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LCDの偏光サングラス対応のためのシミュレーション
2013.12 王子計測機器株式会社 LCDの偏光サングラス対応のためのシミュレーション ● はじめに 位相差板に直線偏光が入射したときの透過光の偏光状態をシミュレーションする場合、光が垂直 入射するときは比較的容易にできますが、光が斜め入射するときについては容易ではありません。 カーナビなどLCDを利用した製品では、偏光状態よりも明るさで評価することが多く、加えて斜 めから見たときの偏光特性の評価が重要になります。その一例がカーナビの偏光サングラス対応で、 明るさと言っても偏光サングラスの透過軸を特定の方向にしたときの明るさを意味します。 ここでは、楕円偏光状態の全方位特性をシミュレーションし、検光子の透過軸方位を指定したと きの透過率の全方位特性を計算するとともに、実測値との比較をしましたのでその結果を報告しま す。 ● 結論 偏光板に複数枚の位相差板を積層したときの透過光の偏光状態に関して、計算結果と実測値とを 比較することにより、アイポイント(方位と受光角)を任意に設定したときの計算が成り立つこと が確認できました。その計算から、検光子方位を決めたときの透過率の全方位特性も得られ、カー ナビなどの偏光サングラス対応のための位相差板の条件決定に大いに役立つと言えます。 ● 考え方 直線偏光が位相差板1枚に入射するとき、図1のようにアイポイントすなわち受光角θe と受光 方位角φe を決めて評価するものとします。作成した計算シートでは任意のθe、φe に対して、検 光子を一回転したときの光量変化をシミュレーションし、楕円率と楕円方位角を算出することがで きます。このとき、検光子の透過軸方位φa を固定し、θe とφe のいずれか一方を変化させたとき の光量変化を計算するのが今回の目的です。 図1 透過率の全方位特性計算時のイメージ図 1 計算は先ず波長を決めて行いますが、その他に以下の条件が必要です。 (1) 波長590nmでの位相差板の3次元屈折率と厚さd (2) 波長590nmでの位相差板の遅相軸を45°にして入射角θを変えたときの、 遅相軸の変化 φ' r(θ)φ +( Aθ 2 Bθ ) sin 2φ ① ただし、φ’はφr とφe によって決まる値 (3) 位相差板の位相差の波長分散特性 R( λ ) a b λ c2 2 ② 位相差板の3次元屈折率の具体的な値は実際のフィルムがないと測定できません。そこで、位相 差板の特性値として一般的に使われている、面内位相差R0 と厚さ方向位相差Rth から3次元屈折 率を算出してから、計算に持ち込むようにしました。ただし、このときはフィルム厚さdと平均屈 折率Nave の値の入力が必要となります。 また、位相差板の遅相軸を45°にして入射角を変えたときの遅相軸の変化は、波長590nm のみで実測して式①の係数A、Bを決めますが、図2のように590nm以外の波長でもほぼ同じ 入射角依存性であることを確認しましたので、計算時の遅相軸は波長に関わらず式①で表現するこ ととしました。 図2 位相差板の遅相軸を45°にして入射角を変えたときの遅相軸の変化 (実測、pc241) 位相差板が1枚のとき、任意のθe、φe に対する透過率計算の流は図3のようになりますが、こ の計算は位相差板を2枚、3枚としたときへの拡張も可能です。 2 位相差板への入射光の楕円率と楕円方位角を設定 位相差の波長分散式の係数 a、b、cを設定 遅相軸φ’r の表現式の係数 A、Bを設定 波長λ、アイポイントθe と検光子透過軸方位φa を設定 ※受光角θe を可変のときはφe を設定 R0、Rth、d、Nave および入射角0°での遅相軸方位φr を入力 位相差板の3次元屈折率を計算 θe に対応した位相差板のRmax、Rmin を計算 φe を0~180°変化させながらφ’とR590 を計算 ※受光角θe を可変のときはθe を変化 波長分散比率を利用してλに対応したR(λ)を計算 φ’r(θ)を計算 LCD-OPTIMA の計算法で透過光の楕円率 a/b と楕円方位角Ψを算出 a/b、Ψから回転検光子法のときの透過光強度図形 I(φ)を計算 φe に対する I(φa)を透過率の全方位特性とする 図3 計算の流れ (位相差板1枚のとき) ● 計算結果と実測値との比較 カーナビにはタッチセンサーが付くので、図4のようにタッチセンサーのベースフィルムとカバ ーフィルムを位相差板2枚で構成すると仮定して、偏光サングラスを通して見たときのシミュレー ションから、図5のようにθe=50°のときの透過率の全方位特性が比較的良好になる条件として、 次の値を見つけ出しました。 ・位相差が同じ一軸延伸PCフィルムを2枚積層する ・R0/Rth=240/120nm ・φ1=14°、φ2=80° 3 この条件を参考にして、KOBRA-MPでの実測には偏光板1枚と位相差板pc241(d= 60μm、R0=241nm)2枚を用いました。 図4 カーナビを想定したときの角度基準 (a)φe を変えたときの透過率 (b)θe を変えたときの透過率 図5 透過率の全方位特性計算結果 (λ=550nm、R0/Rth=240/120nm、φ1=14°、φ2=80°) 回転検光子法で得られる楕円偏光の状態について、KOBRA-MPによる実測値とシミュレー ションで得た計算値とを、ポアンカレ球赤道面の点で比較すると図6の上図のようになります。