定義されており、標準 API を利用した場所
同士の変換が可能である。
PI のアーキテクチャを適用することで、例えば Web ページに記載されている地名を
座標に変換し、地図表示させたり、行政が持つ避難所と住所の一覧を地図上にジオコ
ーディングしたり、というようなサービスが実現できる。また、前述の空間位置情報コー
ドを情報連携のための主キーのように設定し、PI アーキテクチャを適用することで、こ
れまで位置を持たなかった情報に対して、位置情報を関連付けることが可能になると
考えられる。
しかしながら、現状では「オープンな」日本全国を網羅した住所データベース 79や空
間位置情報コードのデータベースはまだ存在しておらず、上記のサービス実現のため
には、誰もが利用できる住所データベースの整備や、空間位置情報コードデータベー
スの整備が必要な状況である。PIの最大の特徴である「情報と情報との関連付け」とい
う機能を生かしたサービス実現のためには、誰もが利用でき、定期的にメンテナンスさ
れる位置情報のデータベースと、データベースから取得した場所の情報を検索するこ
とができるPIサービスの存在が必須であると考えられる。
■LOD:Linked Open Data
LOD は、「インターネットの父」とも称される米国 MIT 教授の Tim Berners-Lee 卿
が提唱するアーキテクチャであり、セマンティック Web の考え方をすべての情報に適
GoogleMaps や Yahoo!地図等、民間サービスが提供する住所データベースは存在しているが、公
的な情報として他のサービスでも利用可能で、定期的にメンテナンスされており、全国を網羅したオー
プンな住所データベースは存在していない。
79
161
用し、様々な情報を連携させて利活用すべきであるというコンセプトである。海外では、
電子政府を推進する先進国において、米国の data.gov( http://www.data.gov/ )
や英国の data.gov.uk( http://data.gov.uk/ )等の Web サイトを通じ、政府の持つ
公共データを積極的に公開し、利用しようという動きが活発である。
日本国内においても、LOD 推進の動きは始まっており、Linked Open Data チャ
レンジ Japan 2011( http://lod.sfc.keio.ac.jp/challenge2011/ )が LOD を活用し
たコンテストを実施したり、図書館や博物館等の収蔵物を、LOD を活用してカタログ化
を試みるなど、徐々に広がりを見せている。
■情報公開・共有の今後に向けて
PI や LOD などは、情報連携や情報の相互運用性を実現するためのツールに過ぎ
ず、本格的な情報共有を推進するには、情報連携のための仕組みづくりが不可欠で
ある。特に、本調査事業のテーマの一つである官民連携という意味においては、まず
は行政が保有する情報を公開し、共有していくことこそが、情報連携を実現する第一
歩であると考えられる。
経済産業省では、電子政府の実現に向けて様々な取り組みを行なっている 80が、こ
れらの取り組みの早期実現のためには、前述のPIやLOD等の技術は重要な位置を
占めるものであると考えられる。また、情報共有の仕組みづくりという点からは、国が主
導となって電子政府を実現し、それを地方自治体に普及させていくことも重要である。
特に、官民が連携したサービスを実現するために有用と思われる行政データの多くは、
自治体が保有しており、自治体の電子政府化こそが、官民連携の大きな要素であると
考えられる。
また、情報連携の仕組みと並行し、対象となる情報の信頼性や著作権等における課
題解決も必要である。特に行政が保有する情報に関しては、情報の信頼性・信憑性・
正確性といった「情報の質」を担保したうえで公開する必要があり、この課題があるが
故に、行政データの公開がスムーズに行われていないという側面も持つ。さらに、行政
データの一部は、民間事業者に委託して作成されており、これらのデータの著作権に
関しても、取り扱いの指針を示す必要がある。
6.1.4 今後の展望
国際動向調査では、主に OGC における最新の標準化動向調査を中心に、空間位
