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Strengthening of Aluminum Foam through Resin Coating
樹脂コーティングによる 発泡アルミニウムの強化 北 薗 幸 一 首都大学東京 発泡アルミニウムは超軽量構造材料として期待されているが、強度が低い ことが実用化の妨げとなっている。本稿では、発泡アルミニウムに簡便な 樹脂コーティングを施すことにより、強度を向上させる手法について解説 する。 1.はじめに 内部に多数の気孔を有するポーラス金属は、次世 筆者は、できるだけ簡便かつ低コストな発泡アル 代の軽量構造材料として注目されている。特にク ミニウムの新しい強化法として、発泡アルミニウム ローズドセル型発泡アルミニウムは、自動車のク の表面に着目した。一般に発泡アルミニウムの圧縮 ラッシュボックス等への応用が検討されている 。 変形において、ほぼ一定の圧縮応力で変形が進行す しかしながら、発泡アルミニウムは、既存の構造用 る特徴的なプラトー領域が出現する。これは、内部 アルミニウム合金と異なり、そのセル壁は純アルミ のセルが不均一かつ連続的に座屈するためである。 ニウムで成り立っている。また、セル構造を破壊す このとき、発泡アルミニウムの表面の開気孔部分か るため鍛造加工が不可能であり、結果としてその強 ら局所的な座屈が発生する。したがって、表面の開 1) 度は著しく低い。発泡アルミニウムの実用化には、 気孔部分の局所座屈を抑制できれば、強度を増加さ その強度向上が不可欠である。 せることができると考えられる。 発泡アルミニウムの強度を向上させる手法として、 発泡アルミニウムの表面状態が、機械的特性に及 ( i )板材とのサンドイッチ構造や管材への充填に ぼす影響の例として、スキンが挙げられる。スキン よる複合化 2) ニウムの層であるが、同じ密度で比較しても、スキ といった手法が提案されている。( i )の場合、表皮 ンを有する発泡アルミニウムの強度は、スキンなし に緻密材料を接合することにより、強度および曲げ のものよりずっと高いことが知られている。これは、 剛性の上昇が期待されるが、部材の形状が、板や管 スキンの存在により表面の開気孔が失われ、結果と といった単純形状に限定されるといった問題も発生 して局所座屈が抑制されたためである。したがって、 する。また緻密材料の割合に応じて重量も増加する。 筆者は、発泡アルミニウムの表面に対してスキンと (ii)の場合、既存のアルミニウム合金と同様の固溶 強化や析出強化が期待されるが、合金元素の添加に より、溶湯の融点、粘性が変化するため、発泡プロ セスの制御が難しくなるといった問題も発生する。 20 とは、発泡中に形成される最も外側の緻密なアルミ (ii)合金元素の添加によるセル壁の強化 3) SOKEIZAI Vol.53(2012)No.2 同様な処理、つまり樹脂コーティングを施すことに より、発泡アルミニウムの強度向上を試みた。 特集 ポーラス材料の成形技術 2.樹脂コーティング 4) 市販の神鋼鋼線工業製発泡アルミニウム(ALPORAS) グされたものよりも約 10%高かった。樹脂コーティ 3 を実験に用いた。インゴットから 30 × 30 × 45 mm ングされた発泡アルミニウム試験片の例を写真 1 に の直方体試験片を精密切断機により切り出した。樹 示す。樹脂は直方体の 4 つの側面にコーティングさ 脂コーティング前のかさ密度を ρ *0 とすると、初期気 れており、開気孔部分のみに充填された。光学顕微 孔率 鏡観察により、接合不良は観察されなかったため、 は、 =1- エポキシ樹脂とセル壁は、強固に接合されていると ρ *0 ρS (1) 考えられる。 と表される。ここで ρ S はセル壁のアルミニウムの密 度である。本研究では、 すべて、 気孔率が = 90 ± 1 % の発泡アルミニウムを用いた。 樹脂コーティング用の樹脂として、価格、粘性、 強度の観点から、航空宇宙用炭素繊維強化複合材 料としても用いられるエポキシ樹脂を選択した。本 研究では、エポキシ樹脂として丸本ストルアス製の Epofix を用いた。密度は、ρ R = 1.15 Mg/m3 である。 樹脂コーティングされた発泡アルミニウム中の樹脂 気孔 気孔 体積分率 θ は、 ρ *θ -ρ *0 θ= ρR θ (2) 樹脂 樹脂 と定義される。