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JPEC NEWS 5月号を発行しました
CONTENTS
■ 特集
「JATOP第2回成果発表会開催」
◎技術報告 「ペトロリオミクス技術開発への取り組み」
「新規自動車・燃料研究事業
(JATOPⅡ)
について」
1
10
15
■ トピックス
「欧州ブリュッセル事務所紹介」
第8回
『月例報告会』
開催
19
27
2012.5
特集
「JATOP 第2回成果発表会開催」
~より良い地球環境を目指す自動車と燃料の挑戦~
平成 24 年 3 月 9 日(金)、イイノホールにおいて、
「JATOP 第 2 回成果発表会」が開催されました。
この成果発表会は、JATOP 事業の成果を広く皆様に公開・普及することを目的に実施されたもの
で、当日は、関係官庁、大学、企業、研究機関などから約 400 名の方々に参加いただきました。
JATOP とは、Japan Auto Oil Program の略で、経済産業省のご支援の下、大気環境保全を前
提として「CO2 削減」、「燃料多様化」、「排出ガス低減」の解決を目指した、自動車業界と石油業
界の共同研究プログラムとして、平成 19 年度より 5 年間の予定で実施されてきたものです。
平成 23 年度は、このプログラムの最終年度にあたり、これまでの成果を取りまとめた発表会
を開催いたしました。
発表会では、冒頭に主催者を代表して一般財団法人石油エネルギー技術センター(JPEC)理
事長の木村康よりご挨拶申し上げました。
引き続き、来賓として経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部石油精製備蓄課の牟田様より、
ご挨拶をいただきました。
成果発表会は、表1に示すように大きく 5 部構成にて実施いたしました。第 1 部では挨拶と、
概要説明を行い、第 2 部では「活動報告(1)」としてバイオ燃料や将来軽油などの自動車・燃
料研究分野の成果発表を、第 3 部では「活動報告(2)」として大気研究の成果発表を行ないま
した。第 4 部では特別講演として、欧州から CONCAWE(欧州石油環境保全連盟)のケニス・D・
ローズ(Kenneth D Rose)博士を、米国から CRC(Coordinating Research Council)のブレント・
K・ベイリー(Brent K. Bailey)氏をお招きし、欧米の自動車燃料をめぐる研究状況について紹介
いただきました。最後に第 5 部では、JATOP 全体の方向性と成果の審議機関である「自動車及
び燃料研究委員会」の委員長を務めていただいた東京工業大学・辰巳 敬 教授に「JATOP 活動の
総括と次期への期待」と題して 5 年間の総括と今後の研究に関して講演をいただきました。
1
2012.5
表1 JATOP 第 2 回成果発表会プログラム
JATOP 第 2 回 成 果 発 表 会 プ ロ グ ラ ム
1. 挨 拶
(1)主 催 者 挨 拶 :
9 : 3 0 ~ 9:40
木村 康(一般財団法人 石油エネルギー技術センター 理事長)
(2)来 賓 挨 拶 :
9 : 4 0 ~ 9:50
及 川 洋 ( 経 済 産 業 省 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 資 源 ・燃 料 部 石 油 精 製 備 蓄 課 長 )
(3) JATOP 活 動 概 要 :
9 : 5 0 ~ 10:10
斉藤 吉則(一般財団法人 石油エネルギー技術センター 自動車・新燃料部)
2. 活 動 報 告 セ ッ シ ョ ン ( 1)
座 長 : 小 川 英 之 ( 自 動 車 ・ 燃 料 専 門 委 員 会 ( 北 海 道 大 学 教 授 ))
(1) JATOP に お け る 自 動 車 ・ 燃 料 研 究 の 意 義 :
大 聖 泰 弘 ( 自 動 車 ・ 燃 料 専 門 委 員 会 ( 早 稲 田 大 学 教 授 ))
(2)ガ ソ リ ン 車 バ イ オ 燃 料 WG 報 告 :
廣瀬 敏之
(3)デ ィ ー ゼ ル 車 バ イ オ 燃 料 WG 報 告 :
金子 タカシ
食 】
【 昼
(4)デ ィ ー ゼ ル 車 将 来 燃 料 WG 報 告 :
澤 正彦
1 0 : 1 0 ~ 10:25
1 0 : 2 5 ~ 10:50
1 0 : 5 0 ~ 12:00
12:00~ 13:30
1 3 : 3 0 ~ 14:15
3. 活 動 報 告 セ ッ シ ョ ン ( 2)
座 長 : 若 松 伸 司 ( 大 気 専 門 委 員 会 ( 愛 媛 大 学 教 授 ))
(1) JATOP に お け る 大 気 研 究 の 意 義 :
坂 本 和 彦 ( 大 気 専 門 委 員 会 ( 埼 玉 大 学 連 携 教 授 ))
(2)大 気 企 画 WG 報 告 :
柴田 芳昭/茶谷 聡
憩 】
【 休
1 4 : 1 5 ~ 14:30
1 4 : 3 0 ~ 15:25
15:25~ 15:45
4. 特 別 講 演 ( ※ 同 時 通 訳 付 き )
座 長 : 塩 路 昌 宏 ( 自 動 車 及 び 燃 料 研 究 委 員 会 ( 京 都 大 学 教 授 ))
(1) Fuel Quality Issues and European Research:
15:45~ 16:25
Kenneth Rose( CONCAWE)
(2) Fuel Quality Issues and the U.S. Research Approach:
16:25~ 17:05
Brent K. Bailey( CRC)
5. 総 括 と 挨 拶
座 長 : 塩 路 昌 宏 ( 自 動 車 及 び 燃 料 研 究 委 員 会 ( 京 都 大 学 教 授 ))
(1)JATOP 活 動 の 総 括 と 次 期 へ の 期 待 :
1 7 : 0 5 ~ 17:35
辰 巳 敬 ( 自 動 車 及 び 燃 料 研 究 委 員 会 ( 東 京 工 業 大 学 教 授 ))
渡邊 学(一般財団法人 石油エネルギー技術センター 自動車・新燃料部)
(2)閉 会 挨 拶 :
1 7 : 3 5 ~ 17:45
中野 賢行(一般財団法人 石油エネルギー技術センター 専務理事)
2
図1 発表会会場と理事長挨拶
1.JATOP 概要
全体の活動報告に先立ち、当センター自動車・新燃料部より、JATOP の概要とその背景につい
て説明が行われました。
JATOP では図 2 に示すような研究テーマを設定し、5 年間にわたって研究を行ってきました。
5 年間のスケジュールを図 3 に示します。
また、これらのプロジェクトを推進するにあたって、委員会およびワーキンググループ(WG)
を設置し、議論を行ってきました。すなわち、個々のテーマに対しては関連業界の専門家からな
る WG を設置し、具体的な試験計画や試験結果についての議論を実施してきました。これらの結
果に対して研究領域ごとに学識経験者からなる自動車・燃料専門委員会および大気専門委員会を
設置し、技術的なアドバイスを受ける体制とし、プログラム全体の方向性および結果の最終的な
審議は、関連業界の有識者および学識経験者からなる自動車及び燃料研究委員会にて行なってき
ました。研究推進体制を図 4 に示します。
【自動車・燃料研究】
・ バイオマス燃料の利用技術の検討
CO2 削減・燃料多様化の方策の一つであるバイオマスの混合利用について、
CO2削減・燃料多様化の方策の一つであるバイオマスの混合利用について、
燃料と自動車に関する技術課題を明らかにし、対応策を含めた技術的知見を
得るための検討を実施
・ 将来のディーゼル燃料利用技術の検討
今後導入が見込まれる非在来型石油や分解系留分などの各種軽油用機材
を利用した燃料について、燃料と自動車に関する技術課題を明らかにし、対
応策を含めた技術的知見を得るための検討を実施
【大気質改善研究】
・ 高精度な大気質推計モデルの開発(沿道NO2, PM2.5への対応)
・ 将来の大気環境状態を予測・分析し、今後の諸施策に資するデータを提供
図2 JATOP の研究領域
3
を利用した燃料について、燃料と自動車に関する技術課題を明らかにし、対
応策を含めた技術的知見を得るための検討を実施
【大気質改善研究】
2012.5 ・ 高精度な大気質推計モデルの開発(沿道NO ,
2 PM2.5への対応)
・ 将来の大気環境状態を予測・分析し、今後の諸施策に資するデータを提供
2007 2008
自動車・燃料研究
2009 2010
ディーゼル車バイオ燃料の高濃度利用に関する検討
【ディーゼル車バイオ燃料WG】
ガソリン車バイオ燃料の利用拡大に関する検討
【ガソリン車バイオ燃料WG】
将来のディーゼル車用燃料に関する検討
【ディーゼル車将来燃料WG】
大気質改善研究
【大気企画WG】
図3 5年間の研究スケジュール
JPEC 自動車・新燃料部【事務局】
自動車及び燃料研究委員会
企画調査WG
大気質改善研究
自動車・燃料研究
自動車・燃料専門委員会
大気専門委員会
ガソリン車バイオ燃料WG
大気企画WG
ディーゼル車バイオ燃料WG
大気研究Gr
ディーゼル車将来燃料WG
石油基盤技術研究所
図4 研究推進体制
4
2011
2.活動報告
研究テーマごとに各 WG から研究成果の報告がなされました。以下に各 WG の報告概要を紹介
いたします。なお、当日の発表資料は当センターのホームページに掲載されています。
http://www.pecj.or.jp/japanese/jcap/jatop/index_jatop.html
(1)ガソリン車バイオ燃料研究
