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経営 第1回:企業と経営学

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経営 第1回:企業と経営学
経営
第1回:企業と経営学
教科書:土屋守章『現代経営学入門』序章「経営学とは何か」
*次回より、授業資料は下記URLから各自ダウンロードのこと
http://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/lecture/komaba-keiei/2010.htm
1.0 はじめに
東京大学経済学部と経営学
経済学と経営学の接点:「企業」
= ある特定の財・サービスの生産・供給を
一義的な目的として設立された団体。
経営学の守備範囲:経済学よりもミクロ
例:生産関数
企業の利潤最大化
個別企業の違いにこだわる
リアリティ(実証)を重視する
例:トヨタ・日産・本田の違い
授業の構成:
藤本は組織論・管理論が中心
新宅は戦略論が中心
経済・産業・企業、そして現場
経済
(国民経済・世界経済)
産業
企業
事業
(多角化/多国籍企業)
現場
産業は設計情報と空間を共有する現場の集合
企業は同一資本の支配下にある現場の集合
例:自動車開発の現場: トヨタ、本田、日産
1.1
現代経営学の課題:経済学との関係
現代経営学の課題:企業の動きを理解し説明すること
「現代経営学の課題は、社会の中で大きな存在となっている企業の動き
を、理解し説明しようとすることである。」(土屋・P1)
現代経済における企業の役割
生産(財・サービスの供給)
雇用(就業者)
設備投資
研究開発活動
現代社会における企業の役割:人間にとっての企業 (その基層単位である現場)
収入を得る場:お金のために企業で働く
自己実現の場:仕事そのものが持つ生き甲斐
生活に悪影響を与える存在(環境破壊、製造物欠陥)
企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者):バランスよく満足させられるか
顧客
従業員
株主
地域住民
一般市民
供給企業(サプライヤー)
政府、他
多様なステークホルダーと企業
•
無論、株主は重要だが、利益を得るには売上が必要で、売上が立つに
は、顧客に製品を選んでもらう必要がある。また、製品を販売するには、
製品を生産したり供給したりする必要があり、それには、従業員や供給
業者に、その会社を選んでもらう必要がある。
•
このように、企業は、多様な利害関係者(ステークホルダー)に囲まれた
社会的存在である。
•
一方、企業はもっぱら株主のものだ、と言う考え方もあり、法律的にはそ
れに近いし、経済学者の中にも、この考え方を支持する人々は少なくな
い。
•
一方、経営学が捉える企業は、多くの場合、人々が協働する組織であり、
多様なステークホルダーと関わる、社会的な存在である。
1.2 企業とは何か:経済学と経営学の考え方
マクロ経済学:家計、政府と並ぶ代表的な経済主体(集計値)
ミクロ経済学:同じ財を作る、同一の費用構造の「代表的企業」の一群
経営学:経営の仕方、管理の仕方、組織のあり方、戦略の選択次第で、
個々の企業は、異なる生産性、異なる製品イメージ、異なる費
用構造、異なる業績を持ちうる。個々の企業の経営者は、その
会社を「他社とはひと味違う」形にしようと考えている(代表的企
業では儲からない)
マクロ経済学における企業
ミクロ経済学における企業
経営学における企業:個性を個性として捉える
経営学における企業:個性を個性として捉える
経済学の企業観と人間観
