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工業所有権侵害事例・判例集(PDF:90KB)
特許庁委託 ジェトロ海外工業所有権情報 マレーシアの 工業所有権侵害事例・判例集 2000 年 3 月 はじめに 我が国とアジア太平洋地域との経済的相互依存関係の深まりの中で、今後とも我が国企業の 同地域へ進出、事業展開のより一層の拡大が見込まれるところ、我が国企業が今後同地域にお いて事業を展開していく前提として、商標・意匠・特許等の知的所有権が国内のみならず投資 先においても適切に保護されることが不可欠となっています。 開発途上国における知的所有権制度は WTO・TRIPS 協定の成立、APEC の進展等を受けて 近年急速に整備されてきたものの、いまだに不備な部分が残されており、また制度が存在して いても運用面、特にエンフォースメントが適切になされていないため、一般的に投資先として の知的所有権の保護とそれにより生ずる収益の回収が十分になされていない状況がみられま す。 特に、アジア太平洋地域においては、商標・意匠を中心にして、我が国企業の製品に対する 模倣が相当程度増加しつつあり、我が国企業の真正商品のマーケットシェアおよび企業のイメ ージに悪影響を及ぼしています。 このような状況下、ジェトロでは、平成9年度より特許庁からの委託により、「各国工業所 有権情報収集等事業」を実施しています。 本事業は、北京、上海、香港、ハノイ、マニラ、クアラルンプール、ジャカルタ、ニューデ リー、バンコク、ソウルの 10 都市において、現地のジェトロ事務所が特許法律事務所と契約 をし、工業所有権の模倣対策に資する情報を収集、同地域における工業所有権の侵害実態を把 握、模倣対策の強化に努めようというものです。 また、本事業では、上記 10 カ所の現地法律事務所の弁護士による、工業所有権に関する無 料相談や、現地進出日本企業を対象にしたセミナーの開催なども行っています。 ここに本事業において収集した情報を基に、 「マレーシアの工業所有権侵害事例・判例集」 を作成いたしましたのでお届けいたします。本事業及び本誌が皆様のお役に立てば幸いです。 2000年3月 日本貿易振興会 投資交流部 目 次 商 標 OZEマーケティング(OZE Marketing Sdn Bhd)vs トウェンティファースト・センチュリー・ プロダクツ(Twenty First Century Products Sdn Bhd.) [1999年] 4 MLJ 449 1 スコッチウイスキー協会( Scotch Whisky Association & Anor)& アナー vs エウェイン・ワ イナリー(Ewein Winery (M) Sdn.Bhd.)[1999年] 6 MLJ 280 3 オー・ベン・ハイ(Oh Beng Hai)vs ディクソン・ウォン(Dickson Wong (M) Bhd) [1999年] 6 MLJ 185 7 取引表示命令 検察vs ホン・ジン・ボン & アナー( Hon Jin Bong & Anor) [1999年] 5 MLJ366 10 アン・プーン・テイク(Ang Poon Teik)vs 検察 [1999年] 5 CLJ 253 13 1 商標 1. OZE マーケティング(OZE Marketing Sdn Bhd)vs トウェンティファ ースト・センチュリー・プロダクツ(Twenty First Century Products Sdn Bhd.)[1999 年] 4 MLJ 449 概要 商標‐パッシング・オフ‐不実表示‐表示名称‐被告だけでなく、原告の商品も独創 的かつ適切に表示されているかどうか‐商標が二次的な意味を取得しているかどう か 事実 OZE マーケティング(原告)は「Memo Plus Gold」という人間の記憶力を向上させ る製品を製造している。トウェンティファースト・センチュリー・プロダクツ(被告) は「Memo Plus」という名称で同様の製品を製造している。このため原告が被告を 告訴した。 被告が自らの製品に対し「Memo Plus」という表現を用いることで、自らの製品を 「Memo Plus Gold」という商標で販売されている原告の製品としての不実表示を行 っていたかどうかが論点だった。 裁定 原告の申請は却下された: 原告は「Memo Plus」という名称だけで原告製品が他の製品と区別されるという点 を立証できなかった。 「Memo Plus」という言葉は記述的であり、製品の性質を示し ているにすぎない。 