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フランスにおける保険事業関係法改正の動向

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フランスにおける保険事業関係法改正の動向
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
山野 嘉朗
(愛知学院大学教授)
1.はじめに
2.保険監督法
2−1.保険契約に対する監督
2−1−1.模範条項
2−1−2.保険契約関係書類の審査
2−2.保険企業に対する監督
2−2−1.主務大臣による経営の監督
2−2−2.保険監督委員会による財政の監督
2−2−3.全国保険審議会
2−3.保険募集関係法
3.保険組織法
3−1.保険経理の透明化
3−ト1.連結財務諸表
3−1−2.生命保険会社の資産
3−2.相互性を有する保険企業の名称の統合および相互会社組織の民
主化
3−2−1.相互性を有する保険企業の名称の統合
3−2−2.相互会社組織の民主化
−157−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
3−3.国有保険会社の活性化
3−4.公施設法人の開放
4.むすびにかえて
1.はじめに
わが国では、平成4年6月に3年におよぶ審議をとりまとめた保険
審議会答申が公表された。そして、現在、かかる答申を受けて保険業
法の改正作業が進行中である。法案提出の時期はまだ定かではない
が、今後、わが国で保険事業関係法の現代化を実現するにあたって
は、諸外国の法改革の動向を踏まえることが重要と思われる。
この分野において、フランスでは、1989年12月31日の法律第
89−1014号(以下、1989年12月31日法という)が注目すべき改革を
実現した。同法はEC法にフランス法を適合させつつも、一方で保険
契約法の現代化を実現し、他方で、保険事業関係法にも大きな改正を
加えた。さらに、最近では1992年7月16日の法律第92−665号(以
下、1992年7月16日法という)が1989年12月31日法と同様、国内
法とEC法の調整をはかりつつも、それ以外に保険企業および保険契
約に関しても重要な改正を行っている。そして、以上の立法を補完す
るデクレ(命令)も着々と制定されている。このように、近年のフラ
ンスでは、時代環境の急激な変化に伴い、広義における保険法の現代
化がダイナミックに進行している。
以上の改正は注目すべき内容を有しているが、これらに関する研究
1)
はわが国においてほとんどみられない。
そこで、本研究は、フランス保険法の中でも、保険監督法と保険組
織法に的を絞り、これらに関する最近の立法の動向を紹介し、わが国
−158−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
の保険事業関係法規の現代化を進める上での一資料を提供することを
目的とする。なお、そのタイトルにもみられるように、1989年12月
31日法および1992年7月16日法では、生損保に関するEC指令の
国内法化が大きな目的となっているが、本稿においては、この点には
あえて触れないこととする。
注1)1989年12月31日法の保険契約法改正部分の分析・検討については、拙稿「保険契
約法と契約者利益の保謹−フランス法の分析を中心にして−」F文研論集J第99
号、1992年、p,183、同「フランス保険契約法の現代化の動向」『保険の現代的課
題』鈴木辰紀教授還暦記念、1992年、p.213参照。同法の規定する保険監督委員会
に関する政府軍案理由書を翻訳・紹介したものとして、岩崎稜「フランスにおける
「保険監督委員会」制の導入」F文研論集』第92号、1990年、p.1参照。
2.保険監督法
保険法典L.310−1条は次のように規定する。「国家の監督は,保
険契約およびカピタリザシオン契約の被保険者、保険契約者および保
険金受取人の利益において行われる。」すなわち、保険監督の目的は
保険契約者(消費者)側の利益を保護することにある。このような保
険契約者保護の必要性は、とりわけ技術的な二つの理由から公権力に
よって長いこと考慮されてきた。第一に、保険給付は将来の不確定な
出来事と結びついているが、これが保険契約者にとって保証されなけ
ればならないこと。第二に、保険者の財政的な支払能力を評価するた
2)
めの道具が保険契約者にあてがわれていないこと。
さて、国家の監督は多様であるため、ここではそのすべてを網羅で
きないが、その中心は大きく①保険契約に対する司法的監督、②保険
−159−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
企業の支払能力の財政的監督にあると考えられる。この点につき、
1989年12月31日法は、かかる監督の方法についてきわめて大きな
改革をもたらした。以下、同法の内容を踏まえつつ検討を加える。
2−1.保険契約に対する監督
2−1−1.模範条項
保険契約に対する監督としてフランス法に特徴的なものに模範条項
(Clauses.types)がある。模範条項とは、監督当局が予めモデルとし
て定めた条項のことであるが、監督当局はその使用を保険者に課すこ
とができる。その法的根拠は現行保険法典L.310−7条である。もっ
とも、同条の内容は、1945年9月29日のオルドナンスおよびこれを
修正する1955年5月20日のデクレに遡るものである。また、保険法
典R.310−10条は、経済・財政大臣が行政監督権を有するものと規定
しているので、監督当局とは、すなわち経済・財政大臣のことであ
る。
3)
さて、模範条項には、次の二つのタイプのものがある。(丑任意的な
もの。すなわち、参考、例または雛形として役立つものであり、たと
えば、1954年および1959年に行政庁が作成した自動車総合保険がこ
れに該当する。これに対して、保険監督上より重要で、かつ問題とな
るのは、(診義務的なものである。これは、保険契約者や保険金受取人
の保護を目的とするものである。たとえば、保険法典A.113−1条で
は、契約期間は、これを保険契約者の署名の真上にきわめて明瞭な字
体で記載することによって明確に示されるものと規定している。他
に、自動車保険に関し、保険法典A.121−1条および同12ト2条が.自
動車保険のメリット・デメリット制度の内容を指示し、自然災害保険
につき保険法典A.125−1条が契約内容を定め、建築保険に関し保険
−160一一
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
法典A.243−1条が契約内容を指示し、同243−2条が責任保険・損害
保険の申込書に含まれる情報を指示していること等があげられるよう
4)
に、国が定めた模範条項の例は多い。
なお、この点につき、1989年12月31日法は保険法典L.310−7
条を修正しなかった点に注意すべきである。すなわち、同条は依然と
して、行政当局に模範条項の使用を課すことができると規定してい
る。がしかし、かかる模範条項の使用に対しては、学説から次のよう
な指摘がなされている。保険契約の内容に関する強行法規と行政当局
が課す模範条項が競合することによって、個々の保障のニーズに保険
契約が柔軟に対応するための契約の自由が制約されるばかりか、規格
