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臓器移植制度に関する社会的認識と課題

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臓器移植制度に関する社会的認識と課題
政治・政策ダイアローグ(2004.1.)
臓器移植制度に関する社会的認識と課題
外川ゆり子(尾竹橋看護学院・教務主任)
政治学専攻 2003 年 3 月修了
ても、適応となるドナーが現れず、臓器移植待機
はじめに
中に死に至るものも少なくはない。
1997 年、長い道のりを経て「臓器移植に関する
法律」が施行された。移植が日本で進まないのは
ドナー不足をなくするには、臓器移植に必要な
脳死等の臓器移植に関する法律がないからである
高額な医療費を国が補助する保険制度と意思表
という議論が強く叫ばれ、臓器移植法が成立した
示カードの見直し及び移植ネットワーク登録制度
のである。しかし、臓器移植法は施行されたが、現
の再考が必要と思われる。
在の臓器移植の状況では脳死及び死体からの臓
今後日本における臓器移植の提供者(ドナー)
器移植の医療が日本の社会に受け入れられてい
を増やす為の政策活動方針として、「社会一般に
るとは言いがたいものがある。
臓器移植に関する認識が普及されてない」というこ
臓器移植が日本に定着するには、ただ単に法
ともあげたが、それと同時に日本の臓器移植にお
律をつくればいいというものではなく、法律の規定
ける教育のあり方を考えて行かなければならない
されている規制や手続き、あるいは医療関係者や
問題である。以上のような問題を考察することによ
患者を含めた国民の認識、コーディネーターとし
り、本論文は、臓器移植を増やすための環境整備
ての役割さらに、ドナーやレシピエントそして、その
としての政策を検討したものである。
家族の精神的サポートなど、様々な要因が絡み合
1.臓器移植の現状
い移植という社会的な行為が完成するのである。
(1)臓器移植とは
本論文の構成はこのような考え方に基づいて、
以下の通り移植をとりまく要因を考察した。文中で
臓器が機能不全に陥り、もはや回復不可能とな
は、旧臓器移植法から臓器移植法まで臓器移植
った場合、通常われわれは死を覚悟しなければな
法制定に至った経緯と現在行っている心臓、腎臓、
らない。近代医学は、それらの臓器の機能を自己
肝臓移植の現況、さらに臓器移植が進まない要因
以外のもので代用することにより、生命を維持させ、
として、臓器移植するための移植費用が高額であ
健康を取り戻すことを可能にさせたのである。いう
り、それに対する医療保険の体制や移植ネットワ
までもなく、その手段としては人工臓器があり、臓
ークシステム、臓器提供意思表示カード制度の普
器移植がある。人工臓器の代表として、人工心臓
及の遅れ等があげられる。以上を踏まえ、臓器移
や人工腎臓があることはよく知られている。しかし、
植に関する社会の認識レベルを医療者からの調
それらは急性の臓器不全を乗り切り、自己の臓器
査報告、さらに総理府の世論調査報告をもとに追
が回復するまでの代用として短期間用いるには優
及を行った。
れているといえるのではあるが、現在のところ健常
日本では移植提供者が現れず、いまだに海外
の臓器を完全に代用するまでには至っていない。
で移植する人たちが年々増え続けているのが現
すなわち、生命を全うするための半永久的な使用
状である。とはいえ、海外での臓器移植には問題
という面においての人工臓器は多くの問題を抱え
が多い。海外で移植するには高額な医療費が必
ている。だが、いかに医療が進歩して、移植した臓
要とされ、個人資金では賄えず募金や移植ネット
器を安定した状態で生着させることができたとして
ワークでの資金にたよらざるをえない状況にある。
も、臓器を提供するドナーが現れなければ、臓器
それには限界がある。また海外移植に望んだとし
移植の発展はあり得ない。欧米において臓器移植
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臓器移植制度に関する社会的認識と課題(外川)
が今日のような興隆を見るに至ったもう一つの理
これらの事実から、「臓器提供とは」を考えてみ
由として、1985 年 10 月 30 日にローマ法王庁の科
ると、これも正しく「個人の権利」に外ならないので
学アカデミーが、脳死を人の死と認める見解を発
ある。そうである限り、何人もこれを侵すことができ
表したことがあげられる。一方では人の死によって
ないことは当然と言えるのではないだろうか。
成り立つ臓器移植は、正に生命倫理の根幹を問う
(2)移植医療とは
ものである。とくに、ヨーロッパにおいては生命倫
移植医療とは、臓器もしくは組織が悪くなり再生
理は宗教的倫理観と一致するところが多く、最近
不可能の状態になり、移植でしかなおすことができ
のヒトのクローン生命、生殖医療における争点にお
なくなった時に行う医療を移植医療という。
現在行われている移植医療には、大きく分けて
いても、欧州各国では宗教的倫理観に基づき、そ
臓器と組織の移植が行われている。
れらの研究を禁止、あるいは制限している。
臓器の提供は、生きている家族から、そして亡く
しかし、移植が倫理的に正当であるとしても、そ
なった方から移植するという二つの方法がある。
れは個人の自由を制限するものではなく、当然の
ことながら、臓器提供を拒否する権利は認められる。
臓器の提供は心停止後にできるものとして腎臓
