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食をどう考えるのか:エスカオロジーの意味

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食をどう考えるのか:エスカオロジーの意味
日本食品添加物協会
メディアフォーラム(2/17/09)の講演要旨
食をどう考えるのか:エスカオロジーの意味
松尾雄志
大阪大学招聘教授
エスカオロジー研究所長
その国に暮らす人々にとって、 食料力 は根源的な国力です。日本の食料力は経済力や技
術力に大きく依存しており、結果として二つの危機を抱えています。第一は「入って来なくなる危
機」であり、第二は「入って来るが、安全性の危機」です。農産国が「自国民を養うことを優先する
という理由で、日本への輸出量を減らす」という方針をとると、日本はたちまちに食料不足に陥り
ます。日本で暮らす人々の食の安全・安心における危機意識は、入って来なくなるときのことを想
定して初めて健全であると言えます。つまり、経済状況の悪化を含めて食の持続性が危ういとき
に、これを度外視して「安全や安心」のあるべき姿を討議すると本質を見失うように思います。日
本は、この二つの危機に加えて、「健康食品という名の新食品の危機」も抱えています。これは
人々の食品に対する感性を反映していると思われます。
こういった危機をどのように緩和するかについて科学技術の面とモノの考え方(哲学)の両
面から討議し、実践できることを模索しようというのがエスカ[食]オロジー[学]です
(http://www.escaology.com/)。
1. 日本人の食感覚バランス
日本人の食に対するモノの考え方(精神構造)は、上述の食の危機を前提にするととてもア
ンバランスです。それを如実に示す例をあげてみましょう。
1) GM 作物(遺伝子組換え食品)の意味:地球全体について、億単位の人口を耕地面積(10
億 km2 単位)で割ると、約 1 となります。これは食の依存(危機)係数であり、日本の場合は、
約 2.7 という大きな値となり、米国では 0.16 と1を大きく下回っています。つまり、日本は自
国民を自力で養うに足る耕作地を保有しておらず、食料に関して地球に大きな負荷をかけ
ていることが分かります(参考資料-1)。従って、経済力を基盤にした農産国との貿易関係
に持続性がなくなることを想定した対抗策を危機管理として準備しておく必要があります。
GM 作物は科学技術的な対抗策(抑止力)として重要な意味を持っていると思うのですが、
「とにかく、GM 作物は嫌だ」という感情が先行しています。何とかしたいものです。
2) 食品添加物の意味:「食品添加物は体に良くない」が食の安全安心の基本であるかのよう
な話を頻繁に耳にします。それで良いのでしょうか。これは「これさえ食べていれば健康な
のだ」という盲信と同根のフードファディズムの一種です。全ての食品添加物を同列に扱わ
ず、群別に「もし、使わないとどうなるか」を想定すると、その理由と意味が見えてきます(参
考資料-2)。
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まず、たちまち困る食品添加物として防腐、静菌作用のある保存料を挙げることがで
きます。これを使わないと、食中毒被害の増加だけではなく、食品の廃棄量が大幅に増加
します。地球に負荷をかけて食料を調達し、保存料を使わないで、廃棄量を増やす。これ
は、もったいないどころか、非人道的な行為であると捉えられても仕方がないでしょう。日本
は今やそういう国になり下がりつつあります。米国 Boston にある Food Bank には Harvard
大学のダイニングサービス部門から食堂や仕出しの残り物(年間約 4 トン)がホームレスな
ど恵まれない人々に提供されています(参考資料-3)。もし、これに適切な保存料が使われ
なかったら、人助けではなくなってしまいます。
保存料添加反対という思考は別のリスクを生みます。ある食品企業で、「無添加で差
別化」という発想で、食経験のある天然食品素材から殺菌作用のあるものを開発しました。
有効成分をよく調べたら、現在使用されている保存料よりも毒性が強いことが分かり、開発
を断念しました。もし、「天然素材由来だから」という理由で、毒性を調べずに使用されてい
たらどうなっていたでしょうか。ぞっとする話です。感情的な「無添加」盲信や非科学的な主
張をする消費者に阿る製品開発はこういった新たな危害を発生させる結果になることを認
識しなければなりません。
保存料以外の食品添加物は不要でしょうか。日本は世界でも冠たる長寿国です。
種々の食品添加物が、高齢者が美味しく食べて元気で長生きするのに貢献しています。見
た目でおいしそうと食欲をそそることは高齢者にとって大事なことで、そういった食事が高
齢者を元気づけることは身の回りで良く観察されることです(参考資料-4)。
では現状のままで良いでしょうか。安全性のことではなく、使用者側のスタンス、つまり
製造者レベルでのチェック機構や監視機構は勿論、積極的な信頼関係の構築の試みは十
分でしょうか。盲信者は別にして、殆どの消費者の不安はどのように使われているかが見
えないことにあります。従って、GMP のようなシステム構築に加えて、現場でどのように使
われているかを「説明できるアドバイザリースタッフ(助言者)」の養成に意味があるように
思います。
3) 健康食品の意味:食なのか、薬なのか、よく分からない新種の食品がまことしやかに宣伝
されており、薬事法違反や景品表示法違反(参考資料-5)で摘発/排除されたりしています。
これは一体何なのかでしょうか。食におけるモノの道理をもっと真剣に考えないといけない
のでは、と思われることが健康食品という名の新食品に関して健康被害も含めて身の回り
で、ときには入院患者の間でさえ起こっています。飢餓や栄養問題を抱えている国とは異
