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第5章 壊食に関する寿命予測法の一提案

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第5章 壊食に関する寿命予測法の一提案
第5章
壊食に関する寿命予測法 の一提案
5.1
緒
言
一般に,壊食の進行過程はいくつかの特徴的な 段階を経るものとされており,その間の
いくつかの代表値を も っ てキャビテーション壊食の耐性が評 価されることが多 い (78) .本章
では,コンタードプラグ の閉切部に発生す るキャビテーション壊食に関して, その進行過
程の特徴を明らかにし, 関係するパラメーターを検討することによって,壊食質量の予測
法と,壊食による機 能 劣 化の診断法を提案 することにする.
壊食の進行過程は,壊食質量 の増加が緩やかな 初期段階と,それに続 く急増期に分類す
る.どちらの段階 においても ,壊食質量の 増加を流体パラメーターと関係付け ,こ れ よ り,
調節弁の作動条件と使用時間から壊食質量 を予測する相関式 を提示する.特に ,初期段階
の平均壊食質量率に関しては,諸パラメーターを従来の調 査 例から検証する.
プラグ閉切部が大きく壊 食されると,閉弁時に 漏洩流量が生じる.これと壊食質量との
関係を示すことによって ,漏洩流量を基準 に,その壊食質量 に達する時点と し て,調節弁
の寿命が予測・診断で き る可能性を指摘す る.以上の議論は ,圧力水準とプ ラ グ材料を限
定した上で導かれたものであるが,そ こ か ら拡張する方法についても,調節弁寿命予測の
スキームとして提案するものとする.
5.2
壊食の進行過程
前章4.2節で 説明した,SUS316 を使用した調 節 弁の作動点 に関する壊食実験につい
て,壊食質量の結果 をここで改めて整 理する.プ ラ グ全体の壊食質量 M を時間 T に対して
両対数軸上にプロットし ,図5 .1に表示する .この図の左 側は,σ = 0.006 の圧力一定条
件で,弁開度 CV に対する関係を示 し,右側は弁開度一定の下で下 流 圧 力を変化させ,σ を
0.006 から 0.058 まで上昇させた結果 である.いずれの開度 でも,M がある限界値 M S(5.
2節で述べるように,MS = 4mg とみなす)に達する時間 TS を超えると, 壊食は急激に進み,
壊食質量 M は,試験開始より積算し た時間 T に対して 以下の指数則に 沿って増加し て い る.
-187-
-188-
T 
M
=  
M S  TS 
n1
,
n1 = 4
(5.1)
全開開度時に近付くと ,壊食質量の増加 は最も急激になっている.弁開度 C V が小さく
なると TS は相当に長くなり,C V = 0.2 (L = 60%)まで低下させた時は,同じ壊食質量に達す
るまでの平均壊食質量率 M / T は約 1/50 にまで低下する.σ ついては,作動点のσ が高く
なるほど,TS は相当に長くなる.
TS に至る初期段階では ,C V ≦0.75 で明確なように,M の増加は非常に緩慢である.C V = 0.6
の開度について,図5. 1に付記した段階 A, B, C, D における壊食面の拡 大 写 真と断面形
状を図5.2に示す .ごく初期の A では,旋 盤 痕に沿って壊食ピットが認め ら れ る が,表
面粗さは大きく変化していない.TS の時点である B では,壊食ピットが帯状 に連なり,特
性面との境界のみが急激 に深くなっている .このように,初 期段階は壊食ピ ッ トが閉切部
に形成され,限定された 範囲で深さ方向に 成長していく過程 である.
しかし,TS を超えた時点 C では,壊食面の様相は急変し,壊食ピット に覆い尽くされた
表面が部分的に脱落している. B の段階で 壊食面の表層下に 亀裂が成長しているようで,
壊食粉の 脱落は 大規模となり ( 1 0 3 ) ,平均壊食質量率は 急増することになる. ここに 見られ
る軽石状の面からの脱落 は一層に早いと考 えられ,次の段階 D のように,壊食領域は急拡
大して平均壊食質量率の 増加が続くことになる.このように ,TS の前後で壊食の状況が変
り,平均壊食質量率が増 加するものといえる.
なお,ASTM 試験法 (78) によれば,図5.1に示し た高開度範囲(C V ≧0.6)における壊
食段階は,依然として平均壊食質量率が増 加を続ける加速期 にあると思われる .しかし,
ここで示した最大壊食質量の段階では,調節弁としての閉切機能が既に損なわれており,
また,これ以上に壊食が 進むとプラグが折 損するおそれがあるため,この段階 で試験を終
了させている.
ところで,低開度 C V = 0.4 の場合,式(5.1) の指数 n1 は,M = 40mg 程度まで壊食された
後に,4 から 2 へ遷移している.図5.1における 壊食段階 D, E (C V = 0.6) および d, e (CV
= 0.4)について,それらの弁開度に対 して特徴的となる 壊食部位を拡大し て図5.3に示 す.
これらの写真では,C V = 0.6 では閉切部で,C V = 0.4 では閉切部よりむしろ円錐面終縁部で
壊食が進行している .壊食の拡大 する部位によって平均壊食質量率の傾向 は変り,n 1 = 4
は閉切部の集中的壊食が 進行する場合,n 1 = 2 は閉切部壊食は遅滞しているが円錐面上で
-189-
-190-
も分散した壊食がやや緩 やかに進んでいる 場合に相当するようである.
このプラグでは,このように C V が 0.6 ~ 0.4 の付近で壊食の進行に差異が現 れるが,こ
れを説明するキャビテーション写真は実験 の制限により得られていない.
-191-
-192-
5.3
壊食質量率と流れのエネルギー
3.3節で述べたように, のど部下流で消散される流 体の運動エネルギーWU は弁全体で
のエネルギー消散にほぼ 等しいと考え ら れ る.すなわち,
WU ≈ ∆P ⋅ Q ,
∆ P = PU − PD
(5.2)
壊食質量レベルが M = 4 (MS ), 25, 100, 750mg について,平均壊食質量率と こ のエネルギ
ーとの相関を図5.4に示す.σ が一定の下では,各壊食質量レベルについて,以下の指
数関係が認められる.
M  (∆P ⋅ Q ) 
∝

