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人工吸血装置による蚊の吸血実験

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人工吸血装置による蚊の吸血実験
〔Med. Entomol. Zool. Vol. 65 No. 3 p. 151‒155 2014〕
151
DOI: 10.7601/mez.65.151
人工吸血装置による蚊の吸血実験
鶴 川 千 秋 川 田 均 *
長崎大学熱帯医学研究所(〒852‒8523 長崎市坂本 1‒12‒4)
(受領: 2014 年 2 月6日; 登載決定: 2014 年 5 月1日)
Experiment on mosquito blood feeding using the artificial feeding device
Chiaki Tsurukawa and Hitoshi Kawada*
* Corresponding author: Vector Ecology & Environment, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University,
Sakamoto 1‒12‒4, Nagasaki 852‒8523, Japan (E-mail: [email protected])
Vector Ecology & Environment, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University,
Sakamoto 1‒12‒4, Nagasaki 852‒8523, Japan
(Received: 6 February 2014; Accepted: 1 May 2014)
Abstract: Experiments on blood feeding of Aedes aegypti using the artificial membrane feeding system (Hemotek
Ltd., Blackburn, UK), selection of good animal bloods and membranes, which were commercially available from
reagent manufacturers or food companies, as good experimental materials for artificial membrane feeding of
mosquitoes, were carried out. Among the 3 kinds of preserved bloods (chicken, bovine, and equine), the equine
defibrinated blood, and the equine hemolyzed blood, the preserved bloods gave the best feeding results. Natural
porcine gut for sausage casing was the most successful membrane as compared to the two collagen films and
Parafilm®. Combinational use of the bovine preserved blood and the porcine gut membrane gave good feeding
results for Ae. aegypti and Anopheles stephensi.
Key words: artificial membrane feeding, Aedes aegypti, Anopheles stephensi, preserved blood, porcine gut
緒
言
動物吸血性昆虫の実験室内での継代飼育には,動物の血液
材料および方法
1. 人工吸血装置
の定期的な供給が必須である.動物の生体を使用する方法が
Hemotek Membrane Feeding System(Hemotek Ltd., Blackburn,
この目的のためには最も簡便であるが,動物の飼育設備が別
UK; 以降 HMFS と表記)を使用した.装置は,メンブレン
途必要とされること,その維持には経費的,環境衛生的,動
をゴムリングで装着できる Meal reservoir(少量の血液を入れ
物実験上の倫理的な問題が常につきまとうこと,さらには近
ることができるアルミニウム製の容器)とこれを装着する
年,英国に端を発する動物福祉(animal welfare)に対する問
ヒーター部からなる Feeding Unit と,この Feeding Unit 5 個を
題意識が日本国内においても急速に高まりつつあることが
大きな障壁となっている.我が国においては,平成 18 年 6 月
同時に接続できる温度コントローラー部とで構成されている
(Cosgrove et al. 1994; Fig. 1).
に動物の愛護及び管理に関する法律(平成 17 年法律第 68 号)
を一部改正する法律が施行され,動物を科学上の利用に供す
る場合の方法,事後措置等の条項に 3R(Refinement,苦痛軽
減; Replacement,代替法利用; Reduction,使用数削減)が
2. 供試虫
ネッタイシマカ Aedes aegypti(L.)(2000 年にシンガポール
で採集し,以後室内で継代飼育されている系統)
明文化された.英国を中心とする先進諸国では既に上記 3 原
則に則った政策のもとに,動物を用いない吸血昆虫の人工吸
血がごく普通の手段となっている.
3. 血液選択実験
HMFS に付属のメンブレンを使用し,血液の選択実験を
上記のような背景の中で長崎大学熱帯医学研究所において
行った.血液は,実験用血液として購入可能な動物血液 5 種
も,動物実験に対するグローバルな動向に対応すべく,人工
類 を 実 験 に 供 し た(Table 1).HMFS の Meal Reservoir に,5
吸血装置の導入を試みているところである.本報告では,英
種類の血液を約 3∼4 ml スポイトで入れ,メンブレンを被せ
国 Hemotek 社において市販されている人工吸血装置(Hemotek
て付属のゴムリングでこれを固定した.これをヒーター部
5WIB 100)を吸血動物の代わりに使用し,蚊を飼育するにあ
に装着し(Fig. 1-1),コネクターを温度コントローラーに繋
たって,容易に入手可能かつ蚊の発育に適した市販の実験用動
いだ(Fig. 1-2).ヒーターの温度は 37.5°C に設定した.ナイ
物血液,および吸血用のメンブレンの選択に関して行った実験
ロンネット製のケージ(20 cm×20 cm×30 cm)を 5 ケージ準
結果を報告する.吸血実験には,実験用の蚊種として世界的に
備し,これにそれぞれ未吸血の雌蚊(5∼10 日齢)を 50 ある
最も頻繁に使用されている蚊種の中から,ネッタイシマカ Aedes
いは 70 頭放った.上記の 5 種の血液を入れた Feeding Unit を
aegypti(L.)と Anopheles stephensi Liston を選択して使用した.