質の食の危機です。この問題もアドバイザリースタッフで緩和できるように思います。
4) 異文化から学ぶことの意味:自分達の文化については、異文化との比較で学べることがあ
ります。食文化に関しても同様です。比較的性善説的思考の日本人としては考え直さなけ
ればならない、というか、食料力の低さからすると「逆ではないの」とさえ思うという話です。
・ フランス人 vs.日本人:親日家のフラン人曰く「食事を前にして、フランス人は『何か毒が
入っていないか』を考え、日本人は『体にどう良いか』を考えます」。どれほど多くのフラ
ンス人がそう思うかどうかは別にして、日本人の大部分は「成程、そうかもしれん」と思
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・
・
うのではないでしょうか。妙に感心している場合ではないのです。
ドイツ人 vs.日本人:ドイツのレストランのテーブルには砂糖とチクロ(米国、日本では発
癌性や催奇性の疑いがあるとして使用禁止の人工甘味料)がおいてあります(EU 圏、
カナダ、中国では禁止されていない)。友人のドイツ人に理由を尋ねました。ドイツ人曰
く「ひょっとすると発癌性があるかもしれないというリスクと、かなり高い確率で糖尿病に
なるリスクのどちらを選択するか、という自己責任の問題でしょう」。食に対してゼロリス
クを希求する人々には教訓的な話ではないでしょうか。
日本の大学 vs. Harvard 大学:「日本のある大学で、大 学生 にも 食 育 --学 食 利用
内 容 を親 に通 知」という記事があります(1/19/09 配 信 )。一方 、米 国 Harvard 大
学 では、初年次学生 に From Farm To Plate をスローガンに、学生が今食べようとして
いる食材がどのようなプロセスを経てお皿に盛りつけられているかを実地訓練も含め
て教育する Food Literacy Project が行われています(参考資料-3)。両者の間に何か根
本的な差を感じませんか。
3. エスカオロジーとは?
エスカオロジー(Escaology)はラテン語で「食」を意味するエスカ(Esca)と、「学」を意味する
-ology を合体させた造語です。一言で云えば 食学 であり、食の多面性を考える新提言です。
その Initial Concept は「食の持つ色々な事柄を、科学としてのことわり(モノの道理)から明らか
にして行く学問」です。その後、グローバルな視点での食の持続性と食の安全性のための革新
的/抑止力ある科学技術を理解・習得並びに研究開発することを目的としてエスカオロジー研
究所(Institute for Escaology)を設立しました。現在、これを基盤にして、
1) 食に関するメディアや論文などの情報を科学的に正しく判断並びに指導でき(リテラシー)、
2) 社会的道徳と倫理を順守した食の製造・販売でのモラル向上に貢献し、
3) 結果として、賢い選択と自己責任の取れる感性ある人材を育成する、を目指しています。
その一環並びに若手研究者の支援としてオンラインジャーナルの運営を 2008 年 12 月 8 日
に開始しました。http://www.escaology.com/ をご笑覧ください。
4. エスカオロジー研究所からの提案
エスカオロジーのポイントは食の危機に対抗できる技術力(抑止力)、哲学(モノの考え方)
そして感性にあります。これらを教育/啓発する手段として、Harvard 大学の Food Literacy
Project のような大学の教育課程に組み込む方式は中期的効果を期待できます。エスカオロジー
研究所からは、既卒者を対象とした短期的効果を期待できる方式を提案したいと思います。現在
までに、健康食品関係のアドバイザリースタッフ(参考資料-6、7)として 1 万人近くが養成されて
いますので、この方々を「食情報説明者(エスカオロジスト:Escaologist)」として短期養成すること
を立案しています。どのようにして市民権を得るかが難題で、その解決にはメディア関係者のご
理解とご支援は必須です。何とぞ宜しくお願い致します。
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参考資料
Matuo Y.: Proposal of a New Concept: Escaology for Food Science Education.
International Escaology (online journal). Vol. 1 Keynote Paper (2008)
松尾雄志:日本パン・菓子新聞第 1710 号 平成 20 年 9 月 15 日 Interview 食品添加物につ
いて考える「食べ物はヒトにとって身体に良いものばかりではなく、毒もあるという考え方が大
事」
松尾雄志:エスカオロジー●米 Harvard 大の食育活動「フード・リテラシー・プロジェクト(FLP)」
日経 BP 社 Food Science、2008-11-17
片 村元 : 高齢 者の 食:ある特 養での実 例 から考 察され る教 育研 修 課題 。 International
Escaology (online journal). Vol. 2(p.1-5) Jan. 29 (2009)
日本経済新聞 2009 年 2 月 4 日 第 30 面:シャンピニオンエキス含む健康食品 「体臭に効果」
は根拠なし 公取委 7 社に排除命令
(社)健康食品管理士認定協会:http://www.ffcci.jp/index.html
栄養情報担当士(NR):(独)国立健康・栄養研究所 http://www.nih.go.jp/eiken/
以上(松尾)
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