Comments
Description
Transcript
グアーガム酵素分解物及び寒天を
JP 5052004 B2 2012.10.17 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 グアーガム酵素分解物及び寒天を2:3∼4:1の含有量比(グアーガム酵素分解物: 寒天)で含有してなるゲル化剤を0.5∼3重量%含有することを特徴とする、加圧加熱 殺菌に耐性である胃瘻患者向けゲル状栄養組成物。 【請求項2】 グアーガム酵素分解物及びジェランガムを2:3∼4:1の含有量比(グアーガム酵素 分解物:ジェランガム)で含有してなるゲル化剤を0.5∼3重量%含有することを特徴 とする、加圧加熱殺菌に耐性である胃瘻患者向けゲル状栄養組成物。 【請求項3】 10 グアーガム酵素分解物、寒天及びジェランガムを2:3∼4:1の含有量比(グアーガ ム酵素分解物:寒天及びジェランガム)で含有してなるゲル化剤を0.5∼3重量%含有 することを特徴とする、加圧加熱殺菌に耐性である胃瘻患者向けゲル状栄養組成物。 【請求項4】 管を通じ投与することが可能であり、かつ離水を実質的に生じない、請求項1∼3いず れか記載のゲル状栄養組成物。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、胃瘻患者向け栄養組成物用ゲル化剤に関する。本発明はまた、かかるゲル化 20 (2) JP 5052004 B2 2012.10.17 剤を含む胃瘻患者向けゲル状栄養組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 高齢者や障害により食物の嚥下に困難をきたすものが栄養を摂取するための方法に経管 栄養投与法がある。従来経管栄養投与法といえば鼻腔を経由して胃にチューブを挿入する 経鼻胃管が中心であったが、管理が容易であること、患者の苦痛が少ないこと、嚥下リハ ビリテーションが容易であることから最近では胃瘻を経由した投与が普及してきている。 【0003】 経管栄養投与の問題点として、栄養剤の胃から食道への逆流があり、それにより食道炎 や肺炎を誘発する可能性がある。胃から食道への逆流を防止する方法として栄養剤に卵白 10 や寒天を添加し固める方法(例えば、特許文献1参照)や胃酸を利用して胃内で凝固させ る方法(例えば、特許文献2参照)がある。 【0004】 しかしながら卵白や寒天を添加して固める方法では、添加量が多いとゲルが固すぎて管 を通すのが困難であり、添加量を減らすと離水や、管への付着が生じるため管中で雑菌が 繁殖する原因になるという問題点が生じる。また栄養剤は蛋白質、脂質及び/又は糖質を 含有するため、加圧加熱殺菌を行うと組織の分離や凝集が生じ、性状の悪化及び離水の原 因となってしまう問題点があった。 【0005】 加圧加熱殺菌時の組織の分離や凝集を抑制する方法として澱粉や増粘多糖類を添加して 20 粘度を付与する方法が知られているが、加圧加熱殺菌時の組織の分離や凝集の抑制効果を 発揮する量を添加すると粘度が高くなりすぎ、胃瘻への投入が困難になったり、管への付 着が多くなる問題点があった。さらに卵白で固めた場合にはアレルギーの原因になるため 鶏卵アレルギー患者には使用できないという問題が生じる。また胃内で固める方法では胃 内で反応が起こり凝固するまでに時間がかかるため逆流が起こる可能性が高いという問題 があった。 【0006】 したがって、ゲルの硬さが適当であり、付着性が低く、かつ離水が少なく加圧加熱殺菌 に耐性を有する栄養剤の増粘安定化技術が求められていた。 【0007】 30 【特許文献1】特開2004−26844号公報(第1−18頁) 【特許文献2】特許3633942号公報(第1−19頁) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明の目的は、加圧加熱殺菌を施しても組成物の分離又は凝集がなく、ゲルの硬さが 適当であり、離水を実質的に生じない胃瘻患者向けの栄養組成物を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0009】 すなわち、本発明は、 40 〔1〕 グアーガム酵素分解物及び寒天を2:3∼4:1の含有量比(グアーガム酵素分 