経済全体の体系的理解のため、企業をあえて単純化してとらえる。
生産関数(インプット→アウトプット変換装置として単純化)
利潤最大化目的(経済合理的な意思決定)
代表的企業(企業の個性をあえて重視しない)
経済合理的主体・ホモエコノミクスとしての一元的解釈
首尾一貫した企業観(単純化→経済体系の一要素として分析)
経営学の企業観と人間観:
リアリティをより重視。複雑なものを複雑なものとしてとらえる。
生産関数の中身(協働の体系、資源の束、プロセス)
企業目的の複合性(個人目的と企業目的)
企業の個性を重視する(差別化、独自能力、ブランド)
限定された合理性・社会的存在としての多様な人間観
複眼的な企業理解(ヒト、モノ、カネ、情報・知識)
学問としての経営学の特徴
(岡本康雄『現代経営学辞典』同文館)
(1) 多様な人間観
(2) 問題志向的(現実の企業の問題)
⇔ 学科(discipline)志向的
(3) 学際的。 隣接科学の動員(経済学、社会学、社会心理学)
(4) 複眼的な企業理解と論理構造:矛盾を許容する
(近代経済学は単一で整合的な論理構造)
1.3 管理・組織・経営とは何か
(1) 管理とは何か:
もともとは、事物を「監理」すること。転じて人を「管理」すること
アメリカの経営管理論:テイラーの科学的管理論、 古典的管理過程論
計画し、計画に従い実施し、計画通りか確認し、是正すること。
計画 → 組織 → 命令 → 調整 → 統制 (ファヨール)
Plan → Do → See (ブラウン)
Plan → Do → Check → Action (デミングの品質管理論)
POSDCORB(ガーリック)
(Planning, Organizing, Staffing, Directing, Coordinaiting, Reporting, Budgeting)
Planning, Organizing, Staffing, Directing, Controlling (クーンツ)
次第に、「管理とは「組織」を通じて目的を達成すること」という「組織論的な経
営管理論」が強調されるようになった。(C.バーナード)
PDCAサイクル(デミングの品質管理論)
(2) 組織とは何か:
複数の人間による、持続的な分業(専門化)と協業(調整)の体系
チェスター・バーナード(1938)の定義:
公式組織(formal organizastion) =
個人の頭脳と体力の限界を克服すべく編成された、
複数の人間の、意図的に調整された活動のシステム.
(3) 経営とは何か:
もともとは、「縄張りをして営み造る、工夫をこらして物事を営む」.
経営とは、「経営者らしい経営者が行なうべきこと」である。
経営とは「資産を管理する」「投資する」「管理すること」以上の何かだ。
高橋伸夫『経営の再生』
バーナード『経営者の役割』・・・組織を活気づかせること。そのために
(1) 組織メンバーに目標.価値を共有化させる。
(2) 組織メンバー間で風通しの良いコミュニケーションをさせる。
(3) 組織メンバーを動機付け、やる気を起こさせる(貢献意志)。
「経営管理」とは何か:
人に働きかけて、協働的な営みを発展させることによって、経営資源の生産
性、環境への適応性、創造性などを高め、企業の目的を達成すること。
1.4 現代企業の制度的条件 (土屋)
(1)分業と協業(調整)
(2))市場経済
(3)株式会社制度
(1)現代企業の制度的条件その1:分業社会
「現代企業は、高度に分業化された社会の上に乗っている」(土屋)
社会的分業と企業内分業
社会的分業:企業による事業の選択(専門化)と市場による調整
企業内分業:企業内の組織の分業(専門化)と協業(調整)
