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1 国際協同組合同盟アジア太平洋地域 協同組合フォーラム 2012

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1 国際協同組合同盟アジア太平洋地域 協同組合フォーラム 2012
国際協同組合同盟アジア太平洋地域
協同組合フォーラム 2012 ジャパン
基調講演「災害時における市民社会の役割」
国連人道問題調整事務所
神戸事務所長
渡部 正樹
はじめに昨年 3 月 11 日の大震災でご家族やご友人を亡くされた遺族の皆さまに
心からの追悼の意を表します。国連人道問題調整事務所(OCHA)を代表して、東
北の被災地や避難先で今も苦労を強いられておられる方々と、我々は共にあるこ
とを改めてお伝えしたいと思います。東北におられる方、特にまだ自宅に帰るこ
と、あるいは生計やコミュニティの再建を出来ずにいる方々に、我々は常に心を
寄せています。
今回災害時における協同組合の役割について話し合うこの重要なフォーラムで基
調講演をさせて頂きますことに感謝申し上げます。とりわけ、日本政府代表の皆
さんや井戸知事、矢田市長と列席させて頂きますことを大変光栄に存知ると同時
に、こうした方々の OCHA や OCHA 神戸事務所に対するご支援にも感謝申し上
げたいと思います。
ご存知のように世界中で、国連と協同組合は密に連携して業務を遂行しています。
国際協同組合同盟(ICA)は国連経済社会理事会(ECOSOC)の協議資格を有しており、
貧困などの世界的な課題に取り組む上で、規範的枠組みの構築に多大な貢献をし
ておられます。また世界各地の協同組合は、OCHA や国際労働機関(ILO)、国
連食糧農業機関(FAO)など様々な国連機関と協力しながら現地で仕事を進め
ていらっしゃいます。
まず私の所属する組織について少々ご説明致します。OCHA は国連事務局の一
部で、政府や国連機関、赤十字・赤新月社、NGO などの国際的人道アクターを
動員して人道危機に対応する役割を担っています。OCHA は地震、津波、火山
の噴火や洪水などの自然災害が引き起こす人道的支援のニーズに応えるだけでな
く、紛争や飢饉あるいは栄養不良などその他の災害によってもたらされる苦難を
和らげることも目指しています。
OCHA には現在、世界 45 カ国に 2,000 人のスタッフがいます。国連児童基金や
世界食糧計画、国連難民高等弁務官事務所などと異なり、OCHA は食料やテン
トのような支援物資や、保健医療、水と衛生あるいは教育などのサービスの提供
は行っていません。しかしこうした生死をも左右する支援活動を調整するのが
OCHA の役割です。そのために、ニーズアセスメントの実施や支援の優先順位
付け、そしてそれを明確で戦略的な計画に落とし込み、資金の用途を明らかにし、
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皆に意思決定に必要な最大限の情報を提供し、緊急対応に必要な人道支援資金を
動員したりしています。OCHA のトップでもある緊急援助調整官は、国際的な
支援を必要とするすべての緊急対応の調整を統括するほか、困窮する人々の代弁
者となって声を上げるなどの役割を負っています。現在、ヴァレリー・エイモス
がその任に就いています。
OCHA は、アジア太平洋地域ではバンコクに地域事務所を持ち、神戸事務所を
2002 年に開設しました。2012 年 1 月には、日本における関係機関とのパートナ
ーシップを強化すべく、神戸事務所の機能を拡大しました。所長としての私の役
割は、資金だけでなく人的、組織的的資源を含む日本のリソースを動員すること
で、緊急時にその他の国々がより良く対応できるようになることをお手伝いをす
ることだと思っています。そして東日本大震災の教訓を共有することもその一つ
になるでしょう。
ご臨席の皆様、
2012 年は「国際協同組合年」であり、このため国連と協同組合では「協同組合
がより良い世界を築く」をテーマに種々の記念行事を行っています。このフォー
ラムももちろんそのキャンペーンに貢献するものです。そして昨年この国やアジ
ア諸国が見舞われた大災害を思えば、このフォーラム開催はまさに絶好のタイミ
ングかと思われます。
今我々が生きるこの世界は、急激な人口増加や貧富・所得の格差、気候変動や環
境悪化、食糧などの物価の変動、資源の枯渇などの諸問題を抱えています。そし
てそれらすべてが、アジア太平洋地域の人々を災害に対してより脆弱化させる要
因となっています。2011 年、自然災害による被災者は世界で 2 億 600 万人、う
ち 44%がアジア太平洋地域で、災害犠牲者に至っては 86%がこの地域に集中し
ています。
人道アクションとは人々の命を救うことであり、尊厳を回復することでもありま
す。自然災害が発生した際には、人々はまず自身で互いに助け合い、地域社会が
最初に対応することになります。もちろん、それ以外にも多くのアクターが対応
にあたります。警察、消防、軍(日本の場合は自衛隊)、地方自治体、医師や看
護師、学校の先生やボランティア、民間企業など、上げたらきりがありません。