化された同一商品しか保険者が提供できないので保険者間の競争も制
5)
約される。
2−1−2.保険契約関係書類の審査
最近まで、フランスでは一般大衆向けの保険関係書類(保険証券、
保険申込書、保険約款等)に対しては、監督官庁の監督権は保険法典
R.310−6条を根拠に、同書類が流布する前に、≪認可≫をとおして
行われてきた(事前認可制度)。その目的は、基本的に普通保険約款
に関する現行法規に約款条項を適合させるということにあるが、実際
は、適法性についての監督をこえて、妥当性についても監督を行って
6)
きたようである。こうした行政の≪認可≫という方式に対しては、こ
のような制度は遅延と硬直性の原因であって、現代化された契約の迅
速な取引を制約するものであるとして次第に異議が唱えられるように
7)
なってきた。
以上のような事実が確認されたため、保険局は、1989年5月25日
の通達によって、損害保険契約に関する事前の認可制度を廃止するこ
−161−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
とにした。もっとも、保険法典L.310−8条(1989年12月31日法第
31条)は、次のように規定する。主務大臣は、「保険およびカピタリ
ザシオン事業を対象とする契約または広告の性質を有するすべての書
類を、それが配付されるに先立ち、届け出る義務を課すことができ
る」したがって、保険契約一般についての事前の認可制度は廃止され
たものの、主務大臣は届け出義務を課すことができる。なお、これは
主務大臣の裁量であって義務ではない点に注意しなければならない。
主務大臣は、修正の必要がある場合は、書類提出の日から起算して
1ヵ月以内に修正を命じることができる。かかる期間満了後は、この
書類は大衆に配付されうる(保険法典L.310−8条第2項)。
配付された書類が法令諸規定に反すると認められる場合は、主務大
臣は、保険審議会の一致した意見が出された後で、その修正または廃
止を強制することができる(保険法典L.310−8条第3項)。
なお、1991年6月28日のデクレによって、かかるシステムが具体
化された。同デクレによって改正された保険法典R.310−6条によれ
ば、保険企業またはカピタリザシオン企業は、保険契約またはカピタ
リザシオン契約を商品化する前に、経済・財政大臣に対して、その意
図を通知し、その契約の名称,提供される担保の表明および商品化予
定日を含む情報提供カード(fiche d’information)を提出しなければ
ならない。そして、経済・財政大臣は、かかるカード受領後、10日
以内に大衆に交付予定の契約書類および広告書類の提出を要求するこ
とができる。経済・財政大臣が当該書類の提出を求めた結果、修正を
命じる必要がある場合は、かかる書類受領後20日以内にこれを行わ
なければならない。したがって、かかる期間経過後、あるいは、カー
ド受領後に当該書類提出が要求されなかった場合は、以上の書類の交
付が可能となる。このシステムは、すべての保険事業者またはカピタ
−162−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
リザシオン事業者に適用される。
2−2.保険企業に対する監督
保険企業に対する監督機関として、その中心的役割を果たしてきた
のは保険局であり、保険監督官も保険局に帰属していた。これに対
し、1989年12月31日法は、保険局がもっていた監督権を分割し
て、経済・財政大臣と新設の保険監督委員会に委譲した。その結果、
1991年2月8日のデクレによる改正によって、保険局は廃止され、
既存の権限は、財務局(directionduTr;sor)に委譲された。そし
て、現在では、旧保険局は財務局の中の第4番目の部局に位置付けら
8)
れている。
2−2−1.主務大臣による経営の監督
国家の経営監督権は,まず、保険法典R.32ト1条が列挙する≪保険
分野≫の一つまたは複数を営むにあたって不可欠な≪行政認可権≫を
とおして行使される(保険法典L.32ト1条以下)。この監督権は、設
立,活動,移転のルールといった保険企業の法制度に対して適用され
る。
1989年12月31日法第21条によって新たに加えられた保険法典
L.321−2−1条によれば、認可または認可拒絶にあたり、主務大臣は、
全国保険審議会の管轄委員会の答申を受けて、(彰その実施が提案され
ている専門能力および財政的能力および事業活動計画への適合性およ
び②当該企業を管理する者の信望および資質ならびに③資本金の分散
またはL.322−26−1条に掲げる会社については設立基金の設定方法を
考慮する。このように、認可付与の有無についての主務大臣の決定
は、客観的な基準に依拠しなければならないことになったが、透明性
−163−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
を確保する上で大きな意味があると考えられる。
なお、行政認可の取消につき、1989年12月31日法第23条によっ
て新たに加えられた保険法典R.325−1条は、全国保険審議会に設置
された保険企業委員会(Commission des entreprises d’assurance)
の一致した答申を受けて、かつ、①長期間の活動停止、②会社の財政
能力とその活動のバランスの崩壊および③公益の要請があり会社資本
または経営機関の構成に重要な修正があった場合という客観的基準に
したがって、主務大臣がこれを取り消すことができるものと規定す
る。かかる局面においても透明性が貫かれている。
さて、フランス企業に適用される行政認可、EC域内の外国企業に
適用される特別な認可とならんで、1990年8月9日のデクレ第
90−700号が定める巨大リスクを対象とする保険の認可制度(保険法
典R.351−1条以下)がサーヴィスの自由供給のもとで創設されてい
ることに注意しなければならない。
1989年12月31日法第34条により、保険法典L.310−7条が改正
され、行政当局による、保険料率の最高・最低金額の設定ならびに保
険仲介者の報酬率の最高金額の設定ならびに報酬支払いに関する規則
の設定が削除されたが−したがって、これらについては契約自由の原
則にしたがうことになる−、行政当局は、なお、生命保険契約の保険
料の数理的計算規則を定める権限および上述したように、模範条項を
課す権限を有するものとされた。
2−2−2.保険監督委員会による財政の監督
保険法典L.310−1条が規定するように、財政監督権は、被保険
者、保険契約者および長期にわたって引き受けられた約束によって保
険企業の債権者となっている保険契約およびカピタリザシオン契約の
−164−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
受取人の利益のもとに行使される。同様に、保険企業のソルベンシー
は、≪ソルベンシー・マージン≫(marge de soIvabilite)(保険法
典R.334−1条以下)および≪被規制債務≫(engagements reg−
lement昌S)(保険法典R.33ト1条以下)を設置する義務によって厳格
に規制される。
さて、財政監督に関し、もっとも注目される改正は、1989年12月
31日法第31条による≪保険監督委員会≫(CommissiondecontrSle