企業内分業と調整
部門の分割(機能別、製品別、地域別、顧客別)
部門間の調整(ルール、垂直的指示、水平的相互調整)
組織成員の専門化(単能工、多能工、万能工)
組織成員間の調整(助け合い、コミュニケーション)
組織構造 ・・機能別組織
組織構造 ・・事業部制組織
組織構造 ・・マトリックス組織
現場の分業 ・・ 1人1台持ち
現場の分業 ・・ 多台持ち・多工程持ち
現場の分業 ・・ U字型ラインと伸縮的な分業
組織とは何か(バーナードの定義と石運びの例)
・個人の目的と制約のギャップ(やりたくても出来ない)
・個人の限界を乗り越えるための組織
・組織目的とルールの合意(個人目的と組織目的の分離)
・コミュニケーションとルーチンの発達(複数の人間の協働手段)
・協働の意志:貢献意欲の確保。動機付け。
・誘因>貢献 なら組織への参加を継続する。組織人格
・外発的な誘因(金銭など:仕事は嫌だけど・・・)
・内発的な誘因(やりがい、誇り、仲間意識:仕事そのもの)
・貢献: 専門化と調整 → 個人で出来ないパワーを発揮する
(2) 現代企業の制度的条件その2:市場経済
社会的分業と企業の役割
共同体
→ 経済主体の分化: 企業、家計、政府
企業と家計は、市場という調整メカニズムに直面すると想定。
市場を通じた経済主体間の資源配分。
生産者と消費者が同一の価格に直面(一物一価)
市場ではない集権的資源配分:計画経済
近代経済学における二分法
「分権的な市場」と「集権的な企業」
実際には:市場と管理の相互浸透 (事業部制、中間組織 など)
市場と組織 (コース、ウィリアムソン)
取引コストと生産コスト
市場に任せる取引、組織に任せる調整 ・・ 取引コストの比較
不確実性、機会主義、資産特殊性などによる。
市場ではない分権的資源配分:
水田への非市場的な水の配分
長野県の灌漑用水路(江戸時代建設)における水の配分
コンフリクト → 水配分調整ルールの自然発生 → かなり良い水配分
物的な配分設備と公式ルール
非公式な配分ルールの発達
配水行為の応酬(いたちごっこ)を通じた資源配分の「均衡」
水配分の現場: X部落への取水口(江戸時代の規定)
X部落への水門
X部落
このあたりで攻防
むしろダム
石投げ込み
ガニ穴
以上の撤去
下流部落
渋川を樋で渡る滝の湯堰
水質へのこだわり ・・
(水質・水温制御)
鉄渋の多い水はそのままは使えない
滝の湯堰
渋川(水田に使えない)
上流・X部落の問題 (低水温による青立ち)
冷水による
「青立ち」
圃場への取水口
水量は十分
「ぬるめ」による
水温制御
下流・Y部落の問題
(渇水時のひび割れ)
こうなってきたらピンチ
上流に出かける頻度が増える
上流の「いたずら」を破壊してくる
結果として、水配分の調整
長野県 八ヶ岳山ろくの灌漑組織
滝ノ湯堰
土地改良区
権力による集権的・恣意的な分配
水争い(コンフリクト)
分水規定書:ルールによる調整
ルールの抜け穴
「ガニ穴」
調整ホース
簡易ダム
「水利調整」「盗み水」
イタズラ
イタチゴッコ
長野県 滝の湯堰取水口 ・・ 江戸時代開削の広域水路
八ヶ岳山麓十数部落
vs
湯川部落他
滝の湯堰取水口
昔はここでも攻防戦が・・
蓼科湖: 水をストックすることで水争いは減少
滝の湯堰へ流す水門
蓼科湖
部落への取水口
江戸時代の分水規定に従う
南大塩の小平区長〔当時〕
水配分の現場: 下流・Y部落への取水口(夏の渇水時)
Y部落への水門
Y部落はピンチ
→ 上流へ出かけて
水門で攻防戦
中流部落の見張り小屋
交代で見張り
水番日誌
しかし、かちあわないように
暗黙の時間調整
(水争いの教訓)
努力量の相対比で水配分を調整!
