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最終報告 - 日本大学

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最終報告 - 日本大学
ストックホルム大学
交換留学報告書
留学期間 2012 年 8 月 26 日~2013 年 6 月 26 日
法学部政治経済学科(国際政治経済コース)4 年
寺
島
尚
志
私にとってまさに夢の一年が終わりを告げたのは 2013 年 6 月 26 日、スウェ
ーデンから日本に帰国した日である。ノーベル賞の記念講演の場としても使わ
れるストックホルム大学は、創立 1878 年と歴史も長く、世界大学ランキングで
も毎年 100 位以内に入る非常にレベルの高いスウェーデンの大学である。スウ
ェーデンは日本のように四季の変化に富み、現地の人でさえ鬱になると言われ
る冬は厳しく、日中に太陽はほとんど顔を出さない。反対に、夏は北部で白夜
も観測されるほど日照時間は長く、美しい緑と透明感のある太陽光が街を暖か
く包み込む。このような自然豊かな国、それがスウェーデンである。1年間と
いう長いようで短い交換留学生活が終わってしまった現在、非常に物寂しい想
いでこの交換留学報告書を書き進めているが、この報告書によってまた一つ区
切りをつけ、次なる一歩への推進力としたい。
単に留学というと、多くの人は留学先にアメリカやイギリスなどの英語圏を
考えがちかもしれない。スウェーデン語が母国語であるスウェーデンを敢えて
選ぶ理由は何か。
第一のキーワードは、
“第二言語としての英語”である。現在、世界では英語
を母語とする人口よりも、第二言語として使用する人口の割合の方が圧倒的に
大きい。イギリスの言語学者、デイヴィッド・クリスタル氏の推計によれば、
2006 年の時点で世界の英語話者の 70%は非ネイティブスピーカーに相当する
そうだ。これは、もはや英語がネイティブだけの言語ではなくなってきている
ということを意味し、同時に、非ネイティブ同士が英語でコミュニケーション
をする機会が格段に増えているといえよう。そのような状況において、事実上
世界共通語である英語をより実用的に運用するためには、非英語圏の人々が第
二言語として英語を話す際に生じる母語由来の訛りに慣れておくことが今後重
要になってくるのではないだろうか。つまり、ネイティブスピーカーのみなら
ず、ヨーロッパを始め、世界中の人々と英語を用いてコミュニケーションをす
る必要性があるのだ。
次に、人種・文化の多様性が第二のキーワードとなる。小学校から大学院ま
での授業料が税金でまかなわれるスウェーデンでは、欧州連合に住む人々でさ
えもスウェーデンに住む人々と同じように無料で学士や修士を取得できるため、
世界はもちろん、ヨーロッパ各国からも毎年数多くの学生が集まる。そのよう
な常に多種多様な人々が活発に交流を続けている場所に1年間身を置いて生活
することで、複眼的思考能力を向上、そして、日本では得られない価値観も身
につけることができるはずである。以上のように、自分の専攻分野だけでなく、
母語に由来する英語の訛り、そして、人種・文化の多様性を同時に学ぶのに最
適な場所がスウェーデンであると考え、ストックホルム大学の交換留学を志望
した。余談ではあるが、2013 年に EF Education First が発表した非英語圏を
対象とする英語習熟度ランキングをみると、スウェーデンは他の北欧諸国と肩
を並べつつも一位にランクイン(ちなみに日本は同ランキングで 26 位)してい
る。実際に現地で生活を始めると、スウェーデン人の英語力の高さには驚かさ
れた。フランス人やドイツ人などの友達と比較しても、彼らは卓越した自然な
表現と綺麗なアクセントで英語を話しているのだ。また、スウェーデンでは、
基本的に街中に溢れる標識は全てスウェーデン語で書かれているが、私が英語
で人々に道を尋ねると、誰しも愛想良く綺麗な英語で丁寧に説明してくれた。
そのスウェーデンの多様性の中で学んだことは数え切れないが、学習面では
上述のように母語に由来する独特の訛りに加え、ネイティブスピーカーの訛り
にも慣れることが出来たことは私にとって非常に有意義であった。面白いエピ
ソードが一つある。私の友人であるロンドン東部出身のイギリス人は基本的に