解物:寒天)で含有してなるゲル化剤を0.5∼3重量%含有することを特徴とする、加 圧加熱殺菌に耐性である胃瘻患者向けゲル状栄養組成物、 〔2〕 グアーガム酵素分解物及びジェランガムを2:3∼4:1の含有量比(グアーガ ム酵素分解物:ジェランガム)で含有してなるゲル化剤を0.5∼3重量%含有すること を特徴とする、加圧加熱殺菌に耐性である胃瘻患者向けゲル状栄養組成物、 〔3〕 グアーガム酵素分解物、寒天及びジェランガムを2:3∼4:1の含有量比(グ アーガム酵素分解物:寒天及びジェランガム)で含有してなるゲル化剤を0.5∼3重量 %含有することを特徴とする、加圧加熱殺菌に耐性である胃瘻患者向けゲル状栄養組成物 、並びに 50 (3) JP 5052004 B2 2012.10.17 〔4〕 管を通じ投与することが可能であり、かつ離水を実質的に生じない、前記〔1〕 ∼〔3〕いずれか記載のゲル状栄養組成物 に関する。 【発明の効果】 【0010】 本発明により、栄養組成物の食道への逆流及び胃瘻器具への付着がなく、また細菌感染 等の問題を生じない胃瘻患者向けのゲル状栄養組成物を提供することが可能となる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0011】 本発明の胃瘻患者向け栄養組成物用ゲル化剤(以下、ゲル化剤と呼ぶ)は、グアーガム 10 酵素分解物並びに寒天及び/又はジェランガムを含有することを一つの大きな特徴とする 。 【0012】 かかる特徴を有することで、上記ゲル化剤によりゲル化した胃瘻患者向け栄養組成物は 、従来の栄養組成物と比べて、加圧加熱処理時に栄養組成物の分離又は凝集が起らず、そ れ故実質的に離水が生じないため、投与された栄養剤が胃から食道に逆流するのを防ぐこ とができるという優れた効果を発揮する。 【0013】 本発明に用いられるグアーガム酵素分解物とは、β−(1,4)−D−マンノピラノシル 単位を主鎖に、α−D(1,6)結合でガラクトースが分岐した構造を有する、グアー種子 20 に含まれる粘質多糖であるグアーガムを、ガラクトマンナナーゼ等を用いて酵素的に加水 分解したものをいい、一般に市販されている商品としてはサンファイバー(太陽化学社製 )等が該当する。 【0014】 ガラクトマンナナーゼとしては、市販のものでも天然由来のものでもよいが、好ましく は、アスペルギルス属菌又はリゾープス属菌由来のβ−ガラクトマンナナーゼ、より好ま しくはアスペルギルス属菌由来のβ−ガラクトマンナナーゼが挙げられる。 【0015】 上記のようにして得られたガラクトマンナン分解物の5重量%溶液の5℃における粘度 はブルックフィールド粘度計(B型粘度計)を用いて測定した場合、効果の観点から、5 30 0mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以下であることがより好ましく 、15mPa・s以下であることがさらに好ましい。 【0016】 また、グアーガム酵素分解物の分子量分布は、効果の観点から、1.8×103∼1. 8×105の分子量のものを50%以上含むことが好ましく、1.8×103∼1.8× 105の分子量のものを60%以上含むことがより好ましく、1.8×103∼1.8× 105の分子量のものを70%以上含むことがさらに好ましい。なお、分子量分布は、ポ リエチレングリコール(分子量:2,000、20,000及び200,000)を分子 量マーカーとする高速液体クロマトグラフィー(ワイエムシイ社製カラム:YMC-Pack Dio l-120)により求めることができる。 40 【0017】 本発明における寒天とは、特に限定されるものではなく一般に紅藻類から抽出して得ら れる、アガロースとアガロペクチンを含有する多糖類である。寒天の種類としては特に限 定されるものではなく、物性の特徴として高ゼリー強度、低ゼリー強度、易溶性、高粘度 、及び低粘度品等があり、いずれを使用してもかまわない。 【0018】 本発明におけるジェランガムとは、シュードモナス エロデア(Psuedomonas elodea) ATCC31461の発酵によって産生される、グルコース2分子、グルクロン酸1分子 及びラムノース1分子を構成単位とする多糖類である。