置情報コードに関連する標準化動向や、その他の最新動向の調査を行った。OGC の
動向調査では、地理空間情報の記述言語である GML の応用技術として、都市空間
をモデル化するための記述言語である CityGML、屋内空間のナビゲーションに特化
した IndoorGML 等について、標準化の動向や技術仕様の概要について取り纏めた。
80
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/e-meti/index.html 参照。
162
OGC は 欧 米 企 業 が 中 心 と な っ て 標 準 化 を 推 進 し て い る 業 界 標 準 で あ る が 、
CityGML や IndoorGML 等の「より生活空間に近い」地理情報のモデル化や標準化
に関しては、アジア諸国が検討の主要メンバであることも多い。おそらく、欧米諸国と
比較し、狭い国土で急激に情報化が進むアジア諸国にとって、生活空間に近い地理
空間情報の標準化ニーズは高いのではないかと推察される。特に、IT 関連企業が多
い台湾や、電子政府が進んでいる韓国などでは、屋内空間やヒューマンナビゲーショ
ンに対する関心が非常に高いようである。
上記のとおり、OGC におけるアジア諸国のプレゼンスは年々増してきており、前述
の台湾や韓国が非常に積極的な活動を行っている。OGC 内部でも、「Asia Forum」
が立ち上がり、地理情報の標準化に関し、アジア各国間での積極的な意見交換が行
われている状況である。日本からも、日立製作所や東京大学等が参加しているが、台
湾や中国と比較すると積極的な活動ができているとは言い難く、アジア地域における
日本のプレゼンス向上のためにも、G 空間分野の主要な企業や研究機関からの積極
的な参加が望まれる。
携帯電話産業が国内に特化し、ガラパゴスと揶揄された件は記憶に新しいが、G 空
間分野においては国内のみに特化したサービスとなることを防ぎ、国際競争力のある
技術やサービスを発信していくためには、OGC のような業界標準化団体への積極的
な関与は非常に重要であると考えられる。位置ゲームや分単位の乗り換え案内サービ
スなどは、位置情報を活用した非常に優秀なサービスであり、海外で受け入れられる
可能性は非常に高い。日本国内で培ったサービスや技術は、OGC のような業界標準
のバックアップを得つつ、海外に展開することで、広く普及することが期待される。
163
6.2 今後の展望
本調査事業では、平成 24 年度に整備予定である G 空間サービス利用のための手
引き(仮称)に記載すべきコンテンツの収集と整理を行った。G 空間サービス利用のた
めの手引き(仮称)は、サービス事業者が G 空間サービスのサービスインを容易にする
ための種々の留意事項等を「手引き」(仮称)として取り纏めていく予定である。G 空間
サービス利用のための手引き(仮称)を整備することにより、G 空間サービスへの参入
を促進し、G 空間サービス事業者が増加することで、G 空間サービス利用のための手
引き(仮称)が G 空間関連市場の発展に寄与することを目指す。
本調査事業では、事業者ヒアリングと WG での議論をもとに、G 空間サービス利用
のための手引き(仮称)に記載すべきコンテンツの収集・検討・整理を実施したが、整
備されるガイドラインがより効果的かつ具体的な内容となるよう、今後、G 空間サービス
利用のための手引き(仮称)整備に向けて更なる調査・検討が必要と思われる事項に
ついて、以下に整理する。
■G 空間サービス利用のための手引き(仮称)の位置づけ
G 空間サービス利用のための手引き(仮称)整備にあたっては、想定する読者を明
確に定義し、読者にフォーカスした内容を検討すべきである。平成 24 年度に実施され
る G 空間サービス利用のための手引き(仮称)整備においては、G 空間サービス利用
のための手引き(仮称)の位置づけ、対象とする読者をあらかじめ設定し、本事業の成
果を効果的に組み入れた G 空間サービス利用のための手引き(仮称)とすることが求
められる。
G 空間サービス利用のための手引き(仮称)の読者及び位置づけは「G 空間サービ