同じ地域に住み、同程度の教育を受け、同じ宗教
等があるが、脳死でしか提供できない臓器がある。
をもっていながら、臓器提供を承諾するもの、拒否
それは心臓、肝臓、肺、膵臓、小腸などであり、心
するものがいることは、1999 年 6 月にオスローで開
臓以外は心停止後でもできないことではないが、
催された第9回ヨーロッパ移植学会でも報告された。
いまの医療ではかなりむずかしいといわれている。
臓器提供をしないことは「個人の権利」でもある。
腎臓は、現在心停止後に行われているのが多く、
心停止後といっても事前に処置が必要なのであ
日本の臓器移植を考えてみると、1968 年での札
る。
幌医大和田心臓移植は有名であるが、実際は、死
体肝移植はそれより 4 年前の 1964 年に千葉大学
このように臓器や組織の提供は、物質的には全
(中山恒明)で行われ、死体腎移植は 1965 年に四
く見返りのない善意に基づいた行為として行われ
方統男により開始された。同じ 1965 年には日本移
ているのが現状である。
植学会が設立され、それ以降、さまざまな討議が
また、提供する・しないは誰からも強制されるの
なされてきたことは日本の移植史に示すごとくであ
でなく、自己の選択によって決定されなければなら
る。このような、33 年間にわたる多くの討論の総括
ない。ある人が提供者となることを希望し、移植を
として、1997 年に「臓器の移植に関する法律(平成
必要とする患者が移植を受けることを希望すること
9 年法律第 104 号)」が成立したといえる。
から移植医療は始まるのである。
提供者という第三者が存在しないことにはこの
周知のごとく 1999 年 2 月から 6 月にかけて、法
移植医療は成り立たない医療である。
施行後始めての脳死者からの臓器提供が行われ
た。しかし、実はその直前に大事な出来事があっ
希望すれば提供者なることで、全ての人がかか
たことを覚えておきたいと思う。それは、三沢基地
わることができることから、移植医療は社会的医療
の米軍の家族で、16 歳になる娘が事故に合い脳
といえるであろう。
死となったことである。家族は日本での全臓器の
提供を希望したのであるが、本人が意思表示カー
2.日本の臓器移植法制定に至るまでの経緯
ドをもっていなかったことから、脳死による提供は
(1)移植法律制定に至るまでの経緯
法的に不可能とされた。それでも、家族は諦めき
1989 年 12 月の国会(衆議院)は、臨時脳死及
れずに、彼女を飛行機でハワイまで運び、そこで
び臓器移植調査会(脳死臨調)設置法を二年間の
臓器を提供したのである。この家族の場合は、多
時限立法として成立させた。この法律の制定に伴
大な精神的苦痛を受けながらも、故人の意志を生
い、翌 1990 年 2 月総理府内に医学者、法律学者、
かすために臓器提供を貫き通した。それに影響を
文化人らによる 15 人の委員と 5 人の参与で構成さ
受けて、多くの人々が意思表示カードを持つように
れる同調査会が設置され、首相の諮問に応じるこ
なったことはマスコミの調査から明らかである。
ととなった。その諮問内容は、(1)脳死は人の死か、
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政治・政策ダイアローグ(2004.1.)
(2)脳死体からの臓器移植はどのような条件のもと
め、移植医療の適正な実施をする必要がある」。こ
に認められるのか、の二点を課題に総合的に検討
の理由書の主旨にしたがって作成された法案の内
することであった。その後、脳死臨調は 1991 年 6
容は、ほぼ脳死臨調の多数意見に沿ったものであ
月に脳死移植容認の中問発表を行い、その 7 カ月
るが、死の定義が明確に示されていないこと、また
後の 1992 年 1 月に審議結果を最終答申として首
死体からの移植を前提とした規定のみで、生体か
相に提出した。2 年間で 33 回の審議を経て検討さ
らの移植については全く触れられていないなど、
れた答申内容は、22 人の委員が脳死は人の死と
移植医療に欠くことのできない重要な問題を包摂
した上で臓器移植を認めるという多数意見を構成
していない点で問題の残る法案といえる。この「森
し、2 名の委員と2名の参与による少数意見は、脳
井案」に対しては、名古屋市や仙台市で公聴会を
死は人の死と認めないが臓器移植は認めるという
開催するなど、2年半にわたって審議が行われた
ものであった。
が、1996 年 9 月 27 日に衆議院の解散に伴い廃案
となった。
1992 年12 月、衆参両議院の厚生委員会のメン
バー(18 人の国会議員)による「脳死及び臓器移
その 2 カ月半後の 1996 年 12 月 11 日、脳死を
植に関する各党協議会」が設置され、1 年後の 12
人の死とする立場から「臓器の移植に関する法律
月に「臓器移植法案の要綱案」が各党に提出され
案(中山案)」が中山太郎衆議院議員外 13名の衆
た。この一連の動きに対し、移植法案提出は時期
議院議員により・総選挙後の第 139回臨時国会に
尚早として反対を表明する連立与党の衆参両議
提出された。これは先に廃案となった森井案と同
員(71 人)が、各党協議会に緊急意見書を提出し
一内容のものであったが、厚生委員会での実質審
た。また日本弁護士連合会の会長も、脳死を人の
議は翌 1997 年の3月 18 日から6回行われ、4 月
死とする社会的合意はまだ成立していないという
18 日に終了している。この間に脳死を人の死とし
