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藤井 康博
■藤井 康博[法学研究科 憲法専攻(公法)博士後期課程 1 年] リサーチ目的: 博士論文「 「個人」「人間」「ヒト」の尊厳と「環境」「動物」の保護 ――日本とドイツの比較のなかの《人格》《環境》の憲法学(仮) の執筆のため(インタヴュー、訪問、史資料収集) 」 特に、理論と歴史 リサーチ期間:2009 年 2 月 16 日∼3 月 17 日(ワークショップ含む)„Vormärz 2009 はじめに(もくじ) I 「個人」「人間」「ヒト」の尊厳について インタヴューi ベッケンフェルデ教授 II 「環境」「動物」の保護について インタヴューii カリース教授 インタヴューiii (財)自然保護史 I+α 「個人」「人間」(「ヒト」)の尊厳の憲法史 9 つの 9 年 〔※後述 I+αの番号と対応〕 1. 1789 年フランス革命に直接影響を受けた 1792/93 年マインツ共和国、憲法草案 2. 1819 年ヴュルテンベルク憲法、前年バーデン憲法、バイエルン憲法等「初期立憲主義」 3. 1849 年フランクフルト憲法(ドイツライヒ憲法) プロイセン憲法、ビスマルク憲法 へ 4. 1919 年ワイマール憲法(ドイツライヒ憲法) 5. 1939 年ナチス・ドイツ憲制(同上憲法)下の第二次大戦開戦(1929 年世界恐慌の影響) 6. 1949 年ボン基本法(ドイツ連邦共和国基本法) 7. 1949 年ドイツ民主共和国憲法 8. 1989 年ベルリンの壁崩壊、翌年、再統一 9. 1999 年ベルリン首都機能(連邦議会、連邦首相等)移転 2009 年 …リスボン条約発効予定(基本条約、欧州憲法条約の修正) cf. 樋口陽一「4 つの 89 年」 (権利章典、人権宣言、大日本帝国憲法、ベルリンの壁崩壊) 1 憲法は「テクスト」であり、秩序を鼓舞して更に発展させる(現実を批判するための) 「規範」でもある(歴史、文化論も含め vgl. Ch. Möllers, Das Grundgesetz, 2009) 。 1949 年基本法 1 条「人間の尊厳(Würde des Menschen) 」という「テクスト」も、 「寡黙な威厳(lakonische Würde) 」を放っている「規範」である(vgl. ders., Vom Altern einer Verfassung : 60 Jahre Grundgesetz ‒ Essay, APuZ 18-19/2009, S. 7)。 この「人間」の尊厳と、 (多様な) 「個人」の尊厳と、 (生物学的な) 「ヒト」の尊厳との、歴 史的・規範的な意味における対比(そもそも「動物」との対比、 さらに「環境」法原則への応用)が、問題意識の一つである。 I 「個人」「人間」「ヒト」の尊厳について インタヴューi エルンスト=ヴォルフガング・ベッケンフェルデ(Ernst-Wolfgang Böckenförde) (元連邦憲法裁判所判事、元フライブルク大学教授:公法、憲法史・法学史、法哲学) 特に「人間の尊厳」 「人間像」「人格」論について質問 ・近年の生命医学や条件付拷問の動きの中で、 「人間の尊厳」相対化を進める学説があるのに抗して ・「水門概念」理解・学説変遷の確認、 人倫、特に、その時々の社会の倫理が流入する「公の秩序」のような「水門概念」として 「人間の尊厳」を捉えることには否定的な説へ。 国家と社会の二元論の堅持 ・カール・シュミット(Carl Schmitt)の「人格」 ・司祭・官職・代表の尊厳・顕職論と、 民主的正統化論(組織的・人的な民主的正統化)の関係 ・著書を含む文献資料を提供していただいた。 ・ders., Bleibt die Menschenwürde unantastbar? の翻訳の再確認も。 