des assurances)の設置である(保険法典L.310−12条以下)。この
委員会は、銀行法によって既に設置されている銀行委員会を範とした
9)
ものである。この委員会はこれまで保険局が引き受けてきた財政監督
任務を引き受けることになる。その権限は、再保険のみを目的とする
会社を除くすべての保険会社に直接に及ぶことになる。以下、この委
貞会の内容を紹介・分析したい。
(1)保険監督委員会の目的
まず、保険企業が保険に関する法律・デクレ・アレテの諸規定を遵
守していることを監督する(保険法典L.310−12条第2項)。そし
て、保険会社が保険契約者に対し契約上の義務を履行し、かつ、常に
義務を履行できる能力があり、かつ、所定のソルベンシーを有してい
ることを検証する。この目的のため、保険企業の財政状態および営業
状態を検査する(保険法典L.310−12条第3項)。
(2)保険監督委員会の構成
任期を5年として指名された5名のメンバーからなる(保険法典
L.310−12条第4項)。すなわち、コンセイユ・デタのメンバーから1
名、破毀院のメンバーから1名、会計検査院のメンバーから1名、保
険および金融問題に関する学識経験者2名。なお、委員会の委員は、
任期中および任期満了後5年間は保険会社から報酬を受けることがで
−165−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
きない(保険法典L.310−12条第5項)。以上から、この委員会の権
威と独立が保証されているといえよう。
(3)保険監督委貞会の権限
この委員会には、以下のとおり広範な調査権と制裁権が与えられて
いることから、その任務を十分に遂行することが可能となっている。
(ア)調査権 ①保険企業に対してその職務の遂行上必要な一切の情
報を請求できる(保険法典L.310−14条第1項)。そして、会計監査
役の報告書その他すべての計算書類の提出を求めることができる(保
険法典L.310掃14条第2項)。②保険企業に義務づけられている公表
が適法に行われているか確認する(保険法興し.310−14条第2項)。
保険企業の公表書類が不正確であったり,不記載があった場合には訂
正公表の実施を命令でき、必要と認めるすべての情報を公表すること
ができる(保険法典L.310−14条第3項)。③任務行使に必要な場合
は、立ち入り検査をすることができる(保険法典L.310−15条)。
上記(諺については検討を要する。この立ち入り検査権は、監督の対
象とされている保険会社がその資本または議決権の過半数を直接また
は間接に保有する会社一商法第354条にいう子会社および商法第
355−1条にいう被支配会社が含まれる一に拡張することができる(保
険法典L.310−15条第1項)。この場合の会社の業種は保険業に限ら
10)
れない。これだけでなく、こうした被支配企業と直接または間接に管
理、再保険またはその活動分野のいずれか一つに関しその運営もしく
は決定を変更するおそれのある他のあらゆる形態の協定を締結してい
る組織にも及ぶ(保険法典L.310−15条第1項)。したがって、原則
として保険監督委貞会の監督を免れる再保険がこれによって新たに監
督に服することになる。同様に、共済・退職年金団体または保険者と
11)
提携する共済団体も監督に服しうる。しかしながら、こうした検査の
−166−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
拡大は、かかる組織自体を監督することを目的とするのではなく、か
かる組織をとおして、検査対象となっている企業の実際の財政状態の
確認および保険契約者と保険金受取人に関する約定の遵守を対象とす
るものである(保険法典L.310−15条第1項末文)。
被支配保険企業が企業更生・保全措置の対象となっているときは、
監督は,これを支配している法人(商事会社法第355−1条にいう法
人)または同企業と一体関係にある法人(保険法興し.345−1条にい
う法人)に及ぶことになる(保険法典L.310−15条第2項)。ただ
し、この監督は、それらの法人が企業更生手続き、および被支配保険
企業の保全措置に参加できるだけの能力があるかを監視するためだけ
12)
に行使される。立ち入り検査は、国際間協定という枠組みにおい
て、外国において設立されたフランス法上の保険会社の支店または子
会社に対しても行われる(保険法典L.310−15条第3項)。立ち入り
検査後には、報告書が作成され、検査官が見解を表明した場合、その
見解は当該企業に通知される。委貞会は、検査官の見解およびそれに
対する企業の応対につき報告を受ける(保険法典L.310−16条第1
項)。立ち入り検査の結果は、検査対象企業の取締役会または董事会
(directoire)および監事会(COnSeilde surveillarlCe)に通知され
る。また、この検査結果は、会計監査役にも送付される(保険法興
し.310−16条第2項)。
(イ)制裁権 保険企業が保険監督委員会の監督分野の法令諸規定に
違反し、またはソルベンシーもしくは保険契約者に対して契約した債
務の履行を危険ならしめる行動が認められる場合には、委員会は,当
該企業の経営者に意見書を提出させた後に、当該経営者に警告を発す
ることができる(保険法典L.310−17条第1項)。同様に、同一条件
で当該企業の財政均衡の回復・強化またはその行為を訂正するための
−167−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
あらゆる措置をとるようにという命令を当該経営者に発することがで
きる(保険法典L310−17条第2項)。
保険企業が保険監督委員会の監督分野の法令諸規定を遵守せず、ま
たは命令にしたがわなかった場合は、委員会は当該企業またはその経
営者に対して違反の程度に応じ、①警告、②戒告、③一定の営業の禁
止およびその他一切の活動制限、④企業経営者の休職、⑤認可の全面
的または部分的取消、⑥保有契約の全部または一部の強制移転という
制裁を課すことができる(保険法典L.310−18条第1項)。以上のう
ちでも⑤、⑥は保険企業の存続に関わるきわめて厳しい制裁といえ
る。したがって、その発動には慎重さが求められよう。もっとも、委
員会の構成は司法官が多数を占めているから、悪意的な運用は防げる
13)
だろう。
蚕貞会は、また、認められた違反の程度に応じ金銭的制裁(行政上
の反則金)を宣告することができる(保険法典L.310−18条第2
項)。この場合の最高金額は、それが、理論的に最新の事業年度の総
売上高の3%一再度の違反については5%−まで可能であるがゆえ
に、相当厳しいものといえる。ちなみに、この金額は国庫に払い込ま
れる(保険法典L.310−18条第2項)。
さて、保険監督委員会の裁定は対審手続きを経て行われるので,当
事者たる会社幹部は,釈明することができるし、顧問弁護士のアシス
トを受けるもできる(保険法典L.310−18条第3項)。委貞会一独立
した行政機関であって司法機関ではない一の決定を不服とする訴訟
は、司法管轄においてではなくコンセイユ・デタに対して行われるこ
とたなる(L.310−18条第4項)。委員会の決定にもとづく終極的制裁
は、新聞に掲示・掲載することによって周知されうる(保険法典L.
