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こちらから
There goes a shooting star !
作 北沢善一
構成 somewize
Origin 25 Dec 1994
「じゃあ、俺から行くからな」
ピューン。
「ねぇ、ちょっと待ってよ」
ピューン。
「はぁ、はぁ…、ちょっと早く走りすぎたかなぁ。あん
まり早く走りすぎたから、息が切れちゃったよ。はぁ、
はぁ、はぁ…。
…あっ! そうだ、ナタルはいくつだった?」
「ぼくは20人」
「アハハハ…、ナタル、おまえ、遅いな~。こののろ
ま! 俺なんかたったの一人だったぜ」
「えっ? ノエル兄ちゃん、一人は少なすぎるんじゃな
いの? それ絶対お父さん、カンカンに怒るよ。やばい
よ、どうするの?」
「あっ、そうか忘れてた。いつも早く走っちゃうんだよ
なぁ~。だって遅く走るとやること思いっきり増えるし、
ろくなことないもんな。それいよりひとっ飛びで突っ
走ったほうがよっぽど気持ちがいいもん。でも、まずい
なぁ~。一人はまずかったなぁ。あっ、おまえ、絶対こ
れ内緒だからな! 裏切ったら、ただじゃおかない
ぞ!」
「コラーッ!!」
「あっ、まずい。お父さんだ!
「ちょっと待ってよぉ~」
ピューン。ピューン
☆
逃げろ!」
冬の星が空いっぱいに輝いています。星明りに照らせれた雪
野原のまんなかで、二人の子どもが星を見ています。
「あっ…! もぉ~、また言えなかったよ。 さとしは言え
た?」
「ううん。言えなかった。早すぎだったよね」
「よーし、もう一回頑張ってみようよ」
「うん。ここまでやったら、絶対、何とかしたいもんね」
「でも、寒いね。まだ流れ星見えるのかな~。あんなに流れ
るのが早くちゃ、三回もお願い事唱えられないよ」
「流れ星は絶対見えるって! だって、こんなにたくさん星
が見えるし、それにお母さん言ってたもん。きょうはふたご
座の流星群って言って、流れ星がものすごくいっぱい見える
日なんだって」
「けんちゃん、ふたご座の流星群ってなあに?」
「よく分かんないよ。とにかくいっぱい流れ星が見えるん
だ」
「じゃあ、ふたご座ってどこにあるの?」
「エヘーン。それはね、学校で習ったんだ。ほら、あそこ。
見てごらん。明るい星が二つ仲良く並んでいるでしょ」
「あれのこと?」
「そう、そう。あれだよ。そしてふたご座ってあの明るい二
つの星が顔の部分で、後は暗い星だけど、ちゃんと星をつな
げば人との形をしているんだ。いいかい。ここをこんなで
しょ。そしてここをこんな感じで結んで、あっ!」
流れ星が一つ流れました。
「あ~あ、また言い損ねちゃった」
「ごめん、ごめん。でもあの辺を中心に見てれば見つけやす
いんだよ。頑張ろうよ。まだ絶対見えるって。ね!」
「うん! …でも、寒いね」
「…」
☆
「ノエル、ナタル、コラッ! 待たんか」
「いてて…」
「いいか。よく聞きなさい。おまえらがふざけるにも限
度がある。きょうはみっちりとわしの話を聞くんじゃな。
わしのお父さんは誰じゃったかな?」
「イエス・キリストでしょ」
「そうじゃ。わしのお父さん、イエス・キリストは今か
ら二千年くらい前の12月25日に古汚い馬小屋で生まれた
んじゃ。そしてのう、決して暮らしは楽じゃなかったが、
ただ、正直に生き抜いたんじゃ。たったそれだけで周り
の者はわしのお父さんが死んだのちも、生まれた日をク
リスマスと名付けて祝ってくれているのじゃよ。わかる
か?」
「うん。それは知ってるよ」
「知っていればいいのじゃが」
「だけど、僕のお爺さんを親しんでいた人がもう死ん
じゃっているのに、それでもお爺さんのために何でぼく
たちが働かなきゃいけないの? 今の人たちはお爺さん
のことを本気で親しんでなんかいないよ」
「バカ言うんじゃない。いいか。イエス・キリストは十
字架に張り付けられ、処刑されたんじゃ。もっとも、処
刑を行った連中の心はひどく汚れていたんじゃ。じゃが、
イエス・キリストは天に昇り、今で言う北十字星となっ
て輝いているんじゃ」
「ふ~ん。…ねぇ、お父さん、ところで北十字星って、
どこ?」
「なに? そんな事も知らんのか。恥ずかしいったらあ
りゃしない。ナタル、おまえは知っとるよな」
「…ううん。知りません」
