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高齢者の読解と学習を支援する教材表現
日心第71回大会 (2007) 高齢者の読解と学習を支援する教材表現 ―評定値からみた標識化様式の効果― 山本博樹 (大阪学院大学) Key words: 高齢者,読解と学習,教材表現 目的 義務教育を終えた後も生涯続く主体的な学習は,教材の読 解を通じた学習によることが多い。そのため,教材の読解や 学習を支援する教材表現とはどのようなものかを特に高齢者 について考えることは学習支援のニ-ズの叶う。これまで, 山本・島田 (2007) は,教材表現技法の一つである標識化の認 知加齢メカニズムを示す中で,標識化の明示化のレベルが有 効であることを示した。ただ,見出しによる標識化を例にと っても,それは,文字サイズ,下線,インデントなどと多彩 な様式で実現されており,どの様式が高齢者の読解と学習に 有効かは不明である。そこで本研究は,「携帯電話を使った 119 番電話のかけ方」について説明する教材 (説明文) を題 材にして,見出しによる標識化の様式を操作し,読解につい ての指標として「わかりやすさ」を,学習についての指標と して「電話のかけやすさ」をとり,7 段階評定をさせた。 方法 実験参加者:高齢者90人 (平均70.1歳) と比較対象として若 齢者90人 (大学生平均21.2歳) 。 実験材料:「携帯電話を使った119番電話のかけ方」につい て10の手順文からなる説明書。3つの上位手順(落ちついて確 認する,119番にダイヤルする,指令員と通話する)を見出し として挿入する際,付与される文字サイズ,下線,インデン トの有無を操作し,①見出し無し条件 ,②見出しのみ条件, ③見出し+文字サイズ条件,④見出し+下線条件,⑤見出し +インデント条件を設定した。これ以外の文言は同一。各文 の1文あたりの文字数は平均27.8字。 手続き:上記 5 種の説明書を提示し,「わかりやすさ」と「か られた一方で,若齢者では,「見出し無し」<「見出しのみ」 =「見出し+インデント」<「見出し+下線」<「見出し+ 文字サイズ」となった。 考察 以上の分析から,「わかりやすさ」と「かけやすさ」が年 齢と標識化の様式による影響を受ける一方で,年齢に関わら ず,「見出し+文字サイズ」の評定値が「わかりやすさ」と 「かけやすさ」でともに最も高かった。「見出し+文字サイ ズ」という様式で上位構造性を明示化した教材表現が読解と 学習の両面を支援することが示された。 なお,高齢者の結果に絞り,他の様式についても検討を進 めると,以下の3点が示された。 ① 読解・学習でともに, 「見出し+文字サイズ」が最高点で, 「見出し+下線」が次に続く。 ② 読解・学習でともに,「見出しのみ」と「見出し+インデ ント」で差が無い(若齢者では読解のみで差)。 ③ 読解では「見出し無し」より「見出しのみ」が高いが学 習では差が無い。 標識化様式 見出し+文字サイズ 見出し+下線 見出し+インデント 見出しのみ 高齢者 大学生 見出し無し 0 1 2 3 4 5 6 評定値 けやすさ」について 7 段階評定を求めた(例,非常にわかり Figure1 「わかりやすさ」の評定値 Figure1 「わかりやすさ」の評定値 にくい~非常にわかりやすい)。閲覧順序,閲覧の繰り返し, 評定の修正を自由にできるようにした。 結果 1.読解を支援するテキストデザイン 「わかりやすさ」の評定平均値について (Figure1),年齢 (2) ×材料 (5) の分散分析を行ったところ,年齢と材料の主 効果と交互作用が有意であった (F(4,712)=11.84, p<.01)。 単純主効果の検定とLSD法による多重比較の結果から,年齢差 が認められ,高齢者では,おおむね,「見出し無し」<「見 出しのみ」=「見出し+インデント」=「見出し+下線」< 「見出し+文字サイズ」の順に有意差が認められた一方で, 若齢者では,「見出し無し」<「見出しのみ」<「見出し+ インデント」<「見出し+下線」<「見出し+文字サイズ」 となった。 2.学習を支援するテキストデザイン 「かけやすさ」の評定平均値について(Figure2),同様の分 散分析を行ったところ,年齢と材料の主効果,ならびに交互 作用が有意であった (F(4,712)=6.71, p<.01)。同様の分析結 果から,年齢差が認められ,高齢者では,おおむね,「見出 し無し」=「見出しのみ」=「見出し+インデント」<「見 出し+下線」<「見出し+文字サイズ」の順に有意差が認め 標識化様式 見出し+文字サイズ 見出し+下線 見出し+インデント 高齢者 大学生 見出しのみ 見出し無し 0 Figure2 1 2 3 4 5 6 評定値 「かけやすさ」の評定値 Figure2 「かけやすさ」の評定値 付記 本研究は,平成 18 年度~20 年度科学研究費補助金 (基 盤(C):課題番号 18530529) の助成を受けた。分析時に貴重 なご意見を頂いた島田英昭さん(産総研)に感謝したい。 (YAMAMOTO, Hiroki)