「Memo Plus」という言葉はそれ自体が特別なものではなく、二 次的な意味を取得していない限り、保護の対象とはなりえない。二次的な意味を取得 するためには、この言葉が長年にわたって使用され、高い評判を取得しなければなら ない。原告は「Memo Plus」は長期間使用されておらず、二次的な意味を取得して いるという点を立証できなかった。 したがって被告が「Memo Plus」を製品に使用することによって、一般大衆に対し て被告の製品が原告の製品であるという表示、あるいは不実表示を行ったと言うこと はできない。 コメント これはパッシング・オフの判例であり、未登録商標の使用が訴訟の理由である。 注意:ここで使われている商標「Memo Plus Gold」は登録されていなかった。 パッシング・オフの訴訟において、原告側が信用があり、その商標に評判があること を立証する事が重要な要素である。つまり、原告は、一般大衆がその商標が原告のも のであることを認識しているということを証明しなければならない。証明できなけれ ば、商標に対する一般大衆の認識が十分でないということになり、原告の申請は却下 されるであろう。下記は一般大衆に混乱を来すものではない。 一般大衆の認識をすばやく獲得するには、自他識別力があるかまたは独創的な商標を 選ぶことである。商標が自他識別力があるか、独創的であれば、他の商標との区別が 容易になる。この商標「Memo Plus Gold」は記憶力を向上させる製品に付けられた。 商標を侵害したとする製品は「Memo Plus」という名称を用いた。この 2 つの商標の 共通部分は「Memo Plus」である。従って、裁判所はこの言葉に焦点を置いた。 裁判所は「Memo Plus」という言葉はそれ自体特別なものでないとした。また、この 名称は記憶力を向上させる製品に用いられ、「Memo Plus」という名称は記述的であ るとした。すなわち、その名称は製品の特徴に直接関連する、ということである。裁 判所は、商標が記述的か否かという保守的な観点を取った。裁判所の商標は記述的で あるという判断を下したため、自ずと原告は信用と商標の評判を立証することが困難 になる。これが「二次的意味」と言われるものである。つまり、商標が記述的であって も、商標が広く、長期にわたって使用されていれば、信用と評判を得る事が出来るの である。 残念ながら、原告は商標が「二次的意味」を得るほど使用されているという事を立証で きなかった。この判例から言える事は、製品に記述的な商標を用いる場合は、幅広い 宣伝活動とマーケティングをし、信用と商標における評判を得なければならないとい うことである。または、商標を長期にわたって使用するという選択もある。しかし、 長期間の使用に頼るという方法は危険であり、ライバル社が商標の使用開始からすぐ コピーした場合は、「二次的意味」を得る期間を満たさないという恐れがある。 1 2. スコッチウイスキー協会 & アナー(Scotch Whisky Association & Anor)他 vs エウェイン・ワイナリー(Ewein Winery (M) Sdn.Bhd.) [1999 年] 6 MLJ 280 概要 商標‐パッシング・オフ‐不実表示‐ラベル上の成分表示‐製品は他の成分の他にス コッチウイスキーを含む‐ラベルはスコッチウイスキー成分を強調‐不実表示の有 無‐スコッチウイスキーの営業権や評判に損害を与えた可能性‐スコッチウイスキ ーの販売量に直接的損害を及ぼしたかどうかを証明しなければならない。 事実 スコッチウイスキー協会(第一次原告)はスコットランドその他におけるスコッチウ イスキー取引全般の利益を保護し、促進する目的で設立された。第二次原告は第一次 原告のメンバーであり、スコットランドで蒸留された蒸留酒であるスコッチウイスキ ーの製造業者、ブレンド業者、輸出業者である。第二次原告はスコッチウイスキーを 蒸留、ブレンドし、英国およびマレーシアを含む世界の大半の国で「スコッチウイス キー」他のスコットランド原産を示す表示のもとで、幅広く広告宣伝活動、販売提供、 販売を行っている。その本質的な品質や販売、販促によって、スコッチウイスキーは マレーシアを含む全世界で知られており、高い評判、営業権を取得している。 エウェイン・ワイナリー(被告)はバターワース(Butterworth)のセベラン・ペラ イ(Seberang Perai)で蒸留酒の処理、ボトリングを行っている。被告も自らの製 品を「スコッチウイスキー」と称していた。