310−18条末項)。
−168−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
委員会または保険監督官の任務遂行に対して行われる抵抗を阻止す
るために、厳しい罰則(15日以上2年以下の禁固および/または
15000フラン以上200万フラン以下の罰金)が設けられた(保険法典
L.328−15−1条)。
(ウ)情報交換 保険監督委員会は、とりわけECにおける外国の監
督機関(保険法典L.310−21条第2項)ならびにフランスにおける他
の財政もしくは経済監督機関一競争委員会、銀行委貞会、有価証券集
合投資機関規制委員会、証券取引委員会−(保険法典L.310−20条)
との協力および情報交換を行うことができる。委員会は、他の委員会
から入手した情報については守秘義務を負う(保険法典L.310−20
条)。委員会が、他の機関の管轄に属すると認めるときは、委員会が
当該機関に情報を提供する必要がある場合もある。すなわち、刑事訴
追を相当としうる事実については、共和国検事に(保険法典L.310−22
条)、反競争的行為については経済・財政大臣に(保険法典L.
310−23条)。
(ェ)その他の権限 以上の監督任務とは別に、委員会は、行政認可
取消にともない、経済・財政大臣に対して、生命保険会社の清算の場
合に行われる措置−とくに契約失効日、保険金額および解約返戻金額
の削減−を提案することができる(保険法典L.326−13条第2項)。
2−2−3.全国保険審議会
保険法典は全国保険審議会(Conseilnationaldes assurances)
に、諮問、答申、提案という三つの重要な役割を与えてきた(R.
41ト2条)。しかし、ここ数年は、かかる審議会の動きには、次のよ
うにやや活気がみられなくなっていた。すなわち、大臣は、小さな問
題を除いて諸問題を諮問しなくなってきた(バダンテール法一交通事
−16ケ一一
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
故法−や保険法典改正案のようなきわめて重要な案件につき諮問がな
14)
かった)。反対に、監督官庁に属し、審議会にとって概して利害のな
15)
い任命につき諮問を受けてきた。さらに、審議会は、まったくといっ
16)
てよいほど提案を行ってこなかった。そこで、1989年12月31日法
は、同審議会の活性化をはかるべく同審議会を完全に刷新されたもの
として位置づけるとともに、審議会の威信を高めた(1989年12月31
日法第17条、保険法典L.411−1条)。
(1)全国保険審議会の任務
1989年12月31日法によって、これまで保険法典旧R.411−2条が
定めていた全国保険審議会の任務は修正された。まず、審議会は、保
険、再保険、カピタリザシオンおよびアシスタンスに対するすべての
問題について諮問を受ける。また、①コンセイユ・デタが審議する前
のすべての法案、②ヨーロッパ共同体評議会が審議する前のすべての
指令案、③管轄内のすべてのデクレ案につき答申が求められる(保険
法典L.41ト2条第2項)。
以上に加え、審議会は、保険活動、保険立法および防災に関する提
案を大臣に対して行うことができる(保険法興し.41ト2条第3項)。
また、審議会は、毎年、共和国大統領および議会に保険に関する報
告書を提出する(保険法典L.411−2条第4項)。
1989年12月31日法による改革としては、全国保険審議会内部
に、①保険企業委員会(Commission des entreprises d’assu・
rance)、②法制委員会(Commission dela reglementation)、③保
険諮問委員会(Commission consultative del’assurance)という三
つの委員会を設置したことも目を引く(保険法典L.411−3条)。
(ア)保険企業委員会は、L.32ト1条、L.325−1条ならびにL.351−5
条に掲げる保険会社の認可に関する決定(主務大臣による認可または
−170−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
認可拒絶)に先立って諮問を受ける(保険法典L.411−4条)。その構
成は、経済・財政大臣を議長として、①保険監督委員会委員長、②専
門的能力にもとづき選任される委員1名、③保険契約者を代表する委
貞1名である(保険法典R.41ト10条)。
(イ)法制委員会は、全国保険審議会がL.411−2条の適用により諮
問を受けるデクレ案に関し、これに代わって答申を出す(保険法典
L.411−5条)。この委員会は審議会を代理して活動するものであるか
ら、審議会は、デクレ案に関しては、総会を開催して態度を決定する
17)
必要はないだろう。その構成は、経済・財政大臣を議長として、(》全
国保険審議会委員であるコンセイユ・デタ評定官、②法務省民事国璽
局長またはその代理人、③専門的能力にもとづき選任される委員1
名、④保険企業を代表する委員3名、(9保険総代理店または保険ブ
ローカーを代表する委員1名、⑥保険契約者を代表する委員1名から
なる(保険法典R.411−11条)。
(ウ)保険諮問委員会は、L.310−1条に掲げる会社とその顧客との間
の関係に関する問題を検討し、この分野における適切な措置を、一般
的な意見または勧告の形で提案する(保険法典L.411−5条第1項)。
この委員会は、銀行に関するユーザー委員会に着想を得て創設された
18)
ようである。構成としては、保険業者と保険契約者の代表がメン
バーの3分の2以上を占めなければならない(保険法典L.411−6条
第3項)。具体的には、①専門的能力にもとづき選任される委員1名
(この者が委員長となる)、(診保険企業を代表する委員6名、③保険総
代理店を代表する委員2名、④保険ブローカーを代表する委員2名、
⑤L.310−1条に定める保険企業の従業員を代表する委員2名、⑥保険
契約者を代表する委員6名の計19名の委員からなる(保険法典R.