見解を述べるなど、臓器移植法の制定には多くの
ないことを前提とする「臓器の移植に関する法律案
ハードルがあった。国民の側においても、臓器移
(金田案)」が衆議院本会議に提出(3 月 31 日)さ
植法制定に対する関心度は必ずしも十分とはいえ
れたため、この両案を同時に採択することとなった。
ない状況であったが、移植を待つ患者の側からは、
この法案の賛否は、死生観が人によって異なると
海外に移植を求めなければならない現状に対する
いうこともあってか、党議拘束のない自由投票で行
不満と同時に、早急に法整備を求める強い意見が
われた。結果は中山案に対して賛成 320 票、反対
あったことも事実であった。
148 票、金田案は少数の支持に終わった。これは
このような背景の中で、1994 年 4 月 12 日「臓器
移植を推進する関係者の強い立法意欲と、国外に
の移植に関する法律案(森井案)」が森井衆議院
出かけて心臓や肝臓の移植手術を受けなければ
議員外 14人により第 129 回国会に提出された。こ
ならないわが国の実情から、患者を見捨てた状態
の「森井案」が議員立法として提出したときの理由
にできないという国側の立場が強くはたらいたと思
書は次のような内容であった。「移植医療の置かれ
われるし、さらに先進諸国がすでに移植関連法を
ている状況等にかんがみ、人道的見地に立って、
持っているか、または立法化を進めていることなど、
臓器の移植が臓器提供の意思を生かしつつ移植
これらの諸事情等が作用して異例の速さで可決さ
術を必要とする者に対して適切に行われるように
れた(1997 年4月 24 日)ものと思われる。
するため、臓器の移植について、本人の臓器提供
そして同日、参議院に送付され成立に向けて審
に関する生前の意思の尊重、移植機会の公平性
議が開始された。これに先立ち参議院でも脳死を
の確保等の基本的理念を定め、並びに国、地方
人の死としない立場から「臓器の移植に関する法
公共団体及び医師の責務を明らかにするとともに、
律案(猪熊案)」が 1997 年 4 月 18 日に提出されて
臓器の範囲、脳死体を含む死体からの臓器の摘
いる。その間に大阪や新潟で地方公聴会および
出、臓器の移植に関する記録の作成、保存及び
中央公聴会を開催したが、いまひとつ国民の関心
閲覧、臓器売買等の禁止、臓器あっせん機関に
が高まらない状況の中で、この法律案に対する修
対する規制及び監督等について必要な事項を定
正案(関根参議院議員外 5 名)が参議院臓器の移
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臓器移植制度に関する社会的認識と課題(外川)
植に関する特別委員会に提出された。この(関根
けていたこと、特に心臓移植に関する不安感・不
案)修正要求は、脳死体から臓器の摘出が行われ
信感と、長期にわたる脳死論議に終止符をうった。
る場合に、ドナー本人が書面による意思表示をし
この法律では、脳死をすべての死の基準とはせ
ていることに加えて、告知を受けたドナーの遺族
ずに、「死体」の定義の中に「脳死した者の身体を
(家族)による臓器摘出拒否の不存在を要件とする
含む」と規定し(第16条1項)、この脳死した者の身
点、また臓器提供者の尊厳と家族の感情に配慮し
体とは「その身体から移植術に使用されるための
て「脳死体」という表記を「脳死した者の身体」と改
臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む
める点などを内容とした。
全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判
これらの諸点を修正した「修正中山案」は 1997
定されたものの身体」(第6条2項)とした。さらに脳
年 6 月 17 日の参議院本会議で賛成 181 票、反対
死の「判定」を行う根拠は、ドナーが臓器を移植術
62 票、猪熊案賛成は少数であり、結局、修正中山
に使用されることを承諾したうえで、提供する意思
案が可決。同日中に衆議院本会議でも採択され
が書面に表示、そしてドナーに家族がいる場合に
賛成 323 票、反対 114 票で可決し成立した。そし
は当該脳死判定を拒まないこと(第6条3項)を条
て同年 7 月 16 日に公布され、3 カ月後の 10 月 16
件とした。さらに旧移植法との関連で附則第4条は、
日より施行されるに至った。
経過措置として角膜・腎臓についての臓器提供の
(2)臓器移植法の概要
承諾は、「死亡した者が眼球および腎臓の摘出に
「臓器の移植に関する法律」(以下「臓器移植
ついて特に何も意思表示をしていない場合には、
法」という)は全 25 条、附則 12 条から構成されてい
遺族の書面による承諾があれば臓器の摘出がで
る(本編末尾の資料参照)。この法律は、1980 年 3
きる」(旧移植法第3条第3項)という規定を適用で
月 18 日施行の「角膜及び腎臓の移植に関する法
きることに至った。角膜および腎臓については、ド
律」(以下「旧移植法」という)の改正法として制定さ
ナーが特別に反対の意思表示がない限り、遺族
れたもので、第 1 条の目的に規定されているように、
の書面による承諾だけで摘出できる。
「死体」からの臓器摘出を法的に認めるとし、この
最後に、臓器移植法と命令(政令、省令)や通
点では旧移植法と共通しているが、新たに臓器売
達・通知(ガイドライン)との関係である。日本国憲
買を禁止し処罰するという規定を設けた。そして第