スを展開していこうと考えている事業者向けに、G 空間サービスを実施する上で留意
すべき事項等を取り纏めたドキュメント」であり、G 空間サービス利用のための手引き
(仮称)は G 空間サービス導入の手引書という位置づけである。
この位置づけを念頭に置き、G 空間サービス利用のための手引き(仮称)を整備し
ていくことが重要である。「G 空間サービスを展開していこうと考えている事業者」と一
言に言っても、経験者なのか未経験者なのか、どの程度の規模で G 空間サービスを
展開する予定であるのか、サービスを複数の事業者が協力して行う場合、サービスの
実現・運用にあたってどのような役割分担を行うべきか等、様々なレベルが存在すると
思われる。読者のレベルや事業規模、前提条件なども整理しつつ、G 空間サービス利
用のための手引き(仮称)の整備を実施する必要がある。
164
図表 95 「手引き」(仮称)の読者と内容
対象
位置づけ
想定読者
G 空間サービスを行う事業者・組織
(民間、自治体等を含む)
-
読者のレベル
未経験者:新規に G 空間サービスを サービスインに関する手引き
開始しようと考えている事業者・組織 となるようなもの
経験者:G 空間サービスを手がけた サービスを継続する際の留意
ことのある事業者・組織
事項の確認や手引きとなるよ
うなもの
エキスパート:G 空間サービスを数 複数のサービス間連携や事
多く手がけている事業者・組織
業者連携を行う際の留意事項
の確認や手引きとなるようなも
の
また、G 空間サービスを取り巻く環境や技術は日々刻刻と変化している。G 空間サ
ービス利用のための手引き(仮称)発行後は、定期的にその内容を見直し、その時代
に見合う内容かどうかを判断した上で、加筆・修正等の改訂作業を継続していくことも
重要である。
■要素技術の整理
本調査事業において主な調査対象とした要素技術は、国土地理院が推進する「場
所情報コード」、経済産業省が推進する「PI:Place Identifier」、欧米におけるオープ
ンガバメントを推進する技術要素のひとつである「LOD:Linked Open Data」の 3 つ
であった。これらの要素技術は、いずれも比較的新しい考え方に基づいたものであり、
地理空間情報を利活用しつつ、スムーズな情報連携を実現するためには必須となる
技術であると考えられる。
本調査事業では、それぞれの要素技術の状況を調査・整理したが、図表 96 に示
すように、今後はそれぞれの技術が連携・融合し、情報連携を実現する基盤技術とし
て成熟していくことが望ましいのではないかと思われる。また、IT 技術の進歩は目まぐ
るしく、その時代によって最適解も異なる(変化する)ため、常に最新の技術動向を把
握しておくことが重要となる。
165
図表 96 3つの要素技術を活用した情報連携の姿
■ユースケースの細分化と実例の提示
本調査事業では、空間位置情報コードや情報の官民連携について、いくつかの事
例を検討し、WG 等でも議論を行った。今後 G 空間サービス利用のための手引き(仮
称)を整備し、そのガイドラインが有効に生かされるものとなるためには、複数の分野に
おけるユースケースと、多くの実例を提示しておくことが効果的であると考える。
さらに、複数のユースケースを検討することは、個々のケースにおける留意点の違
いや、共通の留意点を明らかにすることにつながり、様々な G 空間サービスを行おうと
考えている事業者にとっては、非常に有益な情報となりうる。G 空間市場の拡大という
観点からも、今後も継続したユースケースを検討し、サービス事業者に対する選択肢
の幅を広げるという試みは非常に意味があるものである。
166
図表 97 複数ユースケース検討の効果
■行政データ公開の推進について
地理空間情報活用推進基本法に基づき、基盤地図情報等に代表される地理空間
情報の公開は推進されている。他方で、位置情報提供サービス事業者は、調査等労
働集約型のサービス構築のスタイルが改善されていない。この背景には、行政機関が
所有する店舗の開店・閉店等許認可に係る情報が公開されていないという点などがあ
る。
また、東日本大震災を見ても、位置情報を伴う情報(避難所リストなど)は、テキスト
