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社会的ジレンマと 態度・行動変容研究の 交通行動への応用

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社会的ジレンマと 態度・行動変容研究の 交通行動への応用
資料1
内閣官房 ITS TF
3rd, Dec. 2010
社会的ジレンマと
態度・行動変容研究の
交通行動への応用
~ コミュニケーションの重要性 ~
筑波大学大学院 都市交通研究室 谷口綾子
クルマは便利
便利な自動車・不便な公共交通
(Everitt & Watson, 1987)
長
自
動
車
所
短
・移動時間が短い
9項目
・出発,到着時間が自由
・経路の選択が自由
・たくさんの荷物を運べる
・逐一、料金を払う必要がない
・自慢できる
・プライバシーが守られる
・気分が高揚する
所
2項目
・渋滞することがある
・ガソリン代,維持費がかかる
・(地方部では)定時性がある
2項目
電
車 ・友達との会話
や ・移動中,本を読むことが出来る
バ
ス
・利用できる時間が限られる
14項目
・経路を自由には選べない
・少しの荷物しか運べない
・毎回料金を支払う必要がある
・駅,停留所まで遠いことがある
・快適な環境とは言えない
・自慢できない/天気に左右される
・混雑する/職員の態度が悪い
・衛生的でない/騒音がする/危険がある
・移動時間が長い/(定時性がない)
自
動
車
の
圧
勝
!
茨城県 旅客輸送分担率の推移
JR
民鉄 乗合バス タクシー 自家用車
その他
(年)
1965
21.3
7.6
1975
15.6
3.9
1985
1993
2003
0%
11.4
2.2
12.2
56
6.4
30.8
44
5.7
4.4
39.7
4.3
4.2
67.1
8.1 1.7 5.5 1.8
2.7
80.3
5.2
2.5
89.5
10%
20%
30%
40%
50%
1.4
60%
70%
80%
90%
100%
茨城県公共交通活性化指針より
…しかしながら
つまり、クルマは、便利だけど…
渋滞 の問題
環境 の問題
公共交通衰退 の問題
中心市街地空洞化 の問題
そして…
健康 の問題
維持費 の問題
死亡事故リスク の問題
地域愛着・子どものモラル
の問題
等
デメリットも少なくないのでは?
「自動車大量生産」の矛盾: 渋滞等、デメリットの顕在化
公共交通は重要...だけど
渋滞、環境、健康、維持費、死亡事故リスク、
地域愛着・子どものモラル の問題 等
自動車のデメリットはある程度わかっているけど
「自分一人くらい、クルマを使っても...」
やめられない
← 社会的ジレンマ
社会的ジレンマ
社会問題
•
•
•
•
•
•
•
違法駐車
人口問題
職場の小さな部署
マンションの維持管理
電車の中での携帯電話
地域の掃除
地球環境問題
「社会的ジレンマ」の問題
社会的ジレンマ=
短期的・利己的にメリットのある行動を取れば,
社会的・長期的なメリットは低下してしまう 状況
「いま・ここ」だけの利益/利便/快楽を追求すれば,
結果的に,「全員(社会)」が損をして,
結果的に,「自分」も損をしてしまう.
個人的な例: ダイエット,麻薬,喫煙...
社会的な例: 違法駐車,人口爆発,環境問題...
節度ある行動こそが
求められる合理的行動
社会的ジレンマの解決策
社会的ジレンマの解決策があるとしたら...
• 無節操なクルマ利用をやめて、
• 「節度あるクルマ利用」を!
節度あるクルマ利用への
行動変容
を促すこと
これを支援、誘導する公共政策が必須!
人間の行動は 3種類の要因で変わる(法哲学の一般的知見)
構造的方略
カネ
例:ロードプライシング
(経済学)
チカラ
心理的方略
例:法的規制
(政治学)
コトバ
例:説得・キャンペーン
(社会心理学)
行動変容
交通問題に関する社会的ジレンマの解決策
■公共政策に関する社会的ジレンマの解消方略
・施設またはシステムの改善
(道路新設,大規模商業施設の誘致,駐車場設置)
・法的規制(車両流入規制、ロードプライシング,罰金,税金)
構造的方略
・啓発キャンペーン
(テレビ・ラジオ広告,ポスター,イベント等)
心理的方略
・教育・情報提供・コミュニケーション
(代替手段の情報提供、学校教育,社会教育,コミュニケーション)
【コトバ】による心理的方略は,
これまで,その重要性に比してあまり重視されていない
構造的方略のみで
社会的ジレンマを解決できる?