東日本大震災の時のように、災害規模の大きさに地方自治体やそれぞれの対応者
が圧倒されてしまったり、自治体組織自身が被災したりした場合には、他の自治
体や国、国際社会からの支援が必要になります。同様に、平時と違って、政府の
組織も市場メカニズムも適切な機能を失い、被災者が生きのびるためのニーズに
応え切れなくなります。そのような時には、市民社会がそのギャップを埋める役
割を果たす必要があります。
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前国連事務総長のコフィ・アナンは「協同組合は市民社会の最も大きな組織の一
つであり、人間の幅広い願望やニーズにおいて重要な役割を果たすものである」
と述べています。協同組合は地域社会のそこかしこにあって、住宅や金融・保険
といった生活に不可欠なサービスを提供したり、農業・漁業その他の連合体を管
理したりしています。実は私自身もコープ神戸のメンバーで、小売サービスの恩
恵に浴しています。またコープ神戸は高齢者や障害者、育児などを支援する社会
福祉やボランティア活動のほか、平和のためのメッセージを広めたり、ユニセフ
への資金援助など開発支援を促進することにも非常に積極的であると承知してい
ます。
「地域社会への思いやり」は国際協同組合同盟が 1995 年に採択した7原則の一
つであり、世界中の協同組合の活動の指針となっているものと理解しています。
1995 年にコペンハーゲンで開催された社会開発サミットは、特に貧困の撲滅、
生産的な完全雇用、社会的統合の促進などの社会開発目標の達成のため、協同組
合の可能性と貢献を最大限活用し、発展させることに合意しました。さらには、
今年開催された持続可能な発展に関する国連会議、いわゆる「リオ・プラス・ト
ゥウェンティ」では持続可能な発展を実現するための協同組合の役割が、特に農
業・農村開発分野について再確認されました。しかしそのように開発を進めても、
災害をうまくコントロール出来なかったり、災害に負けない社会を構築出来なけ
れば、元も子もありません。
国連ファミリーの中では、ILO は協同組合をパートナーとして、自然災害を含む
種々の危機に対応するための能力構築に努めています。ILO は様々なツールを開
発して、特に雇用と生計再建の観点から災害後のニーズアセスメントを推進して
います。また被災地の経済復興や雇用創出を支援し、自然災害リスクの高い国々
の脆弱性を軽減すべく、アドバイスやリソースを提供しています。協同組合はこ
れらすべての分野で重要な役割を果たしています。
ご臨席のみなさま
災害管理は、予防、緩和及び災害リスクの低減、備え、緊急対応、復旧と復興と
いう一連のサイクルとしてみなされています。しかし今日は私共の専門分野であ
る緊急対応と復旧、備えの段階に的を絞ってお話したいと思います。
まず申し上げたいのは、さまざまな分野の協同組合は災害時の緊急対応において
しばしば、とても重要かつ効果的な役割を果たしているということです。東日本
大震災の時も、協同組合は食糧や水、薬や保健・衛生用品、毛布などの支援物資
を配布されていました。そして被災者の方が仮設住宅などに入居された後には、
協同組合は被災者の方々の日用品を供給するため、移動店舗を運営したりやショ
ッピングバスを運行したりされました。例えば全中や全漁連などは、被災した農
家や漁師のために募金活動も実施しました。一方、全共連や全労災は、被害に対
する保険の支払いを速やかに行いました。
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このように協同組合がニーズに対してダイナミックで柔軟な対応が出来るのは、
地域の社会経済的・地理的特性を熟知しており、地域に根ざした強固なネットワ
ークを動員出来ればこそです。これは大きな財産であり、ニーズを把握したり、
支援物資を計画・提供したり、危機の中にあってもいち早く 日常を取り戻して
もらうためには非常に役立つものであることを強調しておきたいと思います。
次に特筆すべきは、地域の復旧・復興プロセスにおける協同組合の支援です。例
えばスリランカの SANASA というマイクロファイナンスネットワークは 2005 年
の津波後の支援と再建プログラムを実施しました。住宅の再建のための融資を提
供したり、専門的なアドバイスや物質的な支援を通じて、住宅再建の支援を行っ
たのです。SANASA は地域のビジネスを活性化するためのトレーニングも実施
しました。
危機の時に、特に外部からの支援に依存しなければならないような状況にあって
は、人はしばしば希望を失うものです。そんな最も苦しい時に協同組合は、とり
わけコミュニティの参加を促すことで、人々の自立や連帯を推進するための重要
な役割を果たすことが出来るのです。ILO にはこのような言葉があります。「危
機におけるきちんとした雇用は、人々や社会を危機から引き上げ、持続可能な開
発の道に踏み出させるための強力な命綱となる。安定した仕事は被災者に所得を
もたらすだけでなく、自由や、生活の安全、尊厳や自尊心、希望やコミュニティ
の融和と再建までをももたらすのである。」
ご臨席のみなさま
我々は東日本大震災から、津波を食い止めること、巨大災害を完全に防ぐことは