法第73条第6号は、法律を実施するため内閣に
2 条では、臓器提供の意思がドナー自身の任意
政令(たとえば「臓器移植法附則第2条第1項の法
(自己決定)によるもので、人道的精神によるもの
律を定める政令」)の制定を認めている。これにより
でなければならないとし、さらにレシピエントに公平
行政機関(たとえば「厚生省」)は、法律(臓器移植
かつ適切にその機会が与えられなければならない
法)を執行するために手続的、専門的、技術的事
と規定し、旧移植法になかった基本理念が示され
項に対して必要に応じて執行命令や委任命令と
ている。第 3 条では、移植医療について国および
いう省令(「厚生省令」や「臓器移植法施行規則」)
自治体が、国民に理解を深める努力をする責務と、
を制定することができる。さらに国家行政組織法第
第 4 条で、医師がレシピエントとその家族へのイン
14条第2項によると、各大臣、各委員会、各庁の
フォームド.コンセントの責務があることを、明確に
長官は、所轄の諸機関および職員に対し訓令また
規定したことも旧移植法になかった点である。さら
は通達を発することができるとある。この行政庁の
に移植法の新しい特徴は、第 6 条を中心として移
長官(厚生省保健医療局長)からの通達・通知
植臓器の範囲の拡大とドナーの任意的な選択のも
(「臓器移植法の運用に関する指針」ガイドライン)
とに、脳死患者から心臓などの摘出を可能とする
は、具体的現場に最も近いところでの法解釈およ
規定を設けたことである。
びその運用であり、具体的妥当性や法的安定性を
具現するためのルールそのものである。したがっ
以上、脳死体からの臓器摘出を可能とすること
を法律により明確化したのは、昭和 43(1968) 年
て臓器移植法を運用するための具体的な内容は、
夏の和田札幌医大教授によるわが国最初の心臓
この省令や通達.通知により行われることになる。
脳死判定についての省令すなわち臓器移植法
移植以来、国民が移植医療に不信感をもちつづ
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政治・政策ダイアローグ(2004.1.)
施行規則は、その第2条で、①脳の器質的障害に
ドナーの臓器提供意思を問う方法には3つある
より深昏睡及び自発呼吸を消失した状態と認めら
といわれている。一つは「反対意思表示方式」であ
れ、②かつ器質的脳障害の原因となる疾患が確
り、2つ目は「承諾意思表示方式」である。前者は、
実に診断されているもとで原疾患の回復の可能性
ドナー自身が、生前に臓器提供に反対の意思表
がないことが条件である。しかしこの脳死判定は、
示をしていなければ摘出できるというもので、後者
あくまでも臓器移植の目的のために行われる判定
は、臓器摘出にはドナー自身と遺族の承諾がなけ
基準であり、臓器移植法の運用に関する指針(ガ
ればならないというものである。3つ目はその中間
イドライン)第5の規定によると、臓器移植にかかわ
的なもので「通知方式」といい、ドナー自身が臓器
らない一般の脳死判定に関しては、従来通り救急
提供に反対の意思表示をしていない場合に、その
医療現場で行われている、治療方針決定の際と同
遺族に通知し反対がなければ摘出できるというも
様の取り扱いでいいとしている。また同ガイドライン
のである。
第1の規定によると、臓器提供にかかわる意思表
日本では、旧移植法の時代には「腎臓提供者カ
示の有効性について、書面による意思表示ができ
ード」であり、現在は「臓器提供意思カード」となっ
る年齢を、民法第961条の遺言可能年齢などを参
た。いずれも「承諾意思表示方式」をとっているが、
考に15歳以上とするが、ドナーが知的障害者であ
移植医療を推進する立場からは、「反対意思表示
ることが判明した場合には、当面、移植目的での
方式」が便利ということになる。しかしそれは慣習
脳死判定を見合わせ、今後の検討課題とするとし
的、社会的、宗教的、民族的なものなどに影響さ
ている。さらに同ガイドライン第2の規定によると、
れ、国ごとに意思決定方式が異なり、一概に統一
臓器摘出の承諾について「遺族」の範囲とは、原
することはできない。
則としてドナーの配偶者、子、父母、孫、祖父母、
この意思表示方式が、ドナー本人の意思表示
同居の親族をいい、喪主または祭祀主宰者が遺
に加えて遺族の意思表示を必要とするところに、
族の総意を取りまとめることが適当としている。また
臓器移植法施行後1年以上経過しても、脳死臓器
「家族」の範囲についても遺族に準じて取り扱うと
移植ができない理由がある。これは、法律による厳
している。しかし個々の事案に即して習慣や家族
しい意思表示方式があるからドナーが現れないの
構成に応じて判断するべきであり、上記以外の親
ではなく、脳死が日本人の心情にまだ受け入れら
族から臓器提供に異論が出される場合もあり得る
れていないからである。
日本臓器移植ネットワーク(ネット)の集計による
ので、慎重な判断が必要であるとしている。
と、臓器移植法の施行から 2002 年 4 月までの間で、
(3)臓器移植法の問題点
「臓器の移植に関する法律」の衆参両議院での
全臓器の提供を申し出たケースは全国でわずか
審議過程は、衆議院に法案(中山案)が提出され
13 件と報告された。その中の 2 件は本人が意思表
て4カ月半、しかし実質的に審議が始まったのは
示カードを所持していたが、その1件はカード記載
1997 年3月の通常国会の厚生委員会からであり、
不備があり、さらに臓器提供施設に指定されてい