T  (∆P⋅Q)L =100% 
n2
-193-
(5.3)
ここで,平均壊食質量率が急増する限 界 値は,図5.1に 示した壊食質量の 急変点から
決定することになるが,実 験 点のばらつきもあり,便宜上 MS = 4mg とみなす.この MS の
レベルについては,σ の影響も図5.4に示しておく.それらをまとめると,以下のよう
に表される.
 (∆P ⋅ Q ) 
MS
∝ C S (σ ) 

TS
 (∆P ⋅ Q )L =100% 
n2
(5.4)
ただし,この実験範囲 では,
C S (σ ) = 0.5 ⋅ σ − 0.2 [mg/hour] ,
n2 = 2.6
(5.5)
ここで,P U ≫P V とすると, キャビテーション係数と 弁の流量係数の定義式(2.4), (2.6) を用
いて式(5.4) は次のようにも表現さ れ る.
3


MS
CV
 1 + (σ )L =100%  2 

= C S (σ )


 (CV )L =100%  1 + σ
TS
 


n2
(5.6)
キャビテーション噴流 に対向するアルミ 平板の壊食実験において,最大平均壊食質量率
は噴流速度の 7 ~ 8 乗,換算すれば運動エネルギーの 2.3 ~ 2.7 に比例すると報告されてい
る (80), (81) .本実験で各壊食質量レベルについて適合する指数 n2 = 2.6 はこのアルミ平板の
場合とほぼ一致している .このことから, この指数則が壊食 とエネルギーについてのほぼ
基本的な相関を示 し, コンタードプラグに関し て も,σ が一定の下では,のど部噴流の運
動エネルギーが平均壊食質量率を決定しているといえる.
なお,式(5.6) の適用範囲は,当然σ < σ i n c 限定されるが,本報では壊食が発生 するための
限界のσ を確定するに至っては い な い.
式(5.6) では,個々の材料 について,平均壊食質量率 に影響を及ぼ す要因は C V とσ であ
り,P U による影響も陰に含んでいる.本実験では材 料が SUS316,P U は 20MPa 一定下のも
のである.材質と P U が異なる場合 ,壊食の進行が 最も顕著で実 験が比較的早 く終了する
全開状態に お い て MS と TS を計測し,CS (σ )と指数 n2 を確定することができれば,任意の
-194-
CV とσ の作動点でも MS / T S が推定できることになる.
一方,振動式壊食実験 においては,壊食質量率は振幅の べ き乗に比例し,そ の指数は材
料によって変化しないことが報告さ れ て い る(119) .また,キャビテーション噴流 による洗浄
実験において,圧力比に 対する質量損失率 の比は衝突角度が 0 ~ 45°であまり変化がない
との報 告 例が あ る ( 1 2 0 ) .こ の よ う な点を 考慮すると, 標準的な コンタードプラグで は,形
状が著しく変わることがないので,式(5.6)は C S (σ )および n2 の値を含めて,かなり適用性
が広いものと期待される .
5.4
5.4.1
壊食による弁座漏洩流量と寿命予測
壊食質量と弁座漏洩流量の関 係
壊食したプラグでは閉 弁は不完全なものとなる.プラグを閉弁位置(L = 0)に置いた場
合の壊食すき間の断 面 形 状を図5.5に, 閉弁付近の弁リ フ トにおける漏 洩 流 量を図5.
6に示す.ここでは,C V = 0.75 で試験を行ったプラグを使用 し, プラグ番号は壊食質量段階
I ~ IV のプラグ(図5.1)を示している.また,L < 0 は,プラグがシートリングに食い
込んでいることを表す.
壊食段階 I のプラグでは,シートリング とプラグ閉切部は 部分的には接触しており,閉
弁位置漏洩流量 Q C がわずかに認められる.プラグ II では,閉弁位置でシートリングとプ
ラグは接触しなくり,Q C はこの弁の調整可能最小流量 Qr min の 70%に達している.段階 III