例: 交通渋滞
■道路・バイパスをつくる
■公共交通を超べんりにする
■自動車税の増税
■ロードプライシングの導入
莫大な費用
付近の住民が反対
自動車利用者が猛反対
導入した首長さんは、次の選挙で敗北?
つまり....
コスト、空間的制約、公共受容の観点から
構造的方略のみで
完全な社会的ジレンマ解消は困難
(独裁国家でない限り)
心理的方略だけでは?
■コミュニケーション、教育、キャンペーンを
徹底し、協力行動する人をつくりだす!
→ しかし、必ず何人かは非協力的な人が存在
→ 協力的な人のおかげで空いている道路を
非協力的な人が快適にクルマで走行可能
=フリーライダー :社会的に許容され得ない
・道路整備
それ故、構造的方略と心理的方略を
・情報提供
・節度ある行動のための教育 適切に組み合わせることが重要
・逸脱者へのペナルティ
← これまで、心理的方略は理論的バックボーン無しに
「なんとなく」実施されてきた。心理的方略をも適切に
取り入れることが重要
節度あるクルマ利用
= 「公共交通バス・電車を
かしこく使ってもらう」
コツ
わかりやすく、心にひびく
バス・電車 情報提供
バスマップ(2006年)
つくば市内バスマップ
一人一人カスタマイズした公共交通情報
専用フォルダ
一
人
ず
つ
カ
ス
タ
マ
イ
ズ
し
た
バ
ス
時
刻
表
バ
ス
の
無
料
チ
ケ
ッ
ト
バス停や路線図だけで
なく,スーパ-,美容
院等の生活情報も記載
した地域の地図
自
宅
↓
会
社
時
刻
表
自
宅
バ
ス
停
地
図
豪州パース都市圏の例
[表面]
[裏面]
会
社
↓
自
宅
時
刻
表
会
社
バ
ス
停
地
図
自動車分担率の変化(南パース市)
Trend
自動車分担率
62.5
TravelSmart
impact
60
57.5
55
52.5
50
1986
1996
2000
= Travel Survey
2006
バス利用者数の変化(Cambrige市)
45,000
2nd After
40,000
35,000
After
Before
30,000
25,000
20,000
Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb
Increase of 10% (for 19 months+)
PROJECT
動機づけ冊子の例
茨城県高校生の通学時の公共交通利用促進
環境、コスト、交通事故、健康、子どもの社会性、
中心市街地活性化、地域愛着の醸成など
場合に応じてさまざまな動機付けが可能。
動機づけ冊子
■筑波大学バス利用促進
プロジェクト
動機付け冊子 兼 申込書
筑波大バス利用促進 動機づけ冊子
バス・電車利用を
シミュレーションしてもらう
→ハードルが下がる
行動プラン(1)
まず、同封のフォルダの中の
「かしこいバスの使い方」を考えるプログラムパンフレットと、
「バス利用プラン」
このバス利用プランは、第1回アンケートの時に、あなたご自身が記入された
内容をもとに、コミュニティ・バスを使った移動プランを具体的に示したものです。
ふつうの人は、
をご覧下さい。
これら二つをご覧になった上で、以下の質問にお答え下さい。
「絶対にない」とは
言えないことが多い
1)龍ケ崎市のコミュニティ・バスを使うことがあると思いますか? □に√を記入してください。
□絶対にない □あるかもしれない □ある
次ページの問2にお進み下さい。
2)それはどのような用事ですか? 記入例を参考にお答えください。
(記入例)
用事
用事 市役所に行く いつ
いつ 朝10:00頃 どこから 自宅
どこまで 市役所前
どこから
どこまで
行動プラン(2)
行動プランの策定を要請することで
公共交通を使うイメージトレーニング
をしてもらう
→ 公共交通を使うハードルが下がる
バス・電車に興味をもってもらい、
ポジティブなイメージを形成
ニューズレター(龍ケ崎市)
意見要望への返信例(龍ケ崎市)
意見要望:昨日,竜ケ崎駅に行くため循環ルート外回りで緑町12:43発に乗る
ため12:41頃に停留所に行ったが,10分待ってもこなかったので私の勘違い
でおくれて停留所に行ったのか,又は時刻より早めにバスが通過したのか
分かりません.バスが予定より早めに通過することは有るのでしょうか.