原告は、被告が取引、営業権、第 2 次原 告をも含めた第一次原告メンバーの利益に損害を与え、マレーシアでスコッチウイス キーのラベルは添付されていないが、スコットランドで蒸留、熟成されたスコッチウ イスキーであることを示すラベルを添付した蒸留酒を販売あるいは販売提供したこ とによって取り返しのつかない損失と損害を与えていると主張した。 違法行為によって、被告はスコットランドで蒸留、熟成させていない自らの蒸留酒を スコッチウイスキーとして詐称通用させることにもなった。被告はマレーシアの法律、 特に 1985 年の食品に関する法律(Food Regulations)の 385(1)の要件に従っただけ だと申し立てた。385(1)ではウイスキーに関しては製品の原産地、製造場所、ブラン ドを表示する言葉以外を併記してはならないという点を明記している。 被告のウイスキーはスコットランド産であることから、被告の「ウイスキー」という 単語の前に「スコッチ」という単語を用いることは 385(1)のもとで許されると申 2 し立てた。原告は「スコッチウイスキー」という言葉のラベル表示の禁止を示唆して いるのではないという点を強調した。マレーシアで製造された製品がスコッチウイス キーを含んでいれば、ラベルが当該事実を示すことが可能というのは適切であるが、 当該製品が他のアルコールを含んでいる点も表示する必要がある。 したがって原告は被告に対して、スコットランドで蒸留、熟成させたウイスキーでな い蒸留酒から構成される、あるいはこれを含んだ製品にスコットランドを連想させる および/またはスコットランドを暗示的に示す内容を含んだ視覚表示、および/また は説明と共に宣伝、マーク、紋章、言葉、ラベル、体裁の使用によって、スコッチウ イスキーのパッシング・オフに通じる行為の禁止を求める差止め請求を行った。 裁定 申請は承認された: (1)被告の製品の一部はマレーシア産のアルコールを加えていることから、明らかに スコッチウイスキーではなかった。したがって、これらを「スコッチウイスキー」 と呼ぶべきではない。蒸留水とカラメルだけを加えた別の製品に関しては、被告 は「スコッチウイスキー」という言葉を使用できるが、表示方法は別問題である。 (2)被告の最終製品がスコッチウイスキーでないとしても、被告の製品の源はスコッ トランドではなくマレーシアであり、被告の製品は「スコッチウイスキー」を含 んでいることから、被告がラベルに当該製品が現地のウイスキーの他にスコッチ ウイスキーを含んでいる点を表示しようとした場合、異論をはさむ余地はない。 しかしその方法についてはその余地があった。被告は「Scotch Whisky」と 「Imported Scotch Whisky, distilled in Scotland under the British Government supervision(英国政府管理のもとでスコットランドで蒸留された輸入スコッチウ イ ス キ ー )」 と い う 言 葉 を 太 文 字 で 大 き く 目 立 っ た 形 で 表 示 す る 一 方 で 、 「Ramuan:Air, Alkohol, Whiski yang diimport dan karamel」をこれよりも小さ な文字で表示していた。実際には「distilled in Scotland under the British Government supervision」という言葉は、マレーシアの法律を順守するという目 的においてはまったく不要だった。さらに「Alkohol」はマレーシア産アルコール であると述べられていなかった。これが現地の法律を順守するという目的ではな く、スコッチウイスキーの営業権、評判を利用するために、被告の製品をスコッ チウイスキーと表現するための不正利用を目的としていたことは明白だった。 (3)被告の製品のラベルをみれば、被告が「Scotch Whisky」、「Imported Scotch 3 Whisky, distilled in Scotland under the British Government supervision」とい う言葉を強調していたことは明白だった。被告が自らの製品を実際にはそうでは ないのにスコットランド産のスコッチウイスキーとして詐称通用させようとして いたことに疑問の余地はなかった。また、被告がスコッチウイスキーの営業権を 認識していたうえで、これを利用しようとしたことに疑問の余地はなかった。