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地域史料 保存の手引き

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地域史料 保存の手引き
もくじ
はじめに
1
1
史料の取扱い
3
(1) 取扱いの原則
(2) 現状の記録
(3) 史料に接する時の注意点
2
史料の調査
6
(1) 調査の目的
(2) 所在情報の収集
(3) 現地調査
(4) 事後処理
3
史料の収集
(1) 収集にあたっての考え方
(2) 事前調査
(3) 収集の方法
(4) 利用条件の確認
(5) 収集経過等の記録
19
4
史料の整理・保存
23
(1) 整理・保存とは
(2) 整理・保存の原則
(3) 整理・保存作業の内容
5
第一段階
概要目録の作成
第二段階
史料への処置とデータ票の作成
第三段階
装備・排架
第四段階
目録の作成
史料の利用提供と普及
(1) 利用提供
(2) 史料の活用と普及啓発
おわりに
41
38
はじめに
北海道立文書館が発足したのは1985年、それから20年余の歳月が過ぎました。
この間、道の公文書をはじめとして、様々な歴史資料を収集し、整理し、皆様
の利用に供するほか、地域に所在する史料の調査なども行ってきました。
こうした活動を通して、例えば家の建て替え、代替わり、引っ越し、また種々
の団体の合併や解散、事務所移転などを契機に、かなりの地域史料が散逸、消滅
しているのではないか、そんなことが感じられました。
道の情報公開条例では、「道が保有する情報」すなわち公文書を初めとする様
々な記録は、「道民の共有の財産」という考え方を述べています。また、公文書
館法では、公文書等には歴史資料として重要な価値があることを謳い、その保存
についての責務を地方公共団体に負わせています。
公文書だけでなく、個人や私的団体が生みだし、蓄積し、保存してきた文書・
記録類も、地域に関する情報が豊富に盛り込まれており、市町村史・地域史等の
研究にとっての歴史資料として活用されてきたところです。そうしたものも、地
域の共有財産として将来に引き継いでいくのが、現在の私たちの責務であろうと
考えます。
「史料の現地保存」という言葉があります。要するに、歴史資料は、それを生
み出した個人なり団体で保存されるべき、それが叶わない場合は、それぞれの地
域で保存し、活用していこうということです。これは発生した地域で保存されて
こそ、地域の人々にもっとも有効に活用され、成果が還元される、そんな考え方
から言われるようになったのだと思います。
ところで、全般的に見て道内の現状は、歴史資料の取扱いに習熟した職員の配
置が十分ではなく、地域史料の収集・整理をどのような方法で行うべきかわから
ないという市町村が数多くあるのが実態ではないかと思われます。
この「手引き」では、そのような市町村の史料保存を担当される方を念頭に置
き、個人や団体が所蔵する地域史料の調査、収集等を、私たち道立文書館職員が
-1-
約20年の経験の中で、どのようなことに注意し、どのような方法で行っているか
をなるべく具体的に紹介しました。もちろん、予算や人手など様々な制約があり、
道立文書館が理想的な方法で事を処理しているわけではありませんが、この冊子
が多少なりとも参考になれば幸いです。
※
この「手引き」では、地域に所在し、地域の歴史を明らかにする歴
史資料を「地域史料」、個々の歴史資料を「史料」、史料のうち書簡・
日記・帳簿・証文など紙に書き記した書類や記録を特に意識していう
場合は「文書」
、一つの家や団体等が伝えてきた史料の全体を「史料群」
、
と表現しています。
-2-
1 史料の取扱い
史料を手にするときには、最低限守らなければならないルールがあります。過
去の市町村史の編さんの際には、せっかく調査の手が入りながら、むしろそのこ
とで史料の散逸が進んでしまった例が全国各地にありました。また、図書館や郷
土資料館など史料保存施設に収集されても、整理の方法如何では、大切な史料情
報が失われてしまう可能性もあります。せっかく今まで残されてきた史料を、間
違った取扱いにより史料としての価値を減じてしまうことのないよう、調査にし
ろ、整理にしろ、史料を取り扱う際には次のことに十分注意してください。
(1) 取扱いの原則
史料を取り扱う際には、次のような原則に留意すべきとされています。
出所の原則:史料は、出所(家・団体)ごとに、ひとまとまりの群として扱う。
A家に残された史料とB家に残された史料を混ぜないということです。
同じような史料でも、史料は同じ史料群内の他の史料との関連性があるも
のであり、混在させることによってその関連性が失われてしまうことがあ
るからです。
平等の原則:史料群のなかの史料は、すべて平等に扱う。
人手が限られている場合など、取り扱う人が重要だと思われる部分だけ
を大切に保存し、他をないがしろにしがちです。しかし何が重要な史料か
は、利用する人の目的やそのときの研究状況によって異なります。どの家
の史料群も、またその中のどの史料も、優劣つけずに平等に扱ってくださ
い。
原秩序尊重の原則:史料群内のもともとの秩序を大切にする。
同じ家で保存してきた史料でも、例えば地域の共同体での役職を果たす
ために作成した史料と、家の経営のために作成した史料とでは、保存場所
や容器を別にしている場合が多くあります。また、ある事案ごとに、関係
書類を紐でくくったり、袋に一括して入れられている例も多くみかけます。
-3-
このように、史料群のもともとの秩序(史料のまとまりや順序)には、史
料相互の関連性を示す重要な意味が含まれることが多く、史料を整理し、
目録を作成する際の大きな手がかりとなります。
これらの原則に共通しているのは、「まとまりを大切にする」という考え方で
す。一つの史料は、他の史料と何らかの関連性をもつ場合が多く、家や団体のど
のような活動で、いつごろ生み出された史料かを原秩序から判断することができ
たり、個々の史料の情報をつなぎあわせることにより、一つのことがらに関する
情報を最大限引き出すことができるのです。
(2) 現状の記録
史料は人の手を加えれば加えるほど、原秩序からは否応なく遠ざかっていきま
す。調査の際に、破損の著しい史料を保存袋に入れることでかさが増し、別の容
器に移し替えざるを得ないこともあるでしょう。史料保存施設に移管して整理す
れば、保存管理や出納の必要上、原秩序の維持はほぼ不可能です。そこで、秩序
を崩さないのではなく、どのような容器に、どういった順番で保存されていたか
という、「史料の現状記録」を残すことの大切さがさかんに言われるようになり
ました。後述する調査の手法でも、中心は現状記録をいかに行うかということで
すし、整理にしても、現状記録によって得た手がかりをもとに史料を理解したう
えで、目録に反映させようという考え方です。
(3) 史料に接する時の注意点
史料に触れるときは大切にそっと扱ってください。史料の保存には、人の手に
触れられないのが一番なのですが、整理や活用のためには手を触れざるを得ませ
ん。ですから、史料へのダメージを最低限にとどめるために、特に次のことに注
意してください。
〇 冊子をめくるときは、端の方を1枚ずつゆっくりと。指をなめたり、指
サックを使ったりしない。
〇 筆記用具は鉛筆のみ。ボールペンや万年筆は、史料にふれたときにイン
クが染みついてしまう。
-4-
〇 整理や補修でのりを使うときは、素材を確認する。化学のりは紙を変質
させるおそれがあるので使わない。化学のりの付いた付箋も使わない。
セロテープも、粘着部分が変質して史料を傷める。
〇 ホッチキスや虫ピン、クリップなどの金属は、時間が経過すると錆が生
じて文書を傷めるので使わない。これらが文書中に見つかったときは、
取り除く。
たとえ物置の中で埃まみれになっている文書であったとしても、この世に1点
しかないということを肝に銘じて、また文書をさらにこの後も長く残していこう
という気持ちをもって接することが大切です。
-5-
2 史料の調査
(1) 調査の目的
調査を行う最大の目的は、「保存」にあります。歴史資料としての「利用」「活
用」も、史料が確保されてはじめて可能です。特に個人が所蔵する史料の場合、
散逸を防止するために最初に行うべき効果的な手段が調査であり、調査の如何が
その後の「保存」も左右するとさえ言えるでしょう。
調査によって史料の状態と内容を把握し、所蔵者に史料のもつ価値を正しく認