41ト12条)。委員会は、委員の過半数の要請によって自発的に問題に
−171−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
取り組むことができ、経済・財政大臣および全国的に公認された消費
者組織の付託を受けることができる(保険法典L411−6条第2項)。
以上から∴この委員会の任務と、不当条項委員会の任務との関係が問
題となる。保険に関しては、保険諮問委員会と不当条項委貞会の権限
の分配が存在するのか、あるいは保険諮問委員会に排他的権限が存在
19)
するのかといった点が問題となりうるだろう。
(2)全国保険審議会の構成
1989年12月31日法は、保険法典旧R.41ト1条が定める全国保険
審議会の構成員を刷新した。経済・財政大臣を会長として、次のメン
バーからなる(保険法典L.411−1条)。①国民議会(下院)が指名す
る議員1名、②元老院(上院)が指名する議員1名、③コンセイユ・
デタ副委員長が指名する評議員の地位にあるコンセイユ・デタ議貞1
名、④政府代表者5名、⑤学識経験者として選定された者3名、うち
1名は法学部教授、⑥保険業界代表者12名、⑦L.310−1条に掲げる
保険会社の従業貞代表5名、⑦保険契約者代表8名、うち1名は地方
自治体が選出した代表者。なお、1990年11月7日のデクレによって
改正された保険法典R.411−1条が、上記④ないし⑦の内訳を明らか
にしている。なお、以上のメンバーには、保険法典旧R.41ト1条の
もとでメンバーとされていた破毀院判事が含まれていない。この点に
ついては、破毀院判事は、国の代表者となるか、その見識を理由に選
20)
ばれる者とされるのが望ましいとの指摘がなされている。
2−3.保険募集関係法
1989年12月31日法は、ブローカー制度についても、きわめて重
要な改革を行った。保険仲介者が保険契約者を犠牲にして不正行為や
資金の横領を行った場合、かかる仲介者が保険総代理店であれば、同
−172−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
代理店は保険会社の代理人である以上、その賠償責任は保険会社が負
うことになる。他方、保険仲介者がブローカーである場合は、そのブ
ローカーが引受、管理または領収の委任を受けて保険者と結びついて
いる場合を除き(この場合は、委任の範囲内で保険者が責任を負う
−保険法典L.511条)、保険会社は原則として、ブローカーの不正行
為や横領の賠償責任を負わない。ブローカーが保険会社に対して法的
・経済的に独立・中立の立場にある以上、それは当然のことである。
しかし、ブローカーが利用者に損害を与えた場合でも、利用者は、一
般に賠償資力が十分にあると考えられる保険会社に対して賠償請求で
きないわけであるから、当該ブローカーに十分な賠償資力があるか否
かが重要な問題となってくる。しかしながら、1989年12月31日法
制定前には、いかなる財政保証(garantiefinaci昌re)義務もブロー
21)
カーには課せられていなかった。
そこで、1989年12月31日法第42条は、保険法典(第1部:法
律)第5編に新たに、「保険ブローカーおよび保険ブローカー会社に
対する特別規定」と題する第3章を加えた。その日的はブローカーの
賠償資力をいかに確保するかという点にある。
まず、保険ブローカーまたは保険ブローカー会社は、臨時的にであ
れ、保険法典L.310−1条に掲げる会社または保険契約者に対する払込
を目的として託された資金を保険契約者にとくに支払うための財政保
証をつねに証明する義務を負う(保険法典L.530−1条第1項)。すな
わち、たとえ偶然であれ、保険契約者の財産(保険料)または保険者
の財産(支払保険金)が預けられたすべてのブローカーは、とくに財
産の償還に充当される保証金というかたちで財政保証を証明しなけれ
22)
ばならない。この財政保証額は75万フラン以上であることを要し、
かつ、保険ブローカーまたは保険ブローカー会社が受領する金額の月
−173−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
平均額の2倍を下回ることができない(保険法典R.530−1条第1
項)。この平均額は、保証契約が締結または更新された日が属する月
に先立つ12カ月間に受領された金額を基礎として計算される(保険
法典R.530−1条第1項)。また、保証契約は毎歴年を期間として締結
され、反対の意思表示がないかぎり1月1日をもって更新される(保
険法典R.530−2条)。財政保証は、被保証人たる保険ブローカーまた
は保険ブローカー会社の債務不履行が証明されたときに利用できる
が、保証人は債権者に対して異義を申し立てることができない(保険
法典R.530−5条)。なお、財政保証は、保証を行う資格を有する信用
機関または保険法典が規制する保険企業による保証契約によらなけれ
ばならない(保険法典L.530−1条第2項)。ブローカーまたはブロー
カー会社が保険企業から明示的に保険料の領収およびそれに付随する
保険金の支払いを委ねる旨の書面による委任を受けただけの場合は、
保証義務は適用されない(保険法典L.530−1条第3項)。この場合
は、保険法典L511−1条が適用される以上、委任者たる保険会社が責
任を負うのであるから当然である。
さて、いま一つ重要な点は、賠償資力確保のための賠償責任保険付
保の義務化である。保険ブローカーまたは保険ブローカー会社は、い
つでも専門職民事責任保険の存在を証明できなければならない(保険
法典L.530書2条)。もっとも、ブローカーによる財産横領の場合は、
保険契約者であるブローカーが悪意である以上、保険契約法の一般原
23)
則(保険法典L.113−1条但書)が適用されて、保険会社が免責され
ることに注意しなければならない。したがって、この保険はブロー
カーの債務不履行の際に効果を発揮しうる。なお、1990年9月24日
のデクレにより、この保険の内容は次のように規定されている(保険
法典R.530−8条)。①1保険ブローカーまたは1保険ブローカー会社
−174−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
につき、1保険事故ごとに年間1000万フランを保証する。(診保険金
額の20%を超えない範囲で1保険事故あたりの免責金額を定めるこ
とができる(ただし、当該免責金額は被害者に対抗することができな
い)。③保険契約者が契約締結時にその存在を認識していないかぎ
り、保険契約者の民事責任を生ぜしめる原因となった事実が発生した
日にかかわらず、契約開始から終了までの間になされた請求につき保
険契約者を保護する。④保険事故の原因となった事実が契約の有効期
間内に発生している場合は契約の終了時から最長12カ月の間に保険
契約者に生じた保険事故につき賠償責任を担保する。⑤契約終了が、
保険契約者の死亡、原因を問わず営業活動の一時的または最終的停
止、更生整理、法的状態の変更とりわけ吸収合併、分割、全部または
一部の営業譲渡に起因する場合は、その日から10年間効力を有する
1000万フランの継続担保を含む。ちなみに、かかる保険契約は、反
対の意思表示のないかぎり毎年1月1日をもって更新される(保険法
典R.530−10条)。
注2)Y.Lambert−Faivre,Droit des assurances,8e昌d.,1992,nO139.
3)M.Charre−Serveau etJ.Landel,LexiqueJuridique et pmtique des termes
離m抑弼叱1992,p.56et57・
4)Lambert−Faivre,qP.citリnO141.
5)乃id.
6)乃gd.
7)乃id.
8)J.Bigotetautres,77dtZde droit des assurmwes:EntrWrLses et ownismes
が離間〝加配玖1992,nO732.
9)J.Bigot,LaloinO89AlO14du31d昌cembreportantadaptationduCodedes
−175−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
assurances云1,0uverturedumarch昌europeen,JC.P1990.1.3437,nO69.
10)乃崩しnO71.
11)乃通りnO72,
12)乃id.
13)乃gd,nO73.
14)乃材リnO75.
15)乃id.
16)乃id.