各ケージの天井部分に,メンブレンがケージのネットに密着
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Med. Entomol. Zool.
するように同時に設置し,2 時間供試虫にケージのネットを
介して吸血させた.吸血した成虫についてはその数を記録
し,少量の蒸留水を入れて内側に濾紙を巻いた容積 20 ml の
ガラスバイアルに吸虫管で 1 頭ずつ放ち,ナイロンネットで
蓋をして室内に置き産卵させた.バイアルのネット部分には
3% の砂糖水をしみ込ませた綿を置いて,雌成虫が自由に吸
水できるようにした.産下された卵については,産卵数をカ
ウントし,蒸留水の入った 50 ml のプラスチックカップに卵
を移してその後の孵化および羽化を観察した.実験は,温度
25°C,湿度 75%, 16L8D の室内で行い,7∼11 反復実施した.
また,対照実験としてヒトの腕を吸血させた雌蚊 15 頭につ
いて,同様に産卵数,孵化数,羽化数の観察を行った(1 反
復).
4. メンブレンの選択実験
ウシ保存血液を使用して,メンブレンの選択実験を行っ
た.実験に供したメンブレンを Table 2 に示した.4 種のメン
ブレン中,ブタ腸ケーシングは唯一天然素材であるが,塩漬
けにされているため,予め蒸留水で洗って塩抜きしたものを
使用した.各メンブレンを Meal Reservoir の大きさに合うよ
うにカットし,ウシ保存血液を入れた Meal Reservoir にゴム
リングで装着した.それぞれの Feeding Unit を,各々供試虫
50 頭を放った 5 つのケージの天井部分に,メンブレンがケー
ジのネットに密着するように設置し,2 時間供試虫にケージ
のネットを介して吸血させ,実験 3 と同様に吸血雌数の記
録,産卵数,孵化数の観察を行った(2 反復).
5. HMFS による Anopheles stephensi の吸血実験
Fig. 1. Photo of Hemotek Membrane Feeding System.
Feeding unit with meal reservoir equipped with blood sample
and membrane (Fig. 1-1). Four feeding units put on mosquito
cages and connected to temperature controller (Fig. 1-2).
ウシ保存血液およびブタ腸ケーシングを用いて,ハマダラ
カの 1 種である An. stephensi(国立感染症研究所より入手した
室内飼育系統)の吸血実験を行った.ケージに未吸血の雌成
虫 50 頭を放ち,Feeding Unit をセットして 2 時間経過後に吸
Table 1. List of Animal blood samples tested for Hemotek Membrane Feeding System.
Supplier
Price (/100 ml)
Term of Validity after
Production
Nippon Bio-Test Laboratories Inc.1)
Nippon Bio-Test Laboratories Inc.
Nippon Bio-Test Laboratories Inc.
Nippon Bio-Test Laboratories Inc.
Nippon Bio-Test Laboratories Inc.
2800 yen
9200 yen
6500 yen
3800 yen
6500 yen
4 wk at 2‒8°C
4 wk at 2‒8°C
2 wk at 2‒8°C
2 wk at 2‒8°C
1 yr at − 20°C
Blood Samples
Equine Blood, Preserved
Bovine Blood, Peserved
Chicken Blood, Preserved
Equine Blood, Defibrinated
Equine Blood, Hemolyzed
1)
http://www.nbiotest.co.jp/product/product5.html
Table 2. List of Membrane samples tested for Hemotek Membrane Feeding System.
