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水道事業民営化 - 中央大学 総合政策学部
総合政策学部政策科学科3年 07W1408009J 江口 輝明 2009/10/01 前回内容の概観 今回の概要 1.水道事業の仕組みと特徴 2.水道事業 経営上のポイント 3.民営化のモデル 4.民営、公営のメリット&デメリット 5.世界と日本の水道事業環境 6.今後の研究方針 参考文献 !内容理解に役立つ部分において、エー ジェンシーや取引費用などの理論の考えを 活用していきます 2 世界各地で進む水道事業民営化 ・・・水の争奪戦、世銀・IMFの国際支援・新自由主義 民営水道の仕組み ・・・契約形態、レベルに応じて民間に委託 民営水道の問題が表面化 ・・・価格吊り上げ、運営・管理の怠慢、営利主義 → 失敗例の広まり、反民営化の波 3 ・水道事業の基本的特質を知る ・公営・民営の性質・問題点を見る ・世界、日本の水道業界の事業環境・潮流 ・今後の研究方針を考える 公営⇔民営の検証、契約形態、・・・ 4 5 水の産出 処理 移送 排水 6 自然独占 長期・安定経営 関係特殊資産 資本集約的 7 そもそも水道事業は ▼公共財であるインフラを扱うため、独占的性質 もし自由競争だと・・・二重建設、撤退による給水障害などの問題 8 「水」は人間に必要不可欠 ↓ 「公」の規制・監督なくして「民」には委ねきれない 加えて・・・ 水道設備は莫大で長期的な設備投資が必要 ↓ ▼長期的かつ安定した業務遂行が求められる 9 水道設備は・・ ↓ ①設営規模・投資額ともに大きい ②移管や処分が難しい ↓ 極めて関係特殊的 ▼ホールドアップの危険性 たとえば・・・ 施設の所有権を保持していると、価格の吊り上げや保全業務怠慢など・・ 10 ①莫大な水道設備の建造・敷設の初期コスト ②運営コストの多くを固定費が占める(約94%) ③生産量(水供給量)を増やしても変動費はさほど増えず。 ↓ つまり水道事業は非常に「資本集約的」なため ・・・ ↓ ▼生産量(水供給量)が多い程、コスト削減=利潤増加 「規模の経済」の効果がとても強い 11 固定費:減価償却費・修繕費・受水費・支払利息 変動費:職員給与費・委託費・その他 一人あたりのコストを「給水原価」という ※受水費とは 用水供給企業(ダムなど)から受水している場合、水道事業体が支払う費用。 最低責任受水量の契約により、基本料金が固定費化する 12 水の供給量が ・増加するほど給水原価が低下⇒水道料金値下げ ・減少するほど給水原価が上昇⇒水道料金値上げ 固定費 変動費 13 ■資本集約的企業 ・規模の経済性:強い 生産財:非分割性 ・生産規模が増えると平均費用が下がる ●原料・労働集約的 ・規模の経済性:弱い 生産財:分割性 ・生産規模が増えても平均費用が下がるとは限らない 14 自然独占 ▼本質的には「公」向き 長期・安定経営 ▼慎重・安定な経営判断、重い責任、莫大な設備投資の 計画的な実行 関係特殊資産 ▼ホールドアップの危険性 資本集約性が強い ▼水供給量が増えるほど効率的 15 16 長期・安定経営 料金体系 利益獲得の難しさ 設備投資水準 17 水道設備の莫大な建造・敷設コスト 借金で水道施設を建設し、原則水道料金収入で返済 ↓ ▼長期にわたる減価償却(数十年~60年ものも!) 理由 ①給水原価を抑えるため ②現在と後世の受益者で減価償却費の公平な負担をする ため 18 一般消費者向け(少量利用者) ほぼ原価か、赤字で供給することも 企業向け(大量利用者) 使用量増加に伴い、料金は逓増する ↓ ▼一般消費者向けの低収益を企業向けで回収する 19 ミクロ経済学の「企業は最大利潤を追求して行動す る」という原理が通用しない。(多かれ少なかれどの企 業にもいえるが、水道事業はとりわけ。) 