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講演概要(PDF:202KB)
「新たな価値創造と産業構造の転換」 株式会社ガーコ 代表取締役 淵上 英敏 ⽒ 最初に⾃⼰紹介。前職は NTT で 2007 年に今の会社を創業。創業の時には、IT、クリエイティビティ、⾦融が 今後融合して⼤きな市場になっていくのではないかという予感があった。前職での経験から、これらの分野をつな ぐビジネス、プロデュースには⾮常に意義があり、チャンスだと考えていた。現在8年⽬を迎え、これまで携わったプ ロジェクトをいくつか紹介したい。 ディズニーの元会⻑のマイケル・アイズナーは、インターネットの世の中になるとクリエイター、ディレクターたちが⾃分 たちで作ったコンテンツをユーザに直接届けていくということを標榜していて、ディズニーを辞めた後、Vuguru という コンテンツ投資とコンテンツをプロデュースする会社を作り、若⼿のディレクター、プロデューサーに投資をして、しか も新しいメディアに適した新しいフォーマットで、例えば 90 秒×80 話の連続ドラマをネットでユーザに届けるという ことをやっていた。我々はアイズナーと交渉して、それら新しいフォーマットのコンテンツを⽇本向けにリメイクする権 利を購⼊し、⽇本向けにリメイクする制作委員会を作って出資をし、YouTube、mixi などとタイアップしてこの連 続ドラマの中で出演者が着ている服をそのまま購⼊できるようなしくみを作って展開した。 2008 年、2009 年頃には⼥⼦中⾼⽣の間にケータイ⼩説という領域がジャンル化し、我々はそのプラットフォー ム企業と⼀緒に新しいカルチャーをコンテンツビジネスにできないかと考え、ケータイ⼩説を 3 分×30 話の連続ド ラマにして毎⽇⼥⼦⾼⽣たちに届けていく事業を⽴ち上げた。その際に新しいディレクター、クリエイター、アーティ スト、俳優、ミュージシャンを起⽤して、毎⽇主題歌を配信するビジネスをやった。この時の⾳楽著作権が今でも 使⽤料が⼊ってくるような息の⻑いビジネスに育っている。 また、エンターテイメントやクリエイティビティをコンテンツビジネスだけでなく、地域の活性化やクールジャパン、⽂化 の世界への発信に役⽴てたいということでも取り組んでいる。例えば沖縄では、新しいデザイナーやクリエイターと、 伝統産業をリデザインして沖縄のモノコトヒトを新たにブランディングしていくことにも取り組んでいる。 先ほど話した IT、クリエイティビティ、⾦融、これらをつなぐビジネスに挑戦ということで、我々はコンサルティング、ビ ジネスプロデュース、プロジェクトの実⾏⽀援を通してこうした分野に携わっている。 創業当初から⼆つの価値観を⼤事にしようということでやってきた。⼀つは新しい価値を作り新しい富を創造する ことに挑戦していくこと。⼆つ⽬はクリエイターやアーティストなどの創造性を持った⽅々、エンジニアやプログラマー、 職⼈など技術を持った⽅々を個々にサポート、ビジネスの機会を提供して社会の発展に貢献するということ。こ れまではコンテンツビジネスやエンタテインメントなどソフトの世界を中⼼にやってきたが、そういったソフトの世界で 培った実績やノウハウを他分野にも⽔平展開できるようになってきていると感じている。これからはソフトだけでなく ハードウェア、インターネット、ネットワークなどとの境界がなくなってきているので参⼊するチャンスと考えている。その 中で現在試⾏錯誤していることを今⽇の話の中で、今後の議論の材料として提供していけたらと考えている。 3つの流れで話をしていきたい。まずは、ものづくりのオープン化、⼆つ⽬が⽶国でフィールドワークの話、最後に 消費のトレンド作り。 まず、ものづくりのオープン化。 ココッパというスマホのホーム画⾯を着せ替えするアプリケーションがあるが、これはプログラミングを全く知らなかった 法学部出⾝の⼥性が、ベンチャーに⼊って研修をしてプログラミングを学び、⼆つ⽬にプロデュースしたアプリケー ションが北⽶や海外でヒットしているもの。