識してもらえば、その後も引き続き大切に保存してもらうことが期待できますし、
散逸や滅失の危機にある史料に、応急の処置を施すこともできます。一概に調査
といっても、地域全体の史料を網羅的に把握するための調査もあれば、研究素材
となる対象を選び出すための調査もあり、また最初から収集を予定しての調査も
あるでしょう。しかし、どのようなケースであっても、所蔵者への協力依頼から
調査の手法、その後のアフターケアも含めて、その史料の今後の「保存」にとっ
て有効と思われる手法を選択し、前述の「まとまりを大切に」した調査を心がけ
ることが大切です。
調査は、おおむね「所在情報の収集」、
「現地調査」
、
「事後処理」の三段階に分
けて行われます。
(2) 所在情報の収集
調査の第一段階は、どこのお宅に、どこの団体に、史料があるかまたはありそ
うかという情報を収集することです。市町村史の編さんを機会に、地域内の史料
情報を集めることは、多くの市町村で行われてきました。しかし、地域史料が最
も失われやすいのは代替わりや家の建て替え、取り壊しや引っ越しのときで、あ
る町では中心部の道路拡張のときに、各家の史料が一斉に失われたといいます。
当館が平成2年から10年あまりをかけて行った「道内私文書発掘調査」の際も、
訪問先のお宅から、
「もう少し早く来てくれれば」
「つい最近、蔵を改築したとき
に捨ててしまった」という声を多く聞きました。市町村史編さんを待っていては
-6-
期を逃しかねませんが、かといって何かの契機でもなければ、地域の史料情報を
一斉に集めるといったことも容易ではないと思います。
そこで、旧家の土蔵が取り壊されるとか、古くからの会社や団体が改組・廃業
したとか、そういった地域の動向に日ごろから注意し、史料の散逸に結びつくよ
うな情報を聞き逃さないという意識が必要になってきます。近年は、地域史料の
動向により細かく目配りするため、地区ごとに協力員を委嘱しているところもあ
るようです。協力員には、地域史料の所在についての情報提供や、調査実施の際
に所蔵者とのつなぎ役を果たしてもらうなど、効果を上げているといいます。今
後、市町村合併などで行政区の一層の広域化が予想される中、地元の情報に詳し
く、また史料への関心をもつ人たちの協力がより重要になってくるでしょう。
(3) 現地調査
次に、現地で行う①趣旨説明、②所蔵者からの聞き取り、③保存状態の記録、
④調査目録の作成、⑤保存処置、⑥所蔵者への事後説明 の5つを順に説明しま
す。なお、事前に市町村史や部落史などで、その家や団体に関する情報を調べて
から現地を訪問しましょう。そのことにより、所蔵者の信頼を得るとともに、所
蔵者の話が理解しやすくなります。
① 趣旨説明
調査を円滑に行うには所蔵者の理解と協力が何よりも必要です。ですから、
訪問の冒頭で、たとえ個人や私的団体が所蔵する史料であっても、私的情報
以外に地域の歴史に関する情報が含まれていることが多く、地域全体にとっ
ても重要なものであること、だから所蔵する史料群の状態と内容の調査をさ
せていただきたいことを、ていねいに説明しなければなりません。
所蔵者によっては、調査させて良い相手であると判断するまで、史料を少
しずつ出して調査員の様子を見るという場合もあります。そんな場合には、
史料1点1点について分かったことを解説し、信頼を得るしかありません。
そのうえで、できれば史料全体の様子と、保存場所の確認を行いたいことを
申し入れ、保存の現場まで立ち入ることを理解してもらいます。物置の隅で
埃まみれになっているものを見られたくないためか、まず自分で整理してか
-7-
らあらためて連絡するという所蔵者もいますが、史料全体をまとまりとして
把握する必要があることを説明し、理解を得るようにします。
なお、史料を所蔵しているとの事前情報があっても、実際に保存されてい
るとは限りません。「古い文書」といっても、ペンで書かれた大正昭和期の
ものは該当しないと判断されたり、「史料がある」との返事をもらっても、
明治期に流布した刊本ばかりということもあります。ですから、できるだけ
具体的に、例えば「移住前後のことについて、ご先祖が書いたものがありま
すか」
「漁場の経営を書き記したものはありますか」といった問いかけをし、
調査対象とする史料のイメージを根気強く伝えていきます。
② 所蔵者からの聞き取り
聞き取りを行う内容は、史料群の伝来に関することと、家・団体の活動に
関することの2点です。
まず、史料群の伝来に関することですが、代々その家や団体に伝えられて
きたものか、誰かが他から譲り受けたりしたものかなど、どういった経緯で
その家や団体に残されているのかを尋ねます。
また、歴代の所蔵者の中には、史料を自分なりに手を加えて整理分類した
人がいたかもしれませんし、史料の一部をどこかの機関に寄贈したり、売却
したりしたかも知れません。元来あったはずの史料群はどのようなもので、
現在ある史料群について、過去にどの程度手が加えられたのか、あるいは全
く加えてこなかったのかがわかれば、史料群の原秩序を理解する手がかりに
なります。
COLUMN
調査のときの携行品と服装
筆記用具(鉛筆かシャープペン)
こより(中性紙)
中性紙の封筒
調査用紙
メジャー(スチール製は不可)
防虫剤
カメラまたはビデオカメラ
動きやすく汚れてもよい服装 マスク タオル 手袋
-8-
次に、家・団体の活動に関することですが、各家や団体に伝わる史料群は、
事業の必要から作成された文書をはじめ、地域の公的な役割から作成された
文書、また冠婚葬祭の記録、さらには例えば俳句の趣味があり、そのために
集められた史料など、家人にかかる私的な記録も含めて、様々な種類のもの
が混在している場合がほとんどです。ですから、その史料群を知る上で、時
代ごとの事業内容、役職、私的な関心事や屋号、家系など、その家や団体の
履歴、構成員にかかることは、出来るだけ詳細に聞き取り、記録に残してお
きましょう。
③ 保存状態の記録
史料群を目の前にしての作業です。実際には応接間や茶の間に通され、所
蔵者が他の場所から運んできた史料を見せていただくこともありますが、こ
こでは、史料群が保存されている場所に案内された場合を仮定します。
史料群の保存場所は、物置や倉庫であったり、書斎や茶の間であったりと、
一様ではありません。いずれの場合にも史料が収納されている場所と保存容
器(棚、箪笥、箱など)の位置とその周辺の状況について、スケッチや写真
などで記録します。
保存場所については、図1のような見取図を作成し、容器を識別できるよ
うに工夫しましょう。写真で撮影する場合は、記号を記したメモ用紙を一緒
に写し込む(写真1)と、後に調査目録との照合が便利になります。
図1 保存場所の見取図の例
平面図
タンスA
タンスA タンスB
タンスB 箱
A1 A2
窓
箱
C1
A3 A4
B1
C2
A5 A6
B2 B3
C3
入口
-9-
写真1
なお、調査を史料保存場所以外で
行った場合も、なるべく元来の保
存場所に案内していただき、どの
史料がどの部屋のどの容器に納め
られていたものかを記録するよう
にしましょう。
④ 調査目録の作成
調査目録には、2種類あります。一つは、史料の一定のまとまり単位で作
成する概要目録、もう一つは、史料一点を単位として作成する内容目録です。
史料点数や調査の目的によって、どちらの目録とするか判断します。
《概要目録》
保存容器や一括されたまとまりごとに、史料群の概要を記録する目録で
す(図2)
。記録する項目は、記号/番号、標題/内容、作成者、作成年代、
形態/数量、備考、史料群の構成の7点です。
記号/番号
保存状態の記録に用いた記号(「タンスB1」など)をその
まま使い、その中にいくつかのまとまりがある場合には、枝番を付
していきます。
標題/内容
標題は、容器や袋に記載されているときはそのまま書き写
しますが、ない場合は内容から判断して適宜標題を付します。1点
ごとばらばらになっている場合は、一定量ごとに仮にまとまりをつ
け、まとまりに標題を付します。どういう性質のまとまりであるか
を判断し、標題を自分で考えるのは、慣れない場合たいへん難しい
ものです。史料の中身を眺めてわかる範囲内で、「○○関係」など
とし、どうしても一体性が確認できない場合は「雑」などとしてお
きます。まとまりの中に、さらに小さなまとまりがある場合は、枝
- 10 -
図2 概要目録の例
記号/番号
B
○○家文書
標 題 / 内 容
作成者
作成年代
形態/数量
No.