正味2カ月に満たない日数で衆議院を通過し、参
ない病院での脳死症例であった。もう1件は感染
議院では修正案の提出があったにもかかわらず、
症のため臓器提供が不適切とされた。残り7件は
わずか2カ月足らずの審議という異例ともいうべき
カードを持っていなかった。これでみると日本では、
速さでこの法案(修正中山案)は採決され成立して
脳死体からの臓器移植について、社会的コンセン
いる。はたして十分に審議がつくされたか疑問で
サスはまだ得られていないと見るべきである。法律
あるが、根本的な問題としては、脳死を人の死とみ
の制定よりもまず、移植医療に対する信頼性の回
るか、あるいはドナーの承諾と遺族の承諾との関
復と、ドナーの役割を国民にどのように理解させる
係、そして生体と死体から臓器摘出する場合、承
かが先決問題である。
諾意思の差異など、今後の検討すべき課題は多く
残されているといえる。この中から臓器提供の意思
表示について考えてみることにしたい。
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臓器移植制度に関する社会的認識と課題(外川)
3.日本における臓器移植の現況
体からの肝臓移植では 1 年生存率が 73%、2 年で
(1)腎臓移植
67%、そして 5 年で 62%である。
わが国の、肝臓移植待機者は 2000 年 3 月まで
腎機能が低下することにより、老廃物が体外に
に 31 人が肝臓移植を希望、登録していた。
排泄できず、腎不全という生命維持が困難になっ
また、年間約 2、300 人が肝臓移植の適応であり
てくるため、人工透析と腎移植という 2 つの治療法
ながら死亡していると報告されている。
がある。腎臓移植の場合、心臓死と生体からの移
植も可能である。
3.各国の臓器移植法とその政策
腎移植においては、各大学病院、一般病院等、
(1) スウェーデンの臓器移植
全国各施設において幅広く移植が行われ、腎臓
移植の成績は年々向上しており、いまは特殊な治
スウェーデンの脳死法制定 1)は、人工呼吸器
療法ではなくなっている。だが、日本の腎移植件
によって生命を維持されているものは法律上「死」
数は諸外国に比して、いまだかつて増えてないの
という決定がされた。このスウェーデンの決定は、
が現状である。
いままでは心臓停止を「死」と見なしていたが、国
現在、日本では約 20 万人以上の透析患者がお
会の議決で、脳死をもって「死」ということが決定さ
り、いまだに約 13、000 人の献腎登録者が待機し
れた。脳死のあと、長い時間蘇生器につないで置
ている状態である。
くことは膨大な医療費を使うことは不合理であると
いう意見もあった。
2000 年の 腎臓移植件数では生体腎移植 598
例、献体腎移植 146 例である。実施施設は 119 施
この脳死については、国民の間には戸惑いもあ
設で、2000 年の調査時より 22 施設減少している。
ったが、それほど問題とはなっておらず、また「脳
2001 年の総数である 702 例のレシピエント全体の
死は移植のために早く臓器を摘出する」という受け
平均年齢は 37.4 歳である。
とめかたをしている人も多い。牧師達の間には「臓
(2)心臓移植
器の提供は愛である」という主張も強かった。
(2)臓器移植法制定と適応範囲
わが国では、「心臓移植に関する法律」施行に
より、心臓移植が実施されることになった。法が施
スウェーデンでは、1996 年 7 月 1 日から新たに
行される以前は、外国で心臓移植を行っていた。
臓器移植法「移植に関する法律」2)が施行された。
移植希望するも、日本国内では、ドナーが少なく、
旧臓器移植法に比し、臓器移植法の適応範囲が
移植できず、海外で移植せざるを得なかった。そ
拡大されたことであった。それは、人の死体からの
のため、海外に渡航し移植するものが多くみられる
臓器、細胞組織の摘出採取の可能性が拡大され、
ようになった。しかし、海外での移植も容易ではな
中絶胎児からの臓器、細胞組織の摘出採取が法
く、外国での移植には限界があり、海外待機中死
的に可能になった。
亡する者も少なくない。調査によると、待機中の 1
臓器移植法は臓器移植以外に、研究、教育ま
年生存率は 68%と報告されている。外国で心臓移
たは医薬品製造等の医療ため、適用が認められ
植を行った日本人の移植後の生存率は 1 年が
た。
1975 年の旧「臓器移植法」は、本人が生前に書
95%、3 年 91%、5 年 76%と報告されている。
面に同意した場合、死者またはその近親者が反対
(3)肝臓移植
肝臓を移植は、脳死体からの移植が必要である。
意思を表示し、またはその反対意思を推定しうる
場合以外には、可能であった。しかし、1987 年、臓
摘出後 24 時間以内に移植しなければならない。
全世界では、年間約 6、000 例が行われて、わが
器移植法が改正後、同意要件について、本人の
国を除いて脳死体からの移植が大部分を占めて
生前の書面による同意がない場合は、死者が生前
いる。治療成績は、1 年で 73%、2 年、67%そして
に賛成の意思表示をしていた場合またはその意
5 年の生存率では 62%である。
思に適合する十分な理由が存在する場合に認め
わが国での生体部分移植の生存率は、1 年で
られたが、本人の意思が確認できない場合また、
80%、2 年で 78%そして 5 年で 73%である。脳死
意思不明な場合は近親者 3)の同意によって認め
104
政治・政策ダイアローグ(2004.1.)