ガソリン車バイオ燃料 WG の廣瀬敏之氏より、活動成果の報告が行われました。このガソリン
車バイオ燃料 WG は、日本のエネルギー戦略として、運輸部門の石油依存度を下げること、その
際に必要となる燃料多様化に向けてバイオマス由来燃料、特にバイオエタノールの導入が重要と
されている、という状況の下、エタノール10%混合利用に関する研究が必要との認識から、今
後の燃料と自動車の技術課題 、 および対応策を検討することを目的として活動してきました。
本研究においては、図 5 に示すようなガソリン混合用のエタノールの特徴から、E10(エタノー
ル 10%混合ガソリン)が燃料品質に与える影響を想定し評価を進めました。その結果、日本市場
にある既販車を用いた試験では、E10 の影響が見られた場合があったことから、E10 導入時には、
これらの影響に注意を払う必要があることが示されました。
• サトウキビ等の糖類を原料とし、発酵法により製造
• 単一の化学物質 C2H5OH (分子量46) 沸点:78℃
• 高い酸素含有率(35mass%)
C2H5-O-H
• 分子内部に強い極性部分(-O-H)を持ち、
極性が強い部分
これにより石油系燃料とは大きく特性が
(水の特性に近い)
異なる
考慮すべき燃料特性等
蒸気圧の大きな上昇
H:水素
C:炭素
O:酸素
自動車、エンジンに対して
影響が懸念される現象等
蒸発ガスが増加する
蒸留特性の過度の変化
含酸素化合物(35mass%
の酸素)
低発熱量(ガソリン比較)
極性が強い物質による
品質影響
排出ガスが悪化する
運転性や始動性が悪化する
燃料系部品の損傷
金属腐食、ゴム等の膨潤
図5 ガソリン混合用のエタノールの特徴
(2)ディーゼル車バイオ燃料研究
ディーゼル車バイオ燃料 WG の金子タカシ氏より、活動成果の報告が行われました。このディー
ゼル車バイオ燃料 WG は、ディーゼル車用燃料への高濃度(5% 超)バイオマス燃料混合利用に
おける車両使用時の技術的課題を明らかにするとともに、車両側、燃料側での対応策を含めた解
析的検討を行い、規格化を含む市場導入検討に資する技術的知見を得ることを目的とし活動して
きました。
バイオディーゼル燃料には図 6 に示すようなものがありますが、本研究では主に脂肪酸メチル
エステル(FAME)について、ディーゼル車用燃料への高濃度(5%
超)バイオマス燃料混合利
FAME
(Fatty Acid Methyl
メタノール
用における車両使用時の技術的課題を明らかにしました。まとめとして、
以下の点をあげています。
脂肪酸メチルエステル
菜種
廃食用油
FAME
油脂(トリグリセリド)
メタノール
脂肪酸
メタノール
メタノール
脂肪酸
メタノール
5
脂肪酸
グリセリン
脂肪酸
脂肪酸
+
Ester)
+
グリセリン
2012.5
FAME(Fatty Acid Methyl Ester)
脂肪酸メチルエステル
メタノール
菜種
FAME
油脂(トリグリセリド)
廃食用油
メタノール
脂肪酸
メタノール
メタノール
脂肪酸
メタノール
メタノール
脂肪酸
メタノール
脂肪酸
グリセリン
脂肪酸
+
パーム
グリセリン
O
油脂
大豆
H3C
C O CH 2
O
H3C
C O CH
O
H3C
C O CH 2
水素
O
H3C
ガス化
FT合成
C O CH3
HBD(
HBD(HydroHydro-gena
genated biodiesel)
biodiesel)
HVO(
HVO(Hydrotreated vegetable oil)
oil)
水素化バイオ軽油
草木
+
脂肪酸
水素化
分解
H3C
CH3
FTD(
FTD(Fischer Tropsc
Tropsch Diesel)
Diesel)
BTL(
BTL(Biomass to Liquid)
Liquid)
図6 バイオディーゼル燃料とは
・FAME10%、20% 混合については部材影響、常温貯蔵安定性、長期駐車時安定性等、多くの
懸念点がみられた。
・供給量の確保を前提に、バイオ燃料をディーゼル車用燃料として“幅広く”利用する場合、
FAME 高濃度混合は上記の多くの懸念点に留意する必要がある。ただし、FAME は原料組成
等によっても特性が異なり一律の品質管理が難しいこと、また特に既存車においては車両側
での対応が困難なこと等も考慮すると、水素化等によって軽油と同等品質の炭化水素系燃料
に変換することが品質的には望ましい。
・地産地消等の“限られた範囲”で FAME 高濃度混合燃料を利用する場合、上記の懸念点に留
意し、必要な対応策を講じることが望ましい。
・本研究が、ディーゼル車バイオ燃料利用における安全、安心の確保に貢献することを期待する。
(3)ディーゼル車将来燃料研究
ディーゼル車将来燃料 WG の澤正彦氏より、活動成果の報告が行われました。この研究は以下
のような背景のもと、開始されました。
・世界的にはアジアを中心として石油消費が急速に伸びる中、エネルギーセキュリティの観点
からオイルサンド等の非在来型石油や合成燃料の検討が求められている。
・日本国内では、大幅に石油需要、特に重油等の落ち込みが大きく、重質分を分解してガソリ
ンや中間留分 を増産する白油化志向が一層高まっている。
・ディーゼル車の厳しい排出ガス規制や燃費向上(CO2 削減)対応などから燃料品質に対する
要求も厳しくなっている。
・今後の軽油には各種軽油用基材の活用が必要となることから、既存および将来の自動車技術
を見据え、今後の軽油の品質を考えることが重要である。
6
これらの背景のもと、各種軽油用基材を利用した燃料について、ディーゼル車の各種性能に及
ぼす影響検討を行い、実用上の課題を把握するとともに市場導入検討に資する技術的知見を得る
ことを目的に、研究を実施しました。
この研究では、まず将来の燃料品質の想定を行っています。石油の有効利用のための重質油分
解装置の装備率向上により、セタン指数や芳香族分などが変化すると予想し、欧米などの状況を
元に、2020 年における日本の分解系装置比率が現在の 27.5%から約 41%になると見積もって
います。一方、評価車両は、市場に残存する各規制別車種に関して、2020 年を想定した場合、
ポスト新長期、新長期、新短期適合車両が中心になると推察されることから、これらの車両・エ
ンジンを対象に評価を進めました。
この研究では、評価した4つの項目について以下のとおりまとめています。
①排出ガス性能への影響
・新短期規制適合の車両 A、エンジン A では、セタン価の影響が見られ、一部の将来軽油は、
現行軽油の評価値よりも増加した。
・新長期規制適合の車両 B、エンジン B では、セタン価の影響が見られた。
ただし、将来軽油は、現行軽油の評価値の範囲内であった。
・ポスト新長期規制適合の車両 C では、セタン価の影響が見られなかった。
②燃費性能への影響
・いずれの車両、エンジンとも、セタン価の影響は見られなかった。
③低温始動性能への影響
・0℃での始動時間は、車両 A、B、C ともにセタン価の影響は見られなかった。
・-15℃での始動時間は、車両 A、B においてセタン価の影響が見られた。
・始 動時の THC は、車両 A、B では-15℃でセタン価の影響が見られ、車両 C では 0、
-15℃ともセタン価の影響が見られた。
・長期アイドリング後のレーシング時の THC は、車両 A で差が見られた。
④低温運転性能への影響
・加速時間(0、-15℃)は、車両 A、B、C ともセタン価の影響は見られなかった。
・車両 A、B の 0℃での燃焼騒音の大きさは、セタン価の影響が見られた。
(4)大気質改善研究
大気企画 WG の柴田芳昭氏と茶谷聡氏より、活動成果の報告が行われました。
JATOP がスタートした 2007 年当時、大気環境については、沿道 NO2 濃度問題及び微小粒子(二
次生成粒子含む PM2.5)の問題が今後の課題としてクローズアップされていました。これらの大
気環境の課題について、自動車・非自動車の様々な対策を総合的に評価、実施する必要がありま
すが、JCAP で用いていた大気モデルの残存課題を解決し、より精度の高い大気シミュレーショ
ンモデルを開発することを目指して研究を行ってきました。ここで大気モデルの残存課題とは次
の2点です。
・沿道 NO2 推計が実測値に対して過小
・微小粒子状物質の推計精度の向上
大気モデルの概要を図 7 に示します。これらの大気モデルは自動車排気規制による将来の大気
環境影響をより高精度な数値シミュレーションで評価することを目的に開発を進めてきました。
7
2012.5
排出量推計
250
沿道大気モデル
沿道大気質予測結果
200
業務・家庭
建設機械
船舶
大規模
発電
自動車
150
100
50
0
2000年
2005年
2020年
広域大気質予測結果
190 km
エミッション
光化学反応
(工場, 自動車, 事業所)
260 km
5km
風
(風による汚染気塊の拡散輸送
)
2 km
広域大気モデル
5km
図7 大気モデルの概要
JATOP では、開発した高精度な数値シミュレーションを用いて、2020 年の沿道自動車排出ガ
7
ス測定局(自排局)近傍の大気質予測を行い、環境省の自動車排出ガス専門委員会(自排専)へ
報告したり、国内人為、生物起源排出量インベントリを構築し、PM2.5 再現性を評価するなどの
活動を行なってきました。また、自治体との共同研究などを通じて環境施策検討への参画や、大
学等の研究機関に大気モデル・データの公開・提供を行なってきました。
3.特別講演
欧州から CONCAWE のケニス・D・ローズ(Kenneth D Rose)博士を、米国から CRC のブレント・