「あ~あ、情けないわ。いいか。よく聞いとれよ。あれじゃよ。
分かるか? こうやってこうやるとちゃんと十字架の形になる
じゃろ。あれがイエス・キリストである北十字星じゃよ。北十字
星はな、白鳥座の中に含まれているんじゃ」
「あっ、本当だ」
「白鳥座の中にあるんだ。最初から言ってくれればよかったの
に。白鳥座だったら知ってたよ。なっ、ナタル」
「わはは…。おまえら調子が良すぎるぞ!」
「…ごめんなさい」
「おお、そうじゃ、せっかくだから面白い話を聞かせて上げよ
う。ギリシャ神話って言うんじゃがな、その中にこんな話があ
るんじゃ。
白鳥座は天の大神ゼウスがレダという女性を好きになったと
き、神の姿のままでは都合が悪いから化けた姿なんじゃ。その
白鳥はそりゃもう美しかったからな、レダも当然好きになって
しまったんじゃな。
その後、レダはゼウスの子ども、つまり白鳥の卵を二つ産ん
だんじゃ。その一つの卵からカストル、ポルックスという兄弟
が生まれ、その兄弟が星となったのがふたご座なんじゃ。
そんな話が人間の世界にはあるわけなんじゃが、よーく考え
てみい、北十字星になったイエス・キリストの子どもはわしらサ
ンタクロースじゃ。そのサンタクロースはここ、ふたご座に住
んでいる。何か、人間はイエス・キリストとわしらサンタクロー
スの関係を知っているかのようじゃろ。そう思わんか? ノエ
ル、ナタル」
「あっ、本当だ。偶然にしては出来すぎだよね」
「いいか、そこでじゃ。わしらの出番なんじゃ。年に一度イエ
ス・キリストが生まれた日にわしらサンタクロースと迷える子
羊と言われる人間たちが一つになってお祭をする。それがわし
のお父さんの遺言なんじゃ。だから、クリスマスにサンタク
ロースがやってくることを昔から人間たちも知っておるのじゃ
よ。クリスマスには人間がわしらが一緒となって全て忘れて祝
うのじゃ。それがイエス・キリストの言う『太陽がよみがえる
日』じゃなかろうか。だからわしらは、きれいな心を持ってい
る子どもたちに流れ星となって願い事を聞いてあげるんじゃ。
ノエル、ナタル、分かってくれたかの」
「うん! そうかぁ、ぼくたちは重要な役目をやっているんだ
ね。…でも、なんで子どもたちにプレゼントするとき、靴下に
入れなきゃならないの?」
「それはのう、イエス・キリストが生まれたのはエルサレムと
いうところで、わしらサンタクロースはそこからヨーロッパに
渡り北のほうからプレゼントを配りに行くんじゃ。つまりじゃ、
一番最初にヨーロッパを渡るところはイタリアなんじゃ。イタ
リアってどんな形をしているかな?」
「長靴?」
「そうじゃな。だから一番最初にプレゼントしてほしいという
願いから、子どもたちは長靴を枕元に置くことを考えたんじゃ
が、長靴は堅くて物が入らん。そこでそれに似た伸び縮みでき
る靴下をと考えたんじゃな」
「へ~、そうだったのか」
「もういいかな。ほら早くせんと夜が明けるぞ!
早く子どもたちのためにも行ってやれ」
「は~い!
「はい、は~い!」
「おいおい、あんまり早く走っちゃダメだぞ。子ど
もたちが願い事を唱えられるくらいの速さで走るん
じゃぞ!」
ピューン。ピューン。
「あいつら本当に分かっとるのかなぁ?」
☆
☆
クリスマス・イブの夜。
ガシャッ。
「しぃ~っ! ナタル…静かに。気をつけろ」
「いたいよ~。こんなところにタンスがあるなんて思わな
かったよ」
「バカやってるなよ。あっ、あそこだ。けん君すっかり寝
てるぞ。あった、あった。靴下の中にこれを入れてと」
「次は、さとし君だね」
「さあ、行こう…」
「ねぇ、けん君とさとし君、喜んでくれるかな?」
「当然だろ。それよりここで道草食ってると、また怒られ
るぞ。早くしろよ。先に行っちまうぞ!」
「ちょっとだけ待ってて。 …けん君、さとし君。こんが
んは。メリー・クリスマス!」
☆
クリスマスの前、12月の中ごろ、ふたご座の流星群があります。サンタクロースがプレゼントの注文を
とっているのです。
みなさんも風邪を引かないように気をつけて、たくさんの流れ星にお願いをしてみてください。
きっと、ステキなプレゼントが…
メリー・クリスマス!
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