以上に壊食されたプラグ では,Q C はほぼ Qr m i n のレベルに到達し,プラグをシートリング
に食い込ませても,この レベル程度の漏洩流量が残存する.
図5.7に,C V ≧0.6 で壊食したプラグについて,その壊食質量 M に対する Q C を示す.
M の増加に対して Q C は増大し,M = 200~300mg の水準を超えるとほぼ Q r min に達し,この
バルブの開度特性は設計時特性からかなり 異なったものになっていよう.この 場合,プラ
グ閉切部は図5.6III, I V のように損傷している.
以上のような資料をもとに,プロセス現 場での寿命予測を ,例えば次の よ う に見積もる
ことができよう.
まず試験時間が最短で終 了する全開壊食実験を行い,M S と T S をいくつかのσ について
決定して Cs(σ )と n 1 ,n2 をバルブの基本特性と し て得ておくものとする.それにより ,任
意の開度とσ に対して MS / TS が推定される.
-195-
-196-
M S を超える壊食量の M に つ い て,その質量に達 する以降の時 間 T が式(5.1) により推定
される.すなわち,寿命を判断する 限界の壊食質量 M DS を想定すれば,それまでに要する
時間 と し て寿 命が 予測 できることになる . 例え ば, 漏洩流量 を基 準にこの 限界壊食質量
MDS を決定する場合,閉切部壊食の形状を単 純な幾何形状で表 せば閉弁位置す き間幅が想
定され,漏洩流量 Q C が想定される.その 値が設定した漏洩流量になるように 壊食部の大
きさを決めれば壊食質量 MDS が決定され, それに達する時間として 寿命が予測される.ま
た,運転中に開度が変わ る場合,その時間 プログラムに沿っ て壊食量を積分すれば,ある
程度の寿命が判断さ れ よ う.
5.4.2
寿命予測法の一提案
(1)運転状況下で の予測
以上で述べた方法を,調節弁寿命予測法の 一案として,以
下に改めて手順を説明す る.フローチャートを図5.8に示 す.
1)調節弁の使用限度と し て の寿命を,漏洩流量 Q c が最小調整可能量 Q r min に達した時
点とする.
2)その漏洩流量 Q c を発生させる閉切部接触面のすき間 h L を算出する.
3)プラグ閉切部の壊 食 欠 損 部を単純形状に想 定する.その上で,閉切部接触面のすき
間が h L に達するときの壊 食 体 積 V L を求める.これより,使用限度の壊 食 質 量 M L
が決定される.
4)初期段階の壊食率を 式(5.6) に算出し,MS に達するまでの時 間 TS を算出する.改め
てその関係を記せば,
MS
TS
3


CV
 1 + (σ ) L=100%  2 

= C S (σ )


 ( CV )
1+σ
 
L =100% 


n2
(5.7)
5)急増段階における 壊食量の関係式(5.1) より,先に求めた T S を用い,壊食質量が使
用限度 M L に達するまでの寿命時間 T L が予測される.改めてその関係 を記せば,
M L  TL 
= 
M S  TS 
n1
(5.8)
-197-
6)なお,通常の使用時のように運転条件が変遷す る場合は,ここで挙げ た関係式より
壊食率を逐次算出して経時積分すれば,その時点までの壊食質量が予測できること
になる.
1) Suppose seat-leakage limit QC as designed
controllable minimum flow rate.
2) Assume leakage gap corresponding to QC .
3) Replace erosion crater by a simplified profile.
Estimate volume VL and weight loss M L .
4) Estimate duration TS of Early Stage by:
3


(σ ) L =100%  2
MS
C
1
+

V

= C S (σ )