K・ベイリー(Brent K. Bailey)氏をお招きし、欧米の自動車燃料をめぐる研究状況について紹介
をしていただきました。
ローズ博士からは、CONCAWE という組織の概要と取り組んでいるプログラムの紹介をして
いただき、さらにその中でバイオ燃料に関する研究成果の一端を紹介していただきました。ベイ
リー氏からは、CRC の歴史と取り組んでいるプログラムの紹介、さらにその中から、Mid-Level
図8 特別講演におけるローズ博士(左)とベイリー氏(右)
8
Ethanol Blend(MLEB)における影響評価などについて紹介をしていただきました。なお、ベイリー
氏は以前日本に在住していたことがあるとのことで、流暢な日本語による講演をしていただきま
した。
4.まとめ
成果発表会の最後に、「自動車及び燃料研究委員会」委員長の東京工業大学・辰巳敬教授より
「JATOP 活動の総括と次期への期待」と題して 5 年間の総括と今後の研究に関して講演をいただ
きました。辰巳教授は講演の中で補助金事業としての国の関与の下、自動車業界と石油業界が協
力して課題への対応を行なっている JATOP の特徴について触れられ、行政の施策への反映や両
業界での対応を通じて、課題への迅速な対応がなされ、国民の利益に役立ってきたと評価をされ
ました。また、今後もこのような枠組みが有効に機能することが望ましいとの要望を述べられま
した。さらに、現在の石油と自動車を取り巻く情勢から、今後の研究課題に対する提言をいただ
きました。
2012 年度以降も石油業界と自動車業界がより大きな視点で国民の利益になるように協力する
体制をとり、新たな課題に向けて挑戦することができるよう、当センターとしては事業を推進し
てまいります。今後も、皆様のご支援、ご協力をお願い申し上げます。
発表会・会議開催のお知らせ
平成 24 年度技術開発・調査事業成果発表会
<石油は地球の恵み、ノーブルユースへ技術の挑戦!>
平成 24 年 6 月 1 日(金)10:00 ~ 17:00
東海大学校友会館(霞ヶ関ビル 35 階)
参加登録:不要 参加費:無料
第 5 回日中韓石油技術会議
<石油精製 / 触媒技術、燃料品質、環境保全対策>
平成 24 年 9 月 4 日(火)~ 6 日(木)
中国 大連市
一般参加:当センター調査情報部へお問合せください。
9
2012.5
技術報告
「ペトロリオミクス技術開発への取り組み」
1.はじめに
原油の重質化や非在来型原油等、供給源の多様化が予想される一方で、石油製品需要の軽質化、
重油需要の減少が急速に進展しています。このような状況に対応するため、重質油を分解して輸
送用燃料を中心とした白油や高付加価値の石化原料・中間製品などを競争優位に製造できる新規
技術の開発が望まれています。
重質油は、非常に複雑な分子構造を持った超多成分の混合物です。これまでの重質油に対する
取組みは、重質油を一まとまりの留分
(バルク)
として扱い、その推定に基づく平均的な構造式や一
般性状等を拠り所にして精製処理を行っています。いわば科学的に解明された理想解を持たない状
態です。当センターでは、次世代の石油精製基盤技術として、石油成分の組成と反応性を分子レベ
ルで把握し、その情報を活用することで超高効率な精製プロセスの実現などを目指してペトロリオ
ミクス技術の開発に取り組んでいます。ここで、超高効率とは、原料油の組成に応じて、水素消費
の無駄ゼロ、不要な副反応生成物がゼロ、エネルギー消費の無駄ゼロなど理想状態の反応プロセス
を意味しています。また、ペトロリオミクス
(Petroleomics)
とは、原油や石油製品を分子の集合体
として捉え、その詳細な組成と化学構造に基づいて物性や反応性を解析・予測する技術です。
本稿では、昨年 4 月から開始したペトロリオミクス技術開発(基盤技術開発)への取り組み状況
についてご紹介します。(研究成果の詳細については、平成 24 年度成果発表会での報告をお待ち
ください)
2.ペトロリオミクス技術開発の長期展望
ペトロリオミクス技術は、さまざまな要素技術を包含した応用範囲の広い技術と考えています。
統合システム工学
既存プロセスの全面改良
新規プロセス開発
化学システム工学
プロセス・装置の部分的改良
反応システムと触媒の複数の組み合わせ
を伴う改良・開発
化学工学
化学
運転改善
触媒改良・開発
装置の部分的改良
反応システムと触媒の小規模な改良・開発
ペトロリオミクス技術の活用が期待される場面の例
実証技術開発Ⅰ
実証技術開発Ⅱ
実証技術開発Ⅲ
新規要素技術開発Ⅰ
新規要素技術開発Ⅱ
新規要素技術開発Ⅲ
基盤技術開発Ⅰ
重質油の詳細組成構造解析
ペトロインフォマティクス
基盤技術開発Ⅱ
基盤技術開発Ⅲ
分子反応モデリング技術
相平衡・流動解析技術
例)原油の詳細組成構造解析技術
例)高付加価値有機物の探索技術
1stーSTAGE
2ndーSTAGE
3rdーSTAGE ~ ?
図1 ペトロリオミクス技術開発の展望
10
構成する要素技術には、詳細組成構造解析等からなる「基盤技術」とそれを活用する「実証技術」、
さらには基盤技術を実証技術に繋げていくために必要となる「新規要素技術」があります。図1は、
それらの技術の開発展開をイメージしたものです。技術開発の推進・深まりと共に多様性が生まれ、
学問領域が広がり、実証研究の対象も広がっていくものと期待しています。
当センターにはこのペトロリオミクス技術開発を通じて、石油精製の将来の基盤技術を構築す
ることに貢献する、あるいはより積極的にリードしていく使命があると認識しています。
3.ペトロリオミクス基盤技術の開発
ペトロリオミクス基盤技術としては、「詳細組成構造解析」、「分子反応モデリング」、及び「ペト
ロインフォマティクス」の三つがあります。これらについての当センターの取組みをご紹介します。
(1)詳細組成構造解析
従来は不可能であった原油や重質油に対する分子レベルの詳細な組成分析が可能になってきた
理由の一つは、極めて分解能が高いフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置(FTICR-MS)が実用化され、これが石油に適用されるようになったことです。当センターでは、昨年
11 月に世界最高レベルの FT-ICR-MS 装置(図 2)を導入し、原料油と生成油の詳細組成分析を開
始しました。
一方で、組成だけでなく構造を含めた詳細解析を行うには、質量分析の前に、構造や化学的特
性によって分離・分画を行っておくことが有効です。この前処理分画を適切、かつ迅速に行うこ
とが実用的な詳細組成分析を実現するためには必須であり、図 3 に示す計画に基づいて、その方
法の確立に取り組んでいます。
図2 フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置(FT-ICR-MS)
11
2012.5
23年度
最新の詳細組成
構造解析技術の
使いこなし
最新技
術の調
査と導入
機器
導入
補助事業との連
携(一体的推進)
新規分析
ストラテジーの
構築
24
25
26
27
使い
こなし
原料油・生成油の詳細組成・構造解析と技術開発へのフィードバック
従来技術の
調査
アイデアの
提案と検証
システム
設計Ⅰ
高精度自動分離
前処理システム
の開発
システム
設計Ⅱ
基本システムの
製造
ハイスループット
システムの製造
データ解析ロジック
の構築
機器分析の組み
合わせ方法
分析法の選択
データ解析技術
の確立
データ解析用ソフト
ウエアの開発
モデル試料での検証
一連の分離・分
析・解析手法の
検証
補助事業の実試料での検証
データの蓄積
図3 詳細組成構造解析技術の開発計画
(2)分子反応モデリング
分子反応モデリングとは、文字通り精製プロセスにおける石油の反応挙動を分子レベルの組成
と化学構造の変化として捉え、それを数式化して定量的に表現するものです。ただし、重質油の
場合は、その成分数が膨大であり、それらの反応経路を繋ぎ合わせた反応ネットワークは非常に
複雑なものになります。当センターではその取り扱いに最も適した方法として、デラウエア大ク
ライン教授の開発したモデリングツール(KMT)を選定し、それを我々の用途・目的に合わせて改
良することを進めています。
改良した分子反応モデリングツール(JKMT)には、CME、INGen、KME という 3 つのモジュー
ルが含まれており、それぞれの機能を元に、図4に示すフローで実行されます。
INGen
CME
CME
KME
詳細組成
分析データ
図4 JKMT を用いた分子反応モデリング
12
23年度
24
25
26
27
INGen
CME
KME
詳細組成
分析データ
具体的な分子反応モデルの構築と活用についての計画を図 5 に示します。軽質油の水素化精製
から着手し、詳細組成構造解析技術の成果を取り込みつつ、順次、重質油、残油、流動床反応(FCC)
へと展開してゆきます。
23年度
反応モデリング
技術導入・基礎
検討
24
25
26
27
JKMT導入・基礎
検討
軽油HDS
モデル作製
軽油超深脱
モデル検討
展開
間脱、直脱
モデルⅠ
作製
直脱、間脱モデ
ル検討
モデル
Ⅱ
モデル
Ⅲ
展開
HDSモデル
一般化
FCC、RFCC
モデル作製
FCC, RFCC
反応モデル検討
FCC, RFCCモ
デル一般化
FCC-HDSモ
デル連携
相平衡・流動
解析への適用
相平衡・流動の基礎検討
相平衡・流動の適用検討
図5 分子反応モデリング技術の開発計画
(3)ペトロインフォマティクス
インフォマティクスは情報学とも訳され、バイオインフォマティクスやケモインフォマティク
ス等の分野において活発に研究されています。前述の通り、ペトロリオミクスにおいては詳細組