換 言すれば、被告はスコッチウイスキーでない自らの製品をスコッチウイスキーと 不実表示し、これによって一般大衆が被告の製品を実際にスコッチウイスキーで あると信じる可能性が強かった。これは計画的に大衆を欺こうとした行為だった。 (4)原告は被告の製品がマレーシア市場で販売された結果、同国におけるスコッチウ イスキーの直接的な売上がどの程度の損失を被ったかを正確に証明する必要はな かった。スコッチウイスキーの営業権、評判が損失を被る可能性があったことが 示されるだけで十分だった。本件の状況においては、一般大衆が自分たちは本物 のスコッチウイスキーを購入していると信じ込まされていた可能性が実際に存在 した。マレーシア国内で製造されたウイスキーが幅広くスコッチウイスキーとし て販売され、これが大衆に浸透すれば、スコッチウイスキーの意義が薄れること になる。最終的には、第 2 次原告のような本物のスコッチウイスキー製造者の損 害につながっていた可能性がある。第 1 次原告もまたスコッチウイスキー取引を 保護する目的で設立された組織として、メンバーや将来のメンバーからみた信頼 性の低下およびメンバーからの出資金という形での収入減少という事態に陥るこ とが予想される。 コメント この裁判はパッシング・オフを含む。具体的に言うと、個々の製品よりも、製品が属 している部類における商標の問題である。ほとんどの商標は独占権を持っている(換 言すれば一個人にのみ所属する)一方で、英国コモンロー (マレーシアで使用されて いる)では、商標が団体または特定の製品分野に属する事を認めている。これは製品 がすべて同じ特徴を持ち、それが広く認識されている場合に適応される。例えば、シ ャンペン(フランスのシャンペン地方で作られるアルコール飲料ということを示して いる)、スイス・チョコレート(スイスで作られるチョコレートということを示してい る)、アドボカート(卵をベースにしたルギーの酒)等がある。 この裁判では、問題の商標は「Scotch Whisky」であった。「Scotch Whisky」という名 称は普通名称であり、スコットランドのウイスキーを示すものであり、評判も高い。 「Scotch Whisky」という表現はスコットランドのウイスキー製造者全て、またスコッ トランドの「Scotch Whisky」の消費者全てに使用される。 この被告はマレーシアで自社のウイスキーを製造する醸造会社である。このウイスキ 4 ーは輸入のスコッチ・ウイスキーとのブレンドであり、これは法的にも認められてい る。また、製品にスコッチ・ウイスキーを含んでいる事を記述する事も認められてい る。しかし、被告は製品ラベルの「Scotch Whisky」を非常に強調して販売を促進した。 つまり、「Scotch Whisky」という表示が非常に視覚に訴えるものであった。これが原 告の訴訟の理由である。 裁判所は、製品に輸入されたスコッチ・ウイスキーを含んでいることから、被告が 「Scotch Whisky」と表示することには異論はない。しかしながら、その製品が 100% 「Scotch Whisky」であるということをほのめかすような表記方法に対し、異論があっ た。使用方法について、裁判所はその文字の大きさ、他の文字との比較、文字の配置 等についての検討する。 この判例では裁判所は、被告が故意に「Scotch Whisky」という文字を強調する事によ って、一般大衆が被告の製品が 100%スコッチ・ウイスキーであり、スコットランド 産であると誤解するように仕向けた。この行為は本物のスコッチ・ウイスキー産業に 損害を与えた為、差し止め請求が認められた。 5 3.オー・ベン・ハイ & アナー(Oh Beng Hai & Anor)vs ディクソン・ウ ォン(Dickson Wong (M) Bhd)[1999 年] 6 MLJ 185 概要 商標‐登録商標‐権利侵害の訴訟‐非常に良く似た商標‐状況は 1976 年の商標法 (Trade Mark Act)の 35(2)、40(1)の範囲に入るのかどうか。 事実 オー・ベン・ハイ(Oh Beng Hai)(申請者)はミシンに関して「空飛ぶ馬」のロゴ の登録商標の所有者である。申請者はディクソン・ウォン(Dickson Wong) (第 1 次被控訴人)が同じく「空飛ぶ馬」のロゴを商標として使用している日本の美馬精機 製のミシンを輸入したとして提訴した。 美馬精機のミシンは日本のペガサス社が製造したもので、同社もマレーシアで工業用 ミシン分野で「空飛ぶ馬」のロゴを登録していた。 