データでの公開のみであり、位置情報付与(ジオコーディング)には、人手を介する状
況があった。行政機関が所有する『位置情報を伴う情報』(店舗の開店・閉店など)を、
位置情報を付与した標準的な形式で公開することで、事業者の提供するサービスの
高次化や、災害時の 2 次利用に寄与できる。行政自らが行政データの価値を再認識
し、民間サービスでの活用推進のための活動を具体化していくことが、官民連携の第
一歩である。
167
図表 98 公開が求められる行政データの例
カテゴリ
(一部)
情報(コンテンツ)の種類
営業許可(飲食店の場合)
飲食店
情報の所在
(管轄)
現状
保健所
深夜における酒類提供飲食店営業
警察署
開始届(深夜営業飲食店の場合)
風俗営業許可(スナック、クラブ
警察署
等の場合)
ホテル
ホテル営業、旅館営業、簡易宿所
都道府県庁
営業、下宿営業等の届
病院
診療所開設届
保健所
コンビニ
開業届
税務署
温泉
浴場営業許可
保健所
駐車場
開業届
税務署
スーパー
開業届
税務署
銀行
ATM 設置等の届け
金融庁
エステ
開業届
税務署
理容店・美
容室・鍼灸 営業許可
院・整骨院
電話帳を基礎デ
ータとし、人海
戦術での情報収
集で確認
保健所
都道府県庁・消防
一部は Web サイ
署
ト等で公開され
道路管理者(国、
道路工事など(国道、都道府県道、
ているが、位置
都道府県、市区町
市区町村道)
情報がついてい
村)
ないものも多い
通行規制
警察署
建築・解体など
工事
イベント
図表 98 に示した情報は、サービス事業者へのヒアリング等を通じて明らかになった
ものであるが、そもそも行政内部でどの部署がどのような情報を収集し、保有している
のか、という状況は、関係者以外には広く認知されていないのが現状である。したがっ
て、行政自らが積極的に保有する情報を整理し、順次公開していくことが先決である。
以下に、行政データの公開とそれにかかる検討事項について示す。
168
図表 99 行政データ公開までの検討事項
■官民データ連携の推進
上記のとおり、行政データの公開を実現するためには行政内部での活動も必要とな
るが、公開された情報と民間データをマッシュアップすることで可能となる新たなサー
ビスの模索も必要である。行政データの整理と同様に、民間データにおいても、情報
のカタログ化、利用ルール等の整備が必要である。
図表 100 において、官民データのマッシュアップにより実現する新たなサービスの
例と、サービスを実現する上での課題を整理した。
169
図表 100 官民データ連携の推進
また、官民データを連携させた新たなサービスの創出のためには、官民それぞれが
データを提供し合うことが必要である。データの提供に関しては、官民が抱える課題は
ほぼ同じであると考えられる。以下に、データ提供における課題を整理した。
図表 101 データ共有の課題と解決策
情報共有の課題
解決手段
必要な措置

誰が、どのようなデー データを収集し、分
タを保有しているのか 類し、検索可能な状 
がわからない
態にする

データ収集手順のマニュアル
化
データ収集のためのツールの
整備
収集作業の実施

収集したデータの内容 データの概要を整理 
(概要)が知りたい
し、分類する

メタデータ仕様の策定
データごとのメタデータの整
備
データ検索ツールの整備
収集したデータの整備 データのメンテナン 
時点や有効期限・更新 ス情報を明らかにす
頻度などが知りたい
る
メタデータ仕様の策定
(メタデータへのメンテナン
ス情報の付与)
170
情報共有の課題
解決手段
必要な措置
入手先や必要な手続
どうやって入手できる

きに関する内容を明
かが知りたい

らかにする
データ検索ツールの整備
データ提供ツールの整備
利用上の制限があるか 利用上の制限事項を 
どうかを知りたい
明らかにする
データ提供・利用ガイドライン
の策定
著作権に関する配慮 
著作権への配慮すべき 事項を整理し、個々
事項の有無が知りたい のデータには著作権
情報を付与する
データ提供・利用ガイドライン
の策定
(著作権に関する留意事項の
追記)
個人情報に関する配

