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ドラギ・マジック再び?

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ドラギ・マジック再び?
欧州経済
2014 年 9 月 5 日
全3頁
ドラギ・マジック再び?
追加利下げと ABS、カバード・ボンドの買取計画を発表した ECB
経済調査部
シニアエコノミスト 山崎 加津子
[要約]

9 月 4 日の ECB 金融政策理事会は追加利下げを決め、政策金利は 0.15%から 0.05%へ
引き下げられた。8 月末の米ジャクソンホールでのスピーチで、ドラギ ECB 総裁がイン
フレ期待の低下に懸念を表明して以来、追加緩和策への期待が高まっていたが、利下げ
は予想外の決定であった。これに加えて、ABS(資産担保証券)とカバード・ボンドの
買取を 10 月から実施することも発表された。

一連の追加緩和策の狙いは民間企業への貸出増加とされる。ただし、今回、ECB の追加
緩和「前倒し」を後押した各種景況感指標の悪化が示すように、ユーロ圏景気の下振れ
リスクが高まっている。ECB の金融緩和姿勢がユーロ安につながってきたことで、輸出
促進効果が期待されるが、企業と消費者の景況感改善のためには、金融政策だけでは力
不足ではないだろうか。年末にかけてユーロ圏各国は来年度予算の策定時期を迎えるが、
各国がそれぞれの国内事情に応じて構造改革と財政政策による景気対策を講じてくる
かどうかが注目される。
予想外の追加利下げ
8 月 29 日の米ジャクソンホールでのスピーチで、ドラギ ECB 総裁はユーロ圏のインフレ期待
が低下していることに対して、公式の場で初めて強い懸念を表明した。このため、9 月 4 日の
ECB 金融政策理事会において、なんらかの追加緩和策が発表されるとの期待が高まっていたが、
発表されたのは市場の期待が最も高かった国債購入による量的緩和策ではなく、追加利下げと
ABS 買取の時期確定、さらにカバード・ボンドの買取計画であった。
政策金利は主要オペ金利が 0.15%から 0.05%へ、市場金利の上限となる限界貸出金利が
0.40%から 0.30%へ、下限となる中央銀行預金金利が-0.10%から-0.20%へそれぞれ 10 ベー
シスポイントずつ引き下げられた。ドラギ総裁はこれで利下げは打ち止めというメッセージを
併せて発している。
一方、ABS の買取(ABSPP)は 6 月の金融政策理事会でその準備に取り掛かることが発表され
ていたが、法的に解消するべき問題があるとされたこともあり、実施は来年以降との予想が多
株式会社大和総研 丸の内オフィス
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2/3
かった。ところが今回これを 10 月に実施することが発表された。また、ユーロ圏の銀行が発行
したカバード・ボンドの買取(CBPP3)もやはり 10 月に開始されることが発表された。カバー
ド・ボンド買取は 2009 年からと 2011 年からの 2 度実施されたことのある政策で、今回が 3 回
目となる。この二つの買取計画の詳細は 10 月 2 日の金融政策理事会後に発表されることになっ
ている。ところで、このような銀行債権の買取は、民間企業向けの債権を担保にした証券に限
られると予想されていたのが、住宅ローン担保証券も対象になることが記者会見で言及され、
当初予想より買取規模が大きくなる可能性が出てきた。
狙いは企業向け貸出の拡大だが
ドラギ総裁は ABSPP と CBPP3 の狙いは、銀行の債権を ECB が買い取ることで当該銀行のバラ
ンスシートを軽くし、民間企業向け貸出を増やしやすくすることであるとした。この 9 月には
TLTRO(企業向け貸出に使途を限定した長期オペ)が開始されることになっているため、ここで
銀行が資金を潤沢に取り込み、それを貸出に回すことを促進しようとしているのである。今回
の追加利下げで主要オペ金利を 0.05%とほぼゼロ金利としたことも、主要オペ金利+10 ベーシ
スポイントとなっている TLTRO の借入金利がさらに下がる可能性を封じ、TLTRO の活用を先送り
する銀行の動きをけん制する意図があることを示唆した。
なお、ECB は TLTRO、ABSPP、CBPP3 により、ECB のバランスシートを 2012 年初めのレベルに
まで拡大させたい意向も示したが、2012 年初めとは 2 度の 3 年物 LTRO で計 1 兆ユーロが銀行に
供給された時のことになる。その 3 年物 LTRO は繰り上げ償還が進み、供給した金額のおよそ半
分がすでに返済されているが、来年 2 月には全額が償還期限を迎える。
果たしてどれだけの資金供給が可能と予想しているかについて、ドラギ総裁は明確な回答を
しなかった。ただ、銀行貸出に対する需要がどれほどあるかを予想する際に重要となる、ユー
ロ圏の企業及び消費者の景況感は足もとでそろって悪化傾向にある。8 月 14 日に発表されたユ
ーロ圏の 4-6 月期の GDP 成長率は前期比横ばいとなったが、それ以上に ECB の危機感を高めた
のがここ半月に発表されたさまざまな景況感指標が総じて事前予想以上に悪化したことであっ
たと考えられる。その一因は地政学的リスクが一段と高まることへの懸念であるが、加えて、
高失業率の改善がなかなか進まず、国内景気の回復の見通しもなかなか立っていないことも原
因であろう。
ECB の追加金融緩和姿勢はここしばらく明確にユーロ安につながっている。ECB 自身も「主要
国の金融政策の方向性が明確に異なっている」として間接的にユーロ安を後押しする発言をし
ており、これが輸出促進の効果をもたらすことを期待している。ただ、これは当面の時間稼ぎ
の対策であり、企業と消費者の景況感改善のためには金融政策だけでは力不足と考えられる。
年末にかけてユーロ圏各国は来年度予算の策定時期を迎えるが、各国がそれぞれの国内事情に
応じて構造改革と財政政策による景気対策を講じてくるかどうかが注目される。
3/3
図表1
インフレ率低下、景況感悪化が ECB の追加緩和を後押し
ユーロ圏の消費者物価は大きく低下
%
6
130
政策金利:9月0.05%
コアインフレ率:8月0.9%
5
ドイツ企業景況感:不透明感強まる
2005=100
125
消費者物価上昇率:8月0.3%
120
4
115
3
110
105
2
100
95
1
90
0
ifo景況感指数
85
-1
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(注)コアインフレ率は食品、アルコール、たばこ、エネルギーを除く
(注2)ECBが目指す物価上昇率は「2%をやや下回る前年比伸び率」
ユーロ圏の企業向け貸出は縮小続く
前年比%
20
10億ユーロ
80
現況判断
80
6か月先見通し
75
06
07
08
15
40
40
10
20
5
0
0
-20
-5
-40
企業向け貸出残高伸び率
-15
05
06
07
08
09
12
輸出(左目盛)
13
14
前年比%
-20
ユーロの実効為替レート
-15
20
-10
10
-5
0
0
-10
5
-20
10
-30
-60
04
11
-10
貸出金額増減(左目盛)
03
30
10
ユーロ圏の輸出と為替
前年比%
ユーロ安
60
09
10
11
12
13
14
(出所)Eurostat、ECB データより大和総研作成
15
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