17)乃idリnO77.
18)乃材.
19)必滅
20)月商L nO75.
21)乃通りnO88.
22)肋祓
23)同条但書は次のように規定する。「ただし、保険者は保険契約者の故意による
フォートまたは詐欺的なフオートに起因する損失または損害については責任を負わ
ない」
3.保険組織法
1989年12月31日法および1992年7月16日法は保険組織について
も以下に掲げるように大きな改正を行っている。
3−1.保険経理の透明化
3−ト1.連結財務諸表
子会社を有し、または大規模な資本参加を行い、あるいは他社に対
−176−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
して著しい影響力を行使している営利会社は、「営利会社に関する
1966年7月24日の法律」第66−537号第357−1条に定め石条件にし
たがい自社の財務諸表にそれらの会社の業績を統合しなければならな
いものとされてきたが、保険法典は保険会社に関しては,このような
24)
連結財務諸表に関する規定を有していなかった。そこで、1989年12
月31日法は、保険経理の透明化を図るべく、連結財務諸表の作成・
公表を≪保険企業集合体≫(ensembles d’entreprises d’assurance)
に義務づけることとした(保険法典L.345−1条)。さて、保険企業集
合体を形成している状態とは次の状態をいう。(91保険企業が他の1
または複数の保険企業に対して、営利会社に関する1966年7月24日
の法律第66−537号第357−1条にいう独占的もしくは共同的支配力、
または顕著な影響力を及ぼすとき、②2社以上の保険企業が、保険企
業間協定により、同一の経営陣を有するか、または共通の営利的、技
術的もしくは財政的行為を生むに十分な共通の部門を有するとき、③
企業が、契約上、規約上もしくは法令上の規定により、企業間に大量
かつ継続的な再保険関係を有するとき(保険法典L.345−1条第2
項)。
以上については、1991年10月28日のデクレによってその詳細が
明らかにされている。上記(多の場合に連結財務諸表を作成する企業と
は、直近の5事業年度をとおして平均で最も保険料収入の大きい会社
である(保険法典R.345−ト2条a)号)。上記③については、R.
345−1−1条所定の条件で再保険する会社、および複数の再保険者が関
係する場合には、直近の3事業年度をとおして平均で最も保険料を出
再している会社である(保険法典R.345−ト2条b)号)。なお、③に
ついては、その中の1社が直近の3事業年度をとおして平均で保険料
の半分以上を他の1社またはL.345−1条にいう保険企業集合体を構
−177−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
成する複数の企業に出再している企業は、それら企業間に大量かつ継
続的な再保険関係があるものとみなされる(保険法典R.345−ト1
条)。ちなみに、連結の方式については保険法典R.345−2条以下が、
連結財務諸表の表示については,保険法典R.345−7条以下が規定して
いる。
3−ト2.生命保険会社の資産
1989年12月31日法第25条によって新設された保険法典L.344−1
条により、生命保険またはカピタリザシオン事業を営む企業の会計の
透明化が図られることになった。同条により、生命保険またはカピタ
リザシオン事業を営む企業は、各事業年度末に、その資産の部に記載
されている投資全体の帳簿価格とキャピタル・ゲイン(Valeur de
r昌alisation)とを記載した財務諸表付属明細書(etatannex昌aIeur
COmpte)を作成しなければならない。かくして、有価証券だけでな
く、以前は取得価格としてしか表示されなかった不動産のキャピタル
25)
・ゲイン(plus−Values)も表示されることになる。
これに加え、これらの付属明細書は、保有契約包括移転の場合に確
認されるような、投資のうちで保険契約者および保険金受取人に対し
て負担する債務に対応する部分も示すものとされる。そして、ある生
命保険会社(またはカピタリザシオン会社)から他の生命保険会社
(またはカピタリザシオン会社)への包括移転の承認は、とりわけ以
上の明細書にみられるデータを根拠として行われることになる(保険
法典L.324−1条)。
したがって、監督当局は、ある保険会社から他の保険会社に包括移
転がなされる場合には、資産売却益が個々の株主および保険契約者に
26)
公平に配分されているか知ることになる。
−178−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
保険法興し.324−3条第1文は、合併または分割作業が保有契約包
括移転を伴わない場合は、保険企業は、合併または分割の最終的実行
の1カ月前に、かかる作業案の目的・方式を説明する有用な書類すべ
てを添付した申告書(declaration)を経済・財政大臣に提出しなけれ
ばならないと規定しているが、1989年12月31日法第25条によっ
て、第2文が次のように改められた。すなわち、この期間中に、経済
・財政大臣は、かかる作業が保険契約者または会社債権者の利益に合
致しない場合だけでなく、それが結果として保険法典L.344−1条の
規定によって確認された、保険契約者に対して負担する債務に対応す
る投資の換価価額を減少する場合には、これに反対することができ
る。
1989年12月31日法第25条によって改正された保険法典L.324−7
条によれば、生命保険会社またはカピタリザシオン会社が保有契約と
ともに譲渡した資産は、譲受企業の貸借対照表とは別の会計部門に配
置される。そして、譲渡された資産に帰属する利益配当の計算にあ
たっては、譲受企業の自己資本および保険契約者に対する債務の額は
考慮されない(保険法興し.324−7条)。
3−2.相互性を有する保険企業の名称の統合および相互会社組織の民
主化
3−2−1.相互性を有する保険企業の名称の統合
1989年12月31日法第26条によって改正がなされるまで、フラン
スには、相互形態の保険会社一保険相互会社−(soci昌t昌d,assu−
ranceaformemutuelle)、保険相互組合(soci昌t昌mutuelle
d’assurance)、農業相互保険金庫(Caisses d’assurance mutuelles
agricoles)ならびにトンチン組合(tontines)とよばれる相互性
−179−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
(mutualit昌)を有する組織が存在した。1989年の法律第26条は、
「保険法典(第1部:法律)第3編第2章第2節第4款の見出し、相
互形態の保険会社(sociさt昌d,assurance昌formemutuelle)を保険相
互会社(soci昌t昌d,assurancemutuelle)という見出しに改める」と
規定した。これによって、各種相互保険企業は、それぞれの企業の存