ジェランガムの市販品としては、 ネオソフトJ(太陽化学社製)等が挙げられる。 50 (4) JP 5052004 B2 2012.10.17 【0019】 ゲル化剤中に含有されるグアーガム酵素分解物と、寒天及び/又はジェランガムとの含 有量の比は、効果の観点から、2:3∼4:1の範囲にあることが好ましく、9:11∼ 3:1の範囲にあることがより好ましく、1:1∼7:3の範囲にあることがさらに好ま しい。なお、ゲル化剤が、寒天及びジェランガムの両方を含む場合、寒天とジェランガム との含有量の比は、効果の観点から、1:20∼20:1が好ましく、1:10∼10: 1がより好ましく、1:5∼5:1がさらに好ましい。 【0020】 本発明のゲル化剤に任意に、糖類、乳成分、酸味料、着色料、香料、食品添加物、機能 性素材等を添加してもよい。 10 【0021】 本発明のゲル化剤は、グアーガム酵素分解物並びに寒天及び/又はジェランガム等の原 料の粉体を混合することにより製造することができる。 【0022】 本発明はまた、本発明のゲル化剤を含有することを特徴とする、加圧加熱殺菌に耐性で ある胃瘻患者向けゲル状栄養組成物(以下、ゲル状栄養組成物という)に関する。 【0023】 本発明において「ゲル状」とは、特に限定されるものではないが、固体と液体の中間の 物質形態であり、常温の水に膨潤するが溶解することはなく、固体状の形を持つが力を加 えることで容易に崩壊し流動性を示す物質の状態を指す。 20 【0024】 本発明において加圧加熱殺菌とは、蒸気や熱水に加圧して100℃以上の温度で殺菌す る方法をいい、医薬品・食品を常温で流通させるために行われる。 【0025】 本発明のゲル状栄養組成物は、加圧加熱殺菌に耐性があり、すなわち、0.1MPa∼ 1MPaに加圧して110℃∼160℃の温度で1秒∼60分間の加圧加熱殺菌処理後に 分離又は凝集を生じない。そのため本発明のゲル状栄養組成物は、適切な硬さを有し、か つ実質的に離水を生じないため、胃瘻への投入の際に胃瘻の管にゲル状栄養組成物が付着 することがなく、また投与された栄養剤が胃から食道に逆流するのを防ぐことができると いう優れた効果を発揮する。 30 【0026】 本発明において「実質的に離水を生じない」とは、上記加圧加熱殺菌処理後に生じる離 水の量が、ゲル状栄養組成物全重量の5重量%以下であることをいう。 【0027】 ゲル状栄養組成物に含まれるゲル化剤の量は、効果及び経済性の観点から、0.5∼3 重量%、好ましくは0.5∼2.5重量%、より好ましくは0.5∼2重量%である。 【0028】 ゲル状栄養組成物に使用される栄養剤としては、経管栄養剤として使用されるものであ れば特に限定するものではなく、医薬品や食品として市販されている流動食や経腸栄養剤 を使用することができる。 40 【0029】 ゲル状栄養組成物に含まれる栄養剤の量は、摂取量と栄養摂取量の観点から、好ましく は50∼99.5重量%、より好ましくは70∼99.5重量%、さらに好ましくは90 ∼99.5重量%である。 【0030】 ゲル状栄養組成物の含水量は、ゲル化の観点から、好ましくは40重量%∼99.5重 量%未満、より好ましくは50∼95重量%、さらに好ましくは60∼90重量%である 。 【0031】 ゲル状栄養組成物には任意に、糖類、乳成分、酸味料、着色料、香料、食品添加物、機 50 (5) JP 5052004 B2 2012.10.17 能性素材等を添加してもよい。 【0032】 ゲル状栄養組成物は、液状の栄養剤に本ゲル化剤を添加し、加熱溶解せしめた後冷却し 、ゲル化させることにより製造することができる。 【0033】 ゲル状栄養組成物は、管を通じ胃瘻患者に投与することが可能であり、特に限定される ものではないが、ピストンやポンプ等の力によって加圧し、ゲル状栄養組成物を、胃瘻を 経て胃内に投与することができる。ゲル状栄養組成物は、胃瘻投入に使用するものである ため針を必要としない。 【0034】 10 以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるも のではない。なお、実施例中の%は特記しない限り重量%を示す。 