成構造解析や分子反応モデリングにより非常に多くのデータが得られます。それらの膨大な情報
を適切に取り扱い、研究開発に活用して初めて、技術開発が価値を生み出します。
その流れを模式的に整理して図 6 に示します。
より効率的な
生成プロセスの候補
実験を再現する
分子反応モデル
分子反応シミュレーション
・反応条件
・生成油成分比
・生成油成分化学組成
・生成油成分化学構造
サンプル
成分指定
KMT
修正
パラメータ
生成物質
パラメータ、
構成比
より効率的な
反応プロセス
候補の予測
生成油性状予測
・分子構造からの
生成油性状予測
K MT
原料油
サンプル
反応条件
修正
パラメータ
モデルと実験結果
との比較
手動o r
モデルの調整 ツール導入
反応実験
ベンチ実験
パイロットプラント
ハイスループット実験
生成油
サンプル
生成サンプル
詳細構造分析
サンプル成分構
造情報
図6 ペトロリオミクス研究におけるデータフローのイメージ図(例)
13
反応条件
サンプル
2012.5
修正
パラメータ
モデルと実験結果
との比較
手動o r
モデルの調整 ツール導入
反応実験
ベンチ実験
パイロットプラント
ハイスループット実験
生成油
サンプル
生成サンプル
詳細構造分析
サンプル成分構
造情報
ペトロインフォマティクスでは、膨大な必要データをどのように効率的に得るかといった実験
計画や計画立案に関する検討も必要となってきます。そのため、図6に示す検討・解析に加え、
図 7 に示すようなハイスループット実験に関する技術の構築も計画しています。
23年度
インフォマティクス
適用検討
25
データベース
設計
導入
試行
実データ運用
実データ運用
データベース改良
データベース改良
・データマイニング、
ビジュアル化確立
・反応装置導入
・評価技術確立
研究開発基盤
ワークフローの
実証
27
DB、HTEシステムの活用と技術開発へのフィードバック
DB、HTEシステムの活用と技術開発へのフィードバック
・組成分析結果、
反応モデル適用
ハイスループット
技術導入
26
技術調査
補助事業との連
携(一体的推進)
データベース
構築・運用
24
データマイ
データマイ ビジュアル化
ビジュアル化
確立
ニング確立
ニング確立
確立
装置調査
反応装置導入
実験結果
適用
HDS反応解
析法確立
反応モデリング
反応モデリ
ング
への
展開
への展開
ワークフロー設計・構築
ワークフロー設計・構築
図7 ペトロインフォマティクス技術の開発計画
4.おわりに
ペトロリオミクス技術開発は非常に難易度の高い研究テーマですが、将来の石油精製事業に革
新をもたらす大きな基盤技術になると考えています。当センターは経済産業省並びに賛助会員会
社の多大なご協力を頂きながらこの技術開発を推進していく計画です。
今後の研究展開に大いにご期待ください。また、ご協力をよろしくお願いします。
14
技術報告
「新規自動車・燃料研究事業(JATOP Ⅱ)
について」
平成 24 年度より、自動車・燃料研究事業として JATOP Ⅱ(Japan Auto-Oil Program Ⅱ)が開
始されました。このプログラムは、大気環境保全を前提とし、
「CO2 削減」「燃料多様化」「排出ガ
ス低減」の3つを同時に解決する最適な自動車・燃料技術の確立を目指して平成 19 年度から 5 年
間にわたり実施された JATOP の後継事業であり、将来の自動車・燃料における技術的課題の解
決を目指して今年度から 3 年間の予定で実施されます。JATOP Ⅱの研究領域は、将来の燃料品
質と自動車技術に関する研究分野と大気研究分野に分かれており、いずれも石油業界および自動
車業界の協力の下に進められます。
(1)石油と自動車を取り巻く情勢
昨今の石油と自動車を取り巻く情勢を整理し、課題点を抽出すると以下のようなことが言える
と思われます。
(ア)世界のエネルギー需給動向
現在世界の石油消費量はほぼ右肩上がりに増加を続けており、今後も中国など非 OECD 諸国を
中心に、長期的には増加基調が続くと思われています。そのため、エネルギーセキュリティー(安
定供給)の観点からも、原油の有効利用が必要とされています。
(イ)エネルギーの「安全・安心」への関心の高まりと、日本のエネルギー戦略の見直し
昨年発生した東日本大震災を機に、国民の意識は大きく変革しました。安全、安心への要求が
高まり、ライフラインとしての輸送用燃料の価値も見直されています。また、国のエネルギー政
策もエネルギー基本計画を白紙から見直すなど、大きな変革の時期にきています。そのような中、
貯蔵性、運搬性に優れ災害にも強い石油をはじめとする液体燃料の重要性が再認識されており、
図1 燃料油の油種別販売量の内訳
15
2012.5
エネルギーセキュリティーの観点からも石油の有効な利用が今後も必要と考えられています。
(ウ)国内燃料油需要の減少と需要構成の変化
国内では、燃料油全体の販売量が 2002 年以降減少を続けており、特に A 重油はガソリン・軽
油等に比べて大幅な減少を続けています(図 1)。このことは、重質留分の利用先が減少している
ことになり、連産品である石油製品を考えた場合に需要構成比率の大幅な変化は総需要量の減少
以上に大きな問題となります。したがって新たな重質留分の利用先の検討が必須となってきます。
(エ)エネルギー供給構造高度化法
エネルギー供給構造高度化法における原油等の有効な利用に関する石油精製業者の判断の基準
によれば、我が国の重質油分解装置の装備率(現在 10%程度)を 2013 年度までに 13%程度まで
引き上げることを目標とすると記載されています。したがって今後、国内の重質油分解装置装備
率が引き上げられるに従い分解系留分比率が相対的に増加することが予想されることから、分解
系留分(特に分解軽油)の新たな利用法・利用先の検討が必要となってくると想定されます。
(オ)ポスト新長期排ガス規制や新燃費基準への対応
一方、燃料を利用する自動車の側から見ると、ポスト新長期排ガス規制や新燃費基準への対応
のため、さまざまな対応技術が導入されてきています。特にディーゼル車では、排ガス規制への
対応のため各社が採用している技術はそれぞれ異なっており一様ではありません。そのため、燃
料性状が変化した場合の影響度合いが異なってくる可能性があり、必要な自動車性能を確保する
ための検討が必要となってきます。 図2 排ガス規制への対応のために導入された革新的なディーゼル排ガス低減システム
(2)将来の燃料と自動車技術に関する研究
石油と自動車を取り巻く情勢を踏まえて、将来の最適な自動車・燃料技術の確立を目指して、
経済産業省の支援の下、石油業界と自動車業界の協力を得て新たな自動車・燃料研究を開始しま
した。この研究では、原油から得られる各留分を余すところなく活用することにより、原油処理
を最適化し、原油処理量の削減、CO2 排出量の削減を実現することを目的としています。すなわ
ち、石油精製における残油の分解等で得られる留分について、自動車燃料としての利用等を想定
し、環境面・安全面で問題なく使用できるよう、自動車を用いて燃費・運転性に与える影響の評価、
排出ガス等による環境負荷の影響評価等を行い、これらの情報を体系的に整理しようとするもの
です。具体的には以下の目標を設定しています。
16
(ア)石油精製における残油の分解等により得られる留分のうち、特に分解系軽油留分(LCO 留
分)を自動車用燃料へ利用拡大する際の技術的課題を明らかにし、利用検討に資する技術的
知見を得る。
(イ)分解系基材の利用が増加することにより燃料油を製造する際の基材バランスが変化した際
の、自動車燃料における品質面への影響を把握し技術的課題を明らかにした上で利用検討
に資する技術的知見を得る。
(ウ)分解系基材の利用拡大検討を前提とした将来の燃料品質に関して、技術的知見を体系的に
整理し、国内外の動向と技術課題を踏まえた上であり方を提案する。
そして、このプログラムのゴールとして、LCO 留分の特性と、確保すべき自動車性能の関連性
について、車両 ・ エンジン試験等による評価・分析等を通じて解明し、LCO 留分の利用にかかわ
る共通の認識を得ることを目指しています。
これらの内容は JATOP でもすでに一部実施していますが、JATOP Ⅱではさらに発展させ、広
範な評価を進めてゆく予定です。図3にこの研究で実施しようとしている内容を、図4に具体的
な評価研究の考え方の例を示しました。
・LCO留分混合軽油の特性
・確保すべき自動車性能
関連性の解明
・LCO留分混合軽油の特性
・確保すべき自動車性能
関連性の解明
・組成
・組成
・着火性
・着火性
・酸化安定性・酸化安定性
・排出ガス ・排出ガス
・燃費
・燃費
・低温運転性・低温運転性
・始動性
・始動性
・部材影響 ・部材影響
分解系軽油留分の利用にかかわる共通の認識を得る
LCO留分の利用にかかわる共通の認識を得る
石油業界・自動車業界における
石油業界・自動車業界における
燃料品質と自動車技術の最適設計への活用
燃料品質と自動車技術の最適設計への活用
図3
実施内容
図3 実施内容
LCO留分混合軽油の特性
自動車性能
評価方法(使用設備)
(太枠はJIS要求品質項目)
関連性の解明
・組成
・排出ガス
>芳香族分など
・着火性(セタン価)
・酸化安定性
・添加剤
>セタン価向上剤
>酸化防止剤など
ATRI
各
種
影
響
性
検
討
・燃費(CO2排出量 )
シャシダイナモメータでの
車両走行試験
・低温運転性
・始動性
・部材への影響
・信頼性
(インジェクタデポジット等)
エンジンベンチでの
エンジン単体試験
実験室での評価試験
リグ試験など
図4 具体的な評価研究の考え方(例)