られる。
は、地域の協力関係にある移植センター及びその
(3)台湾の臓器移植
他の病院の共同任務とされている。
台湾では、1987 年 6 月 19 日に公布された人体
(これらのことについては、わが国において、国
器官移植条例により、脳死状態のドナーからの臓
及び地方公共団体が普及啓発の主体として法律
器移植が行われている。
上位置付けられているが、臓器あっせん機関にお
いても普及啓発活動を実施しているところであ
国内第 1 回の臓器移植は、条例制定の 1968 年
5 月 27 日台湾大学附属病院で行われたのである。
る。)
全世界で第 37 番目の臓器移植であった。1990 年
4.臓器移植におけるネットワークの役割
までに、全国合わせて 700 例以上の移植が実施さ
臓器移植に関する法律では、脳死後の心臓や
れている。
台湾では移植条例が制定される以前から心臓
肝臓などの臓器の提供に関して、あらかじめ書面
や腎臓そして肝臓移植が行われていた。この移植
により脳死の判定に従うこと及び臓器を提供するこ
条例は確立されてない移植術から患者の生命権
とについての本人の意思表示が必要となることか
を保護する側面もあるが医師の臓器摘出行為を国
ら、心臓や肝臓等の移植においては、意思表示カ
家的に正当化する側面を有している事は歪めない。
ードの普及が極めて重要な課題となっている。
国及び地方公共団体における取組みはもとより、
しかし、台湾で移植条例が施行されたが、死体に
対して特別な感情があり、全屍でなければ来世で
臓器移植ネットワークにおいても、意思表示カード
は、生まれ変われないと信じている。それ故に、腎
の普及に最大限の努力を払うことが求められ、ドナ
臓移植の場合は生体者、いわば近親者からの移
ーとなり得る国民すべてに意思表示カードが浸透
植の提供が多い。
することを目指して計画的に配布するよう努めるこ
とが必要である。
臓器移植に関する条例が立法された理由は、
その普及について、臓器移植ネットワークが、国、
台湾では医療と医政が一体化しており、医師の政
治的発現力が大きく、法学者の意見表明は少ない
地方公共団体、医学関係学会、腎臓バンク、患者
からである。
団体等と密接な連携を図り、あらゆる機会を通じ意
(4) ドイツの臓器移植
思表示カードを配布し、意思表示カードが国民の
ドイツでは臓器移植に関しては特別な立法はな
間に浸透し、定着するよう積極的に活動を展開す
かったのだが、1997 年 12 月 1 日より「臓器の提供、
るべきである。特に、既存の腎臓のドナーカード所
摘出、移植に関する法律」(ドイツ臓器移植法)が
持者や腎臓バンク登録者に対しては、腎臓バンク
施行された。
等を通じて、働きかけを行うことが求められる。
ドイツ臓器移植法は、ひとの臓器(心臓、腎臓、
5.各臓器移植における費用
肝臓他)と臓器の一部、組織の提供や摘出そして
心臓移植では初年度に 900 万∼1200 万円、肝
移植及び、準備について広範囲に適用されてい
臓移植では初年度に 800 万円程度の費用がかか
る。
ドイツ臓器移植法においては、臓器移植に関す
るとされている。合併症が加わる場合には、それに
る普及啓発を行う主体として、州法に基づく所轄
応じて費用が増大するのである。しかし 2 年目から
庁、連邦の所轄庁、特に連邦健康啓蒙(教育)セ
通院検査と免疫抑制剤の費用のみで、年間 100∼
ンター及び疾病金庫を規定している。その疾病金
150 万円程度である。これに対し、人工心臓の場
庫及び管轄庁は、臓器提供の可能性及び要件及
合は、体内に埋め込まれるポンプの部分は 400 万
び臓器移植によって可能となる重病者に対する医
円、さらに体外に置かれるコンソール部分は 2 千
療援助について住民を啓発することを義務づけら
数百万円かかり、合計約 3000 万円を必要とされる。
れている。また、その他の民間保険会社にも普及
また、人工肝臓では現在肝機能を完全に代行する
啓発の義務が課せられている。
ものは存在しないが、部分的に補助する血漿交換
および血漿濾過を連日行った場合には、1 ヶ月 990