しかし、春先には全部絡で仲良く
水路補修 (定式修理)
(格闘前のリングの設営)
これで200年以上、共同体は存続
(時に、水争いが地域を結ぶ)
(3) 現代企業の制度的条件その3:株式会社
「会社」とは何か(企業形態論)
会社 = 複数の人間の共同出資による企業形態(⇔個人企業)。
個人経営のお金の限界を乗り越えるための仕組み。
個人企業:
単独の出資者。規模拡大に限界あり
出資者=経営者がリスクに対する無限責任を持つ。
資本所有と経営が未分離。
合名会社:
複数の出資者の資本結合で規模拡大をねらう。
出資者全員が依然として無限責任を持つ。
資本所有と経営が未分離。出資者=経営者間の調整
合資会社:
無限責任出資者と有限責任出資者の資本を結合
有限責任出資者は経営に関与せず
有限会社:
株式会社に似ている。出資者=社員は全員有限責任。
出資者上限、持分譲渡制限などあり。
ドイツのGmbH。中小企業が利用。
社員総会で決議。取締役が会社を代表して業務執行。
現代の企業組織
企業 = 財・サービスの生産を生産し市場に供給。 主に株式会社
株式会社の特性:
(1)出資者(=株主)は全員、出資金を限度とする有限責任
(2)企業所有の持分を証券化して譲渡自由に。
(3)株主総会の議決により運営。取締役会が業務執行。
会社が法人化し、会社財産と個人財産が分離。
所有と経営の分離:大きな株式会社では、所有と経営の分離が生じる。
(バーリ・ミーンズの米国企業の研究)
専門経営者の登場:もはや、経営者=大株主とは限らない。
経営者は、プロ経営者としての専門能力によって、その職につく。
株券
株主総会、取締役会、代表取締役、経営者
事例:ベンチャービジネスの資金調達
創業前:
自己資金が大半、親族・知人の出資・借入も。
個人企業
金融機関はほとんど貸してくれない
創業直後:公的な債務保証に基づく銀行借入
ベンチャーキャピタルの出資(米国 vs 日本)
個人投資家(エンジェル;自身も成功事業家)
公的金融機関(新規事業法による)
銀行とは付き合いを開始。信用構築
成長期:
銀行借入を増やす(手形割引など)
株式公開:上場・店頭登録、一般投資家への売り出し
1.5 日本企業と米国企業の比較の視点
20世紀企業の参照ポイントとしてのアメリカ
・大量生産方式(製造の互換性)の元祖(フォード、GM)
・多角化(事業部制)大企業の発祥の地(GE)
・モジュラー・オープン製品(設計の互換性)の拠点(シリコンバレー)
インテグラル型(擦り合わせ)製品における日本型生産方式(トヨタ)
大量生産 ・・ フォード生産方式
大量生産 ・・ フォード生産方式
大量生産 ・・ 「モダンタイムス」
多角化した現代企業 ・・ GE社の事業区分
日本型生産方式 ・・ 自動車における生産性優位
日本型生産方式 ・・ 自動車における開発生産性優位
1.6 授業の構成 (1回目と後半)
1. 企業と経営学
現代経営学の課題; 経済学との関係; 社会的分業と企業の役割
企業内分業と調整; 市場と組織; 組織とは何か; 株式会社制度、他
2.分業のメカニズム
社会的分業と企業内分業; 分業の方法
分業のメリット・デメリット; 市場と分業、他
3. 組織と人間
経済学・経営学の人間観; バーナード・サイモンの組織論
意思決定・問題解決とそのルーチン化; 動機付け問題
ホーソン実験、欲求段解説、職務拡充; TQCと小集団活動、他
4. 調整のメカニズム
社会的な調整メカニズム; 市場経済と統制経済
企業内における「分業に基づく協業」; 作業集団における相互調整
リーダーによる調整; ルール化; 階層化; 官僚制論; 組織設計論、他
5.現代の大量生産システム
アメリカにおける大企業の生成; 水平統合; 垂直統合
機能別組織; 科学的管理アメリカ式製造システム; フォードシステム;
アメリカ式大量生産システムの普及と限界、他
6. 20世紀の日本型システム
ジャストインタイムとトヨタ生産方式; 生産リードタイム短縮;
製品開発リードタイムの短縮化; 継続的改善; 企業システムの進化
日本型生産システムの可能性と限界、他
教科書:
土屋守章『現代経営学入門』新世社
副読本:
開高健『日本三文オペラ』
金井寿宏『経営組織』日経文庫
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