【実施例】 【0035】 グアーガム酵素分解物として太陽化学社製の商品名:サンファイバーを、ジェランガム として太陽化学社製の商品名:ネオソフトJを、寒天として太陽化学社製の商品名:ネオ ソフトARを用い、下表1に従いゲル化剤1∼9を調製した。 【0036】 【表1−1】 20 【0037】 【表1−2】 30 【0038】 市販の栄養剤(EN大塚製薬社製、商品名:ラコール)を使用し、下表2の配合で栄養 組成物にゲル化剤を添加し90℃まで昇温した。90℃にて5分間保持した後ホモミキサ ー(特殊機化工業株式会社製、商品名:T.K.ロボミックス)を用いて10000rp mで3分間撹拌して均質化した後、カップに充填し真空状態にてシールを施したものを、 121℃にて20分間加圧加熱殺菌を行い、ゲル状栄養組成物1∼9を得た。 【0039】 40 (6) JP 5052004 B2 2012.10.17 【表2−1】 10 【0040】 【表2−2】 20 【0041】 下表3の配合で栄養剤にゲル化剤を添加し90℃まで昇温した。90℃にて5分間保持 した後、ホモミキサー(特殊機化工業社製、商品名:T.K.ロボミックス)を用いて100 00rpmで3分間撹拌して均質化した後、カップに充填し真空状態にてシールをほどこ したものを、121℃にて20分間加圧加熱殺菌を行い、比較例1∼10を得た。なお、 寒天として太陽化学社製の商品名:ネオソフトARを、グアーガムとして太陽化学社製の 商品名:ネオソフトGを、ローストビーンガムとして太陽化学社製の商品名:ネオソフト Lを、澱粉として太陽化学社製の商品名:ネオソフトRBを使用した。 【0042】 30 (7) JP 5052004 B2 2012.10.17 【表3−1】 10 20 【0043】 【表3−2】 30 40 【0044】 また得られたゲル状栄養組成物1∼9、及び比較例1∼10を7℃にて24時間保存し た後、目視にて凝集むら(組成物の一部が凝固・凝集しゲル中に析出した状態をいう)、 分離(組成物が2層以上に層分離する状態をいう)及び離水の状態を確認した。凝集むら 、分離及び離水がそれぞれ全く認められないものを○、わずかに認められるものを△、凝 集むら、分離及び離水の著しいものを×とした。60mLシリンジに50g詰め、シリン ジの先に長さ30cmの胃瘻用チューブを取り付けてシリンジを押し切った際の押し易さ 及びシリンジ、胃瘻用チューブへの付着具合を評価した。押しやすさはほとんど力が必要 ないものを◎、やや力が必要だが問題なく押し切れるものを○、力を入れないと押し切れ 50 (8) JP 5052004 B2 2012.10.17 ない物を△、かなりの力を入れても押し切ることが難しいものを×とした。付着具合は全 く付着の無いものを◎、極わずかに付着が見られるものを○、かなり付着しているものを △、付着の著しいものを×とした。結果を表4に示す。 【0045】 【表4】 10 20 30 【0046】 表4より明らかなように本発明品は比較例に比べて凝集及び分離しにくく、硬さ、付着 性、離水に優れている。 【産業上の利用可能性】 【0047】 本発明の胃瘻患者向けゲル状栄養組成物用ゲル化剤又は胃瘻患者向けゲル状栄養組成物 によれば、胃食道逆流又は胃瘻器具への栄養剤の付着による細菌感染や疾患を生じること なく、衛生的かつ安全に栄養補給することが可能になる。 40 (9) JP 5052004 B2 2012.10.17 フロントページの続き (72)発明者 佐藤 敬宏 岩手県花巻市二枚橋町大通り一丁目11 サンコーマンション103号室 (72)発明者 森 直哉 三重県四日市市赤堀新町9番5号 太陽化学株式会社内 (72)発明者 河野 広道 三重県四日市市赤堀新町9番5号 太陽化学株式会社内 (72)発明者 西川 秀二 三重県四日市市赤堀新町9番5号 太陽化学株式会社内 10 審査官 石井 裕美子 (56)参考文献 特開平11−253115(JP,A) 特開平07−274915(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.,DB名) A61K 9/00− 9/72 A61K 47/00−47/48 A61P 3/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 20