 
 ( CV )L =100%  1 + σ
TS
 


n2
5) Lift time TL is predicted by:
M L  TL 
= 
M S  TS 
n1
Fig. 5.8 Scheme for prediction of valve life time
based on seat-leakage
(2)キャリブレーション実験の手 順
調節弁の寿命を予測するに 際して,いくつかの
係数や指数は弁のサイズ や圧力水準,プ ラ グの材料ごとに用 意する必要がある .寸法・圧
力に関するスケール効果 は不明であり,材 料に関しても,相対的耐性の評価が 不十分であ
ることから,結局は,水流実験によるキャリブレーションが 必要になる.ここではその方
法について述べる.
1)急増期の開 始 質 量 M S :
実験時間を最短にするために,全開開度で 壊食実験を行
い,壊食質量を時間に対 してプロットする .開始時から壊 食ピットの形成面 を追跡
-198-
し,その全域 が脱落して 凹状に な る臨界をもって,急増期が開始 する壊食質量 MS
を得る.
2)急増期の壊食質量指数 n 1 :
急増期のプロットより直ちに得 る.
3)キャビテーション係 数の要因による係数 C S (σ ):
キャビテーション 係数を使用範
囲内で複数設定して,全開開度で初期段階 までの壊食実験を 行って求める.
4)初期壊食率の指数 n 2 :
式(5.5) で示した値 n2 = 2.6 は,5.2節で述 べたように水
中水噴流の調査例と一致 し,このような 指数は材料や噴流 の衝突角度に依存 しない
ことから,普遍的 な値といえる .よって ,低開度で長時間 を要する壊食実験 は特に
必要されないといえる.
ここで示した係数と指 数の中で,特に MS と n 1 , C S (σ )は製造者によって収集・整理さ れ,
設計資料として提示されることが望まれる .本節での議論を プログラム化し, 制御パネル
やポジショナーなどの調節弁監視装置に内 蔵できれば,使用限度が予測できるといえる.
その妥当性は,一時の閉弁操作が必要となるが,漏洩流量と 照合すれば確認される.以上
に提案した方法は,弁の 分解点検と,そのためのプラントの 停止を必要と し な い,たいへ
ん実用性の高いものといえる.
-199-
5.5
本章のまとめ
壊食の進行過程を追跡 することにより ,壊食質量を予 測する相関式を提 示した.さ ら に,
壊食による調節弁の機能劣化を調査することにより,漏 洩 流 量を基準として調節弁の寿命
診断を行うためのス キ ー ムを提案した.そ の内容をまとめれば;
(1)
壊食面の様相と 壊食質量の経 時 変 化を対照すると, 初期は壊食ピット の数が増加
する段階であり,壊 食 質 量の増加は緩やかである.ピットに 覆われた表面範囲 が脱落して
溝状の壊食面になると, その底面が拡大するように壊食が進 行し,質量増加率 の急増期に
遷移する.この遷移期で は,開度やキャビテーション係数に 関わらず壊食質量 がある一定
値を示した.
(2)
初期の平均壊食質量率は,キャビテーション係数が 一定の下では,の ど部噴流の
運動エネルギーの約 2.6 乗に比例する相関 を示す.これより ,平均壊食質量率 を,弁の容
量係数,キャビテーション係数,および弁上流圧力によって 記述する相関式の 形で表した
[式(5.6) ].この見出した 指数は水中噴流によるキャビテーション壊食の研究と 一致してお
り,一般性を持つ値であることが推定で き る.
(3)
急増期の壊 食 質 量は,開度とキャビテーション係数 に関わらず,総実験時間の 4
乗に比例して増加する [式(5.1)].(2)より初 期の壊食質量が 予測できれば, これに続く
急増期の壊食質量が運転時間から予測可能 となることを示し た.
(4)
壊食による弁 機 能の劣化として, 壊食質量に対する 弁座漏洩流量の増加傾向を明
らかにした.漏洩流量が 設計特性である最小調整可能流量に 達する時点を限界 として,調
節弁の寿命を作動条件か ら予測するス キ ー ムを提案した.
(5)
提案した予測スキームを各種の材 料に適用する際に は,キャリブレーション実験
が必要になるが,実 験 時 間を短縮する意味 で最大開度にて実 施することを指摘 した.プラ
ントの実運転下のように 作動点が時間変化 する場合には,作動条件から壊食率 を随時算定
し,経時積分をする方法 を提案した.この スキームは,運転状況下のまま分解 を要せずに
寿命診断を可能にする, 実用性の高い提案 となっている.
-200-
Fly UP