備 考
タンス (50×90×150㎝)
B1
タンス引出し(48×88×20㎝)
1
[海産干場地租関係文書]
明治13~15
1束
断片含む
厚さ3㎝
明治17
図面5枚 封筒入
○○本店
明治20~23
帳簿3冊 一部表紙欠
郡役所ほか
明治21~22
5枚
○○漁場
明治末頃
6枚
○○漁場
(○○村大字○○地券ほか)
2
[鰊角網定置漁 申請用図面]
(○○村 ○○漁場)
3
4
雑勘定綴
[辞令]
(○○藤兵衛委嘱関係)
5
[漁場関係写真]
11
紐括り一括
番号を付けたり、標題の書き出し部分を下げるなどして記録します。
なお、もともと付されていた標題か、調査員が付した標題かの区
別が分かるように、後者の標題は[
]などで括り、違いが分かる形
で記録します。
また必要な場合は、まとまりの内容について説明を補います。標
題に続けて( )などで括って記録します。
作成者
史料を作成または受理した者の名称を記録します。ただし、ま
とまりの中の個々の史料が、単一の作成者・受理者ではない場合や、
容易に判断しかねる場合は、「○○ほか」あるいは空欄としておき
ます。
史料が作成された年代を記載します。複数年にわたる場合は、
作成年代
「○○~○○年」のように年代幅がわかるようにします。時間の都
合などで年代の確認までできないときは、主な年代を記載します。
形態/数量
まとまりとした史料の状態と点数を記録します。時間の都
合で点数の確認までできないときは、史料を重ねた厚さを記録し、
おおむねどのような史料がどの程度あるかを、最低限把握できるよ
うにします。
備 考
史料の劣化の度合いや形態上の特徴など、そのとき気づいた
ことを適宜記録します。
図3 史料群の構成図
引出し:A1~土地関係など 約120点
戸棚:A
〃 :A2~租税関係など 約 50点
〃 :A3~小作関係など 約170点
○○家文書
箱 : B
箱 : C
~ 書簡類
約200点
~ 辞令・賞状類ほか多様 約 70点
- 12 -
史料群の構成
最後に、史料群全体の構成図(図3)を作成します。
史料群を、保存場所・保存容器ごとに区分し、それぞれどのような
史料が含まれているかを一目で理解できるようにします。
《内容目録》
概要目録がまとまりごとの目録であるのに対し、概要目録でつくった「ま
とまり」に含まれる史料1点ごとに記録するのが内容目録です(図4)
。点
数が少ないときや、詳細な調査を必要とする場合に行います。
調査項目は、上述した概要目録と基本的に同じですが、内容はより詳細に
なります。
記号/番号
「まとまり」内の史料1点ごとに1つの番号を与えます。
このとき、原秩序を尊重して、史料のまとまりがわかるように番号
をとる必要があります。まず史料のまとまりごとに番号を与え、そ
の中の個々の史料に枝番号を与えていく方法です。さらに下位のま
とまりがある場合は、枝番号が増えていくことになります。こうす
ることで、史料相互の並列や包含の関係が、史料番号からもわかる
ようになります。所蔵者の許可が得られれば、メモ用紙に番号を記
して史料に挟み込み、目録との照合ができるようにすると、後日検
索する際に便利です。
標題/内容
個々の史料に標題が記載されている場合はそのまま、ない
場合は史料の内容を簡潔に表す標題をつけ、記録します。このとき、
概要目録の場合と同様、調査員が付した標題であることが分かるよ
うに記録します。
また、史料の内容について説明を補うときは、標題に続けて( )
などで括って記録します。
作成者
帳簿・日記・書類綴などは、史料の作成者を記録します。書簡
や証文といった宛名のある史料の場合には、「差出し→宛名」の形
で記録します。史料に作成者が明示されていないときは、推定して
[
]で括って記録します。推定できなければ、[
にしておきます。
- 13 -
]の中を空欄
図4 内容目録の例
記号・番号
○○家文書
標 題
C
段ボール箱(40×20×30㎝)
1
[書簡束]
作成者
作成年代
形態/数量
○○○
→○○○
明治10.5.4
15×30㎝
○○○
→○○○
明治12.7.1
16×52㎝
-1 [書簡](漁獲物の処分について)
-2 [書簡](時候あいさつ)
2
[○○関係証文類]
○屋○吉
→○○○
明治3.8
竪紙
3丁
-2
○○本店ほか
→○○屋
明治2~4
10×15㎝
封筒
22×8㎝
-3 控
3
備 考
26×20㎝ 封筒入り
-1 証(○○権譲渡)
[領収証綴]
No.
-1 [証文控]
○○○
→[○○○]
明治4.10.2
竪紙
4丁
-2 証(鰊漁仕込金借入)
○○○
→○○○
〃
25×18㎝
日記 明治六年一月~十二月
[
14
]
明治6
20×15㎝
裏表紙欠
厚さ4㎝
図5
和紙・和綴本の形態表現法
原形
竪
紙
切紙
竪
切
紙
継紙
竪継紙
半
紙:24×33cm
美濃紙:27×41cm
横切紙
折
紙
横継紙
竪
横長帳
横半帳
帳簿
帳
作成年代
史料が作成された年を記録します。ただし、書簡や証文に
ついては、月日まで記録します。推定による場合は[
]で括って
記録し、推定できないときは[ ]の中を空欄にしておきます。
形態/数量
形態は、1点ずつメジャーで縦横を計測する方法もありま
すが、「竪紙」「横長帳」など和紙や和綴本特有の表現方法を使うこ
ともあります(図5参照)。冊子の場合、丁数又は厚さも記録しま
す。
史料群の構成
概要目録と同様、最後に史料群全体の構成図を作成しま
す。
⑤ 保存処置
調査を終えた後は、可能な限り元の状態に戻すことが基本ですが、保存上
- 15 -
の問題がみつかったときに、それ以上の汚損・破損をくい止めるための最低
限の手当をします。
封筒や包みが破れていたり、綴じ紐が切れている場合は、中性紙の封筒に
収納し、その旨を封筒に書き込んでおきましょう。元の封筒や包み、紐も封
筒に一緒に入れておきます。
クリップやホチキス、セロテープなど史料を傷めるものはできる範囲で除
去し、その結果史料がバラバラになるときは、クリップ・ホチキスに代えて
こよりで綴ったり、中性紙の封筒に入れます。
湿度が高い、防犯上の危険があるなど、保管場所自体に問題がある場合は、
別の場所に移すこともあります。当館の調査の際には、保存状態によっては、
防虫剤を紙に包んで保存容器に入れさせてもらうこともあります。
もちろん、処置を行うに当たっては、所蔵者にその必要性を説明し、了解
を得てから行います。また、いずれの処置も、現状を変更することとなりま
すので、処置内容を記録し、後に史料を見る人がわかるようにしておきます。
⑥ 所蔵者への事後説明
調査後は、所蔵者に史料から分かったことや保存上の注意事項を説明しま
す。当館では、口頭説明のほか、「資料の保存について」(図6)を渡し、保
存の意識を保ち続けてもらうようにしています。
またあわせて、史料の存在とその内容をどこまで第三者に知らせてよいか、
所蔵者の確認をとります。所在情報が明らかになった場合には、研究者が閲
覧を申し込んで来る可能性があることを説明しておきます。
研究者への対応については、史料をその場から持ち出すことはできるだけ
避け、閲覧は現地で行い、必ず現状に戻してもらうこと、仮に借用を認める
場合には、借用史料の利用目的、借用した史料名と点数、借用期限を文書に
明示してもらうことなど、所蔵者に注意事項を伝えます。
このとき最もよいのは、市町村が閲覧の申込者と所蔵者との仲介役となる
ことです。保存状況の確認やアフターケアも兼ねることができ、所蔵者との
間により確かな信頼関係を築くことにもなるでしょう。
また、古物商が買い付けに来ることもあり得ます。市場に出回ると、史料
- 16 -
図6
資料の保存について
1 保存の方法
場 所 温度・湿度の変化が小さく、雨漏りや結露のない場所に置きましょう。
容 器 できれば中性紙の封筒や包み紙などで包み、箱に入れてください。
ダンボールや新聞紙、クラフト封筒などは酸性紙の場合が多いので、
資料がじかに触れるところにはなるべく使わないよう注意しましょう。
防虫剤 市販の洋服用防虫剤(パラジクロルベンゼン)で十分です。資料に
触れないよう和紙などに包んで、箱に入れて下さい。他に、しょうの
う、ナフタリンなどもあります。異なった種類のものを同時に使うと、
..
