ICカード対応 自動改札システム の解剖

組み込みシステム解剖室
ICカード対応
自動改札システム
の解剖
第2回
戸川 望
CPU やメモリなどのリソース制約，リアルタイム性など，数々の厳しい
要求を課されたコンピュータ・システムである「組み込みシステム」の具体
的な事例を紹介する連載の第 2 回をお届けする．今回は，IC カードによる
入場・出場処理を行える自動改札システムを取り上げる．自動改札システ
ムは，メカ制御の側面と（個人情報などの）データ処理の側面を持つ典型的
な組み込みシステムである．
組み込みシステムを「機械や機器に組み込まれて，それ
（編集部）
● 駅全体の機能は三つのシステムから構成されている
らを制御するコンピュータ・システム」と定義したとき，
まず最初に，駅全体のシステムの構成を見ることにしま
私たちのもっとも身近にあるコンピュータ・システムは何
しょう．この場合，自動改札機は，駅全体のシステムに
でしょう？ おそらく多くの読者の皆さんは，朝晩の通勤・
とって一つのサブシステムと見なすことができます．JR
通学に鉄道を利用する機会があるかと思います．その際
東日本の場合，「駅システム」，「IC システム」，「駅務機器
に，必ず目にするコンピュータ・システムの一つが，駅の
統合管理システム（TOMAS ： Total Maintenance Assist
自動改札機です．
System）」と呼ばれる三つのシステムによって，磁気券や
現在の自動改札機は，切符や定期券の入場・出場処理を
IC カードのデータを管理・保守しています．
行うだけでなく，IC カードによる入場・出場処理，なら
びにそのための個人情報の管理を行っています．自動改札
システムは，改札のための駆動機械
を多数持ち，また切符や IC カード
のための情報処理も同時にこなしま
ランプ
LED
ICカード処理部の
ハードウェア基板
液晶ディスプレイ
ICカード・タッチ部（RF部）
す．こういった意味で，「制御系組
み込みシステム」に「情報系組み込み
システム」が組み合わさったシステ
ムと言えます．
ここではジェイアール東日本メカ
トロニクスが開発し，JR 東日本（東
日本旅客鉄道）が導入・運用してい
る自動改札システムを例に解説して
いきます（写真 1）．自動改札機を駅
務にかかわるコンピュータ・システ
ムの一部ととらえ，まず自動改札機
を含んだ駅務にかかわるシステム全
ふ かん
体を俯瞰します．その後，自動改札
機そのものに焦点を当てて説明して
切符入れ
電源モジュール，制御用ハードウェア基板
写真 1 自動改札機
いきます．
Nov. 2007
KEYWORD ―― 自動改札機，IC カード，Suica，駅務機器，プリペイド，磁気券，イオカード，VxWorks
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収入管理ホスト
1）駅システム
駅システムとは，これまで長年にわたって構
築・利用されてきたシステムです〔図 1（a）
〕
．磁
気券（切符のうち，裏側に磁気による記録面があ
管理端末
るもの．自動改札で取り扱う切符はもっぱら磁
気券），ならびに IC カードに対して，料金の集
データ集計機
監
視
盤
自
動
改
札
機
自
動
精
算
機
計・管理，自動改札機を通った時間や人数，乗
車駅，降車駅などの情報を管理・蓄積するもの
券
売
機
です．
これらの情報は，自動改札機，自動精算機，
あるいは券売機などから，データ集計機に送信・
（a）駅システム
蓄積されます．続いて，データ集計機から管理
端末に送信されます．データ集計機は各駅に数
ID管理センタ・サーバ
台設置され，これらを統合する管理端末が各駅
に 1 台設置されます．最終的にこれらの情報は
管理端末から収入管理ホストに送信され，管
ID管理サーバ（駅サーバ）
理・集計されます．
2）IC システム
IC システムとは，IC カードの導入によって利
I
C
自
動
改
札
機
係
員
窓
口
処
理
機
I
C
カ
ー
ド
発
行
機
入
金
機
用が開始されたシステムであり，現在も改良さ
れ続けています〔図 1（b）〕．各駅において，IC
自動改札機や係員窓口処理機，IC カード発行
機，入金機が LAN に接続され，駅構内ネット
ワークを形成しています．そして，各駅に 1 台
（b）ICシステム
TOMASセンタ・サーバ
設置された ID 管理サーバによって，IC カード
の各 ID に応じた情報が蓄積されます．
上述の駅システムの役割が，料金や通行人数
などの全体管理であったのに対して，IC システ
TOMAS駅サーバ
ムの情報管理は ID による個別の情報が対象と
なっています．各駅に設置された ID 管理サーバ
の情報は，さらに上流の ID 管理センタ・サーバ
I
C
自
動
券
売
機
I
C
カ
ー
ド
発
行
機
I
C
窓
口
精
算
機
I
C
自
動
改
札
機
によって集計されることになります．
3）駅務機器統合管理システム
駅務機器統合管理システム（TOMAS）とは，
ネットワークを介した保守・管理のためのシス
テムです〔図 1（c）〕．運賃データを管理する「運
（c）駅務機器統合管理システム（TOMAS）
図 1 JR 東日本の駅全体のシステム構成
「駅システム」
，
「IC システム」
，
「駅務機器統合管理システム（TOMAS）
」と呼ばれる三つのシステムによっ
て，磁気券や IC カードのデータを管理・保守している．
賃 DLL システム」と，各駅務機器の保守を目的
とした「保守支援システム」から構成されます．
このシステムを用いることで，例えば料金改定
などの情報をすべての IC 自動改札機や IC 自動
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