個人情報への配慮すべ 慮事項を整理し、
き事項の有無が知りた 個々のデータには個
い
人情報の有無を明確
化する
データ提供・利用ガイドライン
の策定
(個人情報に関する留意事項
の追記)
今後、G 空間サービスをさらに発展させていくためには、上記に整理したような課題
を 1 つ 1 つ解決していくことが必要となる。本調査事業においてもその一部の検討を
実施したが、平成 24 年度に実施予定の G 空間サービス利用のための手引き(仮称)
整備においては、上記の検討において明らかとなった課題について、官民それぞれ
が実施すべき活動を明確にするとともに、G 空間サービス利用のための手引き(仮称)
として指針を示すことが重要である。
171
図表 102 官民データ連携の推進に向けて
■国際動向の調査
地理空間情報関連の国際標準は、デジュールスタンダードとしては ISO が、デファ
クトスタンダードとしては OGC がその一翼を担っており、主に欧米諸国主導で標準化
を推進しているという現状がある。G 空間サービスの海外展開を考える上で、国際標
準に基づいたサービス構築を行うことは非常に重要である。データ整備やアプリケー
ション・インタフェースなど、ISO や OGC で標準化を推進している内容は幅広い。常に
最新の標準化動向を把握し、標準化すべき部分は標準に準拠したうえで、国際競争
力のあるサービスで海外展開を行うことが重要である。
一方、今後市場として大きく注目されているのは G 空間サービスの発展途上にある
アジア諸国や南米、アフリカ諸国であり、これらの国々の状況を把握しておくことも、今
後の海外展開においては重要と考える。特に、屋内における G 空間サービスの需要
は今後増えてくるものと予想され、本調査事業において調査対象とした CityGML や
IndoorGML などは、従来の G 空間サービスの主な対象であった屋外ではなく、より
狭域なエリアでのサービス提供を目指したものである。
ISO 及び OGC の最新動向を把握しつつ、今後 G 空間サービスが必要となる国々
の状況をバランス良く把握することで、各国の G 空間サービス関連のハード/ソフト両面
のインフラの整備状況に応じたサービス導入が可能となり、日本ならではのきめ細や
かなサービスが国際進出できるのではないかと思われる。
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官民連携の観点からは、電子政府化や情報公開が進んでいる諸外国の状況を引
き続き調査し、日本の電子行政に見合う形で取り入れていくことが重要である。諸外国
と日本における行政の違いや法制度の違い、社会的な IT リテラシーの違い等も十分
に考慮した上で、国際的な標準に倣う部分は倣い、日本のスタイルに合わせるべき部
分はローカライズを行い、日本の行政や企業風土に合った情報公開の仕組みを模索
すべきである。海外事例を参考にしつつ、適切に国内向けのローカライズを行うことは、
日本国内で確立した仕組みの海外展開を想定するうえでも、各国へのローカライズを
行う際の大きな経験となるはずである。
上記に挙げた内容を更に追加調査し、G 空間サービス利用のための手引き(仮称)
として整理・公開することで、国内における G 空間市場だけでなく、海外諸国へのサー
ビス展開が加速し、G 空間産業が大きく発展していくことを期待する。
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禁無断転載
平成 23 年度電子経済産業省推進費
(空間位置情報コードの利活用等のためのサービスモデル
に関する調査事業)
事業報告書
平成 24 年 3 月発行
発行所:一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用推進部
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目9-9
六本木ファーストビル内
TEL:03-5860-7558
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