化学反応をおこし資料にしみがつくので、注意して下さい。
虫干し
天気の良い日に、風通しの良い日陰で行ってください。直射日光に
は当てないでください。また、風で飛ばされないよう注意してください。
2 補修・手当
..
破 れ 和紙(障子紙、書道用紙など)にのりを貼って補修してください。
しょうふのり
のりは生麩糊、
(手に入らなければヤマト糊)を水でのばして使用し
て下さい。セロテープは、時間がたつと硬くなって剥がれて用をなさ
なくなり、接着剤だけが紙に残ります。使用しないでください。
資料に悪い影響を与えるもの ホチキス、クリップ、虫ピンなど金属製のも
のは、錆びてしまいます。ゴムは硬くなって切れたり、紙にくっつい
てしまいます。これらを見つけたら、慎重にはずしましょう。はずし
こより
た後、ばらばらにならないようにするには、中性紙や和紙の紙縒や糸
で綴じ直すか、中性紙の封筒などに入れてください。
3 調査に応じる場合
研究者などに見せるときは、次のことを守ってもらいましょう。
・資料の順番を変えない
・コピーはさけ、写真撮影とする
・調査した旨を記録に残す
- 17 -
もんじょかん
北海道立文書館
TEL.011-231-4111 内線22-814
FAX.011-232-1851
〒060-8588 札幌市中央区北3条西6丁目
群がばらばらに分割されてしまったり、地域と関係のない一部の蒐集家の手
に渡って、そのまま死蔵されてしまうこともあります。所蔵者の所有物であ
る以上、史料を売らないよう強制できるものではありませんが、売却の情報
を耳にした場合は、史料群は分割せず、一括して存在することに価値がある
ことを、せめて伝えたいものです。
(4) 事後処理
調査を終えた後には、調査目録を添えて所蔵者に調査結果を報告します。調査
結果を見て、所蔵者はあらためて所蔵する史料群に歴史的な価値があることを知
り、大切に保存する必要を感じてくれるでしょう。
調査した史料については、今後の活用が図られるよう、市町村としても将来に
向けての保存方策を所蔵者とともに考えていく必要があるでしょう。しかし、史
料の所有権はそれぞれの家や団体にありますから、今後の保存・活用については
その意向を最大限尊重する必要があります。
また、調査結果によっては、史料の複製物を作成し、住民に提供することが市
町村の課題となってくることもあるかもしれませんが、史料とその所蔵者を大切
にするという市町村側の姿勢を理解をしてもらえれば、所蔵者の協力も得られ、
よい結果につながると思います。
- 18 -
3 史料の収集
(1)収集にあたっての考え方
地域史料は、原則的には、その史料を伝えてきた家・団体の中で保存されるこ
とが望ましいことで、史料保存施設が収集すべきという訳ではありません。大切
なのは、史料が安全に保存され、多くの人が活用できることです。
しかし、所蔵者側に、保存し続けることが困難な事情が発生し、散逸や処分の
恐れが生じた場合には、次善の策として、地元の史料保存施設での収集を考えま
す。その場合所蔵者の意志を尊重し、双方で十分に話し合い、無理のない収集方
法を考えましょう。
また、収集する場合には、史料は群としての価値があることを考慮し、めぼし
い史料だけを抽出して収集することはせず、関連ある史料はなるべく一括して収
集するようしましょう。史料群の持つ情報をできるだけ損なわないように、取扱
いに十分な注意が必要なことは、「1 史料の取扱い」や「2 史料の調査」で述
べたとおりです。
(2)事前調査
史料群の収集にあたっては、その分量や保存状態等を把握するために、事前調
査が必要となる場合があります。調査の手法に関しては、
「2 史料の調査」の場
合と基本的に同じです。ただし、以下の情報は史料を整理したり、利用したりす
る際に、史料群に含まれる個々の史料の相互関係を理解するために重要な情報で
すので、できるだけ詳しく聞き取りや調査を行い、記録を残すようにしましょう。
史料群の伝来
史料群によっては、何代にもわたって蓄積され、様々な史料が含まれてい
ることがあります。これらを理解するためには、なぜ、どのようにしてこの
史料群が伝えられてきたのか(=史料群の伝来)に関する情報が必要です。
家・団体の活動等に関する情報
史料群はもともとその家や団体の活動に伴い作成され蓄積されてきたもの
- 19 -
です。しかし、個々の史料から活動等に関する情報が得られるとは限りませ
ん。したがって、家や団体の活動や家系・組織などに関する情報もまた聞き
取っておく必要があります。
史料群の保存状態に関する情報
史料群がどのような場所で、どのような容器に保存されていたかに関する
情報は、史料群の原秩序を残している可能性があります。しかし、収集の際
にこれらの情報を記録せずに史料群を移動すると、その情報は永久に失われ
てしまいます。
保存場所や保存容器、史料の状態、概要、概数などについて、写真や図な
どを使い、できるだけ詳しく記録するとともに、移動にあたってはもともと
あったまとまりをできるだけくずさないように心がけましょう。
(3)収集の方法
収集の方法には、以下の4つがあります。
寄 贈
所蔵者のもとで保存することが、現在も、将来にわたっても不可能
である場合にとる方法で、史料の所有権は、史料保存施設に移ります。
寄 託
現在は事情があって史料を保存することができないが、将来的には
所蔵者が保存する意志がある場合や、史料保存施設で利活用を図って
もらいたいという希望がある場合にとる方法で、史料の管理は資料保
存施設で行いますが、所有権は寄託者にあります。
当館では寄託期間を5年とし、寄託期間が切れる前に、寄託者と
連絡をとり、書面で更新または返還の手続きを行っています。
複 製
万一の散逸に備えたり、史料保存施設での利用を図る場合にとる方
法で、カメラ撮影により複製物を作成することが一般的です。史料は
所蔵者が保存します。
撮影は、所蔵者を訪問して行う場合と、借用して行う場合があり
ますが、複製史料の目録作成のため一定程度の整理を行う必要があ
りますので、何日間もの訪問による所蔵者への負担や、作業の効率
性を考慮すると、可能であれば借用して撮影するほうがよいと思わ
れます。
- 20 -
史料を借用する場合は、所蔵者とのトラブルを避けるため、借用
史料のリストを作成し、借用書等を取り交わしておく必要がありま
す。
COLUMN
マイクロフィルムとデジタル写真
複製の方法として、近年デジタル写真を撮影し、ハードディスクや
コンパクトディスクなどの電子媒体で保存する場合も出てきました。
電子媒体がどれだけの期間保存に耐えられるかは、まだ明確になって
いません。
マイクロフィルムは、長期保存・安定保存、可視性、規格の統一性
という面で利点があり、一方、電子媒体は検索の容易性・迅速性、情
報共有、情報へのアクセス性という面で利点があるようです。
購 入
古物商などに、貴重な地域史料が流出した場合にとる方法です。
(4)利用条件の確認
収集した史料群は、整理された後、一般の利用者による閲覧、複製(写真撮影
など)、出版物への掲載、あるいは市町村等が行う展示や講座での活用などさま
ざまな形で利用されることになります。寄贈・寄託・複製による収集にあたって
は、それらのことを所蔵者(寄託者)に説明するとともに、どのような利用は無
条件で認められ、どのような場合は所蔵者(寄託者)の了解が必要かなど、利用
に関する条件の有無を確認し、それを書面で残しておきましょう。
(5)収集経過等の記録
史料群を収集し、整理し、利用に供するまでの間には、さまざまな事務処理が
行われ、各種の書類が作成されます。史料群の収集経過とその史料群にかかる事
務処理の経緯を一覧できるようにするため、当館では、
「来歴簿」
(図7)を作成
し、原所蔵者(寄託者)との連絡や、以前の事務手続きを調べる際の参考にして
います。
なお、原所蔵者(寄贈者等)の代替わりや転居等により連絡がとれなくならな
- 21 -
いように、原所蔵者との連絡を密にし、変更があった場合には「来歴簿」の情報
を更新しています。
図7
来歴簿
文書群名
収集年月日
入手先、原蔵者の住所・氏名