新たな競争相手 コスト削減のため、企業の自家水源の開発 20 水道事業体のジレンマ 「節水キャンペーン」は水道事業体にとって 自らの首を絞める可能性も 単価上昇⇒節水・自家水源⇒収益悪化⇒単価上昇⇒節水・自家水源⇒・・・ ↓ しかし・・・ 水の保全・節約は現代社会の総意 環境問題;水源の枯渇他・・ ↓ ▼民間営利企業による水道事業の限界性 21 安易な需要増の見込みに基づく過剰設備投資 巨大規模、ハイテク浄水設備など・・ ↓ 人口減、節水、景気動向などにより水取引量減少 ⇒給水原価上昇、消費者の負担増 ↓ 人々に適正料金で水を供給するためには ▼必要に応じた適正水準の設備導入が重要 22 ▼長期にわたる減価償却 ▼一般消費者向けの低収益を企業向けで回収する ▼民間営利企業による水道事業の限界性 ▼必要に応じた適正水準の設備導入の重要性 23 24 政府・公営水道企業 水道料金・税金補填 水道供給網の保全と拡 大 25 政府 委託・融資 水道供給網の保全と拡大 民間水道企業 高い技術・ノウハウ 効率的な経営 水道料金 26 主な資金源 公営 水道事業収益からの余剰金、税金、政府補助金、外国 からの支援金、民間銀行からの融資・債権発行 民営 上記に加え株式発行 27 1.役務契約 4.運営権委譲 2.運営管理契約 5.建設-運営-譲渡 契約 3.リース契約 6.権利譲渡 28 権利譲渡 アフェルマージュ契約 建設―運営―譲渡 運営管理契約 COCNフォーラム2009 上田新次郎氏[(株)日立プラントテクノロジー] の発表資料より編集・引用 www.cocn.jp/common/pdf/FM09_pd_ueda_1.pdf 29 各民間参入形態とその責任 形態 資産所有権 運営・維持 資本投資 商業上リスク 契約期間 役務契約 公 公+民 公 公 1~2年 管理契約 公 民 公 公 3~5年 リース 公 民 公 公+民 8~15年 運営権移譲 公 民 民 民 25~30年 建設-譲渡運営 公+民 民 民 民 20~30年 権利譲渡 民、公+民 民 民 民 不確定 ジューハ・ウィトオー他 『水のリスクマネージメント』 深沢雅子訳、清水弘文堂書房、2002 p.189より編集・作成 30 民間:運営・維持の個々の細かな業務を請け負い (メーター検針、水道管修理、集金など) 公共体:水道事業のほぼ全体を運営 期間:1~2年 メリット:民間が保有する専門の技術・知識を導入 デメリット:契約条件に留意 31 民間:水道設備網の運営・管理 公共体:水道設備網の効率化と拡張への投資 期間:3~5年 メリット:初期契約として有効 民間の投資能力が不足している場合にも。 デメリット:民間はほぼ投資責任なし 公共体の投資財源が不足していると民営化の 恩恵は薄い 32 民間:「既存」水道設備網の運営・管理、改修 公共体にリース料支払い 公共:「新規」水道設備網への投資 期間:8~15年 メリット:利潤=水道収益-コスト-リース料 →既存設備・人員の運用の効率化 デメリット:複雑な契約手続き、新規水道設備網の 公共体の財源・民間との折衝 33 民間:運営・維持、資本投資、商業上リスク 公共体:民間の機会主義的行動の監視、資産所有権により介 入 期間:25~30年 長所:民間の資金による水道設備(網)の効率化と拡張 既存水道設備を効率的に活用、契約終了時公共体に返還 短所:民間の長期的独占営業権 公共体の民間の営利主義の行き過ぎへの監視コスト フランスでは広く利用されてきた形式。発展 途上国でも広まりつつある 34 民間:貯水・浄水施設へ投資・建設 25~30年程度民間が運営・公共体へ譲渡 公共体:施設で生産された水を購入。施設建造費は、20 ~30年かけて公共水道事業体が政府(自治体)の保証つ きで返済。 期間:20~30年 長所:民間の資金による給水能力の強化 短所:水道網が増設されない、水の供給価格を釣りあげら れる可能性 35 民間:水道事業全体を担う(資産所有権有) 公共体:厳格な規制の実施 期間:長期であるが不確定 長所:全ての投資(新規水道整備、雇用…)責任を持つ 短所:民間水道事業体によるホールドアップの可能性 36 新規水道網への投資を伴っていないか、とぼしい。 (新規水道接続者数、新型設備導入・・・) リース契約、運営管理契約など民間契約の大部分で見られる 権利譲渡(コンセッション契約)で顕著(期待も大きすぎた?) 実際は、公的支援が投じられるのが少なくない。 いずれの民営化においても、一般的に政府・自治体の負担が期待されたほど減ら ない 37 38 メリット 外部委託により ①設備投資 ②技術、ノウハウの蓄積等 などが効率化(外部企業は規模の経済を発揮している為) 公営水道事業体が小規模な場合は効果が高い デメリット ・ホールドアップ:価格吊り上げ BOT契約や権利譲渡で施設所有権を握られている場合等 ・設備の維持・管理・拡張・更新等の怠慢 株主などへの配当優先のため 39 料金吊り上げ:フランス・グルノーブル市の事例 89年の民営化後、水道料金が約2倍に 強い反発を受け、2000年に市営に戻される 不完全な法整備: 水道供給停止権限が民間にないため、水質異常があっ ても配水を止められないケースなども 40 メリット ・民主的行政プロセスにのっとり、水道事業の経営や上 下水道保全などに関し詳細に監視・介入できる ・長期的な水源保全・水道網・貯水施設の維持・管理 デメリット 腐敗・縁故採用・経営改善のインセンティブが弱い 41 42 世界の上水道の95%が公営水道 アメリカ 公営水道80% 民営水道20% フランス 公営水道25% 民営水道75% イギリス 民営水道100% 発展途上国では・・ 80~90年代民営化が進められたが、再公営化の動きも活発 43 44 消費者に公正な価格で適正な質の水サービスを提供 民間がサービスの提供に対し適正な料金・報酬を得る 過剰規模・高度技術設備の建設の見直し 大規模設備の資金供給源の見直し 官民パートナーシップに加え、官官パートナーシップを 住民参加による公営 ・・・などが提唱されています 45 高度経済成 長期 需要増を期待した施設拡張 80年代 需要増に落ち着き 水道普及率(97%)、人口増加の停滞、節水 90年代 バブル崩壊後、国の“ムダ”削減の流れ の中で息をひそめる 00年代 民営化事例について議論が盛ん 公営維持の意見が優勢か 46 水道事業体 政府・自治体 関連技術企業 鉄のペンタゴン その他利害関 係者 関連省庁 47 管理強化 広域化 地方公共団体・大小水道 事業者の協働 自治体内、自治体間で 施設・経営を統合・一体化 小規模水道においても管 理責任を徹底 簡易水道事業の統廃合 水道普及率 100%へ 48 給水人口5000人以上の水道 ・地方公営企業法により、原則として独立採算制 ・経営内容開示義務・・・「地方公営企業年鑑」 49 観点 水道事業体の広域化のモデルの検証 複数の自治体間での統廃合、スケールメリットの検証、 水権利の配分 取引費用などの枠組みから・・・ アンチテーゼとしての小規模水道 50 コーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリー・トランスナショナル研究所 『世界の〈水道 民営化〉の実態』 佐久間智子訳、作品社、2007。 保屋野初子・瀬野守史 『水道はどうなるのか?』 築地書館、2005。 ジューハ・l.ウィトォー、アシット・K.ビスワス 『水のリスクマネージメント』 アサヒビー ル、2002。 ヘザー・L.ビーチ、J.ジョセフ・ヒューイット 『国際水紛争辞典』 アサヒビール、200 3。 イアン・カルダー 『水の革命』 蔵治光一郎・林裕美子訳、築地書館、2008。 モード・バーロウ 『ウォーター・ビジネス』佐久間智子訳、作品社、2008。 ディヴィッド・ベサンコ他 『戦略の経済学』 奥村昭博他訳、 ダイヤモンド社、2009。 51 52