回答_冒頭:コミュニティバスを利用しようとされた際に,バスが来なかったとの
こと,申し訳ございませんでした.
回答_本文:日時の特定ができませんので,正確にお答えすることはできません
が,これまでにも何度かこのようなお問合せをいただきました.しかしながら,
その多くは,
・ 車両故障や事故渋滞などで,バスが大幅に遅れた
・ 点検や故障などの理由で,その日は黄色い車両ではなく代車で運行して
いたため,利用者が気づかなかった
など,車両の遅れや車両に気がつかなかったことが理由でございました.
これまでも,運行事業者にはバスが時刻表よりも早く通過することはないよう,
注意をしてきましたが,再度,改めて厳重に注意をいたします.
回答_結語:市,バス事業者,運転手とも十分に気をつけて参りますので,今後
とも,当市の都市交通の改善に向けて,ご理解とご協力をお願いいたします.
利用者の意見要望に
誠実に対応する
→信頼、愛着の醸成
乗物酔い、バスへの
バス利用者満足度の要因分析
態度、乗車回数の
乗り物酔い
接客と運転操作
のドライバー要因が
CSに影響
接客
0.832
ドライバー
要因
0.167
バスへの態度
0.858
乗車回数
乗客属性が
CSに影響
0.076
バス会社
バス運転士の教育
乗客属性
■接客マナー向上 0.088
0.197
■ていねいな運転操作
総合満足度 0.294 利用意図
0.53
0.782
運転操作
左右加速度
0.061
が運転操作に
影響
左右加速度
0.264
総合満足度が
利便性 「これからもバス使おう」
という意図に影響
0.36
定時性
参考文献
<入門>
■モビリティ・マネジメント入門
藤井聡・谷口綾子著
(学芸出版社)
2008年3月10日発売
<実践>
■モビリティ・マネジメントの手引き
(土木学会)
土木計画学研究委員会 態度行動変容研究小委員会編
<理論>
■社会的ジレンマの処方箋
藤井聡著
(ナカニシ出版)
ありがとうございました。
参考
社会的価値と
高速道路料金大幅引き下げ政策
の賛否意識の関連分析
研究の背景
•
2009年3月 前政権により、経済対策として
休日の全国高速道路料金大幅引き下げ、
いわゆる「上限1000円政策」が実施された
• 近年稀に見る大幅な料金引き下げ
• 高速道路利用者には非常にメリットのある政策
• しかし一方で、
研究の背景-上限1000円政策に対する意見-
他交通事業者への影響
地球環境への影響
選挙前のバラマキ
2)
等、様々な意見が
マスコミに報じられている
3)
1)
研究の目的
• 近年稀に見る大幅な高速道路料金の引き下
げ
• 様々な論点がマスコミに報じられている
→ 国民の関心が高い政策?
国民がこの政策をどのように捉えて
賛否意識を形成するのかを
個々の価値観を考慮して考察する
「社会的価値」についての検討
Schwartz4は、行動の選択や、事象に対する評価を導く
普遍的な4つの社会的価値として、
「利己価値」「利他価値」「伝統価値」「変化価値」
を提案
利己価値・・・私益の強化を動機付ける
利他価値・・・他者の幸福の促進を動機付ける
伝統価値・・・安定な状態の保護を動機付ける
変化価値・・・不確かなものへの興味に従うこと
を動機付ける
この4つの社会的価値を考慮して
国民個々の賛否意思決定モデルを考察する
アンケート調査について
• 調査会社を通して、インターネット調査を行った
„
被験者は調査会社のモニターから選出された
1500名(16~69歳)
„
各都道府県の人口比、都道府県別の男女比・年
代構成比が、平成17年国勢調査に基づく構成になる
ようにアンケートを配信し、回収数が1500に至った時点で終了
項目
アンケートの質問項目
日常の交通行動
各交通手段の
習慣強度
社会的価値
将来価値
上限1,000円政策に
対する賛否意思
具体的内容
①自動車免許の有無 ②自動車保有有無(世帯)
③自由に使える自動車有無 ④ETC搭載有無
⑤運転時交通情報利用頻度 ⑥直近の1週間の交通行動
⑦直近の1週間の高速利用 ⑧最寄の公共交通までのアクセス
①交通手段別利用習慣強度
①利他価値 ②利己価値 ③伝統価値 ④変化価値
①将来価値
①政策認知 ②政策情報入手媒体
③上限1,000円を利用した遠出の有無 ④政策賛否度
⑤意思の強度 ⑥政策へのコミットメント ⑦政策に対する興味
⑧政策の重要性認知 ⑨正しい答えの有無
⑩正しい答えを追求することの重要性
⑪政策の論点の認知 ⑫賛否意思決定において重視する論点
⑬賛否意思決定において重視する最も重視する論点
①上限1,000円の対象範囲 ②上限1,000円の対象車種
③上限1,000円以外の割引内容 ④目的 ⑤財源 ⑥期間
上限1,000円政策に
ついての知識
上限1,000円政策に
①上限1,000円政策に対する意見への賛同
対する意見への賛同
①よくみるテレビ局 ②普段読んでいる新聞 ③支持政党
個人属性
④職業 ⑤世帯年収 ⑥年齢 ⑦性別 ⑧居住都道府県
賛否意思決定に影響を与える要因の探索
• 賛否意思決定モデルの構築にあたり、賛否意思決
定に影響を与える可能性のある要因を探索する
政策賛否度
Q.当政策(上限1000円政策)に対するあなたの賛否度?