また、⼄⼥電芸部といって、慶応義塾⼤学 SFC(湘南藤沢キャンパ ス)や東京芸術⼤学の⼥⼦⼤⽣たちが、⼿芸に電⼦⼯作の要素を加味して⾯⽩いプロダクトを作って世に出 しているというもの。つまり⼥性、デザイナーやアーティストが⾮常に活躍して製品やサービスの開発がカジュアルに なってきたということが⾔える。 海外でも、レゴと科学が融合する形で、MIT(マサチューセッツ⼯科⼤学)出⾝の⼥性らが開発し提供してい る littleBits(リトルビッツ)という商品がある。これは粘⼟をいじるように遊び感覚で電⼦回路を直感的に理解 していくことをサポートする商品。今欧⽶では STEM 教育 (Science,Technology,English,Mathmatics)から、これに ArtDesign を加えた STEAM 教育が重視 1 されており、特に先進国で新しい価値を作っていくためには、アート・デザイン分野を若い頃から涵養しておく必要 があると⾔われている。そうした背景から、このような商品が登場し、遊び感覚でものづくりやカスタマイズが可能に なり製品の組み⽴てがシンプルかつ簡単になってきたということが⾔える。 ものづくりのオープン化を⽀えるインフラとして Arduino や Raspberry Pi などのマイコンボードも出てきている。こ れらを使って誰でも楽しみながらものづくりが可能になって、極論を⾔えば、スキルさえあれば電⼦機器に関し てはできないものはない世の中になってきている。こういった世界を牽引しているのは、⽶国の⻄海岸。我々も 先⽇、3週間ほどサンフランシスコ、シリコンバレー、アリゾナ、シアトルを訪問し、いわゆるメイカーズ、メイカー ズを⽀える⼈、プロデュースする⼈、メイカーズを⽀えるインフラを提供している⼈、⾦融機関、メイカーズを輩 出する教育機関の教授陣といろんな議論をしてきた。⾊々とみなさんと共有したいことはあるが、時間の都合 上、特に本⽇はローカルモーターズという会社の話をしたい。 ローカルモーターズは世界中の⾞好きとインターネット・クラウドでつながって、どんな⾞を作るかを設計する、そして みんなで集まって、⾃分が乗る⾞を組み⽴てて乗って帰るというしくみを提供する会社。120 カ国以上、5,000 名以上の⾃動⾞のエンジニア、デザイナー、⾃動⾞好きがクラウド上のコミュニティでアイデアを出し合って、こんな 世界観がいいという構想や意匠のスケッチを出し合い、みんなで⾃動⾞を設計していく。そしてマイクロファクトリー という⼯場に⾃動⾞を買った⼈がきて、⾃動⾞を組み⽴てて乗って帰ることができる。 ⾞を組み⽴てるとなると、製造物責任の話が頭をよぎるが、最終的にユーザに 50%以上⾃作してもらうことで 法規制から逃れているという考えられたビジネスモデルでもある。 かといってローカルモーターズがただ場を提供してユーザに⾞を作らせているだけではなく、安全上重要なパーツに ついては熟練した技術者が設計して内製で組み上げている。6 ⽇間みっちり教育をして、付き添いでノウハウを 提供することで初⼼者でも⾃動⾞を最後まで組み⽴てて乗って帰れるようにするというコンセプトでやっている。 例えばステップ 1 はボルトの締め⽅、ステップ 2 はエンジンの原理、ステップ 3 はエンジンドレインの配線の仕⽅と いう具合に、⾞が出来上がるまでのことを全てオープンにテキストや画像で、分かりにくい部分は動画を使ってユ ーザに提供している。インテグラル型のようなすり合わせ型でものづくりをやってきた製造業の⽅々が聞くとのけぞっ てしまうようなことを展開している。 ⾃分も実際にローカルモーターズの⾞「ラリーファイター」に乗せられたが、スタントドライブも⾏って、安全上問題が ないか、新しいニーズがあるかどうか、新しい技術の何が必要になってくるかということを⾃分たちで検証している。 また、ユーザに組み⽴てさせることは新しいビジネスを作っていくことと捉えており、ミッションとしてコ・クリエイション、 ユーザと⼀緒に作ることを志としてビジネスを展開している。 