Membrane Samples
1)
Porcine gut (Salted)
Collagen Casing (Artificial)2)
Parafilm®
Collagen Membrane (Artificial)
1)
Supplier
3)
Garden Cook
Ma’am Co., Ltd.4)
As One Co., Ltd.5)
Hemotek Ltd.
http://www.garden-cook.com/products/120002nc.html
http://www.ma-am.jp/shop/shop.cgi?id=1586
3)
http://www.garden-cook.com/index.html
4)
http://www.ma-am.jp/shop/
5)
http://www.as-1.co.jp/
2)
Use Purpose
Price
Casing for sausage
Casing for sausage
Laboratory use
Accessory of HMFS
1150 yen (2 m×3)
970 yen (12 m)
̶
1800 yen (1 m×0.4 m)×5
Vol. 65 No. 3 2014
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血蚊数の記録を行い,その後上記の実験と同様に産卵数,孵
保存血にはやや劣るものの,統計的には両者と差の無い結
化数の観察を行った(2 反復).
果となった(p>0.05).ウシ保存血,ニワトリ保存血,ウ
マ脱繊維血,ウマ保存血の 4 種の 1 雌あたり産卵数は,それ
ぞれ 44.4, 57.1, 45.3, 43.6 であり,ニワトリ保存血が最も産卵
6. 統計処理
血液選択実験あるいはメンブレン選択実験による吸血雌
数が多く,次いでウマ脱繊維血,ウマ保存血,ウシ保存血
数,産卵雌数についてはポアソン分布を,1 雌あたり産卵数
の順に産卵数が多かったが有意な差ではなかった(p>0.05;
については正規分布を仮定し,説明変数を血液の種類,実
Fig. 2-3).平均孵化率はそれぞれ 72.0%, 87.1%, 82.0%, 64.9% と
験日をランダム効果として,フリーソフトウェア R の lme4
なり,4 種の血液間に有意な差は見られなかった(p>0.05;
関数を用いて一般化線形混合モデルによる分析を行った.
Fig. 2-4).ウマ保存血,ウマ脱繊維血,ウシ保存血の 3 種に
ま た,R の パ ッ ケ ー ジ multcomp を 使 用 し,Tukey’s HSD-test
ついては,孵化幼虫の羽化を観察したが,それぞれ,70.3%,
によって血液間の多重比較を行った。孵化率については,
87.3%, 74.4% の値を示した.対照実験としてヒトの腕を吸血
arcsin 変換した応答変数について正規分布を仮定し,上記と
させた雌蚊 15 頭の 1 雌あたり産卵数,平均孵化率,羽化率は
同様の解析を行った.
それぞれ 92.9, 81.5%, 84.0% であった.
結
果
1. 血液選択実験
5 種 の 血 液 に よ る 実 験 結 果 を Fig. 2 に 示 し た. ウ シ 保 存
2. メンブレン選択実験
4 種 の メ ン ブ レ ン に よ る 実 験 結 果 を Fig. 3 に 示 し た. コ
ラーゲンケーシング,HMFS に付属のコラーゲンフィルム,
血,ニワトリ保存血,ウマ脱繊維血,ウマ溶血,ウマ保存
パラフィルム,ブタ腸ケーシングによる吸血雌数(吸血時間
血による吸血雌数(吸血時間 2 時間)は,それぞれ 7.7 頭,
2 時間)は,それぞれ 0 頭,4.5 頭,10.5 頭,34.0 頭で,ブタ
8.3 頭,5.3 頭,0.4 頭,7.4 頭(実 験 に 供 し た 平 均 雌 数 62 頭
腸ケーシングが有意に他のメンブレンを上回った(p<0.05;
中)で,ウマ溶血を除いた 4 種の血液間に差は見られなかっ
Fig. 3-1).吸血後に産卵した雌数は,それぞれ 0 頭,2.5 頭,
た(p>0.05; Fig. 2-1).吸血後に産卵した雌数は,それぞれ
4.0 頭,30.5 頭 と な り, 同 様 に ブ タ 腸 ケ ー シ ン グ が 他 を 上
5.1 頭,6.7 頭,2.5 頭,0 頭,4.9 頭 と な り, ニ ワ ト リ 保 存 血
回った(p<0.05; Fig. 3-2).HMFS に付属のコラーゲンフィル
とウマ保存血がウマ脱繊維血に比べて有意に高い値を示し
ム,パラフィルム,ブタ腸ケーシングの 3 種の 1 雌あたり産
た(p<0.05; Fig. 2-2).ウシ保存血はニワトリ保存血とウマ
卵数は,それぞれ 53.8, 49.0, 52.6 となり,3 種のメンブレン間
Fig. 2. Number of blood-fed females, number of oviposited females, number of eggs per female, and hatchability of eggs oviposited
by Aedes aegypti with different types of animal blood by artificial membrane feeding with Hemotek Membrane Feeding System.