処理表№
収集方法
住所:
1 寄贈
TEL:
4 寄託
5 その他
寄贈者
2 購入(
氏名: (購入の場合は書店名) 3 複製
収集形態と数量
1 原本
円) 2 複製 コピー
マイクロ
その他(
数量:
収集の経過
<来歴>
資料と寄贈者との関係、古書店に流出した経過等
<資料の状況>
袋詰めになっている、傷みが激しい等
公開条件(閲覧・複製)
資料を公開するにあたっての条件があれば記入する
例)・複製の際は所蔵者の許可を得ること
・個人生活に関する資料は、その資料が作成された時点から
50年間は公開 しないこと
関係書類
・情報処理票
(
年
受入年月日
月)
・復命書
(
年
・各家書類綴
・その他
月)
分類記号
- 22 -
整理担当者
)
4 史料の整理・保存
(1)整理・保存とは
「整理」とは、史料群を一般住民の利用に供するために、目録作成や装備など
を行うことです。「保存」とは、様々な材質や形態の史料をよりよい状態で残し
ていくための環境を整え、将来に継承していくことです。
史料(文書)と一般の図書との間には、以下のような違いがありますので、物
理的な保存処置を施したり、目録を作成したりする際にはこの違いを念頭に
おく必要があります。
図
書
史
料
複数存在する
1点しか存在しない
1点で意味を持つ
史料相互の関係で意味を持つ
不特定多数の利用を意図している
不特定多数の利用を意図していない
(2)整理・保存の原則
すでに述べたことと一部重複しますが、史料の整理・保存についての次のよう
な原則を守り、行うことが必要と言われています。
出所の原則
史料は出所(家・団体)ごとに、ひとまとまりの群として扱う。
平等の原則
史料群の中の史料は、すべて平等に扱う。
原秩序尊重の原則 史料群内のもともとの秩序を大切にする。
原形保存の原則
史料のもともとあった形(=原形)を大切にする。そのため
保存手当・修復処置は必要最小限にとどめ、原形を極力残す
方法や材料を選ぶ。
記録の原則
史料に施した処置を記録する。
安全性の原則
史料に影響の少ない、長期的に安定して史料を破壊しない保存
手当・修復方法・材料を選ぶ。
可逆性の原則
史料を処置前の状態に戻すことのできる保存手当・修復方法・
材料を選ぶ。
- 23 -
(3)整理・保存作業の内容
整理・保存作業には、史料を物品として管理するために必要な作業と、史料の
データをとり、史料群中の史料相互の関係を分析し、目録を作成する作業があり
ます。
これらの作業をどのような手順で行っていくかは、作業に割ける人員や時間に
もよりますが、便宜的に四段階に分けて説明します。
[第一段階] 概要目録の作成
整理は、一つの史料群を対象として行い、第一段階では、史料群の概要目録
を作成します。その方法は、
「2 史料の調査」で述べたことと同じです。(事
前調査を行い、すでに概要目録を作成している場合は、この段階は省略できま
す。
)
概要目録の情報に基づき、整理担当者は史料群に対する予備知識を得、どの
部分から整理を手がけるか、そのための時間をどの程度設定するかなど、後の
整理作業の方針や予定を決めたり、目録作成を行う際の参考とします。
[第二段階] 史料への処置とデータ票の作成
この段階では、史料1点毎に保存上必要な物理的な処置を施すとともに、目
録作成等に必要なデータを採取し、データ票を作成します。
① 物理的な処置と仮番号の付与
清
掃
収集した史料は、必ずしも良い環境で保存されてきたとは限りませ
ん。倉庫や物置に長年にわたり放置されていたものは、埃や黴が付着
していたり、鼠が一部をかじったりしている場合も珍しくありません。
そのような場合は、まず人が触れても衛生上問題のないよう、清掃を
行います。清掃は、換気の良い場所で、手袋・帽子・マスクをつけて
行いましょう。
埃落としには、はたき、刷毛、清掃用クロスなどを用います。黴は
薬用アルコールを使うとある程度は除去できます。史料の用紙が
- 24 -
COLUMN
史料にやさしい整理・保存用品
こより(中性紙) ホチキスやクリップをはずした後の綴じ直しに使用します。
紙ぞうきん 薬剤を使用していないもの。
ex.(有)資料保存器財のクリンクロスは、超極細繊維の束で埃をとり
ます。洗って10回は使用可能です。
ペン
水性・顔料系・耐光性のあるものが最適です。
糊
生 麩 糊(小麦粉に含まれるグルテンで作る糊)
、または CMC(カル
しょうふのり
ボキシルメチルセルロース。パルプを原料にして作る糊)が安全です。
ラベル 化学糊を使用していない中性紙製のもの。
ex.(有)資料保存器財で、裏糊付き中性ラベル(ノーカットタイプ)
を販売しています。
※ (有)資料保存器材 東京都文京区本駒込 2-27-16 TEL.03-5976-5461
劣化しボロボロになっている場合がありますが、その部分を残すこと
が不可能と判断される場合は、ボロボロ部分を掻き落とさざるを得ま
せん。
掃除機は、埃を吸い取るのに効果がありますが、史料中の紙片を誤
って吸い込んだり、劣化した史料を破壊することがありますので、使
用の際には気をつけましょう。
異物の除去
史料中に虫ピン・クリップ・ホチキスなどが使用されているこ
とが多々あります。これらは、いずれ錆が出て史料の劣化原因となる
ので、除去し、こより等の代替物でとめるか、または中性紙の袋に入
れます。しかしすでに錆が用紙にこびり付き、史料を傷めずに異物を
除去することが困難な場合には、その部分を和紙で覆い、錆が広がら
ないよう応急処置を行います。
補
修
史料の用紙がしわだらけになっている場合、剥がれそうになってい
たり、破れている場合、綴じ紐が切れている場合には、必要な手当を
します。
史料の折りじわは、できるだけのばします。
- 25 -
用紙の一部が破れていたり、巻紙状の書簡で貼り継がれた和紙の継
ぎ目がはがれていることがあります。破れているものにはその部分の
しょうふのり
裏に和紙をあて、はがれているものは継ぎ目を、薄めた生麩糊で貼り
付けます。
冊子状の史料で、綴じ紐が切れていたり、切れそうな場合は、綴じ
直しをします。もともとの素材が使用できるならば、それを使用しま
すが、劣化し今後の使用に耐えないと判断されるときは、類似の素材
で代替します。
いずれの場合も、実施した補修内容を記録します。また、本格的な
補修が必要な場合も、その旨を記録し、別途業者に補修を委託します。
なお、寄託された史料の場合、上に述べた物理的処置や次で述べる
装備など、史料そのものの現状を変えることについては、たとえそれ
が長期的な保存や管理上必要なことであっても、所有者の了解を得た
うえで行うようにしましょう。
仮番号の付与
史料1点毎に、鉛筆で仮番号を記したメモ用紙を挟み込みま
す。
史料が袋詰めになっていたり、束ねられていたりした場合、何を1
点としたらよいのか悩む場合があります、当館では、その史料が作成
または受理された時点で一体であったと考えられるもの、例えば、会
議の案内状に、当日の会議出席者名簿、会議資料、会議後の懇親会の
会場図などが同封されていたならば、同時に収受したそれら全体を1
点としています。
仮番号は、史料の原秩序を残すための情報とするため、次のような
方法で付与します。
まず、概要目録作成時点で付した記号は、そのまま踏襲します。概
要目録では、史料が袋にはいっていたり、ひもでくくられていたりし
ていた場合は、まとまりにひとつの記号が与えられていますが、その
内容物については、まとまりに与えた記号に加えて、1点ごとに一連
の枝番号を付与します。(例
概要目録で一括りの史料に「C13」
という記号が付されていた場合、その中に含まれる個々の史料には「C
- 26 -
13-1」「C13-2」のように枝番号を与え、どのまとまりの何
番目の史料であったかが分かるようにします。
)
② データ票の作成
目録作成等のために必要なデータとして、次の項目を「データ票」に記録
(パソコンに入力)します。
仮番号
史料に挟み込んだメモ用紙の番号を記録します。
文書名
史料に記載されている標題をそのまま記録することを基本としま
す。「昭和十八年度」「第十四巻」「五冊之内一」など、年次・巻次・