在および特殊性を維持しつつも、保険相互会社(soci昌t昌mutuelle
d’assurance)という単一の名称に統合されることとなった。かくし
て、保険相互組合、トンチン組合、農業相互保険金庫ならびに農業相
互再保険金庫は、以後は、保険相互会社の特別形態ということになる
(保険法典L322−26−4条)。また、保険相互会社連合(unions de
soci昌t6sd,assurancemutuelle)も同様に保険相互会社の特別形態と
なる(保険法典L.322−26−3条)。なお、保険法典L.322−26−1条は、
保険相互会社の性質として、相互性の基本要素である非営利性、社員
の危険の保障、約定債務の完全履行、会社資本の不存在を確認してい
る。ちなみに、1991年9月30日のデクレ第9ト1050号によって改正
された保険法典R・322−42条ないしR・322−159条が、以上に関する規
定の現代化・簡素化をはかっている。
3−2−2.保険相互会社の民主化
1989年12月31日法は、①保険相互会社の取締役に従業員選出の
取締役を含めること、(診拠出額による社員の取締役被選任資格を禁止
すること、(診社員総会または総会会員選挙への参加を拠出金額にかか
わらしめる旨の定款の規定を無効とすることによって保険相互会社の
民主化を目指した。
同法第27条により改正された保険法典L.322−26−2条第1項によ
れば、保険相互会社の取締役会には、保険法典がその数と選任方法を
−18か−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
定める取締役の他、従業員が選出する取締役が含まれものとされる
が、定款の定める従業員選出の取締役の員数は、他の取締役の員数の
3分の1を超えず、かつ、4名を超えることができない。したがっ
て、保険相互会社の取締役会は社員が選出する取締役と従業員が選出
する取締役によって構成されることになる。従業員選出の取締役の選
出方法は、営利会社に関する法律の規定(1966年の法律第97−2条以
下)にしたがう(保険法典L.322−26−2条第2項)。
定款は遅滞なく拠出金を支払っている社員の取締役会への選出を何
らかの条件のもとに制限することができない(保険法典L.322−26−2
条第3項)。これは、いわゆる拠出額による被選任資格(もっとも多
額の拠出金を支払った社員だけが取締役に選任される)は禁止される
27)
という趣旨である。したがって、拠出済のすべての社員が取締役に選
任されうるし、かかる禁止規定に違反する選任は無効となる(保険法
典L322−26条第4項)。しかしながら、かかる無効は、違法に選任
された取締役が参加した決議の無効をもたらさない(保険法典L.
322−26条第4項)。
1989年12月31日法施行後1年を経過した1991年7月1日から、
社員が社貞総会または社員総会会員選挙への参加を最低拠出金にした
がわしめる定款の規定は無効とされることとなった(保険法典L.
322−26−2−1条)。したがって、かかる定款は、期間内に新規定と調和
させるべく変更が余儀なくされた。
3−3.国有保険会社の活性化
現在、フランスにはUAP(Union des Assurances de Paris)、
AGF(Assurances G昌n昌rales de France)、GAN(Groupe des
Assurances Nationales)という三つの国有保険企業グループが存在
−181−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
28)
する。さて、フランスでは1946年4月25日の法律第46−835号に
よって、二つの相互会社を含む34の保険会社が国有化された。その
後、1968年に統合がなされ、上記三つのグループとMGF
(MutuellesG昌n昌ralesFran9alSeS)という保険企業グループが誕生
した。そして、1973年1月4日の法律第78−3号によってMGFを除
く上記グループ会社の株式保有を目的とする持株会社である保険中央
会社(Societe centrales d’assurance)が設立された。この法律に
よって、国有保険株式会社の株式100%を国が保有するという状況が
改められた。ちなみに、1989年改正前の保険法典L322−13条によれ
ば、中央会社とは、資本金が国に所属する株式会社をいう。ただし、
当該資本金の最高4分の1を限度として、この会社の株式をL.
322−22条所定の条件で分配または譲渡することができる。保険法典
L.322−22条によれば、株主となりうる者は、国有保険会社の従業
員、国有保険会社の総代理店、預金供託金庫、年金・共済機関であ
る。もっとも、かかる譲渡先の制限があるため、多くの民間資本はこ
れに参加できなかった。
その後、民営化の波が押し寄せ、1986年8月6日の法律第86−912
号は、政府(保守のシラク内閣)が国有部門の民営化施策をとること
を認めた。とりわけ、同法第4条は、「本法付属のリストに掲げる企
業につき国が直接または間接に保有する過半数持分の所有権は、遅く
とも1991年3月1日までに国有部門から民営部門に譲渡される。か
かる譲渡は、第5条にいうオルドナンスが定めるルールにしたがっ
て、、政府がこれを行う」と規定した。しかし、民営化に関する規定は
MGF社だけに適用できたにすぎず、他の国有企業グループ(UAP
社、AGF社、GAN社)には適用されなかった。その理由は、①経
済状況として1987年10月の証券不況が保険中央会社の株式の売却を
−182−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
妨げたということ、②政治状況として、1988年に新たに選ばれた国
家元首(ミッテラン大統領一社会党内閣)が現状を凍結する(民営化
もしないし、新たな国有化もしない)方針を明らかにしたことにあ
る。
1989年12月31日法第35条によって改正された保険法典L.
322−13条は、「中央会社とは国が直接または間接に資本金の4分の
3以上を保有する株式会社をいう」と規定して、それまでの25%と
いう枠を存続させつつも、その内訳を撤廃したため、かかる枠内にお
いて民間資本の参加を可能とした。
1992年7月16日法第1条によって改正された保険法典L.322−13
条は、「保険中央会社は、前掲1946年4月25日の法律第46−835号
および前掲1973年1月4日の法律第73−8号に定める公共部門
(secteur publiC)に属する株式会社とする」と規定して、上記25%
枠も撒廃したが、新たに「公共部門に属する」という制限を付した。
そこで、かかる文言の解釈が問題となるが、「公共部門に属する」以
上は、国が、直接または間接に(すなわち、中央会社の株式を保有す
る会社に資本参加することによって)それらの会社の株式の50%以
29)
上を保有することになると解される。したがって、これまで以上にフ
ランスまたは他の諸国の民間資本の参加の受入れが可能となった。な
お、1992年7月16日法第2条によって改正された現行保険法典L.