英語を話すとき、とりわけ、”t”を発音しない。いわゆる、Cockney 方言の一種
である。例えば、”Forty”はカナカナで表記すると「フォーイー」のように聞こ
え、”Party”は「パーイー」と聞こえる。まだ彼に出会ってそれほど時間の経た
ないころ、私たちがエストニア共和国の首都、タリンへ二人で旅行に行ったと
きのことである。その日は世界遺産にも登録されている旧市街を散策し、トー
ムペア城の壮大な城壁や城塞、帝政ロシア時代に建てられたロシア正教のアレ
クサンダー・ネフスキー大聖堂などを見て回った。時刻も夕方に近づき、お互
いにそろそろ疲れも見え始めたそのとき、彼は突然「マイフィーハー」と私に
叫んだ。私はそのとき全くその意味を理解できず、失礼ながらも内心で何か新
しいギャグかなと思ったほどである。英語で表記すると”My feet hart.”となり、
足が痛いという意味となる。文字に起こせば理解出来ても、咄嗟に”t”を発音せ
ずに話しかけられたため、混乱してしまったのだ。日本語にも大阪弁などの訛
りがあるように、ネイティブスピーカーが話す英語にも数多くの訛りが存在す
る。友人との会話を通して、各国における母語由来の訛りも含め、多様なネイ
ティブの訛りを体感して学ぶことができた経験は、ストックホルム大学で選択
した授業以上に実践的語学力向上へと大きく貢献したように思う。私自身、今
回の留学でおおよそ 20 ヶ国以上の人々と友達になり、彼らと英語を用いてコミ
ュニケーションをとった結果、英語のリスニング力は渡航前よりもかなり向上
したと感じている。
次に、スウェーデンにおいて日々生活していく中で学んだことを大まかに三
つに分け、紹介したい。まず一つ目は、人間に国籍や人種の壁はないというこ
とだ。もちろん、各国には独自の文化があり、それに準じて人々も生活してい
るわけであるが、人として根源的な部分は日本人も外国人も基本的に一緒であ
ると彼らとの生活を通して感じた。例えば、授業後に友人たちとバーに飲みに
行ったとき、彼らの物事に対する考え方こそ私と異なるものの、他愛の無い会
話の話題や、人生の悩みなど、日本人と通ずるものが数多くあったのを覚えて
いる。人種に壁はないということを理解し、お互いに意思疎通ができる言語さ
え話すことができれば、コミュニケーションをとる際に何も恐れることはない。
二つ目に、自分の探求したいものを追い求めるべきであるということだ。こ
れはスウェーデン人の基本的な生き方でもある。日本では高校卒業後、大学へ
の進学というのが一般的な進路であるが、スウェーデンでは高校卒業後、働き
たい人は働き、勉強したい人は大学に進学する。つまり、スウェーデン社会で
は他者との対比より、自己の意志に重きが置かれる傾向にあるのだ。さらに、
周りの意見に左右されない彼らは、日本のように上下関係を重視するというこ
とはほとんどなく、平等性を重視する。日本によくある男子寮、女子寮という
区別もスウェーデンには存在しない。私自身もそのような彼らの生き方に触発
され、一度しかない自分の人生において自分の探求したいものをできる限り突
き詰めていこうと心に決めた。
最後に、人間の本質は基本的に同じであると前述したが、欧州ならではの文
化の多様性を体感できたことを付記しておきたい。ヨーロッパでは、沢山の国
が陸を通して隣接し、一度国境を越えればそこは異国の地である。友人との交
流を通して、各国の人々がそれぞれ築いてきた文化を学び、共有し、視野を広
げることができたことは、今後の私の人生にとって大きな糧となることと確信
している。
今回の留学によって近年話題となっている“グローバル人”へのステップを大
きく踏み出すことができたように思う。今後の進路としては海外の大学院を検
討しており、そこでさらに自分自身を成長させ、真の“グローバル人”として
活躍する力量を獲得したい。
毎週月曜日には市内のジャズクラブに足を運び、現地のミュージシャンと共に
セッションしていた。この写真は、そのときの一枚である。ここで出会った人々
とは今も SNS を通して繋がっており、時折連絡を取り合う仲である。
謝辞
このような交換留学という素晴らしい機会を与えてくださった日本大学に心
より感謝申し上げます。
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