不可能であることを学びました。そのため、現在防災から減災と備えへと焦点が
シフトしつつあります。例えばフィリピンでは、2009 年の一連の台風で1千人
近い死者を出しました。その時以来赤十字は地域社会とともに、今後台風が来た
ら地域住民の避難所にもなる学校の水や衛生状態の改善に努めています。台風は
防ぐことが出来ませんが、備えがあればその被害を防ぐことが出来ます。少なく
とも生活や生計を再建するまで、安全に過ごすことが出来るのです。
同様に宮城生協は 2010 年に仙台市との間に事前の取り決めを行っていました。
仙台市は避難所の女性や高齢者のための物資を購入して宮城生協にその保管を委
託しており、昨年の大震災ではそれら物資が翌日には避難所に配られました。こ
のような災害前の取り決めは、女性や高齢者のニーズへの対応が遅れがちなこと
を思えばとても良い成功例と言えます。3.11 以降、同様の取り決めを行うところ
が次々と出てきています。
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備えを効果的なものとするためには、地域社会のリソースや制約条件を事前の計
画の際に考慮に入れる必要があります。ここでもまた協同組合は地域の人々との
円滑なコミュニケーションを促す上で重要な役割を演じているのです。
ご臨席のみなさま
先の 10 月 11 日には神戸で国際防災フォーラムが開催されました。このフォーラ
ムでは、東日本大震災の教訓として、女性や子ども、高齢者や、病気の方々、障
がい者、外国人などの災害弱者の幅広いニーズを考慮する必要があることが指摘
されました。同時に女性を無力な被害者としてだけ扱うのではなく、避難所の運
営など、ニーズアセスメントや支援・復興の計画及び意思決定プロセスへの直接
的な貢献者として扱うべきであることも強調されました。
2010 年の国際協同組合の日、バン・キムン事務総長は、多くの国で女性は協同
組合を通じてエンパワーされ、収入が増加し、より自立して、ジェンダーによる
固定概念から脱却しようとしていると述べています。無給労働や、責任分担、ジ
ェンダーに基づく暴力などのジェンダー間の不平等に関する問題を解決するため
に、ILO は協同組合の役割を主要なチャネルとして位置づけています。それゆえ、
弱者としての女性を保護する上でも、またたとえ災害時でも女性のエンパワーメ
ントを進めるという意味でも、協同組合は主要な役割を果たすことが出来るので
す。しかし災害時のジェンダーの力学に影響を与えるのは、平時のジェンダー関
係です。そのため、平時におけるジェンダーの平等と女性のエンパワーメントが
大事であり、それが大切な災害への備えにもなることを強調させていただきたい
と思います。
ご臨席のみなさま
協同組合は、長きに渡る国際主義と互助精神の伝統があります。協同組合はそれ
ぞれの国内の支援活動だけにとどまらず、国際的な人道支援の促進においても主
要な役割を果たすものと確信しています。
自然災害は数も、規模も、被災して支援を必要とする人の数も増加の一途をたど
っています。我々が全体として効果的に対応する能力が、試されているのです。
特に多くの先進国や伝統的ドナーが資金難に直面している中、広がり続けるギャ
ップを埋めるために、緊急に手を打たなければならないことが2つあります。1
つは更なる備えの強化をはかり、人々が必要のない苦しみを味わうことがないよ
う、また人道支援にかかる費用が抑えられるようにすること。そしてもう1つは、
国際人道支援に、民間セクターや、協同組合をはじめとする市民社会など、より
多くの新しいパートナーを呼び入れ、その資源基盤を拡大することです。
例えば、OCHA は中央緊急対応基金(Central Emergency Response Fund: CERF)
と呼ばれる国連のグローバルな人道基金を管理しています。災害が発生した際、
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CERF は素早く国連人道機関に資金を提供することで、優先順位が高く、また生
命を救うための活動の立ち上げを支援します。加えて、OCHA はインドネシア
やミャンマーといった自然災害が起こりやすい国で、地元の援助団体ができるだ
け容易に必要な資金にアクセスできるよう合同運用基金を管理しています。従っ
て、ICA メンバーの皆様にはこうした革新的な人道資金手当てのためのツールを
サポートし、特に財政面で貢献していただくことを強く勧めたいと思います。そ
うすることでより多くの資源が活用でき、より多くの生命が救われるのです。
このように災害の緊急対応や復興、備えにおいて、協同組合が重要な役割を果た
し、必要なパートナーでもあることをお分かりいただければ幸いです。本日のフ
ォーラムでは、皆さんのご経験や対応能力、専門知識や英知、そしてビジョンを
伺うことを楽しみにしています。また今後、国連や国際人道社会と ICA が、そ
の相互協力を具体的にどのように強化してゆけばよいのかを話し合い、誰にとっ
てもより安全な社会を創造すべく、共に手を携えていければと願っています。
ありがとうございました。
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