The collagen film attached the Hemotek system was used as membrane. Boxes and bold lines indicate the 1st and 3rd quartiles,
and medians, respectively. Broken lines indicate the minimum and maximum values. Circles are outliers. Different letters indicate
significant difference by Tukey’s HSD test (p<0.05). Average value for each blood is shown above each box plot.
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Med. Entomol. Zool.
Fig. 3. Number of blood-fed females, number of oviposited females, number of eggs per female, and hatchability of eggs oviposited by
Aedes aegypti with different types of membrane by artificial membrane feeding with Hemotek Membrane Feeding System. The bovine
preserved blood was used as blood meal. Boxes and bold lines indicate the 1st and 3rd quartiles, and medians, respectively. Different
letters indicate significant difference by Tukey’s HSD test (p<0.05). Average value for each membrane is shown above each box plot.
Table 3. Membrane feeding of Anopheles stephensi by
Hemotek Membrane Feeding System1).
Experiment Experiment
Average
1
2
No. of Females Oviposited
(/50 Female Used)
Total No. of Egg
No. of Egg per Female
Hatchability
28
33
30
879
31.4
84%
1010
30.6
91%
944.5
31.0
88%
などを溶かした溶液(アルセバー氏液)が元の血液に対して
1 : 1 で配合された血液,脱繊維血は血液凝固因子のフィブリ
ノーゲンを取り除いた血液,溶血は脱繊維血液を凍結融解し
赤血球が破壊された血液である.今回の血液選択実験におい
て吸血雌数,1 雌あたり産卵数,孵化率を総合的に評価する
と,ウマ・ウシ・ニワトリの保存血,脱繊維血,溶血の 3 種
の血液の中ではウマの保存血が最も人工吸血に適していると
考えられる.おそらく,3 種の血液中では保存血が最も生体
から採取した血液に近い状態であることがこの原因であると
Bovine preserved blood and porcine gut as membrane were
used.
思われる.ただし,保存血はアルセバー氏液によって 2 倍に
に有意な差はなかった(p>0.05; Fig. 3-3).平均孵化率はそれ
存血中では,ニワトリ保存血が最も総合的に成績が高く,ウ
ぞれ 65.0%, 92.0%, 86.2% となり,パラフィルムとブタ腸ケー
シ保存血とウマ保存血がこれに次ぐ結果となった.メーカー
シングが HMFS に付属のコラーゲンフィルムを有意に上回っ
の情報によると,保存血の冷蔵保存条件下での使用期限は,
た(p<0.05; Fig. 3-4).
ニワトリ保存血で製造後 2 週間,ウマ保存血およびウシ保存
1)
希釈されているために,ヒト腕からの吸血に比べると 1 雌あ
たりの産卵数が半減したものと思われる.供試した 3 種の保
血液で製造後 4 週間となっている(Table 1).さらにニワト
3. HMFS による An. stephensi の吸血実験
リ保存血は,他の保存血に比べると血液成分の凝固が早い傾
ウシ保存血とブタ腸ケーシングを使用して An. stephensi の
向が見られ,2 週間以内に使い切るような使用条件でない限
人工吸血を行った結果を Table 3 に示した.An. stephensi の雌
り,実際の蚊の飼育や吸血実験においてはウシ保存血あるい
成虫は,2 時間の吸血時間で 60% が吸血,産卵し,1 雌あた
はウマ保存血の使用が適していると結論できる.保存血には
りの産卵数 31.0,孵化率 88% の結果を示した.
生体から採取した血液に含まれる成分(ATP, ADP など)が
考
察
脱繊維血や溶血に比べ多く残存していることが好成績の一因
と思われる.
今回の実験に用いた実験用の動物血液として入手可能な血
過去の人工吸血実験に関する報告を見ると,ヒト血液
液中,保存血は凝固を抑える為にクエン酸,ブドウ糖,食塩
(Kasap et al., 2003; Mishra et al., 2005; Nasirian and Ladonni, 2006;
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Phasomkusolsil et al., 2013),ブタ血液(Hagen and Grunewald,
は,イエカや蚊以外の吸血性昆虫への適用可能性の検討を試
1990; Cosgrove et al., 1994),ウシ血液(Kogan, 1990),ウサギ,
みたい.