図 6の下図は実測で得られる回転検光子法の透過光強度図形であり、アイポイントを正面、上、右と 変えたときも、方位0°(グラフの縦軸)の光の強度が大きく、さらにRGBの3波長でほぼ方向 が揃っているのが特徴です。このことは、偏光サングラスを通して見たときに明るく、かつ首を傾 けたときにも色付き現象が発生しにくいことを意味しています。 4 (a)θe=0° (b)上、θe=40° (c)右、θe=50° 図6 楕円偏光状態の計算値と実測値との比較 [上図:ポアンカレ球赤道面の図、下図:回転検光子法のときの透過光強度図形の実測] ● 考察 図6を見ると、θe とφe を自由に設定したときの楕円偏光状態の計算値と実測値は、θe=0° のときはよく一致しています。θe が40°、50°と大きいときは両者の点は少しずれますが概 ね傾向は似ており、位相差板の条件を見つけ出す目的には十分と言えます。したがって、図5のよ うに透過率の全方位特性の計算結果から位相差板の適合性を判断できることになります。 しかし、この計算には位相差板の情報としてR0/Rth、d、Nave、波長分散特性の係数a、b、 cおよび位相差板の遅相軸方位を45°にして傾斜したときの遅相軸の変化を表す係数A、Bの各 値が必要です。係数a、b、cは材料が決まれば定まるので、それを除く各数値が計算結果に与え る影響を調べました。以下は、検光子の透過軸φa を0°および±10°のときについて調べまし たが、これは図7のように偏光サングラスを掛けた頭を左右に少し傾けた場合を想定したものです。 図7 回転検光子法による透過光強度図形と偏光サングラスの向きによる光の強度の関係 5 1) 厚さdの影響 実測に用いたpc241はd=60μmでしたので、R0/Rth、Nave の値は同じにして dのみを変えたときの透過率の計算結果は図8のようになり、dの値を変えても透過率には ほとんど影響がないことが分かります。 図8 透過率に対するdの影響 (計算) 2) 平均屈折率Nave の影響 材料が決まればNave の値は大きく変わるものではないので、計算には文献値を採用すれば よいのですが、仮にPCフィルムのNave を1.580、1.585、1.590と変えて入 力したときの透過率の計算結果は図9のようになり、Nave の値を変えても大きな違いがない ことが分かります。 図9 透過率に対するNave の影響 (計算) 6 3) R0/Rth の影響 一軸延伸のPCフィルムを仮定すると、Rth はR0 の1/2になるので、実質的にはR0 の みを設定すればよいことになります。R0 を230~260nmと変えたときの、透過率への 影響は図10のようになり、R0 が10nm違えば透過率が1~2%変わることが分かります。 図10 透過率に対するR0/Rth の影響 (計算) 4) 遅相軸φ’r の係数A、Bの影響 R0 の異なる一軸延伸PCフィルムを、遅相軸方位を45°にして入射角を変えたときの遅 相軸φr の変化をKOBRA-WRで実測すると図11のようになります。この図を見ると、 φr の入射角依存性はR0 の値によって多少異なりますが、pc216~pc311はほぼ同 じ曲線と見做せると言えます。また、図2のように波長が異なってもφr の入射角依存性は殆 ど差がないことを確認しましたので、前述のシミュレーションはR0=240nmとし、pc 241の実測値の係数を採用してA=0.0013、B=0.006としました。 図11 R0 の異なる一軸延伸PCフィルムの遅相軸方位45°でのφr の入射角依存性(実測:波長590nm) 7 5) 位相差板のその他の構成 以上の計算および実測はすべて、LCDの偏光板の透過軸が45°のときについて行いま した。別の構成として、2枚の位相差板それぞれの遅相軸を直交させて見掛け上の位相差を 小さくし、楕円偏光の発生を抑えるという考え方もあります。図12(a)は透過軸が45° の偏光板のみ、およびその上に遅相軸が直交するように位相差板2枚を積層した場合につい て、波長550nm、R0/Rth=240/120nm、d=60μm、θe=50°、φa= 0°の条件で透過率の全方位特性を計算した結果です。図12(a)を見ると、φe によって は偏光板のみのときの透過率よりも大きくなるときもありますが、図5(a)と比較すると 全体的に値が小さいことが分かります。これは、フィルム2枚を積層したときに位相差が小 さくなるのは面内位相差であって、斜めから見たときの位相差は相殺されないためです。仮 に、斜めから見たときの位相差が相殺されたとしても、透過率は偏光板単体の場合と同じに なり、高い透過率は望めません。 一方、LCDの偏光板の透過軸が0°の場合について同様に計算すると、図12(b)の ようになり、位相差板がφ1=90°、φ2=0°の直交積層のときには偏光板単体とほぼ 同じ高い透過率ですが、他の積層条件でも85%以上の透過率が得られることが分かります。 (a)偏光板の透過軸が45°のとき (b)偏光板の透過軸が0°のとき 図12 偏光板にフィルム2枚を直交積層したときの透過率の全方位特性(計算:波長550nm、θe=50°) ● おわりに 偏光板と位相差板の積層品の透過光の偏光状態のシミュレーションで、斜め入射を考えかつ入射 角と方位を自由に設定する場合、位相差板の遅相軸の挙動が複雑になるために計算が難しくなりま す。しかし、一軸延伸フィルムであって位相差範囲をある程度限定できる場合は、今回のようにシ ミュレーションが成り立ち、設定する値の中で最も重要なのは面内位相差であって、その他の厚さ や平均屈折率の値は決算結果への影響が少なく、それらの値は厳密性がなくても位相差板の効果の 見積もりが可能であることが分かりました。 以上 8