(3)大気研究
平成 19 年度から実施してきた JATOP においては、JCAP で開発した大気シミュレーションシ
17
2012.5
ステムを改良・発展させ、沿道 NO2 や微小粒子
(PM2.5)の課題について、自動車による影響度合
を明確にするとともに、図5に示すように今後の大気環境改善に向けた対策の効果予測を行ない、
環境施策に資する技術データの提供を行なってきました。しかしまだ表 1 に示すような技術課題
が残っています。
JATOP Ⅱでは、JATOP を通じて明らかとなったこれら技術課題についてさらに検討、改良を
加え、排出ガス低減技術による大気環境への効果の検証結果を環境施策に資する技術データとし
て提供してゆく予定です。
自動車排出量推計結果
自動車排出量推計
沿道大気モデル
交通流モデル
排気マップ
(速度と加速度)
5000
沿道大気モデル
交通流モデル
5000
3000
駆動力(N)
Driving Force (N)
4000
2000
1000
0
2000
1000
0
-1000
排気マップ
-2000
(速度と加速度)
-3000
0
速度(km/h)
20
40
60
80
Vel (km/h)
100
120
気流モデル
-1000
-2000
速度(km/h)
-3000
0
リモートセンシング調査による高濃度車の出現頻度を補正
3000
駆動力(N)
自動車排出量推計結果
自動車排出量推計
Driving Force (N)
4000
20
40
60
80
Vel (km/h)
100
120
気流モデル
広域大気モデル
リモートセンシング調査による高濃度車の出現頻度を補正
広域大気質予測結果
沿道大気質予測結果
広域大気モデル
広域大気質予測結果
アジア域
アジア域
沿道大気質予測結果
日本全域
日本全域
東アジアから越境移流を考慮
東アジアから越境移流を考慮
関東域
関東域
個々の自動車挙動と3次元の
個々の自動車挙動と3次元の
建物形状を考慮
1
建物形状を考慮
1
図5 実態に即したモデルによる大気環境評価
表1 大気研究における技術課題
研究領域
技術課題
研究領域
技術課題
広域モデル
・無機成分の過大評価と炭素成分の過小評価の改善
・無機成分の過大評価と炭素成分の過小評価の改善
SOA、NO
3 は光化学反応やガス粒子平衡も問題の可能性
SOA、NO3-は光化学反応やガス粒子平衡も問題の可能性
・一次粒子及び前駆物質の組成データベース構築
半揮発性物質排出量(VOC、OAなど)の排出量インベントリーの改善
・一次粒子及び前駆物質の組成データベース構築
・PM2.5及びその成分の大気中実態・挙動解明
半揮発性物質排出量(VOC、OAなど)の排出量インベントリーの改善
沿道モデル
・環境影響評価モデルとしての適用性の改善
・PM2.5及びその成分の大気中実態・挙動解明
・計算結果の応用面での課題(年平均濃度への拡張など)
・環境影響評価モデルとしての適用性の改善
・改善弱風時や中間風向時での計算精度の向上
広域モデル
沿道モデル
交通流モデル
交通流モデル
自動車排出量
自動車排出量
自動車以外排出量
・計算結果の応用面での課題(年平均濃度への拡張など)
・交通流モデルと排出量推計モデルによる推計・評価の迅速化
・改善弱風時や中間風向時での計算精度の向上
・路上の排出量推計値から路側の濃度を推計する精度の向上
・交通流モデルと排出量推計モデルによる推計・評価の迅速化
・未対応の排出係数変化要因の検討と 排出量推計モデル化
・路上の排出量推計値から路側の濃度を推計する精度の向上
(MAC影響、ガソリン車PM、登坂・下坂の補正、HV車)
・高排出車(HE)の定義及び設定の見直し
・未対応の排出係数変化要因の検討と 排出量推計モデル化
・超低エミッション車排出係数信頼性改善
(MAC影響、ガソリン車PM、登坂・下坂の補正、HV車)
・劣化補正係数及び補正方法の見直し
自動車以外排出量
18
・高排出車(HE)の定義及び設定の見直し
・大規模発生源(県別)、蒸発起源(発生源別)の信頼幅精査
・超低エミッション車排出係数信頼性改善
・燃焼起源PMの国内組成データ整備
・劣化補正係数及び補正方法の見直し
・排出係数/活動量の更新体制構築とデータ公開の継続
・大規模発生源(県別)、蒸発起源(発生源別)の信頼幅精査
・燃焼起源PMの国内組成データ整備
・排出係数/活動量の更新体制構築とデータ公開の継続
トピックス
~JPEC長期派遣員~
「欧州ブリュッセル事務所紹介」
1.はじめに
当センターの欧州長期派遣員事務所は、欧州委
員会等の欧州連合(EU)における主要機関が集ま
るベルギーのブリュッセル(ブラッセル)にありま
す。欧州の生の情報を直接収集するべく、2004
年 10 月から長期派遣員(所長)を1人配置してい
ます。現在の髙橋剛所長は3代目の派遣員として、
2010 年 7 月に着任しました。当記事では、欧州
事務所での業務内容を中心にご紹介します。
当センター欧州事務所が入居する高層ビル
2.業務内容
気候変動対策で世界を主導する役割を自ら認めている EU は、世界に先駆けた様々なエネル
ギー、環境政策を打ち出しています。2005 年 1 月に施行となった世界初の排出量取引制度、
2009 年に施行となった再生可能エネルギー指令におけるバイオ燃料持続可能性基準はその代表
例と言えるでしょう。
欧州事務所では、欧州の政府機関(欧州委員会等)、石油関連機関(欧州石油連盟、各国石油連盟、
国際石油産業環境保全連盟(IPIECA)、欧州石油環境保全連盟(CONCAWE)、欧州石油会社(BP、
TOTAL、Shell、ExxonMobil、Eni、NESTE 等)、バイオ燃料関連機関(EBB、EFOA 等)、船舶
燃料関連機関(IMO 等)、水素燃料電池関連団体(NOW, FCH-JU 等)、コンサルタント(JBC エナ
ジー、Wood Mackenzie 等)などからの情報収集、また、当センターが企画する各種調査事業に伴
う欧州地域の調査への同行、経済産業省や石油業界のニーズに基づく情報収集活動、さらに、欧
州各地で開催される各種カンファレンスへの参加等を通じて、欧州の様々な環境・エネルギー政
策動向と石油業界への影響、石油精製やバイオ燃料の技術開発動向等について最新の情報を収集
しています。
当記事では、先ず調査の原点ともいえる、欧州のエネルギー・環境政策に係る動向を簡単にご
紹介した後、
欧州事務所の関連機関との連携や具体的な調査の取組みについてご紹介していきます。
(1)欧州のエネルギー・環境政策動向
欧州のエネルギー・環境政策は「環境持続可能性」「エネルギーセキュリティ」「EU の競争力」
の三本柱に基づいています。2008 年 1 月 23 日に、気候変動 ・ エネルギー包括政策提案が発表され、
その後 1 年半近くの議論の結果、同法案 2009 年 4 月に採択されました。
同法案は、
① 2020 年までに温室効果ガス排出量を、1990 年の水準から最低 20%削減する
② 2020 年までに、最終エネルギー消費における再生可能エネルギーの割合を EU 全体で 20%
19
2012.5
に高める(うち運輸燃料については 10%に引き上げる)
③エネルギー効率の向上を通し、EU の最終エネルギー消費を 2020 年の予測に対し 20%削減
するという 3 つの 20% を 2020 年までに達成することから 20/20/20 by 2020 と呼ばれていま
す。これらの目標を達成するため、EU では様々な法令が導入されています。
先ず①の温室効果ガス低減に関連した政策としては、「欧州排出量取引制度(European Union
Emission Trading System: EU ー ETS)」、
「燃料品質(改正)指令(Fuel Quality Directive: FQD)」、
「自
動車の CO2 排出規制」、EU-ETS 非対象セクタにおける、「加盟国の温室効果ガスの削減努力負担
に関する決定」、「CO2 回収・貯留促進指令」等があります。
EU-ETS は、2005 年 1 月 1 日にスタートした世界初の温室効果ガスの排出量取引制度で、第
一期間:2005 ~ 2007 年、第二期間:2008 ~ 2012 年、第三期間:2013 ~ 2020 年と制度期
間が分かれています。2013 年からの第三期間では、制度が大きく変更されます。大きな変更点
が3つあり、先ず第二期間までの各国排出枠割当計画(National Allocation Plan: NAP)が廃止さ
れ、EU 全体での排出枠上限が設定されます。2020 年に 2005 年比で 21% になるように 2013
年から毎年一定量を削減していきます。次に、対象部門・ガスの追加があり、第二期間の対象部
門に加えて、アンモニア、アルミニウムの生産に伴う CO2、硝酸、アジピン酸、グリオキシル酸
の生産に伴う亜酸化窒素(N2O)、アルミニウム生産に伴うパーフルオロカーボン(PFC)などが新
たに対象となります。また、CO2 回収・貯蔵(CCS:Carbon Capture and Storage)の促進のため、
回収・貯留した温室効果ガスを削減分とみなすこととなりました。最後の大きな変更点は、排出
枠の割り当て方法が段階的に 100% オークション性となります。石油産業は炭素リーケージリス
ク産業と判断され、ベンチマーク分が無償配布されますが、ベンチマークはトップ 10% の実績
を反映した厳しい値のため、多くの精製業者がベンチマークとの差分の排出枠を購入しなければ
ならず、精製コストの上昇が懸念されています。
FQD は燃料品質規格および温室効果ガス
(GHG)
削減目標を定めたものです。燃料品質規格につ