322−5条によって、資本を中央会社が排他的に保有している国有会社
は営利会社の地位を有するものとされた。
ちなみに、最近、フランス政府は、同国の主な国有企業、銀行、保
険会社に関する大規模な民営化法案を発表した。対象となる企業は
21社であるが、そのうち保険企業が5社(UAP社、AGF社、GAN
社、再保険中央金庫、国立共済金庫)含まれている。法案は、国営企
−183−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
業の株式売却によって1993年末までに400億フランの収入の実現を
30)
目的としているようである。間もなく成立すると見込まれる、この
法案の行方が注目されるところである。
3−4.公施設法人の開放
フランス独特の制度として、国立共済金庫(Caisse Nationale de
Pr昌voyance−C.N.P.)がある。1850年に国立退職年金金庫(Caisse
nationale des retraites)が創設され、1868年に国立死亡共済金庫
(Caisse Nationale en cas de deces)と国立災害共済金庫(Caisse
31)
Nationale en cas d’accidents)が設立された。これらは当初、社会
保障の代替機能を果たしていた。しかし、社会保障制度の実現をみた
後、これらの制度は存在意義を失った。1946年の国有化法によって
国有保険会社との合併の決定がなされたが、実施されることなく、
1949年に国立退職年金金庫と国立死亡共済金庫の合併が行われた
後、1959年になり、これと国立災害共済金庫が合併して国立共済金
庫が誕生した。したがって、この金庫は、生命保険およびこれを補完
する保険、後遺障害保険、災害保険等の事業を行う。この金庫の法的
性質は、独立採算制をとり、法人格が付与された商工業的性格を有す
る国立の公施設法人(etablissement public)である。そして、その
管理は預金供託金庫(Caisse des depots et consignations)によっ
てなされる。
ところで、公施設法人という形態は外国人にはよく理解されないの
32)
で、国際競争においはハンデを背負うことになる。そこで、1992年
7月16日法第3条は、「国立共済金庫と称する商工業的性格を有す
る公施設法人は、保険法典に服し、かつ、公共部門に属し、その目的
で設立される株式会社に対し、その活動に付随する一切の権利、財産
−184−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
および義務を譲渡する」と規定して、組織変更が行われることとなっ
た。そのプロセスは次のとおりである。まず、公共部門に属する(す
なわち、国が資本金の50%以上を直接または間接に保有する)株式
会社が設立される。ついで、公施設法人は、かかる株式会社に対し
て、その活動に付随する一切の権利、財産および義務を譲渡する。そ
して、それが実現した日に公施設法人が消滅する。
さて、この場合の国立共済金庫に対しては、(彰その活動領域はどう
なるのか、②これまで同金庫に認められてきた郵便局や貯蓄金庫と
いった公共機関による販売ネットワーク利用権(保険法典R.433−10
条参照)を譲るのか、それとも競争を理由に依然として販売を続ける
のか、③預金供託金庫、郵便局、貯蓄金庫が考えられるが、その資本
は誰に帰属し、その金額はどうなるのか、④郵便局はその商品販売を
とおして準独占的地位を保持するのか、といった点につき疑問が提起
33)
されている。郵便局を通じた国立共済金庫の商品の独占販売権につ
いては、立法過程において、下院の報告者が、同金庫が今後も独占的
に郵便局の販路を利用することは考えられないと述べており、他方、
郵便局の新たな契約規定書(cahier des charges)にも、国立共済金
庫の商品販売はもちろん、生損保を問わず、他の保険者の商品販売も
34)
同様に行えることがうたってある。国立共済金庫の商品販売者であ
る国(郵便局)の市場を下回る報酬率(約2%)の低さとも絡み、公
正な競争との関係で今後の動向が注目されるところである。
再保険中央金庫(Caisse Centrale de Reassurance)も、国立共
済金庫と同様、法的性質は、独立採算制をとり、法人格が付与された
商工業的性格を有する国立の公施設法人である。国の代表者15名の
メンバーからなる取締役会がこれを管理する。同金庫は、政府の保証
のもとで、特別なリスク(自然大災害、宇宙リスクおよび原子力リス
−185−
フランスにおける保険事業関係法改正の動向
ク)につき再保険事業を行うとともに、自己の計算において国の保証
なしに一般再保険事業を行う。同金庫は、国の保証なしに再保険事業
一般の活動を増加させたいと考えており、そのため公施設法人として
の束縛から逃れさせる目的で、1992年7月16日法は、上記国立共済
35)
金庫と同様の組織変更規定を設けた。すなわち、公共部門に属し、か
つ、その目的で設立された株式会社に一切の権利、財産および義務を
譲渡し、それが完了した日に公施設法人が消滅する。この場合も、国
立共済金庫の場合と同様、株主の構成がどうなるのかが注目されると
ころである。
注24)Bigot,部ゆ和nOte(9),nO79.
25)肋軋 nO80.
26)ル祓
27)乃祓,nO82.
28)以下の叙述につき、VOir Bigot et autres,S2ゆ和nOte(8),nOS127et s.
29)J.Bigot,Laloidul6juillet1992surl’assurance,J.C.Il1992.1.3622,nO3.
30)』御11jujn1993,p.27∴
31)以下の叙述につき、VOir Bigot et autres,(砂.cit.,nO8449et s.
32)Bigot,SWra note(29),nO4,
33)乃祓
34)乃材.
35)乃idリ nO5.
4.むすぴにかえて
以上、雑駁ではあるが、フランス保険事業関係法に関する最近の改
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フランスにおける保険事業関係法改正の動向
正動向を素描した。とくに1989年12月31日法、1992年7月16日
法ならびにこれらを補完するデクレによって、フランス保険事業関係
法は大胆に改革された。保険関係書類の事前認可制度の廃止および監
督官庁の審査手続きの簡素化によって、保険商品の開発・販売に対す
る規制を緩和した。そして、保険消費者の保護をはかるべく、きわめ
て強力な権限を有する保険監督委員会を設置して保険企業の財政面で
の監督を強化した。また、全国保険審議会の機構改革を行い、その活
性化をはかった。保険募集については、利用者保護の見地から保険ブ
ローカーの賠償資力を確保する手段を法定している。他方、保険経理
の透明化を目的として、保険会社にも連結財務諸表の作成・公表を義
務づけた。生命保険会社またはカピタリザシオン会社の企業会計につ
いても、資産の部における投資全体の帳簿価格とキャピタル・ゲイン
とを記載した財務諸表付属明細書の作成を義務づけて透明化を促進し
た。保険相互会社については、複数の相互性を有する保険企業の名称
を統合し、関連法規の現代化・簡素化を実現するとともに、従業員選
出の取締役に関する規定を設け、拠出額による取締役被選任資格・社
員総会参加資格を定める定款規定を禁止することによって、これを民
主化した。さらに、国有保険会社およびフランス独特の制度である公
施設法人については民営化を促進している。
以上については、必ずしも十分整理された紹介・分析とはなってお
らず、また、重要なポイントも見過ごしているかもしれないが、それ
でもなお、わが国の保険業法改正作業におけるささやかな資料となれ
ば幸いである。
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