臓器の摘出並びに摘出・斡旋及び移植の準備
105
臓器移植制度に関する社会的認識と課題(外川)
て解消しておく、そして、その後の法律の適正な運
万円の経費が必要とされる。
この人工臓器による治療は生命を一時的に維
用を担保しておく、こうした事が国会に課せられた
持するのを目的としている為、中断することはでき
重要な使命だと思う。また、具体的な点として、移
ないのである。また、この治療によって患者が完全
植医療が、国民の間に受け入れられていく為には、
に回復することはない。
移植を受ける機会の公平性の確保が何よりも大切
である。その為には、公正で中立な臓器移植ネット
このように、人工臓器は高額な医療費がかかり、
ワークの構築が不可欠である。
患者の QOL はかなり悪く、患者の救命は不可能
移植を待つ患者の間で、どのような基準で優先
である。
現在、海外で心臓、肝臓の移植を受ける場合は、
順位を付けていくのかという点は、今後、必ず議論
医療費の他、待機期間の滞在費、付き添いの生
になると思う。そして、移植を受ける場合の健康保
活費等 2000 万円という費用が必要となるのである。
険の適用という問題も切実であり、お金がないと受
待機期間が長くなればなるほど費用がかかること
けられないというのでは、何の為の法律か、という
になる。これでは個人の経費では賄う事ができず、
ことになりかねない。
多くの移植者は募金活動などの支援を受け、移植
また、日本人はこれまで外国に行って移植を受
を行っているのが現状である。腎移植と透析との
けてきたが、今後、日本国内だけでなく、アジア全
医療費を比較してみた。
体のネットワークも考えていく必要がある。」1)この
中山氏の意見に対し、私も同意見である。アジア
表1
だけでなくいまの日本の臓器移植の現状では、今
腎臓移
移植後
240万円
年間
後、全世界とのネットワークが必要である。世界と
植の場
1ヶ月
(手術代含む)
約 555 万円
のネットワークを行うことにより、不正な臓器売買等
合
2ヶ月目
85万円
3~12 ヶ月
23万円
がなくなるであろう。
2 年目以
10∼15 万円/
年 間 120 ∼
降
月
180 万円
52万円/月
年間
外来透析の場合
平成 12 年12月 5 日総理府による臓器移植に関
する世論調査では次のように政府に対して要望が
あった。
「移植を受けた患者の費用負担の軽減」を挙げ
約 600 万円
た者の割合が 60.4%と最も高く、以下「臓器移植
に関する個人のプライバシーの保護」(46.4%)、
表で解かるように移植でその人の生活が保障さ
「臓器移植に関する医療技術の向上」(44.8%)、
れる事があきらかである。
「臓器の移植ができる施設の拡充」(36.4%)、そし
て「臓器のできる施設の拡充」(36.2%)などの順に
おわりに
なっている。(複数回答)
1999 年に再開された脳死体からの臓器移植も、
現状で移植待機している患者の数を考えると十分
医療者の臓器移植に関する調査と総理府が行
な臓器提供が見込まれるとは言いがたいものがあ
った「臓器移植に関する世論調査」と異なる点は、
る。
医療者と一般人との臓器移植に関する教育の違
いである。
当時、臓器移植法案の審議に関わった衆議議
今回の総理府と医療者対象とした調査では 30
員である中山太郎氏は、今後の臓器移植におい
∼40 歳代が、臓器移植に賛成であり、特に女性が
ての課題として、次のように述べていた。
「審議の過程では、脳死は人の死であるという社
移植に関心を持っていることがこの調査で解った。
会的合意はあるのか、という点に議論が集中した。
また、脳死を人の死と考えている人はここ数年
一方で、法成立後の問題点については、必ずしも
50%を大きく上回り、60%に達しようとしている。こ
議論が十分ではなかったと思う。法律が成立すれ
れは国民的コンセンサツが得られつつあるといえ
ば、それを執行し、運用するのが政府である。
る。
臓器移植法では、本人の意思表示が義務づけ
立法府において、考える問題点、疑問点はすべ
106
政治・政策ダイアローグ(2004.1.)