いては、2009 年の改訂によりエタノールと含酸素量の混合上限が引き上げられ、新たなエタノー
ル及び含酸素量は 10.0vol% 及び 3.7 wt%、新たな FAME 上限は 7 vol% になりました。尚、加
盟国の裁量により、消費者に適切な情報提供を確保することを前提に、7% 以上のバイオディー
ゼル混合軽油を販売することも認められています。また、エタノール濃度が増加すると古い車で
は安全性が保証できないことから、2013 年まではエタノール 10vol% 混合ガソリン
(E10)と合わ
せて 5vol% 混合ガソリン
(E5)
も供給することが加盟国には求められています。GHG については、
当初欧州委員会
(EC)は 2020 年末までに年率 1% 削減の合計 10% 削減を求めていましたが、石
油業界からの激しいロビー活動
の効果もあり、10% の目標値は
残ったものの石油業界が法的に
義務付けられる削減率は最終的
に 6% となりました。
「自動車の CO2 排出規制」につ
いては、先ず乗用車の CO2 排出
量に対する法規制が 2009 年 6
月に施行され、自動車メーカー
各社は規制の順守を義務付けら
れることになりました。EU 域
内で販売される乗用車の平均
欧州委員会ビル
20
CO2 排 出 量 を 120g/km に 抑 え
るという削減目標で、2012 年からメーカーの達成すべき割合が段階的に強化され、全面的な規
制は 2015 年からとなります。また 2011 年 6 月には「小型トラック」に対しての法規制が施行さ
れました。CO2 排出量を 2017 年以降は 175 g/km に、2020 年以降は 147g/km に制限する削
減目標が設定されました。
②の再生可能エネルギーに関連する政策としては「再生可能エネルギー指令(Renewable Energy
Directive: RED)があります。本指令は電力、暖・冷房、運輸の 3 分野において、最終エネルギー
消費における再生可能エネルギーの割合を、EU 全体で(2005 年の 8% から)2020 年までに
20%に高めるという強制力のある指令です。また 3 分野のうち、運輸部門における再生可能エネ
ルギーの割合については、2011 ~ 2020 年の 10 年間で全加盟国一律で 10%以上に引き上げる
義務を課しています。この 10% 目標は従来のバイオ燃料だけで達成する必要はなく、次世代バ
イオ燃料にはインセンティブが設けられており、廃棄物、残留物、非食物セルロース系原料およ
びリグノセルロース系原料から生産されたバイオ燃料は、他のバイオ燃料の 2 倍として考慮され
ます。他の電力、暖・冷房分野については 10%から 49% の負担割合が加盟国ごとに定められて
います。また本指令で特徴的なのは、世界で初めて「バイオ燃料の持続可能性基準」の条項が組み
込まれたことです。
③のエネルギー効率の向上に関連する政策は、①②に比べて遅れていたものの、2011 年 6 月
に「エネルギー効率化指令」が EC から提案されました。公共機関が保有する建物(250m 以上)に
2
対して床面積の 3% を毎年改修することによりエネルギー効率を引き上げる、エネルギー供給事
業者らは各国の義務化制度を通じて販売したエネルギーの 1.5%に相当する量の年間エネルギー
節減を達成する、等の内容が盛り込まれています。なお、目標値の義務化については各国の反対
により今のところ回避されましたが、2014 年にエネルギー効率化の進捗状況を把握し、遅れて
いるようであれば義務化を再度検討する予定となっています。
以上述べた法令の他、温室効果ガス低減関連では「低炭素経済ロードマップ」が 2011 年 3 月に
EC から公表されました。前述の通り 2020 年までに 1990 年対比 20% 削減を目指しますが、本
ロードマップでは 2050 年までに 1990 年対比で 80% 削減するというシナリオを描きました。
再生エネルギー、エネルギー効率化関連では、「エネルギー戦略 2050(2011 年 2 月)」、「エ
ネルギー効率化計画(2011 年 3 月)」、「『欧州での資源の効率的な利用』に向けてのロードマップ
(2011 年 9 月)」、
「エネルギー税指令(The Energy Tax Directive)の改正(2011 年 4 月)」など、様々
な政策提言が行われています。
欧州事務所では、これらの EU における環境、エネルギー政策を日々の報道からキャッチアッ
プしつつ、関連機関へのヒヤリングやカンファレンス参加等を通じてこれらの政策への、石油業
界を含めたエネルギー業界への影響や、各業界のアクションの把握に努めています。
(2)欧州石油関連機関との連携
「石油エネルギーに関する有効な情報収集・提供事業」は、石油エネルギー資源戦略策定支援の
ための事業であると共に当センターの技術開発プラットフォームとしての役割にもつながります。
情報収集活動おいて、関係機関とのネットワークづくりが重要なのは言うまでもありません。また、
海外事務所にとっては日本からの訪問者のアテンドも主要業務の一つになっており、訪問者の方々
のニーズを満たすことができるようにするためにもネットワークづくりは重要です。
このような観点から、欧州事務所では、当センターの技術開発事業に関連する欧州機関を中心に、
様々な石油エネルギー関連団体との関係強化に日々取り組んでいます。
CONCAWE(Conservation of Clean Air and Water in Europe)は欧州の主要石油会社によって
設立された欧州石油業界の技術開発機関であり、役割が JPEC と非常に似通っています。そこで
21
2012.5
欧州事務所では、CONCAWE の事務所に度々訪問して情報交換を実施する等、CONCAWE との
関係強化に努めています。
当センターと CONCAWE とは過去に 「 日欧石油技術会議 」 の定期的実施に合意し、既に4回
を欧州と日本で交互に開催しています。昨年は 8 月に、JPEC 会議室において 「 第4回日欧石油
技術会議」を開催しましたが、欧州事務所は当センターを代表して CONCAWE との連絡調整にあ
たりました。
欧州の石油業界が自動車会社に対してどのような要求があり、燃料の将来的シナリオをどのよ
うに考えているのかを知ることは、日本の石油業界にとっても参考になります。そこで 2011 年
度は、普段お付き合いのある日本自動車工業会 EU 事務所(JAMA-EU)殿に依頼し、CONCAWE
と JAMA-EU との合同会議を企画・実施しました。
尚、CONCAWE と同じ建屋内には欧州石油連盟(European Petroleum Industry Association:
EUROPIA)があり、同機関にも度々訪問し、情報交換等を通じて関係強化に努めています。また
欧州各国にも石油連盟があり、英国石油連盟、ドイツ石油連盟とも頻繁に情報交換を行っています。
ロ ン ド ン に 拠 点 を 持 つ 国 際 石 油 産 業 環 境 保 全 連 盟(International Petroleum Industry
Environmental Conservation Association:IPIECA)は、石油・ガス産業の上流・下流両部門を代
表する国際団体です。当センターでは昨年度 Associations Fuels Network Meeting と呼ばれる燃
料品質に関するミーティングに参加し、各国機関との情報交換を行いました。また 2012 年 4 月
より IPIECA の正式メンバーに加わり、今後は欧州事務所を窓口として、同機関のメンバーとの
関係強化を行い、様々な情報収集を実施していく予定です。
当センター自動車・新燃料部では、2015 年の燃料電池自動車・水素ステーションの普及開始
に向け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の水素製造・輸送・貯蔵システム等技術
開発事業の一環として、2012 年度までの計画で基準検討・規制合理化のための研究開発を実施
しています。欧州における燃料電池の政府関連機関として European Commission Fuel Cells and
Hydrogen Joint Undertaking:FCH-JU や ド イ ツ の Nationale Organisation Wasserstoff :NOW
等があります。また、水素ステーションに関する計画、運用、保全等の技術検査を行っている認
証機関として、ドイツのテュフズード社があります。欧州事務所では、自動車・新燃料部のこれ
ら機関とのミーティングの調整、同行等のサポートをしています。2011 年度にはドイツベルリ
ンで NEDO - NOW ワークショップ、ベルギーブリュッセルで FCH-JU Program Review Day
2011 及び Stakeholders General Assembly が開催され、欧州における燃料電池・水素エネルギー
技術に関する研究、技術開発、デモンストレーション等について調査しました。
(3)欧州石油精製業の現状と将来展望に関する調査
日本では石油製品の需要が 2009 年に 2 億 KL を初めて下回り、今後も減少する見込みです。
2010 年において製油所トッパー稼働率は平均で 75% まで低下し、現在約 1 百万 b/d の能力が
余剰となっています。石油製品需要は今後更に低下することが見込まれており、また 2010 年に
政府が発表した「エネルギー供給構造高度化法」により、数年間は精製能力削減が進む可能性が高
くなっています。また日本ではガソリン需要と軽油需要とでインバランスがあり、ガソリン需要