強く賛成
どちらとも
言えない
強く反対
反対派
賛成派
社会的価値
仮説モデル政策への意見
利己価値
利他価値
因子分析より抽出
高速の走行環境悪化
伝統価値
変化価値
政策への個人属性
政策知識
政策興味
政策の高評価
政策の仕組み批判
割引内容不満
重要性認知
利用経験D
習慣強度
一般道利用上の影響
政策賛否度
利己価値が高いと政策を高評価
パス解析結果(1%水準有意)
し、間接的に賛成傾向が高まる
利己価値
-係数が正
-係数が負
-0.08
-0.08
0.07
0.06
0.16
伝統価値
0.15
高速の走行環境悪化
0.12
政策知識
-0.17
0.08
0.13
0.13
0.16
政策興味
0.12
-0.13 0.24
政策の高評価
0.32
賛否度
0.13
重要性認知-0.20
-0.18
0.07
0.12
利用経験D
0.40
0.15
政策の仕組み批判
0.06
習慣強度
GFI = 0.911
AGFI = 0.765
パス解析結果(1%水準有意)
利己価値
-0.08
-0.08
0.07
0.06
0.16
伝統価値
0.15
高速の走行環境悪化
-係数が正
-係数が負
0.12
-0.17
政策について詳しいほど、
0.13
否定的意見を持ち、間接的
0.16
0.32
に反対傾向が高まる
0.12
政策の高評価
政策知識
0.08
0.13
政策興味
-0.13 0.24
賛否度
0.13
重要性認知-0.20
-0.18
0.07
0.12
利用経験D
0.40
0.15
政策の仕組み批判
0.06
習慣強度
GFI = 0.911
AGFI = 0.765
結果まとめ
• 利己価値が高いと、間接的に賛成傾向が高まる
„
政策賛否度に直接的に反対傾向を高めるのは、
「高速の走行環境悪化」と「政策の仕組み批判」の二つ
„
利用経験がある場合や自動車利用習慣強度が強い
場合など、個人的利益につながる場合、直接的に賛成
傾向が高まる
„
政策について詳しいと、否定的意見を持ち、間接的に
反対傾向が高まる
考察1
• 政策への賛否意思決定過程における社会的価値
の影響が統計的に示唆された.
• 利己的な国民 → 上限1,000円政策に賛成
• 国民は必ずしも政策への賛否を社会的,長期的観
点から判断しているわけではない
本研究は,上限1,000円政策の是非や,
政策効果の有無を議論するものではない
• しかし,私益で,つまり「自分の得になる」から政策
に賛成するという傾向が今後も高まっていくとする
と,それは憂慮すべき事態では?
考察2
• 国民の利己的な感情を刺激する政策(e.g.バラマキ)
→政府が国民の支持を得られるかも?
しかし、社会的・長期的観点からは
デメリットが大きい場合も。
社会的ジレンマ
・・・社会的ジレンマが公共政策によって深刻化
することは許されない!
• 政策の社会的,長期的な影響を計測し,把握するこ
とで,その政策の妥当性を判断するなど,十分に配
慮する必要がある
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