られ、意思表示のできる年齢は 15 歳以上 2)と定
前は 73%が寝たきりで 24%が心不全の為日常生
めているが、この為に子供の臓器移植は難しく子
活に支障があったが、98%の人が移植後、通常の
供の臓器移植の道は閉ざされているのに等しい。
生活を送ることが可能になった。すなわち、心臓移
だが、総理府の調査によると、日本での子供の臓
植後の QOL は活動力が高く健康であるという意識
器移植を受けられるようにすべきだという意見が
度は一般健康人とほどんと変わらない。これは海
67.9%にものぼっている。臓器移植法の定める本
外で移植した日本人にも同様のことがいえる。
人の意思表示も重要ではあるが、15 歳未満の者
今後、さらに必要とされるであろう臓器移植に対
からの臓器移植は特例措置を施すことが妥当であ
し、いかにして臓器提供者(ドナー)が協力できる
る。
環境を作り出すことができるか、そこにおいて行政
はどのような役割を担うべきなのか、それをどのよう
したがって、今後、臓器移植を行っていくための
な政策として実現するのか、といった問題を本稿
課題を以下に提案した。
では検討してきたが、これらの問題は現在の臓器
まず、第一にドナー及びレシピエントとその家族
移植をめぐる最大の課題であると考える。
のプライバシーの保護が不可欠である。第二には
医療保険の適用拡大として、移植を受ける患者の
費用負担を軽減する為の政策が必要であろう。第
注
三としてドナーカードの普及と臓器提供者の確保、
[1] 水野 肇「スウェーデンの医療を考える」白馬
出版 126 頁
それには世界全体のネットワークシステムが必要
[2] 中山研一「資料に見る脳死・臓器移植問題」
である。さらに今後の検討課題は 15 歳未満の臓器
日本評論社 252 頁∼253 頁
移植を容認するための法改正 3)である。これらの
[3] 近親者とは死者の親族のほか親しい友人ま
課題は多くの国民の理解と信頼によって実現でき
たは隣人まで含まれる。しかし、長い間死者と接
るものと確信する。
触をもっていなかった場合、死者の親族者の範
現在の日本では、臓器移植は非常に先端的で
囲には入らない。
特殊な医療というイメージを持たれているが、世界
[4] 中山太郎 「臓器移植法−適正な移植医療
ではすでに心臓移植が 2 万 8 千例、肝臓移植が 4
を目指して−(法学セミナー9/1997[№513]111
万例以上行われているのが現状である。
頁)
移植関係学会合同委員会では、インフォーム
ド・コンセントの保障が確認されているのだが、しか
[5] 「民法第 961 条(遺言能力)満 15 歳に達した
し、医師と患者とのよりよい関係は移植をする上で
者は、遺言をすることができる。」と定めている
もっとも必要とされる。 移植するには医師の努力
[6] 日本移植者協議会では、(平成 14 年)約 49
のみによって築かれるものではなく、患者側の努
万人分の署名を集め、衆参両議院長宛に請願
力も必要であろう。医療の現場で医師と接する際
書を提出、これは 15 歳未満の子どもから臓器提
には患者は納得のゆくまで十分な説明を要求し、
供を認めるよう同法を改正し、乳幼児への臓器
治療法の選択肢の中から自分で判断し、自発的
移植を可能できるよう訴えた(毎日新聞)。また、
に選択するという主体的な姿勢が求められる。そ
第 34 回日本移植学会総会において、臓器移植
の際、医師と患者の間のギャップを埋め、分かりや
推進連絡会は諸外国と同じように臓器移植がで
すい情報提供、その他の面でサポートするシステ
きるように現法律を改正するよう声明を発表して
ム(コーディネーター、カウンセラー、セカンドオピ
いる。
ニオンなど)が必要であり、またこのシステムは臓
参考文献
器移植を支えていくには不可欠である。
浅野健一『脳死移植報道の迷走』 創出版
心臓移植の世界統計によれば、1988 年以降の
心臓移植後の生存率は移植後 1 年で 82%、3 年
アクシュレ・プロトコール 高橋公太(編) 「臓器提
で 76%である。最新の統計では、移植後 1 年で
供を増やすには:腎移植連絡協議会からの提
92%の人が生存していることが報告された。移植
言」日本医学館 2001.1
107
臓器移植制度に関する社会的認識と課題(外川)
池永 満『患者の権利』九州大学出版社 1994.
10
唄 孝一 『臓器移植と脳死の法的研究』1988 岩
波書店
笠原英彦 『日本の医療行政 その歴史と課題』
1999 慶応義塾大学出版会
加藤英一 『臓器提供施設における諸問題』2001
『社会学年報』掲載論文
岸永三『臓器移植生きる為の選択』 東洋経済新
報社(1993.4.22 出版)
厚生省保健医療局臓器移植法研究会監修『逐条
解説 臓器移植法』 中央法規 1999
『民事紛争をめぐる法的諸問題』白川和雄先生古
稀記念 白川和雄古稀記念編集刊行委員会
(編)信山社出版
坪田一男『移植医療の最新科学 見えてきた可能
性と限界』 東京講談社
トリオジャパン編『これからの移植医療 移植者た
ちからの発言』 はる書房
中山研一『資料に見る 脳死・臓器移植問題』1992
日本評論者社
中山研一『脳死論議のまとめ 慎重論の立場から』
1992 成文堂
日本胸部外科学会臓器移植問題特別委員会編:
心臓移植に要する費用『心臓移植・肺移植―
技術評価と生命倫理に関する総括レポート』
1999
鴇田忠彦『日本の医療経済』1995 東洋経済新報
社
平野 武編『生命をめぐる法、倫理、政策』昇洋書
房 1998
山本孝史『議員立法―日本政治活性化の道』第
一書林 1998 年
ジュリスト『スウェーデン・新臓器移植法』菱木昭八
朗 1996.3.1
pp.59∼61
ジュリスト『臓器移植法の運用と課題』長谷川友紀
1997.10.15 pp.54∼62
ジュリスト『提供意思』宇都木 伸 1997.10.15
pp.46∼52
Homepage 移植ネットワーク:
http://www.medi-net.or.jp/tcnet/indextml/
Homepage ドイツ臓器移植法:
http://www.ho.ne.jp/okajimamic/d110.htm/
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