が軽油需要に比べて約 2 倍あり、この不均衡を解消すべく、日本の石油業界は所謂ディーゼライ
ゼーションを主張しているものの、国民のディーゼル車に対するネガティブな意識や、日本の自
動車メーカーは高性能のガソリン車やガソリンハイブリッド車に注力している等により、インバ
ランスの解消は難しいのが現状です。
一方、欧州でも製品の全体需要は低下しているものの、日本と比較すると緩やかです。これは、
ガソリン、ナフサ、重油の需要は低下傾向であるものの、軽油を中心とした需要が伸び続けてい
22
るからです。また欧州では軽油需要がガソリン需要の 2 倍以上あり、日本の状況とは全く逆であ
り、深刻な軽油不足が続いています。現在、欧州では余剰のガソリンを北米とアフリカに輸出し、
軽油を FSU、北米等から輸入していますが、ディーゼル車の台頭や IMO 規制による船舶燃料の
重油から軽油へのシフト等により、今後もこの状況は深刻化すると予想されています。
また 2009 年はじめ頃から、マージン低下等による欧州製油所の閉鎖、売却が加速しています。
主な傾向としては3つあり、①小規模でパイプラインに接続していない製油所は閉鎖、貯蔵所へ
の変更が加速、②パイプラインに接続された海岸沿いの製油所は海外企業により買収、③ドルジ
バパイプラインに沿った製油所はロシア企業の標的となっています。
更に、上述した ETS 等の様々な環境規制により、欧州製油所経営は今後益々厳しくなるものと
予想されています。EU の製油所の約 3 割が、キャッシュマージンが赤字となっているとのこと
です。
以上のことを踏まえ、欧州事務所では欧州石油業界を取り巻く環境について調査を行っていま
す。2011 年度は本部調査情報部とともに欧州石油会社、石油関連機関、経済・産業機関を訪問し、
厳しい欧州環境政策の理由と石油業界の対応、精製事業のマージン低下理由と今後の石油精製ビ
ジネス展望、軽油 / ガソリン需要のインバランスへの対応、欧州石油精製業のベースとなる財政、
金融、経済の動向等を幅広く調査しました。
(4)石油精製・石油品質技術調査
ペトロリオミクス技術開発や高効率水素製造等技術開発等の「製造技術開発事業」、JATOP
(Japan Auto-Oil Program)や石油基盤技術研究所(ATRI)の実施研究に関連する「燃料利用技術開
発事業」は、JPEC 技術開発事業の2大柱です。欧州事務所では、欧州におけるこれら事業に関連
した情報収集を行っています。
2011 年度は IFPen(Institut Francais du Petrole energies nouvelles)研究所、イタリアの石
油会社 Eni の研究所を訪問し、当センターの技術開発について紹介するとともに、それぞれの機
関における技術開発内容を調査しました。
IFPen は 1944 年にフランス石油産業の技術向上のため研究・開発とエンジニアの訓練を行う
研究・開発・教育訓練機関として設立されました。パリ(Rueil-Maison)とリヨン(Lyon)に拠点を
もち、パリ約 1000 人、リヨン約 700 人の計 1700 名が従事しています。昨年度はパリの燃料品
質研究部署を訪問し、ガソリン、軽油、JET、バイオ燃料等の同社の輸送用燃料品質研究に関し
て調査を行いました。
Eni については、イタリアミ
ラノにあり、同社のコアビジネ
スである石油・ガスに関する上
下流部門の研究・技術開発を行っ
て い る サ ン・ ド ナ ー ト・ ミ ラ
ネーゼ研究所を昨年度訪問しま
し た。 同 研 究 所 は、Refining &
Marketing 分 野 で 約 200 人、 石
油・ガス上流分野で 150 人の研
究者が従事しています。今回は
重質油の Eni 固有分解技術であ
る Eni Slurry Technology:EST
技術を中心とした、同社が手掛
欧州議会ビル
23
2012.5
ける重質油のアップグレーデング技術開発について調査を行いました。
こ の よ う に 技 術 開 発 に 携 わ る 研 究 者 と の 情 報 交 換 の 他、The International Bottom of the
Barrel Technology、European Refining Markets Conference、Middle Distillates Conference、
European Fuels Conference 等の欧州で実施される様々なカンファレンスに参加して技術開発の
動向を調査しています。
(5)欧州におけるバイオ燃料政策、需給動向、流通実態、技術開発等調査
欧州では 2003 年に「バイオ燃料指令(2003/30/EC)」が制定されてから、バイオエタノール、
バイオ ETBE、バイオディーゼル(BDF)等のバイオ燃料の流通が進みました。また 2009 年に
RED(再生可能エネルギー指令)が制定され、運輸部門において、最終エネルギー消費における
再生可能エネルギーの割合を 2011 ~ 2020 年の 10 年間で 10%以上に引き上げる義務を全加盟
国に課すとともに、世界で初めてバイオ燃料の持続可能性基準の条項が組み込まれました。この
ため、欧州におけるバイオ燃料の利用は今後益々増加するとともに、バイオ燃料の原料や生産地
域等が変化することが予想されます。
一方、日本においては 2009 年の
「エネルギー供給構造高度化法」により石油事業者に対し、原
油換算で 2011 年に 21 万 KL、2017 年には 50 万 KL のバイオエタノールを使用することが義務
付けられました。更に同法では、欧州と同様の
「持続可能性基準」が定められ、化石燃料に対する
GHG 削減効果の基準や、
高い生物多様性価値や炭素貯留が高い土地の利用制限が盛り込まれました。
欧州事務所では、バイオ燃料で先行する欧州における政策や需給動向、バイオガソリンの流通
実態やバイオ燃料の製造技術開発について調査を実施しています。
2010 年度はバイオマス燃料供給有限責任事業組合:JBSL とともに、バイオ燃料に力を入れて
いる欧州石油会社や英国のバイオ燃料持続可能性基準に関する全体統括を担っている Renewable
Fuels Agency:RFA 等を訪問し、欧州のバイオ燃料持続可能性基準について土地利用変化の評価、
認証の具体的な手法や取組状況等の調査を行いました。
EU の中ではフランスとドイツでバイオ燃料の普及が進んでいます。バイオガソリンは、エタ
ノールを 10% 混合した E10 ガソリンが、フランスで 2009 年 4 月から、ドイツで本年 2 月から
販売が開始されています。欧州事務所ではこの E10 ガソリンについて、販売状況、流通方法や流
通上の問題点等について調査を行っています。2011 年度はドイツにおいて、エタノール混合ガ
ソリンの輸送・貯蔵等に関する具体的な設備対策等に関して調査を行いました。
近年、欧州において航空部門の GHG 削減のための政策制定、バイオ燃料の民間航空機燃料へ
の利用の取組み、そして航空機用石油代替燃料の開発が盛んに行われています。欧州委員会は
2011 年 3 月に発表した "Roadmap to a Single European Transport Area" の中で、航空部門に
ついて、2050 年までに全ジェット燃料の 40% を持続可能性のある低炭素燃料に置き換えると
いう目標を掲げています。また 2011 年 6 月には、欧州委員会とバイオ燃料製造業者が「バイオ
燃料フライトパス(Biofuel Flightpath)」と呼ばれるイニシアチブを発表し、EU の民間航空部門は
2020 年までに、年間約 200 万トンの持続可能なバイオ燃料の利用を目指すことを表明していま
す。バイオ燃料の民間航空機燃料への利用の取組みについては、ドイツルフトハンザ航空、エー
ルフランス航空、オランダ KLM 航空、英国トムソンフライ等の民間航空会社がバイオ燃料を利
用した定期便の就航を開始しています。燃料は食用廃油等を水素化処理した HRJ(Hydrotreated
Renewable Jet)を、既存の JET 燃料に混合させています。
これら動きの背景には、航空部門において、エネルギー効率は向上しているものの、空におけ
る交通量が年々増加しているため、燃料消費量及び GHG 排出量が年々増加傾向にあるためです。
Intergovernmental Panel on Climate Change(IPCC)によると、全 CO2 排出量の 2% を占めてい
24
る航空部門からの CO2 は、2050 年には 3% に増加するとのことです。また欧州では、2012 年以降、
EU-ETS が導入されることも、民間航空業界のバイオ燃料利用のインセンティブとなっています。
International Air Transport Association(IATA)によると、EU-ETS の導入により、航空業界全体
で 49 億ドルのコストが 2012 年に生じると試算しており、この有効な対策としてバイオ燃料の
ジェット燃料としての利用が期待されています。
欧 州 事 務 所 で は、2011 年 度 に Middle Distillates Conference、Global Biofuels Summit 等
のバイオ燃料関連のカンファレンス、また AlfaBird: Alternative Fuels And Biofuels for Aircraft
Development と呼ばれる航空燃料の代替燃料を長期的な視点を持って開発を行うプロジェクトの
Workshop に参加する等して、バイオ JET 燃料の情報収集を行いました。