成果:「人間の尊厳」論は一部を翻訳として公表済、「人間像」 「人格」論は課題 2 II 「環境」「動物」の保護について ――環境法(歴史、事前配慮原則)・動物保護法(歴史、裁判例) インタヴューii クリスティアン・カリース(Christian Calliess) (ベルリン自由大学教授:公法〔特に憲法〕 、EU 法、環境法) ・特に「環境国家」 「国家目的」論やリスク事前配慮(予防原則)と将来配慮について質問 国家目的論の限界?、保護義務論、基本権理論の問題、日独の相違 ・ders., Rechtsstaat und Umweltstaat の理解の確認 ・推薦文献や、著作を含む文献資料を提供していただいた。 ・留学の受入可能性について 成果:憲法理論研究会にて 2009 年 8 月報告、公表予定 「 環境国家と環境憲法の理論 ――「個人」 「人間」 「ヒト」の尊厳・国家目的・事前配慮(仮) 」 なお、ベルリン自由大学ワークショップにて報告した(一部公表済) : 「 環境法原則の憲法学的基礎づけ・序論 ――「個人」 「人間」 「ヒト」の尊厳ないし環境国家からの自主責任手法 」 インタヴューiii 財団「自然保護史」の博物館・図書館(in ケーニヒスヴィンター〔ボン〕) ハンス=ヴェルナー・フローン(Hans-Werner Frohn)(研究員、博士) ユルゲン・ローゼブロック(Jürgen Rosebrock)(研究員) 国家(特に 19 世紀ドイツ帝国・20 世紀ナチス・ドイツ)による自然保護・動物保護 「動物保護の憲法前史」 「動物保護の憲法改正(基本法 20a 条)前後の裁判例」一部公表済 (既発表論文、博士論文の補強として新たな問題の発掘へ) 上記のほか、フライブルク大学図書館、ボン大学図書館、ケルン大学図書館で史資料収集、 ボン大学公法 Wissenschaftliche Mitarbeiterin 情報交換 (環境保護官庁、環境保護団体、動物保護協会にはコンタクトと情報収集は不十分、課題) 成果:以上を公表しつつ、博士論文としてまとめる。 総じて、諸学説や諸学者の「個人」像、自然的・社会的な「環境」問題を探究できた。 リサーチと報告の機会に心より感謝申し上げたい。 3 I+α 「個人」「人間」(「ヒト」)の尊厳の憲法史 0. 憲法史総論的に、ドイツ史上すべての憲法典を所蔵しており、豊富な憲政史を展示する、 ins ドイツ歴史博物館(ベルリン)と 『自由の名において!――ドイツにおける憲法と憲法現実 1849 1919 1949 1989』 ins ドイツ連邦共和国歴史館(ボン)を見学 上記ベッケンフェルデ教授も 以下、時代順に (※訪問順ではない。訪問地には „in 1. と付した。「はじめに」と対応) in マインツ 情報・史資料収集(ラインラント=プファルツ州公文書館にコンタクト) 1789 年フランス革命の直接の影響 ドイツ・ジャコバン派(クラブ) 「ドイツ・自由・平等友の会」 マインツ共和国 1792/93 年 ドイツ初の民主制 「新憲法草案」 (1792) 「宣言」 (1793) 1 条「国家は〔…〕自由・平等に基づく法律に従う」 2 条「自由な国民」 初の議会選挙 知識人 女性たちクラブ参加(ただし、選挙権なし) マインツの第 2 次「自由の樹」の札(1793) : 「通行する人々へ! 当地は自由である! これに手をつける者に死を!」 