ローカルモーターズからヒントとして得られることを⼤きく3つにまとめてみたい。 ⼀つは、「供給側と利⽤者側の間にリテラシーギャップのない市場は有望」だということだ。「ラリーファイター」は韓 国系⽶国⼈の学⽣がラフスケッチして出したものをベースにして、クラウド上のコミュニティで議論されて最終的な 形になった。マイクロファクトリーで購⼊者が⾃ら組み⽴てるフェーズでは、ローカルモーターズの熟練の技術者が 付き添って技術指導やノウハウを伝授していく。つまりローカルモーターズはユーザを置き去りにするのではなく、⾞ 好きや⾞のことをよくわかっているユーザと⼀緒になって新しい製品を開発して世の中に出している。ユーザのリテ ラシー、インテリジェンスをいかに⾼めていくかを⾃分たちのビジネスモデルの中に⼊れ込んでいるということだ。 ⼆つ⽬は「市場創造に不可⽋なファイナンスは需要側につける」ということだ。ローカルモーターズには、ラリーファイ ターだけでなく、ウェブサイトで⾊んなプロジェクトがあり、例えば 3D プリンタで⾞を作るプロジェクト、オープンソース で電気スケボーを作るプロジェクト、電動⾃転⾞のプロジェクト、⾞をキット化してユーザに通販してユーザの庭先 で組み⽴てるプロジェクト、そういう新しいプロジェクトをたくさんやることで、どのコミュニティが盛り上がっているか、プ ロジェクトに何⼈が登録しているか、どれだけ熱い議論がされているかということを把握している。つまりどこに需要 があるか、ユーザの溜まりがあるかを把握するように努めている。プロジェクトごとに世に出すタイミングを検証し、そ れを外部のクラウドファンディングサイト等を使って市場に早く出していくというサイクルを作っており、経営者や製 品開発者の直感だけで投資すると決めるパターンだけでなくて、成功させる確率を⾼めていくしくみを⾃分たちの 中でユーザとのコミュニティの中に持っているということだ。 2 3つ⽬は、「利⽤者の“知的な余剰”を集め、可視化することに注⼒」するということだ。ドミノピザと⼀緒にローカ ルモーターズが究極のドミノピザカーを作るというコンテストをネット上でやって、形・機能・技術を世界中から集め、 その中からいくつかのプロジェクトを選んで開発している。世界には、⾃動⾞のデザイナーになりたくて⾼い教育を 受けた⼈材、⾮常に勉強してリテラシーが⾼いが企業に⼊れなかった⼈材が多数いる。⾼い能⼒や知性を持っ ているけれども発揮する機会がない⼈材、いわば頭の中に知的な余剰在庫のある⼈材が世界中に散らばって いる。ローカルモーターズは、アマチュアだけど⾼度なスキルや知恵をもったユーザの知的な余剰を⾃分たちのとこ ろに集めて、⾃分たちの⼒に変えてユーザと⼀緒に win-win でビジネスを展開している。 ⼤企業になると、ユーザが何を望んでいるかということが現場と遠くなってしまい新しい製品を出していきにくくなる。 GE はローカルモーターズと提携して、アリゾナのマイクロファクトリーのようにユーザと⼀緒にものを作っていく FirstBuild(ファーストビルド)と呼ばれるコミュニティ⼯場をケンタッキー州のルイビルというところに出している。 まずはキッチン家電からユーザと⼀緒になってニーズを探したり、先⽉はルイビルで 3D プリンタをほぼ活⽤して作っ た⾞をお披露⽬し、新しい世界観を提案して新しいトレンドを作ったりしている。 最後に消費のトレンドづくりについて話をしたい。ものづくりが新しくなってくると、当然、サプライヤー側、製造側、 企業側がどんどん変わってくる。ただ、できればそれを供給側の世界だけの話、マニアックな世界だけの話だけで 終わらせるのではなくて、ユーザも巻き込んで買ってもらい、経済を活性化して地域でお⾦が回っていくようにする にはどうしたらよいのかが次のテーマだと思っている。 ⽶国で若者やトレンドセッター、techie(テッキー)たちに最近トレンドが⽣まれているホットな場所はどこかと聞 くと、Sightglass Coffee(サイトグラスコーヒー)とよく⾔われた。