冊番等の記載があれば、標題に続けて記録します。
標題が記載されていない場合は、その史料の内容を表す適切な文書
名を付し、[
]に入れて記録し、整理担当者が付した名称であるこ
とを示します。
作成者名
作成者名も、史料の記載をそのまま記録するのを基本とします。
史料が文書綴り(複数の文書をまとめ、冊子状にしたもの)や、帳簿
などの場合は、その史料の作成主体を、手紙や証文など1通の文書の
場合は、差出しと宛名を記録します。
史料に作成者の記載がない場合は、可能な限り推定し[
]に入れて
記録します。
作成年
作成年は、その史料が作成された年を記録します。複数の文書を綴
った史料で、綴られた文書が複数年にわたるときは、最も古い年次と
新しい年次を「~」でつないで記録します。また、手紙や証文などは
年月日を記録します。
年次の記録方法は、「1872(明治5)」のように、
「西暦年」に「元号
年」を補って記録します。
「1冊(○㎝)
」
「5枚」
「38丁」
「1袋」
形態/数量(数量・大きさ) 数量は、
などと記録します。
大きさは、史料の縦横の長さを㎝単位で記録しますが、冊子の場
合、縦長(縦が横の2倍以上)又は横長の史料を除き、縦の長さだけ
を記録します。
- 27 -
注
記
その他、その史料に係る情報で各事項を補足したり、史料の内容細
目を示す必要があるとき、記録します。
備 考
図8
仮番号
A-1
A-2
A-3
A-4
その史料に施した処置、今後の補修の要否等を記録します。
データ票の作成例
文 書 名
作成者名
作成年
昭和三十六年度小樽市内 滝田京子→飛島 1961
高校歳出歳入調
貫治
(昭和36)
漁撈製造養殖各科実習費 (作成者不明) (年不明)
調 自昭和八年度至昭
和十六年度
共同練習披露について 学校管理課長→ 1954
関係高等学校長 (昭和29)
[検討事項メモ]
(作成者不明) (年不明)
形態/数量 注
記 備
14枚
考
寸法不一致
袋入り
1枚 32×41cm
2枚 16×18cm
要補修
1枚 24×17cm
クリップ
はずし
A-5 [漁業課程専攻科設置要 (作成者不明) (年不明) 1綴(10丁)
望書]
18×26cm
A-6 共同練習船拓洋丸業務報 北海道小樽水産 (年不明) 1枚 25×36cm 印刷物
告
高等学校
書き込み
あり
A-7 [専攻科設置に関するア (作成者不明) (年不明) 2綴 26×36cm 未記入
ンケート用紙]
A-8 専攻科設置について
(作成者不明) (年不明) 1綴(17丁)
B-1 内水面漁場管理委員会用 全国高等学校長 1954
件
協会
(昭和29)
B-2 昭和34年度実習船運航計 北海道小樽水産 1959
画書
高等学校
(昭和34)
B-3 北海道内水面漁場管理委 (作成者不明) 1954
員会小委員会会議
(昭和29)
B-4 内水面区画漁業権一覧表 (作成者不明) (年不明)
26×18cm
1枚 26×37cm
中身なし
1綴(5丁)
26×18cm
1枚 26×37cm
1綴(2丁)
26×18cm
以上は、史料が文書である場合に当館が行っている基本的な記録方法です。
史料が地図・写真など、文書以外の場合には、文書名(資料名)に続けて[地
図資料][写真資料]と史料の種別を補記し、地図であれば縮尺や彩色の有無な
ど、史料の特性に応じた情報を加えて記録しています。
- 28 -
[第三段階] 装備・排架
① 装 備
装備とは、史料の亡失を防ぎ、出納を容易にし、史料を保護するための処
置のことで、史料にできるだけ手を加えず、必要最低限にとどめることを原
則とします。
史料管理記号の表示
史料の亡失を防ぎ、出納を容易に行うために、何らかの形で史料に管理
記号を表示します。
当館では、管理記号として、登録番号と請求記号を用いています。
登録番号は、どの史料群に属する史料であるかにかかわらず、「資料台
帳」に登記された順に付された一連の番号で、これを史料の目立たない位
置や保存袋に表示しています。
請求記号は、排架場所(置き場所)を示すもので、史料群ごとに与えた
記号と、その史料群の何番目かを示す一連番号で構成されています。この
請求記号を記載したラベル(図9)を、冊子形態の史料であれば原則とし
て「背」に、その他の史料は、史料の形状に応じて、史料に書かれた文字
にかからないような位置に貼付しています。
ただし、著しく形態を異にする史料(大型の地図・写真・肖像画など)
や保存環境を異にすべき史料(マイクロフィルム・磁気テープなど)につ
いては、別系統の記号を与えています。
第一段階で史料に挟み込んだ「仮番号」を記したメモ用紙は、請求記号
を付した後に除去します。ただし、仮番号は、もともとの史料相互の関係
を示す情報ですので、記録上は残しておきます。
図9 史料ラベルの例
B 2 ←史料群単位の記号
1
- 29 -
←同一史料群内の一連番号
COLUMN
保存箱の作成
ちつ
当館では次のような方法で、史料の帙(保存箱)を作成しています。
① 110×80㎝の用紙を、下図のように史料の縦・横の長さに合わせて裁断し、
綿テープを通す切り込みを入れる。
(縦・横が一定の場合は、用紙を発注時に裁断してもらっています)
② 縦用・横用の用紙を組み合わせ、綿テープを通す。
③ 用紙の材質は中性紙(AFハードボードpH8.5 厚さ0.63ミリ)
、
綿テープは幅15ミリ晒綾を使用しています。
折込部分
厚
横
厚
横
厚
縦
(上に重ね綿テープを通す)
(出来上がり図)
折込
部分
厚
縦
〈用紙取扱業者〉
○ 大丸藤井㈱
厚
札幌市白石区菊水3条1丁目8番20号
折込
部分
http://www.daimarufujii.co.jp/index.html
○ 特種製紙㈱
静岡県駿東郡長泉町本宿501
http://www.tokushu-paper.jp/
- 30 -
史料の保護
史料に埃がつかないようにしたり、出納するときに史料相互の摩擦によ
って史料が傷んだりするのを防ぐため、必要な場合には中性紙でできた史
料保存袋や史料保存箱などに入れます。地図や図面など大型で折られてい
ないものは、透明ポリプロピレン製の地図ホルダーに入れて保護します。
出納の便のために、袋や箱にも管理記号や文書名などの情報を記します。
② 排 架
史料を安全に保存するために、書庫などの書棚に排架します。先述のとお
り、当館では請求記号に基づいて排架しています。また、地図やマイクロフ
ィルムは、他の史料とは別に、専用の保存ケースに収納しています。
史料を立てて排架する方法、横置きにする方法、大型の保存箱に入れる方法
などがありますが、排架できるスペース、出納の利便性、史料を傷めないこ
となどを総合的に勘案して適切な方法を選択しましょう。
COLUMN
史料の保存環境
書庫など史料の保管場所の温度は20度±2度、相対湿度55%±5%
に保つのが理想だと言われています。しかし、空調設備を整えられ
ない場合は、湿気の少ない乾燥した場所や温度変化のなるべく小さ
い場所に置き、年に1~2回の虫干しをすることなどが有効です。
虫干しは降雨の直後や冬季を避け、直射日光に当てずに陰干しをし
ます。
[第四段階] 目録の作成
目録は史料群を単位として作成し、一つの史料群の目録は、解題と個々の史
料の目録情報で構成します。
なお、調査や収集の時点で史料群に名称(史料群名)を付与しますが、当館
- 31 -
では次のような方法でこれを与えています。
一般的には、史料群を残してきた団体、個人、家の名称に「文書」の語を付
加したものを史料群名とします(例 日本赤十字社北海道支部文書、杉浦誠文
書、丸一本間家文書など)。ただし、史料群の内容が、その家や団体の活動か
ら残されたものではなく、個人の趣味や研究上の必要性など特定の意図によっ
て集められた「コレクション」である場合は、収集者名に「収集文書」の語を
付加して、史料群名としています(例 三浦秀松収集文書)
。
① 解 題
解題には、第一段階で把握した情報のうち、以下のことを記載し、史料群
についての包括的な情報を示します。
この情報には、個人名や学歴、職歴、続柄などの個人情報が含まれますの