提訴人とペガサスが登録した「空飛ぶ馬」のロゴは類似している。しかし、登録範囲 はペガサスの商標は工業用ミシン、一方の提訴人の商標はミシン全般と異なっていた。 いずれにしても提訴人は被控訴人のミシン(D2)の空飛ぶ馬のマークの使用は 1972 年の取引表示法(Trade Descriptions Act)s16 のもとでの虚偽の取引表示にあたる との命令を求めていた。 裁判所の裁定に際しての主な問題は、D2(被控訴人のミシン)が工業用ミシンに分 類されうるかどうかという点だった。この答えが「イエス」であれば、ペガサスの商 標登録は保護され、提訴は成立しないことになる。 裁定 申請は却下された: (1)1972 年の取引表示法および 1976 年の商標法の目的と、家庭用ミシンに関する申 請者の商標侵害申し立てに関しては、Harmonized Commodity Description Code(商 品表示調整法)は D2 のカテゴリーを決定する最終的な厳しいテストではない。公正 にみて、D2 はその機能によってカテゴリーを決定されなければならない。D2 には オーバーロックをステッチするという 1 つの機能しか搭載していないことから、 家庭 6 用として一般家庭での使用には適していなかった。したがって申請者の商標を侵害し ていなかった。 (2)被控訴人の空飛ぶ馬の下に赤で「PEGASUS」という表示があり、被控訴人の商 標と申請者の商標を区別している。2 つの商標はまったく同一ではなく、商標が登録 された製品に関連した取引において誤解や混乱が生じるほど似てはいない。さらに 1976 年の商標法の s 35(2)によって、申請者は商標登録によって、被控訴人に対し商 標の独占使用権を取得していない。当該法によって規定された登録による当該商標の 使用権利の行使においては類似した 1 件以上の登録商標の商標使用は、 商標侵害には あたらない。 コメント これは取引表示命令(TDO: Trade Description Order)に関する特別規定において取 引表示法(TDA)s16 のもとに提訴された。原告は赤い飛んでいる馬のロゴである、 「Flying Horse」ブランドの所有者である。この「Flying Horse」ブランドはマレーシア で登録商標されている。原告は被告が飛んでいる馬のロゴを使っている日本のミシン を輸入した事を不服としていた。この日本製のミシンは美馬精機社製であった。同社 の親会社もまたマレーシアで飛んでいる馬のロゴの登録商標を所有している。つまり、 マレーシアにおいて飛んでいる馬のロゴが同じミシン分野で二つ登録されていた。 この判例について注目すべき点が二点あり、法の内容よりその手続きに関連する。第 一に、裁判所は取引表示命令の申請は被告側に交付されるべきである、とした点であ る。このケースは稀であり、通常取引表示法の申請は当事者の一方だけに適用される。 換言すれば、もう一方の当事者には全く知らされないのである。しかしながら、被告 も同等である可能性がある為、裁判所は通達するよう指示した。このような状況では、 この指示によって被告側が日本製のミシンの輸入することの合法性にもとづいて、自 身を弁護する機会が与えられる。 第二は、裁判所がいかにこの判決に至ったかということである。裁判所としては輸入 された日本製のミシンが工業用に該当するかどうかを判断する必要があった。マレー シアで登録されている、日本製ミシンの飛んでいる馬のロゴが“工業用ミシン”にの み適用となっている為、これは重要な過程である。従って、この日本の会社は、マレ ーシアにおいて工業用のミシンにのみ自社の飛んでいる馬のロゴを使うことができ る。もしこのミシンが工業用として分類されなければ、マレーシアにおいて(この商 標は)保護されないということになる。 家庭用ミシンに対し工業用のミシンに対する基準となる定義がないことから、裁判所 は両社の主張を聞いた。原告は Harmonized Commodity Description Code(商品表 示調整法)をもとに、日本製のミシンは工業用とは限定できないとした。この商品表 7 示調整法は国際規定であり、マレーシアの税関が関税の為に商品を分類するのにも用 いられている。この商品表示調整法のもとに、日本製ミシンが家庭用と分類される可 能性があった。 しかしながら、裁判所はこの商品表示調整法は関税目的の為のみに使用されるもので あり、ミシンという物体をを正確に定義しないとした。ミシンの性質を決定するには、 その機能と常識をもって判断しなければならない。