これはサンフランシスコの都会にあり、倉庫の ような店構えになっている。中には 1960 年代のドイツのビンテージものの巨⼤な焙煎機があり直接農場と契約 したコーヒー⾖が詰まれていて、ここで焙煎し⼀杯ずつコーヒーを⼊れてくれる。⼀杯 700〜800 円と⾼いが、時 間をかけて楽しむということを⼤事にしている。これはコーヒーの第3の波、サードウェーブコーヒーと⾔われているが、 既製品マス製品のカルチャーとは⼀線を画したリアリティ、⼈間性、精神性を感じるような新たなライフカルチャー スペースが出来てきている。⼆階にあがると、スターバックスのようなセカンドウェーブコーヒーでは物⾜りないトレン ドリ-ダーたちが集まって⾊んな議論をして新しいスタートアップをどう起こしていくのかを画策している。 こういう第3の波のコーヒーは、twitter の創業者でモバイル POS の Square の創業者でもあるジャック・ドーシ ーが投資をしてこうしたトレンドを作っている。ジャック・ドーシーは Square を始めるときに投資家を回ったそうだが、 紙の資料だけではなかなか投資家から快諾がもらえず、実際にプロトタイプを作って、リアライズされたものを投資 家に⾒せて 20 億円を集めたという。それを作った場所が TechShop。TechShop とは今まで製造業の従業員 しか使えなかった施設やハイエンドな機材を、⽉額1万円程で個⼈が誰でも使えるという⼯場の会員制フィット ネスジムのような場所。 TechShop はベンチャー企業だが、全⽶に拡⼤し近くドイツや⽇本にも展開していく予定。収益源は⼤きく 2 つ あり、1 つの柱は会費。例えばサンフランシスコでは当時 3,000 ⼈の会員がいたので、⽉商 3,000 万円を越え ている。もう1つの柱で伸びているのは教育カリキュラム。新しいものを作っていこうとすると⼀つの技術ではなくて ⾊んな技術の組み合わせが必要で、これからはインターネットの技術も必要になってくる。そうしたときに学びたい 需要がどんどん出てくるので、Arduino のプログラミングの仕⽅、3D プリンタの使い⽅、CNC フライス盤の使い⽅ などをカリキュラム化して教育事業がどんどん広がっているということだった。 また、会員相互に助け合うヘルプラインというしくみがあり、ここで新しいチームが出来ている。例えば IoT を使った スタートアップを起こしたい⼈がスマホアプリ作れる⼈を募集している。これから組織の枠を超えて異業種の⼈がつ ながっていく、そしてそれがチームになっていくということが⾮常に重要だと思う。 今⽇の場所もそうだと思うが、⼈と⼈がつながっていく場、⽇本でも新しく広がってきているファブラボのような場。こ ういった場が増えてきている。次の段階はこれからどうやって新しいビジネスを起こしていくかを試⾏錯誤し議論し ていくことが重要と思っている。 こういった流れを踏まえて、今後どういう形でやっていくか。我々も⾊々と試⾏錯誤している。例えば、⽇本の⼤ 企業の中にはソフトウェアとハードウェアの両⽅の理論・実務が分かる⼈材がいるが、昨今の状況の中で⼒が発 3 揮できていないケースが多い。もったいない。我々は、そうした⼈材に講師をお願いして毎週電⼦⼯作を教わっ ている。近い将来新しいもの作りやサービスが登場してきた時に、投資側として、⽬利きの能⼒やどのようにハン ズオン⽀援していくかが⾮常に重要になってくると思うので、まずは⼀から始めている。 もうひとつが教育。コンシューマーのインテリジェンスやリテラシーをどう⾼めていくかがこれから⾮常に重要で、ニーズ もあると思っているので、教育カリキュラム化のノウハウを⾃分たちで獲得していきたいと考えている。 すべきことはだいたい⾒えてきたので、具体的に⼤企業や研究所への提案や⾦融機関やファンドの⽅々との議 論をしながら、こういった新しいしくみを作っていこうと取り組んでいる。こういう場での縁が新しいビジネスが起こっ て地域も元気になっていくのではないかと期待している。 4