以上述べたバイオ燃料の調査に関して、「欧州におけるバイオ燃料の政策、需給動向とバイオガ
ソリンの流通実態」と題して JPEC News2011 年 11 月号に、
「欧州における航空機用バイオジェッ
ト燃料の開発動向」と題して JPEC レポートに報告しています。
(6)IMO 船舶燃料規制の動向と石油業界等の対応に関する調査
船 舶 に よ る 汚 染 防 止 の た め の 国 際 条 約 と し て、 国 際 海 事 機 関(International Maritime
Organization:IMO)の定めるマルポール条約があります。本条約の目的は船舶の事故や通常運行
による汚染を防止することで、条約では 6 つの規則が異なる種類の汚染を扱っています。その中
で「付属書Ⅵ」の規則は船舶の排ガスについて硫黄酸化物と窒素酸化物、並びに粒状物質に制限を
設け、オゾン層破壊物質の故意の排出を禁じたものです。その排出基準は「一般海域」と「排出規
制海域((SOx)Emission Control Area:(S)ECA)」に分けて設定されています。欧州では 2006
年にバルト海、2007 年に北海に ECA が制定されました。
2008 年 12 月に行われた IMO の海洋環境保護委員会(MEPC 第 58 会議)において、船舶燃料
の硫黄分規制として、2012 年 1 月より 4.5 → 3.5wt% に低減することが決定され、更に 2020
年には 0.5 wt% まで低減するという野心的な目標値が決定されました。但し 0.5wt% 燃料の供給
可能性の評価を 2018 年に行い、2020 年に間に合わないと判断された場合は、2025 年に延期さ
れます。ECA に対しては、船舶燃料油の硫黄基準は当初 1.5 wt% に規定され、2010 年には 1.0
wt% に強化されました。また 2010 年 1 月以降、EU は欧州共同体の港に 2 時間以上停泊する船
舶が停泊中に使用する燃料の硫黄含有量に関して、0.1 wt% の最大許容量を指令により定めてい
ます。2015 年には港だけではなく ECA 域内全てに最大限度 0.1 wt% まで強化される予定となっ
ています。
一方、日本においては政府が中心となり、日本におけるマルポール条約による ECA の検討が
先般開始され、日本においても ECA(硫黄分 0.1 wt% 以下)が設定される可能性が出てきました。
このため、SECA が既に導入されている欧州の状況を把握することは非常に重要です。
欧州事務所では、European Bunker Fuel Conference 等の船舶燃料関連のカンファレンスに参
加する等して、IMO における審議の動向、船舶燃料の市場動向、排出ガス低減技術等の最新情報
を収集しています。また IMO、石油業界や船舶業界、燃料流通業者とのヒヤリング等を通じて、
本規制が欧州石油業界、船舶会社、流通業者へ与える影響について調査しています。尚、「船舶用
燃料への硫黄酸化物排出規制海域((S)ECA)規制強化が石油業界・海運業界に与える影響調査」
と題し、JPEC News2012 年 3 月号に調査内容の一部を報告しました。
(7)その他の調査業務
2011 年度はカタール・ドーハにおいて、第 20 回世界石油会議(World Petroleum Congress:
WPC)世界大会が開催され、当センター本部と共に参加しました。世界石油会議は、世界の石油
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2012.5
関連機関が一堂に集まり石油・天然ガス等に関する様々なテーマについて発表や討論を行う会議
で、3年に1回世界大会が開催されます。今回は世界の石油・エネルギー情勢や技術開発に関す
る情報を調査するとともに、当センターの研究開発の成果を発表しました。具体的には「将来型の
燃焼エンジン向けに調整する燃料」というフォーラムで「セタン価、組成がディーゼル排ガス、運
転性に及ぼす影響」と題して当センター石油基盤技術研究所(ATRI)での研究成果を報告し、外部
に研究成果を広くアピールするとともに世界の研究者等と討論を行いました。
尚、「第 20 回世界石油会議ドーハ大会に参加して」と題し、JPEC News2012 年 1 月号に会議
の全体概要について報告しました。
3.Brussels の紹介
ベルギーの首都であるブラッセル(Brussels:英語、オランダ語。フランス語ではブリュッセル
(Bruxelles))は、フランス語とオランダ語を公用語とする、人口 100 万人程度の街です。冒頭で
も述べましたとおり、欧州閣僚理事会、欧州議会、欧州委員会等の EU の主要機関があり、欧州
政治の重要な拠点になっており、様々な国の人々が在住している国際色豊かな都市です。街並みは、
「世界一美しい広場」と評されたグランプラスを始め、王立美術館や楽器博物館等の歴史的な建築
物や数多くの美術館、博物館が溢れており、街そのものが美術館といった感じです。
美食家にとっても魅力的な街です。香草たっぷりのムール貝やホワイトアスパラガス、小エビ
のサラダやシコンなど、素材豊かな郷土料理が楽しめます。お菓子好きの人にもたまりません。
ゴディバやノイハウスといった世界的に有名なチョコレートを存分に楽しむことができます。ま
た街中を歩いていますと、日本の方々にもなじみがあるベルギーワッフルの甘い香りに誘われ、
ついつい足を止めて購入してしまうでしょう。
ビール好きの人にとって、ここベルギーは正に天国と言えるでしょう。日本でおなじみ下面
発酵ビールは勿論、風味豊かな修道院ビールやさわやかでフルーティなホワイトビール等の上面
発酵ビール、さらには自然発酵のランビックビール等、様々なビールを堪能できます。銘柄数は
1000 種類以上あると言われています。
世界遺産 グランプラス
ベルギーワッフル店頭模様
4.おわりに
当センターは欧米事務所を通じて、海外における石油関連の最新情報の収集に努めています。
今後も、皆様に価値ある情報提供をできるように努めてまいりますので、引き続きよろしくお願
いいたします。
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第8回『月例報告会』
開催
当センターでは賛助会員様へのサービス向上の一環として昨年6月から「月例報告会」を開催し
ています。
第8回報告会を平成 24 年3月 30 日(金)に開催しました。報告会のテーマと内容は以下のとお
りです。
講演1:
「C1 化学の新潮流と早大での関連する取り組みのご紹介」
(講演者:早稲田大学理工学術院 先進理工学部 応用化学科 関根 泰 准教授)
講演2:
「ハ イスループット実験技術を活用した最近の触媒開発・評価の高度化・
効率化について」
(講演者:当センター 石油基盤技術研究所 ペトロリオミクス研究室
萩原 和彦 主任研究員)
[ 講演1]では、早稲田大学関根准教授から、C1 化学研究の現状と最新の動向について
ご講演をいただきました。 GTL やメタンの酸化カップリング法等の最新動向について学会での発表論文も含め具
体的に情報提供をいただきました。
また、バイオ系燃料合成の新潮流として、アメリカにおける Electrofuel の取り組みに
ついてご紹介いただきました。アメリカでは、農地を必要としない新たなバイオ燃料の
創出を狙って、13 のプロジェクト案件が進められてれています。
また、関根研究室における C1 化学関連の非在来型触媒反応等の取り組みついてもご
紹介いただきました。
[ 講演2]では、当センター萩原主任研究員から、ハイスループット実験技術(HTE)の
内容及び HTE を活用した hth 社(ドイツ)Albemarle 社(オランダ)の触媒開発・評価
の動向について報告を行いました。
HTE は、特定のターゲットに対して活性を示す化合物の探索を大量かつ短時間で行う
ことができる技術であり、2000 年頃から、触媒・材料開発の分野にも波及してきました。
現在では、触媒評価だけでなく、触媒調整(含浸担持、沈殿、焼成等)、分析という一
連のフローに HTE を適用しています。
当センターにおけるペトロリオミクス技術開発事業では、HTE は分子反応モデリング及
びインフォマティクスに有用な技術であると考えて現在 HTE 装置の導入を検討しています。
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一般財団法人
石油エネルギー技術センター
Japan Petroleum Energy Center (JPEC)
Chicago Representative Office
c/o JETRO Chicago, 1E. Wacker Dr., Suite 600 Chicago, IL 60601, USA
Japan Petroleum Energy Center (JPEC)
Brussels Representative Office
Bastion Tower Level 20, Place du Champ de Mars 5, 1050 Brussels/BELGIUM
一般財団法人
石油エネルギー技術センター
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徒歩3分
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ビル出口
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4a
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