ヒ ツ ジ, モ ル モ ッ ト な ど の 血 液(Novak et al., 1991; Tseng,
動物由来の成分を組み合わせて人工血液を作り,吸血嗜
2003; Phasomkusolsil et al., 2013)を使用した例があるが,い
好性や飼育実験を行った結果がいくつか報告されている
ずれも生体から採取した血液を使用している.生体から採取
(Kogan, 1990; Cosgrove and Wood, 1995).人工血液の成分中,
した血液が保存血や脱繊維血,溶血に比べて蚊の生育に適し
γ- グロブリンは卵の発育開始を促す因子,ヘモグロビンは吸
ていることは当然であるが,入手方法や保存期間の問題,バ
血のための視覚的刺激因子,アルブミンは卵発育に必要なタ
イオハザードの危険性など,幾つかの問題点をクリアする必
ンパク源,アデノシン三リン酸(ATP)は味覚刺激として添
要があり,予算や設備の限られた研究機関では導入が困難で
加されている.メンブレンを使用した人工吸血の究極の到達
あると思われ,今回成績の高かった保存血のように実験用に
点は,このような人工血液を使用した完全に動物フリーな飼
品質管理(採血動物の健康管理,無菌処理等)されている市
育環境の確立であろう.当然蚊の種類によって血液嗜好性や
販の血液の使用が推奨される.
栄養要求は異なってくると思われ,個々の蚊種に応じた詳細
Phasomkusolsil et al.(2013)は,ハムスターからの直接吸血,
メンブレンを使ったモルモット血液,ヒト血液,ヒツジ血液
によるハマダラカ類とネッタイシマカの産卵への影響につい
な条件設定が必要不可欠であるのは言うまでもない.
謝
辞
て調べているが,飽血雌の割合はいずれの血液もハムスター
本研究を行うにあたり,貴重な助言と情報を頂いたリバ
からの直接吸血に比べ差がないのに対し,ヒツジの血液は他
プール大学熱帯医学校(当時)阿部眞由美氏,住友化学株式
の血液に比べて蚊の産卵に適しておらず,産卵数や孵化率が
会社住田佑亮氏に深く感謝の意を表する.
低下することを報告している.今回の実験においても,溶血
を除いた他の血液間に吸血雌数の差は見られず,蚊は血液の
栄養条件の優劣にかかわらず吸血を行うことが示唆された.
溶血は血中の細胞成分が破壊された血液であり,おそらく蚊
に対して吸血を促す味覚因子が他の血液に比べて低下してお
り,これが吸血雌数の低下に関係していると推察される.
今回,実験に用いたメンブレンは,天然素材(腸)ある
いは人工素材(コラーゲン)で作られたソーセージ製造用
のケーシング,実験用のパラフィルム,および HMFS に付属
しているコラーゲンメンブレンの 4 種である.メンブレンの
選択実験では,ブタ腸由来の天然ケーシングが HMFS に付属
の人工コラーゲンフィルムを大きく上回る成績を示した.過
去の報告を見ると,最もよく人工吸血実験に使われているの
はパラフィルムであり(Kogan, 1990; Kasap et al., 2003; Tseng,
2003; Mishra et al., 2005; Nasirian et al., 2006),次いでコラーゲ
ンフィルムやナイロンネットが使われている(Cosgrove et
al., 1994; Cosgrove and Wood, 1995).Novak et al.(1991)は,マ
ウスの皮膚,ウズラの皮膚,ヒツジの腸,ラテックス製コン
ドームの 4 種のメンブレンによる人工吸血実験を行っている
が,マウスとウズラの皮膚が良好な成績を示したことを報告
している.著者らの知る限りソーセージ用のケーシングを使
用した吸血実験は Phasomkusolsil et al.(2013)によって報告
されているのみである.パラフィルム等の人工物は入手の容
易さから使われていると推察されるが,今回の実験により天
然由来のケーシングの有用性が明らかとなった.ブタ腸ケー
シングは価格も安く国内での入手も容易であるために,今後
の人工吸血実験に有用な材料となると思われる.ブタ腸ケー
シングとウシ保存血は,ハマダラカ An. stephensi の飼育にも
適用可能であることが今回の実験により示唆された.今後
文
献
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