で、史料群を理解する上で必要な最小限の情報にとどめるようにします。
史料群の作成者に関する情報
史料群の作成者に関する情報を、可能な範囲で簡潔に記載します。ここ
に含まれる主な情報は以下のとおりです。
存在年月日~団体であれば創立及び廃止の年月日、個人であれば出生及
び死亡年月日
職務・職業及び活動~団体の業務、個人や家の職業・活動など
内部構造~団体の内部組織、家の構成員など
史料群の入手経緯
その史料群を所蔵するに至った経緯を記載します。
(複製により収集した
場合は、この部分に複製者、複製年、原本所蔵者に関する情報)
史料群の概要
史料群の概要に関する情報を、簡潔に記載します。ここに含まれる主な
情報は以下のとおりです。
史料総点数~史料群全体の点数(複製史料の場合は、
「マイクロフィルム」
など、媒体の種類に関する情報をここに付加します。
)
史料年代~個々の史料の年代のもっとも古いものと、もっとも新しいもの
- 32 -
を、
「~」で結んで表示
史料内容~史料を編成した区分(まとまり)にしたがって、その区分に含
まれる史料内容
利用条件~史料群を利用するにあたって、寄贈者等から付された条件など
参考文献~編成や解題、個々の史料の目録作成にあたって使用した参考文
献の書名・著編者・発行年など
② 目録の編成
目録の編成とは、一つの史料群に属する個々の史料の目録情報を、史料相
互の関係を考慮してまとめ、まとまりごとの配列順序や、まとまり内の配列
順序を決めることです。ここでいう「目録情報」とは、第二段階で作成した
「データ票」の項目のうち、文書名・作成者名・作成年・形態/数量・注記の
5つに請求記号を加えたもののことです。
概要目録作成段階で把握した現状(保存されてきた状態そのもの)が、す
でに何らかのまとまりを構成し、順序立てられていると認められる場合には、
それを尊重して編成するのが原則ですが、そのように認められない場合には、
整理担当者が、まとまりを作り、目録の編成順を決めなくてはいけません。
目録情報のまとまりを作る作業は、具体的には、次のような点に着目して
行います。
〇
個人の家に残されてきた史料群であれば、家の事業に関するものか、
家の私的なことがらに関するものか、その家の誰に関するものか、その
人のどのような活動に関するものか、など
〇
企業や団体に残されてきた史料群であれば、企業や団体のどの内部組
織が残したものか、その内部組織のどのような事業や機能に関するもの
か、など
こうして作成した各まとまりには、例えば「
(○山△男)市議会関係文書」
、
「(営業部)販売第三課文書」(
「 総務部会計課)経理関係帳簿類」など、そ
のまとまりを簡潔に示すタイトルをつけます。
一つのまとまりに属する史料点数が多い場合には、さらに小さなまとまり
を作ることもあります。
- 33 -
※
他の史料との関係が全く分からない、断片的で文書の内容自体が理解で
きない、系図中にまったく登場しない人物に関する文書がある、誰が映っ
ている写真か分からないなど、どのまとまりに入れたらよいのか判断でき
ない場合も珍しくありません。そのような場合には、
「その他」
「不明」
「雑」
などというまとまりを作って処理するしかありません。
また、一つの史料群に含まれる史料点数が少なすぎて、まとまりをつく
ると一つのまとまりに1点か2点の史料しか存在しないということも起こ
りえます。そのようなときには、あえてまとまりをつくるまでもないでし
ょう。
一つの史料群の中にいくつかのまとまりができます。次にまとまりごとの
順序を決めていくことになります。内部組織別にまとまりを作った場合はそ
の組織の設置順に、家に属する個々人を単位としたまとまりであれば、系図
上の順を基にするのが、一般的です。
まとまりを単位とした順序を決めた後に、一つのまとまり内に含まれる史
料の目録情報の順序立てをします。この場合、史料の作成年次順や、五十音
順など、そこにまとめられた史料の性格により適宜判断して順序を決めてい
きます。
以上の目録作成作業は、パソコン上で行いますが、編成した目録情報をプ
リントアウトして冊子状にしたものを利用者に提供し、検索手段としていま
す。また、インターネット上にも目録を公開しています。
- 34 -
図10
(表紙)
冊子目録の例
(目次)
目
Ⅰ 解
題
Ⅱ 目
録
ひ き め け
蟇目家文書目録
1 漁業関係
2 娼妓・芸妓関係
3 その他
- 35 -
次
(解題)
Ⅰ 解
題
蟇目家系図
蟇目
1 資料の主な年代
(史料群の概要:史料年代)
兵右衛門
八三
善次郎
八三
清一郎
1856(安政3)~1954(昭和29)
2 資料点数
(史料群の概要:史料総点数)
野崎佐六
43点
市太郎
八三
善次郎
3 資料の収集理由及び経緯
(史料群の入手経緯)
寄贈及び購入。
蟇目家文書は、次の3つの群に分類した。
請求記号B0-26/1~33の資料33点が、平成元年5
・漁業関係
月に蟇目清一郎氏から寄贈を受けたものである。
「漁業萬覚帳」など漁業関連の資料10点をまと
請求記号B0-26/34~43の資料10点が、平成13年11
めた。
「大宝恵 安政三年丙辰正月吉日」など
月に古書店から購入したものである。蟇目家文書
近世に係る史料もある。
の一部であると確認できたので、上記寄贈資料と
・娼妓・芸妓関係
一括して整理した。
「娼妓渡世誓約書」ほか娼妓・芸妓に係る証
4 蟇目家文書の概要 (史料群の作成者に関する情
書類など27点。
・その他
報/史料群の概要:資料内容)
蟇目家は岩手県宮古市の隣新里村大字蟇目出
上記二つのいずれにも分類できない資料6点を
身。蟇目八三(初代)の時期に、榎本武揚に従い
まとまとめた。
渡道したと伝えられる。古平に定住し、最初は旅
5 利用上の条件
館業、ついで網元となった。
特になし
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(利用条件)
(目録)
Ⅱ 目
録
10 漁業万覚帳 昭和拾年三月吉日
蟇目善次郎
1936(昭和11)
1冊(2cm) 11.5×33cm
表紙に「昭和拾壱年再用」と朱書あり。
また「昭和拾年度鰊皆無ニ付拾壱年度此用
井」とあり
(注記)
請求記号 B0‐26/4
(編成の区分)
1 漁業関係
1 大宝恵 安政三年丙辰正月吉日
(文書名)
蟇目利晴
(作成者名)
1856(安政3)
(作成年)
1冊(2cm) 14×21cm
(形態/数量)
請求記号 B0‐26/6
(管理記号)
2 エトロフ嶋東西海岸里数調 天保八
丁酉同九年戊戌両年ニ而量之
蟇目利晴
1860(万延元)
1冊(1cm) 12×17.5cm
請求記号 B0‐26/1
(中 略)
2 娼妓・芸妓関係
11 差入申念書之事
工藤梅→蟇目八三
1876(明治9).10.27
1通 24.5 × 34cm
3 水上帳 大正八年第拾月起利
寿都古平共同大謀
1919(大正8)
1冊(4cm) 13×38cm
請求記号 B0‐26/5
(後 略)
(中 略)
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5 史料の利用提供と普及
地域史料を地域の共有財産として整理・保存するのは、その先に活用があると
いうことにほかなりません。自分の家の歴史を知りたい、地域の歴史を知りたい、
どのように地域が発展してきたのか、あるいはどうして衰退してしまったのか、
地域住民のそのような「知りたい」という気持ちを満たす、そしてそのことによ
って足元を見つめ、新たに未来を見据える、それが地域で保存してきた史料の果
たす役割ではないでしょうか。
まずは史料に現れる自分の知っている地名や人名、神社やお寺、学校や会社の
名前などに触れることでも地域の歴史に親しめるものです。そのためには史料に
近づくための様々な検索手段や史料に触れることができる機会が必要です。また、
1点しかない貴重な史料を後世の人も利用できるよう大切に保存し、汚したり、
傷つけたりすることのないよう史料の取扱いにも気をつけなければなりません。
(1)利用提供
