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担い手の育成・確保と新規参入-有機農業の新規参入支援の

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担い手の育成・確保と新規参入-有機農業の新規参入支援の
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担い手の育成・確保と新規参入
有機農業の新規参入支援の課題
(社)JA総合研究所 協同組合研究部 主任研究員
横 田 茂 永 (よこた しげなが)
1.はじめに
2006 年 12 月に「有機農業の推進に関する法律」が施行され、有機農業を行う農
業者も国策的に担い手の一部に位置付けられたといえる。また、同法に基づいて、
「有
機農業の推進に関する基本的な方針」が 2007 年度からおおむね 5 年間を対象として
定められたが、そのなかで有機農業を行おうとする新規就農者への支援にも努める
旨が明記されている。
新規就農者のなかでも、特に非農家出身の新規参入者の間には根強く有機農業へ
の志向が存在している。また、実際にも新規参入者が有機農業を実践している事例
が少なくない。これらのことから、有機農業の新規参入者への支援について検討す
ることが、今後の担い手の育成・確保の一端としても必要になると考えられる。
2.新規参入の課題と就農支援制度の現状
農林水産省の統計調査によると、新規就農者のなかに新規参入者が占める割合は
2001 年度で 0.7%とまだわずかではあるが、実数では 1985 年度の 66 人から 2001 年
度には 530 人へと約 8 倍の増加を示している。
新規参入者においては、技術、農地、資金および住宅の取得が課題であるといわ
れているが、以前よりは支援制度が充実してきている。全国および都道府県に設置
された新規就農相談センターで就農にかかる相談を受けられるほか、「青年の就農促
進のための資金の貸付け等に関する特別措置法」
(青年等就農促進法)の制定により、
30 才未満(あるいは 40 才未満で知事の特認により定められた年齢)の青年、もし
くは 55 才未満(あるいは 65 才未満で知事の特認により定められた年齢)の中高年
者で、就農計画を提出し、知事の認定を受けた者(認定就農者)については、無利
子の就農支援資金(就農研修資金、就農準備資金、就農施設等資金)の借用などの
支援を得ることができるようになっている。
3.有機農業の新規参入と青年等就農促進法
有機農家で研修をして、その後独自に就農するという方法は、これまでの有機農
業での新規参入で最も一般的な方法である。ここでは、神奈川県藤沢市に位置する
研修農家とその近隣に新規就農した元研修生 3 人、現在の研修生 3 人のうち調査当
日研修を受けに来ていた 2 人からの聞き取り結果のうち青年等就農促進法に関わる
部分について報告する。
(1)研修の概要
本研修農家では、60 代の経営主夫婦と 30 代の後継者夫婦の 4 人家族が農業に従
事しており、研修の受け入れは 1998 年から開始している。2006 年までに年 1 ∼ 4 人、
計 21 人の研修生を送り出しており、うち 5 人が神奈川県内、15 人が県外の全国各
地で就農している(1 人は就農準備中である)。
研修の仕組みは、通常の農作業を一緒にやる形式である。基本的には、作業の冒
頭で説明を行って実際にやってもらい、適宜アドバイスをしている。期間はおおむ
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《調査報告》担い手の育成・確保と新規参入
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ね1年間、研修費は徴収しておらず、食事は提供している。通い、住み込みの別など
研修生の都合に合わせた柔軟な対応をしており、昨年は研修に妻や小学生の子どもを
連れて来る人もいたそうである。
以前は、有機農業団体であるNPO法人日本有機農業研究会からの研修生の紹 介
が 多かったが、現在は神奈川県農業技術センター(以下、農業技術センター)から
の紹介が増えている。農業技術センターは、業務の一環として就農計画作成の支援を
行っており、県内での有機農業による就農を考えている人からの問い合わせに対して
本研修農場を紹介しているのである。
(2)新規参入者と青年等就農促進法
3 人の新規就農者のうち 2 人(40 代男性、20 代男性 ) は認定就農者になっている。
認定を取得した理由の第一は、農地の取得を容易にするためであり、いずれも資金面
での無利子融資を目的としていない。認定を取得していない 1 人(20 代男性 ) は、祖
父所有の農地 20a に加えて、農業はやっていないが地縁のある父のつてで借地による
経営耕地の拡大を行っており、融資のために認定を取得することには消極的である。
研修生の 2 人は、農業技術センターの仲介で研修に入っており、やはり認定の取
得意向を示している。うち 1 人(20 代女性)は、就農を志してからの日が浅いため、
今後の研修のなかで就農地も含めて計画を固めていきたいとしているが、農地の取得
の便宜が得られることから認定を受けることは必要と考えている。もう 1 人(50 代
男性)は、すでに住居の近隣での農地の取得を計画しているが、やはり農地取得を容
易にすることが認定を受ける第1の理由と考えている。また、あまり大きな機械の購
入は考えておらず、融資を受ける気はないという。
4.有機農業でも農地の利用調整が急務
今日の農業情勢のなかでは、融資を受けても返済が難しいということもあり、初期
投資を抑制し、必要以上の資金借入はしない方針のようである。多品目の野菜栽培を
含む複合経営の有機農業を目指している場合は小規模から始めることもあり、このよ
うな傾向がある程度広く存在していることが推察される。
認定取得の理由として共通している農地取得については、新規就農者の間でもまだ
満足がいくものにはなっていない。農地の資産的保有が強い土地柄ということもあり、
規模を拡大できなかったり、住居近くでは農地を借りられなかったりと条件の良い場
所がなかなか手に入らないのが実状である。新規参入者だけでなく、研修農家自体も
約 20 カ所に分散する耕地条件に悩まされている。
また、農地条件が交錯していると、有機農業側からの病虫害や雑草の拡散、慣行農
業側からの農薬の飛散といった有機農家と周辺農家の摩擦が問題となることが多い
が、一部の果樹栽培からの農薬飛散が深刻であるほかは、今のところ 3 人の新規就農
者の間で大きな問題は出ていないという。しかし、研修農家が危惧するようにこの地
か き
区で多いハウス花卉の農家のなかには害虫等の拡散に神経質なところも多く、今後の
動向を見守る必要がある。そのような意味も含めて農地の利用調整が、有機農業の新
規参入でも主要な課題の1つであるといえる。
12 《調査報告》担い手の育成・確保と新規参入
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
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