日本製のミシンはオーバーロック のステッチに限定されていた。家庭用ミシン(すなわち、家庭で使われているもの)は、 一般的な機能が使用できるということである。従って、一般的な主婦は、(機能が)限 定されているので、この日本製のミシンを購入しない。よって、この日本製のミシン を家庭用に分類するのは正しくない。裁判所は家庭用と工業用は全く逆である、とし た。このミシンが家庭用でないことから、これは工業用に分類されなければならない。 従って、原告の申請は却下された。 この判例において、裁判所は常識と機能を考慮するという方法をとった。これは賢明 な方法であり、時として法律に基いた主張は十分でないということを示している。 8 取引表示命令 1. 検察 vs ホン・ジン・ボン & アナー(Hon Jin Bong & Anor) [1999 年] 5 MLJ366 概要 商標‐取引表示‐虚偽の取引表示‐機械没収‐虚偽の取引表示使用で被控訴人が有 罪を申し立て‐1972 年の取引表示法(Trade Descriptions Act)32(2)のもとで機械 の没収は必要かどうか‐機械が訴訟係争物だったかどうか、あるいは違法行為の遂行 に用いられたかどうか。 事実 ホン・ジン・ボン(被控訴人)はジョホール・バルー(Johor Bahru)で工場を所有 しており、スノーマンのマーカーペンを製造していた。被控訴人の工場は、スノーマ ンのマーカーペン 25 万本に対し虚偽のマーク「Made in Japan」を使用したことか ら、警察機関の一斉摘発を受けた。被控訴人は 1 万リンギットの罰金刑を受け、25 万本のスノーマンのマーカーペンはすべて没収された。 しかし被控訴人は当該マーカーペンの製造、ラベル貼りに使用された機械の所有を許 可された。検察は、機械が差し押さえを解除され被控訴人に返却されたことに不満を 感じ控訴した。 合意した事実供述書では、マーカーペンはこれらの機械と共にマーカーペンを製造し ていた工場で発見された。機械が違法行為遂行に使用されたとは述べられていないが、 副検察官はそれが導き出すことのできる唯一の妥当な推理とし、さらに被控訴人がマ ーカー製造に当該機械を使用したことを否定しなかったと主張した。被控訴人側は、 検察は機械が違法行為遂行に使用されたという点を疑問の余地のない明白な形で立 証しなければならないと主張した。 裁定 控訴は棄却され、被控訴人は機械保有を許可された: (1) 証拠に関する覚書は、被控訴人が有罪となり、申し立てと事実に関する申し立て の承認をもとに有罪を宣告されたことを示していた。したがって、裁判所は、事 9 実供述書が 6 台の機械が違法行為遂行に使用されたことを示す内容を含んでいる かどうかを確認しなければならない。 (2) 「Made in Japan」という違法表示が 6 台の機械を用いてスノーマンマーカーの 上に、エンボス加工、印刷されたという点については法廷では示されていなかっ た。 (3) 告発された側が合意した事実供述書が存在しており、有罪判決はこれに基づいた ものであることから、合意した内容のみ、つまり供述書の範囲内で拘束される。 (4) 副検察官の被控訴人に対する推理と状況証拠を用いた主張は以下の理由から受 け入れられない: (i) 事実供述書を認めている場合、状況証拠は適用されない。さらに下位裁判所 で審理されていなかった。そして、 (ii) 犯罪事件において一連の事実から適切な形で導き出すことの可能な 1 つ以上 の推理が存在する場合、被告に対して最も有利な推理を採用するべきである。 (5) 機械が違法行為遂行に使用されたことを裁判所が納得できる形で立証していな かった。上訴裁判所の裁判官は、機械の被控訴人に対する返却を命じた際に、そ の点を考慮したうえで、事実に基づいて事実認定を行った。いずれにしても基本 的に裁判官は間違いを犯していないことから、当該裁判官の裁定を妨げる根拠は 存在していなかった。 コメント この判例は、1972 年の取引表示法(Trade Description Act)のもとに違法商品の摘発 に対し、柔軟性を示している。この違法商品はスノーマンのブランドのマーカーペン であった。「スノーマン」は合法の商標名であり、第三者の商標権を侵害するものでは ない。しかしながら、製造者はマーカーペンに「Made in Japan」と表示しており、ペ ンが日本から輸入され、良品であるという印象を与えると推定された。実際には、マ ーカーペンはマレーシアで製造されており、従って「Made in Japan」という表示は、 虚偽の原産国表示である。