史料の活用には目指す史料に近づくため、検索手段の整備が必要です。印刷さ
れた冊子目録、インターネットを利用した目録など史料保存施設以外でも利用で
きる目録が用意できればより便利です。
当館では史料の検索は冊子形式の目録を基本としていますが、その他に所蔵す
る史料群全体を概観できる『利用の手引き』を作成し、史料群ごとにその概要を
簡潔に記載するほか、史料群の主題別一覧表(各史料群の主たる内容により、農
業・漁業・移住・屯田などの主題別に示したもの)、地域別一覧表(各史料群の
主な関係地域を示したもの)を掲載し、多角的な検索ができるようにしています。
また、ホームページ上でも同様の情報を提供するほか、一部の史料群については、
個々の史料まで検索できるようにしています。
和紙に書かれた筆の勢いや墨の色、かすれた鉛筆の文字や筆圧、紙の状態など、
史料原本には、複製物からでは十分に読み取れない情報があります。ですから、
利用者への史料の提供は、複製物ではなく原本での提供を基本とします。けれど
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も、傷みの激しい史料や利用頻度が高い史料については、劣化防止のためマイク
ロフィルム化やフィルムからのプリント本の作成など、複製物による閲覧も考え
なければなりません。いずれにせよそれぞれの史料の状況によって適切な利用サ
ービスの方法を採ることが大切です。
利用者への複製物の提供方法としては、カメラ撮影は認めるが、複写機による
コピーサービスは行わないのが一般的です。コピーの際の強い光や熱が史料の劣
化原因となるためです。ただし、複製物であるマイクロフィルムやプリント本か
らのコピー提供は、原本ほどには気を遣わずにすみます。
なお、当館では実施していませんが、「デジタルアーカイブ」といって、史料
の画像データを作成し、インターネット上で提供することにより、各家庭のパソ
コンで画像を閲覧でき、プリントすることもできるサービスを提供している機関
もあります。
また、閲覧利用者にも、史料を取り扱う上でのマナーを守ってもらう必要があ
ります。史料取扱い上の注意は、すでに「1 文書の取扱い」で述べたとおりで
す。
当館では閲覧室内に「資料を汚したり、破損したりするおそれがありますので、
のりつき付箋、ボールペンやペンなどを使用したり、ページをめくるときに指を
なめたり、しないでください。」との注意事項を表示し、利用者の方にも協力を
お願いしています。
史料の中には、個人の病歴、犯罪歴、所得額など他人に知られたくない情報が
含まれるもの、著作権の保護をうけるもの、劣化の激しいものもありますので、
それらに関しては閲覧等の制限が必要となります。
(2)史料の活用と普及啓発
収集した地域史料を活用し、地域の歴史に触れてもらうためには、住民にその
存在をアピールすることが重要です。
そのひとつの方法として展示があります。当館では、史料だけでなく、史料に
記載された情報を基に作成した「草創期の札幌」の模型を置いたり、昔の文書の
レプリカを作り観覧者が自分の手でめくって見ることができるなど、立体的に見
たり触れたりできるよう工夫をしています。
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また、別に小さな展示コーナーを設け、その時々の身近な社会の動きに応じて、
当館が所蔵する関係史料を紹介しています。
史料原本の展示を行う場合は、展示ケースに収納し、外気や光など展示環境に
加えて、安全性も考慮しなければなりません。一方、レプリカによる場合は、原
本ほどには環境等に気を遣うことなく、史料保存施設以外の、例えば役場や学校
など多くの人の目に触れる場所に持ち出して展示するなど、住民の身近な場所で
気軽に史料に接してもらうことが可能です。
そのほか普及活動として、歴史教室や古文書教室など史料を用いて地域の歴史
を勉強する催しを行ったり、地元の小中高校などへ出かけ、史料を提示しながら
学校や地域の歴史に触れる出前講座を行うことなども考えられます。市町村の史
料保存の担当者だけでなく、郷土史研究家や史料所蔵者に協力を仰ぐことも史料
に対する理解が深められるのではないでしょうか。くずし字で書かれた文書の解
読などに地域の人々の力を借りて史料集を作ったり、史料の調査・研究や史料活
用の成果を市町村の広報誌に発表することなどで多くの人に地域の歴史をより身
近に感じてもらえることでしょう。そのことが人知れず眠る新たな史料の発見へ
とつながる可能性もあります。
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おわりに
歴史叙述のためには、当然ながら様々な史実を明らかにする史料が必要です。
史料がなければ、その地域、その時代の歴史は空白となってしまいます。自分た
ちの町や村の歴史を後世に伝えるためにも、今に残された史料を保存していかな
ければなりません。
ここでは、個人や団体が所蔵する史料の調査、収集等についての考え方や方法
を紹介してきましたが、地域史料はこれに限ったものではありません。写真や地
図など、文書以外の記録も歴史資料として重要なものです。また、公文書や様々
な行政刊行物も市町村の姿を知るためには重要な史料です。過去に作成されたも
のだけでなく現在作成されつつあるこれらも、50年後、100年後には貴重な
歴史資料として活用されるに違いありません。
多くの市町村では、すでに市町村史を発行していますが、その際に収集した地
域史料も、散逸することなく将来に残し、地域で活用できる手だてを加える必要
があるでしょう。
歴史資料を残し、活用を図っていくということは、実に地道な作業の連続です。
しかし、自分たちの町や村の歴史を将来に継承していくために、大変重要な仕事
であると思います。
市町村により、その役割を果たすのは、図書館であったり、郷土館・博物館、
あるいは市町村史の編さん機関であったり様々であろうと思いますが、各市町村
でそうした業務を担当する部署を明確に位置づけ、その部署を中心に地域史料の
保存・活用に当たっていただきたいものです。
地域史料保存についてお困りのことなどありましたら、北海道立文書館として
もできる限り協力をしていきたいと考えております。お気軽にご相談ください。
そして、文化遺産というべき地域の歴史資料の保存・活用について、市町村の方
とともに努力していきたいと思います。
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■参考文献
『記録史料学と現代』 安藤正人著 吉川弘文館 平成 10
『アーカイブズの科学 下巻』 国文学研究資料館編 柏書房 2003 年
『地域と歩む史料保存運動』(岩田書院ブックレット9)
越佐歴史資料調査会編 岩田書院 2003 年
『日本のアーカイブズ論』 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会編
岩田書院 2003 年
『諸家文書の収集と整理』
(地域文書館の設立に向けて3)
埼玉県地域史料保存活用連絡協議会編・発行 平成4年
『地域史料の保存と管理』
(地域文書館の設立に向けて4)
埼玉県地域史料保存活動連絡協議会編・発行 平成6年
『地域史料の検索と活用』
(地域文書館の設立に向けて5)
埼玉県地域史料保存活動連絡協議会編・発行 平成 10 年
『史料の整理と管理』 国文学研究資料館史料館編 岩波書店 1988 年
『記録史料の保存と修復―文書・書籍を未来に遺す―』
「記録史料の保存・修復に関する研究集会」実行委員会編
アグネ技術センター 1995 年
『記録史料記述の国際標準』
アーカイブズ・インフォメーション研究会編訳 北海道大学図書刊行会 2001 年
『デジタル情報クライシス―情報を 1000 年残す方法』 中島洋編著
日経 BP 企画 2005 年
『図書館・文書館における環境管理』
(シリーズ本を残す8) 稲葉政満著
日本図書館協会 2001 年
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