ここで ρ *θ は樹脂コーティング後の 発泡アルミニウムのかさ密度である。 樹脂コーティングは、主に大気中でエポキシ樹脂 を発泡アルミニウム試験片に塗布することにより行 われたが、樹脂体積分率を高めるために、一部、真 空含浸処理も施された。真空含浸された発泡アルミ ニウムの樹脂体積分率は、大気中で樹脂コーティン 写真 1 (a)側面に樹脂コーティングした発泡アルミニウ ム試験片の外観写真。試験片サイズは、30 × 30 3 × 45 mm 。(b)エポキシ樹脂を充填された開気 孔部分の拡大写真。 3.室温圧縮特性 20 -4 3 (θ=0%) 、 × 10-4s-1 とした。図 1 に樹脂コーティング前 ルミニウムの圧縮応力 - ひずみ曲線を示す。初期最 大圧縮応力は樹脂体積分率が増加するにつれて著し く増加した。この結果より、樹脂コーティングは、 発泡アルミニウムの圧縮強度向上に極めて有効であ 15 圧縮応力 / MPa 樹脂コーティング後(θ=21.1 and 31.7%)の発泡ア サイズ: 30X30X45 mm θ = 31.7 % 10 5 ることがわかった。一方、樹脂コーティングにより 発泡アルミニウム特有のプラトー領域が失われ、脆 性的な発泡アルミニウム特有の変形が見られた。 -1 初期ひずみ速度: 5.5X10 s 圧縮試験は室温で行われ、初期ひずみ速度を 5.5 θ = 21.1 % 0 θ=0% 0 10 20 30 40 50 60 圧縮ひずみ (%) 70 80 図 1 樹脂コーティングされた発泡アルミニウムの室温圧 縮試験結果。破線は未コーティングの発泡アルミニ ウム。 Vol.53(2012)No.2 SOKEIZAI 21 20 (a) 圧縮強度, σC / MPa 15 図 2(a)に発泡アルミニウムの圧縮強度を樹脂体 図 2(b)に圧縮強度をかさ密度で割った比圧縮強 積分率に対してプロットした。樹脂体積分率に比例 度を樹脂体積分率に対してプロットした。樹脂によ 10 して圧縮強度は増加し、40%樹脂コーティングされ る重量増加を差し引いても強度は樹脂体積分率の増 た発泡アルミニウムは、未コーティングのものと比 加に伴い増加した。したがって、樹脂コーティング 5 較して 8 倍の圧縮強度を有していた。この結果は、 処理は、重量増加を抑制しつつ発泡アルミニウムの 樹脂による複合強化だけでは説明できず、開気孔部 大幅な強化に有効であることがわかった。 3 分に充填されたエポキシ樹脂が局所座屈の発生を抑 0 制したためと考えられる。 25 (a) 10 15 20 25 30 樹脂体積分率, θ (%) 5 10 5 25 40 (b) 15 10 3 0 35 20 比圧縮強度, 圧縮強度, σC / MPa 15 0 σC/ρ*θ / MPa (Mgm-3)-1 20 サイズ: 30X30X45 mm 3 サイズ: 30X30X45 mm 0 5 10 15 20 25 30 樹脂体積分率, θ (%) 35 40 5 サイズ: 30X30X45 mm 0 10 15 20 25 30 樹脂体積分率, θ (%) 5 35 40 (a)圧縮強度 (b)比圧縮強度 (b) 図 2 樹脂体積分率に対してプロットされた σC/ρ*θ / MPa (Mgm-3)-1 20 比圧縮強度, 4.室温引張特性 15 3 圧縮試験だけでなく樹脂コーティングの有効性を 2.5 3 サイズ: 30X30X45 mm した。試験片の形状は、圧縮試験と同じとし、アラ 5 0 5 10 15 20 25 30 35 ルダイト接着剤を用いて引張治具と接合した。 樹脂体積分率, θ (%) 40 引張試験で得られた引張応力 - ひずみ曲線を図 3 に示す。26.5%樹脂コーティングされた発泡アルミ ニウムの引張強度は、未コーティングのものの約 2 倍であった。しかしながら、圧縮強度に比べて、増 加の割合は小さかった。これは、引張では座屈では なく引張破断により、セル壁が破壊するため、樹脂 コーティングの寄与が小さかったと考えられる。 引張応力 / MPa 10 引張試験においても確認するため、室温引張試験を 行った。ここでクロスヘッド速度を 0.5 mm/min と サイズ: 30X30X45 mm3 引張速度: 0.5 mm/min θ = 26.5 % 2 1.5 1 θ=0% 0.5 0 0 2 4 6 8 10 引張ひずみ (%) 図 3 樹脂コーティングされた発泡アルミニウムの室温引 張試験結果。