これは厳密な商標権の侵害にはならないが、TDA のもと、 虚偽の表示になる。 取引表示法(TDA)4(1)(i)において、製品の製造場所は、商標の一つと見なされてい る。従って、製造場所が偽って表記されている場合、TDA3(i)を違反していること 10 になる。取引表示法(TDA)の違反は罰金刑(最高 10 万リンギット)か、禁固刑(最長 3 年)、またはそのいずれをも伴う場合がある。このケースでは、この違反者は 1 万リ ンギットの罰金を科された。禁固刑が科されることは極めて稀であるが、違反者が罰 金を支払わなかった際には禁固刑が科される場合もある。 この判例では、検察が製造機械の差押さえ、没収も申し立てた。しかし、これらの機 械が違法商品の製造に使用されていた疑いの立証を裁判所が納得しなかった為、この 申し立ては棄却された。これは検察が機械が違法のマーカーペンの製造に使用されて いたという明確な事実供述書を入手しなかったことにある。その為、立証がより困難 になった。 11 2. アン・プーン・テイク(Ang Poon Teik)vs 検察 [1999 年] 5 CLJ 253 概要 商標‐商標表示‐被控訴人の「Double Axe」ブランドのスチールウール製品に関連 して承認された取引表示命令‐上訴人の「Lion」ブランドのスチールウール製品は 取引表示命令において虚偽の取引表示だったのかどうか‐取引表示命令は虚偽の取 引表示の決定的な証拠だったのか‐1972 年の取引表示法(Trade Description Act) s.16(3)‐購入者が上訴人の製品を被控訴人の製品と間違えるかどうか‐当該製品の 購入者に対して「general recollection test」を実施するかどうか。 事実 控訴人は下級裁判所において、自らのスチールウール製品を別の(原告)の製品とし て詐称通用したとして、1972 年の取引表示法の s.3(1)(B)のもとで有罪を宣告された。 この判決に対し被告が控訴していた。 上訴人は裁判所の決定に関して次の論点を提起した。つまり「Double Axe」ブラン ドに関連して、取引表示法の s.16(1)に沿って出された取引表示命令は控訴人の 「Lion」ブランドを含んでいたのかどうかという点である。最終的な答えは「ノー」 で、上訴人は無罪であり、当該体裁での取引を自由に行う権利を有すると申し立てた。 裁定 控訴は棄却された: (1)控訴人が「Lion」を商標とし、原告のものと同一のラベルデザインで、同じ色と デザイン体裁の 3 個のスチールウールを展示した際に、これらの製品を販売し、 原告製品として詐称通用させるという目的は断たれた。 (2)当該製品の綿密な調査に基づいて、当裁判所は検察当局が取引表示法 s.3(1)(b)の もとで本件を立証したことに疑問の余地はないとの結論に達した。当該製品は、 原告製品として販売、詐称通用していた完璧な例だった。名前は異なっていたが、 「Lion」ブランドと「Double Axe」ブランドの色、形、包装が非常に良く似てい たためである。 (3)取引表示法 s.16(3)に基づいて、マラッカ高等裁判所による取引表示命令は、 「Lion」の体裁が「Double Axe」商標に関連して、虚偽の取引表示だったという 12 決定的な証拠だった。取引表示命令と争うために「Double Axe」ブランドのスチ ールウール製品を使用する必要はなかった。必要だったのは、カラースキームや デザインという点において「Double Axe」ブランドに類似しているスチールウー ル関連製品を提出することだけだった。 (4)「Lion」ブランドのついたスチールウール 3 個の提供を申し出て、これを裁判所 内で預かり明細として人目にさらしたことによって、控訴人は、取引表示法 s.8 の内容によってこれらのオファーあるいは提供を余儀なくされた。さらに上訴人 が当該製品を裁判所内で配列したことによって、取引表示法 s.3(1)(b)に違反する 取引、ビジネスを行っていたことになる。 (5)「general recollection test」は「あまり字が読めず、大量の商品が非常に狭いス ペースに無秩序に陳列されている小規模で内部が薄暗い食品雑貨店で買い物を する人々」に対して適用されなければならない。このシナリオは即時上訴におい ても同様と考えられる。 (5a)郊外に居住する主婦や字の読めない買い物客がスチールウールを購入する際に は、 「general recollection test」における選択を基にすると思われる。