なお、1947 年ラインラント=プファルツ州憲法も フランス占領時代の影響の有無について in ケルン、ボンなども 憲法サークル、憲法草案、 「共和国宣言」(1797) 以上、理念・思想としては「個人」の尊厳・自由 以下の理念・思想への「地下水脈」 2. in バーデン=ヴュルテンベルク州、バイエルン州等 「初期立憲主義」 1819 年ヴュルテンベルク王国憲法、前年バーデン大公国憲法、バイエルン王国憲法等 4 1815 年 6 月ブルシェンシャフト〔学生結社〕 、 1832 年 5 月 27-30 日ハンバッハ祭、 1848 年 3 月革命まで(Vormärz) 3. in フランクフルト 1849 年 3 月フランクフルト憲法(ドイツライヒ憲法)採択の地=パウル教会、4 月「流産」 「自由主義」的と評され、豊富な基本権を定める。 5-7 月バーデン、プファルツなど民衆蜂起 in 旧プロイセン(ベルリン:上記カリース教授と面会の地) in ビスマルク通り(フライブルク:上記ベッケンフェルデ教授と面会の地) 1848、1850 年プロイセン国家憲法 1871 年ビスマルク憲法(ドイツライヒ〔帝国〕憲法)=ドイツ統一 ドイツ立憲君主制は、非独自的な 1 個の中間的な状態(ベッケンフェルデ) 4. in ワイマール 1919 年ワイマール憲法(ドイツライヒ憲法) 2 編 1 章「個人」 151 条「人間の尊厳に値する生存」 憲法制定国民集会(in ドイツ国民劇場) ワイマール市立博物館 5. フランクフルト憲法の影響も 『ワイマール 1919――共和国のチャンス』 in ミュンヘン・ベルリン・ニュルンベルク 1933-45 年ナチス憲制下 1935 年ニュルンベルク 3 法(in 帝国党大会会場記録センター) 1945 年 5 月 8 日降伏調印(in カールホルスト博物館〔ベルリン〕 ) 1945-46 年ニュルンベルク国際軍事裁判(in ニュルンベルク裁判所) 6-1. in ミュンヘン(バイエルン州) 1946 年バイエルン州憲法(in 同州公文書館、同州図書館、ミュンヘン大学図書館) 100 条「人間の人格性の尊厳」 館員(博士)から情報・制定史料・文献の提供を受けた。 例えば、憲法制定州集会の憲法委員会の審議速記議事録 6-2. in ザールブリュッケン(ザールラント州) 1947 年ザールラント州憲法(in 同州議会公文書館、ザールブリュッケン大学図書館) 1 条「個人の尊重」 フランス占領時代の影響の有無について 5 館員(博士)から情報・制定史料・最新未公刊文献の提供を受けた。 なお、1792 年ザールの反乱 6-3. in キームゼー(バイエルン州) 1948 年ヘレンキームゼー憲法小会草案(in キームゼー旧城の食事室=展示室) 、 1 条「国家は人間のためにあるのであって、人間が国家のためにあるのではない」 「人間の人格性の尊厳」 6-4. in ボン 1948-49 年議会代表会議〔基本法制定会議〕 (in ケーニヒ〔動物学〕博物館) 特にテオドール・ホイス(Theodor Heuss) 〔後の初代連邦大統領〕に注目する。 1949 年ドイツ連邦共和国基本法 1 条「人間の尊厳」 前実定的なキリスト教の伝統とカントの啓蒙思想の所産が、基本法 1 条という 実定憲法へ取り込まれた(基本法制定過程を重視するベッケンフェルデ) 「たたかう民主制」 ノルトライン=ヴェストファーレン州公文書館と連邦憲法擁護庁(in ケルン)は、 訪問できず(前者は、ドイツ滞在中に倒壊) 7. in ベルリン 1949 年ドイツ民主共和国憲法(in 上掲 2 歴史博物館、DDR 博物館) シュタージ本部(博物館) 8. in ベルリン 1989 年ベルリンの壁崩壊 1990 年再統一 バーディッシャー・ツァイトゥング新聞社文書館で特集記事を収集(in フライブルク) 9. 21 世紀 新憲法制定ではなく基本法定着 「人間の尊厳」論争再燃 相対化? 「ヒト」の尊厳?(z. B. 生命医学、条件付拷問)上述ベッケンフェルデ教授批判 ドイツの憲法・憲法学の「人間」の尊厳の尊重および保護と、 フランス影響下ドイツおよび日本の憲法・憲法学の「個人」の尊厳の尊重との対比 6