クロスヘッド速度は 0.5 mm/min。 5.高温圧縮特性 22 エポキシ樹脂は、高温で強度が低下するため、樹 で高温圧縮試験した。ここで試験片をオイルバス中 脂コーティングされた発泡アルミニウムの強度も温 で加熱保持した。圧縮応力 - ひずみ曲線を図 4 に示 度に依存すると考えられる。そこで樹脂体積分率 す。50℃では、樹脂体積分率の増加とともに圧縮強 が θ =0-28.6%の発泡アルミニウムを 50℃と 100℃ 度が増加したが、100℃では、樹脂体積分率 21.3%と SOKEIZAI Vol.53(2012)No.2 特集 ポーラス材料の成形技術 26.1%でほとんど同じ圧縮強度であった。図 5 にそ 15 15 (a) 50℃ れぞれの温度における圧縮強度を樹脂体積分率に対 mm3 (a)30X30X45 50℃ してプロットした。50℃では樹脂コーティングによ 30X30X45 mm3 り、発泡アルミニウムは強化されるが、100℃では、 圧縮応力 / MPa 圧縮応力 / MPa 10 樹脂コーティングの影響がほとんど消失することが θ = 28.6 % 10 わかる。これは 100℃を超えるとエポキシ樹脂が軟 θ = 28.6 % 化するためである。高温圧縮試験結果より、高温環 5 境下で発泡アルミニウムを使用する場合、ポリイミ 5 ド等の耐熱樹脂を用いてコーティングする必要があ θ = 21.1 % θ = 21.1 % θ=0% 10 20 30 40 50 60 70 0 0 10 20 圧縮ひずみ (%) 30 40 50 60 70 圧縮ひずみ (%) 15 0 0 15 ることがわかった。 θ=0% 80 80 15 (b) 100℃ 3 サイズ: 30X30X45 mm mm3 (b)30X30X45 100℃ 3 30X30X45 mm 圧縮強度, σC / MPa 圧縮応力 �/ MPa 圧縮応力 �/ MPa 10 10 10 θ = 21.3 % 5 θ = 21.3 % 5 θ = 26.1 % θ = 26.1 % 0 0 50℃ 5 100℃ θ=0% θ=0% 0 10 0 10 20 30 40 50 60 20 圧縮ひずみ (%) 30 40 50 60 圧縮ひずみ (%) 70 80 70 80 図 4 (a)50 ℃および(b)100 ℃のオイルバス中におけ る樹脂コーティングされた発泡アルミニウムの圧縮 試験結果。 0 0 5 10 15 20 25 30 樹脂体積分率, θ (%) 35 40 図 5 樹脂体積分率による発泡アルミニウムの高温圧縮強 度の変化。 6.おわりに 代表的なポーラス金属である発泡アルミニウムの 参考文献 強度を簡便かつ低コストで向上させる手法として、 1 )J. Baumeister, J. Banhart and M. Weber: Mater. Design, 樹脂コーティング処理を試みた。エポキシ樹脂を表 面にコーティングし、開気孔部分に充填することに より、圧縮強度が著しく増加した。これは、表面か らの局所座屈が抑制されたためである。更に樹脂は 低密度であるため、圧縮強度だけでなく比圧縮強度 も向上した。樹脂コーティングは、引張条件また 18, 217(1997). 2 )H. -W. Seeliger: Adv. Eng. Mater., 4, 753(2002). 3 )T. Miyoshi, S. Hara, T. Mukai and K. Higashi: Mater. Trans., 42, 2118(2001). 4 )T. Miyoshi, M. Itoh, S. Akiyama and A. Kitahara: Adv. Eng. Mater., 2, 179(2000). 50℃までの高温環境でも発泡アルミニウムの強化に 有効であった。 樹脂コーティングは、曲面にも容易に適用可能で あり、また塗装の際の下地としても活用できる。こ 首都大学東京 大学院システムデザイン研究科 のように発泡アルミニウムへの樹脂コーティング処 〒 191-0065 日野市旭が丘 6-6 TEL. 042-585-8679 FAX. 042-583-5119 http://www.aerospace.sd.tmu.ac.jp/materials/ 理は、構造部材への発泡アルミニウムの適用範囲を 飛躍的に拡大する手助けとなるであろう。 Vol.53(2012)No.2 SOKEIZAI 23