こうした 買い物客が、カラースキームとデザインに引き付けられ、「Lion」ブランドを 「Double Axe」ブランドと間違えて購入することは避けられないだろう。つまり だまされる傾向にあるということである。 (5b)だまされることは、取引表示法の s.3(1)(b)のもとでの違法行為を構成するもので はないが、取引やビジネスにおいて、誰でも虚偽の取引表示が適用されている商 品の供給、供給のオファーを行えば、必然的に詐欺の概念につながる。詐欺は原 告だけでなく買い物客の心で誘因を作るために引き起こされるものに違いない。 コメント この判例は「Double Axe」と「Lion」という 2 つの異なるブランドの比較をしたもので ある。これは単に名前の比較ではなく、パッケージ全体の比較である。 取引表示命令(TDO)は「Double Axe」というブランドに関して適用される、すなわち 「Double Axe」ブランドの所有者はブランドを侵害した他者に対して訴訟を起こすこ とができた。「Lion」ブランド製品を販売したアン・プーン・テイク(Ang Poon Teik)に 対し、訴訟が起こされた。 アン・プーン・テイク(Ang Poon Teik)は「Lion」ブランドは 「Double Axe」ブランドとは異なる為、取引表示命令(TDO)は適用されないと主張 した。 13 「Double Axe」という文字と斧(Axe)の絵が、「Lion」の文字とライオンの絵と異なるの は明らかである。しかし、パッケージについても考慮しなければならなかった。この 場合、パッケージに使われている色と背景は非常に類似していた。「Double Axe」ブ ランドは背景に赤と緑のストライプで、「Lion」ブランドも同じ色で、同じストライ プを用いて、非常に類似した背景をしている。すなわち、問題は「Double Axe」と 「Lion」という文字が異なるにも関わらず、その色と背景が消費者の誤解を招き、混 乱させ得るかという点である。 これはマクロレベルの商標の比較をした判例である。これはイギリスとオーストラリ アの初期の裁判において制定されたものであり、商標の比較は「general recollection test」または「imperfect recollection test」においてなされなければならない。換言す れば、二つの商標、またはラベルを並べて、詳細まで比較するという方法をとるべき でではない、ということである。なぜならば、実生活において消費者がそのような比 較をする機会はないからである。むしろ多くの消費者は異なる商品と商標を別々に見 ており、よって類似点や差異の認識は消費者の記憶によるのである。記憶はその不確 かさから、普通の印象や記憶が最も重要なのである。 商標ラベルにおける最も重要な要因の一つに色がある。色は視覚に訴え、商標に特徴 を与える。これは初期のマレーシアにおける判例でも確認されている。例えば、A Clouet & Co Pte Ltd & Anor v Maya Toba Sdn Bhd (1996) 1AMR 577 がある。色は マレーシアの様な多民族国家においては極めて重要である。なぜなら、誰もが英語を 読めるわけではなく、非識字者もいる、すなわち文字の重要性は低くなるのである。 一方、色は誰もが簡単に認識できる。 ここでは、「Lion」ブランドで使われている色は「Double Axe」ブランドのものに非常 に類似していた。従って、視覚的にも非常に印象が強い。裁判所はまた、その商品す なわちスチールウールの購入者には、郊外に居住する主婦や、非識字者が含まれるこ とを考慮した。また、「大量の商品が非常に狭いスペースに無秩序に陳列されている 小規模で内部が薄暗い食品雑貨店」と表現されるような買い物の際の条件も考慮に入 れた。このような状況では、製品の色が非常に重要な役割を果し、おそらくブランド 名よりも重要であろう。従って、消費者はカラースキームとデザインに引き付けられ、 必然的に、「Lion」ブランドの製品を「Double Axe」ブランドだと思って購入すると裁 判所は判断した。このような状況では詐欺となり得る。 この判例はラベルやブランドイメージにおける色の重要さを改めて示した。また、商 標 の 比 較 に 使 わ れ る テ ス ト は 「 general recollection test 」 ま た は 「 imperfect recollection test」であると確認された。 14